※この作品はR-18です。

あまいぞ!男吾SS集   作:TANASOUKO

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約束

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約束の言葉があった。

 

 

──だから大文字で三年間修行して、おまえに似合うイイ男になってくらァ!

 

 

実際には三年どころではなく、もう二年かかって帰ってきた。

 

いや、それも帰ってきたというか、さらに旅に出ようとしたところで家族に叩きのめされて

旅立ちそこねたというカンジだ。

 

でも、約束は約束。

 

ずっと、ずっと心に仕舞っていた約束の言葉。

 

 

 

──────────────────────

 

 

「約束」 08/07/21 by TANA

 

 

──────────────────────

 

 

 

こんなこともあろうかと用意しておいたデパート商品券で、男吾を除く巴一家は上機嫌で

買い物に出かけていった。

 

出がけに知子がこっそりと姫子にだけわかるようにウィンクをした。

 

さて。果たして約束の王子様はなんと言ってくれるやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そーっ。

家族が出かけたのを確認すると、操は男吾のいる道場の裏手に回った。

あの家族のことだ。どこで気配を察知されるかわかったものではない。

 

通気口からのぞき見ると、男吾がひとり、正座をしていた。

 

「……どうするのよ、男吾」

 

 

誰にも聞こえないようにつぶやく。

 

 

「ホント、どうするんだろうか」

 

「……!?」

 

 

とっさに口をふさいで横を見る。

 

 

「二階堂姉妹……アンタらも?」

 

 

同じように隣の通気口に仲良く並んだそっくりの顔。

言うまでもなく、二階堂乱と舞だった。

 

 

「ああ」

 

「事情はどうあれ、奥田がいながら師匠はアタシたちを抱いた。どうするのか……」

 

「そう……。そうよね……」

 

 

がらり。

扉が開く音がする。

 

 

 

男吾と同じ道着姿。

 

姫子はゆっくりと歩いてくると、男吾の1メートルほど前に、向かい合わせに正座した。

 

 

 

 

 

「男吾くん……話って?」

 

「……ああ」

 

 

 

しーん。

空気が張り詰めている。

 

ごくり。

 

乱か、舞か──つばきを飲む音がする。

 

遠くでセミが鳴いている。

 

 

 

 

 

 

──と、

 

「すまん!!!!」

 

 

ごん!!!

 

 

地面にめり込むような勢いで叩きつけられた男吾のひたいが床を叩いた。

 

 

 

 

「──どういうコト……?」

 

正座の体勢を崩さずに、姫子が静かに問いかけた。

 

「オレは……その……お姫……ええとだな……なんというか……」

 

しどろもどろ。

言葉が出てこない。

というかナニから話していいかわからない。

 

 

 

「とにかくスマン!!!!!!」

 

 

ごめきっ!!!

 

今度はなにかにヒビが入るような音がした。

男吾の頭蓋かもしれない。

 

 

「──男吾くん」

 

「……ああ」

 

床にアタマをつけたまま、男吾が答える。

 

「理由も言わずに謝られても、アタシ全然なんだかわからない」

 

「……そうだな」

 

 

 

 

 

ゆっくり男吾が顔を上げる。

 

 

 

「……」

 

静かに、姫子を見つめる。

 

 

操はわかった。

乱と舞もわかっただろう。

 

 

これは、腹をくくった時の男吾の顔だ。

本当の本気で相対する時の顔。

 

 

 

操は思わず目を閉じた。

 

こうなったら、仕方がない。

誰にも止められない。

 

男吾は全て話してしまうだろう。

 

操とのことも。乱と舞とのことも。全てを。

 

それが。それが巴男吾だから。

 

 

 

 

 

 

話は、簡潔だった。淡々と男吾は話した。

 

 

 

 

 

 

それを、姫子は目を閉じてじっと聞いていた。

 

 

 

 

 

全部、話した。

 

 

 

 

最後に男吾は言葉を重ねた。

 

「そういうワケだ。……オレはもう、オマエの──」

 

「──男吾くん」

 

 

初めて、姫子が遮った。

 

 

「……おう」

 

「アタシの顔を見て」

 

「あ、ああ……」

 

 

じっ。1メートルほどの距離を隔てて、ふたりの視線が結ばれる。

 

 

「……で? 男吾くんはどうしたいの?」

 

「ど、どうしたい、って」

 

「あの約束をなかったことにしてほしい、とか言わないでしょうね」

 

 

ぎらり。姫子の瞳がなんだかよくわからないが危険そうな色に変わった。

攻撃色かもしれない。

 

 

「え。いや、だってオレは──」

 

「わかった。……じゃあ、ちょっとの間ジッとしててくれる?」

 

「……へ?」

 

 

 

ばっ!!!

 

 

操は目を疑った。

 

それほどに速かった。

操がそれと認識した時には──男吾は宙に舞っていた。

 

一瞬にして正座した男吾の目の前に飛び込んだ姫子が放った、巴投げによって。

 

 

 

 

 

「この浮気者ぉぉぉーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

声があとから響いてきた。

どれだけ超音速ですか。

 

 

ずだーーーーーんっ!!

 

 

まさしく道場の壁を揺るがして、男吾が壁に叩きつけられた。

 

 

べしゃっ!

 

 

床にたたきつけられた男吾に、ヒビの入った壁の破片が降りそそぐ。

 

ただごとではない。

今の巴道場はかつてのボロ道場ではない。

 

一度男吾と金時の激闘によって崩れたところを、奥田財閥が誇る奥田建設が気合いを入れて

新たに建て直した、ひときわ頑丈に作られた一品である。

 

事実、今しがた姫子が叩きつけたキズ以外はヒビひとつ見あたらない。

 

 

 

 

 

「……!!」

 

脇でこっそり見ていた操も乱も舞も絶句している。

冗談のような破壊力だというのはよくわかった。

 

しかも。見る限り、男吾の母、安子のような重量級でもない、姫子のカラダから繰り出された

あれほどのバカげた威力。

 

 

 

ずん、ずん、ずん。

 

 

なんとなくゴジラの足音が似合いそうな足取りで姫子は倒れた男吾に近づく。

 

 

「アタシがずっと男吾くんのことを想ってカラダ磨いたり料理覚えたりしてたあいだに」

 

 

ぐわしっ。

姫子は片手で男吾の胸ぐらをつかみ上げる。

 

 

「他の人とエッチなことさんざんしてたなんてーーーーーーーっ!!!!」

 

 

ばんっ!! ばんっ!! べちゃっ!!

 

まるでビリヤードの玉のように正面の壁、天井、床と男吾のカラダは反射して叩きつけられる。

 

 

 

 

「……操、なんであんなのが出来るんだ?」

 

「アタシにだってわからないわよ……でもまぁ……」

 

「……」

 

「元々運動神経抜群のが、三年以上ひとりの男を想い続けながら研鑽するとああなるのかもね」

 

 

おそらくは瞬発筋。

 

大きく分けて筋肉は二種類に分けられる。

持久筋と瞬発筋である。

 

マラソンなどの長時間・長負荷に使われるのが持久筋であり、100メートル走などの短時間の

運動に使われるのが瞬発筋である。

 

おそらくは、姫子はその瞬発筋がもともと強い方だったのだろう。

 

むろん、そんな理屈で解決できるような破壊力ではないのだが、なにしろ現実に目の前で

男吾がぽいぽい投げられているのだからそう納得するより他はない。

 

 

 

 

 

「アタシがずーっと色んなヒトを振ってたのにッ!」

 

がっ!

力なく床に倒れている男吾に上に馬乗りになった姫子は、容赦なく殴りつけた。グーで。

 

 

「二宮君もッ!」がっ!

「陸上部のセンパイもッ!」がっ!

「二年の時の同級生もッ!」がっ!

「三年の時の生徒会長もッ!」がっ!

「柔道部の後輩もッ!」がっ!

「道場の新人さんもッ!」がっ!

「聖君もッ!」がっ!

「不破くんもッ!」がっ!

「高校のクラスメートもッ!」がっ!

 

いちいち全部覚えているあたり、実に律儀である。

全部覚えている分、男吾に死の危険が迫っているわけだが。

 

 

 

ぐわしっ!

 

 

もはや男吾には自力で立つような気力はないわけだが、無理やり立たせると、柔道の基本姿勢

──右腕と左襟をつかんだ姫子はふぅ、と軽く息をつく。

 

 

「男吾くんのバカぁーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!」

 

 

ぐおん!

一瞬にして姫子の姿が消えると、男吾のフトコロに現れた。

 

肩越しに男吾の右腕を抱え込む。

 

 

柔道の基本にして、象徴とも言える技。

 

── 一本背負い。

 

 

だんっ!!!

 

姫子の両足が床を貫かんばかりに叩く。

その反動が姫子の背から男吾に伝わり、男吾のカラダが宙に浮く。

 

そして、そのまま腕を前に倒しこめば一本背負いの完成だ。

 

 

 

 

が。

 

 

 

 

姫子は、そこからさらに「一歩」踏み出した。

 

理想的な一本背負いのフォームから、まるで剛速球投手の動きへ。

 

 

 

「たああああぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

 

 

 

どっぎゅーん!!!!

 

途中で姫子が手を離した。

柔道ではあり得ないことだが。

 

ピッチングマシンよろしく前方に向かって放り出された男吾のカラダは、放物線を描くどころか

地面と平行にすっとんだ。

 

 

 

 

どっごーーーーんっ!!!

 

 

 

 

今度は壁に叩きつけられるどころではなかった。

 

とりわけ頑丈に作られたはずの壁をものの見事にぶち破ると、そのまま奥田家との仕切りの

ブロック塀にめり込んだ。

 

がらがらとブロックの破片が男吾のカラダに降りそそぐ。

 

──ヒト呼んで、巴ダイナミック。

 

 

 

 

 

「……!」

 

もはや操も、乱も舞も言葉がない。

 

あえて言うなら「なにこの怪獣」。そんなカンジだ。

 

 

 

すたすた。

 

静かに姫子は男吾の元に近寄った。

 

 

「よいしょ」

 

 

がらがらと破片をのけることもなく男吾のカラダを引っ張り出す。

言うまでもないが男吾は目を回している。

むしろなんで生きているのか不思議なくらいだが。

 

 

「……男吾くん、反省した?」

 

 

むろん返事はないわけだが。

 

 

と、姫子は胸元から携帯電話を取り出すと、どこかに電話した。

 

「あ、お父様? ええ、姫子です。あの、またお隣の道場壊れちゃったので、建設会社さんの

手配、お願いしてもいい? ……はい。うん、ありがとう」

 

ぴっ。

 

「じゃあ、男吾くん、アタシの部屋、行きましょ♪」

 

 

まだ目を回している男吾の襟足をつかんだ姫子は、そのまま男吾をずるずる引きずって道場を

あとにした。

 

 

 

 

 

 

「いいのか、操」

 

「……何がよ」

 

「あのままだと、奥田に師匠を取られるぞ」

 

「バッカねー。……今の見たでしょ。あんな最終回間際の連邦の白い悪魔みたいのに正面から

挑んでも負けるに決まってるでしょ。だいたいあっちは今から何年越しの想いをとげようって

トコロよ? 今邪魔に入ったら間違いなくあの世行きよ」

 

「……確かに」

 

「いいの。正面突破だけが道じゃないもの。隙を見てかっさらえばいいのよ」

 

「──なるほど、さすが操。姑息だ」

 

「うむ。やはりデビル操だな」

 

「……誰がデビルよ!」

 

 

 

 

 

そんなカンジで。見物客三人はおとなしく帰るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

男吾は目を覚ました。

こっちもデタラメな頑丈ぶりである。

 

ここは──姫子の部屋だろうか。

窓の作りなどに見覚えがあるが、さすがに小学校の頃見た以来なので、内装のたぐいは

すっかり変わっていた。

 

どうやら、ベッドに寝かせられているようだ。

ひたいに濡れタオルが乗せられていた。

と、

 

 

「男吾くん……大丈夫……?」

 

 

ずっとベッドサイドにいたのだろう。

心配そうな顔をした姫子がこちらをのぞきこんでいた。

 

 

「……おう」

 

 

嘘だ。

身体は動かないし、アタマを筆頭にカラダのあちらこちらがぎしぎし痛む。

 

ふう、と姫子がため息をつく。

 

 

「……男吾くん、わざと投げられたでしょ。アタシの気がすむように」

 

「……」

 

 

バレてたようだ。

いやまぁ、対処しようと思っても、それが出来たかどうかはわからないが。

 

 

「……もう、ホントにバカなんだから」

 

「他に、どうしたらいいかわかんなくってなぁ……」

 

「……」

 

姫子は無言で立ち上がると、ベッドの足下──窓際の方に歩く。

ほぼ姫子の全身が視界に入る。

 

 

「男吾くん……見て」

 

 

ちょっと緊張したような、姫子の声。

 

少しだけ迷うかのように手を見ると、意を決したように、道着の帯に手をかける。

 

 

しゅるっ。

 

 

勢いよく、帯をはずす。

道着の前がはだける。

 

 

ぱさ。

道着の上が床に落ちる。

 

むろん、中にシャツを着ている。

 

だが。

服を脱いでいくという動作。

 

それ自体に魔力があるかのように、男吾は目が離せなくなっていた。

 

 

そして、道着の下。

シャツ。

 

高級そうな下着が目に入る。

いやもうそこまでで犯罪的な何かだ。

 

仮にここで男吾が襲いかかっても男の裁判官なら「これは仕方がない」と同情して無罪に

してくれるだろう。

 

 

 

ぷち。

 

ブラのホックをはずす、そんな音がやけに響く。

 

しゅるり。

左右の肩からブラのひもをはずす。

 

と、恐ろしく形のいい乳房がぼろん、とこぼれ出た。

──控えめに、なんてカンジではない。

 

明らかに、大きい。

同年代の中でも、そうとうに大きい方だろう。

 

昔はあんなにぺったんこだったのに。

 

 

そのまま、姫子の手は止まらない。

 

恥ずかしげに胸を隠しながら、器用にパンティを降ろしていく。

 

 

ごくり。

思わず男吾はつばきを飲む。

 

 

窓からは陽光。

 

 

逆行になった光に照らされた姫子の裸体。

胸と、秘所を隠した手が逆にいやらしさをかもし出す。

 

 

肌は絹のように滑らかに光り、スタイル──いや、シルエットはまるで「理想の女性像」を

モデルにしたかのように、出るところは出て、ムダなところにはたるみひとつない。

 

 

「ど、どう……男吾くん……」

 

 

自信なさげに──これで自信がなかったらどっかの見物客三人組がキレそうだが──姫子が

声をかける。

 

 

──ああ。そうか。

 

初めてだもんな。こいつ。

 

 

「いや……すげえキレイだ、お姫」

 

 

ごく。姫子が軽くつばを飲む。

 

 

「だ、男吾くんには、これから、あ、アタシのものになってもらいますッ!」

 

 

ほほを染めながら、そんなことを言ってくる。

 

 

「だ、だから、その、アタシが、じゃなくてアタシの……」

 

「わかった」

 

 

ぎしぎし。カラダはまだ痛いが、そんなことを言ってる場合じゃない。

無理やり手を動かすと、姫子に手を差し出す。

 

 

 

「お姫、来い」

 

 

 

「……! はい……」

 

 

すと。姫子はベッド──男吾の足下に腰を下ろす。

 

 

「そっちじゃねえ。こっちの枕元のほうに来てくれ」

 

「う、うん……」

 

 

おずおず。

そんな言葉をそのまま体現するかのように、じりじりと姫子がやってくる。

 

 

すっ。

 

姫子の手をつかむ。

 

 

「え、いや……男吾くん……」

 

「どうした」

 

「み、見えちゃうじゃない……!」

 

 

つかんだ手は、姫子の乳房を隠していた。

もちろん、手で隠せるようなサイズではないので、頭頂部を隠しているだけだ。

ふくらみのほとんどは、丸出しになっているのだが。

 

 

「……バカ。ずっと隠したまま何する気なんだよ」

 

「……う、で、でも……」

 

「あー、もう」

 

 

がばっ。

男吾は無理やり上体を起こす。

姫子の手を引っ張った。

 

姫子が前につんのめるような体勢になって──

 

 

 

 

 

ちゅ。

 

 

 

 

目を閉じた男吾。

一瞬大きく目を見開いた姫子も、あわてて目を閉じる。

 

 

互いの口唇と、口唇の感触。

 

 

 

ずっと、ずっと前から約束されていたくちづけ。

 

 

……初心者の姫子を気遣うように、男吾はフレンチキスだけで顔を離す。

 

 

「……男吾くん……」

 

「ここ、座れよ」

 

 

とん。

上体を起こした男吾の側を指さす。

 

 

「うん……」

 

すと。

姫子が腰を下ろす。

 

ふたりの距離はもうほとんどない。

 

「オレだけ服着てるのもヘンだな……」

 

男吾はすばやく道着の上を脱いだ。

上半身ハダカになる。

 

 

 

 

 

「抱きしめるぞ……手ェどけてくれ」

 

「う、うん」

 

そっと姫子が両手を挙げる。

桜色の乳頭があらわになる。

 

 

 

──ぎゅっ。

 

 

男吾が強く──痛くない程度に──姫子を抱きしめる。

さっきの柔道のチカラが嘘のように、姫子のカラダは柔らかかった。

 

姫子もそっと男吾のカラダに手を回す。

 

 

ふたりの距離が、ゼロになる。

互いの体温を感じる。

 

 

「男吾くん……」

 

「どうした」

 

「あ、アタシ、すごいドキドキしてる……」

 

「心配するな」

 

 

すっ。

そっと姫子の背をなぜる。

 

 

「オレもだ」

 

 

 

やがて、男吾がそっと離れる。

 

「手」

 

「え?」

 

「手、つなごう」

 

そっと男吾が姫子の手を取る。

おずおずと姫子が男吾の手のひらに手のひらを重ねる。

 

 

「違う、そうじゃねえ」

 

「え?」

 

言って。

男吾はそっと姫子の手をつかみ直す。

 

指の股と股が合うように。

そっと、ふたりの指が絡み合う。

 

たしかな、恋人同士の繋ぎ方。

 

 

「こんな繋ぎ方したの……はじめて」

 

姫子が顔を赤くする。

 

「そうか」

 

男吾は再びそっと姫子に顔を寄せる。

 

 

 

ちゅ。

 

 

 

今度はさっきより長く。

 

そして、そっと、男吾の舌が姫子の口に進入する。

無意識にか、受け止めようと姫子の舌が動いて──

 

 

びくん!

 

 

「あっ!」

 

驚いたように姫子が顔を離す。

 

 

「ど、どうした?」

 

「い、今の……ナニ?」

 

「いや、その……」

 

 

改めて口での説明を求められると恥ずかしい。

 

 

「ディープキスってやつだが……」

 

ああ、もうなんか他の言い方があればいいのだが。

男吾は自分の顔が赤くなるのを感じる。

 

 

「い、今のが?」

 

「お、おう……」

 

「……ウソ、すごい……えっと……キモチ、よかった……」

 

 

顔を真っ赤にしてしどろもどろ。

姫子が言う。

 

 

「そ、そうか。……続けていいか?」

 

こっちも顔が真っ赤だろう。

 

「……うん」

 

 

 

ふたたび顔を寄せるふたり。

 

 

 

「ん……」

 

ちゅ、と音がする。

やがて、男吾の口唇が軽く開いて、舌が送り込まれる。

 

「んん……!」

 

びくん!

姫子のカラダが跳ねる。

 

懸命に押さえ込もうとするが、それがかえってガマンしきれなかった時に強い反動を

送り込む。

 

 

 

男吾も驚いていた。

 

必死に受け応えようとする姫子の舌。

姫子の歯。口内。

 

全てがぞくぞくするような感覚を呼び起こされる。

 

今までに味わったことのないような感覚。

 

 

 

「ぷはっ……」

 

荒い呼吸をしながら、ふたりの顔が離れる。

互いの舌から唾液が糸を引き、まだ繋がっていたいかのように名残惜しげに落ちる。

 

 

「お姫……」

 

「男吾くん……」

 

 

ゆっくりと、男吾が姫子を押し倒す。

繋いだ手は離さずに。

 

空いた手が互いの背を固く抱きしめる。

 

 

繰り返し、繰り返し交わされるくちづけ。

 

 

麻薬に魅入られたかのように互いの唾液を貪り合い、求め合う。

 

幾度繰り返しただろうか。

やがて。

 

 

 

「ね、男吾くん……」

 

「ん」

 

「そ、その、ええと、つ、続きとか……」

 

 

真っ赤になりながら、姫子は催促する。

 

 

「お、おう」

 

 

男吾もじゅうぶん恥ずかしい。

とにかく言って、男吾は口づけを首すじにし始める。

 

ちゅ。ちゅ。

 

すべすべの姫子の首すじ。

舌を這わせ、口唇を押しつけることさえ、背徳的ななにかを犯しているような錯覚を

呼び起こさせられる。

 

 

「あ……」

 

 

舌を這わす。

それだけなのに、姫子のカラダが反応する。

 

いやがおうにも、男吾の興奮も高まる。

 

 

すっ。

 

男吾は、たわわに実った姫子の双丘に手を伸ばす。

 

 

「んっ!」

 

 

びくんっ!

 

 

「お、お姫? ……大丈夫か?」

 

 

あまりに反応が過剰なので、思わず心配になって男吾は声をかけた。

 

 

「ん……ダイジョーブ……その、」

 

 

少し言いよどんでから、本当に恥ずかしそうに姫子が言う。

 

 

「じ、ジブンでしてた時より、ずっと気持ちよくて……」

 

 

「!!」

 

ぷちんっ。

 

切れた。

男吾の中の決定的な何かが切れた。

 

……犯罪的だ。

 

こんな顔の、こんな姫子に、こんなことを言われてしまったら。

 

 

──もう、徹底的に可愛がってあげるほか、ないじゃないかっ!

 

 

「お姫っ!」

 

 

がばっ。

 

 

一気に姫子の胸に襲いかかる。

 

 

「あ──いやんっ!」

 

 

丘の頂上。桜色に染まった乳頭をじゅじゅじゅ、と音を立てて乱暴に吸う。

 

反対の胸を大きく揉みしだく。

姫子の乳房はまるでマシュマロか何かのようにすさまじいやわらかさで手の動くがままに

その形を変える。

 

 

「あーっ! あっ! ああっ!」

 

 

姫子の口から押さえきれない嬌声が漏れる。

 

構うものか。

もう、男吾のカラダの中に生まれてしまったこの凶暴な何かは、抑えられない。

 

 

びくん、びくんとカラダを震わせる姫子。

大事にしたいという愛しさと、無茶苦茶にしてやりたいという凶暴な感覚。

ふたつの衝動が相反しながら、結託して姫子を蹂躙する。

 

 

ちろちろ。

 

ひとしきり胸を攻め尽くして、男吾の舌はさらに下に向かう。

 

 

「あ──ん、男吾くんっ」

 

 

形のいいへそを攻める。

そのくすぐったさすら、今の姫子には刺激が強すぎるようだ。

 

 

「ああ、ああ……男吾くん……」

 

 

胸を攻め続ける男吾の手は止まらない。

まるで何かが乗り移ったかのようだ。

 

手を離せば何もなかったかのように元の形に戻る、形の良い乳房。

それが、面白いように男吾の手によってぐにぐにと形を変える。

 

 

 

「はぁっ……」

 

姫子が大きく息をつく。

 

いつしか姫子の胸から手が離れていた。

あまりの快感に、姫子は涙を浮かべていた。

 

 

「お姫」

 

 

男吾の言葉に、姫子ははっと顔を下半身に向けた。

 

固く閉じていた両足に、男吾の手がかかっている。

 

かっ。

羞恥が姫子の顔に走る。

 

下半身──もうすっかり生えそろった陰毛を全部見られていることと、そして、

これから男吾が何をしようとしているのか、理解したこと。

 

ふたつが合わさって、頭がぐるぐる回るほどの興奮を呼び起こす。

 

 

「男吾く──」

 

「いいか?」

 

 

なにが、とは言わなかった。

姫子も聞かなかった。

 

もう、言わなくてもわかる。

 

 

「見て……男吾くん……あ、アタシの……アソコ……」

 

 

 

ぐわっ。

 

 

男吾の両手が導かれるように姫子の両足を開く。

姫子は自分で開いているような錯覚を覚える。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「だ、男吾くん……」

 

「どうした?」

 

「ヘ、ヘンじゃない? あたしの……」

 

 

先ほどからの刺激によって、姫子のそれはすっかり濡れそぼっていた。

あふれる愛液がてらてらと陰唇を照らし、そしてまだ誰も開いたことのないだろう

割れ目の中心はぴったりと閉じられている。

 

興奮によってか、桜色から濃いピンクになりつつあるそこは、まるで宝石のように

男吾の目には映った。

 

 

 

「いいや、どこもヘンじゃないぜ……すげえキレイだ……」

 

「そ、そうなの?」

 

「……ああ。さわるぜ」

 

「う、うん。……その」

 

「ん?」

 

「や、優しくして……」

 

 

 

顔を真っ赤にして、姫子が言う。

そんな、当たり前のような台詞すら、姫子の口から聞くとやけにいやらしく聞こえる。

 

 

 

 

「……わかった。」

 

 

 

 

そっ。

男吾の指が、姫子の割れ目をそっとなぞった。

 

 

「あ……」

 

 

それだけで、ビンカンになった姫子のカラダはぴくんと震える。

 

 

にちゃっ。

 

 

濃い愛液が男吾の指に絡まり、円滑油となって自然に姫子のそこを押し広げ、奥へ進ませる。

 

 

「んっ……」

 

「お姫」

 

 

もうすっかり出来上がっている。

そう判断した男吾は声をかけた。

 

 

「うん……」

 

 

ゆっくりと男吾は下を脱いだ。

もう男吾のそれはすっかりいきり立って、己の存在を主張するかのようにぴくん、ぴくんと

脈打っていた。

 

 

 

「いくぞ」

 

「ああ……うん……来て……」

 

 

夢を見ているかのような声で、姫子は言う。

いや、実際。幾度も夢に見たのかもしれない。

 

この時を。

 

ふたりが結ばれる時を。

 

 

すっ。

 

 

ゆっくりと、男吾が己の下半身を姫子の下半身に近づける。

まだ入れてもいないのに、互いの体温が伝わるかのように、「そこ」に熱が集まる。

 

 

「お姫……」

 

「男吾くん……」

 

 

入れる前に、もう一度だけ。

 

互いの意思を確認し合うかのように、激しく口づけを交わす。

 

 

ちゅ。ちゅぱっ。ちゅっ。

 

 

「お姫……」

 

「ああ……男吾くん……男吾くん……」

 

 

ぬるっ。

男吾はそっと己の分身に手をあてがうと、姫子のビンカンに部分にこすりつけ、愛液を

その身にまとわせる。

 

 

「いくぞ……」

 

「うん……」

 

ぬ。

 

ぬる。

 

 

先ほどからの刺激にもかかわらず、固く閉じられていた花弁のなかに、己を滑り込ませて

いく。愛液が円滑油となってそれを助ける。

 

 

「ん……」

 

「痛いか……?」

 

「ちょっと……でも、いいの、来て……」

 

「わかった」

 

 

ぬ。ぬるっ。ぬ。

 

 

強い抵抗がある。

これが処女膜だろうか。

 

ぎちぎちと男吾自身をしめつけ、そこから先への進入を許さない。

 

 

 

「……ああっ」

 

痛みがあるのだろうか。

姫子の声が少し変わった。

 

 

「お姫……もう少しだ……」

 

「うん……!」

 

 

ぐ。ぐぐ。

 

 

ぬるっ!

ずっ!

 

一度貫いてしまったら、あとは奥まで一気に滑り込んでいった。

 

 

「ああっ!」

 

 

もっと動きたくなる衝動が走るが、それをなんとか押さえ込む。

 

 

「お姫……痛かったか?」

 

「う、うん……うん。でも……うれしいから……大丈夫……」

 

 

ぎゅっ。

両手で男吾のカラダを支える。

 

 

「男吾くん……今、アタシたち、ひとつになってるんだよね……?」

 

「ああ……」

 

「うれしい……」

 

 

目に涙を浮かべながら、そう言って姫子は笑った。

 

 

「お姫……」

 

こみ上げてくる感覚。

 

己自身を放出したい感覚。

無茶苦茶に犯したいような感覚。

 

そして、何よりも大切にしたいと思う感覚。

 

 

「……男吾くん、動いて……いいよ……」

 

「え……」

 

「アタシも、男吾くんを、感じたい……」

 

 

ぞくっ。

姫子の言葉で一気に下半身に電流が走る。

 

 

 

遊底が引かれる。

弾倉から弾丸が送り込まれ、撃鉄を待つ。

 

 

 

……ずるっ。

 

貫いたばかりの姫子の中はぞっとするほど男吾に絡みついてくる。

それだけで発射したくなる感覚を懸命に押さえ込む。

 

 

一度入り口のあたりまで引いてから、再びゆっくりと姫子の中へ押し入っていく。

 

 

 

……ずちゅっ。

 

 

いやらしい音が響く。

肉と肉がこすれ、絡み合う音。

快感から生まれるいやらしい液体が泡立つ音。

 

 

「ああ……あん……」

 

 

まだ痛みがあるのか、かすかに眉をしかめながら、姫子がうめく。

 

 

「……大丈夫か?」

 

 

つい心配になって聞く。

 

 

「うん……ちょっと……慣れてきたかも……」

 

 

「そうか」

 

 

ずっ。

 

その言葉に少し安心して、少しだけストロークを強くする。

 

 

「あっ、あっ!」

 

 

確かに姫子の言うとおり、声も痛みのそれから快感の声に変わって来ているようだ。

 

同時に、男吾の下半身にも急速に熱が集まってくるのを感じる。

 

 

「お、お姫……! オレも……」

 

「うん……! 来て! 中に出して……!」

 

 

そんな姫子のいやらしい言葉が引き金にかかった指を後押しする。

 

すでに撃鉄も引かれ、引き金を引けば全てが終わる。

 

 

 

最後の力で思い切り腰を引くと、残った力の全てを解放しながら腰を突き出す。

 

 

 

どくんっ! どくんっ! どくん!

 

 

 

「ううっ! お姫! お姫ーっ!」

 

「ああっ! 男吾くーんっ!!」

 

 

びくん! びくん!

 

 

カラダが震える。

全身の感覚が下半身だけになったかのような錯覚。

 

カラダを支える力を根こそぎ姫子の中に流し込むような感覚を覚えて、最後の一滴まで

どうにかガマンすると、男吾は姫子の脇に倒れ込んだ。

 

 

 

どさっ。

 

 

「はあっ、はあっ……」

 

「ああ……あん……」

 

ふたり、ただ荒い息を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男吾くん」

 

「ん」

 

「アタシ……その、ちゃんと出来た?」

 

「ああ」

 

「男吾くんは、気持ちよかった?」

 

「おう、とっても」

 

「よかった……」

 

汗まみれ。頬に髪をひとすじ貼り付けた姫子は嬉しそうに笑った。

さっきまで淫らな声を上げていたなんて誰が信じるだろう。

 

それほど、今の姫子は普段の清楚な姫子に戻っていた。

 

 

「これでよかったのかも……」

 

 

ぽつり。姫子がつぶやく。

 

 

「え? なにが」

 

 

「男吾くんが初めてじゃなくて」

 

「ぶっ!!」

 

「さっきのカンジじゃ、男吾くんもアタシも初めてじゃ、ぜったい失敗したもん」

 

「……そうか?」

 

「あんなに気持ちいいとは思わなかったわ。みんなが夢中になるのも当たり前ねー」

 

「そ、そうなのか」

 

「ね、男吾くん」

 

 

 

じっ。大きな瞳が期待をこめてこっちを見ている。

……何が言いたいかわかった。

さっき帰ってきた清楚な少女はまたどっかに旅に行ってしまったようだ。

 

 

 

 

ちゅ。

 

 

言葉の代わりにキスで応える。

 

第二ラウンドのゴングの代わりだ。

 

 

 

 

 

 

「あっ! あっ!」

 

上にまたがった姫子は積極的に腰を振っている。

 

ずちゅっ。ずるっ。

繋がった場所から液体じみた音がする。

 

ふたりの体液が入り交じりさらに滑りが良くなる。

 

 

「どうしようっ! 男吾くん!」

 

快感に震えながら姫子が言う。

 

「どうした」

 

「アタシ、こんな、気持ちいいの……やめられないかもっ」

 

嬌声混じりに姫子が叫ぶ。

 

 

がばっ!

 

 

思わず力いっぱい姫子を抱きしめる。

 

「安心しろ!」

 

耳元で叫ぶ。

 

「気がすむまで付き合うっ!」

 

「あ、ああっ! 男吾くんっ!」

 

 

姫子は大きく身を震わせる。

 

 

びくんっ! びくんっ!

 

 

快感の波に翻弄される。

幾度目かの絶頂を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騎上位から後背位、座位と進んで、再び正常位に戻ってきた。

 

もう、ふたりとも体中汗まみれだ。

姫子の顔には幾重にも涙のあとが走っている。

 

 

「あっ! だんごくんっ! ……すき! すきぃっ!」

 

 

もう自分が何を口走っているかもわからないように、姫子が口づけをしてくる。

 

 

ぱんっ! ぱんっ!

 

 

激しく腰を振りながら、男吾はそれに応える。

充分に慣れてきた姫子の中は、男吾自身を一番奥で受け止める。

それがまた激しい快感を生む。

 

 

ただふたり、互いを貪り合う。

 

 

「ダメッ! ダメーッ! もういっちゃうのぉっ!」

 

「オレも、オレもだ! お姫っ! お姫ぇ!」

 

「男吾くーーんっ!!」

 

 

 

 

びゅるっ!! どくんっ!! どくんっ!!

 

 

 

 

この日最後の、そしてこの日でもっとも高い絶頂に、ふたりはいざなわれた。

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

いつしか窓の外は星空になっていた。

 

さすがに限界を迎えたふたりは全裸で並んで横たわっていた。

男吾の腕枕で、気持ちよさそうな姫子。

 

 

「……満足したか?」

 

「うん……すごかった……」

 

 

まだ半分夢見心地の気分なのか、少しまどろんだような表情の姫子。

 

 

「ね、男吾くん……」

 

「うん?」

 

「また……浮気したら投げるからね」

 

「うっ!」

 

「もっと痛く投げるの、考えておくから」

 

「これ以上か! ……というか、オマエ……」

 

「……?」

 

 

 

やめた。聞くだけバカだ。

 

──オレを見捨てようとか、別れようとか、考えないのか?

 

のどまで出かかった下らない質問を、ごっくんと飲み干す。

 

 

 

「ね、もう……その、しなくていいけど、今晩、いっしょにいてくれる?」

 

「ああ……って、オマエん家の親は?」

 

「あ! もう帰ってくる時間……」

 

 

と。

 

タイミングを計っていたかのように、足音が聞こえた。

 

 

とんとん。

 

 

「姫子ちゃーん、いるの?」

 

母親の声だ。

部屋の電気が付いてないから、寝ていると思ってくれるか。

 

……という期待をあっさり裏切って、ドアが開いた。

 

 

「あ……その……お母様……」

 

 

どこからどうみても「決定的瞬間」だ。

言い訳のしようもないのだが。

 

 

と。

特に驚くでもなく男吾と姫子のふたりを見やると、母親はにっこり微笑んだ。

 

口が動く。声には出さない。

 

 

(ご・ゆ・っ・く・り)

 

 

ぱたん。

扉が閉まる。

 

 

 

「……だだだ、男吾くん……」

 

 

顔を真っ赤にした姫子がこっちを見てくる。そんな目で見られても。

 

 

「ああ……。オマエの母親って、意外と大物なんだな……」

 

 

こっちの顔も赤くなってる。それはわかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、男吾くん……」

 

「ん」

 

すっかり夜は更けた。

寒いような季節ではないが、ふたり、ぴったりと寄り添っていた。

 

「アタシ、ずっと前から、こうやってふたりで寝られたらな、って思ってたの」

 

「ふーん、いつぐらいから?」

 

「んーと、小五かな」

 

「……お姫」

 

「なに?」

 

「……オレの記憶によると、オレとオマエは小五に会ったはずだが」

 

「うん。好きだなって思った時から、ずっとこうなりたいって、思ってた」

 

「そ、それはまた、ずいぶん気が早いというか、ませてるというか……」

 

「あのね。男の子と違って、女の子は小四くらいに性教育があるから、『なにをどうする』

みたいなことはみんな知ってるんだよ?」

 

「そ、そうなのか?」

 

「うん。生理とか、早い子は来るし」

 

「ふーん。でもまぁ……」

 

「ん?」

 

「小五の時に決めたのが、叶うのは珍しいかもな」

 

「……ホントは中三でかなえてもらうはずだったけどね」

 

「う」

 

 

父親との対決に燃えていて、そのまま勢いに乗って高校に進学してしまったのは他ならない

自分だ。

 

 

「えーと。そのセツは」

 

「いいよ、もう。……ちゃんとアタシのトコロに帰ってきてくれたんだもん」

 

「……そうか」

 

「男吾くん、また旅に出るんでしょ?」

 

「ああ」

 

 

家族に強制的に取り押さえられたが、本当はケンカトーナメントを潰した足でどこかへ

でかけるつもりだった。

 

 

「約束して。……ぜったい、帰ってきて」

 

 

大きな瞳が、じっと、こちらを見ていた。

 

ぽん。

 

軽く姫子の頭を叩く。というか、なぜる。

 

 

「当たり前だろ」

 

「あと、浮気はほどほどに」

 

「……お、おう」

 

 

 

 

 

深夜。

 

ほぼ半日以上愛し合っていたふたりは、顔を寄せぐっすりと眠っていた。

 

 

そろそろ。

 

足音を殺した足音がする。

 

 

 

すーっ。

扉が開く。

 

最初に顔を出したのは、姫子の母親だった。

それから、姫子の父親。

 

つづいて、なんと知子だ。

そして、安子。金時。

 

 

ふたりの様子を見て、にっこりと笑う。

 

 

無言で会話する。

 

(いや、今後ともよろしくお願いします)

 

(いえいえ、こちらこそ)

 

がっちりと握手する両家の両親。

 

深夜の無言劇は、当事者に気づかれることなく終わった。

 

 

 

 

 

翌朝。

巴家の玄関。

 

 

すーっ。

男吾は大きく息を吸い込む。

 

 

 

「ただいま帰りましたぁーーーーーっ!」

 

 

 

すちゃっ。

家の中ではさっそく準備にかかる。

 

 

安子はフライパンとおたまを両手に走る。

 

知子は木刀を手に部屋を飛び出す。

 

金時は──特に何も持ってないが、とりあえず読んでいた新聞を放り捨てて指をぽきぽき

鳴らした。

 

 

 

 

がらっ!!

 

 

 

 

景気よく扉が開く音がする。

 

ドカドカと暴れる音がする。

 

それを、姫子は自分の部屋の窓から耳を澄ませて聞いていた。

 

 

 

昨日までの約束は、かなえてくれた。

 

だから、きっと。

 

きっと、次の約束も、かなえてくれるのだろう。

 

 

自分は、それを信じて、待つ。

カンタンだ。想っていれば、いいのだから。

 

 

男吾を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おわり。

 

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