大嵐が吹き荒れまくった、男吾三年の二学期。
二階堂姉妹の転入に始まって不破源次郎の大暴れ。
暴走機関車のように多数の生徒を叩きのめした不破と、
その不破をついに止めた男吾。
校内の暴力事件として問題視する声もあったが、「生徒達が自分たちで解決したので」と
いう学園長の鶴の一声でそれ以上の問題追及は行なわれないこととなった。
と、いう事情は全く知らないのだが、男吾と陣八は大みそかに学園長の家で
「さびしい老人年末ぐらいは楽しくやろう大みそかスペシャル」をとりおこなった。
途中、二階堂姉妹の乱入から「戦術の書」争奪戦に移行し、年明けにみんな仲良く
風邪を引いてダウンというオチがついたのだが、そこらへんは単行本をご覧下さい。
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「おかしな ふたご」 08/04/21 by TANA
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年始の挨拶に来た学園長の息子夫婦が帰ったあとも、挨拶に来ただけのはずの操はせっせと
働いていた。
とりあえず乱と舞は「女の子なんだから同じ部屋なんてダメ! 汗とか拭くんだから!」
という一声で奥の部屋へ。
居間で学園長と陣八と男吾が寝ているはずだが。
「……あれ、まだ帰ってなかったのか?」
その声に、台所に立つ操が振り向くと、男吾が立っていた。
「うん。この有様じゃ料理なんて出来ないでしょうから、ゾースイでも作っていこうかと」
「……オマエって、料理できるのか?」
同級生の料理には苦い思い出がある男吾は警戒しながら聞いた。
「アタシん家、男兄弟だし。ハジメは年齢も離れてるから世話とかすること多かったのよ」
がちゃがちゃと台所の調理道具を片付けながら操が言う。
「……ところで、昨日何食べたの?」
「年越しソバ」
「……鍋はともかく、フライパンと土鍋とオーブンと中華鍋はナニに使ったのよ」
「いや、舞に聞かないとわからない」
つくづく同級生の料理に苦い思い出のある男吾だった。
「ま、いいわ。土鍋が出てるから人数分作っていくわよ」
「スマン」
「いいっていいって。ところでアンタ、具合どう?」
「んー、熱は下がった、と思う……」
「何よ、思うって」
「いや、風邪なんてあまり引いた覚えがなくて」
「どこまでも頑丈ね、アンタ」
ぴた。
操は振り向くと男吾のひたいに手を当てた。
「──うん。ホントに下がっているみたい。若いから体力あるのカナ?」
それを言うと年齢いっこ若い陣八の立場がないが、操は気にしない。
「あ、あと帰る前に二階堂のふたりの服、代えてあげないと」
「ん、オレがやっておこうか?」
「……スケベ。蹴るわよ」
「タンマタンマ! ジョーダンだ!」
神速の早さで否定する男吾。
コンマ1秒でも遅れていたら本当に足が飛んでくるからおそろしい。
「そういえば、あのふたりと何かあった?」
「ああ、弟子入り許可した」
「ええっ!? ホント!?」
「……そんなに驚くことか?」
「あちゃー、こんなことならアタシが先に入っておけば……イヤイヤ、それは違うわ」
「何ひとりでぶつぶつ言ってるんだ?」
「……アンタのことだから、決闘した勢いとか年の瀬のどさくさでオーケーしちゃったんでしょ」
ジト目でにらみながら操が言う。
「う」
大当たりである。
「……はあ、ただでさえ多いライバルがまた」
「何の話だ?」
「こっちの話よ。とにかく」
「弟子入り許可したんなら、ちゃんと責任取りなさいよ」
どこか無愛想に──不機嫌そうに、操は言った。
「オッサン、陣八、起きろー! 雑炊が出来たぞー!」
男吾が土鍋を抱えてやってきた。
「ふええ、アニキ、なんでもうそんなに元気なんだ?」
陣八が目を回しながら、やっとこさ起きる。
「へっ、鍛え方が違うんだよ」
「なんかお前さんが言うと説得力がありそうでないのう……」
オッサンと呼ばれた学園長もよっこらせと起きる。
多分、鍛え方とかではなく素材とか細胞レベルで何か違うと思っているに違いない。
「……これ、まさかお前さんが作ったのか?」
「いや、操が。だから安心して食ってくれ」
「なんじゃ、まだおるのか。もう夜だというに」
「帰りはオレが送っていくよ」
「……フム。で、その円谷は?」
「乱と舞のトコに雑炊持って行った。なんか話があるって」
「女どうし、はなやかでいいのう」
「どうせこっちはむさくるしいよ!」
あっかんべーをして男吾は言った。
「……じゃ、このシャツはアタシが洗っておくから、忘れずにあとで取りに来なさい」
雑炊を食べ終えたあとにふたりの下着類を交換させると、操は言った。
「……あ、ありがとう」
礼を言うことになれていないのか、どこかぎくしゃくしながら乱が言う。
「いーのいーの。男吾に絡んでいるとこんなのしょっちゅうだから」
ぴく。
その言葉に乱と舞のふたりが反応する。
「あああの、円谷」
おずおずと乱が口を開く。
「操でいいわよ」
「操。──その、師匠のことなんだけど」
「──姉さん」
舞が遮る。
まだ決心がついてないかのように。
「……」
そんな舞を見て、乱もまた黙る。
「……」
少し、間が空いた。
と、
「……じゃ、アタシ帰るから。風邪こじらせないようによく寝なさいよ」
と立ち上がりながら、操。
ぱたん、と襖が閉まった。
「……姉さん」
舞が乱を呼ぶ。
乱が振り向く。
見合うふたり。
ふたりの目には、涙がたまっていた。
「──待って、ほしい」
後ろからの呼びかけに、驚きもせず操は振り向いた。
「なに?」
「あの、あなたは、師匠と……その、付き合っている、のだろうか……?」
「──うん?」
操が目をむく。
考え始める。
「……考えたこともなかったわ」
腕組みまでして首をひねりながら言う。
「……それと、アンタたちと、何か関係あるの?」
とりえあず答えが出なかったようだ。
「……少し、昔の話をしてもいいだろうか」
「いいけど」
「私たちは、幼い頃から、ヘンな生き方をしてきた。……私たちは、いびつだ」
くっと、口唇をかむ乱。
操は笑いもせずにまっすぐ見つめている。
その頃。
乱と舞のいた部屋。
「う、うう……」
舞は静かに、すすり泣いていた。
「──いびつ?」
操は聞き返した。
単純に想像がつかない、という表情だ。
「そうだ。──事情があって、ふたりだけでプロのボディーガードとして生きてきた。
命令があればどんなひどいこともした。他人を半殺しにするなんて当たり前だった。
ただ命令に従って、言われるままにしていれば生きていけた。そうすることしか知らなかった」
「……」
操は黙って聞いている。
ざんげ──なのだろうか。これは。
「初めて命令に逆らったのは、巴男吾と最初に戦ったあとだった。もう一度巴と戦うために、
初めて命令に背いた。……なんでそんなことをしたのかわからない。ただ、勢いに流される
ままにもう一度戦った。そして、負けた」
「……」
「それから、怖くなった。命令に背いたら、どうしたいいかわからなかった。もう生徒会長の
如月は失脚したが、命令に背いたボディーガードを雇うところなどないと思った。行く場所を
なくしてしまった」
「……で、大文字に来たんだ?」
「そうだ。巴男吾を倒すため、と言ったが、本当は他にどうしていいか分からなかったからだ。
もう一度巴男吾と戦えば、何か見つかるかもしれないと思った」
「……で、見つかったの?」
「……勢いで弟子入りしたが、本当は私たちみたいな人間が普通に弟子入りしようなんて
こと自体、間違っていると思う。普通に生きていくことが出来ない人間だから。私たちは」
「……」
「私たちは、いびつだ。どこか欠けていて、ヘンだ。ふたりで生きてきて、お互いしか
信じることができない。この先、普通の生活をしていく自信なんてない。」
ひとすじ。
乱の瞳から涙のしずくがこぼれ落ちた。
自分を信じることが出来ない。
その目はそう告げていた。
ふう、と操はため息をひとつついた。
「まぁ、そんなコト考えているんじゃないかと思ったけど」
ぽん。乱の肩に手を置いた。
「──似たような環境で育ったヤツを知ってるわ。父親は空手家。母親は柔道家。毎日家に
帰ればケイコと訓練とケンカ。勉強なんてゼンゼン出来ないし、クラスじゃケンカ好きの
問題児。ずっと腫れ物に触るような扱いを受けてきてね、まともな人生なんて夢のまた夢」
「──」
「でもね、ソイツの家には人情があったの。だからソイツの周りにはいつも人が集まった。
間違ったことだと思えば上級生でも教師でもぶん殴ったわ。ソイツは今でも胸はって生きてる」
「──」
「ソイツは、巴男吾っていうの」
くいっ。
指で後ろ──男吾のいるだろう部屋を指さす。
少年がいる。右腕は包帯でぐるぐる巻きにされている。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
荒い息を吐いている。
当然だ。
今しがた、空手家、剣道家、柔道家、ボクサー。
それぞれの手練れと戦って勝ったばかりだ。
無理に無理を重ねた右腕はもうあげることも出来ない。
階段を上り、次の間に進む。
ビシュッ!!
少年を蹴りが襲う。
「アタシがアイツと初めて会ったとき、アタシ、アイツと戦ったのよ。そん時、アイツなんて
言ったと思う?」
「……」
手刀が道着を切り裂く。
右腕を狙った回し蹴りが決まり、激痛で倒れ込む。
ガッ!
ビシッ!
バシッ!
手刀と拳の乱撃が降り注ぐ。
とどめの一撃。
顔を狙った右拳を──左腕で受ける。
そして。
そして、動かないはずの右腕が動いた。
ばきぃっ!!
少年の右拳が少女の顔を打つ。
「『人を愛する心のないヤツなんかに、武道をやる資格はねえ!』って言ったの。冗談でしょ?
そんなの童話か正義の味方のセリフよ。……でもね、多分、今聞いても同じコト言うわよ」
「……」
「アイツを見ているとね、それ、信じてもいいかな、って思う」
にこり。操は笑う。
「アンタらも、男吾に思いのたけ、ぶつけてご覧なさい。そうしたら、きっと自分に自信が
持てる。胸はって生きていってもいいんだって、信じられるから」
「……ひとつ、教えてほしい」
「ん?」
「私も、舞も、巴に好意を持っている。操は、巴の周りに女が増えても嫌な思いをしないのか?」
「んー」
操はちょっと考える。
「まぁ、いい気持ちじゃないけどね。でも」
ぽん。自分の胸を軽く叩く。
「男吾のフトコロの深さは、底なしよ」
「……」
「アタシの想いゼンブ叩き込んでも、どっかの料理の下手なお嬢様のでっかい想いを全部
飲み込んでも、もっと強い気持ちを返してきてくれるの。だから、文句なんて言わない。
どんな気持ちにも全身全霊で応えるのがアイツ。……巴男吾だから」
その頃。
「くしゅん! ……ヤダ、風邪かしら」
可愛いくしゃみが聞こえた。
「男吾くん、今年の正月も帰ってこないのかな……」
どっかのお嬢様はぐつぐつ言う鍋を前に、思いをはせていた。
「あらァ、美味しそうに出来てるじゃない」
ひょい。ぱく。
「ちょっと、お母様! つまみぐいなんて」
「いいじゃないの。……あら、美味しい!」
機嫌良く立ち去った母親を見送って、隣の家を見る。
早く帰ってこないかな。
きっと卒業したら帰ってくるよね。
──帰ってくるだけではなく色々引き連れて帰ってくるのだが。怪獣とか。
もちろんそんなことは知るよしもないのだった。
「それじゃ、お大事にー」
先ほどの話の片鱗などおくびも見せずに屈託なく操が挨拶をする。
「お前さんも、気をつけてお帰り」
教師らしく学園長が答える。
「ダイジョーブですよ、男吾が一緒ですから」
「だっはっは、操を襲おうなんて人間の方がきっと不運だよなー」
がんっ!
笑う男吾の頭を小突く操。
……いや、小突いたにしてはかなり痛そうな音だった。
あ、後ろで頭抱えてる。
乱と舞は姿を見せなかった。
先日激しく降った雪はもう止んでいた。
地面の雪もおおかたは溶け、路地の片隅にその名残をとどめていた。
「男吾、この辺でいいよ」
「え? 駅まで送るぜ」
「もうそこから繁華街で明るいから。人目もあるし、大丈夫」
「……もしかして、さっきのジョーダン、まだ怒ってるのか?」
「まさか。──ただ、人目があると出来ないことがあるじゃない?」
「え」
と。
ふわりと距離を詰めた操がそっと口づけた。
「──」
「──」
すこし。
少しの間だけ、時間が止まったようだった。
「……あのさ」
「ん?」
「二階堂の乱と舞ね、悩みがあるんだって。……師匠なら相談に乗ってあげなさい」
「……オマエじゃ相談に乗れなかったのか?」
「うん。アタシが思うに、男吾ならきっとチカラになってやれると思うんだ」
「……なんかプレッシャーかかるな、それ」
「男の子でしょ? 頼られたら応えてあげなきゃ」
「──ああ、そうだな」
「じゃ、アタシ、行くね」
行って、たっと駆け出す。
まったく。
まったく、人がいいったらありゃしない。
それは操自身のことか、男吾のことか。
操は、不思議と、笑みが浮かんでくるのを感じていた。
おしまい。