横浜事変の発生から約1時間。
侵攻軍は主要施設の占拠、多数の市民拉致を計画していたが、その計画は国防軍の迅速な対応、さらには義勇軍の抵抗によって、ほぼ失敗に終わっていた。
一部の戦場では、敵は撤退を始め、国防軍は掃討戦に移行し始めている。
外敵の排除は国防軍の仕事。
市民の保護は警察の仕事。
駆け回っている理由は、市民の保護。
寿和の持つ警察用端末のモニターには赤い点がいくつか示されており、点が示す場所は、以前から警察が目をつけていた外国人犯罪組織の拠点だ。
それらの拠点は、ゲリラ兵の出所では無いにしても、拉致した市民の引渡し先となっている可能性がある場所。
寿和は点の一つである雑居ビルに着くと、気配を消してビルの中へと踏み入った。
「我要射精!《イクぞ》!」
「ぅあぁ…あっ……あぅぅぁぁぁ…」
(ここか…)
ある一室から聞こえてきた男の声と女性の呻き声。
息遣いはそれ以上で、この部屋には多数の人がいることが分かった。
「你他妈的是谁《だれだ》!?」
寿和は扉を勢いよく開けるとすぐさまスタングレネードを投げ入れる。
中には案の定、複数の男が裸で鎮座し、一人の女性を痛めつけている最中だった。
「呜呼《ぐわぁ》!?」
「ひぃぃっ!?」
寿和は中にいる男を次々と斬り伏せる。
断末魔はどれも大亜連合の言葉。
寿和は問答無用で斬りかかったが、最後の一人、女性を抱きかかえた男を前にして刀を止めた。
「オレは、オレは違うんだ!!助けてくれ!」
「……君は?」
寿和はまだ大人になり切れていない目の前の学生と思わしき男に向かって声をかけた。
彼の返答は、寿和の妹と同じ魔法科第一高校の生徒であるということ。
ここには無理矢理連れてこられて、監禁されていたということだった。
寿和は彼が保護対象であることを認識すると、次に彼の腕に抱かれている女性に目をやった。
肌には若干の擦り傷があるだけで、目立った外傷はない。
しかし、彼女の身体には至る所に白濁した跡が残っており、凌辱で受けた心の傷は計り知れない。
寿和は女性に衣服をかけると、改めて女性の顔を見た。
癖のないショートカットの髪の女性。
前髪で顔が隠れていたため、直ぐには気づかなかったが、寿和の表情が徐々に驚愕に染まっていく。
そして寿和は震える手で彼女の前髪を払うと、寿和はついに驚愕で言葉を失った。
男子生徒の腕に抱きかかえられている女性、そして凌辱を受けていた女性は、千葉家の門下生であり、そして、寿和の弟、
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
西暦2095年10月31日。
後世には「灼熱のハロウィン」と知られる日。
今回の大規模侵攻で、大亜連合軍が被った損失は計り知れず、日本側の損失は極めて少ない。
しかし、損失の大小は測る立場によって変わるもの。
損失の小ささは日本政府から見た場合。
今回の侵攻で亡くなった者の遺族からすれば、その損失は決して小さいとは言えなかった。