プロローグ
ブリーフ一丁の男が縛り座らされていた。
ヘッドから流れる音声に悶え続ける。
『今まで我慢してきたけど、さすがにもう限界だ……』
『あのな。いいか? 迷惑なんだよ。その紙とえんぴつ。まずその紙とえんぴつをしまえ。それから
その水──机の上のその変な水もしまえ』
『授業中にラクガキなんかしてるのがおかしいっていってんだ…─少しはまわりの迷惑も考えろ。わかったか。……林もわかったのか。きいてるか、おーい。
“き、こ、え、て、ま、す、か”』
「
赤いゴーグルを光らせるガスマスクの人物は
吐き捨てるよう呟いた。
ブルーシートが敷かれた床に並べる
ピアス・ニードル、ガスバーナー、ニッパー。
「なにするつもりだと思う?」笛のように
透き通る声で問いかけた。目元に涙をためる
男に呆れたみたくため息つき、
「まずはバーナーで両目を焼く。お前は
おねえちゃんのことをちゃんと見てないから。
次にピアス・ニードル二つで鼓膜を破る。
おねえちゃんの話を聞かないなら
必要ないっしょ? 残ったニッパーは……
言わずもがな」
男は「こんなことしても……」とかすれる声で
何か言いかけたが、意に介さず、ガスマスクは
点火したバーナーの炎を両目に押しつける。
焼け潰れた眼には興味をみせず
「次は耳やな」とふたつのピアス・ニードルを
両手に持ち、耳へゆっくり先端を挿し込む。
「みてて──」のコ……レインは
わたしを喜ばせるため、満月の夜になると
雨をふらせてくれる。そのなかで聞いたことも
海外のロックバンドの歌を熱唱する。
「奇跡は望むちゃうねん。起こせばエエんや」
父と母に何度もそう言い続けた。
「おまえの場合は奇跡つーか、超能力だろ」
隣でレインの幼なじみ、丑嶋さんが
どやしつける。背中に飛び乗り
眉をひそめつつも抱きあげ、まわす。
丑嶋さんが笑う瞬間を見たことないけど
「スゲー不気味なやつとゴリラの微笑み似
みたいなのがある」らしい。レインとは
丑嶋さんが中学時代に出逢い、いっしょに
“お礼参り”をしたのが始まり。
二人の関係は兄妹みたいで、姉のまーちゃんと
離れて暮らすわたしは少しだけ羨ましく思う。
「おねえちゃん~」
どうして、このコはわたしになつくのだろう。
父と母も『レイン様』と呼び、信奉し始めた。
緑色のジャージ姿で濡れたタオル巻かなくなり
〈金星のめぐみ〉水も捨て、父は紹介された仕事を
辞めかつて務めていた損害保険会社へ復職。
保険会社に戻れたのはレインが裏で根回した
からみたい。
集会にも参加しなくなり完全に金星のめぐみとは
関係が断絶した。
「何が金星のめぐみじゃ。ただの
そう口癖みたいに言ってる。父と母は
洗脳されていたんだろうか。
『総合病院まえで全裸の中学校教師、
南準人さん(34)発見される。目、鼓膜、喉に
重傷。何者かによる犯行か』
「天罰やろ。おねえちゃんに罵声をあびせた
報いじゃ」
「ど、どうかな~」
三ヶ月間ほど行方不明になり見つかった
南先生。好きだったけど、両親が
やってた奇行を原因とする出来事で
わたしは嫌われてしまった。
「善人ぶってるヤツつーのは、大体は
周りから評判よくても内面はドブネズミと
変わらへんよ。一目みりゃすぐわかるべ」
レインは度々、南先生に注意するよう
遠回しに言ってきた。その通りだったかも。
でも……
「何が食いてェーの?」
「業務用アイスクリーム」
「腹下すから普通のヤツにしとけよ」
「ふぇーへい」
レインが、南先生に何かしたんじゃないかと
思ってしまうのは考えすぎだろう。