鋼の錬金術師 賢者の石を持つ彼女はアラサー女でした 作:木桜 春雨
糞っ、何だってこんなことに、以前の自分ならこんなドジは踏まない、自分は、こんなにも無力だったか、力がなかったかのかと歯ぎしりしたいほどだ。
ブリックスの山中まで来たのはよかった、ところが合成獣が現れた、いつもなら本来の姿に戻り軽く蹴散らす筈だった、ところができなかった、できるなら頂上までと思ったが、無理はできない、仕方なく降りたのだ。
「エンヴィー、起きた」
ドアが開き女が入ってきた、怪我をしている自分を宿まで運んでくれたのだ。
「気分はどう、お茶を持ってきたけど飲む」
「飲むっ、へへ、何」
「金木犀のお茶、香りがいいのよ、ティーパックだけどね」
手渡されたマグカップを口元に運び、湯気を吸い込むと不思議な花の香りがする。
「へえっ、いい匂いじゃん」
「砂糖は入れる、甘い方がいいかな」
「ガキ扱いすんなよ」
「怪我はどう、お医者さんに看て貰った方がよくない」
「大丈夫だよ、それにオレはホムンクルスだから人間の医者なんて必要ない」
自分の本来の姿を見ているくせに、まるで、人間の子供のように扱うことがおかしくて、少年は両手を伸ばすと女に見せた。
「見ろよ、今は傷だって殆ど塞がっている、それに、こうしてると」
「ハグね、外国人だから、恥ずかしいなあ」
「大人だろ、ここじゃ当たり前だぜ、どこの田舎から来たんだよ」
そう言いながらエンヴィーはぎゅっと女の体を抱きしめた、腕だけではない、背中の傷の痛みも良くなっている、もう少し時間がかかるかもしれない。
「ここ外国なのよね、しかも周りは雪で、本当にびっくりしたわ」
女は自分がどうしてここに来たのか分からないというのだ。
「旅行に来たんだからいいんじゃねえ、それにしても電車、バス」
「電車よ、駅のホームまでは覚えているんだけど、気づいたら」
女の表情が曇る、思い出そうとしているようだが。
(止めろ、駄目だ、相手が追ってくる)
エンヴィーの頭の中に声が響いた、それは壮年の男、お父様の声だ。
「ミヤ、お茶、もう一杯」
「はいはい」
「セントラルに行かないか、ここより街で色々と見て回ったら、楽しいぜ」
「案内してくれるの、嬉しいけどいいの、家族とか心配してない、子供一人で」
「あのなあ、俺、ホムンクルスだって、兄弟がいたけど」
「ご両親は」
「遠いとこだよ」
「あっ、ごめん、変なこと聞いて」
やっぱり理解してない。
「人造人間でも作ってくれた人がいるでしょ、ロボットだって製造者がいるし」
手渡されたマグカップを受け取りながら、まあいいかと思いながら窓の外を見た、ここから少しでも早く離れた方がよさそうだと。
スニーカーで雪の上を歩くのは大変だ、スーツケースも大きいので尚更だ、俺に貸せよなんてエンヴィーがいってくれたけど、自分の荷物だし、子供だからといって甘えるのもなんか嫌だと思ってしまう。
そもそも、どうして、こんな雪だらけ、山近くに来てしまったのか、不思議だった、トンネルを抜けるとなんて有名な文豪の一節が頭をよぎったけど、今の自分は信じられない体験をしているのだと思うとなんともいえない気分だ。
「神隠し、かな」
「何だよ、それ」
「人が、突然、消えて知らない場所に行ってしまうのよ、昔なら神様の嫁に行ったとか、攫われたとか、でも自分から姿を消すこともあるのよ、人生色々あるから、今のあたしが、そうなのかなあと思ったのよね」
「へえっ、帰りたいのか」
それがあまり、思わないのよ、不思議だわという女に、だったらいいんじゃねとこぼした、それは会話にもならないほど低い呟きだった。
「セントラルに着いたら美味しいもの食べよう、分厚いステーキ、パフェとか、あるかな」
「何でもあるぜ、食い物も酒も」
「おおっ、いいね、食べて飲んで、たっぷり寝て、それから何しようかな」
「俺は」
言葉が途切れた、下から上ってくる男達の姿を見たエンヴィーは驚いた一人はコート姿で白い帽子の男性で茶色のコートの大男、三人目は少し小柄な男性だ。
(なんで、ブリックスに、こいつらが、まさか、いや、自分を追いかけてなんて、違う、来るなら軍の奴だ)
こんなところでやり合うつもりはない、知らないふりをして通り過ぎればいいんだと思いながら、男達とすれ違う、その瞬間、痛いほどの視線を送ってくる、いや、それだけではない、敵意もだ。
早く通り過ぎてしまおうと思い、自然と早足になる、ところが、がさっと音がして振り返ると足を滑らし転んだのか、雪の中に顔面を突っ込んで女が倒れていた。
向こうからやってくる相手を見ろ、小声で言われてマルコーとキンブリーは気づいた、自分達は登りだが、坂を降りてくるっ子供、いや少年の姿は間違いない、エンヴィーだ。
向こうもこちらに気づいたようだが、そのまま通り過ぎようとしている、ところが、音がして後ろを歩いた女が転んだ、するとエンヴィーが、助け起こそうとする。
もしかしてホムンクルスなのか、そう思ったのも無理はない
もうすぐ、賢者の石が手に入る、君に足を人間の下半身をつけてあげる、自由に歩けるようになる、そうなったらどこにだって行ける、世界中のどこにだって。
以前、水中から出して車椅子で彼女を外に出したことがあった、だが、一時間もたたないうちに彼女は呼吸が苦しくなり、顔色は真っ白になった。
黒かった髪は真っ白になった、元に戻らないままだ、ずっと眠り続けて、死んでしまうのかと思ったぐらいだ、自分の配慮のなさ知識のなさを悔やみ、調べたのだ。
賢者の石があれば、願いが叶うと知ったとき、これだと思った。
水音がした。
「ああ、もうすぐだからね、君を助ける」
人造人間、造りモノのくせにあいつは取り入ろうとした、彼女の優しさにだ、その為に半身が動かなくなった、事故に遭ったのはあの男のせいだ、なのに責めることはしなかった、仕方ない、事故だから、そんな言葉ですませられるものか。
だが、許したのだ、彼女は、どうしてだ、優しい、お人好し、何故、なぜ。
あいつの前に現れたらどんな顔をするだろう、元気になった彼女を見たら、どんな気持ちになるか。
扉は開いた、ショウ・タッカーはブリックスに行った筈だ。
あとは待てばいい、ここに来るのを。
書き直ししてと思ったら、殆ど、全部新しく書き直してる自分。
うーむ、今回の恋愛ルートどうしようか悩みます。