※この作品はR-18です。

ヒモヒモの実のダメ人間   作:ヤン・デ・レェ

9 / 13
遅くなりました。オマケR18をつけました。


ヒモヒモの7〜ジル公方 その2〜

 

昔々のワノ国で、国守の名士と呼ばれた男がいた。

男の名前はジル公方。

 

この男、実は単なる旅人に過ぎなかったのであるが…時が経ち、新たな傑物との出会いを皮切りに、徐々に力を認められて正真正銘の国守と呼ばれる様になってしまう。

 

無論、男にその気概も自覚もハナから無いのでだが…。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

山の神事件から早くも1ヶ月。

例の事件で会合を果たした、おでん、ジルク、錦えもん、傳ジロー、イゾウと菊の丞兄弟の六人組は今日も自由と引き換えの根無草の生活を謳歌していた。

 

おでんと錦えもんの二人は山に狩りに行き、傳ジローは川辺へ洗濯をしに行き、ジルクと兄弟は近くの郷へ買い出しに行くというのが最近の分担であった。

 

初めこそ狩りだけで生活を回していた六人だったが、流石に食事がこれだけでは寂しいと声が上がった。

金は好きに使えとジルクが言ったので、錦えもんは飛びつきかけたが、傳ジローは狩った獲物を売りお金を稼ぐ方法を提案した。

 

かくして六人は猟師へとジョブチェンジしつつ、文明的な生活を始めていた。

 

だが、問題というのは矢張り尽きないもので、おでんは奔放に他の郷でもトラブルを起こし始めるとキリがなく、その度にジルク他五名全員で駆けつけては尻拭いをするという始末であった。

 

しかし、やはりおでんの人望や人気は高いようで多くの人が彼を助けてくれるのである。

 

ここにばかりは感心した一同であったが、心配なのも確か。やはり男は城を持つくらいにならなければ落ち着くことができないのだろうか、おでん程の侍なら尚のことそうであるように思えなくも無い。

 

何とか代官でもいいからなってくれないものかなぁ…と思っていた矢先に、彼は面白い噂を聞きつけたというのである。

 

正直なところは開けない方がいい箱もある、なのだがしかし彼らは腹を決めておでんの話を聞くことにした。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

「なぁ!お前たち、それに公方殿は物怪の類を見たことがあるのか?」

 

おでんからの突然の問いに、他の五人は顔を見合わせた。

なぜそんなことを聞くのか。我慢できずに終わっていないおでんの話を遮った錦えもんが彼に言う。

 

「おでん様、いきなり何を言い出すかと思えば…物怪など生まれてこの方見たこともないですよ…。」

 

最もなことだったが、おでんは止まらない。

 

「そんなことは知ってる!俺も見たことなどない!だが、巷の噂では夜な夜な現れる怪異から悲劇を受けたという者もいるぞ!」

 

ワクワクしている様子を隠そうともしないおでんは更に続ける。

 

「何でもその怪異とやらは夜に現れるのだそうだ。夜、雑木林の近くを通った者、特に髪の長いものを襲うらしい。襲われたものは皆髪の毛を切られて奪われるのだという。既に多くの女や長髪の男がその怪異の手に落ちたと聞く。」

 

そこでだ!というおでんの声に、五人は身を固めた。どうやら今回は化け物退治のようである。

 

「俺たちでその怪異とやらを捕まえてしまおうではないか!!」

 

「やはりそうきましたか…しかしおでん様、我々とても霊を相手にできるような妖術師などおりませぬぞ?どうやって倒すおつもりで?」

 

やはり、の結果に一同は気持ちを切り替えた。これからの彼らの仕事はおでんに付き合いつつ、火が広がらないようになるべく被害を抑えることである。

 

そんな苦労人のうちの一人、錦えもんはおでんに問うた。

彼らの中に怪異とやらとの戦闘体験など無いのがほとんどだ。では、おでんの自信の拠り所を教えてもらおうと言うのである。最もな考えだが、おでんは特に何も考えていなかった。

 

「うんにゃ。特に方策もない!細かく議論しても妖の類が切れぬというのであればそれはその時考えるのみ。切れるのであればソレでよし!何の問題もないぞ!」

 

「は、はぁ…傳ジロー、お前も何かないか?おでん様は妖も切れるかもしれんが、かといってとり殺されでもしたら…いやしないか?だが、心配なものは心配だ。」

 

決心したのか諦めたのか、おでんの説法から間も無くして錦えもんは刀を携え立ち上がった。

 

「公方様!俺と傳ジローは町から御札やらを買い込んできます!どうか公方様はおでん様を引き止めてください!頼みましたよ!」

 

おでんのために自分のできることをしよう。錦えもんは愚か者ではない。主君と決めた男のためにも、彼と傳ジローは今できることに焦点を定め、そして実行しようとしたのだ。

 

「おでん様⁉︎は、早すぎです!まだ昼間ですよ!怪異だって昼寝してますよ!」

 

「そうかぁ?しかしだな、もしかしたら昼間もいるかもしれんだろう?それに本当に怪異なら昼は出てこないはずだ。昼から出るなら切れるに違いない。それを確かめるためにも、なぁ?」

 

二人の思惑では、買い物は明日中と思っていたのだが、せっかちなおでんの手綱を握り込むためには彼らは力不足である。

最終的にはジルクが先程の彼らの言葉を思い出し、自分が押さえておくから行ってこい、とおでんのことを預かっておくことで場は収まった。二人はかたじけないと頭を下げて、待ちきれそうにないソワソワとしたおでんの為にもと町へと駆ける羽目になった。

 

待たされた四人はというと、おでんは仏頂面でジルクに「着いてきてくれ!アイツらも公方殿が共にいれば文句は言うまい!」として彼の体を揺さぶり、ジルクは揺さぶられ、兄弟は怪異の恐ろしさに養父のジルクの体にひしとしがみついて共に揺れていた。

 

そんな時間が5分と続き、ジルクは軽く手でおでんを2メートル程放り距離をとった。鬱陶しさ対策のソーシャルディスタンスである。

 

おでんは反省したのか暫しの間黙って胡座をかいていたが10分後「我慢できぬ、すまんが行くぞ!」と言うとジルクの静止を振り切って飛び出して行ってしまった。

 

またやってしまった…文句は僕が言われるのだろうと気分が沈むジルクへ、兄弟が心配そうな顔で寄り添った。

 

「はぁ〜。イゾウと菊は優しいね〜…それに比べてみんなわがままだなあ…よし!僕もわがまましちゃうぞ!さあ二人とも、今日は見世物小屋にでも行ってみよう!ちゃんとした劇でもやってるところがあるはずさ!」

 

兄弟の優しさに癒されたジルクは、錦えもんと傳ジローが何のために町へ行ったのか忘れてしまった。

彼は兄弟にご褒美をあげようと思った。

効き目のある御札を求めて二人が駆け回っているであろう町へ、彼らのことを、ついでにおでんの心配もすっかり忘れて歩いて向かうのだった。

 

道中、三人は山の中で起こる様々な出来事を互いに出し合った。彼ら六人の生活圏は山全体と郷の近くだったが、決して未開の地というわけではない。しかし、確かなこととして間違いなく危険な野生動物が生息しており、また彼らの寝床の有無など知らぬとばかりに雨や風が襲ってくることもある。

未開の地でなくとも、人に向けて歓迎を示すほど柔な自然でもないのだ。

今でこそ自給自足もそれらしくなったが、当初は山の神の子のウリボーをジルクを介して借りては日々山の中を探索しては食べられるものを追い求める生活であった。

 

そんなこんなで彼らにはそれぞれ中々に愉快で飽きの来ない山の中での失敗談や成功談を持つ機会に恵まれていた。

 

山の崖から落ちかけたことなど珍しくなく、錦えもんはおでんに横に抱えられてわざと落ちるという目に遭っていた。

何でも素晴らしいおでんの具になりそうな山菜だかキノコだかが崖の下に見えたらしい。…なぜ錦えもんは連れて行かれてのか?錦えもんがおでんが崖から自ら飛び降りるのを見て、その腰に取り付いたのである。「早まらないで!」とは錦えもんの声であったか。

勘違いも甚だしく、足が離れた所で錦えもんを腰にぶら下げたおでん。本来ならば共に落ちるところを、恐らく腰にぶら下げたままでは危ないと思ったおでんの手により錦えもんは彼の右脇に収まった。

 

手を伸ばすこちらと、おでんの脇に体を逆さまに横たえた姿で抱えられた錦えもんの視線がぶつかったかと思えば、彼は哀愁漂う表情で崖下に静かに消えていったのだった。南無である。

 

無論、その日の晩御飯には二人が怪我してまで取ってきたキノコ入りのおでんが出されたのは言うに及ばない。

 

特筆すべきことは、翌日におでん以外の全員が腹を壊したことである。これは誠に残念ながら、キノコ自体は大変美味しかったので誰一人として毒キノコだとは疑わなかったのだ。

 

すぐに治ったからよかったものである。

 

その後も、こんな風に食卓に野生との死闘が盛り込まれたりと、中々に刺激的な日々が続いて来たのである。

 

三人の道中は賑やかであった。

 

町に入った頃、顔の整った三人組は町人達からは美人三人組とか美人親子と注目を集めていた。

 

しかし注目は喧騒にすぐ飲まれ、三人は問題を抱えることなく目的の劇場にまでつくことができた様だった。

 

 

こじんまりとした印象を受ける、町の隅にある小劇場。

ジルクに連れられて来たイゾウと菊は、この日初めて舞台の面白さを味わっていた。

ジルクは舞台を観に中へ入る前に劇場の周囲で客を待ち構えていた出店や屋台へと向かった。

劇は見ないのかと不思議そうにした二人の手を両の手にそれぞれ包み込み、二人に好きな菓子や軽食を買うようにと言い聞かせた。

子供が仕事ばかりというのは、と少しモヤモヤしていたジルク。彼なりに二人が世界の楽しみ方を知る機会を作りたかったのだ。

二人はジルクの思惑通り目を輝かせ、見知らぬ菓子や食べ物のある屋台の方向へジルクの手を引っ張っていった。

屋台から香る甘い匂いとは別の優しい空気が彼ら三人を包んでいた。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

二人の父代わりのジルクは、彼らが唯一甘えられる存在であった。そしてジルクもそうあろうとし、それを二人は何よりの愛情と受け取った。

 

彼らの間には深い結びつきが生まれるのは必然であった。

兄弟の兄の方は大きな父性愛をジルクから受け取り、育ての父であるジルクとは別に、自立した後に自らの道の先で心の父と呼べるもう一人の男と出会うことになった。

 

対して弟の方は、自立した兄とは対照的に育ての父であるジルクへ同性へ向ける親愛以上の強い執着と情とを、まともぶる父への想いの奥に飼っていた。彼は次第に自らが何者であるか決めるのは自らであると確信していき、覚悟の果てに愛する男と番うべく、己の心身の変容強めていくこととなった。

 

しかし、今はまだこの話はしないでおこう。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

中々面白いそれに、三人は笑い合った。

 

屋台を物色し終え満足できた三人は、劇を見ながら食べる分を買ってから入場して席についた。

 

この劇場は小さいものの手が行き届いており不満は感じない。周りのお客の声に根拠を求めるに、ここを営んでいるのは家族の一座らしい。通りで小規模ながらも掃除が行き届いているわけである。自分の家を綺麗に保つのはそこまで不思議ではない。それに、家族一座とはいえ結構な数がいるように見える。これだけ養うのは中々に大変だ。もしかしたら外の屋台のうちのいくつかはここの一座が出しているものなのかもしれない。時間をかけずともそこそこ稼ぎが出るはずだし、何より劇場の客入りが悪くても屋台で食べ物を買ってもらえれば何も得られず終わることはない。

 

「商売上手だね。」とはジルクの言。

 

ジルク達が座った後で間も無く劇の幕が上がった。

 

劇場の中は狭すぎないが広くはなく、今回の演目もまたそれにあった内容らしい。

 

家族一座と聞いていたが、その実力は高いようだ。

満員とは言えないが席は埋まっており、戯けた仕草に笑いの波が広がり、悲壮な表情に人々の間からは緊張で喉を鳴らす音がした。

 

これからどうなるのか、そんな展開に恵まれていよいよオオトリかという時である。

 

突然に劇場の上手から乱入者が現れたのだ。

 

「黒炭の血め!覚悟!」

 

「大名殺しの貴様らが立身出世の演目とは片腹痛い!その身に負った咎と共に死ねぇっ!」

 

乱入者の手には刀。劇場には肩を斬りつけられ出血した舞台役者の男が蹲っていた。

 

その男に余りにも酷い言葉を投げつける下手人の男二人。男の苦悶の声が、閉鎖空間の劇場内に鮮明にこだました。

 

場は騒然、そして刹那の呆然ののちに観客は悲鳴をあげて混乱に狼狽始めた。

 

扉を開け放とうと焦る男や泣き叫ぶ女。そして、刀を振り下ろさんとしている男と、準主役級を演じていた女に斬りかかろうとしているもう一人の男。

 

血は流れ、劇場は消えない傷を負った。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

男二人はとある男からの指示で小劇場を営む家族一座の抹殺のために此処へとやってきた。

 

仕事内容は非武装の男女数名の惨殺、そして逃亡のみ。

相手の家族構成からして子供が一人残っていたが、それは殺さずに捨て置くように言われた。

 

浪人に身をやつした彼らはプロの人斬りとして働いていた。不安定な生活を安定させられる程度、新たな仕え先に便宜を図ってもらうだけの対価を提示された二人は迷いなく今回の一件に腕を振るうことを決めた。

 

客のフリをして劇場に入り込み、最終盤に突入して舞台裏に集まった役者たちを次々に斬り捨てるだけの仕事だ。

 

上手の大道具の影に身を潜めた彼らは最終盤まで息を殺して待った。

 

そして最終盤、彼らはそれまでの静かさを忘れたように、光の当たる舞台上に飛び込んだ。

 

仕事道具の刀を懐から抜き放つ。

 

一人が主役の男の肩へ切先での斬り払いを見舞った。

 

骨には達していないが、決して浅くない傷が肩に刻まれた。

鮮血が飛ぶ。

 

依頼主からの要望にあった堂々とした宣言のあと、手始めに近くにいた俳優と女優を殺すために刀を振り上げた。

 

力を込めようとしたが力が入らない。何事だ?

 

それは男に限らずもう一人も同様な様子であり、どうして振り上げた刀が振り下ろせないのだとそろって後ろを見た。

 

「危ないよ?それに血糊を使う様な場面じゃないよ?空気読んでよ…子供たちが泣いちゃったじゃんか!」

 

目を向けた先には男が一人、よくよく顔に注目すれば先ほどまで寄席の方に子供二人と共に座っていた男であった。

男の手の中には握り締められた刀身。通りで振り下ろせないわけだ。

振り上げた時から寸分も動いていない刀身は、嫌な音を立てていたが男たちはそれどころではない。素手で刀を握り込むこの男は得体が知れぬ雰囲気がある。危険の香が二人の下手人の鼻にも届いていた。

 

何故?どうして、それに何故刀が振り下ろせない…!?

 

男の無言の悲鳴が届いたのか、突然彼らの力んだ腕から力が抜けた。刀が振り下ろせたのである。

 

「くっ!な、何故振り下ろせっ…!?」

 

「えっ?…ふ、振り下ろせッッ⁉︎なっ!か、刀がっ⁉︎」

 

下手人二人の手の中にはまだ刀が残っている。

しかし、振り下ろしたなら目の前の女と男は死んでいるはずだ。

だが、目を瞑っていた女と男も顔に驚愕を浮かべている。

 

驚くのも無理はない。刀の柄から先がないのだから。

 

通りで軽いわけだと納得したと同時に刀身を丸々引き抜かれた男二人は謎の男に向き直った。

 

最悪この男を消してから逃げる必要があった。前金はもらったのだから、失敗しても捕まるよりはまだマシだと彼らは思った。

 

しかし二人同時に息を合わせての拳は謎の男の頭に炸裂し、彼を昏倒せしめることなく男の手の中ににぎり固められていた。

 

瞬間。

 

謎の男により締め上げられた拳がギチギチと悲鳴を上げた。

 

そして、ゴキャ!と小気味良い音と共に男二人の体は地に沈んだ。

 

「「うっ!?ヴァァァァァァ!?!?ぃっ、いだぃぃい!?」」

 

彼らは剣士の第一である利腕を失ったに等しい。

 

彼らの拳はメチャクチャに破砕されていた。複雑骨折の部類にあれば最悪の類である。

 

力加減を誤った謎の男による、単なる偶然の災難であったことは敢えて彼らのためにも言うまい。

 

何はともあれ、謎の男のお陰で家族一座の騒動は終わった。

一座の看板役者を張る、一座一家の家長である男が斬りつけられ肩に傷が残った以外は皆無事で、改めて舞台は無事幕を下ろした。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

ジルクは子供へ見せるには少し過激すぎると文句をつけたかっただけだった。

 

血糊とは言えどもあれほど迫真の演技で苦しまれては可愛い二人が辛い思いをするかも知れなかった。

子供でも見れる内容を探して、わざわざ選んだ演目なのにコレはひどいじゃないか!とジルクは直接言ってやろうと舞台へ上がった。

 

少し気負いしたものの、舞台前でふと客席に目がついた彼の目の先には怯えた二人の姿が見えた。

ジルクは先ずは今回の戦犯と言える斬りつけ役がこれ以上は血糊を撒き散らさない様にと彼らの刀を手で押さえることにした。

 

すでにこの時点でおかしいが、彼は気づかない。

ガッチリ握り込んだ刀は少しジルクとしても痛かった。

 

役者が何か叫び出したが、ジルクは穏やかにこれ以上の過激描写は可愛い子供達に悪いからやめて欲しいと告げた。

男たちは黙ってしまい、今度はジルクの手から刀を抜き取ろうとし出したのである。

 

これに驚いたのはジルク。少し痛くても我慢して調節していた力が、いきなり動いた刀で生じた手の痛みに狂ってしまったのである。

 

模造刀なのに痛い!とジルクは思った。

 

無論、正真正銘の真剣である。

 

手の痛みに、刀の刃を掴んだまま思い切り体を引いてしまったジルク。

 

彼の挙動と共に刀から刀身そのものがスポン!と抜き去られ、男たち二人はつんのめりに前へ倒れ込みそうになっていた。

 

備品を壊してしまったことに泣きそうになるジルク。

そして、苦肉の策でジルクの排除に乗り出そうとしている二人の男。

男たちの存在に気づいたジルクは自分が備品を壊したことに彼らが怒っているのだと誤解。謝ろうとも思った彼だが、今回は流石に向こうが危ない真似をするのがいけないと気を取り直し、一度落ち着いて話そうと弁解のために手を前に出した。

そこへ左右同時のパンチが炸裂。

しかし、炸裂した先はまだ怪我の癒えかけていたジルクの掌。

 

結果はご覧の通りである。

 

再度の痛みに顔を歪めつつ、反射的に手のひらを内側に丸める様にして庇う挙動を取った彼に罪はない。

結果的には手のひらを庇う過程で邪魔になった拳二つが粉々になってしまっただけである。

 

言葉にするには余りにもあっさりとした背景であるが、過程は如何様であれ家族一座の面々は命の危機をジルクに救われ、彼らの命を狙った下手人はジルクが子供への過保護を発動させたことで無力化されることとなった。

 

万事問題なし。よくわからないが胸にモヤモヤが無くなったジルクは席に戻って二人を一撫ですると帰宅の準備をした。

帰宅の準備を進める間に、痛みに気を失った男たちは奉行所の者にしょっ引かれ、怪我人の男は医師の元へと担がれていった。

 

破茶滅茶に尽きる終わり方ではあるが、彼らは皆無事なのだから一応はジルクの手柄によりいつもの様に一件落着であった。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

帰り際、一座からは深い感謝の言葉と常に特等席へ座る権利を貰った。

二人を連れていざ山へ入ろうとした時、獅子舞の様なフサフサの髪が豊かな青年…あの一座の家長の息子らしい…と出会った。

 

ジルクは彼から家族を守ってくれた礼として筆を貰い受けた。なんでも差し上げられるのがこれしか無い、しかしこれはとても良い筆なのでどうか感謝の気持ちを受け取ってほしいとのことだった。

 

ありがたく頂戴したジルクは、ホクホク顔で山へと戻ることができた。機嫌の良い彼の様子に兄弟の気分も上向きであった。

 

別れ際に聞いた名前は聞き覚えのない名前だったが、雰囲気とよく見合う良い名前であった。

 

男の名前はカン十郎。彼は将来大層な名優へと成長する気がしたジルクであったが、この時の彼がカン十郎の右の髪の房が左に比べて明らかに短かったことに気づくことはなかった。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

筆はたしかに良いものであった。

 

書き物をしないジルクでも、確かに描き心地に関してはそこらの逸品を超える素晴らしさであった。

少し掘り下げて聞いてみると、カン十郎は話すのを嫌がったが、どうやら副業の一つらしい。大した技術だと思ったジルクは、おでんにも使わせてやろうと考えた。

そして思い出した。

 

「あ、おでんの面倒見なきゃだったんだ…」

 

ジルクは兄弟に留守を頼むとおでんを探しに山へ駆けた。

 

錦えもんと傳ジローはやっと効能のありそうな御札を見つけたことでホクホク顔で山の中の拠点へと帰る途中であった。

 

ジルクに置いていかれるのを菊がぐずったため結局家には誰もいなくなってしまい、錦えもんと傳ジローが大きなため息を漏らさずにはいられなくなるまでそうはかからなかった。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

飛び出したきりのおでんを探しに雑木林に向かったジルクと彼に抱かれてついて行ったイゾウと菊、家がもぬけの殻と知り急いで追いかける、町から帰った錦えもんと傳ジロー。

 

彼らは何とかおでんを連れ戻してやっと一息つくことができた。

過呼吸気味の錦えもんと傳ジロー達を他所に、ジルクは帰って早々、先ほどの青年から貰った筆で試し書きに勤しむ。

 

そしてそこへ現れる力が有り余ったままのおでん。

 

「なぁ公方殿、その筆は最近使い始めたのか?」

 

試し書きに集中している相手も関係ないと卓に向かい正坐するジルクの真横に至近距離で質問してくるおでん。

 

「うん、そうだよ。おでんも使ってみる?」

 

普通は思いやりの足りない彼にむっとするところだが、そこはジルクである。何なく素直に返答した。

 

「おぉ、かたじけない!では早速日誌をこれでつけてみよう!どれどれ…成る程、確かに良い筆ですな!」

 

おでんは筆の良し悪しなどわからないが、いつも日誌をつけるのに使っている筆よりも墨ののりが良いことや、書き味の滑らかさに此れが良いものであると言ったのだ。

 

「筆の良し悪しは兎も角、その筆先…通常の筆とは毛の柔らかさや書き味の滑らかさが違い、ずいぶんと独特な品ですな。」

 

やっと復活した錦えもんは彼らの横からにゅっと顔を出すと、おでんから貸して筆を借りて紙の上を滑らせると主君と同様の感想を伝えた。

 

「錦さんに同感だけど、それよりどうして町に行っちゃったんですか!おでん様も!どうして雑木林に飽き足らず墓でまで待ち伏せするんですか!雑木林に居ないから探しに行ってみれば、墓石の影からおでん様が突然現れて来て心臓が止まるかと思いました!!それに、驚いたイゾウと菊が泣き出して、公方様もご立腹になられ混乱に次ぐ混乱にどれだけ神経を使ったことか!」

 

傳ジローも登場してこのまま主君と家臣の三人の意見が一致するかと思ったが、彼は筆の使い心地は捨て置き主君と恩人への不服申し立てを捲し立てた。

それは不服と言うには私の無いものであったから彼ら二人が不愉快に思う事などなく、しかし反省もしていなかった。

苦労人の性が彼には間違いなくある様である。

 

「そう怒るな傳ジロー!そんなに顔を顰めていると、その内凶相でも浮かんじまうかも知れないぞ!お前の顔が怖くなるのは俺も嫌だ!」

 

天がほれ見たことかと彼に言うように、おでんの絶妙に腹が立つ心配りが炸裂した。

 

「はぁ〜なら少しだけでも落ち着いてくださいよ…。」

 

傳ジローは…この方は心底カッコいい方だが、それにも増して奔放で自由な方だった、公方様でも止められないのだから出来ることはない、と心の中で折り合いをつけて主君へせめてものお願いをして不満を仕舞い込んだ。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

ある日、素朴な疑問をおでんに投げかける者が一人。

 

「…おでんはそんなにお化けが気になるのかい?」

 

「公方殿?もちろんだ!是非とも見てみたい!この窮屈なワノ国でも退屈しないで済む理由がまだあったのだ!」

 

意外にもジルクであった。

彼からの質問に、これは風向きが変わったと思ったおでん。

彼はここ最近は傳ジローの言葉を素直に守り自重していた。

しかし、そんな時のジルクからの意外な言葉である。

間違いなく何か起こる予感があった。事もなしの日常に安心していた傳ジローと錦えもんは庵の縁側で茶を啜っていた。

安息日とはこのことよ、まぁ…それもそろそろ終わるのだが…。

 

「…そっか。じゃあ僕がついてくよ。傳ジローと錦えもんは疲れてる様子だったし。」

 

どんな風の吹き回しか、決して自分から面倒ごとに首を突っ込む様な性格ではないジルクからの提案におでんは目を丸くしながらも、是非ともと歓迎した。

 

「⁉︎なんと!ならば是非とも!公方殿がいれば千人力!いや万人力だ!しかし何だ、公方殿も気になっていたのではないか!なら最初から言ってくれればよかったのに!」

 

おでんの言葉は間違いではない。確かに傳ジローや錦えもんがいない、ストッパー不在の時に二人で話をつけるというのは少々勘繰らざるにはおられない話だ。

だが、そんな謀が彼にあるはずもない。

 

「別に行きたくないよ、でも二人とも疲れてるし、菊たちもお化けは怖いみたい。だからお化けはいないよーって話をしてあげるためにも確かめようと思って。お疲れの二人が休んでるうちに確かめる方が彼らも心配せずに済むでしょ?」

 

単なる親切心、親心、過保護、優しさ…そんな感じだった。

おでんも特に止める理由がないのでその場で決行は今夜と決まったのであった。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

深夜。

 

一応ほっかぶりを装備したおでんと、兄弟を寝かしつけてから雑木林に一足遅くやってきたジルク。

 

彼らの作戦は雑木林の近くで待ち伏せするという安易なものだったが、結果からすれば間違いではなかった。

 

「キャーーーー!?」

 

「⁉︎女の悲鳴が!」

 

「何かあるみたいだね。行ってみよう、お化けかも知れない。」

 

女のつんざく様な悲鳴が夜空に突き抜けた。

茂みから飛び出すおでんに連れられジルクは冷静に目的の存在を確かめようと彼に追随した。

 

今更なことだが、おでんの言う妖を、モンスターではなくゴースト、お化けだと思っているのはジルクだけである。

 

10秒とかからず悲鳴の発生源へ向かった彼らが目にしたものは獅子舞の如き髪の男が切り取られた一房の毛髪を握る姿と、髪を切り取られ泣きながら向こうへ逃げ去る女の姿であった。

 

「‼︎シマッタ!」

 

突然のほっかぶり二人組に驚く妖こと髪奪り男。

一部始終を見届けたわけではないが、妖騒ぎと一連の髪奪り事件の犯人はこの男に間違いなかった。

あと付け加える情報があるとするならば、それはこの男が髪を奪る変態ということくらいであった。

しかし、この変態の顔に見覚えがある人物がこの場に居た。

 

「あぁ!君は昼間に筆をくれた子じゃないか!」

 

「何ぃ!こいつがか!?」

 

筆をくれた子が凄い変態だったことに驚きを隠せないジルクと、変態と交友があった公方へ驚きを隠せないおでん。

 

しかし先ずは犯人を逮捕するのが先だろうに。

幸い、すぐに気づいたおでんの素早いゲンコツによってジルクへ筆を贈ったという変態髪奪り男は茂みに倒れ込んだ。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

ジルクとおでんに見下ろされ、なぜ髪を奪うのか、あの筆は何なのか、お前は何者なのかなどの質問攻めに合う変態男。

 

彼は最初こそ渋り、焦りと大した百面相であったがそれは演技だったらしく、ジルクからの「あの筆…大丈夫なのかな?」という懇願の混じった苦情が出た後からは素直に答え始めた。

 

「遅ばせながら名を名乗り申す。それがし名をカン十郎と申します。」

 

「それがしが貴方にお助け頂いた一座の一員であることは真です。しかし、それがしはまだまだ未熟の身でして舞台には上がっていませんでした。もしも上がっていれば呆気なく死んでいたでしょうし、それがしの父や母も貴方がお助けくださらなければ今頃骸を焼かれ、灰として畑の肥料にでも撒かれていたでしょう。本当に、心から感謝しております!ありがとうございました!御恩は決して忘れません!!」

 

カン十郎からの感謝の言葉は心からの様である。

対してジルクは助けたつもりではなかったので生返事であったが…カン十郎は嬉しそうだったのでそれでよしと考えて共に喜んだ。

 

「…うーん。助けた覚えはないけれど…よかったね!」

 

「く、公方殿!それも中々に大事かもしれんが、それよりもどうして髪を奪っておったのか聞かねば!」

 

これには流石のおでんも突っ込んだ。この男、ジルクには大層な感謝を示しているが、実際問題には通った人の髪を切り取る変態である。

 

「あぁ、そうだった!…ねぇ、あの筆って大丈夫なの?」

 

ジルクは気づいたが、気づくところが違った。

しかし、おでんもこの質問が終わらなければ髪奪りの理由も聞けまいと黙って耳を傾けた。筆の書き心地に秘密があるのやもという好奇心もあったからだ。

 

「あぁ、こ、これは公方様!あの筆は違うのです!本当です!他人から奪った髪の毛など貴方に差し上げるものに使うわけがありません!あれは、僭越ながらそれがしの髪を使って仕上げた筆にございます!断じて!他人から奪ったものではないと誓えます!!」

 

「何と!よかった、誰かの髪の毛が使われていた訳じゃないんだ!」

 

カン十郎の誓いは本当に違いない。彼曰く問題のない筆だとか。それなら安心だとジルクは胸を撫で下ろした。

がしかし、何故か常識人としてこの場に立つこととなったおでんは気が気ではない。

 

「違う!そこじゃ無い!やはりな!髪を使って筆を作っておったのか!」

 

どうして筆が変態の髪の毛なのに安心した様子なのか、彼には甚だ疑問であったが、この男は他人から奪った毛で筆を作っていることが判明したのだ。そこを問い詰めねばいけないだろう。

 

「えぇ⁉︎そうだったの?」

 

「今更か!この変態の髪で筆が作られておることの方が俺は安心できないが⁉︎」

 

拭難い今更感がおでんを襲う。

彼はジルク相手では埒があかないと筆男に向き直る。

 

「お前、カン十郎と申したな。おい!カン十郎!お前、二度とこんな真似はするなよ!さもなくば貴様を妖だとばかり思い合い見えるのを楽しみにしていた俺のワクワクを返せ!」

 

「…しかし、それでは副業が…」

 

「ふ、副業…そんなことを言われても、日銭稼ぎにと人の髪を奪う様な真似は捨ておけんぞ。」

 

二人はその後もいくつか言葉を交わしたが、やはり髪製の筆は重要な副業らしく、家族のためにも続けたいとのこと。

 

そこでジルクは申し出た。

 

「着いてくるかい?」

 

「えぇ⁉︎公方殿!それは本気か?俺たちとてその日暮らしの様なもんだぞ?」

 

「カン十郎はどうなの?」

 

ジルクの申し出に沈黙したカン十郎。焦るおでん。そして、何故か突然に胃が痛くなり出した庵の留守で寛いでいた錦えもんと傳ジロー。

 

「ここで見えたのも縁でしょう。それがし、その御人にお仕えしようと思いまする。」

 

「だってさおでん。よかったね。」

 

「お、俺にか?…変態と暮らすのか…公方殿もお前も物好きであるな。まぁ、男が決めたことだ!好きにしろ!付いて来たくばそれでよし!」

 

思わぬところで新たな家臣を手に入れたおでん。

夜も更けようというところで、此度の事件もまた一件落着となった。

 

庵に帰った三人。

彼らが傳ジローと錦えもんにこっぴどく勝手はしないでくれと叱られたのは言うまでもない。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

手狭になった庵にそのまま住み続けてもよかったが、毎日毎日おでんの窮屈でござるござるが響くので遂に引っ越しが検討された。

 

引越し先はどこが良いかと悩んだが、ジルクからの霜月はどうだという案が可決された。

 

霜月の現当主の名は霜月康イエであったが、彼はおでんのやんちゃを知りながらも変わらず接してくれる稀有な人物であった。

また、古くから親交のあったジルクに対しては一大名へ以上の敬意を払っていた。仁義に熱く、これぞワノ国の侍という大人物である。

 

彼は白舞の大名として善政を敷いており、領地は栄え民からも愛されていた。将軍スキヤキからの覚えも大変めでたい。そこにドラ息子おでんに変わらぬ態度で一人の男として向き合ってくれる康イエへの感謝があることは確かだが。

 

そんな彼の元へと身を寄せよう、そんな結論になるのは謂わば当然と言えば当然であったかも知れない。

 

その日のうちに荷物をまとめて七人は昼頃には庵を後にした。文字通り山あり谷ありの道のりになるとは思われたが、兄弟達以外は皆健全な大人であるし、兄弟たちはジルクが宝物の様に側に寄り添っているので不安はない。

 

彼らは新居に向けて意気揚々と進むのだった。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

「これはこれは公方様、我が白舞の地にお越しいただき恐悦至極にございます。大したもてなしも出来ませんが、どうかこの地に止まられる間はごゆるりと寛がれますよう。」

 

「ありがとう。ヤスさん久しぶり!」

 

白舞に着いた一行はなんと大名康イエ直々の歓迎を受けることとなった。

これにはおでんも驚いたが、そういえば霜月は公方信仰の強い家柄であったなと納得した。

錦えもんや傳ジローは懐の深い康イエの様子に安心と言った様子であった。

兄弟は長旅で疲れたのか、ジルクの背と腕の中でそれぞれ眠りこけていた。

 

七人は屋敷まで案内され、客間で寛ぐ様に言われ皆同じように畳の上に大の字で寝転ぶのだった。

 

 

康イエに一人呼ばれたおでんと、厠へ行こうとしているところを康イエから連れてこられたジルクが同席し、三人での話が始まった。

 

しかし、おでんが康イエからの陳言に耳を痛める素振りもしないのはいつものことで、互いに怒る事もなく、しかしおでんも康イエの話を無視することなく聞いていた。

 

康イエの話は次にジルクへと移り、彼を歓迎する旨とおでんを頼むと言った趣旨の励ましを貰うこととなった。

なんだかんだと言いつつも康イエはおでんに期待しているし、彼がきっとワノ国を変える男になると信じていた。

そのため、尚のことおでんを多少は御することのできる公方には感謝しかないとのことである。

 

そうこうしているうちにお開きとなったが、襖を開けたおでんの前に青年が倒れ込んできたのだ。

 

襖の前の廊下の床にはおでん達が入ってきた時についた泥の汚れやらが残っており、座敷で話を聞くために下駄を脱ぎ裸足であったおでんの足が汚れると悪いなどと言いながら、「自分を足蹴にして通ってくだせぇ」と汚れへ顔から突っ伏した青年は異様であった。

 

踏みそうになったおでんは、驚きつつも不気味に笑みを浮かべ続けるこいつは誰だと康イエへと聞く。

 

「オジキ!こいつは誰だ!さっきから笑って気持ち悪りぃ!」

 

あんまりな言いようだが、確かに不気味に笑顔で媚び続ける男の姿は不愉快である。これに対して康イエは、おでんの自分への呼び方を咎めつつ説明した。

 

「オジキは止めろと何度も言っただろうが、こいつはこの前拾ったオロチという。今は小間使いをやらせている。」

 

「へ、へぇっ。康イエ様には返しきれねぇ御恩がありまして。誠心誠意仕えさせて頂いておりやすっ。」

 

康イエが拾ったのだからおでんが文句をつける筋合いは無かったが、言い知れない不気味さを感じた彼は足早に充てがわれた客間へと戻っていった。

ジルクは赤子のオロチを知っていたが、大きくなる過程を見れるはずもなかった彼の記憶が目の前の男を黒炭本家の血を引く赤子だったオロチと同一人物だと断定することは無かった。

 

オロチもまた、又聞きに聞いたのみの公方の存在を信じているわけもなく彼らの間の関係性は極めて希薄である。

悲しいかな、ジルクはオロチの楔とは成り得なかったのである。しかし、これに彼が責任を感じる必要はないと言える。専らオロチの内心を埋め尽くすのは、生家への愛着ではなく計り知れない乱暴な権力の渇望であったのだから。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

白舞の地では九里の賊達に現れた首領の存在への懸念が高まっていた。その懸念はワノ国中へ広がるほどであり、おでんの父スキヤキが心を砕くほどに重篤であった。

しかし、無法者の地と化して長い九里をどうこうできるはずもなく、長らく何もしてこなかったのも事実であった。

 

そして、これに対して珍しく反応したのはジルクであった。

彼は大名として育てた地が九里の荒くれ者共によって荒地へと変えられてしまったことをよく覚えていた。

めったに人の上に立つようなことをしないジルクが、彼なりに頭を使いながら治めた土地へ愛着を持たないわけでは無かった。

彼は心に大きなモヤモヤを感じていた。世話になっている霜月の土地への被害は勿論であったが、それ以上に彼の地の荒くれ者達がどうして自分の庵だけには手をつけていなかったのか、ということだ。

 

彼は生来穏やかな生活を好む一方で、決して一つのところにとどまることを良しとはしていなかった。それは今までもこれからもだ。

じっとしていられない性格の彼は、また長く悩むこともら苦手であった。

それは先日の家族一座の劇場での一騒動、おでんと共に妖の正体がカン十郎だと見破った時のことからもよく見て取れる。

 

要するに、彼が行動を起こすまでにそう長い時間は掛からなかったのである。

 

同じくして、おでんもまたじっとしていることが好きでは無かった。

 

先日からどうもソワソワした様子の公方に自分と同じような気の逸りを見出したおでんは、九里への殴り込みは明日と確信した。

 

彼は強く強くこの国の窮屈さから逃れる術を探していた。しかし、どれだけ狭くとも国は国、おでんは何処かでこの国の何一つとして変えることのできない者が海に出ることが、どれだけの驕りであるかと感じていた節があった。

彼は窮屈に飽いていた。しかし、その窮屈から逃れるばかりの自分の姿に何をも思わなかったわけでは無い。

 

彼は九里という地にその答えを見出した。九里は強さだけが支配する地なのだという。強さだけは誰にも勝ると自負するおでんにとって、本当にこの国が窮屈であると確かめ、その上でこの国の窮屈を叩き壊してやろうという気概を示すには、九里の地はもってこいの壁であると言えた。

 

故に、彼はジルクの背中へ声をかけた。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

早朝に出立を決めたジルクの背に声をかけたおでん。

 

「公方殿、彼の地にはアシュラ童子という強者がいると聞く。それに、一人で楽しむには彼の地は盛りが良すぎるだろう。…いや、相手にとって不足なしというのなら何も言うまい。だが!俺も男だ!一度決めたならば黙って実行するのみ!さぁ!九里へ殴り込みと洒落込もう!」

 

「………」

 

ジルクは寝ぼけて厠に起きただけである。

 

彼はおでんから九里殴り込みの一番槍を譲られた。

何一つ言葉を発さぬ内におでんに担がれたジルク。

 

「公方殿は温存されよ!」と獰猛な笑顔のおでんに言われ、彼の肩の上でわけがわからぬままに二度寝を始めたジルクであった。

 

寝巻きのまま肩に担がれ、おでんと絶賛爆睡中のジルクの二人は九里へと向かった。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

「おいどんの名はアシュラ童子!てめぇ、随分と派手においの縄張りを荒らしてくれたなっ!いのぢは無いと覚悟があってのことだな?」

 

九里は二人…というよりおでんによって滅茶滅茶の混乱状態であった。

 

早朝に九里の門を突破した二人。

 

…この突破の際におでんの言っていた一番槍の出番が回ってきたのだが、まだ眠ったままのジルクが起きるはずもなく、そして興奮状態のおでんが彼の安らぎの寝息に気付くわけもなく、眠ったままのジルクは景気づけとばかりにおでんに九里の門へと投げつけられたのだ。

 

眠ったまま恐ろしい勢いで門へと吸い込まれていくように衝突したジルクは、自分の体と門が接触した時に生じた余りの轟音に目を覚ました。

 

周りには激しく世紀末を感じるゴロツキ侍だらけ。

ジルクは何が起こったのか分からなかったが、目の前に自分で破った門に掲げられていたボロボロの九里の看板が落ちてきたことで此処が何処なのか理解した。

理解した彼はどうして自分が九里に居るのかまだ分からなかったが、どうしてここにきたのかは覚えていたため、顔が凶悪なチンピラやらの棘ついた雰囲気など知らぬといった調子でどうして自分の庵だけを傷一つつけずに郷に遺したのか聞き込みをはじめた。

 

全く自然体の彼の言動に毒気を抜かれたゴロツキ達、そこへ猛スピードで斬り込みに来たおでんによって九里への殴り込みは図らずとも大成功となった。

 

おでん以外望んでいなかったのを教えるのは野暮であろう。

 

 

そうして混乱に次ぐ混乱、そして聞き込みが上手くいかず不機嫌のジルクと兎に角斬りまくるおでん。

遠目に見てもヤバい二人組が攻め込んできたという報せはこの地の賊徒をまとめるアシュラ童子の耳にも届いたが、元より何にもら期待せず、ただ破壊と略奪に生きる彼からすれば子分達の被害など知った事ではない。

しかし、縄張りを荒らされてはたまらないとおでんの前に進み出たのであった。

 

二人の高次元戦闘が始まったのと、聞き込みに勤しむジルクの頭にゴロツキの棍棒がクリーンヒットしたのは同時であった。

 

バカンっ!パキャ!

 

ジルクの頭は見事に潰れた。

頭の潰れたジルクは暫しの隙に頭が治ったが、傷が塞がってもなお地に横臥していた。

 

「オラぁ!!っしゃぁ!やってやったぞぉおーーー!侵入者の片方は俺が討ち取った!」

 

彼の頭を砕いた男は雄叫びをあげてジルクの体に近づいていく。

 

「さてさて、こいつは中々上等な寝巻きを着てやがるな、身ぐるみ剥いじまおう!」

 

彼の真横まで来たことで彼の服装に目がついた。彼は霜月家から献じられた上等の絹の寝巻きを身につけていたが、それも今は彼の血に汚れていた。しかし、盗みも平然と行う彼らからすれば血に汚れていようと絹は絹である。

男は何も気にせずジルクの体から寝巻きを剥がそうと手を伸ばし、そしてジルクの格好が寝巻きであることを反芻して、それを怪訝に思った。

 

「寝巻きぃ?コイツ寝巻きで討ち入りって…⁉︎ぐぎゃぁぁ!!」

 

彼が疑問をそのままに口に出している最中、うつ伏せに倒れていたジルクの拳が男の頬へ直撃した。

男は吹き飛んだ先で気を失った。

 

「な、なんだ⁉︎頭をかち割ったはずなのに⁉︎」

 

死んだと思っていた男からの反撃に目を見開く男たち。

そんな男たちなど意識に無いジルクは、意識のないままに体を起こした。

 

「起き上がりやったっ⁉︎ヒィッ!白目を剥いたままこっちに来るゾォぉぉぉぉ!!!」

 

起きて周囲を確認したのも束の間、殴り込んできた時のおでんを超える、気持ち悪さすら覚える突進をかました。

かました先は気の毒なゴロツキたちだった。

 

「ぐはっ!き、気をつけろ!こ、こいつ強ぇぞっ!ヒッヒィぃ!!ごっはぁぁぁ⁉︎」

 

逃げることもなく接近を許した一人が身構えたが、直ぐに武器を殴り飛ばされ半泣きで怯え出し、蹴りが顎に直撃して彼方へと低伸弾道を描いて飛んでいって消えた。

 

「うおぉぉぉ!!ふげっ!?ブクブクブク…」 

 

勇気ある一人が刀を頼りに立ち塞がったが、刹那のうちに腹部に拳がめり込み泡を吹いて昏倒した。

 

「い、一撃で泡ァ吹いちまったぞ!どっどどどっどんな拳だ!!ひぃぃっ!来るなぁっ…グボァ!?」

 

後ろを振り返りあまりの恐ろしさに足がすくんだ一人が張り手で打ちのめされた。周囲にはもう誰もいなくなった。

 

「うわぁッ⁉何てこった!こっちにきやがった!︎」

 

次なる獲物を探して白目を剥いたまま無意識のジルクの快進撃は続いていく。

 

彼の強烈な一撃で次々と地に沈められるゴロツキと彼から逃げるゴロツキ、さらにそれを追うジルクの構図が完成していきアシュラ童子とおでんの激戦とは別の意味で熱狂を産んでいた。

 

大将同士の一騎打ちに声をあげていたゴロツキ達までが逃げ出す始末であった。彼の進撃は徐々に九里の中心へと向かう。

地平線の向こうから装甲戦車の如く全てを蹴散らしながら迫り来るジルク、彼の接近に気付いたおでんとアシュラ童子は一旦停戦の上で息を合わせてあの鬼神を阻むことで合意した。

 

「行くぞ!アシュラ!」

 

敵ながら天晴れな武人であるアシュラに景気付けに声をかけるおでん。

 

「おいに命令するなっ!いくぞぉ!おでんっ!」

 

命令するなと噛みつきつつ全力で相手しても尚力を温存していた底知れぬ強者であるおでんに声をかけるアシュラ。

 

二人の間には目に見えぬ強者同士でしか分かり合えぬ何かが通じたようであった。

 

「任せろっ!!公方殿とは手合わせしたいと思っていたとこだ!さぁいくぞ、公方殿!!」

 

おでんはアシュラからの返事に満足し、すぐ目の前にまで迫った鬼神の如き形相の無意識のジルクへ刀を向けた。彼との手合わせはワノ国の強者達からすれば大きな意味を持つところだ。彼は大剣豪との噂も聞こえる使い手らしい。

 

「「止まれぇぇぇぇっっっ!!!」」

 

二人の声が重なり、真正面からジルクを受けとめる。

 

声と共に振り切られた剛速の複合剣技が高次の連携により絶妙なタイミングでジルクへと叩きつけられた。

 

「「グァぁぁぁ!!!!」」

 

全身を使って二人は、ジルクの体を両断するつもりで腕に力を込める。足が浮く。力が吹き抜けへ打ち当たる。二人の両の腕が振り切られた。

 

 

「ガァァァァァァ!!!」

 

ジルクの雄叫びが空を突く。

空気の幕を突き破って彼の後ろへ飛んでいく有形の斬撃が二つ。斬り放った感触はジルクを両断した感触では無かった。

 

「「え?」」

 

驚く二人は体を宙に浮かせていた。

ゆっくりと視界の彼方から黒い点が飛んでくる。

いや、黒い点は拳であった。徐々に徐々に近づいてくる。

 

「「あっ?」」

 

顔にジルクの拳が到達したのがわかった。

 

「「ぶっばぁぁ!?」」

 

二人は自分よりも遥かに小柄なジルクによって10m以上後方へと跳ね飛ばされ気絶した。

 

手合わせはジルクの一人勝ちである。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

地の果てまで、つまり海岸まで九里のゴロツキ達の頭を一人残らず追い詰めて砂浜にめり込ませてからジルクは眠ってしまった。

 

彼はそれからすぐに意識を取り戻し一足先に九里の地を後にしたのだった。

 

かくして、九里は二人の男の手で徹底的に洗浄されることとなった。ジルクの心中には彼らへ何故庵を遺したのか聞きたいという気持ちはもう無かった。スッキリとした気持ちで、ついでに気絶させたおでんの存在もスッキリ忘れて白舞へと歩いて帰っていった。

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

最近おでんが大名になったらしい。

なんでも九里をとても上手に治めているらしい。

らしいというのはアレから一度も九里へ行っていないからだ。

みんなはイゾウと菊も含めて彼へついて行ってしまった。なんとも寂しいが彼らはサムライになりたいらしい。

 

守りたいものができたと言っていた。僕に止める権利なんてないから寂しいけど二人には頑張れ待ってるよと励ましてから送り出した。やっぱり寂しい。

 

ちなみに僕はまだ白米在住だ。

 

彼からは一緒にこの地を治めようという誘いまで来たのだけれど、面倒なので断った。

 

僕がとても貢献したんだと他の子たちも説得してきたけれど断った。

 

何故かと聞かれても覚えていないとしか答えられないよ。

彼から連れて行ってもらったところまでは記憶があるけれど、その後から何が起こったのかさっぱり覚えていないんだもの。

 

おでんも頭をぶつけた殴られたかしたに違いない。

可哀想に。あんなに頬と鼻を腫らして。

 

それなのに毎日毎日律儀に僕へ九里への移住を勧めてくるんだから立派だなと思う。

 

今日も来るのだろうけれど、正直なところ鬱陶しい。

すまないが僕は外出しよう。

 

そうだなぁ…よし!海辺へ行こう!あいつは大名らしいじゃないか!ならばさぞかし、さぞかし忙しいことだろうさ!

 

僕は釣り竿を握って海へと向かった。僕は魚を釣り上げたことなどないけれど、釣り竿を投げてボーっとしているのが楽しいからそれでいいのだ。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

ワノ国 海辺

 

ジルクはこの日初めて大物を釣った。

 

運が良いと思うことなかれ。

 

彼が釣り上げたのは魚でない。魚ではないこともないのだが、なんとこの日釣り上げたのは魚人であった。

 

何でも海中でピロピロ動いていたのでついつい食いついてしまったとのこと。釣り針をつけていなくて本当によかったと安堵したジルク。だが、浮きなんか咥えさせて申し訳ないと思った彼は今頃自分の家に押しかけて九里へくるように激しく推してくるおでんの姿が脳裏に浮かんだ。

彼は暫く家の中を探した後に人伝にジルクの居場所を聞いて海辺へと来ることだろう。

 

よし!こうしよう。彼は良いことを思いついたと目の前の魚人に寝食を提供することにした。

 

「君達!君たちはこれからくる変な髪型の男の人に着いていくといい。彼はとても不思議な男だけど悪いやつじゃないからね。君たちを釣り上げちゃったせめてものお詫びだけど、どうかな?多分ここだと何かと生活が不便だろう?僕は魚人島によしみが無いわけじゃないからね。それも含めてここは僕のオススメに乗ってみないかい?」

 

「くぼぅ殿〜〜〜!!!そこにおったかぁ〜!」

 

ジルクは駆けてくるおでんを落ち着かせてから新しい客人だよ、僕の代わりだと思って宜しくと言い、先程釣り上げてしまった魚人の親子を託した。

 

魚人の親子は何度も頭を下げつつ、少しの不安と大きな期待に胸を躍らせておでんの後について行った。

 

おでんは不服そうだったが、外の世界からの客人だというジルクの言葉に魚人の親子以上に胸を躍らせて彼ら二人を丁重に城へと招待することとなった。

 

満足そうなおでんの様子に、自分から目を逸らせたぞとジルクも満足であった。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

海辺

 

 

釣りがおでんに有効だと昨日知ったジルクは2日連続で海辺へと釣りに来ていた。

彼は今日も何か客人が釣れるなんては考えていなかったが、魚でも釣れればおでんの具だと言って持って帰らせようと来たのであった。

 

そのため、今日はしっかりと餌と針とをつけている。

自分が怪我をしないようにと慎重に針をつけ終えた彼は大きく釣り竿を振りかぶり、なるべく遠くへ着水するように振った。

 

 

1時間の格闘の末、彼は生まれて二度目の獲物を釣り上げた。

 

今度は本当に魚だった。やったぞコレでおでんに帰ってもらう理由ができたと喜んだジルクは早速次の獲物を求めて釣り竿を握り直した。

 

ぐぎゅるぅぅぅぅ…

 

…握り直したところでそんな音が響いた。

ジルクの腹の虫ではない。では誰が飼っている虫の音だろうか?ジルクは周囲へ目を向ける。

 

 

ジルクの釣り上げた魚を物欲しそうに見つめている服を着た猫と犬と目があった。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

パチパチと昼間から焚き火に励むのはジルクと犬と猫。

 

あのあとどうしても厳しく出れなかったジルクは、おでんの到着まで時間がまだあるからと仕方なく犬と猫に釣った大物をご馳走することにしたのだ。

 

「旦那にゃぁ魚をご馳走していただけるゆぅことで感謝してもしきれんぜよ!」

 

「こらっ!ネコ、行儀良くするんだぞ。訛りだとちゃんと説明しないと。僕…私からも心から感謝を!ありがとうございます!」

 

彼らは変な訛りのある猫と、賢そうな犬のミンク族だった。彼らの故郷を知っているジルクは彼らに偏見などない。

 

寧ろ世界で一番可愛い種族のひとつだと思っている。

言葉が通じるのは知っていたから彼らに魚をご馳走するからと火を起こすのを手伝ってもらったのである。

 

火を囲みながらお腹を鳴らす猫と犬。魚を食べながらの方が話も聞けるだろうと魚を豪快に手頃な木の枝を洗ったものに刺して焼く。

 

魚の脂がいい匂いを放ち、猫と犬の目がキラキラと光った。

 

「まだかのう?もういいように見えるがの〜」

 

「まだかな…まだかな…」

 

よしもういいかな、というジルクの言葉に我慢できずに二人は涎を垂らしていた。

 

「ゴクッ」

 

「ネコマムシ、ふーふーしてからだぞ!お前は猫舌なの忘れるなよ!火傷しちゃうぞ!」

 

ジルクは切り分けるまで我慢できそうになかった二人へ焼けた大きな魚を丸々そのまま手渡した。

 

「ニャァァア!あ、あっついにゃがぁぁ!」

 

「ほら〜!だから気をつけろって言ったんだ!…ふーふーふー、ハムっ…むくむくっ…美味しいぞ!ネコ!」

 

「ふーふー!ハグっ…〜〜ン!幸せじゃあ!あ、あづぅぅ!やっぱりあづぃんじゃ!」

 

焼いた魚にかぶりついてすぐに猫は口を離した。猫は案の定猫舌であった。犬もふーふーと息をかけながらも食べ進めているようだ。

 

熱さにびっくりしながらも猫も食べ始めた。一口目からとても幸せそうに顔を綻ばせていた。

魚を食べ終わるまで彼らを見つめていたジルクはおでんへの言い訳のタネが消えたことに気づいていない。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

言い訳のタネが無くなった彼は予想を裏切ることなく、いつもの時間に海辺へ到着した今日こそはと意気込むおでんによって遂に九里へと連行されることとなった。

 

無論、彼から魚をご馳走してもらった犬と猫も一緒である。

おでんも外界からの客は大歓迎であった。彼らを養うほど金はなかったが。

 

ジルクは結局おでん城の一室を与えられた。おでんの治める地はずいぶん見ない間に栄えていた。

彼の知る九里とは全く別物であった。しかし、それを驕ることなく民からもバカ殿おでん様と愛されるおでんの大器は変わっていなかったようであった。

ジルクは嫌々としながらも、何処かおでんの姿を見れたことにホッとしていた。

 

おでん城でのもてなしは大名と言う割には野宿時代や庵時代と大差のない豪快で野生味の効いたものだったが、もとよりマナーなど大して気にしないものしかいないのだからジルクも寧ろ居心地良く感じていた。

 

もてなしの後は一応は大名だからとおでんの家臣達を紹介されたジルク。彼の目には見違えて立派になった気がする錦えもんや傳ジロー、男らしく気がざりつつも素の良さが隠せていないイゾウと菊の丞、変態筆男の名に恥じぬふさふさ髪のカン十郎、身に覚えのない角角した顔の忍者、先日の魚人の親子の子供の方、そして何故か着物に着替えた犬と猫がいた。

 

ジルクは何か面白いことがあったわけでもないのに面白くて笑ってしまった。

 

何故笑うのだ〜!と声をあげるおでん。しかしジルクは気持ちいい程の笑顔で言った。

 

「不思議な子達ばかりが良く集まったもんだね。」と。

 

また、こうも言った。

 

 

「君は将来は将軍になるんだろうね、なら此れくらいに個性があった方が退屈しないよ。将軍は退屈だからね。」

 

「それに、海に出るにしても面白い子が側にいてくれた方がずっと楽しいはずさ!」

 

 

気がつけばおでんとの出会いからも19年が経っていた。

おでんの持ってくる厄介には困ったものだけど、たしかにジルクは退屈した覚えがなかった。

 

ジルクは確信していた。

 

きっと彼は海に出るだろう、と。

 

 

そしてその言葉の通りに彼は海に出た。

 

 

おでんの冒険が始まった頃、おでん達の知らぬ間にワノ国に忍び寄る魔の手は急速にその身を蝕んでいく。

 

ジルクはおでんと家臣達が単なる家臣主人以上の絆に結ばれていることに安心した。

だが、彼は胸に蔓延りだす得体の知れない不安を忘れることができないでいた。

 

嵐はもうすぐ側にまで近づいていた。

 

 

〜〜〜〜〜

 

オマケR18

 

 

 

花の都

 

 

「きゃ〜!!公方様の色好き〜〜!」

 

「良いではないか〜」

 

いやらしさの含まれていない声でジルクが次々に遊女達の帯を引き抜いていく。

 

ここは都一の遊郭、そこの特上の座敷である。

 

広い座敷の上には所狭しと布団が敷かれている。これなら転んでも怪我はないから安心して帯を引ける。

 

クルクルと我先に回って重い着物を脱ぎ落としていく遊女達。下には薄い襯のみ。彼女達は湯上がりのように色づいた頬を綻ばせつつ、何もせずとも火照った体を次々にジルクの身体へピタリと親しませてゆく。

 

彼女達は今日のために一年頑張ってきたと言っても過言ではなかった。すでにかなりお楽しみの真っ最中である座敷へ、着付けに遅れた新人とやらが到着したようである。

ジルクはいつもすぐ脱ぐから気付けなくてもいいのにと思うのだが、彼女達からすれば帯で遊ぶ彼の無邪気な表情が堪らなく好きらしく、そのためだけに着込んでくるのだと言うのは遊女達の間だけの了解であった。

 

「お待たせしました公方様。本日は宜しくお願いしますね?」

 

襖から顔を出したのはどこか見覚えのある女だった。だが髪がワノ国の独特なそれであるから、多分別人だろう。

 

「ささ!お待たせいたしました!今日が初めてですが見ての通りの器量よし、新入りのおロビで御座います!」

 

遊郭と、更には芸者を育てる仕事にも携わっている熟練の老女に紹介された彼女は改めてしずしずとお辞儀した。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

今日は近々迫った火祭りに際した行事がワノ国中で催されている。

この遊郭でも恒例の一大行事が催されていた。その名も「遊郭公方のちょっと危ない火祭り」である。

無論、命名者は都の遊郭におわす遊女様方である。

 

どんな祭りかと聞かれれば、一見もの凄くジルクが豪遊するように見えるが実は逆である。

日々の遊郭での生活で鈍った身体や錆びつきそうな心を、公方様の素敵な逸物と無邪気な愛情で癒して貰いたい遊女達による性の大豪遊であった。

 

火祭りの前となると上納品の準備に忙しくて男達の客足がめっきり減ってくる。この期間に彼女達が催すのがこの祭りである。

 

ジルクはワノ国に滞在する際には鬼ヶ島か花の都、もしくはおでん城にしか基本いないので、彼女達は鬼ヶ島なら現地の女仲間に頼み、花の都なら自ら迎えに行き、おでん城ならおこぼれ町の彼の恋人という人物を介してジルクを招くのだ。

 

そんな苦労の末の男との逢瀬、しかしこの男には彼女達がこれだけの無理をして求めるだけの価値がある。

 

男が向けてくる愛情は疑えないくらいに本物だし、他の誰より性に長けているのだ。見た目も良く、中身もよく、付いているものも良い。

ついでに程よく世間知らずで汚れを知らないのも彼女達には高ポイントだった。

 

 

最後におロビの帯に手をかけようとした彼に、身体に抱きつく胸の大きな遊女の一人が言った。

 

「公方様ぁ、その子まだまだ新入りなの…だからね、私達とお手本がどんなものなのか教えてあげましょ?ね?」

 

指で男の胸に円を書きながら彼女はそう言うのだから、男は素直にそうしようと肯くと、まずは君からと彼女に抱きついた。

 

おロビは誰も見ていないところでかなり不服そうに無表情になった。

 

「ささ、公方様いらして下さいな?」

 

女に抱きつく男は心底幸せそうに満面の笑みで彼女の胸に顔を埋める。

その男の姿に心が焼けつく女が続出する中、おロビは歯噛みした。

 

女の胸に満足した男は手を胸に当ててその感触を味わい始めた。女の切なげな声が響き出した座敷。心なしか周囲の女達の手が各々の股に埋められ、そこから甘酸っぱい香りが立ち込め始めていた。

 

何十分と過ぎて水気のある音が響き始めた頃、男の右手は女の胸を揉みしだき、口は柔肉を頬張りながら舌で乳首を舐りあげていた。

 

更に十分近くも味わい尽くすような勢いで口全体を使って胸を責められた女の体は時折跳ねるように絶頂しつつ、濡れた秘所に差し向けられている怒張に対して怯えた声に誘うような色を絡ませながら強い雄を求める心の内を男に囁く。

 

男は何も言わずに目の色をギラリと光らせた。腰の衣類をひったくりその腰についた凶器を色付いた空気をかき混ぜるように誇示した。

 

余りにも雄々しく、長大で硬質かつ色の綺麗なままのその凶器を前に女は焦ったように声を上げる。

 

早くして…欲しい…欲しいの…と。

 

女の要望を聞いた男はその凶器の胎動の激しさに似合わぬ紳士的な勢いで女の肉の奥へ侵入した。

 

単調な速さの腰振りで単調な攻めが続いたが、それでも女は狂おしい快感に打ち震えていた。

 

正常位で交わる2人の姿に周囲は釘付けとなっていたが手だけは股の秘所をこれでもかと自分で濡れ溶かしていた。

 

暫しの間女の嬌声と男の荒い息遣いが一定のリズムで繰り返されたが、何を思ったか女は嬌声を震わせながらも男の頭を胸に抱えようとした。すると男はまるで眠たくなったように従順に女に頭を預けた。

 

大きな胸は男が舐めしゃぶり吸ったせいで赤い斑紋と唾液濡れであったがそんなことなど構いなしに男は頭を埋める。

 

そして、胸に頭を埋めた男はまるで中身が切り替わったように腰に緩急をつけて攻めに攻め始めたのだ。

 

安心し切った男は眠たくなる。ジルクは顕著であるが、その間にも股のものは健在である。眠たくなった彼は日頃抑え込まれている欲を堰き止めることができず、深層の本性を晒すのだ。

 

その結果は女の騒々しいほどの喘ぎと、それを招いた腹が内側から解されるような強烈な肉鉄槌の往復の応酬である。

 

一際大きな快楽の叫びが座敷に響くと、女はぐたりと気をやった。まだ腰を振ろうとする男に気づいた周囲から、我こそはと二番手を狙う女達が男に群がる。

 

さりげなく混ざっていたおロビだったが、残念ながら彼女には声がかからなかった。

悔しがっていた彼女だが、手を引かれて前戯もなしにバツンバツンと凶悪に腰を叩きつけられ始めた先輩遊女の狂いように少し引いて気を取り直したのだった。

 

その後も三番手、四番手、五番手と続いていき、早いものでは開始5分で足腰の立たないまでに膣を屈服させられた女が次々に布団の上に斃れていった。

 

彼女達は体も顔も汁という汁まみれであったが顔だけは心の底から大満足を表現した幸せそうな表情であった。

 

呆れるほど萎えない男はまた1人幸せそうに気絶した女を生産すると、次の女に腰を叩きつけはじめた。

 

おロビは斃れた先輩遊女を介抱するふりをしてこそりと男から愛されるのはどんな具合なのか聞き出そうと聞き込みを始めていた。

 

「公方様に愛されるとどんな気持ちになるのかしら?」

 

「えへへ…な、何というかね、全力で愛されてるなぁって…なるんだ…あ、でも、不思議なことに、ね、公方さまの逸物ってね、本当に大きいのに驚くほどピッタリしてみっちりしてて…とにかく体の中の隙間を埋めてくれるの…」

 

女は疲れたから寝るわと言うとすぐに気絶したように眠りについた。

 

「す、すごいわ……気を失うとあんな風になるのね…」

 

おロビの正体は言わずもがな、ワノ国に潜伏中の麦わらの一味で考古学者をしているニコ・ロビンその人である。

 

しかし何故彼女がここに?と言う疑問を答える前に、彼女の肩へ遂にジルクの手がかかったようである。

 

「く、公方様⁉︎っ⁉︎」

 

ちゅう〜、と吸引音がつくような強目の口付けにおロビは目を白黒させた。

 

常に冷静な彼女だが、その目には先程までの怜悧な光はない。

彼女も久しぶりの想い人との逢瀬に身体が思いの外昂りすぎていたのだ。

すっかり蕩けていた体は強い力に惹かれてその身を委ねてしまった。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

「あっ…あっ…アンっはっ激しいわ…そう、もっと優しくして…理性がないっ、のにっンッ、アナタは、はっオっンっ、アナタのままなのね!っアンっまた、激しくなるっの?ンッ!」

 

おロビに回ってきたのは最後だったらしく、2人は至福に顔を歪めた遊女達がそこかしこに倒れ伏す只中で堂々と交わっていた。

 

一度気をやった娘や、クタクタになるまで突かれた彼女らが目を覚ますのはまだまだ後になるだろう。それまではおロビが独占できる、それに気づいた彼女は味わえるだけの彼を味わおうと先程から喘ぎの合間に彼への要望を織り交ぜていた。

 

強く抱き締めて、優しくして、耳を甘やかして…およそいつもの彼女を知る者達からすれば決して彼女らしくはないと言って信じることはないだろう。

 

しかし、幼い頃から指名手配書を発行された彼女のこれまでの人生は甘えさせてくれる者のいない過酷なものだっただけであり、決して彼女が愛や恋や甘えたい気持ちのないタンパクな女であると決まったわけではないのだ。

 

彼女は幼い頃から自分を偽り他人を偽り生き延びることが必要だったために感情の放出が苦手なだけなのだ。

そんな彼女がなりふり構わずに全て曝け出し、全てを預けて甘え切れるのは今自分に体で愛を表現してくれている男だけなのだ。単にそれだけである。

 

だが、それだけ故に彼女は全力で、ここぞとばかりに男へ甘える。

おロビはその持ち前の観察眼でまだ彼が一度も射精していないのに気づいている。

そして同時に、今彼女の臀部に突き付けられている肉棒の切先が膨らみ始めているのにも気付いている。

 

「ッい、いいわ!ねぇ、好きにっ…アナタの好きにしてっ!受け入れるわッ!アナタッ…がッ…そうしてくれた…よッうにッ!!アっ…ァアアッ!それ、で…いいのッ!アンッ…」

 

彼女の言葉にしては理性を欠いた印象を受けるが、今の彼女には理性は必要ない。誰かに気を配ったり、一味に襲いくる脅威へ警戒を厳とすることもしなくていい。

 

今の彼女は1人の女に過ぎない。そして、彼女の女は漏れなくこの男に捧げられている。後は味わい尽くされるのを受け入れるだけだ。

 

先程の少しだけ優しい腰つきは一変した。

男は2メートルほどの大きさに身体を膨張させると、彼女の身体を押し倒して上に乗り、仰向けの彼女を彼女より大きくなった身体で覆い隠した。

 

他人から見れば男に襲われる女の構図だが、おロビには愛する男が全ての危険から彼女を護らんとしているように見えた。

 

心と子宮が彼女の脳内に激しい快感を解き放つ。彼女は男からの加護に忘れられない愛楽を感じて仕方なかった。

 

だが、今この場には敵などいない。どうかアナタの欲を私にぶつけて?アナタの弱さも強さも全部私に押し付けて。強引だけど不器用な優しさで私を躾けて?

 

彼女は心の中で強く強く男に語りかける。語りかけながら彼女は男の虚な目と、その潤み切り蕩け切った瞳を重ね合わせて艶やかな笑みを浮かべた。彼女の笑みが男を惑わしたかのように、女の唇は男に食らいつかれるように塞がれた。

 

彼女のくぐもった幸せの悲鳴が男と繋がった口の中であちこちに火花を散らす。

彼女の悲鳴と共に一時も止まらずに中を掻き混ぜていた男の肉棒がさらに膨らんだ。

 

キュウキュウと締め付ける彼女の腹を種付けに最適という判断を下した男の本能は生物としての責務を達成しようと決めた。

 

今日一番の激しさと複雑な緩急で深くまで突き込む、女を快楽で殺すためだけの動きに切り替わると、おロビは正気を失ったように野太く下品な声で鳴くだけになってしまったが、彼女の足が男の腰から離れることはなく、粘り強く男へ自分から口付けては、そのために激しさを増す性撃に夥しい絶頂を覚えていた。

 

彼女の体力は限界に近づき、まぶたは重くなる。だが体は快感の氾濫に危険信号を発している。

 

廃人になるかならないかの瀬戸際へ彼女が立った瞬間、男は一際彼女の身体を強く抱きしめて腰を奥の奥に突き入れた。

 

肉棒の先端が彼女の子宮の天井を数センチ以上も押し上げたことで彼女の意識は途切れた。

 

途切れ薄れつつある彼女は意識が閉じ切る間際に音が体全体に響くような勢いで腹へ流し込まれる精液の奔流を感じていた。

 

彼女もまた幸福の相を顔に溢れさせて眠った。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

おロビがダウンしたことでジルクの相手をするものが遂にいなくなってしまった。数十人は下らない彼女らが全員伸びてしまったのだ、あとに残された彼には自分を慰める方法を探す必要があった。

 

遊郭は此処だけではない。そして、花の都はワノ国で一番遊郭の数が多い。

 

ジルクは天下一の遊郭通でもある。

 

彼は服も着ずに腰に最上大業物一振りで都全ての遊郭へ向けて足を踏み出した。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

アンッアンッく、公方様〜ッアン!

 

イヤ〜ッしゅ…しゅごぉぃぃッ!ちゅよいッ〜イッグっ!

 

あ、だめ!だめですって…あっ…ごめんなさいお客様!す、すぐ戻りましゅぅぅってふみゅっ⁉︎ちゅっぷちゅっぷッ〜〜!!ごめんなしゃひぃっ!やっやっぱりむりぃぃ!?

 

あ、公方様ぁ…で、ですよね〜!キャッ!ア〜レ〜!アンっ!きが早ぃ〜!

 

アレ⁉︎あの噂は本当だったの…キャァァァ!大きい大きい!む、むりぃっ!?は、入っちゃったぁぁっお"っ!?おふぅッ!?き、気もちぃぃよぉッ〜!?

 

 

…………

 

 

その後も彼は都中の遊郭を梯子しまくり、総勢数千人近くの遊女に止まらず、道端で会った美女にまで食指を…食珍を伸ばして問答無用で服を剥くとその場で…は流石に本能が咎めて茂みに連れ込んでから女の気が飛ぶまで快楽を与え続けてを繰り返した。

 

将軍オロチは町人達…主に男…からの懇願にいつもの無関心だけではない、明らかに御免被るという様子で頑なに対処の命令発布を拒絶した。

 

結局囲っていた遊女を取られたと怒ったカイドウの部下やオロチの部下達を始めとした男達が徒党を組んでジルクの前に立ち塞がったのだが、彼は百獣海賊団の真打の男から奪ったと言う遊女に腰を押しつけて精を植えつつ…女は女で彼を幸せそうに迎え入れつつ…この反抗勢力を片手間に殲滅。

 

ボコボコに殴られた真打達は鬼ヶ島に直通で事態を報告。

事の大きさは遊郭全体から都全体へ、都全体から遂にワノ国全体にまで波及していった。

 

既に都の遊郭は文字通り一人残らず全店が一週間の休業。理由は遊女全員が幸せそうな笑顔なのだが腰痛で立てないとのこと。

 

また、都中の許嫁の居た美女という美女が次々に婚約者と離縁し始めたので大騒動となった。

 

結局男の肩身の狭い家も、亭主関白の色が強い家も隔てなく彼女達の独り立ちを止められなかった。

 

まっったくの偶然ではあるが、ワノ国はジルクのナニによって世界一女性の社会進出が活発な国に成長したのだがそれはまた別のお話。

 

かくして隠していられない程の問題を抱えて都からの応援と対処を求める声にカイドウも無視はできず、遂に彼ら百獣海賊団が誇る大戦力「飛び六胞」の華二輪が派遣されることとなった。

 

…結果的にはこの華二輪のお陰で都でのジルクの暴走は終幕を迎えた。

 

人々は圧政に苦しんでいたが、この時ばかりは男を中心に民は敵の幹部に深い感謝をしたとかしないとか…。

 

何はともあれ総被害者数三千余人プラス二人(任意も含む)となった「公方様の御性乱」は都の伝説として後世まで語り継がれることとなった。

 

人々はこの後、元服前の美少年と嫁入り前の美女が悪さをするたびに「公方様が来るぞ」と脅かすようになったと言うから、彼のしでかした事の大きさがよくわかる。

 

目覚めた時に枕元にいてくれなかったとおロビが拗ねたのはここだけの話である。

 

めでたしめでたしとさ。

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