それは大波乱のケンカトーナメントのあと。
旅に出るつもりだったが、家族全員がかりで取り押さえられ、
男吾は家に(強制的に)ひとまず連れ戻されていた。
「旅に出るんだったらまずはウチのご飯を食ってから!」
とは母・安子の弁である。
その夜。
「父ちゃん! ……話がある」
男吾は父・金時に声をかけた。
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「据え膳食わぬは」 08/02/23 by TANA
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「お前もなかなかいい目で話すようになったじゃねえか?」
金時は帯を直しながら男吾に声をかけた。
ちなみに男吾は壁に叩きつけられてひっくり返って白目をむいている。
巴家はいつものことである。
「話がある」と声をかけて、「ヨッシャ! …じゃまずは稽古つけてからだな!」と
返された。
ケンカトーナメントの激闘を制した直後の男吾にはろくに体力が残っておらず、
気持ちいいほどにズタボロにされた。
「……で、父ちゃん、話の方なんだが」
体を起こしながら男吾が話す。
こっちもたいがい不死身である。
「おう」
「……父ちゃんは、同時にふたり以上の女から、あーなんだ、その」
「ははあ」
金時はにやりと笑った。
「お姫ちゃんと、カツミか」
「いや、カツミは違う」
男吾はあわてて手を振った。
実はカツミの方はまんざらでもないのだが。
「……円谷操って、覚えてるだろ?」
「ああ、お姫ちゃんさらったあと、改心して中学で世話になったとか言ってたな」
どっこいしょと金時は座りながら言う。
「お前にホレてるんだっけ? ウチに来たときも堂々と言ってたじゃねえか」
「……ああ」
何となく男吾にしては歯切れが悪い。
「でもお前はお姫ちゃんを選ぶんだろ? あのコもそれでさっぱりあきらめそうだが」
「……そうなんだけど、な」
「……もしかして、てめえ」
ぴ、と金時は片眉を上げる。
・・・
「なんか、やったな?」
「あ、う、ぐ……」
みるみる男吾の顔が赤く染まる。
男吾は男だ。言い訳はできない体質だ。ついでに隠し事もできない。
話は中学時代、大文字学園に遡る。
まだ男吾が一年生の頃だ。
男吾の刈り上げたボウズ頭がようやく生えそろってきた頃。
時期的にはボクシング部の鶴田との激闘を制したあとになる。
朝。
男吾はチコク常習犯だ。従って起きるのは登校時間ギリギリだ。
だが。
さわ。さわ。さわ。
何かムズムズする。
全身に総毛が立つような違和感だ。
なで。なで。なで。なで。
ぴん、と男吾の全身が緊張体勢──戦闘モードに入る。
巴家では寝込みメシどき風呂の中でさえ、油断は許されない。
それがゆえに研ぎ澄まされた感覚である。
ちなみにトイレだけは紳士協定が結ばれている。どうでもいいが。
ぱち、男吾は目を開けた。
違和感の元──下半身に目をやる。
で、目をひんむいた。
「み、操!?」
そこにいたのは円谷操だった。
もう制服に着替えた状態で、男吾の上にまたがっていた。
男子寮は女子禁制だとか、同室の河内はどうしたとか、聞きたいことは色々あるが。
「……な、なにやってんだ、オマエ……!」
そう。
操は男吾の下半身──男吾は寝るときはシャツにパンツ一丁だ──の、股間のあたりに
手を突っ込んで、いじくりまわしていた。
「おはよう、男吾♪」
操はまともに答えずに、ただ下半身の方に目を向けている。
そこには──当然、年頃の青少年であるからして、元気いっぱいの──男吾自身が
鎮座いましている。
「朝から元気だねー。いや朝だからか」
もぞもぞ。
操は手を止めない。
「おい、や、やめろ操……」
もうわかっていた。
違和感は、快感だった。
「河内なら食堂の大盛り券3枚で出て行ってもらったから、誰も来ないよ」
にぎにぎ。
快感が強くなる。
「そうじゃなくて、だな……」
「言ったよね」
ぴたり。手が止まる。
「……」
「アンタに、ホレてるって」
操の眼は真剣だった。
思わず、ごくりとツバを飲む男吾。
初対面の時からわかっている。理解している。
コイツは、カワイイ。
だから──コイツの、こんな表情は、ヒキョウだ。
「!?」
くちびる。
口唇。
ぼふん、と男吾は枕に逆戻り。
操に、押し倒されていた。
カラダごと。口唇で口唇を。
つまるところ。
キスされてしまった……! その上押し倒された。
目を閉じている操。その顔が目の前にある。
──ここで目を閉じたら、受け入れたことになる。
その一心で、必死に目を閉じない。
それがわかったのか、わからないままか。
操は男吾を押し倒した体勢から、軽く顔を離す。
「ファーストキス? ……じゃないよね、奥田ちゃんがいるんだから」
事実だった。
だが、それを今言ったらマズイ気がした。
「アタシは、初めてだったよ」
「……」
「男吾に、あげちゃった……」
にこり。
なんでこんなにも。屈託なく笑うのか。
「ね、男吾」
「……」
「アタシの『初めて』、全部もらってくれない?」
「ば、ちょ、そ、おま……」
みるみる男吾の顔が熱くなる。
男吾も年頃だ。
知らないわけがない。
ましてガラの悪さで有名な大文字学園。
経験済みの先輩やらから、色々と話を聞かされている。
「わかってほしいんだ……アタシ、男吾じゃないとイヤなんだ……」
「で、やっちゃったってワケか」
金時がうながす。
「う、うう……」
顔、真っ赤。
ゆでだこのようになりながら、男吾は続ける。
「お願いだよ……一度、一度だけでいいから……」
そう言っている操の手が震えていることに、男吾は気付いた。
…当たり前だ。こんなこと、どんなに度胸があったって、そう言えるものじゃない。
……とか考えるのも、実はやっとだ。
さっき起きたときから、ただでさえ体は熱く火照っている。
頭はかっかと燃えるよう。
思考はどっか旅に行ったようだ。理性だってあるかどうかそもそも怪しい。
「男吾……」
そう。オレは男吾だ。
吾(われ)、男なれ。
バアちゃんがつけてくれた名前。
男なら、どうすりゃいいんだ?
こんなとき、どうすりゃいいんだ?
「──ダメだ」
ようやく口をついて出た言葉がそれだった。
操の動きがぴた、と止まる。
「──そう。やっぱりアタシじゃ、」
「違う!」
思わず男吾は叫んでいた。
言って、思わず口を押さえる。まだ起床時間前だ。
周りの部屋に聞こえたらいろいろ危険すぎる。
「男吾……?」
「そうじゃなくて、えーと、そのだな」
もごもごと言葉を探す。
操のまっすぐな瞳がこっちを見ている。
男吾は必死で言葉を選ぶ。
──ああもう、国語のベンキョウとかちゃんとやっとくんだった!
「……一度っきりとか、そういうのじゃ、ダメだ」
操の目を見ながら、ようやくそれだけ言えた。
「──オレも、オマエのことが、好きだ……うん、好きだ」
「……」
「だから、一度っきりとか、たぶん、ムリだ」
自分が欲望に弱いことはよく知っている。
食い気とか、眠気とか。
たぶん、その、キモチいいことを知ってしまったら、押さえられないと思う。
「でも、奥田ちゃんが──ん」
今度は、男吾が、いや男吾から、口唇を重ねた。
ちゃんと今度は目を閉じた。
目を閉じてるのに、操も目を閉じているのが、なぜかわかった。
「これでお姫にフられたら、そんときゃそんときだ……だから、もうお姫のことは言うな」
「男吾」
「……いいんだな?」
ゆっくり、操を抱きしめる。壊れ物のように。
す、と操の手も男吾の体にまわされる。
「アタリマエだよ……そのために来たんだもん……」
するっ。
操はゆっくり体を離すと、ブレザーを脱ぎ始める。
「あ、あんまり見ないでよ……これでも、恥ずかしいんだから……」
操の頬も赤くなっている。
たぶん、自分の顔も同じだろう。
しゅるり、すっ。
ただの衣ずれの音なのに、いやに大きく聞こえる。
──いやにいやらしく聞こえる。
「……可愛くないでしょ? アタシ、筋肉付いてるから」
「いや、可愛い」
思わず口をついて出た言葉。
ぼっ、と操の顔がさらにもう一段赤くなる。
「ウチの母ちゃんと姉ちゃん、知ってるだろ? ……どっちも筋肉じゃ操よりずっと上だ」
本人たちに聞かれたらヤツザキにされそうなことを言う。
「ねぇ、そ、その……男吾も脱いでよ」
下着姿になってから、操が言う。
「あ、ああ。うん」
いちいち言葉にまごつくのはこんな状況になれてないせいか。
いや、こんな状況になれるなんてコト、あるのか?
ふたりとも、全裸になった。
頬は真っ赤。
鼓動は早鐘。
「……操」
「男吾」
どちらからともなく、もう一度口唇を重ねる。
「ん……」
男吾がそっと舌を挿し入れる。
くちゅ。
操の舌が応える。
その音が、またふたりの興奮を高める。
「ん……あ、はぁ……」
激しくゆきかう舌。
徐々に呼吸が荒くなっていく。
ゆっくりと、男吾は操を押し倒した。
重なる肌の感触が、ぞっとするほど気持ちいい。
男にはあり得ない、やわらかな肌。
「──胸、さわっていいか?」
「もちろん……で、でも、やさしくしてね」
「お、おう」
すっ、と操の双丘に手を伸ばす。
ふ、と手が触れた。
「きゃうん!」
操の口から声がこぼれる。──結構な声で。
慌てて操が口を押さえる。
「……ええと、乱暴だったか?」
「いや、そうじゃなくて……その……想像してたより、ずっと……気持ちよくて」
「……」
「……」
そろそろお互いの顔の血管が切れちゃうんじゃないだろうか。
もう相手の顔の熱が直接感じられそう。
「続けて、いいんだな…?」
「うん、声、気をつけるから……」
男吾はもう一度操の胸に手を伸ばす。
やさしく、撫でるように。
少しずつ大胆に、大きくもみしだく。
「……! ん……んん!」
操は必死に声を抑えようとしている。
それでも、わずかながら声が漏れる。
それが、男吾をさらに興奮の高みに連れて行く。
ひとしきり操の胸を堪能する。
いつしか固く隆起していた乳首を軽くつまむ。
思い切って、舌で胸への侵略を開始する。
「んん……! ん!」
びくん、びくんと操のカラダが電気が走るようにはねる。
「……大丈夫か?」
心配になって男吾は手を休め、顔を上げる。
「……だいじょぶ。でも……このままだと、」
もじもじと足をこすり合わせる操。
「いや、ア、アタシだけしてもらうんじゃ悪いから、男吾も……」
「お、おう……でも、オレも、いいか……その……下の方」
「……!」
操の眼がまん丸になる。
そうくるとは思ってなかったようだ。
「わ、わかった……覚悟決めた。……男吾も、覚悟して」
「ああ」
すっ、と互いに、下半身に手を伸ばす。
さわ。
くち。
「……!」
「……!」
快感は、予想以上だった。
ふたりして、手を引っ込める。
「熱いんだね……」
「濡れてる、な……」
言って。ふたりしてさらに顔を見合わせる。
「あ、あのさ……もう、時間、結構経ってるから……」
あさっての方を向いて、操が続ける。
「もう、その、最後の、ね……?」
「あ、ああ、そうだな、うん」
それ以上はもう言えない。……はずかしくて。
操が、ゆっくりと足を開いた。
ゆっくりと、男吾は自身を握ると、操のそこにあてる。
「……う、うん……そこ、で、いいと、思う」
「じゃあ」
ずっ。男吾はゆっくりと腰を進めた。
「あっ!」
操がひときわ高い嬌声を上げる。
男吾は、侵入を防ぐ何かを感じた。
──処女膜。
あたりまえだ。こいつ、初めてだもんな。
さらに腰を進める。
誰かの顔が脳裏に浮かんだ。
さらさらのロングヘアー。
男吾はかぶりを振って、その誰かのイメージを追い出す。
今そんなことを考えたらダメだ。今はオレの下にいる操のことだけを考えないと。
つん、と何かを突き抜ける感触。
そして、一気に奥へ。
何かたくさんのものが男吾の自身にからみついてくる。
「うーっ!」
「んーっ! ああーっ!」
操はもう、声を抑えきれなくなっている。
ずっ。ずっ。
なるべく痛くしないように、腰をゆっくりと動かす。
「んーっ! ……んんー!」
ぞっとするほどの快感が男吾の下半身に集中している。
快感は何かの固まりをなして弾倉にこめられた銃弾の形を作り始める。
「操、オレ……!」
「来て! 男吾! きてー!」
操は──もう忘我の境地にあるのだろうか。
銃弾はこめられた。撃鉄が素早く引き上げられ、あとは引き金を待つばかり。
「操ーっ!!」
「男吾ーっ!!」
男吾は、全身を振るわせた。
カラダの求めるがままに、びくん、びくんと熱い液体を注ぎ込む。
操も体を震わせてそれを受け止める。
電気が走るかのように体の中に受け入れた男吾自身が熱く震えるのを感じる。
「あーあーわいは何も聞こえない、何も聞こえないー」
河内は部屋の前でやることもなく、耳をふさいであーあー言っていた。
聞こえたら……怖い。男吾は正直それほど怖くないが操は怖い。
アレは笑って急所攻撃のできる女や。
河内の防衛本能がそう告げている。
「あーあー聞ーこえないー」
──快感は、30秒ほど続いただろうか。
ゆっくりと、男吾は顔を上げた。
「操」
操の眼には確かに涙が浮かんでいた。
「……違うよ、痛かったからじゃないの」
手でそっと涙をぬぐう。
「うん……初めてにしては、痛くなかったんだと思う……どっちかというと」
言って、操はにこりと笑顔を見せた。
「嬉しくて……かな?」
「ほうほう、それで?」
金時はぐぐっと身を乗り出して聞く。
「──いや、その日はそれでおしまい」
「……で、そのあとも何回もしたんだろう?」
「ああ」
実際、した。
学校も寮も保健室も文化祭も授業の合間もさんざんした。
「で? お姫ちゃんには言ったのか」
「いや、これからなんだが……」
「ふむ」
金時は考えるそぶりをした。
殴られるか?
男吾は思った。覚悟は決めてある。
「バカヤローッ! それでも男か!」
こんな感じで。
だが、言い訳はしない。
後悔はしてない。あの時は、ああするしかなかった。
今でもそう思っている。
だから、
金時が動いた。
「やるじゃねーかコノヤローッ!!」
笑顔で綺麗に正拳突きを繰り出してきた。
どっがん!
壁まで吹っ飛んで叩きつけられる。
……結局殴られることには変わりなかった。
「いや、男子たるもの惚れられるのは仕方ない」
うんうんと腕組みをしてひとりでうなずく金時。
「大事なのは、その時の気持ちに全身全霊で応えてあげることだ」
「父ちゃん……?」
「男なんだ。健康でいい男なら、いい女を見れば近づきたくなるだろうが」
……ああ、そういえば父ちゃんはこういう人間だった。
大文字学園に来たときもカオリ先生にちょっかい出してたっけ。
「だから、それは浮気じゃねえ! 無問題!」
きっぱりと言いやがった。
「あとは、まぁお姫ちゃんだな。……振られても知らねえぞー?」
「……」
にやーりと笑って立ち上がる。
「ま、お姫ちゃんとは自分でちゃんと話するんだな。オマエもいい年なんだからな」
さっさと道場の出入り口に向かって歩き出す。
「父ちゃんも若い頃は苦労したんだぞー? なにせ母ちゃんだからな」
それは怖い。
というか金時は今でも尻を叩かれていると思うが。
「……と、いうか」
わっはっは、とか笑いながら金時は出て行った。
「そのお姫にどう話すかを相談したかったんだけどな……」
ぽつり。
男吾はつぶやいたが、誰も聞いてなかった。
ぶるっ。
姫子は何か身震いを感じた。
嫌な予感がする。
せっかく男吾が帰ってきたので明日は一日付き合ってもらうつもりなのだが。
何か、こう、男吾を張り飛ばさないといけないような何かが待ち受けている気がする。
嫌な予感に限ってだいたいあたるものである。
よくわからないが闘志がみなぎってくるものを感じる姫子だった。
翌日の男吾の悲鳴の数は誰も知らない。
誰もが途中で数えるのがばかばかしくなったからだった。
おしまい。
というわけで、男吾×操のはじめて編です。
男らしい男を目指す男吾。
どちらかというと男前な性格の操。
どうやったらこのふたりがくっつくかずいぶん悩みました。
お姫もいますしねー。
でもやっぱりこのふたりは直球でガチンコの気持ちのぶつけ合いしかないか!
と腹をくくって書くことにしました。
うまくいったかどうかは皆様しだいということで。
ともあれ。お読みいただき、本当にありがとうございました。
TANA拝