妖精さんのいるリフレ 作:七花
そんなわけで俺は涼音ちゃんを伴って奥の個室へ……。
と思ったが、途中で振り向いた。
「あの、彩音ちゃん?」
「あら、なにかしら?」
しらっとした表情で俺たちの真後ろをついてきている彩音ちゃん。
「なんでついてきてるの」
「そんなの決まってるじゃない。見守るためよ」
おいおい、彩音ちゃんに見守られた状態でリフレを受けなきゃならないのか?
それは落ち着かないなぁ。
とか思っていると、涼音ちゃんがほっぺを膨らませた。
「もーっ、涼音、一人でできるもんっ」
「で、でも」
「彩音ちゃんはあっち行っててー」
ぐぃーと押しやられてしまった彩音ちゃん。
涼音ちゃんには弱いみたいで素直に従った。
向こうから心配そうに叫んでたけど。
「ゆ、祐一さん。くれぐれも涼音が嫌がることはしないでねー!」
わかってますよ。
※
ようやく二人きりになって個室の扉を開ける。
「おぉ」
思わず感嘆の声をあげてしまった。
こういうリフレ店って、カーテン一枚で仕切られただけの簡易な部屋だと思っていたんだけど。
普通の自室みたいなちゃんとした部屋だ。
ちょっとしたインテリアとか加湿器とかもあって、俺の1人暮らしのアパートよりも清潔感がある。
ベッドも、医療用みたいなのじゃなくって普通のだった。
「えへん」
涼音ちゃんがちっちゃな胸を張った。
「えっとね、〝当店では、お客様に、まるで自分の部屋に帰宅したような安らぎを感じていただきたいと思っています〟なの」
頑張って覚えたのかな?
お店のうたい文句っぽいのを暗唱した。
おぉぉ、えらいぞ。
思わず頭をなでてしまおう俺。
「ひゃんっ」
涼音ちゃんが一瞬びっくりした声を上げる。
し、しまった。
思わず「えらいえらい」してしまった。
お、おさわりはNGだったか?
と思いきや、涼音ちゃんは、気持ちよさそうに目を細めた。
「んっ」
もっと触ってほしいとばかりに、小さなつむじを見せつけてくる。
俺は、涼音ちゃんのサラサラの髪をいっぱい撫でてあげた。
「はっ! す、涼音がおにーちゃんにしてあげるんだった!」
はたと気が付いたというように涼音ちゃんが声を上げた。
「ご、ごめんなさい」
「大丈夫だよ」
俺は苦笑した。
なんか、妹ができたような気分になってくる。
「えっと、えっと、んーと」
涼音ちゃんがなにやら、頭をフリフリしている。
思案中なのかな??
少し長めの髪の毛先がゆらゆら揺れて可愛い。
「あっ! まずは!」
おもいついた!とばかりに笑顔になる。
「おにーちゃんは、上着を脱いで、ベッドに寝てください」
「おっけー」
俺はジャケットを脱ぐ。
すると涼音ちゃんが、ちっちゃなおててでそれを受け取ってくれた。
「ふわぁ、お洋服、おっきぃね」
「ま、大人だからね」
一生懸命ハンガーにかけてくれた。
「あ! ベッドにはね、えっとね、あおむけでお願いします!」
言ってから、首をかしげる。
「あれ? 違ったかな? あおむけ? うつぶせ?」
あらら、まだ覚えきれていないのか。
ここは助け舟を出してあげよう。
「涼音ちゃん、俺が上を向くほうがいい? それとも下?」
「えっとねぇ、上!」
「じゃ、あおむけだね」
俺はベッドに寝そべった。
知らない部屋のベッドに横になるってなんだか新鮮だ。
「おにーちゃん、ありがとう」
微笑みながら、涼音ちゃんがホットタオルを持ってきてくれた。
なんだかいい匂いがする。
心が落ち着くような。
ラベンダーの香りだろうか。
「えっと、まずは、このタオルを、目のところに置きます」
そっと、ちっちゃな手でラベンダーの香りのするタオルを目元にかぶせてくれる。
「おにーちゃん、熱くない?」
「うん、大丈夫だよ」
「よかった。それじゃ、始めるね」
もぞもぞと音がして、涼音ちゃんが、俺の足元に移動したみたいだ。
「まずは、フットリフレからなの」
暖かい指先が、俺の足の裏に触れた。
おぉぉ、足の裏なんて普段、他人に触られることがないから、不思議な気分だ。
「いたくないですか?」
ちっちゃな手でフニフニしながら訊いてくる。
痛いわけなんてない。
指圧という意味では子供の力なので弱いけど、これはこれで至福の癒しだ。
「気持ちいいよ」
俺が答えると、涼音ちゃんがほっとした声をあげた。
「よかった。涼音、初めてだから、ちょっと自信がないの」
そういうと、涼音ちゃんはまだお客をとったことがないんだよな。
あまり立ち入ったっことを訊いていいのかわからないんだけど、ちょっと訊いてみようか。
「涼音ちゃんは今は、研修期間なの?」
「うーん、ちょっと違うかも」
「違うんだ」
「うん」
そこで、会話が途切れる。
しばらくは、涼音ちゃんが俺の足を触るフニフニとした音だけが響いた。
やがて、涼音ちゃんが言葉を続けた。
「あのね、涼音、ちょっぴり、人見知りだから」
「そうなの?」
「うん。お友達とか、作るのも、ちょっと、苦手。おっきな男の人も、ちょっと、怖いの」
おっきな男の人……大人のことかな?
「……そのっ、ほんとは涼音、ちょっと前から、お客様取らなきゃメって言われてたの。でも、その。怖くて」
ちょっと、沈黙。
「でもね、おにーちゃんは、あんまり怖くないの」
そうつぶやいた、涼音ちゃんの声音には、嘘のようなトーンは感じられなかった。
「初めて入ってきたとき、涼音とにゃーちゃん遊びしてくれたでしょ?」
にゃーちゃん。
猫のぬいぐるみのことか。
そういえばそうだったな。
入ったら涼音ちゃんがいて、猫のぬいぐるみのことで仲良くなったんだった。
「えへへ。ここであった男の人で、にゃーちゃんで遊んでくれた人、初めてだったよ?」
それがとても大切なことであるかのように、言った。
俺からすると些細なことだったのかもしれないけど、涼音ちゃんにとってはとても大切なことだったみたいだ。
「だから涼音、初めてのお客様はおにーちゃんがいいなって思ったの」
すりすりと、俺のふくらはぎをなでる涼音ちゃん。
その時、ぴぴぴっとアラームが鳴った。
「あ! もう10分経っちゃった」
名残惜しそうに涼音ちゃんが、アラームを止めに行った。
「お客様をとるの、怖かったけど。おにーちゃんとだったら、いっぱいお話しできて、ちょっぴり楽しい♪」
そんなことを言いながら戻ってくる。
俺はやっと、彩音ちゃんが、上半身マッサージだけじゃなくて、フットとかを加えた意味を理解した。
まだ慣れていない涼音ちゃんが、俺と会話がしやすいようにだったんだな。
「えっとね、次は」
涼音ちゃんが、俺の目を隠していたタオルをとる。
いつの間にか涼音ちゃんは、下着姿になっていた。
ふわふわの子供用キャミソールと、白の女児パンツ一枚姿。
ちょっぴり恥ずかしそうにもじもじしながら、言った。
「……じょ、上半身マッサージ、はじめるね、おにーちゃん」
(つづく)