R18タグについて。性描写を連想させる単語などが含まれるため念のため付けさせていただきました。SS作者自身の技量不足により、比較的タンパクなR18になると思われます。
彼女の死からさらに100年。
聖地マリージョアはまさに静かなる争いに明け暮れていた。
自身たち天竜人以外を全て奴隷とみなす旧来の天竜人の派閥と、ジルクを神の君として崇め奉り彼以外は全て同じ人間として等しい存在であるとみなす新興派閥である。
未だに旧来の派閥の方が圧倒的な勢力を誇っているが、両派閥の各家の女性天竜人たちは概ね新興派閥に…というよりはジルクに好意的というか首っ丈というかの状態であり、勢力は均衡を保っていた。
この均衡が動くことは早々にない――そう囁かれていた小康状態の中で事件は起こった。
旧来の一派によってジルクが誘拐されたのである。
事件の発覚からまもなく、血で血を洗うことはなかったが各家内では父親や兄や弟側と妻と娘と姉と妹側による…というよりは女性陣による一方的な猛口撃が炸裂した。
男達は心を折られて撃沈。しかし、肝心のジルクは姿を現さなかった。
〜〜〜〜〜
とある海上
全身に極太の石の鎖を巻きつけられ、口に猿轡、目には目隠しをされたジルクは海賊船に揺られていた。
海賊には彼以外にも雇われの海賊や荒くれ者が乗っていた。
彼らは旧来の天竜人派閥に命じられ、ジルクを誘拐した海兵将校達から聖地マリージョアから遠く離れた島で眠らされたままの彼を受け取ると早速船を出した。
彼らはジルクの始末に困ったが、天竜人の、よりにもよって自分たち海賊などゴミ以下としか思っていないような奴らの怒りを買いたくはないと思い、乗り気ではないにしても彼を確実に殺そうと考えた。
結果、彼らの選んだ方法は海王類の餌食にすることだった。
新世界ではないにしても、彼らの縄張りの近くには海王類が多かった。
小舟に身動きが取れないどころか、まだ目が覚めていないジルクを載せ替えると、血抜きしていない魚の身を乱暴に切り裂いて海に派手に血をぶち撒けた。
直に海王類が来るだろう。海王類ではなくとも、鮫が来てこの哀れな男を腹に収めてくれるだろう。と海賊達は考えた。
彼らは自分たちがとばっちりを受ける前にいそいそとその場を離れると、ジルクの乗った小舟の姿がギリギリ窺える距離にまで船を移動させ、錨を下ろした。
仕事はしっかりしておこう。男達は仕事の始末をつけるだけの律儀さを持ち合わせていたし、何より天竜人の怒りを買ったりするのはごめんだった。
彼らの行動は間違いではなかったし、彼らの中には名のある使い手もいないわけではなかった。自信もあり、実力もあり、慎重さも持ち合わせていた。
だが、これが彼らの命取りになった。
〜〜〜〜〜
血の匂いにつられた先客はサメであった。
慎重に小舟の周りを泳ぎ回るサメは、小舟の上の存在を単なる餌として認識すると、確実な狩りの成功のための助走をつけんと小舟から離れ、勢いをつけて突進した。
海賊船から遠目にも分かるほど飛沫が飛び、白波が立った。
口を大きく開け、小舟の頼りない木製の横腹ごと餌を腹に収めんとしたその時、サメの巨体をまるまると覆い隠す巨大な影が海上を覆った。
太陽の光を遮った巨大な影はサメの勢いを飲み込むように、いや文字通り勢いに任せて突進するサメを真正面から丸々と呑み込んだのである。
海上に見えているだけでも体長30mは下らない巨大な海王類が、鎖に巻かれ、未だ夢の中にあるジルクの乗った小舟を守るようにしてその身を海中から起こしたのだ。
サメを呑み込む音が辺りに響いた。
この時はまだ海賊達にとって問題らしい問題はなかった。
彼らはサメの次にあの怪物に呑まれるのがジルクであるように思われたからである。
だが実際は違った。彼らの海賊船は突然の轟音と共に真二つに裂けた。
海に投げ出された海賊達は何が起きたのか分からずにいた。かれらの意識はすぐに海王類へ向かったが、彼らの不安をよそに海王類は小舟の側から動いていなかった。
では何が?その疑問の答えは、海面から突き立つ巨大な水の両刃であった。
海面からの高さにして10メートル。体の大半が水中にある海賊達は自ずと見上げる他なく、余計にその異様な、かつ巨大な姿に圧倒されたのであった。
水の両刃は淡い青色であり海の色そのままであったが、その形状はまさしく突き出された両刃の剣先であり、比喩では無く確かな鋭さと硬質さがあった。
しかし、やはりその正体は水に違いなく、目を凝らせば刃の中で魚が泳いでおり、刀身に太陽の光が反射すると目が痛いほど眩しい。
海賊達はあまりの未知との遭遇に一瞬呆然我失となったが、今の自分たちの目の届くところに海王類がいることを思い出すと、一斉に船の残骸へ向かった。
浮きになりそうなものを探し、どうにか陸地を目指そうとしたが、彼らは二度と戻れそうにはなかった。
彼らの真下には円状に黒々とした重い水の塊、深層水で構成された円筒が形成されつつあった。
船長の号令が響き、真二つにされた海賊船の生き残りが陸地へ目指すために心を一つにした瞬間に、頃合いを見計らったように水のハンマーは浮きに掴まる哀れな海賊達に真下からふるわれた。
先程の淡い青の両刃とは全く異なる、深い群青のハンマーは五十人程度の男達を海面から直上20mに突き上げた。
彼らは何が起こったのか理解する間も無く海面に激突。
着水ではないのは、彼らが当たったのは穏やかな水面ではなく、一時的に分子の運動を停止させた…冷たくない氷と表現できる高密度高硬度の水の円形の舞台だったからだ。
頚椎骨折か脊髄損傷、背骨の圧壊など…全身が硬質な海の舞台に叩きつけられた海賊達は静かに沈んでいった。
生き残ったもの達は自身の幸運に感謝したが、彼らの背後には先ほどまで小舟のそばから動く気配のなかった巨大な影が急接近していた。
あとは語るに忍びない。単なる蹂躙と捕食により海賊達は全滅。
この海域に海賊が来た痕跡など海に漂う海賊船の破片程度しか残っていなかった。
全てのことが終わった頃に、ジルクは目を覚ました。
周囲は360度が静かな海。先ほどまで小舟に寄り添っていた海王類も、海面から突き出された剣もその影も形もない静かな海。
ジルクはマリージョアでの生活が嫌いではなかったが、悪魔の実はやはり手に入らなかった。ジルクが死ぬために悪魔の実を探しているということは、探す理由を聞かれると素直に答えてしまうジルク本人の口から周囲の女性天竜人に広がり…敵対派閥には秘匿、味方派閥では見つけても献上しないということで話がまとめられていた。
彼は一つ伸びをすると、何となく進みたい方向を見つめてみる。いつも陸を歩いて旅をしていた彼にとって、海の上での一人旅は初の体験であった。
本来なら何も起きるはずがない。見つめるだけでは船は進まないのだ。
ところが、そこはやはりジルクである。
10秒も経たぬうちに、ジルクが船酔いしない程度の絶妙な速度で船が進み出したのである。揺れも小舟であるはずなのに異様なほど無い。
まるで滑らかな平地を滑るような乗り心地である。
彼は、船はこんな乗り物なのかと一人納得すると体が鎖で覆われていることに気がついた。
これは流石に困ったと思いきや、彼の目の届かない背後の水面からにょきりと海水が起き上がり、ハサミの形を取ったかと思うと彼の身を拘束する鎖を、ついでに猿轡の留め具と目隠しも断ち切ってしまった。
断ち切ったそれはもう仕事は終わったとばかりに、ハサミの形から音もなく海に溶けこんだ。
ジルクは後ろを振り向くが何もない。彼は再び不思議なこともあるものだと納得して、また微睡に身を任せた。
ジルクが眠りだすと、船は静かに進み出した。
水面はジルクに心地よい音を立て、彼の快眠を助けるように漣の音色を立て始めた。
船の行き先はジルクも知らないが、どうやら彼の新たな旅が始まるようだった。
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母なる海を司る悪魔は海葡萄にその力を宿した。
浅瀬に生えた海葡萄を、誰が取るのか、誰が気づくのか楽しみにしていた。
だが、食べたらカナヅチとなる果実が海の中に生えているなんてことを思いつく人間はいなかった。
最初に生まれたはずなのに、長い長い時間が過ぎても誰も食べる人はいなかった。
本当はとっても素敵なのに、一番素晴らしいはずなのに、と悪魔の実は歯噛みした。
次々に世界に認められていく、心臓を手に入れたほかの悪魔の連中が羨ましく思った。妬んだ。
同時に、世界中で必要とされている中で、誰一人として自分の元へは、海の中へは探しにこない人間に対して、悪魔はとても苛立った。と、同時にどうしようも無く寂しがった。
ある日、一人の男が海に潜っていた。いや、正確には溺れていた。
男はカナヅチだった。悪魔は暇を持て余していたから、変な男を少しの間観察することにした。
男は海が好きなようだった。けれど、男はカナヅチだったし、海の塩っぱいのは不得意だった。
魚も好きだが、よく肉を食べる男のようだった。
目を水中で開けることはできなかった。目が痛くなるらしい。
魚を釣りにも来たようだが、釣った魚を捌けないどころか、釣った魚を触れなかった。ヌルヌルは得意じゃないのだという。
クラゲがいる時は震えて海に入ることもできなかった。可愛らしいと思い、触ろうとしたら噛まれて死にかけたらしい。
潜水も出来ないらしい。息が続かないし、なにより鼻から水を吸ってしまってから怖くて顔を水に長くつけたくないらしい。
悪魔は不思議がった。どうしてこの男は海が好きになったんだ。
海よりも陸の方が楽しそうだし、何よりそんなに海に苦手なところがあるのだから、嫌いになる方が適当だろうに、と。
男はそれでも、海が好きだという。
どこが好きなんだ!と悪魔はついつい声を荒げるような気持ちで男の様子を観察した。
男は海が海であることが好きらしかった。
「青くて綺麗だな〜。好きだな〜。」
一度も海に入らないまま、男は海に沈む夕陽に向かってそう呟くのだった。
悪魔は男か女かで言えば女に近かった。
後は予想と何ら相違ない。
ある日のこと。
悪魔はついつい手が滑ってしまい、男を海に誘い入れると、果実をこれでもかと光らせて、何なら男の手に海流を操って巧妙に握り込ませて沖に打ち上げた。
打ち上げられた男は、案の定その実を食べてしまった。
素直なのか考えなしなのか分からない性分が良い方向に働いたのかは分からないが、少なくとも今回は半々であった。
男は海に愛され、それと引き換えに記憶をなくした。
記憶をなぜ無くしたのか?…あまりに長い間放置されたため、肝心の果実の方が悪くなっていたのである。
それも、尋常ではない悪さであったため、数千年分の悪魔の鬱憤と、その裏返しのもの凄い愛情と、果実本体の傷み具合が核融合を起こしたのである。
ただでさえ不味い悪魔の実が悪い方向に熟成に熟成を重ねて、終いには腐りを超越した状態へ覚醒したものを一口でいけば人間はどうなるのか想像に難くない。
結果、一口目で全部いった男は白目を剥き泡を吹くと三日間目覚めなかった。三日後に目覚めた男には記憶がなかった。
不味さのペタトンパンチは男の意識どころか記憶をも完全に抹消してしまったというわけである。
ウミウミの実とジルクはこうして出会ったのだった。
彼が実を食し、三日の間昏睡して記憶もなくした結果、彼は女貴族と出会うことができたとも言える。
彼のヒモ生最初の出会いには、悪魔の実すら堕としてしまった伝説のヒモ夫、ジルクならではの背景があったのだった。
〜〜〜〜〜
彼の船は彼のお腹が空く前に陸地に着いた。
海は彼に糧を与えることに何の躊躇いもなかったが、彼は貝に当たりやすく、魚を捌くこともできないのである。
そのため、彼が陸地で食事を取れるようにと、ほぼ直線距離で最寄りの島へ接岸したのだった。
ちょうど目覚めた彼は目の前の島に雪が降っていることに気がついた。彼は久しぶりにみる雪にテンションが上がった。
いざ島へ上陸、というところで彼は自身の空腹を思い出した。お腹が減ったな…と思いつつも、船の上では何もはじまらない。彼は意を決して雪の降る島へと足を進めた。
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予想以上に寒かった。彼は自分の格好が明らかに防寒具とは言えないことを思い出した。雪に夢中になるあまり、彼は色々と抜けていたようである。
一度船に戻ろうか、と思った彼であるが、彼は見事に道に迷ってしまい進む以外の道はなさそうであった。
彼は前に進み続けることにしたが、徐々に足取りは重くなっていく。
暫く進むと、彼はトナカイの群れと出会った。
彼は鹿だ!とまた気分を高揚させたが、寒さが限界に来たのか雪の中に倒れてしまった。
彼は寒い中で眠ったら死ぬ、ということを知ってはいたが睡魔に負けて早々に眠りこけてしまった。
そんな彼に近づく影が一つ二つ三つ…。
その正体はラパーン。白熊によく似た大きなウサギである。
どしどし集まってきたラパーン達は円陣を組むようにしてジルクを囲うと、彼の体をそのフカフカの毛で包んで温め出した。
集まったラパーンの性別は全て雌であるが、それはさておき彼は九死に一生を得ることができたのだった。
ドラム島に一人で上陸したジルクは頼れる人がおらず、それどころか防寒用の服も満足に持っていなかった。
如何してラパーンが彼を助けたかはともかく、彼が動物にも愛されやすいというのは事実であった。
初めこそ、彼を温めていたのは雌のラパーンだけだったが、10分も経つと雄のラパーンと先ほど彼が見たトナカイの群れまでが集まり、彼を中心に丸い円を作っていた。
溢れんばかりのモコモコに彼は少しばかり窮屈そうだったが、それでもポカポカとした笑顔で眠っていた。
1時間ほどか経つ頃に彼は目を覚ました。辺りにはモコモコとモフモフが所狭しといった具合で身を寄せ合っており、彼にははじめてみる光景に驚きつつも目の前の動物達に興味津々であった。
彼は言葉はいらないとばかりに、相手の凶暴さだとかも考えずに抱きついたり撫でたりとしていたが、されてる方のラパーンやトナカイ達は嬉しそうに身を寄せていた。
満足したジルクは空腹が限界に近いことを目の前の大きなウサギ達に話した。本来これは無意味なのだが、運の良いことにラパーンは賢かった。
雌のラパーンがジルクの頼みを聞き入れると、雄のラパーン達に人を探してくるように言った。言われた雄ラパーン達は頷く素振りをするとすぐさま駆け出していった。
残された一団は、気ままなジルクが歩き出した方向に従い動き始めた。
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くれはは驚きに目を見開いていた。
まさかトナカイとラパーンが人間の男に従うようにして行進するところを目にするとは思わなかったからである。
彼女は雄ラパーン達が連れてきた人間だった。
ラパーン達とは友好とまではいかないが、程よい距離を保って付き合ってきた彼女だが、まさか彼らに担がれて運ばれる日が来るとは思わなかったのだ。
どうしてこんなことをするのか、聞いてみても答えは返ってこない。
代わりに、到着した場所でラパーン達と雪遊びをしている男に聞いたところ、彼がこれまでの経緯を話してくれた。
彼は一人でこの島に上陸したのだが、服も満足なものを持っておらず、さらには頼る相手もいない状態で遭難、ラパーンとトナカイのお陰で凍死せずに済んだが、今度はお腹が空いてしまい、それをラパーンに相談したところ、彼らが人を連れてきてくれるというので、雪遊びをして待っていたとのことだった。
突っ込むべきところは山ほどあった。
だが、辛口がピシリと決まる村一番のクールビューティーくれは、その評判とは裏腹に初対面のこの男に強くあたる気が起きなかった。それに、さっきから自分の口から出る言葉は目の前の男を気遣ったり心配する言葉ばかりだ。
寒かったでしょう。
私の家に案内するわ。
すぐに温かいスープも用意するから少しだけ待っていてね。この服は大きめなんだけど、貴方にどうかしら。
お湯を沸かしたから、体を拭かない?
…そんな言葉ばかりである。
そして更に不思議なことは、そんな自分の行動は不快でもないということだった。
男は素直に喜び、手伝えることはないか聞いてきたり、感謝の言葉を伝えたり、先程のラパーン達との話をしたりした。
くれはは男の名前がジルクで、おしゃべりで、優しく、お人好しで、すこし抜けている、どこまでも素直な人間だということを知った。
気づけば暫くの間ジルクと一緒に住むということになっていた。ジルクはくれはに体全体で感謝の気持ちを示した。心からのありがとうと、突然の彼からの抱擁に彼女はお酒を飲んでいないのに顔が赤くなった気がした。
あっという間に一月が過ぎ、くれははジルクに一年一緒に暮らそうと話を持ちかけていた。
あまり人との関わりを持ちたがらない彼女は、案外ちょろかった。とはいっても、ジルクは悪意など持ち合わせているはずもなく、それが余計にくれはの心を掴んだのだった。
医者を志す彼女はリアリストであろうとしたが、決して情の薄い人間ではなかった。一方で、リアリストであろうとするが故に、人間の汚さに人一倍敏感で、強い女性だったが故に繊細な自分を自分に対して巧妙に隠そうとしてしまうきらいがあった。そんな彼女にとって、猫や犬のような無垢さや、社会的な地位や名誉に興味が無く、自分という人間にすっかり心を開いてくれるジルクはかけがえのない癒しであった。
そんな彼女からの同棲期間の一年延長という提案はジルクからしてみれば断る理由がなかった。
ジルクはジルクで、くれはと過ごしていくうちに彼女が案外おしゃべりで、明るく、思いやり深い人柄だというのはわかった気がしており、元から誰よりもヒモらしい男である。彼はくれはが思っている以上にくれはを好いていた。
そして、くれははくれはで例に漏れずかなりジルクに入れ込んでおり、医者としての腕前はもちろんのこと、女らしさを磨き直すなど、良妻の香りを漂わせていた。
二人の生活はラパーンとトナカイも交えて賑やかで穏やかな充実した時間に包まれており、ジルクの旅立ちまで約5年に渡った。
別れの時、くれはは5年で成長し切ったその美貌に涙を湛えながら男と再会の約束を交わした。
ジルクもまた、今までにない白い世界での穏やかで質素な、とても充実した生活に感慨を抱きながら、次なる旅先へと船を進めた。海辺のシーラパーンの手を借りて作った、島に来た時に乗っていたものよりも一まわり大きな船は、5年前と同じように帆を張らずともジルクの気の向くままに快速前進したのだった。
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ジルクは幾つかの島を転々としたが、悪魔の実が見つかることはなかった。
彼はふと聖地マリージョアを思い出した。彼からすれば聖地が何なのかすら全くどうでもよいというのが本音であり、昔のお家程度の認識である。しかし、彼からしてみれば少なくとも自分を大事にしてくれる、ヒモで繋がっている女性が多い場所であることも事実であり、どうにかして一度戻りたいと思った。
彼は頭を使うことにした。
そして天才的発想、と彼がいう作戦が開始された。
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彼は今、鎖に繋がれている。
彼は自分の経験上、鎖に繋がれた際には必ずと言っていいほどマリージョアに連れて行かれたことを思い出し、自ら奴隷になればマリージョアに帰れるのでは、と考えたのである。
彼の計画は半分成功、半分失敗であった。
成功したのは奴隷にはなれたと言うこと。
失敗とは向かう先が魚人島だったと言うことだ。
魚人島へ行く方法が発明され始めた所為なのか、どうにも魚人や人魚を捕まえようと天竜人は躍起になっているらしい。
彼はその捕獲のための兵士たちが乗る船を動かすために人足として買われてしまったのだと言う。
困ったなぁ、とは彼の談。
だがしかし、まだコーティング技術は未熟も未熟であった。
それもそのはず、この時雇われたのは民兵や私掠船などの船乗りが中心…つまりはコーティングに関しては素人ばかりだったのである。
……つまり、何が起こったかと言うと…シャボンが弾けたと言うわけである。
パンッ!
ドドドドド!!!
シャボンが割れる音が全方位からしたかと思うと、ジルクの乗っていた船は一瞬で圧壊してしまった。
ジルクはあまりの出来事に無意味かもしれないとは思いつつも息を止めた。
他の奴隷や船員の体が水圧で潰される中で、ジルクの体には何も起きなかった。
ジルクは自分の体を動かしてみたり、触って確かめたりしたが何の変化もなかった。しかし、周りを見渡せば確かに深海である。頭上には巨大な魚が泳いでおり、太陽の光が微かに届く以外はとても暗い。
ジルクは自分の目が痛くならないことや、息が苦しくないことに気づき驚いた。そして、自分は海が好きだったこと、それだけを思い出した。
ここはどこだろうか、どうやって帰ろうか。ジルクがそう思ったその時、巨大なと形容できる声がジルクに語りかけてきた。
唸るような、響いてくるような声は、ジルクの足元よりもずっと下から聞こえてくるようだった。
ジルクは呼ばれているのかはわからなかったが、何となく寂しそうな気配を感じたので、単純な優しさから海の深みを目指してみることにした。
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深く、深く、深く。
ジルクはひたすらに潜り続けた。
ジルクはどうして自分がここまで深いところまで潜れるのか理解しているわけではない。
何故潜る術を知っているのかもしらない。
だが、彼は寂しそうな誰かの声を放っておくのが嫌だった。自分をただ必要とする、そんな誰かの元へ行かなければと、その一心で彼は海の底へ底へと向かっていった。
あたりが真っ暗になり、もうどこまで深く潜ったのか、前も後ろもわからないほど暗いところにジルクはいた。
心細さに耐え、段々と近づいてきた声に従って彼は徐に手を伸ばした。
指先に何かの感触。
海の悪魔はひっそりと微笑んだ。
「君ならきてくれると思ったよ。」
海の悪魔は彼が悪魔の実を喉から手が出るほど欲しがっていると知っていた。
だが、彼女は他の悪魔の実に彼が奪われるようで、自分を見てくれないような気がして、彼が悪魔の実を手に入れることをよしとしなかった。
彼はすでに自身が与えた第二の心臓をもっているのだからもう一つの悪魔の実を食べたところで死ぬことはない。そこは心配していない。だが、何処の馬の骨とも知れない悪魔の実を、海が愛する彼が食すと思うと我慢ならなかったのだ。
海の悪魔は一計を案じた。彼女は深く深くの水底に…彼女が愛する彼のみに手に入れることのできる宝物を用意することにしたのである。
長い時間がかかってしまったが、水底に彼女が用意したのは他でもない、愛しい彼にのみ扱うことのできる二つ目の悪魔の実だった。
「どうかそれを貴方の二つ目にしておくれ。貴方の一つ目も、そして二つ目も私に頂戴な。」
彼女の声が聞こえた。ジルクははじめて海の悪魔と言葉を交わした。
彼女の声は透き通っていて綺麗だった。僕は掌にある葡萄一粒分の大きさの真っ青な果実に目を向けた。
彼女が僕にくれるらしかった。
僕は、これを食べたら死ぬかも知れない。でも、もし死なないとしたら…僕は一人でも多くの誰かを、貴女を心から愛したいな。
もしも死んでしまったら…
「…やっぱりすぐに死んじゃうなら、僕はトキと一緒がいいなぁ…」
僕は落ち着いた動作で、その果実を一息に頬張った。
意識が真っ黒く染まっていくのがわかる。
僕が次に目が覚めた時、空には星空が広がっていた。
手足には枷。見慣れたお城。
また戻ってきたみたいだね。マリージョアに。
〜〜〜〜〜
天竜人の差し向けた魚人と人魚の捕獲艦隊は、謎の巨龍により完膚なきまでに叩きのめされ、ただの一隻すら帰ってくることはなかった。
殆どの人間が生きて帰ってこなかったのに対して、守られる側となった魚人島の民はその目にはっきりと守り主の勇姿を刻みつけていた。
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突如人間の大艦隊の前に、魚人はおろか海王類すら近寄らない底無しの奈落の水底から巨大な巨龍が踊りでた。
巨龍は海を操るが如く自由自在に海流を生み出しては敵船を徹底的に蹂躙した。
さらにその20m近い巨躯から繰り出される体当たりや、強靭な尾による薙ぎ払いは一撃で数隻を大破させ、その一嚙みはどの様な巨大船をも沈めた。
敵船のいかなる反撃も、巨龍の超硬質の表皮には傷一つつけることができず、それどころか皮膚に攻撃が当たる前に、まるで海水の盾があるかのように砲弾や弩は全て弾かれていた。
極め付けは、口からの超高圧の海流を吐き出し、そのあまりの高熱により水中にも関わらず夥しい蒸気と炎が見えたかと思えば、もはや一隻も人間の艦隊は残っていなかったのである。
巨龍はまもなくその姿を人の姿に変えると、上へ上へと海面へ向かって昇っていったのだ。
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海の悪魔は歓喜した。
願いが叶うだけでなく、彼女の望んでいた以上に彼はその力に適合したからである。
彼女が愛するジルクのために用意したのは特別な悪魔の実であった。
海の底深くに眠っていた巨大な、文字通りの竜骨の化石を糧として古代の支配者を彼に献上したのだ。
この悪魔の実は水中にしか存在しない。そして、この悪魔の実を手に入れられるのは、奈落の水底に行ける存在のみ。
海王類ですら避けて通るこの地に真っ直ぐに降りて行ける存在は、海そのものである彼の愛するジルクのみだ。
そして、ジルクは疑うこともなく彼女を受け入れた。彼女のプレゼントは彼の初めてと極めて相性が良い。
もはや彼に怖いものはないと言っても良いだろう。もちろん、それは彼が自覚した時の話であるが…彼が自覚することないだろう。そうそう興味も無さそうである。
海の悪魔からすれば彼のそんなところも含めて堪らなく愛おしいのであった。
彼女がジルクに捧げた悪魔の実は…
"ウオウオの実 モデル:モササウルス・ホフマニイ"
であったとさ。めでたしめでたし…
〜〜〜〜〜
とどのつまりヒモヒモの実の正体とは、彼の生まれつきの才能を彼自身が理解していなかったが故の思い込みであった。
彼は謙虚なもので、自分の魅力も自分の長所も認めていなかった。だから尚のこと誰かに求められることに喜びを感じていたし、何よりも、誰かから愛されることに心から感謝し、愛してくれた誰かへ無償の愛と全幅の信頼を置くことに迷わなかった。
彼なりに家族の形を求めた一つの結果であった。
彼の今までの生き方を考えたら不思議でならないことだが、彼はトキとの離別以来数えるほどしか、それこそ10人にも満たないほどしか子孫を残していない。
その大半も、砂漠の国を創った天竜人の女やドンキホーテ一族の女当主、蛇と女の島の女帝との間に育んだ命である。
だが、彼と愛を繋ぐヒモは年月を経るごとに爆発的に増えていった。
大海賊時代の始まるちょうど100年前に、彼は二つの悪魔の実力を覚醒させ、天性の才能との融合を果たしたのである。
ヒモの天才はその御業の極みに達した。
以前から、彼は海と愛するものを媒介にヒモで繋がった相手へ不老と健康長寿を授けられたが、それだけであった。
そこへ第二の悪魔の実が彼に与えたのは強靭な肉体と、生物の食物連鎖の頂点に立ったことにより、完全とは言い難いものの明確な意思に基づいて海を支配できる精神力と僅かな自信であった。
彼はそれでも大きく変わることはなかったが、しかし彼の体内では彼の外面的不変とはかけ離れた、激甚な変容に渦巻いていた。
彼は知る由もないが、彼の身に起きたことは大きく三つ。
ヒモ繋ぎの神秘による愛する者との相互の浄化と循環による不老と100年の健康長寿はその100年の限界を突破し、個々人の実力差に依るとは言え、その生命力を大幅に拡充することができた。
二つ目に、ヒモを繋いだ状態で離れた相手がどんな状態なのかを知ることができるようになったのである。これは千里眼やテレパシー、念力のような利便性はないものの、彼と相手の心臓の繋がりを記憶と通信の媒体として、相手の今の感情や欲求を直接知ることができた。これはジルクが知りたいと強く念じることで発動したが、相手の強い感情は何をすることなく受け止めることができる、半一方通行の性質を持っている。
三つ目は、覚醒した白亜紀の海の王の力とウミウミの力が融合し意識が明瞭な状態でも海をある程度統率できるようになったことが挙げられる。ジルク本人の攻撃意思というのははっきり言ってほぼ存在しない。しかし、自己防衛と誰かを守ろうとする意思の力はとりわけ強く、特に自己防衛に関しては無意識下ならば海の悪魔が代行する形で行使されるほどである。
この三つの力のうち、三つ目の力は強力になった分やや難点も存在した。それは彼がこの数百年で…具体的には天竜人による100年の抑圧と暴力によって、望まれずに彼に備わった「我慢」、これによって彼が一時的に抑えた欲求が彼の無意識状態時において、攻撃意思と良く似た「わがまま」や「癇癪」として発露してしまう点であった。
…とは言っても、この「わがまま」や「癇癪」というのはビッグマムのように本当の意味での自己中心的極まる、周囲を考えない身勝手なわがままではなく、本来ならば憤怒や憎悪に還元される程の仕打ちを受けた際の悲しみや苦しみが、それを抑える並外れた彼の良心と愛情深さが理性や意志や人間性の働かない無意識状態により、リミッターが外れることで本来の人間的な喜怒哀楽の域にまで低下し、蓄積された憤怒や憎悪が攻撃意思として実現されるというものである。
これは自身に直接的に憤怒や苦痛…彼の場合は悲しみ程度に還元されるが…を与えたものに対して無意識の意思によって限定的に行使されるものであったため、彼が愛する者が宥めるなり慰めるなりすれば間もなく収まった。
無論、彼が生まれて初めて持ったと言っても過言ではないコレらの攻撃能力の発現に彼を愛する海の悪魔が深く関わっているなどということは、彼女のみぞ知る秘密であった。
ヒモヒモの実など存在しない。だが、それでいい。
彼を愛する者達、その中でもとりわけ悪魔の力を身に宿した者達はこの愛しい男から感じる海の波動から、薄々この男がヒモヒモの実を食べたダメ人間などではないと勘付いている。
だが、彼はいつまでも変わらずに人を惑わす魔力に任せて、強大な野望や欲望を滲ませることなど後にも先にも皆無であった。
彼を愛する者たちは、彼が彼であることの尊さを何よりも知っていた。
それに、強大な力を持つ彼らからすれば彼の望む細やかな幸せは、一見ダメ人間のわがままに見えてその実は優しさと真心の籠った彼らにとっての守るべき宝物だった。
各々の過去や理由や意思に関係なく、彼らがジルクを愛するには十分すぎるそれらの理由は、世界をより良い方向に導く海風であったことなど、誰一人として知る由は無いのである。
ただ彼の通り道にはいつも幸せが咲き訪れるのだった。
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主人公設定
名前…ストリング・D・ジルク(ただのジルク)
食べた悪魔の実…
・ウミウミの実
(ロギア自然系の海人間[水人間])
・ウオウオの実 モデル:モササウルス・ホフマニイ
(ウオウオの実の古代海洋生物種であり、海洋でのみ使える悪魔の実。二つの心臓を持ち、尚且つウミウミの実を食べた者であることが前提となっており、ジルク専用と言える。他のものは手に入れること自体が叶わず、万が一にも手に入れて食べることができたとしても海に入ればそのまま沈むことになる。海の悪魔による自然発生型悪魔の実である。)
身長…180cm弱
容姿…黒髪黒目で細身の引き締まった身体をしている。
性格…温厚篤実かつ純真無垢な一方で、性的には極めて勇猛。一証言によると何がとは言わないが、とても雄々しく、更には底無しらしく、巨人や魚人ですら太刀打ちできないという。何が、とは言わないが。
概要…元からカナヅチであった。一般的な例とは逆に、悪魔の実(ウミウミの実)を食べたことで海に入れるようになった。あと、水中でも目開けられるようになった。
しかし、それでも運動音痴は治っておらず泳ぐことは不得意であった。これまた、悪魔の実(ウオウオの実 モデル:モササウルス・ホフマニイ)を食べたことでウオウオの実を単体で用いても時速40キロで泳げるようになった。ウミウミの実を用いた場合は海に漬かる必要がないため無理に泳がない。ウオウオの実の能力は彼が身に宿してから10年目くらいに覚醒した。覚醒の見返りは、簡単に言えば体の大きさを調節することが可能になったことだ。元の身長180cm弱を最小として、最大で2000cmまで肉体を巨大化させることができる。この際、彼の身体には、凶暴性が増すこと、手足には水かきが張ること、筋力が著しく強化されること、顎の筋肉が強化され、歯が見苦しくない程度ではあるが尖ることなどの特徴的な変化が現れる。しかし、これら以外の部分は基本的には人間の姿のままである。上記の巨大化状態が彼の場合はゾオン動物系悪魔の実の、「半獣の状態」の状態である。完全な獣の状態は、魚人島を守った際に発揮した20mを優に超える巨大なモササウルスに変身する。
しかし、注意すべき点として、ジルクに意識がある限り彼は決して完全な獣の姿になることはできないという点である。理性がある状態、つまりは意識がある状態の彼は悪魔の実の力を使いこなせない。本来、彼の能力は両方とも覚醒しており、彼の肉体に関して言えば超越的な戦闘力を秘めている。また、二つの悪魔の実は海の悪魔によって綿密な連携が可能な状態である。
しかし、残念ながら彼の肉体の真の姿とは異なり、彼の意識がある時には肉体と悪魔の実の強力な力は全てジルク自身の理性によってリミッターが付された状態にあるため、彼の全力は常に彼の存じ得ない時と場所で執行されることとなるのは、彼のみが知らないところである…。
因みに、彼が初めて海で能力を使ったのは、彼が能力者になってから600年近く経ってからであった。
あと2、3話分書くことがあります。それから各ヒロインとのお話に入りたいと思います。どんな人がヒロインとして出てきてもおかしくないことは先に断っておきます。私の好みが優先されるのはご容赦を。