「んー、まいったなぁ……」
新聞部新部長・関和美は頭を抱えていた。
問題は、校内新聞の反響である。
ここのところ、スクープ記事が取れないのだ。
柔道部 VS 新柔道部。ボクシング部鶴田 VS 巴男吾。
去年の大反響があるだけに、今年もなんとかスクープをものにして
学園に新聞部あり! と知らしめたいのだ。
「静波サマの時を逃したのが痛かったなぁ……」
紅静波が各部に助成金を出したとき、新聞部も予算を多いにもらった。
それで高感度望遠ハイスピードシャッターのカメラを手にした喜びのあまり、
陸上部やら景色やら生物写真やらを撮りまくっていた。
おかげで静波 VS 男吾の対決に完全に乗り遅れてしまった。
そうこうしているうちに三年生は卒業してしまい、
火山・鬼塚・鶴田といった「学園のツワモノ」たちは卒業してしまった。
「やっぱ、アレに頼るしかないか……」
和美が目を向けた先。
「巴男吾くん大勝利!!」
男吾が鶴田を破ったときの大文字タイムスである。
この時の反響のすごさは今でも思い出すだけで胸が震える。
──巴男吾。
学園一のお騒がせ男。アイツを追っていればスクープのひとつやふたつ、
簡単に手にはいるような気がする。
あまり特定の個人をパパラッチするのは性に合わないんだけど、仕方ないよね。
と、コンコン。
新聞部の扉がノックされた。
「はい? 空いてますよー」
和美が声をかける。すっと扉が開いた。
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「私をフライデーでフォーカスして!」 08/03/04 by TANA
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「「写真のモデル?」」
男吾と操の言葉がシンクロした。
「そう。せっかくカメラがグレードアップしたコトだし、あたしもカメラマンとしての
腕を上げたいと思ってさ」
和美がお気に入りの新カメラを手に、男吾と操に説明する。
ここは新聞部の部室だ。
あちこちに過去の記事、写真、活動の記録などが貼ってある。
びっしりつまった本棚は学園の大辞典と言っても過言ではない。
……最近、確かにいい写真が並んでいるような気がする。
もちろん男吾も操も縁のない世界なのでくわしくはよくわからないが。
ちなみに今は春。
新任のアゴマキ先生とヤクザ・竜神会が絡んだごたごたが解決したあとである。
あと男吾と操が同じクラスになった。
クラス発表のあと操は男吾に飛びついて喜んだものだ。
「……アタシは可愛いから当たり前だとして、なんで男吾まで?」
操がしれっと言う。
男吾が横で首をひねってぼそり。
「……可愛い?」
自らの吐いた血だまりに転がる男吾をよそに、操が聞く。
「まさか、ヌードとかじゃないよね?」
「ん~、それなんだけど」
きらり。カメラのレンズが光る。
「激しいコト、いってみようか~」
にひひ、と和美が笑う。
「……ねぇ、ホントにやるの?」
夜の男子寮。
同室の天宮は和美が追い出した。
いったい和美がどんなあくどいネタを元に脅迫したのか知りたくもない。
ただ、あの真っ青な表情からすると、
「朝まで帰ってこないよ~に」
と言った和美の厳命はきっと守られるだろう。
恐るべし関和美。
操は下着姿で、男吾のベッドの上、毛布に身を包んでいた。
「……ネズミ、ホントにホントにホントに、ネタにはしないんだな?」
男吾が尋ねる。
こっちもパンツ一丁にさせられている。
「もーちろん、このあたしを信じなさいって♪」
……信用できない。
そもそも、ふたりが言うことを聞いているのは一枚の写真のせいだ。
場所は女子寮。
どこから撮ったのか、やけに見通しがいい。
──で、写っているのは全裸の男吾と操だった。
言うまでもない。
アレしている最中だ。
見せられた瞬間に光の速さで男吾が奪い取ったが、
「ソレあげてもいいけど、ネガは隠してあるよ?」
の一言でへなへなと力が抜けた。
いつ撮られたんだろう?
……正直、心当たりが多すぎて分からない。
それだけヒンパンに出入りしている男吾も男吾だが。
「つまり、この写真を撮ったってコトは、あたしはもうふたりのハダカを見ているわけで、
だったら、もう一度見せてくれてもいいでしょ?」
と言うのが和美の言い分だった。
交換条件は女子寮の写真のネガ。
応じないわけがない。
というかリッパな脅迫である。
「ほ~ら、いつまでも下着姿みててもつまらないし、脱いで脱いで」
そう言いながらもパシャパシャとカメラをとり続ける和美。
電気は付いているが、たかれるフラッシュがいやにいやらしい雰囲気をかもしだしている。
「じゃ、じゃあ……男吾」
「お、おう」
そっとふたり揃って下着に手をかける。
ごくり。
和美の喉が思わず鳴る。
正直、全裸写真なんて間近で撮るのは初めてである。
ジャーナリスト魂、もとい、カメラマン魂に火が付くというものである。
しゅるっ。
先に操が脱いだ。
顔が赤い──当たり前だ。というか多分和美自身も赤くなっていると思う。
「おー」
思わず声が出た。
均整の取れたカラダ。日頃のトレーニングで引き締まった胴体。
そして、なだらかな双丘。頭頂部の桜色の小粒。
──手で隠してはいるが、隠しきれない下腹部の茂み。
日頃、稽古しているはずなのに、そのカラダはアザもなくいやに滑らかに輝いて見えた。
「おー、って、なんですか……?」
おそるおそる、といった感じに操が尋ねる。
自分のカラダに自信を持ってないからだろうか。
「んー」
和美はちょっと考えて、
「おっけー!」
と指でVサインを出して見せた。
一方、男吾。
「うわ」
「うわ、ってなんだ、うわって」
「だだだって、アンタ……」
震える手で指さした先は──男吾の股間だった。
操の前だからか、カメラの前だからか、わからないが、すでに臨戦態勢。
ファインダー越しの和美の目に、元気におはようを告げている。
「しょ、しょうがないだろ! ていうかコレを撮りたかったんだろ、コレを」
「別にソレ単品で撮りたかったわけじゃないもん!」
と、言いながらも、ついシャッターを切りまくる和美だった。
ほら興味津々のお年頃だし。
素晴らしい速さでフィルムの交換を済ませると──もう何枚撮ったんだろう──和美は
ふり返る。
「じゃ、キスシーンから始めてよ」
「お、おう」
「うん……」
ふたりは、そっと顔を寄せた。
ちゅっ、ちゅむ、ちゅ。
はじめは軽く、ついばむように。
やがて、吸い付くように、互いの口を攻撃するかのように、つよく、ふかく。
「うわぁ……」
和美は未経験である。
恋人もいないし、正直今のところは用がないと思っている。
だが、それでも。
やっぱり性行為のはじめの一歩を見ると、それはそれで、興味が沸かないわけがない。
ぺろ、ちゅっ、じゅっ。
口づけはより強く。
互いの口を舌が行き来するのが見える。
ふたりの唾液がまじりあいながらわずかに垂れる。
うーん、いやらしい。
和美は心の中でつぶやく。
これはこれでなんか個展でも開きたくなるようないやらしさだ。
こう、和美の伝道ルームに新たな一ページが加わっているらしい。
あ。
男吾がそっと操の胸に手を伸ばした。
慣れた手つきで周りをそっとなぞる。
操の手も、そっと男吾の背中をなぞる。
ほほう、それも気持ちいいのかな?
「あっ、あはっ、男吾っ」
「う、ああ」
忘我の境地に入りつつあるのか、ふたりの声が甘くなりつつある。
「お邪魔するわよ」
そう言ったのは、男吾でも操でも、和美でもなく──
カーテンがしゃっと音を立てて空いた。
「し、静波ァ!?」
そこには、ナイトガウンに身を包んだ、静波がいた。
──ここは4階だ。どうやって?
実のところ、屋上からロープを垂らして、キャッツアイよろしく滑り降りてきたのだが、
静波的に美しくないらしく、それは言わない。
「野に咲く花もいいけど──」
言って、カメラを構えた和美を向く。
「こっちに大輪の薔薇があるの。こっちも撮ってみない?」
はらり。
ナイトガウンの前を開ける。
「うわァ……」
和美が思わず声を上げた。
操の肌を健康な色つやと言うなら、こっちは透き通るような白さ。
しかもそれを強調するかのように、黒のブラに黒のパンティ、そして黒のガーターベルト。
おなじみの薔薇の刺繍がほどこされた上下は見事に静波のカラダを魅力的に見せていた。
「ええと、あたしは別にいいけど」
「待ったーっ!」
ストップをかけたのは邪魔が入った形になる操。
「前の一件でもう勝負は付いたでしょ!」
「前の一件?」
和美が思わず聞き返す。ジャーナリスト魂だ。たぶん。
「いや、あの、その、……なんでもない」
とっさにお茶を濁す操。
相手は学園新聞編集長だ。学園にある噂の9割は和美が作り出したと言われている。
割と的確。
とにかく、いつかの「勝負」の一件は和美に知られたらいろいろマズイ。
まだそのくらいの自制心は残っていた操だった。
「じゃあ、私も楽しませていただこうかしら」
すっ、とナイトガウンを脱いで脇の椅子にかける静波。
思わずシャッターを切る和美。
それほど静波の存在感は圧倒的だった。
「ちょっと、男吾」
操が不服そうに声をかける。
「その……手、止めないでよ」
つい男吾も静波に目を奪われていたようだ。
もちろん操はおかんむり。
「悪い」
男吾は深く弁解せずにそう言うと、そっと身をかがめ、操の胸をついばんだ。
「きゃん!」
思わず、操の体が電撃が走ったように跳ねる。
すかさず和美のカメラが光る。
「あらあら、可愛いこと」
静波はあくまでも優雅に、しずしずとふたりに近づく。
ぷちぷちと下着のホックを外していく。
これから、どうなるんだろう?
和美の心臓はどきどきしっぱなしだ。
ただでさえ、男吾と操の営みを見るだけでも興奮ものなのに、静波まで加わるとは。
いわゆる、さんぴー?
「ああ……」
男吾が、操を愛撫している。
いつもはゲンコツや平手で暴れている手が、驚くほどしなやかに、なめらかに、
操の胸を、下腹部を、せめている。
ちゅぱ、ちゅぱ。
静波が男吾の耳を攻撃していた。
激しく音を立てたかと思うと、舌を深く挿し入れてぬらりと性感をあおる。
静波の右手がするすると動き、男吾の陰茎をさすりあげる。
……キレイだな。
和美は思った。
快楽に身をゆだねている姿が。
悦楽に溺れている姿が。
「普通」の1対1のセックスではあり得ない図式が。
それゆえに、個々の快感と快感がぶつかり合い、求め合う姿が浮き彫りになっているように
見える。
──正直、ここまでくると、混ざりたい。
そんな衝動にも駆られる。
だが、そこはぐっとこらえる。
自分はカメラだと、カメラそのものだと言い聞かせて、自分の欲望を抑える。
本当は、もうすっかりパンティが濡れそぼっているとしても。
「あっ! ああっ!」
始めに繋がったのは、男吾と操だった。
もうすっかり出来上がっているカラダとカラダ。
はじめから激しいピストン運動でぶつかりあっている。
静波は片手で自らを慰めながら、満足げにその様子を眺めている。
「ああん……男吾ぉ、もっとぉ……」
操がせつなげな声を上げる。
ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ。
いやらしい音が響く。
その音に調子を合わせるかのように、操の甘い喘ぎ声が混ざる。
もうほとんど無意識に近い状態で素早くフィルムを巻き上げると、
神速でフィルムを交換する。
「ふふっ、まだよ、まだまだ……」
男吾の上にまたがって静波が激しく腰を使う。
今度は男吾が喘ぐ番だ。
ぐっと歯を食いしばって声を出すのを堪えているが、息づかいが荒くなってきているのは
隠せない。
じゅぷっ、じゅぷっ。
肉と肉が絡まりながら立てる音。
互いの敏感な部分同士がこすれあい、いやらしい音を立てる。
操は一回イッたのか、そばで荒い息を整えながら、目を閉じていた。
「ふわあ……」
和美は大きくあくびをしながら、窓の外を眺めていた。
昨日はほぼ徹夜だ。
なんというか、満漢全席な宴は明け方まで続いた。
それから和美は学校に忍び込むと、新聞部の現像室を使って朝までかけて現像をした。
んで。
「ホントによかったんですかー?」
窓の外を見たまま、声をかける。
部屋の中にいる静波に。
「いいのよ」
いつも通り、落ち着いた静波の声。
窓の外。
追われている。
追われている。
逃げているのは、男吾だ。
割と珍しいことではない。
たいがいにおいて、男吾は「やらかす奴」であり、トラブルを引き起こしては逃げて
ご破算にするタイプの人間だ。
ただ、人数が。
とっても、多かった。
「巴ーっ!!」
「どういうコトか説明しなさいよーっ!!」
男女分け隔てなく──いや、女子の方が多いかな? ああ。静波様親衛隊が多いのか。
「……美しいものは、見られてこそ価値があるのよ」
静かに、胸にさした薔薇を指でなぞる静波。
「なーにーがーよーっ!!」
どかーん。
派手な音を立ててドアが開いた。
じゃなかった、蹴破られた。修理代、静波サマが持ってくれるかしら。
わなわなと震えて操が立っていた。
怒りのあまりか、おさげが重力に逆らって立ち上がっている。
怒髪天を衝くとはよく言ったものだ。
手に握りしめているのは──見るまでもなくわかった。
「なぜか」「静波様親衛隊に」「流失した」「写真」だ。
男吾と、操と、静波。
三人なかよく、同じ布団にくるまっている。
みな満足した様子だ。
もちろん、撮ったのは、和美だ。
約束通り、和美は記事にしてない。
ただ、大量に現像したこの一枚の写真の束を、どこかの誰かさんが自分の親衛隊の前で
「それとなく」落としただけだ。
和美は窓の外を見る。
追われている。
追われている。
逃げているのは、男吾だ。
あ、ラグビー部のキャプテン、八木くんがタックルをかけた。
間一髪。
男吾がジャンプしてかわした。
追いすがろうとした陸上部の大井くんが八木くんにつまずいて転ぶ。
後ろでは派手な音がする。
空手の人とメリケンパンチの人が激しい攻防を繰り広げているようだ。
大文字学園に新聞部あり。
それはどうやら達成できたようだ。
──だって、ウチの学校、写真部とかないし、こんな写真撮るのはウチくらい。
あとは、まぁ。
学校にばれないといいなぁ。
ま、この手の「裏モノ」はなぜか学校にばれないモノだけど。
代々受け継がれているすり切れた裏ビデオのように。
それにしても。
和美ははぁ、とため息をつく。
「なんか見せつけられたキブン~」
関和美、15歳。
まだまだカメラと原稿が恋人。
色恋には興味本位以上のものを感じないお年頃なのだった。
おわる。
あ、男吾がこけた。
ああ、蹴られてる蹴られてる。
今度こそおしまい。