鋼の錬金術師 賢者の石を持つ彼女はアラサー女でした 作:木桜 春雨
どうする、まさか、こんな事態になるとは予想もしていなかったとショウ・タッカーは焦った、扉を自分が開くと男は言った、そして自分には、ここへ連れて来てほしいと言われていた、ただ、それだけだった。
ところが、どういうわけか、一人ではなかった、少年がいた、見た目からして危なげな空気を感じる、人間ではないと思った。
それに男が三人もいる、邪魔をするかもしれない、もしそうなったら、いや、あの男から教えられた情報を使えば。
とにかく、少しでも早くセントラルへ戻りたい、自分に協力すれば妻と子供を生き返らせると約束した、だが、それが確実だという保証はない、利用されているということも考えられるのだ、どうすればいい。
とるべき道が一つなら突き進むだけだ、だが、それは余りにも危険だ、だから、ショウ・タッカーは考えた、ここでじっとしていても仕方がない、危ない賭けだが、やるしかないと考えた。
ドアをノックする音が響いたとき部屋の中にいた全員に緊張が走った、一体誰だ、尋ねてくる人間の予定もない筈だ。
「どちら様でしょうか」
扉の前で伺うようにキンブリーが声をかけた、すぐには返事がない。
「貴方を連れてきた人間に頼まれてきました」
開けてくださいと女がキンブリーに声をかけた、入ってきたのは中年の男性だ、ベッドの上の女を見ると男は驚いたように凝視した。
「どうして、ここに、あの水槽から出て」
自己紹介をと女が笑った。
「会うのは二度目ですね、名前を聞いてもいいでしょうか」
名乗る相手に女はタッカーさんと呼びかけた。
「軍の人たちは私たちのことをリヴァイアサンと呼んでいました」
「なんだ、その呼び名は、私たち」
「化け物、海から来た怪物という意味もあるんです、セントラルへ行きますか、一緒に、でも迷っているんでしょう、貴方は家族を取り戻したいと思っている、彼を信じているならいいのですが、そうではないでしょう」
タッカーは内心焦った。
「貴方の家族を私が生き返らせると言ったら」
できるのか、この女にと疑うような眼差しを向けてしまったのは無理もない。
「石がなければ、できないと」
「石、賢者の石、ああ、彼はなんと言いました」
人の命を使って作る、だが、詳しいことはとタッカーが言いかけると、この会話にティム・マルコーの顔がわずかに歪んだ、それに気づいたのか、女がマルコーを見た。
「あなたは石のことに詳しいのですか」
「人の命を使って作る、あれは」
「ああ、あなた方はそうやって作ったんですね」
女の言葉にマルコーの顔が何故と問いかけるような表情になった。
「彼は貴方に石のことを言いませんでしたか、タッカーさん」
「詳しくは話さなかった、ただ、軍のことを否定していたような言い方だった」
「この国の軍が作った石のことを、そんなことはないでしょう、ただ、それより少しだけ違う石を見つけたから」
この言葉に、タッカーだけではない、三人の男が驚いた。
「エンヴィー、スーツケースは」
それは紫色の布に包みだった、さあと女はタッカーに声をかけた。
「石です、これを貴方にあげます」
「どういうつもりだ、何故」
「勿論、条件付きです、イシュヴァールまで彼を送ってほしいのです」
女はエンヴィーを見た。
「なんだよ、それ、セントラルに一緒に、それになんだって」
説明しろとエンヴィーは言おうとしたが彼女は答えなかった。
「亡くなった妻子が生き返ったら、軍に、何故、どうやって、そんなことができたのかと、貴方は聞かれる、そうしたら」
答えること、説明できますか、できなければ軍は生き返った妻と子供を調べるかも、どんな目に遭うか想像してみてと言われてタッカーの顔色が変わった、そこまでは考えていなかったといわんばかりだ。
ガタガタと音がした、部屋の中のベッド、タンスが揺れたが、倒れるという程ではない。
「地震、ではない」
呟いたのはスカーだ、最初は慌ていたマルコーも窓の外を見て部屋の中だけだと気づいた。
「この部屋だけが、揺れているようです」
キンブリーの言葉に突然、揺れがピタリと止まった、同時に部屋の中に。
まるで音のない映像を見ているようだった、自分達のいる部屋全体が別の場所のようになっている、そして周りには大勢の人間がいた、ここは実験室ではないか、そう思ったのはマルコーだ。
「先生、軍の施設に似ていませんか」
キンブリーの言葉に頷きかけたマルコーだが、職員がと言いかけた、ボロボロの破れかけた衣服を着ている者もいれば、そうでもない人間もいる。
肌の色は自分やキンブリーと同じだが、明らかに顔立ちは違う。
一人の男が何かを叫んでいる、声は聞こえない、だが、その表情は怒っているようにもにも見える。
「イ、イシュヴァール」
突然、声が響いた、その瞬間、ざわざわと部屋の中に声が響き渡った。
「騙された、あいつらは嘘を言っている」
「初めてだと言っているが、何度もあったんだ」
「あ、あめすととか、ところで、戦があったらしい」
「人間の魂と引き換えにか」
「やめさせよう、こんな、そうだ、子供だけでも逃がそう、ほら、あんた」
一人の男が進み出た、褐色の肌の男にそばに居た女が声をかける。
言葉が分かるのか、大丈夫か、子供達を無事に連れ出せるか、次々に声がかかると、その男は深々と頭を下げた。
「私がついて行きます、大丈夫です、年寄りはシン国へ」
女の言葉に周りにいた男達が頷く。
「許されることじゃあねえ、なんとかしよう、扉ってやつを」
「壊すのか、できるか、儂らに」
「時間はかかるだろう」
部屋の中の人間、全員が困惑の顔、表情を浮かべた、時間が、間に合うのかと戸惑いの声が漏れる。
そこで映像がぶれた。
会話ができたのは幸いだ、話、言葉が通じるのは嬉しかった、ところが、字が読めなかった、本を読むのが好きだった自分に、これは苦痛でしかなかった。
だが、それだけではない、錬金術、錬成、賢者の石、何を言っているのか分からない、それがどんなものなのか、何を意味しているのか、まるで空気のように歌のように耳に響いてくるが、意味が分からない。
ただ、石という言葉だけはわかった、これはロジックなのかもしれないと誰かが言った。
彼らが、どうやって、ここに来たのかわからなかった、老若男女、子供もいた、服装も変わっていた、言葉が通じるのかと不安になったが、最初のうちは自分達を怖がっていたがしばらくすると話が通じる、会話ができるとわかって仲良くなった。
どうして自分達が、ここに来たのか分からないという、家に帰りたいという者がいたが、しばらくすると、そんな言葉を口にする者はいなくなった、子供もだ、何故と思ったが、分からなかったからだと分かった。
どうやって帰ったらいいのか。
困っている人間を放ってはおけなかったのもあるだろう、突然現れた異人達に話しかけて事情を聞くうちに、彼らの境遇に同情した、だが、しばらくするうちに男は一人の女性と仲良くなった。
真っ白な髪と赤い目、混血ということもありイシュヴァール人というだけで他国の人間は嫌悪の表情を浮かべる者もいる、だが、彼らは違っていた。
そのせいもあったのか、一人の僧は、ある女性と仲良くなった、ところが。
「軍が連れて行ったんだ」
修行と家のこともあり一週間ぶりに訪れると彼らはいなくなっていた、軍が保護するために連れて行ったのだという。
「妊婦もいたんだ、大丈夫なのかい、もうすぐ生まれるなら、いいことだって、変だよ」
「お偉いさんもいた、あいつら、イシ、イシ、石ができるって、なんだい」
石、何のことだ、この時、賢者の石のことかと男は思い出した、すると、そばにいたイシュヴァール人の中でもかなり高齢の男が呟いた。
「昔、聞いたことがある、異国の人間を使うと」
保護じゃないと言葉をこぼすように老人はこぼした。
賢者の石を作るつもりだと。
ハガレンにこんなにハマるまるとは自分でも思いませんでした。
シリアス展開になっていますが、書き切ったらギャグの恋愛、新しく書き直すつもりです、賢者の石が出るとどうしてもシリアス展開になるので、消しました、すみません。
イシュヴァールの男の設定は誰なのかスカーだとベタだなあと自分でもちょっと思案中です、まあ、決め手はいるのですが。