※この作品はR-18です。

好色淫乱な武蔵が鈴木君を救う話   作:ヒルベルト

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それはそれほどたいしたことではない。

竹内みきが鈴木の家で武蔵の姿を見かける二か月前。海神(わたつみ)警備・岩川台営業所。

海神警備は字の通り民間警備会社、艦娘を運用する警備会社の一つである。

岩川台営業所、と言うと岩川台という場所にあるのかと思われるかもしれないが、営業所の名前は所在地の地名とは関係ない。

艦娘が働き、住まう場所のことを総じて「鎮守府」と言う。

理由を説明できる者はもうどこにもいなくなってしまったが、「岩川」の名を冠する鎮守府は「秘密基地」の形態をとることがある種の伝統になっている。

そんな伝統に則り、海神警備・岩川台営業所も住宅地に擬装されている。

ただ、完全に擬装してしまうと顧客に不便をかけてしまうため、提督執務室がある建物は一目で「事務所」とわかる建物になっている。

その周囲にある住宅・アパートは、全て艦娘の宿舎となっている。よく見ると、これら艦娘の宿舎はみなプレハブ住宅であることがわかる。

 

営業所の周囲は本当に住宅地であるため、営業所敷地内には武器弾薬の貯蔵庫などはない。艦娘たちの武装などは港にある海上防衛隊基地に保管されている。例えば船舶護衛の仕事などで武装する必要が生じたときは、防衛隊基地に申請書を提出して武装を取り出す…と言う形をとる。面倒に見えるが、申請書の書式はそれほど複雑なものではなく、このやり方でこれと言った問題が生じたことはない。因みに、この海上防衛隊基地でも艦娘は運用されている。

 

武器弾薬などの危険物はないとは言え、岩川台営業所にも「関係者以外立入禁止」の場所はある。

その日、鈴木はそんな場所、誰も入居していない予備の宿舎に侵入しようとした。

理由はなかったが、原因はあった。

 

自分が今どこにいるのか、わかっていなかったのだ。

 

その時、その空き宿舎の前では清霜と、武蔵が清掃作業を行っていた。

宿舎に侵入しようとする鈴木に気づいたのは、清霜だった。

不法侵入を見過ごすわけにはいかない。清霜は鈴木を制止しようとした、が…。

「あっ、ちょっと…そこは関係者以外立入禁止ですよ…ヒッ!?」

異変を察知し、武蔵は清霜の傍に駆け付けた。

「どうしたんだ、清霜…。」

鈴木の姿を認めた武蔵は息をのんだ。

 

「死相!?」

そうとしか思えない顔だった。そんな顔を武蔵と清霜に見せると、鈴木はその場に崩れ落ちた。

「む、武蔵さん、どどど、どうしましょう?」

「…どうもこうもない、銭湯へ運ぼう。」

銭湯、とは入渠施設のことである。戦闘などで損傷を受けた…負傷した艦娘の修理/治療はここで行われる。

艦娘と人間の女は、肉体の構造はほぼ同一である。生理にはいくつかの点で大きな違い(銃で撃たれた程度では死なない、感染症に罹らない、など)はあるが、その点以外はこれも人間とほぼ同様に捉えられている。

銭湯には工作艦・明石が常駐していて、艦娘や(人間である)提督の健康管理なども行っている。

(人間に対して手術や薬の処方といった医療行為は行えないが。)

要は、ここで銭湯というのは医務室のようなものだということである。

 

「…特に悪いところはありません。」

…明石の診断は、おそらく誰にとっても納得のいかないものだった。

当然、武蔵にとっても。武蔵は明石に問い直した。

「悪いところはない、だって?」

「ええ、仰りたいことはわかります。でも、どこにも外傷はありませんし、内臓にも異常はありませんし、感染症に罹っているわけでもありません。」

「しかし、この顔はどう見ても死相にしか見えないぞ。」

「私も信じられませんが、少なくともここで検査できる範囲では本当に悪いところはないんです。おそらくこの顔は、この方の精神状態を表しているのでしょう。…特に悪いところはないと言いましたが、正確には『今のところは』を付けるべきでした。このまま何もしなければ衰弱し始め、死に至ることは十分にあり得ます。」

 

鈴木はベッドに寝かされていた。武蔵と明石がここまで話したところで、鈴木は目を開いた。

「…ここは…。」

鈴木の問いには武蔵が答えた。

「気が付いたか。ここは、海神警備・岩川台営業所だ。」

「え…僕、なんでそんなところに…。」

「それは私が聞きたい。一体何があったんだ?」

「…………。」

「…答えたくない、か。まあいい。…とにかく…お前はひどく疲れている…疲れている…疲れている…少し休まなければならない…休まなければならない…休まなければならない…目を閉じて…目を閉じて…目を閉じて…休むんだ…休むんだ…休むんだ…。」

 

「…かかったようだ。」

「武蔵さん?何をしたんです?」

「この前金剛から聞いた方法を試してみた。まあ、ちょっとした催眠術だな。しかし…。」

「しかし?」

「ここまであっさりかかるとは思わなかった。」

 

武蔵はそのまま鈴木に、何があったのかを問うた。

あまり直接的な問いはできず、時間はかかってしまったが、鈴木の身の上に起こったことを聞き出すことができた。

 

親しかった、大切だった女の子たちが転校生・佐藤の手に落ち、汚され、喜んで乱交に耽るまでに堕ちてしまったこと。自分だけが一人取り残され、孤独感に苛まれ、体調まで崩してしまったこと…。(岩川台営業所に迷い込んだ理由まではわからなかった。)

 

 

「目を覚ますときが来た。」

武蔵の声で、鈴木の意識は突如明瞭になった。

自分に話しかけていたのが艦娘「戦艦武蔵」であったことも、この時やっと認識した。

「あ…あなた…艦娘の武蔵さん、ですか…?」

「そうだ、知っていたか。」

「ええ…まあ…あんまり詳しくありませんけど、武蔵…さんと、大和さんぐらいなら…。」

「その一言、長門が聞いたら機嫌を損ねるだろうな。」

一拍おいて、武蔵は続けた。

「親しかった、大切な女の子たちは佐藤とやらに堕とされ、汚れてしまった、か…。」

「!どうしてそんなことを!」

「お前が自分で話したんだ。まあ、少々強引な手は使わせてもらったがな。しかしお前のあの様(ざま)を見てしまった以上、私も何もしないわけにはいかなかった。」

 

更に武蔵は続けた。

「女の子たちが佐藤の家で乱交を楽しんでいるところを想像して、吐いたと言ったな。」

「……はい…。」

「佐藤のモノを受け容れて悦ぶ女の子たちは、吐き気を催すほど汚らわしいか。」

「そんな!そんな…ことは…。」

「じゃあなぜ吐いた。」

「…………。」

「…女の子たちは、変わってしまったと思うか。」

「………はい…。」

「女の子たちはあまりに大きく変わりすぎた。その変わりように戸惑っている…のは認めるな?」

「…はい…。」

「…話は変わるが、お前はセックスをどう思う?」

「…それは…好きな人とか、本当に大切な人とかとすることで…遊び感覚でするようなことじゃ…ないと思います…。」

「…そうか…それで、遊び感覚で乱交を楽しむようになってしまった女の子たちの変わりように、吐き気を催すほどの…『違和感』を感じている、というわけだな。」

「…………。」

「一つ分かったことがある。お前のセックスに対する見方は、明らかにお前自身を苦しめている。」

「どういう…ことです…?」

「お前は、セックスは遊び感覚でするようなことではないと言った。そしてそれが正しいと思っているから、遊び感覚でセックスをし、乱交を楽しむようにまでなった女の子たちに吐き気を催すほどの違和感に苦しんでいる。」

「だって!だってそうでしょう!?まるで遊び感覚であんな…あんな…絶対間違ってますよ!」

 

思わず声を荒げた鈴木に対し、武蔵は淡々と言葉を続けた。

「いいや、間違っているのはお前だ。」

「…!!な、何を言ってるんです…意味が分かりません。だって、セ……セック…そ、そういうことって、遊びでするようなことじゃないでしょう?」

「いいや、セックスは遊びだ。別に相手が好きでなくても、特に大切でなくてもセックスはできるし、楽しめる。」

「そんな!む、武蔵さんも間違ってます!絶対間違ってますよ!おかしいですよ!」

「お前から見れば私は間違っているかもしれないが、私から見ればお前の方が間違っている。だが、どちらが正しく、どちらが間違っているかなんてことはこの際どうでもいい。おそらく客観的・普遍的な結論など出ないだろうからな。だが…。」

 

武蔵の番(ターン)は続く。

「私は、セックスは遊びで、誰が相手でも楽しめると思っているが、それが原因で苦しんだことなど無い。対してお前はどうだ?セックスは遊びではなく、大切な…特別な相手とだけするものだと信じるお前は?乱交を楽しむ女の子たちの姿を想像するだけで吐き気を催すほど苦しんでいるではないか。…自覚はなかったかもしれないが、お前の顔には死相が浮かんでいたぞ。」

 

 

「…明石さん、清霜、すまないが席を外してくれ。」

「え?…は、はい…清霜ちゃん、行こっか?」

明石は清霜を連れて部屋を出た。(清霜はふくれっ面になっていた。)

 

鈴木は武蔵に問うた。

「…何をする…つもりなんです…。」

「…死相を浮かべていたお前をこのまま帰すわけにはいかない。」

武蔵は服を脱ぎ、瞬く間に裸になった。

「…何…を…。」

「お前はこれから、初対面の、別に好きな相手でも特別な相手でも何でもない、この武蔵の肉体を楽しむんだ。」

「やめてください!からかってるんですか!?それとも同情しているつもりなんですか!?」

「からかっているのではない。同情しているのでもない。むしろお前に対しては激昂している。」

「僕に…激昂?な…なんで…。」

「お前は遊び感覚でセックスすることは吐き気を催すほど汚らわしいことだと思っている。少なくとも私にはそう見える。それが許せん。」

「そんな…。」

「私はセックスが好きだ。求められれば男にも女にも、他の艦娘にも股を開く。…肌を合わせ、情欲を満たし合い、時に親愛の情を伝え合う。この悦びは血肉を備えた者でいられる悦びそのものだ。私にとってセックスは最高の遊びだ。一生を通して楽しみ続けるに値する遊びだ。」

「…………。」

「その最高の遊びを、お前は汚らわしいと言って貶した。許せるわけがない。お前にそう言わせた信条を、今ここで徹底的に叩き潰してやる。」

そして武蔵は鈴木に覆い被さった。

 

 

鈴木は武蔵の中で二度果てた。

二度目に果てたとき、鈴木も裸になっていた。

 

「ハァ…ハァ…。」

鈴木は武蔵の上で、息を整えていた。

武蔵は鈴木に言葉を掛けた。

「随分頑張ったじゃないか…二度も出してくれるとはな…。」

「え…あ、ああ!」

「どれ、顔を見せてみろ。」

武蔵は鈴木の顔を確かめる。

「…大分マシな顔になったな。少なくとも、死相はもうない。」

「む…武蔵さん!」

「何だ?」

「その…僕、何も付けないで…その…あなたの中に…。」

「コンドームも付けずにしてしまったのは拙いんじゃないか、と言いたいのか?」

「あの、その…はい…。」

「艦娘とのセックスでは、避妊は無意味だ。」

「え?」

「艦娘はイったとき、相手から精気を奪い、その精気から相手の情報を読み取って妊娠する。この時、精気の流れを防ぐ方法はない。コンドームを付けようが何をしようが、妊娠するときは妊娠するんだ。」

「ええ!?」

「精液ではなく精気で妊娠するから、人間の女も、他の艦娘も艦娘を妊娠させられるわけだが…。」

「ちょ、ちょっと待ってください!ほ、ほんとにそれでいいんですか!僕なんかの子ができちゃって、ほんとにいいんですか?」

「何か勘違いしていないか?私は艦娘が妊娠するときは何をどうしようが妊娠すると言っただけだ。」

「で、でも…。」

「残念ながら、艦娘はめったなことでは妊娠しない。今のセックスだけでお前との子ができる可能性は、ほぼない。」

「………。」

「武蔵が産む子は武蔵、大和が産む子は大和になる。父子関係を特定する医学的方法はない。父親の性格を、その一面を引き継いで生まれることは知られているが、な。」

「…………。」

「どうした?」

「いえ…今の話を聞いて安心したんですが…それで安心している自分が卑怯な奴に思えてきて…。」

「まあ確かにな。だが自分でそう思えるのなら、それついて私から言うことは特にない。そもそも行為を迫ったのは私の方だしな。…それより、今の私をどう思う?」

「どう…って…。」

武蔵は鈴木の股間に目を落とす。…三度目に臨む態勢ができていた。

「なるほどな。」

「あ!ち、違うんです、これは…その…。」

「何を弁解する必要がある?私に限らず、満足した女は艶めかしく、美しいものだ。予想以上の回答には私も少し驚いたがな。」

鈴木はたまらず赤面した。武蔵は構わず鈴木に言った。

「その上で言うが…ちょっと佐藤とセックスしている女の子たちを想像してみろ。」

「え…はい…。」

鈴木は武蔵の言葉に従った…鈴木の目から、涙が零れた。

「どうした。」

「え…はい…さくらも、委員長も、みきも…みんなキレイなんだろうなって…でも、僕が直接、キレイなみんなの姿を見ることはないんだって思ったら…。」

「…すまなかった。だが、もう吐き気はないな?」

「そういえば…はい。」

「なら良し。」

 

午後七時。

「…とっくに九時は過ぎていると思ったが、まだこんな時間だったか。だが…お前が帰宅する時間としては遅くなったかもしれん。家に連絡を入れた方がいいな。電話は…。」

「あ、自分のケータイがありますから、自分で架けます。」

鈴木は自宅に電話を架けた。

「…あ、凛か…?…ちょ、ちょっと、落ち着け…話聞いてくれよ…。」

電話の相手は少し興奮しているらしかった。

「鈴木、ちょっと代わってくれ。」

「は、はい…。」

鈴木はスマートフォンを武蔵に手渡した。

「夜分に失礼します。」

『え?あ、あなた、誰ですか?』

「重ね重ね失礼しました。私は海神警備・岩川台営業所の艦娘『黒鉄武蔵』と申します。」

『海神警備の岩川台営業所?お兄ちゃん、そこにいるんですか?でも、なんで…。』

「詳しいことは伺えませんでしたが、お兄様は営業所敷地内で少し体調を崩されまして。それで、営業所の…医務室で少しお休みいただいておりました。」

『体調をって…お兄ちゃん、大丈夫なんですか?』

「はい、もうすっかり(本当は疲れさせてしまったんだが)。ご家族の方がご心配されているのにお引き留めしてしまい、申し訳ありません。」

『ああ!でも、調子の悪くなったお兄ちゃんを介抱してくれたってことなんでしょう?なんてお礼を言ったらいいか…。』

「恐れ入ります。それでは今から、お兄様をお送りします。」

 

歩いて行けないこともない距離だったが、武蔵は車を出すことにした。

 

車中。

「…心を抉るようなことを訊いてしまうが…お前の女友達は本当に皆佐藤の下に走ってしまったのか?」

「はい…それで、気が付いたら僕の周りには、もう誰も…。」

「ん…そうか…なら、暫くの間は私がお前の友になろう。」

「…さっきも言いましたが、同情ならやめてください。かえって惨めになってしまいます。」

「今は取り敢えず落ち着いているようだが、お前はまだ危うさを抱えているように見える。」

「………。」

鈴木は反論しなかった。

「危うさを抱えたお前を放っておくのは、私が嫌なんだ。勝手に友達にならせてもらうぞ。」

「…そういうことなら…でも、さっきみたいなことは、あんまり…。」

「セックスに明け暮れる毎日というのは、佐藤と同類になるようで嫌か。」

「…はい…。」

「…まあ、私もお前を駄目な奴にしようとは思わん。そういえば、お前は学生だったな。お前の友として…お前の勉強を見るとしようか。」

「いいんですか?」

「お前が相手をしてくれなくてもセックスの相手には不自由していない。本当に勉強だけの付き合いになっても構わんさ。」

武蔵の回答は少しずれているような気もしたが、鈴木は黙っていた。

 

鈴木の家。鈴木の妹、凛が帰宅した鈴木を出迎えた。

「ただいま…。」

「もう!お兄ちゃん、なにしてたのよ!岩川台営業所って、家とはまるで反対方向じゃない…?」

凛の言葉がそこで途切れた。

「…どうした?」

「…お兄ちゃん、疲れてるの?それとも元気なの?何か、どっちにも見えるんだけど…。」

「…何わけわかんないこと言ってるんだよ。」

そこで同行してきた武蔵が問うた。

「今朝、家を出られた時と比べてはどうですか?」

「え?あっ!艦娘の武蔵さん?ホントに?」

「はい、先ほどお電話しました黒鉄武蔵です。…ところでお兄様の顔ですが、今朝と比べてどうですか?」

「それはもう今の方がずっと良い顔ですけど…。」

「差出口を挿んでしまいますが、それならそれで良いのではありませんか?」

「それもそうですね…やだ、あたしったらこんな所で!ささ、お上がりください!いま、お茶をお出ししますから!」

 

武蔵に「いえ、お構いなく」と言う間も与えず、凜は一旦家の奥に駆けて行った。

「ふふ…玄関先に車を止めっぱなしなんだが…お茶をいただかなくてはならないようだな。」

「すみません…。」

 

武蔵は鈴木にリビングへ案内された。凜は既に茶の用意をしていた。武蔵と鈴木はソファに腰掛けた…。

「粗茶ですけど。」

「いただきます。」

武蔵は出された茶を口にする…何故か凜はその様子を凝視していた。

「…どうかされましたか?」

「あっ、ごめんなさい。でも、武蔵さん…さっきから『です・ます調』で話してますけど、その話し方、ちょっと無理してませんか?武蔵さんって、もっとこう豪快と言うか何と言うか、そんな感じの言葉遣いをするイメージがあるから…。」

凜は少なくとも兄よりは艦娘に詳しいようだ。

「お、おい凜…不躾だろ?」

注意する鈴木を制し、武蔵は凜との会話を始めた。

「いや、いいんだ鈴木。…凛さん…と言ったか、ありがとう。正直なところ、この話し方を続けるのは厳しいと思い始めていたところなんだ…。ところで私の顔をじっと見ているが、どうかしたのかな?艦娘は女を好きになることもある。貴女のように愛らしい娘(こ)に見つめられると、どうも変な気分になってしまうんだが…。」

「やだ、愛らしいなんて…ごめんなさい。でもそう言ってくれる武蔵さんも凄くキレイですよ。艦娘をこんなに間近で見るのは初めてですけど、ホント、こんなにキレイなんだ…。」

「ありがとう。私もこの顔は気に入っているんだ。だが…。」

 

武蔵は続ける。

「私の他にも武蔵は居るし、どの武蔵もほとんど同じ顔だ。対して凜さん、貴女の顔は唯一無二だ。…私の顔は撃沈されるか、寿命を迎えるまでこのままで変わることはない。対して凜さん、貴女の顔は今は愛らしく、長ずれば美しく艶めいて、そして老いては気品を備えるようになるだろう。貴女の顔は唯一無二でありながら、その美しさは一つではない。その神秘を思えば、私の顔は人間の顔に、つまりは貴女の顔には及ばないよ。」

「…………。」

凜は黙り込んでしまった。放心しているようだ。鈴木が声をかける。

「…どうしたんだよ、凛。」

「…はっ!?ううん!?ナンデモナイヨ!?あっヤダ、あたしったらお茶だけ出してお茶菓子も用意しないで…ちょ、ちょっとお持ちしますね?」

凜はリビングから飛び出してしまった。

 

「…凛のやつ、お茶菓子なら台所にあるのに。」

(この家はリビングとキッチン・ダイニングが一体になっている)

「戻ってくるのを待とう。」

「すみません…ところで武蔵さん、あんまり凜のこと、おだてないでください。」

「おだててなどいない。お前の妹…凜さんが愛らしいと言うのは事実だ。」

「そ、そうですか…でも凜のやつ、なんだかあなたに一目惚れしたみたいに見えました。」

「そうか、それで私を抱いてくれたら嬉しいんだが。」

「冗談はやめてください!」

「冗談ではない。だが、凜さんが私とセックスすると言うのは嫌か?」

「……。」

鈴木は黙って頷いた。

「凜さんに抱かれてみたいというのは本当だが、本当に凜さんが私を抱いてくれるとは思っていないよ。私は自他ともに認める好色淫乱な艦娘だが、その程度の分別はある。」

「そうですか…。」

 

鈴木は言葉を続けた。

「…佐藤が、凜にも近づいて来てるんです…。だから、凜がああいう顔をすると…気になってしまって…。」

「佐藤が?」

武蔵は少し考えこむ。

「武蔵さん、どうしたんですか?」

「いや…凜さんがセックスの楽しみを覚えるのは良いと思うんだが…。何故かな、私の勘が言うんだ。佐藤だけは絶対に駄目だ、とな。」

「そうなんですか?」

「本当に自分でも訳が分からない。佐藤についてはお前から話を聞いただけなのにな。凜さんが佐藤の下でお前の女友達のようになってしまうのは嫌か?」

「…はい…。」

「私も凜さんが佐藤の手に落ちることは防がねばならないと思う。これについては金剛…同僚の知恵を借りるとしよう。」

 

程なくして、凜はリビングに戻ってきた。

…その後、鈴木と武蔵が親しくなったこと、武蔵が鈴木の勉強を見ることになったことなどを話して、武蔵は岩川台営業所へ帰還した。(武蔵が鈴木の童貞を奪ったことについては触れなかった。)

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