「お疲れ様です。少し顔がやつれているように見えますが大丈夫ですか?」
「あー、はい大丈夫です。前もこんな感じだったので……」
表情に出てしまっていたかと、返事をしながら慌てて表情を引き締める。
天雷さんにされるのは自分で処理する時に比べ格段に気持ちいいのだけど、量も倍かそれ以上に出る上に日に日に動きも激しくなってきているから、正直疲れる。天雷さんが不貞腐れないようにとなるべく表面上はまだまだ余裕ですよといった風に装っているのだが、今日は慣れない場所ということもあって、恐らく結解さんにもわかるくらい表情に出てしまったんだろうな。
「皐月。彼は特級能力者といっても回復系統なんです。体力だけはある皐月とは違うんですから、気遣ってあげないといけませんよ」
「それくらいお前に言われなくてもわかってる! だが、その…いざ目の前にすると気持ちが高ぶってしまって…… すまなかった
「いや、別に謝るようなことじゃないですよ。俺もその…… 天雷さんとするのは嫌いじゃないですから」
「本当か!」
「は、はい」
顔を俯かせていた天雷さんがガバッと顔を上げて、満面の笑みを浮かべながら俺の両肩をグッと掴み念を押してきたので、俺は若干引き気味になりながら頷く。
「御酒仁さんが心の広い方で良かったですね。それでは解析結果の方も出ていますのでそろそろお伝えしたいのですがよろしいですか?」
「はい、お願いします」
どうかいい結果が出てますようにと、俺はゴクリと唾を飲み込みながら返事をする。
俺が頷いたのを見た結解さんは、立ち上がって机の上に置かれた書類を手に取ると天雷さんと俺に紙を一枚ずつ手渡す。
その紙にはカタカナ表記のあまり見たことのないような単語と数値がズラリと書かれていて、内容がまったく理解出来ない俺は助けを求めるように天雷さんの方を見る。
しかしすぐに眼を反らされ、私は今、紙の内容を確認するのに忙しいんですと言わんばかりに目を見開いて紙を凝視し、時折紙を見ながら感心したようにうなずき出した。
その様子を見て俺はこれは天雷さんもわかってないなと思い、結解さんに縋るような目線を送る。
するとこうなることが分かっていたかのように、結解さんが紙をもう一枚俺と天雷さんに手渡す。新しい紙は非常にありがたいことに数値や難しい単語は一切表記されておらず、『能力が上昇していることが判明しました』とだけA4用紙いっぱいにでかでかと表記されていた。
「紙に書いてある通り、御酒仁さんの場合は射精後に間違いなく能力が上昇していることが判明しました」
「よかったな! 御酒仁!」
「はい! あれ…でもどうやって測定してたんですか? 隣の部屋って特にカプセル以外検査機みたいなものありませんでしたよね?」
痛いほどに強く背中を叩いて祝福してくれた天雷さんに返事をしつつ、結解さんへとふと湧いた疑問を投げかける。
「あぁ、そういえば私の能力について詳しく説明していませんでしたね。私の能力はアナライズで、自分を中心とした一定の範囲内の物の情報を任意に分析・解析したりすることが出来るんです。その能力を使って御酒仁さんのことを分析させていただきました」
「へぇ、それは凄いですね」
見たり触れたりしたものを解析・分析する能力があるというのは聞いたことがあるが、範囲内というのは珍しい。それに大抵そういう範囲系のものは間に障害物があると一気に精度が落ちるのが定番なので、そう考えると結解さんは中々の実力者なのだろうな。
「はい。あとより正確な情報をお伝えしておくと射精直後は一瞬能力が低下しますが、即座にその低下分を補い上回る勢いで能力が上昇しています。あと二回目の射精後は若干能力の上昇速度が鈍化するので、やりすぎは良くないかもしれません」
「なるほど…」
もしそれが真実なら、予定より早く天雷さんの治療を終えることが出来るかもしれない。それに自分にとっても朗報だ。正直なところまだ本当に射精をして大丈夫なのかという疑念が自分の心の中に渦巻いているが、他で検査すればすぐバレるような嘘を言う必要はないはずだろうし。
それにこっちの方が間違いなく自分にとって都合が良いので、信じたいという気持ちもある。
「詳しい数値や頻度についてはもう少し検証が必要ですが、今回の結果から見るに御酒仁さんはもっと高頻度で射精した方が、むしろ能力にはいい影響を得られる可能性が非常に高いですね」
「具体的にはどれくらいの頻度ですればいいんでしょうか?」
俺が質問を投げかけると、結解さんは目線を少し下にやった後、若干頬をピンク色に染めながら答えてくれた。
「私は男性ではありませんので、具体的な頻度と言われても困りますが…… 能力を維持するなら最低でも週に一回は出した方が良さそうです。上昇を目指すなら毎日射精するのが望ましいですね」
「ま、毎日ですか……」
非能力者なら毎日出すのが普通とは聞いたことがあるが、本当にそんなに出せるものなのだろうか。でも能力が上昇するっていうのなら挑戦してみるしかなさそうだ。
「ただ先ほどお伝えした通り二回目の射精後、若干能力の上昇幅が緩やかになりましたので、短期間に連続して射精しすぎるのは能力の上昇という観点から見るとあまりお勧め出来ません」
結解さんは説明しつつ、腕組みして隣で説明を聞いている天雷さんの方に顔を向ける。
「なんだその目は。……まあとにかく良かったな、御酒仁。これなら問題なく治療が続けられそうだ」
「あ、はい。そうですね」
子供のような眩しい笑顔を浮かべている天雷さんの顔を見て、本当に治療が続けられることを喜んでいるだけなのだろうかと、半笑い気味になりながら返事をかえす。
「皐月。わかっていると思いますが、能力的に問題ないだけで体力は別問題ですからね。あんな盛りのついた雌犬のようなやり方をしていたら御酒仁さんが持ちませんよ」
「やはりカメラか何かで監視していたのか!?」
顔を真っ赤にして結解さんに詰め寄り、天雷さんが怒鳴る。
「そんな趣味はありませんよ。防音仕様の壁だというのになぜかあなたの声だけは聞こえたので、そこから推理しただけですがその反応を見る限りどうやら心当たりがあるようですね」
「ぐ……」
結解さんの言葉を聞いてさらに顔が赤くなった天雷さんは、苦し気な声を出して結解さんに詰め寄ったまま固まる。
そんな天雷さんを気にする様子もなく、結解さんは俺の方に顔を向けるとニコリとほほ微笑みながら口を開いた。
「皐月の行動が度を超すようであれば、私が守ってあげますのでいつでもご連絡下さいね」
「ふん。お前はどうせ研究目的だろう」
「もちろんそれもありますが、個人的にも興味があります」
「なっ」
予想外の返答だったのか、結解さんの言葉を聞いた天雷さんが驚き、目見開いたまま硬直する。
そんな天雷さんをさして気にする様子もなく、結解さんは俺の目の前まで来ると演技臭い仕草で俺の腕に軽く手を添える。
「あと御酒仁さんの能力の詳細については、重要度の観点から協会へ報告しなければなりません。ですのでこれから皐月以外からも治療依頼が舞い込んでくる可能性が十分考えられますが、その点はご理解下さい」
「わかりました。それであの……」
「なんでしょうか?」
「男性能力者もやっぱり治療しないといけないんですかね? その、治療だったとしても男性に精液を飲ませるのは抵抗が…」
結解さんに聞いても仕方ないかもしれないが、ここはある意味最重要ポイントだ。天雷さんのような美人ならともかく、むさ苦しい男が俺の精液を求めて押し寄せてくるなど考えたくもない。
「ご安心下さい。別口の事前検査で御酒仁さんの能力は、染色体などの問題で男性に対して著しく効果が落ち、能力を回復させるほどの効果が期待出来ないことがわかっています」
「そうなんですか! ありがとうございます」
「ですが、一部の男性能力者がわずかな希望に縋って頼みに来る可能性はゼロではないでしょうね」
「あ、やっぱりそうですよね…」
確かに俺が治療される側だったら、少しでも可能性があれば、そして女性は回復するという実績があるのなら可能性があるのではないかと頼んでいると思う。
「ですが治療方法はかなり特殊ですし、協会もそうそう変な人を治療して欲しいなどといったお願いはしないかと思います」
「それにしばらくはまだ私の治療をしてもらうしな」
驚きから復帰した天雷さんが、未だ腕に手を添えている結解さんから奪うように俺の身体を引きはがす。
そして、守るようにぎゅっと俺の事を抱きしめて結解さんを威嚇するようにギロっと睨みを利かせている天雷さんを見て、この先果たして俺は無事に治療を終えられるのだろうかと、一抹の不安を抱くのであった。