薄暗闇の中、摩利はシャワーの音によって目が覚めた。
寝ぼけた目で隣を見れば、そこに恋人の姿はない。
恋人同士が泊まる部屋。その広いベットの中に一人だけという状況。そのことを認識したことによって、摩利の意識は覚醒した。
ベッドに備え付けてあるデジタル時計を見れば、まだ朝の6時前。
モーニングコールまであと一時間以上もある計算だ。
この行為は、シュウとの行為が幻でなかったことを確かめるためのもの。シュウとの行為で感じる
その原因は、単純に摩利の記憶力によるモノなのか。
未だ原因は分からない。
そして、秘所に差し込んだ指に、べったりとした白濁汁が付着していることを確認すると、今回も幻でなかったことに安堵した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ごめん、起こしてしまったかい?」
「ん、大丈夫だ…それよりもシュウ、まだ時間に余裕があると思っていたが、もう出るのか?」
「いや、僕は明日の予習をしたくて早く起きただけだから…摩利はまだ寝てて良いよ…」
「そうか…」
シャワー室から出てきたシュウは、腰にタオルを巻いただけの状態。
普段なら顔を赤らめる場面だが、昨夜の耐性が残っているため、大して動揺はしなかった。
逆にシュウはというと、タオル一枚の恰好を見られたくなかったのか、少し恥ずかしそうだ。
お互い着てきた衣服はクローゼットの中で、備え付けのルームウェアは床に転がっている。
摩利は、シュウの言葉通り、もうひと眠りするか思案する。
多分、このままベッドに横になっても、覚醒した意識では、寝ることもままならないだろう。
摩利がどうしようかと迷っていると、その迷いに気付いたのか、シュウからもう一つの提案が上がった。
「眠くないなら、摩利もシャワーを浴びてきたらどうだい?」
「………ん、そうだな…そうする…」
摩利はベッドからずり落ちていたシーツを手に取ると、そのシーツで体の前を隠し、シャワー室へと向かった。
はしたない恰好だが、シュウの目線はタブレット端末に向けらているため、横を通り過ぎるだけなら十分だろう。
摩利はシーツを引きずりながら、シュウの横を通り過ぎる。
そして、シャワー室まであと数歩のところで、摩利の歩みは止められた。
「え!?、ちょっと、シュウ!?」
突然、シュウに後ろから抱きしめられる。
そして、後ろからパサッとタオルの落ちた音がすると、摩利の尻の割れ目に、熱く硬いモノが押し付けられた。
「んっ、予習はどうした…流石にもう暇はないのだろう?」
「いや、予習どころじゃなくなってね…そんな恰好でうろつく摩利が悪いんだよ?」
シュウはそう言って、摩利の体に指を這わせた。
触れるか触れないかの優しいタッチ。その指使いに体がゾクリと震えた。
「シュウ、ダメだっ…んっ…こらっ――」
今度は首筋を舐められて、ピクっと体が強張った。
首筋に舌を這わせるシュウからは石鹸の匂いがして、自分の匂いに意識が割かれる。
「ヤメっ…んっ、せめて…シャワーの後に…あぁぁっ――!?」
シュウの指が摩利の秘所を掻き分けた。
途端、摩利の体から力が抜けて、背後のシュウへともたれ掛かる。
そして、そのまま抱きかかえられるようにして、ベッドの上に引き戻されると、摩利は堪らず嬌声をあげた…
結果として、摩利がシャワーを浴びることができたのは、モーニングコールが鳴った後のこと。
二人がホテルを出る時、
二人は昨日の病院で起きた出来事を忘れてはいない。
だが、その後に過ごした幸せな時間、さらには都内の平和さも相まって、二人の気は緩んでしまっていたのだろう。
修次が摩利を見送るまでの間、
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
魔法大学付属立川病院で起きた襲撃事件の二日後。
事前の予定では、摩利のほかに、元生徒会長の
「渡辺………何しに来た…」
関本が拘留されている部屋は、ビジネスホテルのような個室だった。
面会は、関本の拘留されている部屋で行われ、関本は事前に聞かされていなかったのか、部屋に入ってきた摩利を見て、驚いている。
関本は先ほどまで、ベッドに腰をかけていたのだが、摩利を視認した途端、部屋の隅に移動し、摩利とは距離を取っていた。
「そう警戒するな…同級生として、元風紀委員の好みとして話をしに来たんだ…」
摩利のこの言葉は方便だが、どうやら効果はあったらしく、関本が向けていた敵意や警戒感が少しばかり減っている。
その代わり、敵意や警戒感が減った分、以前にも関本から感じていた情、摩利の体を舐めまわすような色欲の情がそこにはあった。
「な…なるほどな…いくらお前でもここでは魔法を使えないか…」
関本の考えは
ここは、法を犯した未成年の魔法師(の卵、または雛鳥)を拘留するための施設。
魔法を検知する装置が至るところに設置されていて、魔法の発動が確認されれば、その発動者を無力化する手段がいくつも用意されている。
関本は摩利のやり口を知っていた。
事情を聴きに来たのであれば、摩利の魔法はこの上なく危険なもの。
しかし、この環境では、摩利も魔法は使えないと知り、関本は摩利へと近づいた。
摩利の体から放たれる
関本はその匂いを嗅いだことで、興奮のギアが一段上がった。
「摩利…」
知らずのうちに呼び名が変わる。
そして、関本が摩利に手を伸ばそうとしたところで、関本の意識は朦朧とし出し、結果、摩利の体に手が届くことは無かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
摩利が関本に行ったのは、匂いを使った意識操作。
魔法を検知する装置を事前に切っていたことで、摩利は魔法で気流を操り、複数の香料を関本の鼻腔に送り込んだ。
その効果は、心理的抵抗力を低下させるもの。
結果、関本は自白剤を打たれたように、摩利の言葉に対して、包み隠さず全てを話した。
「やはり、
摩利が関本に行った質問は大きく二つ。
ひとつ目は、事件を起こした目的。
ふたつ目は、今回の事件の首謀者。
2つ目の質問では、関本が大亜連合の工作部隊と接触していたと思われる供述が挙がった。
大亜連合の関与が真実であれば、平河と同じように関本に対しても口封じに出るかもしれない。
前回の病院と違って、この
さらには、平河の事件のこともあって、鑑別所の警戒態勢は普段の2倍。
それでも、今回得た情報を鑑別所の所員に伝えようと部屋を出たところで、摩利は驚愕によって足を止めた。
突然、鳴り響いた非常ベル。
次いで、鑑別所内の至るところで銃撃音が轟いた。
「まさか!?」
銃撃戦が行われている場所は陽動だった。
摩利の推測通り、侵入者の狙いは
非常ベルが鳴ってからまだ1分も経っていないはずだが、摩利の視線の先、階段の入口のところに大柄な若い男が姿を見せた。
その男の名は
修次に
摩利は逃げるべきだった。
しかし、同じ高校の生徒が襲われると知った摩利には、逃げるという選択肢は生まれない。
警備隊が駆けつけるまでの時間稼ぎ。
摩利は時間稼ぎを務められる自信があった。
その自信は、第一高校で三巨頭と称される自負と、病院で逃げ出した呂を見たことで生じたモノ。
摩利は、すぐさま得物を取り出し、呂剛虎に向かって駆け出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
…利用…値が…り…………
…二人…連…て…く……?
…私の…鬼…遁甲…ら……
摩利は、薄れゆく意識の中で、二人の男の声を聞いた。
シュウの言った通り、
ワタシはシュウとの約束を破ってしまった…
摩利の心を後悔の念が支配した。
そして、摩利は意識が途絶えるまで、恋人に向けて謝り続けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
西暦2095年10月25日。
この事件の被害は、死者1名、重傷者4名、軽傷者13名、行方不明者2名に及んだ。
しかし、この事件は序章に過ぎない。
西暦2095年10月30日。
全国高校生魔法学論文コンペティション当日。
この日、大亜連合軍による大規模侵攻「横浜事変」が発生した。
魔法科大学付属第一高校の生徒が多数巻き込まれるという未曽有の事態。
この未曽有の事態で起きた様々な闘い、その闘いはどれも、摩利不在のなか進むのだった。