鋼の錬金術師 賢者の石を持つ彼女はアラサー女でした 作:木桜 春雨
目を覚ました時に見えたのは天上だ、自分の部屋でない事は分かって少しだけ不安になった、起き上がろうとして、違和感を感じたのは足だ。
ああ、そうだ自分は外で転んでしまったことを思い出した、誰がここまで運んでくれたのだろうか、もしかしてエンヴィー、少年のことを思い出した、セントラルに行ったら何か美味しいものをご馳走しなければ、ベッドから出ようとして違和感を感じた、転んで打ったかなと思いシーツを剥ぐ。
ズボンが濡れているのだ、もしかして尿失禁、ジーバンが臭くなってないか、いや、そんなことはどうでもいいと思いながらボタンをファスナーを外して、ズボンをおろした。
かぶれた、太ももの色がおかしい、青くなっている、いや、緑色っぽいところもある、皮膚病、今朝までなんともなかったのだ、怖々と触ってみると感触が堅い、なんとなくだが、鱗に見える。
どうしてと思いながら起き上がろうとしたが、重くて足が動かなかった。
部屋の中には三人の男達が自分を見ている、ここから抜け出すのは簡単ではない、まさかと思ったが、自分を捕まえに来たと知って驚いた。
「我々は君をセントラルに連れ戻すように言われただけです」
キンブリーの言葉に少年は、だったら自分は戻るつもりだ、迎えなんか必要ないとにやりと笑った。
「おっさん三人と長旅なんて、それも一緒なんてとんでもない、自分で行くから帰ってくれよ」
「そういう訳にはいかん」
マルコーの言葉に少年はむっとした顔になった。
「こっちは気分が悪いぜ、大体なんて、あんた達が来るんだよ」
「それはこっちが聞きたい、一緒にいたのは」
スカーの質問に少年は睨みつけて叫んだ。
「うるせえっ、関係ないだろ、おまえには傷の男」
その時、音がした、何かが倒れるような音だ。
ドアを開けて部屋に入ったエンヴィーは床に倒れている女を見た、女の下半身、両足が青く変色している、よく見ると鱗のようだ。
これじゃあ、一緒にセントラルに行けない、パフェもケーキも、分厚いステーキも、一緒に食べようと約束したのに、無理みたいと女が笑った。
エンヴィーは近づいて女の足を見た、こんなことが人間に、普通に起こるわけがない、だが、目の前で実際に目の前で彼女の足は変わっている。
「痛みはあんのか、大丈夫か」
怖いと女が呟いた、それは当然の反応だろう、このとき、エンヴィーは開いたドアから覗いている三人の視線に気づいた。
錬金術師のキンブリー、ティム・マルコー、傷の男、医者ならどうだと思ったが、病気ではないのだ、では頼れる人間はいない、ここには。
このとき、自分をを生み出した世界中で誰よりも頼れる男の顔を思い出した。
お父様、どうすればいい、こんなとき、自分は何をすれば。
(水)
頭の中に声が響いた。
大量の水、足、体を、頭の中に浮かぶ、その声は紛れもなく。
「大丈夫だ、風呂だ、おい、傷の男、風呂の用意しろ、水だ」
何故、こいつに命令されるんだ、だが、少年の表情と目の前の事態にスカーは浴室に行くとバスタブに水を入れた。
キンブリーに抱かれてバスタブの中に入ると女は深く息を吐き呼吸をした、だが、顔色は良くない。
水音がして、水槽のそばでうたた寝をしていた男は目を覚ました、どうしたんだと声をかけるのはいつもの癖だ、喋ることができないと分かっても声をかけて、話しかけてしまう、だが、それももう終わる。
ショウ・タッカーは扉を開けて向こうに行った、そして無事に連れてきたという連絡を寄越してきた、ところが、以後、連絡がない。
何かあったのか、誰かが邪魔をしているのだろうか。
軍は黙認する、それは当初からの約束なので安心していた、このことは上の人間しか知らない筈だ、だが、それでも安心はできない。
不安があるとすればホムンクルスではなく、作った人間だ。
「あっ、アアッッ」
それは悲鳴にも似たような声で男は驚いた、こんなことは初めてだ、水から出すべきか、だが、また以前のようなことなったらどうする、それを考える
と怖い。
だが、このままではと思って男は水から水槽の中に入り、人魚を抱き上げようとした、ところが。
抱き上げた感触、その頼りなさに驚いた、それだけではない、体、肌の色、髪が少しずつ、消えていく、どういうことだ、これは一体、訳が分からず男は混乱した。
どうすればいい、彼女を助けられる、だが、少しずつ体は溶けるように軽くなっていく、自分ではどうすることもできない、だが、それだけではない、水槽の中の水の色が変わり始めたのだ、どういうことだ、これは、もしかして扉を開いたこと、向こうから連れてきたのは賢者の石ではないのか、別のものなのか、いいや、そんな筈はない。
男は混乱した、タッカーに連絡しなければ、向こうの状況を知らなければ、彼はそばにいる筈だ。
「ミヤ」
エンヴィーは声をかけた二本の足は完全に一つになり、完全に魚のような尾ひれに変わっていた、返事をしようとしているのか、しゅーしゅーと口から息が漏れるような音がするが、それは少しずつ、小さくなっていった。
「大丈夫、だか、ら」
人魚という生き物は想像の産物、映画や小説の中の生き物だと思っていた、童話や小説、伝承など話は幾つもあって有名だが、実際にはそんな存在しな
いと思っていた。
最後はどうなった、確か尾をなくして人間になったとか、泡になって消えたとか、そんな異国の話を思い出したのはキンブリーだ。
女の髪は真っ白、いや、少し青みかがっている、水のような色だ、目の色は黒っぽい、いや、光の加減でよくわからないが、思わずじっと見てしまった、そんな視線に気づいたのか、女が自分を見ると口元を緩めた、それは笑顔だ。
なので思わず自分も返した、笑顔でだ。
「どうかしたのかね、君は」
マルコーの声に思わずはっとした、自分では違和感のない笑顔のつもりだったのに、傍から見ればそうではなかったのだろうか、何故かもう一人の傷の男も自分を見ていることに気づいた。
「ここまで運んでくれたのは、あなた」
自分達の中で一番体格のいいスカーに女が声をかけた、無言のまま頷いたスカーに女はありがとうと笑いかける、このとき女の上着がずぶ濡れなのにキ
ンブリーは気づいた、人魚だから濡れたままでもいいだろうと思うが疑問が浮かび、キンブリーは思わず尋ねた、あなたは人間かと。
「昔は人間だったけど、今も自分は人間だと思っているんです、おかしいでしょうか」
「いえ、人間に見えますね、私には」
女は顔を見たキンブリーは確信した、作られたもの、動物と人間を掛け合わせたキメラなどの生き物ではないと。
「シャツが濡れたままでは風邪をひくでしょう」
すると女は今更のように気づいたのか、シャツを脱いだ、上半身、乳房があらわになルとキンブリーは自分の上着を脱ぎ、女の肩にかけた。
「ありがとう、あなたは」
「ルドルフ・キンブリーです、こちらは傷の男はスカーとドクター・マルコー」
自分の名前を言いかけて女は無言になった。
ちょっとシリアスっぽくなってしまいました、こういうのが続くとギャグが書きたくなるのよね、困ったわ。