「がああああああ……」
巴男吾が帰ってきた。
「がああああああ……」
一ヶ月の交換生徒のはずが、なぜか三日で帰ってきた。
「がああああああ……」
風呂敷に荷物てんこ盛りで行ったのに、なぜかシャツにパンツ一枚で帰ってきた。
しかもキズだらけのボロボロだ。
……まぁ、帰ってきてくれたんだからいいケド。
「がああああああ……」
「……いつまで寝てんのよ」
ちょんちょん。
ほっぺをつついても起きない。
時刻はもう夜になる。
制服も持たずに帰ってきたので、着るものがないだろうと、去年まで使っていた
お古を引っ張り出して繕ってあげてるのに、この待遇はないと思う。
「がああああああ……」
「……」
ちくちく。
……やっとできた。ばさっと制服の上下をハンガーに掛けて、操の裁縫セット
──これがなかったらすでに百回くらい男吾の制服はボロギレである──を置いて、
操はそっと男吾の頬に口唇を──
ちゅ。
……あれ?
操の口唇を受け止めたのは、男吾の口唇だった。
がばっ。
思わず飛び退く。
「え!? やだ! エッチ!」
「なんでだー!?」
「なんで急に起きるのよー!」
「オレは今起きたんだっての! 知るか!」
……まあ、とにかく。
目も覚ましたことだし、何があったか聞かないと。
顔が赤くなってるのを感じる。早く飛んでけ飛んでけ。
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「打倒!(済み)管理学園」 08/04/06 by TANA
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「……で、ケッキョク何があったのよ」
食後──もちろん男吾だけだ──のお茶につきあいで湯飲みを持ちながら、操が聞いた。
ちなみに今食べた食事は、昼の学食を操がオバちゃんに頼んで箱詰めしてもらったものだ。
このお茶の用意にさっきの制服も含めて、実はかなり世話やきな操である。
「うーーーーーーーん。ひと言では説明しにくい」
「じゃ、さいしょから始めて、終わりになったらやめてよ」
「……なんだそれ?」
「いいから。全部聞かせてってコト」
「こう、初日の授業で、跳び箱の授業があって……」
「ふんふん」
「×(ぺけ)組ってのがあって、そこにみの虫みたいに吊されてだな……」
「……ごめん、もうワケわからない」
「いいから聞けって」
「リキって拳法使いがいたんだが強くてなー」
「おお?」
男吾にはナイショだが、拳法と聞いては黙っていられない。
「で、ケンベエってのが出てきて、こう、ハンマーとかデッキブラシとかカサとか、さして」
「……アタシ、想像力に自信なくなってきたワ」
「で、こう、十字架に貼り付けにされてだな」
「……なんというか、貴重な体験したわね」
「……んでもって、最後に正義の男吾パンチを叩き込んできたわけだ」
「へえー、それで、メデタシメデタシと」
「ああ、あの調子じゃ向こうは大丈夫だろ」
「向こう」を思い出しているのか、男吾は少し遠い目をする。
なんのかんの言って、コイツは一度関わったら最後まで見届けないと安心しない性質だ。
そのコイツがそういうからには、「向こう」の連中とやらもそれなりに信頼できたようだ。
と。
「んで、なんであんな急いで帰ってきたわけ?」
「……いや、こっちに来たあのメガネが、その生徒会長の片腕と聞いて……」
「バッカね~」
笑い飛ばしてやる。
「アタシらをまとめられるのは学食のオバちゃんか竜子センセくらいよ!」
逆に、信頼されてないと思うと腹が立つというもんだ。
「……でも、そのプロの双子ってのは興味あるわねー」
「そうか?」
「男吾が女の子を強いって認めるなんて珍しいもの。……ちょっと戦ってみたいかも」
……イヤでも一年後から延々と戦う羽目になるのだが、もちろんこの時の操は知るよしも
なかった。ついでにこの発言を訂正したくなるのだった。
「それにしても学園長のオッサン、なんであんな学校にオレを送り込んだんだ?」
「……そのまんまじゃないの?」
「へ?」
「だからー、こうやって、生徒会長の企みとか管理教師とか、全部ブッ壊して欲しかったん
じゃない? アンタがやりそうなことだもん」
「……なんで?」
「ほら、柔道部のコト、思い出しなよ。あのシロトカゲがやろうとしたことと同じじゃない」
それは男吾が大文字学園に入学してすぐのことである。
理事長の息子である教師・倉田は「大文字学園を人並みに引き上げる」という名目の元に
柔道部を手下に使い、恐怖政治じみた学校運営をしていた。
それをブチ壊したのが男吾たちであり、陰から手を貸していたのが実は学園長である。
「あー、そういえばそんなこともあったなー」
「そ。……だから、学園をムリヤリ改造するようなのは嫌いなんでしょ、学園長は」
「そっかー、……よくそんなのわかるな、オマエ」
「アンタと違って頭いいもん、アタシ」
ふふん、と胸を張る操。
「あ、そうだ。アンタの制服直したから、サイズ合ってるか確認してよ」
と、制服を手渡す操。
「おー、サンキュ」
「……どう?」
「うん。バッチリだ。さすが操だな」
さっさと脱いでハンガーに戻す男吾。
と。
「……なんだ? ニコニコして」
「いや、一ヶ月も会えないと思ってたのに、三日で帰ってきてくれたから」
「うん?」
「いやいや、アタシの中の男吾成分がなくならなくてヨカッタヨカッタ」
「……なんだそりゃ?」
すると。
ころり。操は猫のように男吾の腰掛けるベッドに転がり込むと、男吾のヒザに頭を乗せる。
「男吾成分は男吾にくっつくともれなく補給されます。離れてると減っていきます。
足りなくなると機嫌が悪くなったり二日目な気分になったり色々大変です」
にっこり。操が笑う。
「……ばーか」
言いながら、ちょっと顔を赤らめる男吾。
二日目な気分というのは直接は知らないが、色々大変らしいというのは聞いたことがある。
「ホラ……これでいいのか?」
さらさら。
イイにおいのする髪の毛をそっとなでる。
「んー、もっと」
目を閉じて、うっとりと、操。
ぐりぐり。
頭のツボを押すような感じで、軽く指先に力を込めてやる。
「あはっ、くすぐったい」
「……どうだ? 補給は終わったか?」
「んー」
がばっ。
操は男吾のシャツをまくり上げると、そこに抱きつくようにして男吾を押し倒す。
「お、おい?」
ずるずる。そのまま男吾の下半身をベッドに引きずり込む。
「ぜーんぜん足りない。これはやっぱり直接入れてもらわないと」
「入れるって、何を!?」
「その通り~」
「「ナニ」か!」
「ふっふっふ、観念しなさい。テツなら今晩帰ってこないから」
「な、なんで!? つか夜だし!」
「アンタ、さっきまでぐうぐう寝てたじゃない」
「……ぐ」
それよりテツの安否が気になるところだが。
目の前の発情しちゃったお嬢様には、理由も理屈も反論も認められないのはよっくわかっている。
すまん、テツ。
たぶん操のことだから命に別状はないだろう。
と。
心の中でつぶやくだけにして。
目の前の快楽に流されてしまう男吾だった。
ホラ、だって若いし。
おわる。