ジルクは国を出て、ひたすらに旅をした。
心臓から伸びるヒモは月日を重ねるごとに増えていった。
何百年と言う時を重ね、彼は徐々にその身に宿した力を確かなものとしていった。彼の身に宿った能力は、能力というよりも加護に近い。彼は記憶と引き換えにウミウミの実を身に宿し、ウミウミの実を食べた海人間になった。彼は海から誰よりも愛され、海の束縛を受けず、海に守られていた。彼は海と同化したも同然だった。
彼は海という命の源を身に宿したことで第二の心臓を得た。
それは不可視の心臓であったが、たしかに存在していた。
だが、彼からしてみればまだ心臓が二つあることに何の意味があるのか見出せなかった。そして、その後の彼の人生においてもその意味が彼自身の知るところとはならないのである。
心臓が二つあるということは、第二の悪魔の力を宿すことができるということである。
彼は、悪魔の実を食した能力者でありながらカナヅチとなることもなく、また海に囚われることはなかった。
だが、これはまた彼の生来のものであると共に天から与えられた試練とも枷とも受け取れることだが、彼は己の強大な力を意識下に置くことはなかった。
彼の能力は常に無意識や、本能の元に行使された。
さながら陰ながらの海の加護であり、同時に海の呪いであった。
彼が能力者であることに間違いはない。
己が悪魔の実の力を持つ者であることを、彼は薄々気づいていた。
ただ、彼はその実の本質を根本的に見誤っていた。
彼は自身の食した実の能力を、自身の情けないながらも、彼が生きる上では欠くことのできなかったこと…つまりは愛情を受け取りやすい体質…言葉を選ばなければ「誰かのヒモとなる才能」に求めた。
彼は確信に近い思い込みを、殊ここに関してだけは持ってしまった。
海の導きか否かはさておき、彼は自分が何者であるかとともに、自分がどれほどの力を持つ存在であるかをも理解していなかった。
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余談であるが、彼の身に起こってきたあらゆる幸運、幸福…具体的にはヒモとしての生き方…は全て"能力によるものではない"。全てが彼の生まれもち、彼が意図せずに磨き上げた魅力によるものであった。無論剛運であることは違いないが。
では、彼の心臓から伸びるヒモは何か?
この答えは単純であり、しかし納得し難いものである。理屈を受け付けない答えである。つまりは、三つ目族や巨人族、手長族、足長族などが特有の力や特徴を持つのと同様に、彼は生まれつき比類なきヒモの才能を秘めていたのである。
彼は同様に動物的、生物的な雄という側面に関しては抜群に優秀であった。それは性技やらの拙さを補うに事足りるものであったし、彼自身に備わっているそれらの類に対する嗅覚や勘の鋭さもまた折り紙付きであった。
彼はヒモとして生まれたと言われても仕方のない、人間の突然変異種であった。彼の存在は世界から見れば全くの奇跡に等しく、彼は自覚していないが彼と同様の存在など偶然にも再び生まれることはないと言い切れるほど、彼は異次元の存在だった。
故に、後にも先にも悪意なき罪作りな悪い男と呼ばれるのは彼くらいであろう。ジルクは他人事であると思っている。彼は目の前の誰かに常に一途に夢中だった。それは、彼の彼たる所以でもあった。
彼の長寿は、流石にウミウミの実によるものであったが、それもまた悪魔の能力の覚醒と、彼の生まれ持っての才能との融合による副産物である。
彼は心を通わせた相手と、自身の心臓をヒモで結び合わせることができたが、これは両者の強い結びつきをさらに強固にする程度の力でしかなかった。これだけでも女性からの依存や寵愛の上昇に天井がなくなるという点では鬼畜的仕様であったが、生命や不老を説明つかせることはできなかった。
ここに、ウミウミの実の力の覚醒による生命への干渉が融合したのである。海とは雄大であり寛大であり、浄化の環を持つ命の源である。彼は認識していないために恣意的に用いることはできないが…この特性によって肉体を構成する細胞を循環させることができた。だが、これは彼がヒモで誰かとの繋がりを作れるからであって、本来ならばウミウミの実の全てを扱い切れるとしても実現は不可能である。
また、融合したとは言ってもそれは彼の中だけでのことであり、多少の干渉を生命が許したからと言って不労とある程度の長寿以外はどれだけ相手のことを愛したところで実現することはできなかった。彼自身に限ればそれらも別であるが。
彼自身に限れば、彼は相手を介して…この相手は多ければ多いほど良い…常に循環と浄化を繰り返すことで常に若く、そして相手がいる限りは完全な循環が成立するため、誰かと愛し合う限り彼は死ぬことがない。
これらの一切合切を彼は知らない。それは今まであり、これからもそうだろう。
それは海の枷であるか定かではないが、少なくとも彼は終わりなき旅路に苦しみつつも、決して愛に生きる道を違えはしないだろう。
それはヒモの魔力をもってこの世に生まれたことへの彼なりの覚悟であり、自分を産み落としてくれた世界と、自分を愛してくれた全てのものへのできる限りの感謝の形だからである。
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砂漠の地を去ってからかれこれ200年の月日が流れようとしていた。
彼は旅を続けながら、悪魔の実を求めた。
だが、彼の手が届くことはなかった。まるで悪魔の実自らがジルクを避けているように、全く収穫がないまま彼は世界を転々とした。
ある日、彼は奴隷狩りに遭ってしまった。奴隷商の手を点々としながら、ある日見覚えのある土地へと彼は運び込まれることとなった。
彼を捕らえたるは世界の支配者として横暴が目立ち始めていた天竜人であった。
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ジルクは天竜人に囲まれていた。いつかも見た気がする構図に、ジルクはのほほんとした空気をまとっていた。
先例から彼は天竜人に悪い印象を持っているわけではなかった。無論、彼が例外であり既に世界の広範に渡り彼らは悪名を轟かせていた。
ジルクは不安そうな素振りこそしなかったが、少しのドキドキと、何となくではあるが目標に近づけたという期待感があった。
だが、間も無く彼は天竜人の負の側面を身体で味わうこととなった。
彼がどうして捕まったのか?
彼には200年前の罪状というものが突き付けられた。
品定めではなく、裁きの場に彼は呼ばれ、断罪者を気取る天竜人に囲まれていたのである。
罪状はこうである。「天竜人を唆し、その尊き立場を捨てさせるとともに、国家運営という下々の諸侯が果たすべき不当な労働を強いさせた罪」
彼は生まれて初めて巨大な憎しみと軽蔑を、その身に焼けつくような痛みと、耐え難い苦痛を、深い火傷により与えられることとなった。
彼の背中には深々と蹄の跡が刻まれた。
彼は痛いこと、悲しいこと、辛いことが大嫌いである。
だが、彼の聖地での二度目の生活は、一度目と比べる影もないほどに劣悪かつ陰惨であった。
彼の周囲には心なきものたちが揃っており、到底自らの真の強大さを知る由もない彼からしてみれば、彼らは皆が皆、とても抗うことのできない凶暴な野獣そのものであった。
彼の身に振りかかる苦痛は、それまで彼が享受してきた穏やかな愛情や深い慈しみの全てが虚構に過ぎないのだと彼に思わせようとするように、裏返してもまだ余りある激烈なものであった。
彼は肉体を常に循環させることができた。それは愛するものと離れていてもそうであった。彼はどれだけ傷を負っても傷跡が一瞬ブレたかと思えば元通りであった。また、その能力からか、もとより頑丈な肉体であることが災いし、気絶することも容易くはなかった。
彼は決して死ぬことがなかったが、断じて無痛ではなかった。
彼は捕まるまでの間にヒモで心を繋いだ相手が多くいたが、彼らは不死身ではない。故に、彼が長い長い時間を聖地で過ごすうちに、徐々に心を繋いだヒモは溶けるようにして数を減らしていった。
とても考えが及びつかないことではあるが、彼は200年の放浪ののち天竜人に拘束されてから更に100年近くを聖地で過ごしたことになる。
繰り返し訪れた然るべき時の到来によって、彼には一本のヒモが残るのみとなった。幾百年の間変わらず心を繋ぎ続けてきた、トキとのヒモである。
彼はこのヒモがなくなれば、自分は間も無く命を失うことには気づいていた。
故に、抵抗もなく、疲れ果てた身体を天竜人の暴力の好きにさせていた。
彼は終わりの足音に耳を澄ませていた。諦めではなく、あくまでも然るべき時の到来を受け入れて…彼は時を待った。
だが、彼の耳に届いた足音の正体はまたしても彼から死を奪うものであった。
その正体を目に収める間も無く、彼は鎖からその体を解かれた。
彼は床に伏すことなく、足音の持ち主に抱き抱えられた。
彼は精神の奥底に眠っていた本能的な安心に身を任せ、一時の安眠を迎えた。
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目を覚ませば美しい女性。
彼女はドンキホーテという家の女当主らしかった。
彼女は100年伝説として語り継がれているジルクの話を、彼自身に話してくれた。
ジルクはいつのまにか伝説となっていた。
それも、聖地の地下に眠る不老不死の怪物とか、天から降ってきた神の子とか…神は天竜人の自称だったっけなどと思いつつも、どれもが寝耳に水の珍事であった。
彼からしてみれば、100年間も酷い目にあったと思ったらアッサリと解放されて、今度は何だか勘違いを受けていて、と混乱するには十分すぎる状況だった。
次に、女性は100年間見てきた天竜人たちとは似ても似つかない恭しい態度でジルクの解放の顛末を語ってくれた。
彼女の話によると、ジルクはその特異性から一部の天竜人からは半ば神聖視され始めており、その勢力がここ数年で徐々に拡大したことによって今回の解放に繋がったというのだ。
ここ数年の急拡大を扇動したのは目の前の彼女らしく、一度牢獄でジルクとも会っていたらしい。
彼女は目の前で致命傷を負いながらも瞬時に治した挙句、寧ろ拷問を受ける前よりも、肉体の再生後の肌艶がましていることなどに気づき、その神秘に崇敬の念を抱いたというのだ。
ジルクからすれば、肉体にひどい損傷を負うことなど今まで滅多なことではなかった。そのため、この100年の間に自分の体がどんなものなのか少しなりとも理解したはずだった。が、その実は余り事細かに観察出来たわけでもなく、彼女の話にはただ頷くにとどめた。
無論、100年の牢獄生活を経てもジルクは本質的に変容することはなかった。痛みにこれでもかと涙を流したし、空腹に苦しみ、食事があっても今まで食べたことのない酷い食べ物の不味さに苦しんだ。
だが、彼からすればそれはそれだった。すごく辛かったが、自分が何をしたのか、邪な企みなどとは思考回路がそもそものところで異なる彼は、自分を痛めつけた天竜人にこそはっきりと嫌いだ!という感情を持っていたが、自分を傷つけたわけでもない目の前の女性に対して何か思うことはなかった。
故に、彼は目の前で地につくほど頭を深く下げ、天竜人を代表して泣きながら詫びている女性に対して何一つとして負の感情はなかった。彼はむしろ彼女がどうして自分に謝るのかわからなかった。しかし、無視もできないのでうんうん頷いていた。
長々と詫びの句が紡がれ、彼は終わりを見計らって彼女に声をかける。
先ずは彼女に心からお礼を言うことにした。
「ありがとう。あと、どうして君が謝るのさ。君は僕に痛いことをしなかったし、こんなに優しいじゃないか。」
彼の言葉は本心からだった。彼を受け入れようとする彼女にはその言葉に疑いを抱く余地などなかった。
彼女は嬉しいのか申し訳ないのか分からないといった表情で彼を抱きしめた。無言の抱擁だった。確かめるような、新たな決意に燃えるようなそんな熱い抱擁であった。
彼女の腕の中で彼は珍しくドンキホーテの名を覚えた。余り人の名を覚えるのが特異ではない彼だが、いつかこの名前が幸せを運んでくる気がしたのだ。
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彼の生活は一変した。
豪華な食事、快適な生活、彼女から貴方の欲するものは何か無いのか、と挨拶のように聞かれる毎日だ。
彼は砂漠に国を創った彼女との生活を思い出した。
懐かしさと寂しさを感じた。彼は久方ぶりの自由に「のびのびとごろごろしたい」と彼女に願い出た。
彼女は喜んで彼の言葉を聞き入れた。
彼女は国を用意した。気候は温暖で、食べ物は美味しく、水も豊かで、何よりもそこを治める王家も中々に善良だった。
比較的常識を解する彼女だったが、どちらかというと土地の良し悪しで決めた。彼女としてはジルクの滞在中のみ快適であれば何があっても良かったのだ。
そのため、その地の為政者の善悪など気にしてはいなかっただろうが、結論から言えばそれらは良い方向に向かうこととなる。
当時、リク王家はさほど歴史が深くなかった。しかし、善政を敷いた為か国力は高く、民もまた王の支配を受け入れていた。
そんな国に突然世界政府からの「命令」が届いたのである。
「命令」
国家に対するものとしては大いに問題があるはずなのだが、そのような強引な手法への抗議すらも天竜人直々の来訪という衝撃の報告を前には無意味であった。
歓待の任を仰せつかった件の国…後のドレスローザでは燻りつつあった不満は歓迎の準備に忙殺され、民には好奇心と不安が募った。
来訪当日、精神を削る歓迎側の心情とは対照的に、軍艦10隻近くに護衛されつつドレスローザへ向かう天竜人一行の道中は堅苦しさなど皆無といった空気感を醸していた。
これは本来ならばあり得ない状況なのであるが、端的に言ってジルクが原因であった。
ごろごろしたい発言の翌日には命令の濫用でドレスローザへの旅支度を整えた彼女からの提案で、極々少数の旅の供が選抜され、快速船に乗り出立した一行。
ジルクからすれば野原でも小川の近くでも良かったと言うのが本音だが、これでもかと気合の入った彼女の誘いを断るつもりもなく、全力で楽しもうとワクワクを隠そうとはしなかった。
それは見事に行動にも現れており、護衛の海兵に接する時は階級も関係なく話しかけてはどこに向かっているのか尋ねて周り、どんなところなのか、果ては質問した海兵の昼ごはんまで聞きたがったのである。
これには流石に海兵たちも冷や汗を垂らしたが、彼らの心配は無用とばかりに本来ならば言葉すら交わすはずのない天竜人までが、付き添いという設定のジルクが、ではなくジルクに付き添う形で聞いて回るので、早々に諦めてジルクの質問攻めに答えていた。
ジルクからしてみれば、久方ぶりの色んな人との会話であった。人見知りというよりは照れ屋の彼だったが、100年ぶりの会話は楽しいものであり、職務故とはいえ律儀に質問に答えてくれる海兵との会話は、罵倒ばかりでおよそ会話のできた試しがなかった聖地での一昨日までの生活と比べてとても充実したものであった。
彼に付き添っていた彼女はというと、彼の楽しそうな表情や、明るい声音、無邪気な笑顔に、爽快な笑い声…それら一つ一つに感無量の思いだった。
彼女は天竜人としては万人の言う常識に明るく、何よりも思いやり深さを持ち合わせていた。そんな彼女がジルクに出会えば、彼女はその思いやり深さの殆どをかの男に注ぐと言うのは、今日までの彼の生き方を鑑みた場合は納得であろう。
彼女は拷問に苦しみながらも美しさを失わなかった彼の神秘に崇敬を覚えた。これは間違いなかったが、同時に彼女は彼の顔に一目惚れしたのだった。
例に漏れず、彼女もまたヒモに繋がったのである。これもまた海の導きが、はたまた彼の成せる奇跡なのかはわからない。だが、彼に尽くすことに喜びを見出した彼女の心中は幸福一色であることに間違いは無いのである。
ジルクは道中を実に楽しく過ごした。常に明るい空気を纏い、護衛の兵士にも自分と食卓を囲むように頼んだりと、兎にも角にも前例、伝統、作法をなんのそのと蹴散らしながら目的地までの旅情を楽しんだ。
ドレスローザに着く頃には、兵士も給仕も皆が彼の為にと気を配るような一団ができていた。主人たる天竜人の女性はというと、彼らの変化に無礼だ、不忠だと嘆くどころか、寧ろ好都合とばかりに考えていた。
かくいう彼女もまた本来の生まれや立場を忘れたように、しなくてもいい給仕の真似事までしては彼に尽くしていた。
不思議と誰もが満足げにジルクのわがままに付き合っていたのは、歓迎したドレスローザの王族や、遠目に彼らを見つめる民衆からもうかがえた。
歓待は順調に、というよりもジルクの望むままに進んだ。
堅苦しいことはいいや、と彼がいうと歓迎の挨拶が省かれた。
何でその人たちは鎖に繋がれてるの?と彼がいうと、世界貴族に献上予定であった奴隷が解放された。
食べきれないのに勿体無いよ、と彼がいうと明らかに量が過多であるにも関わらず世界貴族への歓待作法として適切とされてきた料理の数々が、作られる前に必要な分に変更された。
どうしてその人を殴るのさ、と彼がいうと彼に付き添っていた天竜人に殴りかかろうとして取り押さえられた男が他でもない天竜人により許されて解放された。
ドレスローザの人々は困惑していた。聞いていた天竜人とはこんな存在だったのか、と。
一週間の滞在期間の間に、ジルク一行とドレスローザの人々との溝は徐々に埋まっていった。
ジルクは旅の始まる前は穏やかな時間を所望していたが、一方で自由な空気を味わいたいとも強く思っていた。
このため、彼はドレスローザが全く未知の場所であり、天竜人とは比べ物にならぬほど善良に見える人々に対しての好奇心も湧いたため、彼は積極的に彼女と共にこの国を歩き回った。
配慮に次ぐ配慮に疲れ切るリク王家に対して、民衆はこの無邪気な客人に対して実に好意的だった。
最初こそ訪問する先々で緊張が漂っていたが、彼が自分たちと同じ感覚を持つ可愛げのある御人であるとわかると直ぐにその雰囲気は霧散していった。
無論、彼の行くところには必ず天竜人の女性が付き添ったが、彼女はその特徴的な髪型を下ろし、特徴的な服を脱ぎ去って彼の側に付き添ったため、周囲からは天竜人だとはバレることがなかった。良くも悪くも天竜人は特徴的なシンボルがその存在の根拠であった。
何より、彼女は目に見えて育ちの良さこそうかがえたものの、謙虚に振る舞った。故に彼女が天竜人だとは、彼女に長く従ってきた給仕や護衛ですら目を疑うほどであった。
一週間の旅程は滞りなく達成され、ジルクは聖地へと帰っていった。
今回の訪問は、ドレスローザにとってのちに大きな意味を持つ一人のあどけない友人を得ることになった記念すべき日であった。
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ドンキホーテ一族は、彼女を通してジルクの影響を強く受けることとなった。
彼女は天竜人の地位を捨てることはなかった。しかし、ジルクと共に歩む中で彼への最高の奉仕とは何かを試行錯誤し続け、結果として人間らしい天竜人の育成という答えに行き着いた。
彼女は一族に強い影響力を発揮し、他の一族の心ある天竜人や一族の同志を中心にしてジルクを奉らんとする一派を形成するに至った。
これでは天竜人の立場がジルクに移行したのみではないか?とも思われるだろうが、たしかにその通りではある。
だが、決定的に違うのは彼の存在は人の上の天竜人の上の存在として彼を位置付けるのではなく、天竜人を含む彼以外を全て人として、その上に立つ存在として彼を位置付けると言ったものだった。
反発や異端への警戒が高まる一方で、女性天竜人を中心に、彼個人への強い支持が得られるようになるのは後のことである。
彼女もまた100年を生き、そして死んだ。
彼女は100年の時をジルクに尽くすことに費やし、心底満足といった笑顔でその息を引き取った。
そして、穏やかな時が終わり、突風が突き抜けるように突如として時代は動き出した。
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