※この作品はR-18です。

ヒモヒモの実のダメ人間   作:ヤン・デ・レェ

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ヒモヒモの2〜ヒモヒモの実 その2〜

 

 

 

ジルクは生まれて初めて激しく絶望した。

 

愛しい娘は姿を隠し、だと言うのに死ねない自身の身に憤怒が立ち込めた。

 

いや、ヒモは繋がっている。だからトキは無事だ。

 

ジルクはわかってはいたが、繋がっているのに会うことのできない苦しみに身悶えずにはいられなかった。

 

ジルクはふと女貴族や娘、トキの母である女を思い出した。

 

先立っていった女たちだ。

 

感慨と寂しさに咽せる。彼女と自分は何が違うと言うのか。

 

女貴族の元でさまざまなことを学んだとはいえ、ジルクは所詮は無垢なままだった。

 

そして、娘トキを思った。彼女は自分と何が違うのか。

 

いや、何処が同じなのか。そこまで思考が届くと、ジルクは最後に会った際に交わした、トキの言葉を思い出した。

 

久方ぶりの再会に胸を躍らせた。それは娘も同じだった様だ。

トキにせがまれて、子供の時の様に胡座の上に横抱きにする。

拒否しなかったジルクに、トキは満足げにその美しい顔を緩めた。

すっかり女になったトキ、大切な娘のトキ…ジルクには家族がもとからいない。知らない。故に作った。

トキは最後の家族だ。ジルクはトキが自分の最期の女であると確信に近い想いがあった。だが、それは受け入れるべきではない、としてトキには飛び立つ機会を示してきた。

彼女もまた、彼女なりの想いを抱いて飛び立つ決心をした、そんな覚悟がすぐそこにあるトキの微笑みからは見てとれた。

話始めは再会の喜び、話題の少ないジルクはトキの話を楽しげに聴く。

トキは、世間が物騒なことになっていると話した。

ジルクは娘に心配の旨を伝えたが、トキは寧ろジルクの方が心配らしかった。

そして、父の不安を感じたトキは父に伝えた。悪魔の実を食べたこと…妖術を使える様になった…のだと。

 

尚更にジルクは心配したが、聞き覚えのない言葉に好奇心もありジルクは少し興奮した様子で追及した。

 

昔も今も変わらず子供の様な無邪気さを見せてくれる父の姿苦笑した娘トキは、悪魔の実とは何かについて説明した。

 

 

悪魔の実は二つとして同じものがない。

 

食せば超常の力を手にできる。

 

実の中にも3種類あり、自分はその中でも不思議な力が使える超人系のトキトキの実であること。

 

食べるとカナヅチになること。

 

…そして、二つ食べたものは命を失うこと。

 

 

そして、トキはこうも言った。

 

「父上の不思議な魅力もまた、その果実の効能なのかもしれませんね。」

 

 

そこで、ジルクは思い出への感慨と懐かしさを拭った。

 

ジルクのすべきことは決まっていた。

 

ジルクは自身を試すことにした。

 

もし、自分が能力者であるならば二つ目の果実で命を失う。

 

命を失うのならばそれで良い。十分に生きたつもりだ。

 

しかし、そうでなければ何としても生きながらえ、いつの日か必ずトキを見つけ出す、と。

 

そしてトキと寄り添って死のうと。

誰か一人を愛して死のう、と。

 

ジルクは生まれて初めて旅に出ることにした。

 

彼は一人、自由な世界へと舵を切ったのだ。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

ジルクは彷徨いの始めに悪魔の実がどうしたら手に入るのかを探ることにした。

 

ジルクは生活力がない。

 

トキの独り立ちと共に、頼りない一人暮らしを始めたものの、その技能はお世辞にも褒められたものではなかった。

 

そのせいか、見ていられないと周囲の人々に助けられながら何とか生活していた。

 

お金はあったが、彼は使うのが下手であったし、金の有無に関わらず、何か仕事を探していた。

 

働き者の一面は好感を抱かせた。しかし、たしかに働き者ではあったが、あまり器用ではなかったので失敗の方が多かった。

 

そんな彼が最初に掲げた旅の目標、悪魔の実のありかの情報収集は、彼の予想に反して…彼を知る者からすれば納得のいく…数々の困難によって進展が無かった。

 

嘘を吐かないし吐けないジルクは、隠す素振りもなく悪魔の実、悪魔の実、娘のトキ、トキトキの実などと連呼。

 

結果、旅立ちから1日で後々の世界政府、当時の二十人の王側の陣営…つまりはトキの敵対勢力…に捕まってしまった。

 

案の定高圧的な尋問を受けるかと思いきや、幸か不幸か尋問官は女であった。

入牢初日の夜から、尋問官との夕飯が「尋問」の名目で営まれた。

 

毎食に肉や魚、時には酒も出るなどの豪勢な食事もありジルクは捕まったことを忘れた様に身の上話を尋問官の女にした。

 

これは罠だ!と聡い者たちは気づいただろうが、この男はジルクである。生まれついての悪意な悪い男、罪なき罪作りの男は、人々の予想の1280°ほど上を行った。

 

話を聞き終わると突然、拷問を覚悟しろ、の声。

 

ほかの囚人に聞こえるように女尋問官は声を張り上げると、ものすごく優しい手つきでジルクの頭を人なでしてから牢を後にした。

 

ジルクはその夜泣いた。ゴウモンは嫌だ、と。痛いことだと聞いてから、とても怖くて眠れなかった。

 

深夜、ジルクは女尋問官に連れられて「拷問部屋」へ案内された。

 

彼女の上司と思しき女軍人もいる。

 

まっ、まずい。恐怖に耐えかねたジルクの頬を涙が伝ったが、振り向いた女尋問官に涙を拭いてもらい、全力で慰められながら部屋に入った。

 

女軍人は一言も発さずに女尋問官を羨ましそうに見つめた。

 

拷問部屋は窓付きの個室、水も使い放題、大きめの風呂桶付きだった。女尋問官の話によると、昼飯の時間を女軍人が貰うことと引換に、この部屋を好きにしていいらしい。

ジルクは礼を言うと、安心のあまり二人に抱きついた。

 

女二人は満足げだった。

 

そこから約1年間、ジルクは外にこそ出れなかったが、二人とのほほんとした生活を送った。

 

一年と一月が過ぎようとしていたある日、彼は再び二人に打ち明けた。

 

悪魔の実が欲しいんだ。

 

女二人はすっかり情が移ってしまい、何とかしたい気持ちでいっぱいだったが、二人の元に本来の仕事が割り振られたことで、一週間もしないうちに二人とは別れることになってしまった。

 

二人は悲しんだが、上層部のそのまた上層部、二十の王家から指名を受けたため、やむ終えず彼を聖地へ護送した。

 

道中の二人の狼狽えぶりは言葉に尽くしがたく、ひどい隈を作りつつ、どうにかならないだろうかと悩んでいた。

 

ジルクは住む場所が変わるのか、くらいにしか考えておらず、悪魔の実に近づければいいなぁという考えから乗り気でさえあった。

 

涙を隠せていない二人から見送られて、厳重な檻に入れられたまま、聖地にある広間へと届けられた。

 

そこで待ち受けていたのは、この世界の新たな支配者達であった。

 

ジルクは何故自身がここに呼ばれたのかを理解できていない。だが、彼らが欲したものは明らかであった。

 

彼の力である。

 

無論、トキの存在も関係はあったかもしれないが、彼を呼び出した者達の求めるものは、ジルクの不老の秘密であった。

 

ジルクは王たちに直々に問い詰められたが、ジルクが答えられる問はそう多くなかった。

 

生まれは?…わからないんだ。

 

年は?…わからないんだ。

 

その力は何だ?…意識したことはないんだ。自然と生きながらえてしまっている。

 

何処の誰なのか?…ヒモ、かな?

 

ヒモ…?…うん、ヒモだよ。

 

 

最後に聞かれた自身の名前、そして目的に関して彼は明確な受け答えをした。

 

 

名前は?…ジルク。ただのジルクだよ。

 

目的かい?目的は、悪魔の実が欲しいんだ!二つ食べると死ぬらしい…僕は長生きしすぎたんだ。それに、僕は自分が誰なのか、能力者なのかすらわからないんだ。もう、死ぬ方法はそれしか無いと思ったから…。

 

 

王たちの返答は奴隷として世界政府に奉仕すること、その見返りとして悪魔の実を与える。

結論を出したのは議長の様に場を仕切っていた女性だった。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

ジルクは「世界政府の公的な奴隷」という地位を与えられた。

 

自分の主人がいる、という意識はジルクについぞ生まれなかった。

彼がそう言う性格だったから、というよりは件の女性からそうある様に言われたからだった。

 

表面上は、謎の力を持った奴隷として跪かせられたりしたが、その実は特に仕事もなく、有り体に言えば無職だった。

 

悪魔の実が手に入ると聞いてやる気満々のジルクの熱意とは裏腹に、奴隷としての彼の主人である女性は何の仕事も彼に与えなかった。

 

彼は不満であったし、仕事が欲しい、と奴隷であることを気にした様子もなく申し出る始末であったが、彼女は猫可愛がりにジルクを褒めちぎり、撫で回し、貢ぎ倒し、自由を与えこそすれ、仕事を与えることはなかった。

 

彼はとても不満だった。むくれるだけ…であり、怒ったりはしないし、嫌うこともないところが彼らしさであるが…。

 

わがままな彼にとって、働くぞと思い立ったときに簡単でもいいから仕事がないと言うのはそれなりのストレスであった。

 

彼の奴隷としての1日を説明しよう。

 

午前10時に彼女の寝室で起床。大抵は彼女から起こしてもらうまで起きない図太さは流石である。

 

午前10時半に昼食の一日にニ食の生活。それまで三食が普通であったジルクは最初こそなれなかったが、余りにも暇を持て余していたため、特に体力を酷使することもなく、空腹感は弱く、以前よりも少食になっていた。

 

午前11時からは女性に付き従う。唯一の仕事時間である。午前11時から午後3時までの4時間の拘束時間だった。とはいえ、具体的にはアヒルの子の様に追従することと、頼まれたらものを持ってくることくらいだった。それ以外の時は基本的に女性のすぐ横に立つか座るかするように言われていた。

 

退屈な4時間の後、午後3時半から間食、終わり次第にお昼寝である。ジルクは女性に懇願した。間食は体に悪い、と。だがその訴えはやんわりと断られてしまう。いや、断られるのではなく…そうか、口に合わないか。次は違うのを用意するから待ってくれ。…といった具合に、変に気を利かせた女性により、今日の夕飯と明日の間食が無闇矢鱈に豪華に変わるだけである。

 

この時、女性はジルクの好みなどを全く知らず、そのため様々な好みを知りたがった。

 

しかし、問題のジルクはと言うとそこまでの拘りや好みがあると言うわけでもなく…不満があるどころか、むしろ始まりの記憶にある女貴族の元での奴隷生活と大差ない状況に満足していた。

 

そして、ジルクは気を緩めると口が緩くなり、女性に自分の今までのことを話してしまう。すると、女性からすればジルクの記憶の大半は自分ではない女の話であり、不愉快であった。彼が幸せそうに話す様子もまた、彼女が彼の気を惹こうとする理由になり、彼女の行動を加速させるきっかけとなった。

 

午後7時、ジルクは女性との昼寝から目覚める。二人は揃って夕飯を食べるのだが、嫌というほどお金が使われた食事や、それらを盛り付ける食器はジルクからすれば美味しい以外は特に価値もわからないものだった。さらに、ジルクは生まれてこの方テーブルマナーを習っていない。最低限のことは女貴族との蜜月の賜物として学んだことはあるが、それはあくまで綺麗に食べることであって、正統な〜とか格式ある〜とかいう作法など知る由もない。さらにさらに、彼は食事中に勿論しゃべる、家族で食べる時も憚ることはないし、憚るよう教えられたこともなかったからだ。だから、食事中に感じたことを言わずにおくと言うことを知らない。美味しい!楽しい!これ好きだよ!少し硬いかも?お酒は弱くてね…これは飲めるかも!…ジルクの反応や感想は時に無礼に当たるものも多かったが、実際に調理するのは女性ではなかったし、何より彼女は今までの女ですら味合わせられなかったであろう、天上の飽食と贅沢を通じて新たなジルクを開拓することに喜びと優越感を感じていた。要するに、彼女が気を悪くすることなど初めからなかったのである。

 

これらのことは、彼女以外の王たちからすれば随分に不快であった、がそれを女性に馬鹿正直に伝えられるほど彼らは愚かではなかった。そのため、疎みこそしてもジルクを害せるほどの存在はこの時聖地に存在しなかったのである。

 

午後9時、ジルクは女性と閨を共にする。ジルクとしては不満などなかった。彼女は美しかったし、とてもジルクへの思いやりを感じられたからだ。だが、ジルクからすれば彼女に自分のヒモが伸びるのではないかと心配が募った。彼にとってヒモとは、他人の命を自分の都合で歪めること…に他ならなかった。

 

また、女性の方は女性の方で、何の戸惑いや疑いも見せずに自身との生活に満足と慣れを見せるジルクに対して、自分が彼を奴隷としたにも関わらず、彼がなんらかの企みを持っているのではないかという疑心をもって接していた。

しかし、それは杞憂であることはジルクとの生活が一週間を過ぎる頃には明瞭にわかった。

 

彼女にとって、崇高な理念や、高価廉価という価値の違いだとか、高貴な立場や血統、生まれ持っての才能…無論彼女もまた傲慢の血に従って生きてきたため、自身が尊ばれるべき存在であるという認識は変わらないが…それら一切合切を気にして媚びることも、卑屈になることも、反抗することも、否定することもしないジルクは当初こそ得体の知れない存在に映った。

しかし、彼の行動は全て目の前にいる自分という人間そのものだけを見た結果の、下心なきそこに存在するからという明快で原始的な信頼によるものだと理解した時、それは彼女にとって色眼鏡抜きの、それこそ初めて受けた評価であって、衝撃と共に彼女は恋をする羽目になった。

 

後にネフェルタリ家の血統を残すことになる女当主は、こうしていとも容易く陥落してしまった。

 

互いに洗いざらい話した二人。

 

「悪魔の実が欲しいんだ。」

 

素直に前々からの目的をジルクが伝えると、彼女は肩身が狭そうに、申し訳なさそうな顔で俯きながら答えた。

 

「…ごめんなさい!本当は貴方のことを手放したくなかったの!だから…悪魔の実を用意するなんて嘘を吐いたの…」

 

二人の間に暫しの無言が…という予想は外れ、早々にジルクは彼女に声をかける。

 

「どうしたら手に入るかな?」

 

彼に落胆や失望の色はなかった。

女性はジルクへ恐る恐る、それでも気になり聞いてしまう。

 

「…怒ら、ないの?」

 

彼女は正直悪魔の実を用意できないわけがなかったが、悪いとは思いつつも彼の無知を利用できないかとも思っていた。だが、彼に嫌われること、嘘を吐いたことがバレた時に失望されることだけは避けたかった。

彼女は一度だけ正直者を演じ、彼の人間性を確かめようとした。

 

「どうして怒るの?」

 

彼は全くと言っていいほど悪感情を向けてこない。

彼女は安心と共に生まれて初めて罪悪感を覚えた。

 

「だって…嘘、吐いたんだよ?」

 

だから、彼女は追及されることも恐れずに自ら傷を広げる様な真似をしてしまう。それに対するジルクの切り返しは幼くも見えたが、尚以って実直かつ誠実だった。

 

「嬉しいことをして貰えれば嬉しい。自分が好きな相手が間違えたら、そんなこともあるさでまた頑張ればいいし。疲れて辛くなるくらいなら、そんなに頑張って欲しくない。」

 

「それに、何処にあるか、そもそも悪魔の実が何なのかも知らないのに、持ってこいなんて言う奴のことを好きな人はいないと思うよ。僕は女の子はわがままでも多少はいいと思うけどね。」

 

彼女からすれば新しい概念に近かったが、不器用ながらも彼女もジルクという一人の男を愛し始めていたし、その愛を自分なりの手法で表現していた。だからなのか、彼女はなんとなく彼の考え方やそれらの根本近くには、自分たちの言う平民…庶民の感覚が反映されているのであろうと考えることができた。

 

「…私、悪魔の実を用意できますわ…」

 

だから、彼女は早くも演じるのをやめた。この男の、前では嘘や謀略などという高尚な玩具は必要ない様に思った。剥き出しの自分を伝えた方が、彼は自分を信じてくれるという確信があった。

 

「えぇ!そーなの?ありがとう!やった〜!あっ⁉︎でも何かと交換するんだったよね?うーん…君は何か欲しいものとかなぁい?僕はあんまり大したもの持ってないし…うーん…でも悪魔の実は欲しいなぁ〜…こまったな〜…」

 

彼女の予想は的中。彼は全くと気を落とすこともなく、ただ悪魔の実という欲しいものが近づいたことに素直に喜び、何よりも先に彼女に感謝を伝えた。

 

彼は自分の悪い部分もいい部分も含めて自分の本来の姿を受け止めてくれた、その事実は彼女の背中に最後の一押しを加えた。

 

「…ありますよ?欲しいもの。」

 

彼女の反応に対して、彼は滑稽なほど敏感に反応すると、彼女の欲しいものがなんであれとって来れるものだと言う様な…無知と自信からくるものなのかわからないが…そんな輝いた目で彼女を捉えると聞いた。

 

「なになに!!君は、何が欲しいの?」

 

彼に笑顔を向けた彼女は、戸惑いなく寝巻きを床に落とすとジルクの体を抱き締め、耳元に口を近づけた。

 

「貴方の愛と、貴方との子供が欲しい。」

 

ボソリという囁きにしては強すぎる、体に内から浸透する様な圧と決意を感じる声。妖艶な笑顔が視界の端に捉えられた時には、ジルクは閨の床に仰向けに押し倒されていた。

 

無意識に、本当に無意識のうちに彼は彼女の身体を抱きとめていた様である。彼女は肉体まで美しかった。彼女の身体は心も体も熱くて、柔らかかった。ジルクは、彼女に対して初めて蠱惑的な魅力を覚えた。

 

その後のことは言うまでもなく、彼は最初こそ彼女からの激しい口付けにより、初々しさを爆発させていたが、いざ前戯に入ると、恐る恐るの手つきにも関わらず、肉体は覚えているとばかりに彼女を大いに責め立てた。

 

性技の得手不得手など尚のこと知っているはずもない彼は、その無垢さに叛逆するかの如く性に対しての貪欲さを発揮した。

 

彼は支配欲を満たしたいからといって決して乱暴な真似はしなかったが、人が変わった様に激しく彼女の女体を突き上げた。また3時間も4時間も関係ないとばかりにさまざまな体位を、それこそ本能と肉体に刻まれた記憶をなぞる形で快感として彼女に与え続けられるほどのスタミナがあった。

 

持久力もさることながら、彼のものは些かその外見と容姿、その内面とすら符合しない様な、まさにギョッとする様な雄々しさを誇り、彼はそれに対してコンプレックスも無いが、自信らしい自信もなかった。

 

だからか、余計に、それこそ無意識にではあるが、しらみ潰しに快感を相手に与える様な、徹底的な愛し方をするのに余念がなかった。

 

要らぬところで謙虚である様に見えたが、ある意味で彼のヒモとしての才覚の真骨頂は、このように有形と無形の価値を性的な面で他の男以上に女性に捧げられる点であろう。

 

その日は約5時間の交わりとなった。

 

風呂場で互いの身体を清めると、二人は眠りに落ちた。

女性の頭に最終的に残ったことは、一つに悪魔の実を用意すること、二つに男の娘を探してやること、三つに彼の血統を遺すこと、であった。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

女性との蜜月は90年近く続いた。

 

あの日の交わりから数ヶ月で妊娠が判明、彼女は男の子を産んだ。彼女は男との子供のために国を用意することにした。

 

子供の成長と共に、彼女は子供にまだ整えられていない国を与えた。彼女の行動は当初こそ素晴らしい道楽だとして周囲の王たちから賛成の声が上がった。しかし、彼女は息子に平民を大事にする様に言いつけ、それを国の是とするように教育した。そのため、彼女の息子による善政が他の王たちの知るところになると、彼女は徐々に異端となっていった。

 

無冠の玉座に座っていたわけでも無い彼女は、遂に周囲との決別を決めた。彼女は息子の国に降ることを決めた。

 

天から降る日、彼女はジルクを連れ出すことにした。

ジルクは何の意見もしなかったが、彼女に一緒にいたいと伝えた。

 

彼女は喜んで彼を迎えた。

 

彼女との時間は過ぎるのが早かった。

二人の息子は優秀だったが、至らぬところもないわけではなかった。

 

珍しく忙しそうに仕事をするジルクは、やはり敏腕とは言えない仕事ぶりだったが、それでも黎明期の国家へ果たした役割は確かだった。

 

彼には人と人、物と物を繋ぐ特別な魔力がある様だった。

老若男女に好かれていたし、動物も彼を襲うことはなく、むしろ彼に甘えに行く様だった。

 

彼女との生活が終わりに近づいていることを、ジルクは感じていた。

結局、彼女は悪魔の実を用意できなかった。いや、しなかったと言うのが正しいか。

 

彼女は最後までジルクの死を受け入れる覚悟だけはできなかったのだ。

 

死の間際、彼は彼女にありったけの感謝を伝えた。

彼女はごめんなさいと一言残すと、やはり微笑みを湛えたまま生涯に幕を閉じた。

 

あまりにも美しい遺体を、民は善政の象徴、そしてこの国の女神として奉ろうと考えた。防腐処理がなされた遺体は厳重に棺桶へと収められ、深く砂漠の大地に沈んだ。

 

防腐処理などしなくとも、彼と繋がった女たちは綺麗なまま変わらないことを、彼は経験から知っていた。

だが、トキの母を思い出せば、人々から物怪の類と恐れられるよりも、人々から愛されたまま彼らの想いに包まれて大地と海に還ることは何だか暖かいことの様に感じられた。

だから彼は何も言わずに今では二人の孫が営むこの国から静かに出奔した。

 

 

〜〜〜〜〜

 

ジルクの正体は名前以外の全ての記憶をなくしたただの男である。

 

ジルクは海に魅入られた男だった。

 

故に、海の深くを身体一つで目指し、そして蒼い蒼い果実を手に入れた。

 

本能に従いその実を食した彼は記憶を失った。

 

残ったのは生まれつきの人と人、物と物を繋げる才能だけまった。

 

蒼い果実を食した時、彼の身には大いなる運命が紐付けられた。

 

彼は果実によって手に入れた能力を知らない。

 

彼が食した果実はウミウミの実。

 

その果実は彼に、海に愛される能力と、そして第二の心臓を与えた。

 

 

〜〜〜〜〜

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