『二匹いるな』なるほど。どうしようないヤツだ。
誰に襲われてもムリがない……
『みんなが迷惑してる。その紙とえんぴつ……
まずその紙とえんぴつをしまってくれ。それから
その水。机の上のその変な水もしまってほしい」
微妙に実際の言葉と差異がある。こいつの
なかでは優しく言ったつもりなのか。
外ヅラだけ取り繕う愚者だが、目も視えず
耳も聞こえず、言葉すらもしゃべれなくなった。
さらには全身……男性器の刺青を彫られ
録音もネット・タトゥーとしてWEB上に
残り続ける。
生きてる価値はないが、死んだも同じか。
だが──
「“南準人さんですよね”」
『誰だ?』
「“私はマドモアゼル。
適当に自己紹介しとくか。
『なんで……こんな目に』自業自得だ馬鹿め。
「“犯人逮捕にご協力ください。どんな事でも
構いませんから”」
『幼い……女の子』なんだと。
『幼い十歳ほどの少女の声してた。赤い目の
ガスマスク姿で、Maddikeとか』
〈Maddike〉か、デンマーク語でたしか
ウジ虫って意味だったな。
可能性が確信へ変わった。
「“ご協力、感謝いたします”」
「さよなら南準人」
『えっ?』
口に赤い錠剤をねじ込み、イヤホンを耳元に
差した。鼓膜がつぶれたが問題ない。
ひろゆきくんが死んだ。いや、正確には殺された
と言ったほうがいいかも。
『おれとおまえ、将来結婚すんだよ』わたしに
付きまとい倉庫や路地裏に連れ込んだ時も
似たような事をささやき続けた。きっとわたしと
両手が金星のめぐみ抜けたのに、そんなのお構いなく
ひろゆきくんは何度も、電話をしてきた。
『テメー……もしも次、電話かけたら
牧場の豚といっしょに飼うぞ』
『自分の脂肪、削いでハンバーグ作ったら
旨そうやな』
『そんな椅子にケツを縫われて、死ぬまで
パスタ食わされたいん?』
耳が優れてるレインが、わたしの手を受話器
をかすめとり、ひろゆきくんを強く脅すと
すぐ切られた。
心配したレインが『若い衆』と呼ぶ芳則さんや
マサルさんを使い、学校への送り迎えまで
見守ってくれるようになった。
二回目の時はたまたま土曜で
レインと買い物行ってる日だった。
ショッピング・モールをまわってる最中に
無理やり女子トイレへ連れ込まれた。
個室のなかで、わたしの口を押さえて
「おれのマグナムで、一生離れられないように
してやる」ひろゆきくんはそう言いニタリと笑う。
似合わないワンピースのスカートから
茶色の染みがついたパンツをたっぷり肉のついた
脚からおろそうとするが、
「なにしとんじゃああああっ!!!!」個室のドアを
蹴破りレインが金槌を振り上げ、現れた。
ひろゆきくんの頭をわしづかみ、何度も
金槌で肉を蓄えた頬を打ち、倒れたら
広いこめかみに蹴りを入れた。
馬乗りで警備員さんが駆けつけるまで
レインは背中を殴り続けていた。
この時、わたしは震えて縮こまるしか
できなかった。
「おまえ……次、みかけたらミンチに
したるからな」レインは、連行される
ひろゆきくんにそう警告していた。
ミンチじゃないけど、ある意味で
有言実行した。
この時ほどにレインが心強く思った
ことはないだろう。
あれから数ヶ月経って……ひろゆきくんは
殺された。偶然じゃない、たぶんレインが
わたしの為にひろゆきくんを始末したんだ。
確信はあるけど、どうしても後ろめたさと
今の関係が壊れて……姉のまーちゃんみたいに
行方をくらますんじゃないかと思って
口に出せなかった。
なんで、ひろゆきくんはワンピース
着たんでしょうね?