私の名前はティナ・ローズ。
盗賊を生業としている。
長い銀色の髪に、その可愛らしく一直線に切りそろえられた前髪からは、髪と同じ銀色の長い睫毛と透き通る湖のような淡い青瞳が覗く。
健康的な小麦色の肌に、機能性重視の動きやすい簡単な衣服。
身体全体を覆えるほどの布のローブを身にまとっている。
れっきとした成体の女性だが、身の丈は13~14歳程度のそれ。
盗賊としては小さいほうが何かと便利であるため、本人は気にしていないよう。
今回のターゲットはここ「ラペ」
数々の冒険者達に「始まりの街」と称されるこの街には、様々な種類のギルドや観光・商業施設が建ち並ぶ。
この国で最も多様な種族・職種の人々が交わる街。
(とても活気に満ちており人々の往来も多いが、かえってそれは私のような盗賊にとっては格好の餌場。)
まるで食べ放題のバイキングかのような選り取り見取りさである。
例えばそこの道具屋で物を買っている、見たことも無い服装に身を包んだ見るからに外国から来た観光客。
ああいうのは特にカモだ。
野暮ったい布でできたローブのフードを、目が隠れてしまうほど深く被る。
(往来の人々に混じって真後ろまで近づければ...)
「お客さん240ゴールドね」
「あいよ」
今だ!
その観光客風の男が、ズボンの右後ろのポケットから財布を取り出すその瞬間。
ティナは鮮やかな手捌きでその財布を男の手から奪い取る。
それは奪い取るという表現とはとても思えないほど、熟練したマジシャンかのような滑らかな手つきであった。
「あれ.......?確かにここに入れてたんだけどなー.......財布なくしちゃったか?」
「えぇ!?ちょっとお客さん、金が払えないんだったら商品は売れないよ。」
「なにぃ!?ちょっとオヤジ!そこを何とか......!!」
「だーめだだめだ。こっちだって商売やってんだ、金がないなら帰った帰った。」
道具屋のオヤジは、まるで野良猫でも追い払うかのように手を招いた。
(ケッ!ケチな野郎だぜ。240ゴールドくらいツケにしてくれてもいいじゃねぇか......)
男は恨めしそうな顔つきで、その道具屋を後にする。
まぁ、にしても.......
その観光客風の男、ジョナス・ジョーンズは先程のローブで身を纏ったガキが歩いていった方向を見る。
(この平和の街(La paix)とかいう名前の街でスリに会うたぁ、なんとも皮肉なもんだな......)
ま、いっか。
ジョナスはそのローブの子供が向かった方向とは正反対の方へ向きなおる。
(俺がこの街に来たのは、あそこに行くためだしな....)
ジョナスが見る先にあったのは、ラペ随一の規模を誇る冒険者ギルド「平和の旅人(ボイヤー)」の本拠地施設。
この街の象徴ともされ、1番高いところで7階建てのビルほどの高さのある石造りの歴史ある建造物である。
(それじゃあ、そろそろ向かいますか。)
観光客風の男は右手の指をパチンとならすと、彼の身に纏っていた衣服がまるで液体になったかのようにその形を崩し、バシャりと音をたてて地面に降り注ぐ。
衣服だったものは地面に落ちるとたちまち色を無くし、透明な本物の水となって地面に染み込んでいった。
しかし、男は街中で突然全裸になった変質者となったわけではなかった。
さっきまで異国の観光客のようだった男の格好は、左肩から白いマントを羽織り、そのマントと同じくらい真っ白な鎧に身を包んだ、騎士のような格好に変わっていた。
これはこの男、ジョナス・ジョーンズが後に「平和の旅人」の英雄と呼ばれるようになるまでのお話。
ラペの子供達なら誰もが知っている「おとぎ話」の舞台裏を描いたお話である。