どっごーん!!
大砲のような音が響いた。
「ぐふっ!!」
どすっ!!
受けた、はずだった。
しかし、現実には吹き飛んで、後ろの大木に叩きつけられた。
つまりは、威力がケタ違いだと言うことだ。
「お? もう終わりか?」
終わりか、どころではない。
舞はすでに3メートルくらい横の地面に転がって気を失っている。
乱自身も、今の一撃で立つことすら出来ない。
「ありがとう……ございましたっ……」
ようやく、それだけ言って。
乱も妹に続いて気を失った。
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「それゆけふたごの格闘修行」 08/05/15 by TANA
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「わっはっはっはっはっ、そうか、火山さん元気だったかー!」
場所は学食。
大笑いしながら、男吾は昼食の唐揚げをほおばった。
「……元気どころじゃない、デタラメに強かった」
乱は頬に、舞はあごにでっかいバンソーコーを貼っている。
「そうかそうか!」
「はじめは横にオンナなんか連れてるから、ナンパなヤツかと思ったが……」
「甘かった……」
「あのヒトは特別製だからなー! ほほう、てこたぁそっちもウマくいってるのか!
こりゃめでてえや!」
「……師匠」
「ん? どした?」
「強いヤツと戦って、腕を上げたいと言ったはずだが」
「だから、火山さん、強かったろ?」
「「強すぎだー!!」」
ばーん!
思わず乱と舞のふたりそろって声を上げて机を叩く。
学食のお盆が宙に舞って落ちる。
「あんな一撃必殺な人間凶器みたいのに一方的に叩きのめされても強くなれない!!」
「豆八がしゃしゃり出てこないと思ったら、あんな殺人マシーンを紹介するなんて!!」
「……陣八だっての」
ぼそりと学食の端の方で陣八が言ったが、誰も聞いてくれなかった。
「もうちょっと、修行になるような相手を紹介してくれ!」
「操に勝つためには、もっと強くならなくてはいけないんだ!!」
ぎゃーぎゃー。
すっかり興奮したふたりは学食の皆の視線が集まっていることにも気づかない。
「……いや、だから火山さんなら操の三倍は強いぞ?」
「「違うー!!」」
「ったく、もう」
ぱくり。唐揚げを頬張りながら操がつぶやいた。
最近はずっとこんなカンジで、休み時間のたぐいはすっかり男吾を双子に取られてしまった。
まぁ、そのぶん放課後は乱と舞をやっつけてから男吾を独占するのが日課になっていたが。
もう中学三年も後半。
受験に備えて部活動を引退した身としては運動不足解消にはちょうどいいが。
「うーん、別の相手、ねえ……」
自慢ではないが男吾はケンカ相手をあまり分析するタイプではない。
いつも全力でぶつかって、もぎとってでも勝利をつかみ取る主義だ。
だから「うまいこと修行になるようなケンカ相手を紹介してほしい」と言われても、
どうにもピンと来ない。
あと誰がいたっけか。
男吾は頭の中で勘定してみる。
鬼塚さん……はちょっと操とタイプが違いすぎる。
静波は……フランスだっけ。
「お!」
ちょうど良さそうなのを思い出した。
どちらかと言えば、このふたり向きと言えなくもない。
「どうした、師匠!?」
「次は、誰を!?」
「うむ! ……次は、」
男吾はにやりと笑った。
「剣道だ!!」
「姉さん、着いた」
「……ここだな」
ざっ。
ふたりは、
とある高校の前に着いた。
── 一条真琴。
女ながら、一度は男吾と互角にやり合ったこともあるという。
「いいか、オマエたちの持ち味はスピードだ」
男吾が珍しく熱弁をふるっていた。
「で、あらゆる武道の中でいっちゃんスピードがあるのが剣道だ」
「剣道……?」
乱も舞もピンと来ないようだ。
どちらかというと、どしーんと音を立てて力強く打ち込む印象がある。
「あのな、剣道の上級者のサバキは、普通、目で追えないぞ? そんくらい、速い」
「そうなのか……」
「苦手なところを強くするのも手だが、得意なところを徹底して強くするのも、手だ。
まぁ、せっかくだから、自分たちより速い戦いってのも見てみたらいいんじゃねェか?」
「オマエたちか。巴が昨日電話してきた双子というのは」
ざっ。
律儀に校門前で待っていたのは、白袴に竹刀。長い髪を後ろでくくった姿。
もちろん一条真琴だった。
「……アンタが一条か」
ざっ。
乱と舞はすかさず臨戦態勢に入る。
問答は無用。弱ければさっさと帰るのみ。
「カクゴ──」
「バカモン!!」
しゅっ!!
「……!」
見えなかった。
目にもとまらぬスピードで繰り出された竹刀は、乱と舞、ふたりの目の前に突きつけられていた。
踏み込めない。
今の速度で竹刀が動くとしたら、この間合いからでは即座に打たれる。
それが分かるから、動けない。
「……竹刀は、ケンカの道具ではない」
すっ。
一条はあっけなく竹刀を自分の肩に預けた。
「巴の言うことだ。電話では意味がよく分からなかったが、なにやら強くなりたいから
剣道を経験してみたいという。それでいいのだな?」
「そうだ、だからアンタを──」
「ちょうど良かったな」
にやり。なにやら含むところをあるような笑顔を浮かべる。
一条にしては珍しいが、初対面の乱と舞にはわからない。
「今日は先日引退なされたセンパイがおいでになっている。存分に稽古をつけてもらえるぞ」
案内された剣道場。
割と設備はいい──少なくとも、大文字中の使い込まれまくった道場よりはずいぶんと
豪華だ。
そして、そこに彼女はいた。
使い込まれた面と胴、小手。
明らかに「強者」が発する気が見て取れるよう。
そして、胴の下、ひたたれに名札がついている──
「巴」
「「……はい?」」
思わずシンクロした。
「先日行なわれた全国大会で堂々の二位。それも場外での面打ちの判定が不利に取られての
負けで、実質は一位と言っても良かろう。先代の部長でいらっしゃる──」
誇らしげに紹介するが、耳に入ってはいるものの、脳が理解することを拒んでいる。
「── 巴、知子先輩だ。剣道三段。相手に不足はあるまい」
と。
いわゆる「かかり稽古」が行なわれていた。
決まった型を繰り出す側と受ける側とで行なう練習法のひとつで、初心者から上級者まで
広く使われている──
受ける側だった、知子の竹刀が突然、「消えた」。
「気合いが足りーん!!」
ばっしーんっ!!!
目にも止まらぬとはまさにこのことか。
乱と舞の目に見えたのは、すでに振り下ろされた竹刀と、その真下で床に突き刺さるかの
ように叩きつけられた、さっきまで竹刀を振っていた相手だった。
ごて。
防具に身を包んでいるはずの、練習相手はそのままぐったりと力尽きた。
どうやら脳しんとうをおこしたらしい。
これも知子が参加する練習ではいつものことなのか、部員たちは慣れた様子でその練習相手を
運んでいった。
そこで休憩なのか、知子はすっと壁際に下がると、面を外した。
……よく見慣れた顔に、確かに似ている。
一条が声をかけた。
「……主将、お連れしました」
「真琴、だからアタシはもう引退したって言ってるだろ。主将は辞めろって。……で」
ちらり。
びくん!
一目見られただけで震え上がった。
こんなの初めてだが、間違いない。
間違いなく──格上だ。それも、とんでもなく。
「そのふたりが、男吾の弟子だってェ?」
にやり。
乱と舞には上等のエサを前にしたライオンの笑みにしか見えない。
「はい、そうです」
「あのバカ、自分の姉が通う高校の名前も覚えてないとはねぇー。んふっふっふっ」
「ほら、さっさと防具を身につけろ」
ずるずる。
一条がふたりの手を引っ張る。
「──防具を着けないと、ホントに死ぬぞ」
ぱくぱく。
何か言おうとするが、言葉にならない。
「安心しろって。歩いて帰れるくらいにしてやるからサ」
それは全然安心できる話ではないのだが、もはや全てが手遅れのようだ。
(うわああああああああああああっ)
この剣道場から聞こえてくる声──主に悲鳴──は全て聞こえないことになっている。
それは、学校長から用務員さん、はたまた不良のひとりに至るまで、徹底されたルールである。
ゆえに、乱と舞の運命がどうなっても、誰も知らないのだ。
知らないなら、仕方ないよね。
「ね、姉さん……どこまで覚えてる……?」
「……20回気絶したところまで」
「あは……アタシ、23回まで覚えてる……」
全然自慢にならないのだが、口をきいてないとどちらかがいつ失神してもおかしくない。
どっちがどっちに肩を貸しているのかよくわからない状態だが、確かに知子の言うとおり、
かろうじて歩いて帰れる程度には手加減してくれたらしい。
「……師匠に、なんて言おう……」
「下手に伝えたら……今度は師匠が殺されかねないな……黙っておこう……」
「……うん、そうだね……」
「撫郎、お待たせー!」
制服に身を包んだ知子が、駆け寄って声をかけた。
声をかけられたのは、やはり学生服に身を包んだ、やけに細面の美青年だった。
「いえいえ、そんなに待ってないですよ」
にこり。
撫郎と呼ばれた男子生徒は静かに微笑んだ。
周りの目が集まっている。
無理もない。
両者ともにかなり際だった美形。
もちろんそれだけではない。
かたや成績優秀で常に学年トップを走るのみならず、華道コンクールで数々の賞を総なめに
して将来を嘱望された「男子生徒」。
かたや一年の時から各剣道大会を荒らし回り、校内では暴力教師どころか不良生徒ですら
半径5メートル以内には入ってこないという天下無敵の「女生徒」。
似合いなのか不似合いなのかはともかく、とにかく校内の有名カップルだ。
「……今日はずいぶんと機嫌がよろしいようで」
「へへ、わかる? ウチのバカ弟が元気にやってるみたいでさぁ」
「ああ、あの弟さん……」
「弟子だとか言って、けっこう根性あるのをよこしたのよ。うん、なかなかだったなー」
「それはそれは、よかったですね」
「うん!」
そっ。
知子が撫郎の袖をつまむ。
「……あのさ」
「はい。甘いものですね? もちろんご一緒しますよ」
「あはっ! やったー」
翌日。
ざっ。
無言で乱と舞が操の前に立った。
「まったく、アンタたちもこりないわねー。またやられに来たの」
「姉さん……」
「うん……「アレ」に比べれば、まだ人間だ……」
「アタシも……「アレ」に比べれば、まだなんとかなる気がする……」
「は? アレって?」
操が首をかしげた。
と。
「「師匠のバカーーーーーっ!!!!」」
「うわあああっ!?」
かつてない勢いで襲いかかってきた乱と舞。
操は思わず気圧されてしまった。
かくして、乱と舞はついに初めて操から一勝をもぎ取ることが出来たのである。
めでたしめでたし。
「うわーっ! 竹刀がーっ!」
「もうやめてーっ! たすけてー!」
同室の双子が同時に悲鳴を上げた。
なんかトラウマった模様。
めでたしめでたし。