ぎしっ、ぎしっ。
ベッドがきしむ音がする。
他にこのような音がするはずがない。
男女の交わりの音だ。
「ん……はぁっ!」
上になっていた女性がひときわ高い声を上げる。
「んっ!!」
と、男性の方も達したのか、身を震わせる。
とす。
女性が力尽きたように男性の上に倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ……」
互いに荒い息をつく。
──ちなみに今のが第5ラウンド目だ。
さすがの男吾と操もそろそろ限界というものだ。
──────────────────────
「旅立ち ~操」 08/07/20 by TANA
──────────────────────
男吾の部屋。
男吾の腕枕で、のんびり目を閉じる操がいた。
むろん、ふたりとも全裸だ。
「あ、そうだ。操」
「んー……ナニ?」
ごそごそ。
男吾は片手で器用に枕元の何だかわからないごちゃごちゃした中からメモ用紙のようなものを
ひっぱりだす。
「ウチに来たときの部屋割りなんだけど、オレの部屋で乱と舞といっしょで、いいか?」
「んー?」
「オレとか、他の連中は道場で寝るからよ」
「……あー、それなんだケド」
ちょっと、考え込むように、操。
逡巡は一瞬だった。
いつからそうなったのか忘れた。
でも、男吾からもらったものなのは確かだと思う。
「アタシさ、春休みはじめは用事があるから、アトから行くわ」
「……へ?」
ぱちくり。
男吾は全く予想してなかったようだった。
いつでも付いてきてくれると思っていたのなら、少し嬉しい。
……でも少し「なめないでほしい」というキモチもあったりする。
「アンタ、進学先は山岡高校でしょ?」
「ああ」
山岡高校は進学校でもなければ特にスポーツが優れているというわけでもない。
まぁ、男吾くらいの成績の人間が行くところであるからして、少しガラが悪い。
「──アタシ、私立の女子校に行くんだ」
「……じょ、し、こう?」
ぱちくり。そんな単語があったと初めて聞いたような顔の男吾。
「……うん。そこ、空手が強くてサ。アタシの入学が決まったら、部のヒトに、春合宿から
参加してみないかって、誘われたんだ」
「へえ……」
「……男吾」
「ん?」
「意外だった?」
そっと、男吾の顔を伺う。
星明かりに照らされた顔は、よく表情が読み取れない。
「……そーだな。確かにちょっと、ビックリしてる」
「…うん」
「……でも、半分は、「やっぱ操だな」ってカンジだ」
「……どういう意味?」
「うーん、うまく言えねえけどな」
「だって、アタシ、アンタを追って大文字に来たんだよ? この先もずっといっしょにいる
とか、思わなかった?」
「オマエはそんなヤツじゃないだろ」
「えっ?」
「オマエは、オマエの道をちゃんと持ってるからな。オレがいなくても、大丈夫だろ」
ああ。
バレてたんだ。
いや。
違うな。
はじめから、男吾にもらったものだから。
男吾には、わかっていて、当たり前なんだ。
「ん──」
操の方から、少し長めに口づける。
す。そっと、顔を離す。
少し、名残惜しい。
「……操?」
「うれしいな。男吾は、アタシのこと、わかってくれてるんだね……」
「そ、そんな大げさなモンじゃないぞ、オレは」
「……今のアタシがあるのは、アンタのおかげだもん。ね、もうちょっと、話していい?」
「おう」
まだ春は始まったばかり。
ともすると冷たい空気がカラダを震わせる。
それを、カラダを重ね合うことで防ぐ。
はじめて会った日のこと。
はじめて戦った日のこと。
大文字での再会。
柔道部決戦。
それからずっとふたり、肩を並べて戦ってきた。
ボクシング決戦。
サンドバックのなかのグローブ。
はじめてカラダを重ねた日のこと。
紅静波。
アゴマキ赴任。
学園祭。
白鳥竜子。
管理学園。
きもだめし。
不破源次郎。
父・金時。100人抜き。
思い返せば、なんて宝物のような思い出だろう。
たった三年間。もう、その残りはわずかなのははっきりしている。
今、こうしている間も、時の砂は流れ続けている。
「……スゴイよねぇ。アンタ、全部どうにかしちゃったもん」
「ばか。……全部オマエがいてくれたからじゃねえか」
す。腕枕している手で、そっと操の肩を抱く。
「……ううん、アタシがいなくても、きっと、男吾ならなんとかしてたよ」
と言いつつ、肩の男吾の手にそっと手を重ねる。
「無茶言うな」
「アンタには無茶なんてないでしょ」
ぎゅっ。
重ねた手に力をこめる。
「だからね、アタシ、もうアンタの側にずっといなくてもいいってわかったの」
「そうかー?」
「そうよ。……でも、もしかしたら、アンタだけじゃどうにもならない時がくるかもしれない」
「……そしたら?」
返答がわかってるクセに聞いてくる。
本当は言葉なんていらないのに、つい言葉をほしがるのは、人間が弱いからだろうか。
「決まってるじゃない」
ふふん、と鼻を鳴らす。
「アタシが助けに来るのよ。今より何十倍も強くなったアタシがね」
「……そうか」
そのまま、すこし、ふたりで空を見ていた。
「……アンタ、将来どうするとか、考えてる?」
「……いや、ぜんぜん」
「──だよねぇ」
ぷっ、と操が吹き出す。
「ああ。でも」
「ん?」
「奥田ちゃん……奥田に言っておきなさい。そのうちアタシが男吾さらいに行くから、
カクゴしておきなさい、って」
「ぶーっ!! い、言えるか!」
「あははっ、ジョーダンよ、ジョーダン。……半分はね」
「は、半分!?」
「春休み、アタシがいないからって、さっさと奥田といちゃついてたら殺すから♪」
「そ、そこは笑顔で言うところじゃないだろう!」
「ん、真面目な顔で言う方がいい?」
「……それもカンベンしてくれ」
他愛もない会話。
でも、こうしている時間も、いつか振り返れば宝物になるのだろう。
本当は。
本当は。
ずっと男吾といっしょにいたい。
そんなキモチがあるのも事実だ。
でも、それはアタシじゃない。
男吾から教えてもらった、男吾と共に戦ってきたアタシの道じゃない。
だから、アタシは、アタシの道を突き進む。
男吾が男の道をつらぬくように。
円谷操は、「操の道」を走り続ける。
空手家としてじゃない。
円谷ジムの跡取りとしてじゃない。
まして、巴男吾の女としてなんかじゃない。
アタシにしかできない、アタシの道がきっとある。
それを信じさせてくれたのは、他ならない男吾だ。
だから、今だけは。
まだ、ぎりぎり残っているこの大文字での日々は。
アタシだけの男吾で。
男吾だけのアタシで、いたい。
「……操?」
心配そうな声。
「……あれ?」
気がつけば、頬が濡れていた。
「あ、あれ? なんで? あれあれ?」
思わず顔を赤くして涙をぬぐう。
「やだ、なんで止まらないの……こんな、こんなの」
男吾には。男吾にだけは、見せたくないのに。
「……」
ぎゅっ。
「……?」
かたく。
かたく男吾が操を抱きしめていた。
「男…吾…?」
「なんで泣いてるかって、オレにはわかってやれねえ」
「……」
「──でも、胸を貸すから、好きなだけ泣いてくれ」
「……うん」
操は、男吾のカラダに手を回すと、きつく抱きついた。
涙はなかなか止まらなかった。
「……もう落ち着いたか?」
「……うん。ごめん、男吾」
「いいってことよ」
「……ね、男吾」
ぎゅ。にぎにぎ。
男吾の大事なところをそっと刺激する。
「こら」
「もう一回だけ」
「……それ、さっきも聞いた」
「う……もしかして、疲れてる? なら、」
「む」
がばっ。
押してダメなら引いてみる。
操の思惑通りにかちんと来たらしい男吾は、一気に操の上に覆い被さった。
「誰が疲れてるって?」
「あ、あらあら。とっても元気」
にぎにぎ。
手は止めてなかったりする。
「ばか」
そっと男吾が口唇を重ねてくる。
操は片手を止めずに、もう一方の手でそっと男吾の頭を抱え込んだ。
「ん……」
そっと舌が挿し入れられる。
こちらも舌で受け止める。
互いの柔らかさと味を確かめ合うようにつつき合う。
この夜だけで幾度も繰り返していながら、まだ足りないようにすら感じる。
忘れない。
この喜びを。
女として幸せを。
ぬるっ。
男吾が操の秘所に手を伸ばす。
もう何度も愛し合ったカラダは充分に出来上がっていた。
「ん……キモチ、いい……」
操は、うっすらと自分の顔が上気しているのを感じる。
「早く、きて……男吾の……ほしいの……」
言って、操はそっと両手を男吾の方に伸ばした。
気づけば朝だった。
ケッキョク、朝までずっとしてしまった。
さすがの男吾も今は操の隣で高いびきだ。
「ん……」
何度も愛されたカラダはすっかり男吾の感触が刻みつけられている。
この数年、果てしなく繰り返された営みの。
これがあるから、アタシは戦える。
この三年間を、アタシは一生忘れない。
今日は卒業式。
操は家に帰らず、荷物をまとめてそのまま次の合宿先へ向かう。
次の戦いへ。
おわり。