※この作品はR-18です。

なんのチートもないけど私は元気です   作:神谷涼

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 内心掘り下げしてたらエロが……!
 


32:生存ミスディレクション

――8日目:黒竜山脈、旧グリムファング城塞跡

 

 長らく忘れてた。

 

 子供の頃、庭木に毛虫がいっぱい出た。

 駆除しなきゃって、親が言ってて。

 お手伝いのつもりで……毛虫を一匹一匹、小枝で落としては踏みつぶして。目に着くのは全部殺した。

 なんとも思わず殺して殺して殺して。

 空が暗くなってきた時、自分が殺した大量の毛虫の死骸を地面に見て。

 すごくイヤな気分になった。

 親は褒めてくれたけど。

 それでもイヤな気分は消えなくて。

 どうしてイヤな気分なのかすら、わからなかった。

 

 その、かなり後。

 

 中学だったか高校だったか。

 学校でネズミの解剖をした。

 割とハイテンションで解剖して。

 残骸を変な形にして遊んだりして。

 授業の終わる頃、残骸を見て……イヤな気分になった。

 毛虫を殺した時と同じ気分。

 

「アルマちゃん?」

「…………」

 

 罪悪感じゃない。

 毛虫やネズミに、思い入れはない。

 かわいそうとは感じてないし、裁かれたいとも思わない。

 ただ“イヤな気分”になる。

 “殺し”への忌避感だろうか。

 何かを殺したり、過剰にいたぶったりすると……これを味わうのだと思った。いずれ馴れるか、あるいは自傷癖みたいに悪い意味でクセになるのか。世間を見てると、どっちもありそうだったけど。

 ぬるい生き方をしてた自分は、その“イヤな気分”を二回程度しか味わってない。

 実際、何かの生死に深く関わったのは、あの二回程度。

 近しい人が死んでも、手を下したわけじゃないからか、何も感じなかった。

 哀しさもイマイチわからなかった以上、そういう感覚は鈍いのかなと思っていたけれど。

 

「れれー? 魔物は?」

「とりあえず魔法で突き落としたよ」

「なんだ倒したなら、急ぐ意味もなかったな」

 

 目の前で落ちていった骸骨を見て、あのイヤな気分を味わってる。

 こっちに来た時に転がってた大量の死体は……びっくりはしたけど、平気だった。

 目の前で殺された元ダンナにも、何も感じなかった。

 結局のところ、この世界に対して実感なんて、最初からなかったのか。

 日本語でしゃべるあの骸骨だけ、異様に気持ち悪い。ゴブリンやオーガも、生きてるのを見てないから知らないだけで……実際は日本語をしゃべってたのかな。

 どれだけ愛着が無いって言っても、本当は前の世界に執着して、囚われて、地に足つけてたんだろか。

 この体も、他の人も、この世界のものに現実味がない。

 全部他人事。

 前の現実以上にフワフワだから、浮遊魔法が使えるのかな……

 

「で、アルマちゃんはどーしたっすか?」

「さっきから、心ここにあらずなんだよねぇ。スケルトンがそんなに怖かったかなぁ」

「ゴブリンに輪姦された上、夫を殺そうとした女が、スケルトンで怖気づくとは思えんがな」

 

 ほら。

 周りで何か言ってても、ゲームのキャラのセリフにしか聞こえないし。

 

「おい」

 

 でも、前の世界でそんな真面目に生きてたわけが、ない。

 この世界はそれ以上に生きるつもりもない、ただのおまけゲームみたいなもの。

 ボーナスでもない、ただの隠しダンジョン。

 だから、あんまりイヤな気分を味わうくらいなら。

 

「おい」

 

 あの骸骨のように階段から飛び降りて。

 苦しんでた骸骨の人みたいに。

 そのまま、砕け死んでしまった方が――

 

「いだーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

 いたいいたいたい!

 首が!

 奴隷のアレが!

 いきなり何すんの!

 

「返事をしろ」

「な、なんですか、ルーネ様!」

 

 振り向いた瞬間。

 

「フン」

 

 ドン、と尻を蹴られた。

 前に軽く、吹き飛ばされる。

 

「え?」

 

 目の前は手すりのない、螺旋階段。

 下はあの骸骨が落ちて行った闇。

 

「ええええ!?」

 

 落ち――

 

「死にそうな顔をしていた割りには元気だな」 

「ちょ、あぶ、おち、落ちる!」

 

 ルーネ様が腕を掴んだけど。

 ちょ、まずいって!

 腕力ないんだから! 捕まってられない!

 肩で体、持ち上げられない!

 落ちる!

 むしろ肩の関節抜けそう!

 落ちちゃう!

 

「落ちたそうな顔をしていたろうが」

「だだだからって!」

 

 蹴るか!?

 落とすか!?

 

「面倒をかけるな」

「ルーネ!?」

「お嬢様!?」

 

 え? なんで二人してそんな声?

 あれ。目の前にルーネ様いるのに二人の姿が消えて、なんか下から風が。

 

「は?」

 

 ちょ、まさか。

 

「足元に気をつけておけ」

「落ちてるうううううううううううううううう!!!!」

 

 ぐしゃっ。

 べきべき。

 私は死んだ、スイーツ。

 

「やはり、たいした高さではないな」

 

 生きてたわ。

 床の上に立ってる。

 足元、べきべき音鳴ってる……インドア派ゆえ骨折したことないんだけど、もしやこれが骨折では。

 

「……なんか、バキバキ音しましたけど、脚折れてません?」

「落ちていた骨を踏み砕いただけだ」

 

 もしかしなくても、それってさっきの骸骨では……。

 

「そ、そうなんですか。本当ですよね? 足痺れてわからないんですけど、本当に脚折れてません?」

 

 じゃなくても、あの鉤爪とか刺さったり、足に噛みつかれたりしてないだろな。

 真っ暗だし、足ジンジンしてるから、さっぱりわかんないんだよ!

 

「骨折は、奴隷の刻印で逐一大騒ぎする貴様には耐えられん痛みだぞ」

「えええ……だったらなんで飛び降りたんですか!」

「貴様が落ちたそうな顔をしていたからだ」

「だからって、本当に飛び降りるとか!」

「たいした高さではなかったからな」

 

 ルーネ様は兜の暗視で見えてても、こっちは真っ暗でこわかったんだよ!

 

「百歩譲って突き落とすならわかりますけど、なんで一緒に落ちてんですか!」

「階段より早いし、下に魔物がいるかもしれんからな」

「ええぇ……」

 

 だんだん明るくなってくる。

 明かりを持って二人が降りてきたのだ。

 普通に、螺旋階段で。

 

「大丈夫っすか」

「高さから見て床が崩れる心配はないと思うけど……いきなり、どうしたんだい」

 

 もっと言ってやってください。

 

「なんで階段から下りずに飛び降りなきゃいけないんですか……」

「こんな低い床に飛び降りて死ねると、貴様が勘違いしていたからだ」

 

 はぁ?

 だからなんでだよ。

 

「ああ。やっぱ、そーだったんすね。こう暗いと、お嬢様みたいには察せられないもんで」

「えっ?」

「んん?」

 

 よかった。シオン様はこっち側ですね。

 

「つーか、それって、あたしがお嬢様にしたののパクリっすよね?」

「あの時のミナは、私も始末して遺産を持ち去るつもりではなかったのか?」

「めっそーもない。心を鬼にしての一芝居っす」

「……ま、あれで前に進めたことは間違いないが」

 

 そこで内輪話になるの?

 

「あ、あのー」

 

 なんなのかサッパリなんだけど。

 

「おっと。そんな昔の話はどーでもよかったっすね。よーするに……こーゆーことっすよ」

 

 うわミナ様、めっちゃ手際よくナイフ抜いた。

 え?

 うぇ?

 

「あびゃ!」

 

 あぶあぶあぶあぶないな!

 頭の上ヒュンって通ったんだけど!

 ナイフが!

 刃物が!

 そのナイフめっちゃ切れるって、道中見せてもらってるんですけど!

 しゃがむの遅れてたら、バッサリじゃないの!

 

「やっぱそーっすね」

「わかっただろう?」

「いやいや、わかんないよ!」

「ぜんぜんわかりませんよ!」

 

 うぇーん、シオン様たつけて!

 シオン様に駆け寄って隠れる!

 一瞬でナイフを鞘に戻したミナ様、フツーに怖いよ!

 

「さんざん死ぬのはいいとか言っておいて、見苦しく足掻くではないか」

「そーそー、今のも動かずいれば、スパーッと喉掻っ切ってたっすよ。サックリ死んでおしまいっすよ」

「こわいのもヤですよ!」

 

 精神的に痛いのも、痛いの内なんだよ!

 精神的慰謝料を要求したい!

 

「あんな大振りで正面からの遅いナイフなんて、誰でも避けられるっすよ」

「当たったらどうするんですか!」

「アルマちゃん死にたいそうだし、しっかりトドメ刺したげるっす」

「いきなりやることじゃないでしょ!」

「貴様はいきなり死のうとしていたように見えたが」

 

 ぎぎぎ。

 お、思っただけで実行してねーし!

 

「ま、奴隷ってのは所持品。これはわかるっすよね?」

「わからなくはないですが……」

「私の奴隷は、私の許可なく死んではならん。私の財産を盗むに等しいからな。わかるか?」

「だったら飛び降りたり、切りつけたりしないでくださいよ!」

 

 なんでそこで肩すくめて、二人してヤレヤレのポーズなの!?

 

「ああ、そういうことか。なるほどねぇ」

 

 え。シオン様?

 何を納得してんの?

 

「この残骸が先刻のスケルトンで間違いないか?」

 

 なんか私の話、置いてけぼりでルーネ様が頭蓋骨の残骸をベキベキ踏みつぶしてる。

 

「そうだね。あちこち形が歪んでるし、手も明らかに人骨じゃない。真新しいスケルトンの残骸だよ」

「あの程度の高さで落ちて、衝撃で崩壊か……戦った経験はないが、ここまで脆いのか?」

「スケルトンだからねぇ。攻撃力はあるけど、耐久力は皆無に等しいのさ」

 

 え、私のこと、ホントにおいてけぼり?

 

「そして、これだけ騒いでも追加の魔物は出てこん。動き回る魔物は、このスケルトンだけだったようだな」

「何百年もスケルトン一匹が活動続けるとは思えないし、ごく最近“自然発生”したんだろうね」

「他にも部屋の中とかは、魔物が湧いてる可能性あるっすか」

「あるけど……数百年も動ける魔物なんて限られるからね。罠も見当たらなかった以上、大丈夫だと思いたいな」

「では、一階部分の探索に行くとするか」

「アルマちゃん、ランタン持って。さっきと同じ隊列で行くよ」

「今度はあんまり距離置かずついてくから、安心しとくっすよ」

「――うぅ」

 

 結局あの飛び降りと切りつけはなんだったの?

 二人してサイコパスなの?

 シオン様も何、納得してんの?

 

「ひゃっ♡」

 

 しかもすぐシオン様、お尻掴んできて、アナルを弄ってきてるし……!

 

「ま、この城塞の中を調べたら、ここで一泊予定っすから。アルマちゃんは今夜も期待して待ってりゃいいっすよ♪」

「言っておくが、先に使うのは私だからな」

「…………は、はい」

 

 うう、そんな言葉に釣られて、体の芯がじんじんし始めてる……。

 シオン様がアナルの窄みを指で撫でてくるせいで、前まで反応し始めてるよぉ。

 

「ここの調査で術を温存できたら……またアレでシてあげるよ」

「っ♡」

 

 耳元に囁かれた。

 短い社畜生活時代より、意味不明かつ理不尽な目に合ってるけど。

 エロい体になって、エロい人らに囲まれてるんだし。

 ちょっと元気になった。

 

 少なくとも、イヤな気分は……なくなったかな。

 




 エロほとんどなくてすみません。
 ちょっと前向きになる展開入れたかったので。
 別に最終回でもありません。

 ルーネ様なりに、情緒不安定な奴隷を元気づけたつもり。
 かつて家族皆殺しにした時、生きた屍みたいになってたところ、ミナに直接始末されかけ。ブチギレて返り討ちにしたミナをレイプし、ハングリー精神を取り戻した設定です。(たぶん本文では今以上には書かない過去設定)

 アルマは邪霊召喚の真実に気づきましたが、言ってどうなるものでもないので、余裕ある時にシオンに相談しようとしてます。

 とりあえずスケルトンについて。


●スケルトン(魔物)
 俗に最弱と知られる魔物。
 白骨死体に邪霊が憑依したものであり、邪霊使いが作るよりも異界との境界が曖昧な場所で、自然発生的に生まれやすい。
 頭部も角や牙で歪んでいるが、特に手が巨大で凶悪な鉤爪と化している。この手は人間を容易に引き裂く力を持ち、攻撃力のみならゴブリンより遥かに高い。
 だが、一方で骨の体はもろく、衝撃に弱い。骨ゆえ刺突武器の効果は薄いが、棒で殴りつけたり石を投げつけるだけで十分に倒せるだろう。焦りさえしなければ、平民でも容易に対処できるのだ。
 しかもスケルトンは異様な呻き声を上げ続けており、人間を見れば隠れず接近してくる。己の存在をわざわざ明かし、奇襲を仕掛ける知性もない。最弱の魔物と呼ばれる所以である。
 なお、人間を殺すか、死体を見つけたスケルトンは、獲物の皮や肉を剥ぎ取って己の身にまとう。これにより、肉を備えた別の魔物に変化した例もあるという。

●スケルトン(真実)
 事故等で突然死した人間の霊魂が、己の死を自覚せぬままこの世界の白骨死体に宿ったもの。
 白骨の体で無理に人体構造を再現しようとした結果、体を変異させて様々な感覚器を無理やり作り出している。己の白骨の体を動かすために、多くの魔力リソースを割いている上、皮膚がないため神経過敏状態。わずかに動くだけでも激痛が走る。
 多くはかつての事故状態と重ねて、助けを求め彷徨う。そして見つけた人間に声をあげて近づき、触れようとするのだが。その手は異形の凶器と化しており、高僧ですら人体を引き裂かんとする殺意しか感じ取れない。
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