その男は校内でもひときわ目立っていた。
強そうなわけでもない。
悪そうなわけでもない。
むしろ逆だ。
弱そうで、善良そうだ。
しかし、女生徒のみならず男子生徒すらつい足を止めて見入ってしまう、何かがあった。
かなりの優男──というか、女性に間違われそうな細面の整った顔立ち。
それでいて、常にぴんと張り詰めた静けさが周囲を覆っている。
彼が話題になるのは、むろんそれだけではない。
校内一の人気者。剣道部のみならず学内の体育会系のエース。三年連続ミス校内一。
── 巴知子(しるこ)の交際相手だからでもある。
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「甘イモノ」 08/06/22 by TANA
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「じゃあなー! お疲れ様でしたっ!」
しゅたっ、と手を挙げて、知子は体育館をあとにした。
「「「おつかれさまでした~」」」
こちらは後輩陣。
ありがたいことに引退した知子に稽古をつけていただいて、全員ひとしきりボロボロである。
「いたた……」
防具を外した一条真琴は、頭頂部を撫でた。
知子の一撃は防具の上からでも失神されられることが珍しくない。
今日は気絶しないだけ、運が良かったというものだ。
「……ねえねえ真琴、知子先輩、また撫郎(なでしろう)先輩のところかな?」
こちらは防具を外す気力もないのか、横たわったままで同級生が聞いてくる。
「いつものことだし、そうじゃないか?」
と、真琴。
中学時代の多くを男装姿で通した真琴は、つい昔のクセで男言葉が出る。
それがまた一部の後輩の女子生徒から人気が出る要因となったりするのであるが、
自分は極めてノーマルだと思っている当人には迷惑な話である。
「あー、また「甘いもの」かー……」
別の同級生がよろよろと近寄ってくる。
「前から気になっていたのだが」
と、真琴が首をかしげる。
「知子先輩って、そんなに甘いもの好きだったか? いつも「甘いもの」と言っているが」
「「はぁ!?」」
「アンタ、気づいてなかったの?」
「──へ?」
「あんなの比喩に決まってるでしょ。暗号みたいなもんよ」
「暗号? なんの?」
「……そりゃ人目をはばかることに決まっているじゃないのよ」
「人目を、はばかる……?」
いまいち真琴にはなんだかわからないらしい。
「こーゆーこと」
むにゅ。もみもみ。
同級生が遠慮なく真琴の胸を揉みしだいた。
「きゃっ!」
かつてはサラシを巻いて隠していた胸も、今はサラシでは隠しきれないほどにたわわに
実っていた。いやあ、お父さんは嬉しいなぁ。
「って、え? ええ!?」
真琴パニック。
「あのねぇ、年頃の男女がいっしょにいてすることと言ったら、決まっているでしょうが」
「そーそー。あのふたり、中学からの付き合いでしょ? 何もない方がおかしいわよ」
「ま、まさか。知子先輩と撫郎先輩に限って……」
言いながら、つい想像する。
健康的な美形に、アスリートの鏡のように引き締まった知子のカラダ。
ひょろりと一回り背が高い、しかしびしっと姿勢に筋の通った撫郎のカラダ。
それが、あーなってこーなって。
くらくら。たらり。
「──あれ?」
「ちょっと真琴! 鼻血!!」
「あんたナニ想像してるのよ!」
わーわーと大騒ぎ。
まぁ、つまるところ。
真琴も同級生たちも。興味津々のお年頃と言うことである。
さて、その頃当人たちは。
駅のトイレで着替えて私服になって──さすがに制服では入れない──いわゆるひとつの、
「あーなってこーなって」をする場所にいた。
がらっ。
「撫郎、お待たせー!」
がばっ。
シャワールームからバスタオル姿で知子が出てくると、後ろから抱きついた。
ふんふん。鼻を鳴らす。
「撫郎はいつも花の香りがするねー、……今日はなんの香りだろう?」
「──今日は、次に生ける花を選んでいました。たくさん花を手にしたので、混ざっているのでしょう」
くるり。
抱きつかれたまま撫郎が振り向く。
こちらも、下半身にバスタオルを巻いただけの姿だ。
すー。撫郎も軽く匂いをかぐ。
「知子さんは、いつもと同じ香りですね」
「えっ!? シャワー浴びたけど、まだ汗の臭い、する?」
「いいえ」
にこり。撫郎が微笑む。
「知子さんは、おひさまの香りがします」
「……!」
くらっ。
……やられた。
──この男は、悪気もなく、予想もしてないところから、こちらの急所をテキカクに突いてくる。
最初に出会った時からそうだ。
「この豪快さの中にも繊細な心をあわせもつ美しさ……そうまるで……あなたのような……」
この一撃でやられた。
ずるい。反則だ。インチキだ。
そう思っても、ココロの方がときめいてしまう。
「……うー」
顔が真っ赤になるのを感じる。
ぐいっ。
知子は、撫郎をそっと押し倒すと、口唇を重ねた。
ちゅ、ちゅ。
自慢ではないが、剣道ほどにはこの手の行為のテクニックには自信がない。
自信があるのはむしろ、
そっ、と撫郎が知子の身体に手を回す。
ちぅ、ちゅ、ちゅっ。
はじめは小鳥がついばむように、やがて静かな中から情熱が染み出してくるように荒く。
つ、と知子の口内に撫郎の舌が進入してくる。
ちゅぱ、ちゅば、ちゅっ。
応えるように知子も舌で迎え撃つが、……防戦一方だ。
柔らかな舌が時に鋭く、特に優しく、知子の性感をつつく。
……興奮が高まるのを感じる。
「ぷはっ!」
あわてて知子は顔を離した。
「──どうかしましたか?」
落ち着き払った撫郎の表情。
今しがたの激しい攻めなどまるでなかったかのようだ。
「……撫郎、またうまくなった。ズルイ」
「日々研鑽です」
するり。しゅるり。
あれ? と思う間もなく、体勢を入れ替えられた。
ついでにバスタオルもはぎ取られた。
産まれたままの姿にされてしまった。
「──口唇は時に花にたとえられます」
ちゅ。
今度は、撫郎の方から、口づけをしてくる。
ぞくぞくする。本当にズルイほど気持ちがいい。
「日々花を扱う私の方が、うまくなりやすいのかもしれませんね」
そんなわけない。
でも、確かにうまい。くやしいほどうまい。
すっ。
繊細な撫郎の手が、知子の双丘の上に重ねられる。
「──あっ」
いったいどんな仕組みになっているのか。
撫郎の手はそれ自体が快感を引き出す力を持っているかのように、触れるだけであまりにも
気持ちがよくなる。
さらり、さらり。
……まだ丘の頭頂部にすら達していない。
それなのに、もう知子のカラダのあちこちから電気が走るかのように淡い快感が走る。
これで、もし一番上の敏感な部分に触れられたら。
恐怖と、期待とが交錯する。
こわい、さわらないでほしい。
きもちいい、もっとさわってほしい。
相反するこころ。
しかし。
ふにゅっ。
「──あんっ!」
言って、慌てて口を押さえる。
敏感なトップではなく、全体をもみほぐされた。
予想外の感触と喜びに、つい声が漏れた。
「知子さん、また大きくなったんじゃないですか?」
ほよほよ。
軽く乳房全体を揉みしだきながら、撫郎が聞く。
「……う、そ、それは、ちょっとだけ……だって、撫郎がいつも揉むから……」
「いいじゃないですか。女性らしくて。私は好きですよ」
「……!」
またきた。
今度は「好きですよ」だ。
本当に、何度言われても体中に電撃が走る。
小憎らしいくらい、いとおしい。
すっ。撫郎の手はどういう仕組みになっているのか、全体をもみほぐす刺激がとぎれないのに
敏感なピンクの乳首に指が触れた。
「ん……」
もうそれだけで声が出てしまう。
もっとやってほしい。
もっとやってほしい。
もうココロには別れている余裕などない。
さわり。さわ、さわり。
「……!!」
かろうじて声をこらえた。
待ち望んでいた快楽が来てくれた喜び。
指先で転がされただけでこの刺激。
ごく微妙に力の入れ加減が変化している。
ひとつとして同じ力加減などない。
敏感な場所だから、よくわかる。
「──知子さん、ガマンしなくていいんですよ?」
いつもと変わらない声──いや、少しうわずっているだろうか。
興奮しているのだろうか。撫郎も。
「可愛らしい声を、聞かせて下さい」
言って。
ちゅ。
全く手を止めないまま、さらに口唇での刺激を開始した。
「あん! ああん! あーっ!」
びくんびくんとカラダが跳ねる。
思わず撫郎の頭を抱えてぎゅっと抱きしめる。
「ダ、ダメ……撫郎……」
ぶるぶるとカラダを震わせて知子が言う。
「なにがですか?」
どうなっているのか、撫郎はしゃべっているのに刺激は変わらない。
いや、むしろ強くなってる。
「ア、アタシ、むねで、あっ、おっぱいだけで、ああっ」
刺激が強くなる。
「おっぱいだけでイっちゃうのーっ! あーっ! あーーっ!!」
知子は激しく身を震わせると、がくがくとカラダを波打たせた。
「……撫郎のいじわる」
ようやく落ち着いた。
知子の目尻に涙のあとが浮かんでいる。
「いじわるじゃないです。可愛がっているんです」
しれっと知子を抱きしめながら撫郎は言う。
「……じゃあ、アタシも撫郎を可愛がるもん」
もぞりと、知子の手が撫郎の下半身を探る。
目的物は簡単に見つかった。
撫郎のひょうひょうとした表情とは裏腹に、手にしたそれはがちがちに自己主張していた。
「……かたーい」
「さっきから知子さんの可愛い姿を見ていたら、こうなってしまいました」
「……うー」
何度言われても「可愛い」と言う言葉には魔力がある。
撫郎が言うとなおさらだ。
まぁ、もとより知子に「可愛い」という人間など、家族にも同級生にもいないのだが。
ばさり。
かけてあった布団をはねのけると、上半身ごと撫郎の下半身に向かう。
瞬間的な腕力とかには自信があるが、撫郎のような繊細な真似は自分の手には出来ない
ことはこれまでの経験上わかっていた。
なら、自分の精いっぱいで勝負する。
生まれつきの負けず嫌いがごうごうと燃える。
「ん……」
ちゅ。軽く口づける。
撫郎のものしか経験はないが、妙に魅惑的な香りがする。
そっと手で輪っかを作ると、根本のほうを軽くしごく。
ちゅばっ。ちゅばっ。
先のほうを音を立てて吸っては離す。
「ん、きもち、いい?」
「……はい、きもちいいですよ……」
軽く撫郎の声もうわずっているようだ。
それが何より嬉しい。
人を叩きのめすことは数え切れないほどしてきたが、人を喜ばせることなど、撫郎と
こういう関係になるまではなかった。
だから、撫郎といっしょにいると、新しい自分になれそうで、嬉しくなる。
「んん……」
じゅっ、じゅるっ。
口を大きく開けると、口腔内に撫郎自身をくわえこむ。
口全体を使って撫郎の敏感な部分を刺激する。
するっ。
と、撫郎の手が知子の下半身に伸ばされた。
「あっ、ダメ!」
はしっ。
思わずその手をつかんで止める。
「……どうしてですか?」
「……うー、その、さっきので、まだじんじんしてるの、だから──って聞いてよ!」
するり。
どんな手品を使ったのか、つかんだ手はいつの間にかはずされていた。
ついでにカラダも入れ替えるような形になった。
いわゆる、シックスナインの体勢になる。
「……もう」
あきらめたのか、知子はじゅるじゅると音を立てながら撫郎の分身を刺激する愛撫に戻る。
ぬるり。
知子のそこはすっかり洪水のようになっていた。
そっと撫郎の指が周辺の刺激を開拓し始める。
「ん……!」
撫郎の指が触れる場所が、新たに性感帯になるような錯覚さえ感じる。
びりびりと電気が走る。
撫郎の舌が下半身からへそを辿って乳房に迫る。
ちょっと一安心。
さっきのようなペースで舌に愛撫されたら、間違いなくもう一度イってしまう。
と。
「こういうのはいかがです?」
「ああーっ!?」
びくん! びくん、びくん!!
冗談のように知子のカラダが跳ねる。
何がどうなっているのか、信じがたいほどの快感が下半身をはね回る。
「ナニ、これ、どうなってるの……?」
知子が顔を上げて下半身を覗こうとする。
と、撫郎の顔が寄ってきて、口唇をふさがれた。
ちゅ。
「……企業秘密です」
口を離しながらそんなコトを言ってくる。
「う……あっ……あん……あー!」
知子はもう考える余裕もなくして、ただ目の前の快感に押し流され、振り回される。
「あっ、ダメッ!! ダメーーーーっ!!」
びくんびくん!!
知子は力強く跳ねると、二度目の絶頂に達した。
「はぁ……」
まだ絶頂の余韻が残っている。カラダは痺れているかのよう。
目には涙がたまり、口元からは涎がしたたっているがぬぐう余裕すらない。
「ちょっとやりすぎちゃいましたね。ゴメンなさい」
ふわり。撫郎はかけ布団を知子にかけると、そのふとんごと知子を抱きしめた。
「……」
知子はまだなにも言えないが、そうされていると、何とも言えないあたたかさを感じる。
ぬくもりというものかもしれない。
「な、撫郎……」
「──はい」
知子はそっとかけ布団を押しのけると、撫郎に向かって両手を伸ばした。
「ちょうだい……撫郎の、入れて、ほしいの……」
するり。
撫郎が知子をそっと横たえる。
ゆっくりと足を広げると、腰を進める。
押し当てられた。
「入れます」
「うん、きて……」
ずるっ。
充分に濡れているにもかかわらず、鍛え抜かれた知子の足腰は強い抵抗を保ちつつ、
撫郎を受け入れる。
「んっ……」
ぞくぞくと撫郎の背中を快感が這い回る。
「ああ、気持ちいいよう……撫郎……」
ずっ。ずっ。
知子の秘所はそれ自体が意志を持っているかのように、撫郎をくわえ込み、弄び、締め付ける。
「なでしろう……すき……すきぃっ……!」
「あっ、知子さん、しるこさん……」
互いに名を呼び、カラダを確かめ合う。
あふれる快感が、言葉を選ばせない。
ちゅっ。
情熱の赴くままに、激しく口唇を合わせる。
「あっ、ダメッ! また! またイっちゃう!!」
「イきます、あっ、わたしもっ!!」
「中に! 中に出して!!」
ぐいっ。
絶頂寸前の知子の秘所が、撫郎を締め上げ、奥へ引きずり込もうとする。
発射寸前の撫郎の一物が、その大きさを一回りはちきれんばかりにして、知子の中にささる。
互いの絶頂へ至る道のりが、さらなる快感を呼び起こす。
「ああっ!!」
「あーっ!!」
びくん! びくん!
先に震えたのはどちらのカラダか。
「「あーーーーーっ!!!!」」
ざーっ。
シャワーを浴びながら、全裸のふたりが互いの身体を洗っている。
「……なんか今日も撫郎の好きにされちゃったカンジ」
ぶーぶーと口をとがらせながら知子が撫郎のおなかをさすっていた。
「きっと知子さんは練習で疲れていたからでしょう」
さらりと撫郎は言いながら、知子の二の腕あたりを洗っている。
「……でも、撫郎、そのアタシは良かったけど……アンタは気持ちよかった?」
「ええ、とても」
にこっ。
まるで邪気のない、笑顔。信じるなというほうが難しい。
初対面からそうなのだが、この男は嘘をつくと言うことを知らないんじゃないかと思うほど、
相手を信じ切った表情をする。
だから、自分も正直になれるような気がする。
「じゃあ今度は、撫郎をもっとキモチよくさせてあげるからね!」
「はい。では、私も負けないようにがんばることにしましょう」
「いやそれはやめて」
しゅた。思わずツッコミを入れてしまった知子であった。
夕暮れ。
「アタシも彼氏がほしいなぁ……」
「アタシもー」
「いや、私には剣の道がある」
真琴たち三人は連れだって歩いていた。
と。
「センパイ、お疲れ様です!」
ばっ。
三人そろって頭を下げる。ざっつ体育会系。
撫郎と知子が並んで歩いていた。
「おー、お疲れー」
「お疲れ様です」
と、手をつないで歩いていた二人がそろって声をかけてくる。
手をつないで。
手をつないで。
手をつないで。
ぶー。
「ちょっと、真琴、鼻血!!」
「アンタ何想像してんのよ!!」
げし。
しばらくは知子と撫郎の顔をまともに見れない真琴であった。
おしまい。