「ねぇみくちゃん、あの男の人って、この会場のスタッフさんだったのかな?」
「さぁ? みくはファンの人だと思うけど……――そんなことより、さっさと準備するにゃ、李衣菜チャン」
ライブ前の楽屋で待機していた卯月の耳に、同僚アイドルの多田李衣菜と前川みくの会話が飛び込んできた。
「メジャー持って、会場の図面みたいなの作ってたじゃん。絶対スタッフさんだって」
「わかんないにゃ。みくたちのファンにも色々な人がいるにゃ。アイドルよりもライブ会場のマニアの人がいたっておかしくないにゃ。――って、だから早くステージ衣装に着替えるにゃ!」
「分かってるよぉ」
みくと李衣菜の二人は、さっき楽屋を抜け出して、お客さんの状況を偵察してくると言っていた。会場の中に、二人の印象に残った人間がいたらしい。
卯月は別に、その会話に何かを感じた訳ではない。それよりも、ライブに集中することのほうが重要だった。卯月の出番はみくたちよりも早い。――ただなんとなく、みくたちの話は卯月の頭の中に残った。そして、卯月がその会話を思い出したのは、ライブ中盤に自分のソロ曲を歌い終えて、休憩のために楽屋に戻って来た時だった。
「唯さん……」
「文香……大丈夫だから、あんまり心配しないで」
楽屋には、卯月より先に大槻唯と鷺沢文香の二人が戻っていた。体調が悪そうにうつむいている唯の背中を、文香が摩っている。卯月は慌てて二人に近寄った。
「唯ちゃん、どうしたんですか?」
「卯月さん……」
「何でもないよ、卯月ちゃん。ちょい、立ち眩みしただけだから……」
心配する卯月と文香に、唯はいつものように明るく笑って見せた。確かに大事ではないようだが、それでも唯の元気は、平常時よりも幾分か減退していた。文香によると、先ほどの出番を終えてステージから舞台袖に引き上げた時、唯は急にバランスを崩したのだという。
「あの男の人……どっかで会った気がするんだけどな……」
唯は手のひらで顔を押さえると、そうつぶやいた。卯月と文香は、それが何を意味するのか分からず、互いに顔を見合わせた。
結局、唯の体調不良は、この後の出番をキャンセルして医務室に行くほどのものではないということで、彼女は文香と共に、再びステージに戻っていった。
(男の人……?)
一人になって、卯月はその場で考え込んでいた。唯の言葉が、卯月は妙に引っかかっていた。そう言えば、みくと李衣菜も変わった「男の人」について話していた。だが、男性ファンなら観客席に溢れるほど来ている。男性スタッフも多い。特に気にするべき単語ではないはずだ。なのに、それがどうして、これほど何かが胸につっかえるような感覚を生みだしているのだろうか。
「……? う~ん……」
何かが思い出せそうで思い出せない。最近ずっと、この感覚が自分に付きまとっているという気がする。卯月は軽く頭を振った。
「卯月ちゃん、遅れてごめんなさい。次の衣装の用意をしましょう!」
「――あ、はいっ!」
卯月の思考は、楽屋に入って来たスタイリストの言葉で中断された。あとからメイクさんや他のアイドルも入ってきて、楽屋周辺はにわかに騒がしくなった。
卯月は自分の感じた奇妙な胸のつかえを忘れ、ライブに全身全霊を傾けた。ファンに喜んでもらうため、彼女にできるパフォーマンスを発揮するため、最高の笑顔で、心を込めて歌い、ダンスを踊った。最後の全体曲を歌い終えた時には、卯月は汗だくになり、呼吸に胸が激しく弾んでいた。そして、彼女は再び、楽屋へと引き上げてきた。
「――あれ?」
それは、あるいは彼女の運命だったのかもしれない。色々な偶然が重なって、ステージ裏の半地下の通路で、卯月がふと一人になるタイミングが生まれた。
卯月はシンデレラのドレスをイメージしたような、白いフリルの衣装を着ていた。足元はガラス製ではないが透明なヒールで、頭には、冠のようなティアラが輝いている。
(男の人……?)
卯月の視線の先にいたのは、白馬の王子様ではない。見知らぬ男が、通路の先で卯月が立っているステージ側の様子を窺うようにしていたのだ。スタッフではないと、その様子から卯月は一目で判断した。
男のほうも卯月に気付いた。彼は目を丸くして、卯月を凝視している。
「あの――」
もしかしたら相手が危険な不審者かもしれないのに、人を疑うことを知らない卯月は、男のほうに歩み寄り、ここは部外者立ち入り禁止ですよと言おうとした。しかし、卯月の歩みは通路の途中で止まった。急な立ち眩みに襲われた彼女は、よろけるとコンクリートの壁に寄りかかった。
「……?」
呼吸が荒くなり、心臓が跳ねる。自分に何が起こっているのか、卯月には分からなかった。
(わ、私……どうしちゃったんだろう……。風邪かな……)
額に手をやると、やけどしそうなくらいに熱かった。熱を持っているのはそこだけでなく、身体全体がかっかと火照っている。風邪かと思ったが、気分が悪いというわけではない。むしろ、言い知れぬ高揚感のようなものが、全身を包んでいるような気さえする。それでも、卯月は立っていられなくなり、床にぺたりとへたり込んだ。
「――う、卯月ちゃん」
そんな卯月に、気遣わし気な声色で話しかけた者がいる。さっき通路の先にいた男だ。その男は、卯月がよろけたのを見て心配して近づいてきたらしい。慌てた口調で、彼女に話しかけてきた。
「大丈夫かい?」
「あ――は、はい。ちょっと立ち眩みがして」
「誰か呼んでこようか?」
「あ、いえ。自分で立てますから……――きゃっ!」
ヒールの高い靴を履いたまま、力のこもらない脚で立ち上がろうとするのは、いささか無理があったらしい。卯月はガクンとバランスを崩すと、危うく尻もちをつきそうになった。その拍子に右足から脱げた透明な靴が、床に転がってカラカラと音を立てた。卯月が尻もちをつかずに済んだのは、例の男が咄嗟に手を差し伸べたからだ。
「す、すみません」
卯月は慌てて謝りながら、その男を見上げた。二人の視線が、至近距離で絡み合う。
「……え?」
「怪我しなかった? 無理したら駄目だよ。今、スタッフさんを呼んでくるから。――あ、僕はただの通りすがりだから、気にしないで――」
「――あの」
卯月は男に右手を引かれ、背中を抱えられるようになっている。彼女の口は、彼女が考えるより先に動いていた。
「私たち、前にどこかで、お会いしませんでしたか?」
卯月がそう問いかけると、どうしてか男の表情は強張った。
==
今日は色々とマズかった。折角だから夢の参考にしようとライブ会場を見て回っているうち、ついつい調子に乗って、スタッフ以外立ち入り禁止のスペースまで入り込んでしまった。
シンデレラガールズのライブから帰ってきた夜、僕は机のPCに向かっていた。ライブ会場で撮影した写真をPCに取り込みながら、日中の自分の行動を振り返っていた。
今日のライブには、卯月ちゃんをはじめ、シンデレラガールズに所属する多くのアイドルが参加していた。そのアイドルの皆をできるだけ詳細に観察するという目的は果たすことができたが、その後に楽屋近くまで侵入したのは軽率だった。下手をすれば、警備員に見つかって不審者として通報されていたかもしれない。
(でも、そのおかげで生の卯月ちゃんに触ることができたぞ……)
反省点ばかりではなく、良いこともあった。ステージ裏の通路で、僕は偶然、島村卯月ちゃんに会うことができたのだ。おまけに、転びそうになった卯月ちゃんを助け起こして、彼女の身体に実際に触れた。手を掴んだだけじゃなく、どさくさに紛れて背中も触った。握手会ではそこまではできない。
――私たち、前にどこかで、お会いしませんでしたか。
あの時に卯月ちゃんが発した言葉が、僕の中でリフレインする。ああ言われた時、僕は一瞬ビビってしまった。もしかして、卯月ちゃんが夢の中のことを言っているのではないかと思ったからだ。
(まあ、そんなはずは無いけどね)
卯月ちゃんには、自分が知らない男の夢の中で、毎日のように犯されているという事実を知るよしはない。僕が見ているのは、あくまで僕の夢だからだ。本物の卯月ちゃんとセックスしているわけじゃない。
彼女が本当に僕に見覚えが有ったのだとしたら、それは握手会かライブに来た僕の顔を覚えていたからだろう。ファンの男は無数にいるのに、僕なんかのことを覚えていてくれるなんて、やっぱり卯月ちゃんはとてもいい子だ。実に推せる。今夜の夢でも、卯月ちゃんに会いに行くことにしよう。あの、キラキラと輝くシンデレラのようなステージ衣装を着た卯月ちゃんに。
夢に登場させる背景資料として、僕はたくさんの写真を撮った。その写真をより分けて保存すると、僕はPCの電源を落とそうとした。
(……ああ、そうだ。その前に――)
しかし、僕はふと思い立って、夢を操る例のマニュアルを見つけた、あの古いサイトを覗いてみようと考えた。
(……別に、何も変わってないな)
久々にこのサイトを見たが、何も変化は無いようだった。来訪者数を示すカウンターも、僕が前回見た時から数字が1しか増えていない。つまり、僕以外はここに来ていないということだ。
念のため感想欄にも移動したけれど、そこにも新しい書き込みは無い。僕の「ありがとうございます」というコメントに対して、管理者からの反応があるかと思ったが、期待外れだった。
「…………」
僕はしばらくの間、なんとなくマウスカーソルを動かしながら、サイトのトップページを眺めていた。
「……ん? ここにリンクが有るのか……?」
その時偶然、僕はそのサイトに、今まで知らなかったリンクが埋め込まれているのを発見した。星空のような背景画像に溶け込むようになっているけど、マウスカーソルが変化したことでそれと気付いた。「隠しページ」という奴だ。思いもよらない発見にドキドキしながらそこを押すと、星空から、青空を背景とした別のページに飛んだ。
「なんだこれ」
そのページは、作りかけのようだった。例のマニュアルと同じフォントで文章が書かれているが、途中で終わっている。レイアウトも崩れていた。
「おいおい師匠……しっかりしてくださいよ」
僕はこのサイトを作った人物を、心の師と仰いでいる。その人にツッコミを入れながら、僕はその文章を読み下した。
「……現実世界と、夢のリンク?」
それはマニュアルではなく、このサイトの管理者が試行錯誤した跡だった。自分の夢を操る方法を発見したその人物は、次にその夢を、現実世界へと反映する方法を模索していたらしい。夢を現実世界と繋げる。ちょっと前なら一笑に付す考えだが、僕は真剣な顔になって、もう一度その文章を読み返した。
――夢に登場する人間は、オレの脳が作り上げた影のようなものだと考えていた。だが違うのではないか。夢に出てくる人間は、オレが知らないはずの情報を持っている。それが意味するところは何か。
管理者は「集合的無意識」という言葉に触れていた。心理学の用語だ。全ての人間の精神は、無意識の海で繋がっているというアレである。
――あれは正確には夢ではない。思うにオレは、集合的無意識の海の中に入り込む方法を見つけたのだ。そしてそこでオレが会っているのは、オレの妄想の産物ではないのかもしれない。彼らは単なる思考の抜け殻ではなく、魂と呼べるものを持っている。だとすれば。
サイトが適当なつくりだから誤解していたが、どうやらこの管理者は、僕とは違い、かなり真面目な目的のために夢を操ろうとしていたようだ。文体から真剣な様子が伝わってくる。
「――ふぅ」
取りあえず文章を読み終わると、僕は息を吐いた。得られたものは重要だった。
(夢の中に出てくる人間は、僕の妄想じゃない……? 本当か……?)
にわかに信じ難い話だけれど、あの文章に書かれていた話には、僕も心当たりがあった。僕の夢に出てくる女の子も、僕の知らない記憶や単語を口にすることがあった。
(え……? 待てよ……? だったら……)
――私たち、前にどこかで、お会いしませんでしたか。
卯月ちゃんの言葉を、僕は再び思い出した。
==
「…………ここは」
ふと気付くと、卯月はライブ会場の楽屋にいた。卯月が着ているのは、シンデレラのドレスをイメージしたステージ衣装だ。鏡には、ティアラを付けてメイクもした自分が映っている。卯月は白い長手袋をはめた右手で、自分の頬に触れた。
「…………?」
どうして自分がここにいるのか、前後の繋がりが思い出せない。ステージ衣装を着ているということは、これからライブなのだろうか。それとも、ライブは既に終わったのだろうか。
卯月のいる楽屋には、彼女のほかに誰もいない。耳鳴りがしそうなくらい、しんと静まり返っている。白い壁紙を照らす蛍光灯の明かりが、やけに無機質に感じる。
卯月はスツールから立ち上がると、楽屋の入り口の扉を開けた。ステージに続く半地下の通路。明かりはあるが、やはりここにも人がいない。卯月が歩くと、ヒールの音がコツコツと響いた。
「誰か……いませんか?」
卯月は恐る恐る声を出した。しかし、どこからも返事は帰ってこなかった。卯月は何かに導かれるように、ステージのほうへと歩みを進めた。
「――!」
舞台袖からステージに出ると、眩いスポットライトが卯月の顔を照らした。目がくらむ。卯月はその時、確かに大勢のファンの歓声を耳にした。熱気のこもった声に圧されて空気が揺れるのを感じ、卯月を歓迎するように色とりどりのペンライトが振られるのを見た。
しかし、それは一瞬のことだった。次の瞬間には、卯月の前には、誰もいないがらんとした客席が広がっていた。大きな空洞のように見えるホールで、卯月だけが、ポツンと一人、ステージの端に立っている。
依然としてスポットライトは灯っている。セットも用意してあった。しかし大道具や照明スタッフの姿は見当たらず、ファンも警備員もいない。
「やっぱり……夢?」
夢を見ている最中に、これは夢だと自覚することがある。それなのだろうかと卯月は思った。だが夢にしては、身体の感覚がやけにリアルだ。目を凝らせば衣装の細かい網目だってしっかりと見えるし、動くとフリルが擦れる音まで聞こえる。足元にもフワフワした感覚が全く無い。曖昧なのは、いつから、どうしてここにいるのかという、卯月の認識だけだった。
しばらくステージ周辺をさまよった卯月は、何も見つからなかったので、楽屋へと引き返そうと思った。
「……あ」
再び戻ってきたステージ裏の半地下の通路で、卯月はようやく自分以外の他人を発見した。男だ。そしてその男に、卯月は見覚えがあった。
「あなたは、今日の――」
今日のライブが終わった後、倒れそうになった自分を助け起こしてくれた人だ。そう言おうとして、卯月は言葉を詰まらせた。今日のライブ? もうライブは終わった? 時系列の認識がおかしい。
男は卯月のほうに歩み寄ってくる。卯月は何か嫌な予感がしたが、彼女の脚はすくんで動かなかった。
「きゃ――」
そして卯月の目の前まで来た男は、彼女の手首を掴むと、楽屋へと引っ張り込んだ。
==
「僕はあの時、この楽屋の中まで入らなかった」
「え?」
「でも、これはどう見ても……。これはシンデレラガールズの誰かの私物か……? こんなものまであるってことは……」
「あの……何を言っているんですか?」
「ああ、ごめんごめん」
置いてきぼりにしていた卯月ちゃんに、僕は謝った。そして、机の上に置いてあった本を指すと、彼女に尋ねた。
「ねえ卯月ちゃん、これは誰の持ち物かな?」
「それは文香ちゃんが読んでいた本ですね」
「鷺沢文香ちゃんか……。これは?」
「えっと……李衣菜ちゃんのカバンに付いていたキーホルダーだと思います」
「ふぅん。じゃあこのポーチは?」
「確かそれは、メイクの山中さんのですね」
「山中さん、か……」
鷺沢文香ちゃんと多田李衣菜ちゃんは、どちらも僕が知っているアイドルの名前だ。でも、メイクの山中さんというのは知らない。
(山中もありふれた苗字だしな……。僕の無意識が、つじつま合わせのために勝手に当てはめた名前かもしれない。う~ん……いまいち確証が持てないぞ……。この卯月ちゃんが、本物の卯月ちゃんと同じ意識を持ってるっていう……)
もしも彼女が妄想ではなく「本物」なら、これはすごいことだ。しかし、ここでそれを確かめる方法はあるのだろうか。
何を問いかけようか迷っている僕の前で、卯月ちゃんはおずおずと立っている。明らかな不審者の僕から逃げようとしないのは、やはり彼女が、僕の都合の良い妄想で作られた人形だからだろうか。
そう疑っていると、卯月ちゃんのほうから僕に話しかけてきた。
「あの……間違いだったらごめんなさい。今日、楽屋の前でお会いしましたよね」
「うん、ああ、そうだね」
「やっぱり。あの時は助けてもらったのに、きちんとお礼を言わずにすみませんでした」
「どういたしまして。……う~ん、やっぱりこれも僕の記憶を再現して喋ってるのか……?」
「……?」
卯月ちゃんは可愛らしく小首を傾げる。どう見ても本物の人間の仕草にしか見えない。目の前の人間が自分の妄想でないことを証明しろと言われると、思ったよりも難儀であることが良く分かった。
(自分の夢で好き勝手してるだけなら、別に何の問題も無いんだけど……。もしも夢の中の行動が現実の卯月ちゃんの記憶に残るとしたら、色々とマズいぞ……。最悪、痴漢とか強姦で訴えられるかも……)
ということを考えながら、僕は同時に思っていた。「でも、ここで有ったことを犯罪だと立証するなんて、現実的には不可能じゃないか」と。その思考は、僕の良心を唆す悪魔の囁きにも似ていた。
(もしも彼女が本物の卯月ちゃんの意識なら、彼女とセックスするっていうことは、現実の卯月ちゃんとセックスするっていうことと同じなんだよな……)
それはあまりにも甘美で、逆らうのが難し過ぎる誘惑だ。僕の視線は、グロスの塗られた卯月ちゃんの唇や、開いた胸元のあたりをさまよった。卯月ちゃんは僕のよこしまな思考を察知したのか、白い手袋をはめた手で、咄嗟に胸元を隠す。その仕草が、余計に僕の劣情を煽った。
(現実の卯月ちゃんは、僕を「前にどこかで会った人」程度にしか認識していなかった……。僕に犯されたことを覚えてるなら、最初に悲鳴を上げたっておかしくない。でも、そうじゃなかった……。全部が全部、記憶に残るわけじゃないのか?)
「あ、あの……何か言ってくれませんか……?」
(そう言えば、今まで卯月ちゃんたちとセックスした時、彼女たちの僕への認識を操ることができたのは、どうやって説明するんだ? 僕らの意識が繋がってるんだとしたら、強いイメージは相手にも影響を及ぼすとか?)
「…………」
(卯月ちゃん以外はどうなんだろう。小日向ちゃんや響子ちゃんは、夢で僕に会ったことを覚えてるんだろうか)
卯月ちゃんと向かい合ったまま、僕は思考にふけった。色々な可能性を考えたが、最終的な結論としては、「やっぱり彼女たちとセックスしたい」ということだった。僕は別に、現実の彼女たちをどうこうしようとしてるわけじゃない。頭の中で何を妄想しようが、夢の中で何をしようが、誰にも止める権利はない。
しかし、ここで怯えた表情をしている卯月ちゃんに、あまり無理やりな形で襲い掛かるのはためらわれた。もう少し状況を確認するまで、僕が怖い人だという印象を卯月ちゃんに植え付けるのは、避けたほうが良い気がしたからだ。そこで僕は、自分にこの卯月ちゃんの認識をいじくる力があるのかということの再確認を兼ねて、彼女に問いかけた。
「卯月ちゃん、僕のこと覚えてないの?」
「――え?」
「ほら、○○だよ。スタッフの」
「○○さん……? あ、ああ……○○さんですね。――あれ? そうですよね、○○さんですよね。――え? どうして私、忘れちゃってたんでしょうか」
「卯月ちゃんはうっかりしてるなぁ。はっはっは」
「え、えへへ……」
僕は敢えて明るく笑った。卯月ちゃんも僕に釣られ、ぎこちないながらも微笑んだ。
「ほら卯月ちゃん、ぼやぼやしてる暇は無いよ、もうすぐ出番なんだから」
「出番?」
卯月ちゃんに思考する暇を与えないように、僕はパンパンと手のひらを叩きながら、性急な調子で言った。夢の中でイメージプレイを繰り返してきたお陰で、僕の演技力もかなり向上していた。
「そうだよ、今日はライブ本番じゃないか。だから卯月ちゃんも衣装を着てるんだろう?」
楽屋の外には人っ子一人居ない。しかし僕はイメージした。扉の外のざわめきや、他のスタッフたちが駆け回る足音、観客席から響いてくる声だけを。すると、今までが嘘だったかのように、静かだった空間に音が満ちた。
「え――……あ」
「ほら、ファンの皆も卯月ちゃんを待ってるよ。早く行ってあげないと」
「そ、そうですよね! 急がなきゃ!」
「うんうん」
メイクさんとかまでは用意できなかった。でも、表情を切り替えた卯月ちゃんは、鏡に向き合うと、自分のメイクや衣装の乱れを確認し始めた。彼女はやっぱりプロのアイドルなんだなぁと思わせる、とても凛々しい横顔だ。
「○○さん、どうでしょうか? 背中側は問題ありませんか?」
「うん、カンペキだよ」
「じゃあ行ってきます!」
「あ、待って」
慌てて楽屋を出ていこうとした卯月ちゃんを、僕は呼び止めた。
「何か忘れてないかい?」
「え――?」
「ほら、ライブの前にしなきゃならない、大切なことを忘れてるよ」
「大切な……? 何でしょうか……」
「…………」
僕は答えなかった。ただ卯月ちゃんのほうに向けて、僕の「イメージ」を放っていただけだ。
「あ……そっか……」
「思い出した?」
「はい……ライブの前には……○○さんとエッチしないと……」
「その通りだよ。おマンコに精液を補充していかないと、ちゃんと歌ったり踊ったりできないでしょ?」
「はい……そうですよね…………。でも…………え?」
卯月ちゃんは、頭に手を当て混乱している様子だった。それでも、ライブ前には僕とセックスして中出ししてもらう必要があるという摺り込みは、きっちりと作用しているようだ。僕がカチャカチャとベルトを外し、ズボンを下ろすのを見ても、卯月ちゃんは逃げなかったし叫ばなかった。
「急いでおマンコしてあげるから、卯月ちゃんも用意して」
「は、はい――」
卯月ちゃんは、まだ釈然としない顔で頷くと、鏡の前の化粧台に腰を下ろした。そしてフリル付きのフレアスカートの下に手を入れ、見せパンを兼ねたペチコートを下ろす。花のように広がったフリルの中央に、卯月ちゃんの綺麗なマンコが顔をのぞかせた。
「お願いします……。私とエッチしてください、○○さん」
「うんうん、きちんとお願いできる卯月ちゃんは偉いね。それじゃあチンポ突っ込むよ? ライブ本番前にたくさんザーメン飲ませてあげる」
「ありがとうございます……」
僕は卯月ちゃんの両ひざを抱え込む。卯月ちゃんは滑り落ちないように、化粧台の端に両手をついていた。僕は今から、今日のライブで見たままの衣装を着た卯月ちゃんと、関係者以外立ち入り禁止の楽屋でセックスする。そう思うと、バキバキになったチンポの先から粘っこいカウパーが垂れるのを止められなかった。
僕は腰だけで狙いを定め、ぷっくりと充血した卯月ちゃんの恥丘の割れ目に亀頭を添える。そして、ゆっくりと腰を前に突き出していった。
「あ……♡ う……♡ うう~♡」
「ああ……マンコあっつい……。ステージ衣装の卯月ちゃんと生セックス……! 最高だぁ……!」
「はーっ♡ はーっ♡ はーっ♡ はーっ♡」
「分かるよね卯月ちゃん。僕と卯月ちゃんが繋がってるの」
「は、はい……っ♡ ○○さんのおチンチンと、私のおマンコ……一つになってます……♡」
「お客さんを待たせるのは悪いからね。最初からガンガン突いていくよ? 僕が早く射精できるように、卯月ちゃんもおマンコ締めるんだ」
「わ、わかりました……っ! おマンコ締めます……! 卯月、頑張ります……!」
「ああ……本当にいい子だ、君は……! ――そらっ!!」
「――――んおうっ⁉♡♡」
そして、僕と卯月ちゃんの本気セックスが始まった。僕はズボンだけを下ろした格好で、ステージ衣装を着て化粧台に腰を下ろした卯月ちゃんの両脚を抱え込み、発情したサルのように一心不乱に腰を振った。
「あっ♡あっ♡あっ♡あっ♡あっ♡あっ♡ んぁぅっ♡ ――おっ♡ んっ♡んっ♡んっ♡んっ♡んっ♡んっ♡」
速度を重視した小刻みなピストンに合わせ、卯月ちゃんが淫らな歌声を口から漏らす。フリル付きのフレアスカートが、わさわさと音を立てる。楽屋の扉の外からは、複数の人が行きかう足音や、ステージのほうから響いてくるファンのざわめきがリアルに聞こえる。そんな場所で、僕ら二人はセックスしているのだ。
「○○さんっ♡ お願いしますっ♡ 早く射精してくださいっ♡ ――あっ♡ んっ♡んっ♡んっ♡んっ♡ お願いっ♡ 射精してっ♡」
今の卯月ちゃんは、観客席のファンをこれ以上待たせないためにも、僕に膣内射精してもらう必要があると思い込んでいる。僕のチンポにおマンコ奉仕して射精に導くのは、アイドルとしての自分の義務だと思っている。だから彼女は、「きゅうっ♡ きゅうっ♡」と一生懸命マンコを締めて、僕のチンポに精一杯媚びてくる。
「精液くださいっ♡ 卯月の中に出してくださいっ♡ ○○さんの精子で、おマンコいっぱいにしてくださいっ!」
アイドルの必死なナマ出しおねだりほど、耳に心地よく聞こえる音楽は無い。卯月ちゃんに種付け懇願されながらの腰振りは、たまらない快感を伴っていた。
「ううううう! 濃いザーメン昇って来た! 出すぞ卯月!」
「はいっ! お願いしますっ!」
「一滴もこぼすんじゃないぞ! ステージ衣装を汚すのは許されないからな! ちゃんと僕のザーメン子宮に詰め込んで、最高の笑顔でファンの前で歌ってくるんだ!」
「分かりましたっ♡ 卯月がんばりますっ! ○○さんの精液と一緒に、一生懸命歌いますっ!」
「よぉしっ! 出してやる! 感謝して受け取れ! うおおおおおっ!!」
「はいっ♡ ありがとうございますっ! 射精してくれてありがとうございますっ! ――あっ♡ 出てるぅ……♡ んっ♡ ん~~~~~っっ♡♡♡ あ、ありがとうございます~っ♡♡」
「――おっ、――おおっ、と、止まらない……!」
暴走したチンポは、既に僕自身にも制御不能だった。孕み頃の極上のメスの胎内に遺伝子を植え付けるべく、小便をするような勢いで射精していた。もしかしたらこの卯月ちゃんは、本物の卯月ちゃんと記憶を共有しているのかもしれないという危惧は、この快楽の前にどうでも良くなっていた。
というか、仮にそうだとして、何の問題があるというのだろう。卯月ちゃんだって、こんなに気持ちよさそうにイってるじゃないか。それが悪いことだとは、僕にはどうしても思えなかった。
「あ……♡ う……♡ うう……♡」
「はー……はー……はー……」
僕らは二人で繋がったまま、絶頂後の余韻に全身を震わせる。これ以上に満たされて幸福な時間など存在するだろうか。
「ありがとう……ございました……♡ ○○さん……♡」
「卯月……ライブ頑張って来るんだぞ……」
「はい……♡ ――ん♡ ちゅ……♡ ちゅぅ……♡」
僕は卯月ちゃんと舌を絡め合った。この子を――この子だけじゃなく、憧れのアイドルたちを僕のモノにしていられるのなら、良心とかモラルとかいう奴らは邪魔なだけだ。