※この作品はR-18です。

式波さんちのダンナさん   作:しゅとるむ

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外伝4話 アドゥレセンス黙示録

「そもそも同人誌って何?」

「正確な定義は知らないけど、個人やサークルで作った趣味の本……って感じかな?《旧世紀エヴァ》の同人誌をナガナミちゃんは描いてるんだ」

と首を傾げるアスカにタカナミは簡単な説明をしたあと、

「んじゃ、なんとかナガナミちゃんの同人誌、調達してくるから、ママンは少し待っててね」

と、一旦は引っ込んだ。

 

「別に無理しなくてもいいのよ!」

 

 背中に向かって掛けたアスカの声にヒラヒラと手を振って、タカナミは去っていく。

 

 小一時間後、アスカたちの寝室に戻ってきたタカナミがこっそりアスカに寄越した本は、ごく薄い冊子だった。40ページほどの本であろうか。

 

「ずいぶん薄い本ね」

「だから、そのものずばり薄い本って言うこともあるらしいよ。ま、それはエッチな同人誌の隠語でもあるようだけど」

 

 その言葉にアスカは警戒心を表情に浮かべる。

 

「こ、これもエッチだったりするの……?」

「ナガナミちゃんは健全本しか描いてないよ」

「……《黙示録のアドゥレセンス》」

 

と、アスカが、読み上げたのがタイトルだった。

 

「黙示録の思春期……か」

 

 アスカは少し表情を和らげて、表紙を見つめる。そこには赤い海の浜辺に、プラグスーツ姿の少年と少女が横たわっている遠景が、繊細なタッチで描かれていた。

 

「絵、本当にうまいのね」

「ナガナミちゃんが席を外すまで、時間がかかってねー。読んだら速攻返さなきゃ」

「それは、アタシから返しておく」

「えー、大丈夫かな。ナガナミちゃん、切れるんじゃ……」

 

 アスカはもうタカナミを無視して、夫婦のダブルベッドに腰掛け、自分のむすめ謹製の同人誌を読み始める。

 

 ─最終決戦、ネルフ本部は同じ人類の裏切りのような攻撃を受け、アスカの弐号機は奮闘むなしく白い量産型エヴァンゲリオンに凌辱されるようにして破壊される。人類補完計画は遂に発動し、最後には赤い海の波打ち寄せる浜辺でアスカとシンジの二人が横たわる。シンジはアスカを恐れるように首を絞めるが、けっきょく殺しきれない。その後、二人は男と女として交わり、傷つけあいながらも、二人だけで新世界のアダムとイヴとして生きていく…

 

 そんなストーリーだった。アスカの知っている歴史とは全く違う。ヴンダーも出て来ないし、アスカの名字も式波ではなく、漫画公式の敷浪アスカ様ですらなく、恐らくはナガナミがオリジナルで考えた「惣流」という姓に変えてある。だから、これはアタシではないアタシとシンジの物語だ。そう、アスカは思った。そして、ナガナミに間違いなく備わっている物語作りの才能を理解した。

 

(新世界のアダムとイヴ、まるでシンジとアタシね)

 

 同人誌の作者であるナガナミにとっては、父と母をモデルにした話ということになる。ナガナミはそこにどんな想いを込めたのか。

 

 たった二人だけで過ごす終末期の赤い地球で、ナガナミの創造した─想像した父と母は、小さな人生の歓びを一つ一つ見つけ出していく。

 

 道端に咲く生き残った草花を二人で住まうことにした小さなコテージの庭に移し替えたこと、道で野良猫を拾って飼い始めたこと、廃墟と化したデパートで二人の新しい服を選んだこと、記念日にレストランで食事をする真似事をしてみたこと、そして、アスカの妊娠。

 アスカはやがて、シンジとの子供である双子の女の子たちを生むことになる。

 

 その名前はナガナミとタカナミ。

 

 物語は双子を抱きながら、優しく労り合うように見つめ合うアスカとシンジの笑顔で終わる。

 

 それがナガナミの描きたかったストーリーだった。ナガナミの見たかった父と母と自分たちのストーリーだった。

 

 ◆

 

「読んだわよ、《旧世紀エヴァンゲリオン》とやらいう漫画」

 

 アスカはいきなりナガナミの部屋に入ると、机に座るナガナミの背後で、彼女のベッドに腰掛ける。同室の妹、タカナミは留守のようだ。

 

 《旧世紀エヴァンゲリオン》のラストシーンは、人類補完計画を阻止したシンジの無事帰還を待つ敷浪アスカが祈り、願いながら、星空を見上げるシーンである。二人の再会は直接的には描かれていないが、必ず再会するだろう、と誰の目にも思わせるエピローグなのだ。

 人類補完計画の阻止に成功することなど、物語の終盤はアスカたちの承知している史実と食い違う。地球を捨てて、新天地惑星ヴンダーに旅立つ人々は、その阻止成功の事実を知る前に旅立った事になっている。これは地球の人類が滅びたという事実を直視することを巧妙に避けた読者への優しい配慮なのだろう。

 

「……あんな風に綺麗な恋愛をシンジと出来たら素敵だったろうね」

「そう、《旧世紀エヴァ》を読んだの。タカナミのお節介か……年中発情期のアナタにはどうせ敷浪様のような純愛は無理でしょ」

 

 ふんっと横を向くナガナミは母アスカに対してにべもない。

 

「確かにそうね。だって、アタシ、シンジとエッチ無しだと間が持たない時があるから」

「……は?話題がない……とか、そういうこと?」

「ううん。話題とかじゃなくって。だって、シンジとお話するのは時々、……今でもドキドキして恥ずかしいから。エッチなら最初に誘う勇気だけだもの」

 

 頬をほんのり上気させたアスカはベッドの上で、スリッパをつっかけた足をブラブラさせている。ナガナミは椅子を回転させ、母に向き直る。

 

「……ふ、普通に考えて、エッチの方が恥ずかしいでしょ。てか親が娘にする話?」

「ごめん。確かにおかしいよね。……でも、エッチはただそれだけのことだから。求めて、騒いで、場を引っ掻き回して、繋がってそれで終わり。もちろん結ばれたっていう満足感はあるけど、心がどうかはなかなか分からない」

 

 アスカは両手を組み合わせて、そこに目を落とし、二つの手が結びあわされる所を見つめている。

 

「アタシにとってはエッチの方が簡単なんだ、だってそれは元々シンジとしかしないものだから、シンジにそれを求めるのは当たり前……でしょ? だからヒトだったときに、アイツにお弁当を作らせてた時のように、アタシが求めるだけで、アイツは応じる。何回も…ってねだると流石にゆうべみたいに逃げられる事はあるけどね」

 

とアスカは笑う。

 

「……エッチと違って、やっぱり好きだよって言うのは少しだけ怖い。相手の気持ちは見えないから。僕も好きだよ、って返してくれるのは分かってるけど、やりとり自体がちょっと怖いんだ」

「……別に、お父さんはアナタの事、普通に大好きでしょ。見てれば分かる。心配しすぎだ…」

「だといいんだけどね」

 

と言って、アスカは組んだ腕を上に上げて、んーんと伸びをする。ナガナミはずっと気になっていたことを訊ねる。

 

「お、おか……お母さんだって、お父さんの事が好き、なんでしょ。その……身体目当てとかじゃなくて」

「……うん。身体だけじゃなくて、その先のアイツの心がほしい……」

 

 アスカは頬を紅潮させて、素直に頷く。でも、それが難しいんだ、どうしていいのか分からない、だって、シンジとしか恋をしたことがないから─

 

「ああ─お話の中のアタシみたいに、エッチ抜きでいつでもシンジに好きだよって素直に言えたら良いのになぁ……」

 

 天井を見上げて何かを堪えるような表情だったアスカの両頬につつと、透明な水が流れる。

 

(え、泣いてるの……)

 

「シンジが恋しいよぅ……十四年間も会えなかったんだよ。いま、毎日毎晩会ってても、足りないよ。漫画を読んであの時の事を思い出して……。あの時の事を思い出してしまうと、今でも切ない……シンジがいなかった時のアタシをシンジは知らないんだもの……その想い出の中ではアタシはいつまでも独りきり……」

 

 普段とは打って変わって心細げなアスカに、ナガナミはなぜか反撥した。

 

「だったらこんな所で管巻いていないで、今すぐ会いに行きなさいよっ!」

「今は里に出掛けてる。それに」

 

と、その時だけ、ナガナミを見て、寂しげに笑った。

 

「いまシンジに会ったら余計に恥ずかしくて喋れなくなるよ」

 

 紅潮した頬にまで涙の伝う両の目を細める母の顔は、明らかに恋する乙女の顔だった。アスカの恋は成就している。しかしその切ない恋はまだ続いているのだ。

 

(かわいい……敷浪アスカ様とはぜんぜん違うけど、絶対にかわいい……) 

 

 ガタッとナガナミが椅子から立ち上がって、アスカに近づく。目を瞑って、それ以上の涙を堪えている十四歳の母、アスカはとても綺麗だった。唇が少し腫れぼったく、その薄桃色が、何かを誘っているようだった。

 

「あの、おかあ……ママ、き、き、キスしてもいい?」

 

 薄目を開けて、アスカはナガナミを見、その気持ちを何か察したのか、首を横に振った。

 

「んん……ダメ……シンジに怒られる」

「あ、あ、アタシは女だし、娘なんだからノーカンでしょ、お父さんも怒らないよ!アタシが慰めてあげる!」

 

 必死になって食い下がる。

 

(あ、アタシは何をしようとしてるんだ……相手は自分の実の母親、しかも日頃あんなに嫌っていた、お父さんをイジメる淫乱な母親なのに)

 

「……唇はシンジだけのものなの……今までシンジしか知らない場所……。だから……ほっぺかおでこなら……いいよ」

「じゃ、お、おでこで……」

「ん。いいよ」

 

 アスカが、そっとおでこを差しだし、ナガナミはそっとそこにキスをした。

 

(うわぁ……本物のアスカ……ちゃん……お母さんだけど、アタシ、キスしちゃった……)

 

 ナガナミの顔が、熱く上気している。

 

◆

 

 ナガナミはそわそわしている。母と後ろめたい関係を結んだという程のことでもあるまいが、何か、いけない秘密が出来たような感じもしていた。

 と、同時に生まれて初めて、アスカに対して、母と娘の、同性としての連帯を感じていた。だから、アスカについ言ってしまう。

 

「せっかく結ばれたんだから、もっとお父さんに優しくしてあげればいい……」

「アタシ、シンジに優しく、してないかな」

「なんだか無理してるように見える時もあるわ……。空元気というのとも違うけど。心が欲しいなら、別にそんなにエッチエッチと言わなくてもいいと思うんだけど」

 

と、忠告するナガナミの表情と声はいつもの母に対するときより、少しだけ優しかった。

 

「まあ、アタシがエッチが好きなのは本当だよ、シトの快楽ってそれぐらいしかないしね。でもね、シンジにちゃんとアタシはアナタのことをいつでも求めてるんだよ、って知ってほしいの」

 

─アイツはいつだって自信がないのだから。

 

「もう、アイツを不安にしたり、寂しくさせたりしたくない。シンジが寂しくなくなるなら、子供だって沢山産んであげたい。だから、そのためなら、少しぐらいしつこくしてイヤがられてもいいんだ」

 

 アスカは達観したように言い切った。

 

「それでお父さんにキラわれても?」

「キラわれるのはしんどいかな。だから毎日が大変だよ。喧嘩も結構するからね。シンジを毎晩求めてあげたい。でも、その事でシンジに傷付いて欲しくはない。自分の価値はそういう事だけなんだ、とかね。そう思ってるけど、上手く出来てないのかも知れないね」

「お母さん……」

 

 なるほど、母アスカはかなり不器用な人なのだ。純愛を前面に出すと気恥ずかしい。だから、身体の事ばかりを言い立てる。身体だけでは心の保証にはならないと分かっていても、それでもなお、ルーティンとしての夫婦関係に切ない絆と希望を求めている。

 

(お父さんに誤解されなければ、いいんだけど……)

 

 自分は少なくとも少し誤解をしていた。でも、これだけ長く夫婦として続いてるのだから、父は違うのかも知れない。

 

「そうだ、勝手に借りてしまったけど、これ」

とアスカは背中に隠していたナガナミの同人誌を差し出す。

 

「これ……アタシの本。お母さん……読んだの?」

「うん……いい話だった」

 

 ナガナミが怒り出すかとアスカは思ったが、ナガナミは少し恥ずかしそうに俯いた。

 

「でも、変な話でしょ─これだけはいつも描いてる漫画の設定とは違うの。赤い海の浜辺だなんて……でもなぜかその光景が思い浮かんだの。そして、いつまでもアタシの頭から離れない」

「本当にあった話みたいだったよ。最後は心が温かくなった。ナガナミは漫画の才能があるんだね」

「才能なんて、そんなの……」

 

(あるわけがない。それでもこのジャンルにしがみついているのは……)

 

 そう思うと、心の中をまるで読まれたかのように、アスカが、その事を聞いてきた。

 

「ナガナミは、その……なんでLASという─そういうジャンルがあるんだってね─アタシとシンジの物語を書くの?自分の両親の事だから?」

「もちろん、それもある……幼い頃から、うちは放任で、それはべつにアタシたちシトには違和感のない事だったけど、漫画なんかでヒトの世界を知ったら、少し寂しくなった。特にお母さんとお父さんのお話を知ってから、余計に寂しくなった」

「もっと構ってあげればよかったわね」

 

と、アスカはナガナミの小さかった頃の姿を思い浮かべようとする。二百年以上前の事だから、既に記憶はおぼろげだ。それでも、小さかったナガナミはアスカにもシンジにも似て、可愛かった事だろう。もっと構ってあげればとは、ナガナミへの慰めの前に、アスカの小さな悔恨でもある。

 

「ううん、というよりアタシたち以上に寂しかったのは、お父さんとお母さんだよ。二人ともこんなに結ばれるべき想いを抱えた存在なのに、ずっと遠回りして。なんて哀しくて寂しいんだろう、と思ったわ。二人が結ばれない結末の話だって沢山あるの。アタシはそれがイヤだった。解釈は自由だけど、二人の娘として生まれた自分という存在を否定されるようで。そして、結ばれない世界の二人があまりにも可哀想過ぎると思って」

「ナガナミ……」

 

 ナガナミにとっては、そんな世界のありようが不思議だった。アスカとシンジ、母と父、たった二人の少女と少年を幸せにするのに、こうも迂遠な道を歩まなければならない世界とは一体何なのか。そして子供の頃から、ようやく結ばれた母と父を見ていたが、それはフィクションの世界の恋人たちとは少し違っていた。それが─そんな両親のありようが─ナガナミを不安にした。だから、父と母の物語を読んでいるだけでは満足できなくなった。ナガナミが漫画を描き始めたのはそれがきっかけだ。

 

「あのね、お母さんが世界で一番よく知ってると思うけど、エヴァンゲリオンの物語を読む人、観る人たちは、みんなお父さんが大好きになるよ。エヴァンゲリオンの物語に出てくる人たちもそう。みんな碇シンジを知ったら、大好きになる。アタシもお父さんが大好き。お母さんもそうだよね?繊細で、臆病で、自虐的で、でも優しくて、可愛らしくて。真面目で、几帳面で、頑張り屋さんで、友達思いで、最後には自分の幸せなんか差し置いて、皆を救っちゃう。全然報われないのに、皆を救う。皆から好かれる資格なんかないと思ってるのに。でも、シンジ君自身が思ってるのとは全然違って、皆が彼を好きになる。そういう人だよね、碇シンジ……アタシのお父さんで、式波アスカのダンナさんは。だから、アタシは物語の中で、大好きなお父さん(碇シンジ)を救いたいんだ。そして、お父さんを好きなお母さん(式波アスカ)も救いたい。そうすることでけっきょくは、LASの物語を書くアタシたち自身も救われたいんだ」

 

 ナガナミはいつの間にか顔を覆って泣いていた。アスカは立ち上がると、そっと椅子に座ったままのナガナミの頭を自分の胸に引き寄せた。

 

「ううう……お母さん、お母さん……」

「ありがとう、ナガナミ……もうアンタの名前、忘れないからね。素敵なアタシとシンジの物語をありがとう。アンタはアタシとシンジの素晴らしい娘だわ」

 

◆

 

「あのさぁ、シンジ」

「え、何?」

 

 その夜だった。シーツにくるまれながら、裸と裸でアスカとシンジはひしと身を寄せ合う。

 

「アタシって、エッチ過ぎるのかな」

「い、いきなり、直球だね、どうしたの」

 

 話の脈絡が見えず、シンジは戸惑いを隠せなかった。

 

「いいから、正直に答えて」

「エッチだとは思う……でも過ぎる、なんてことはないんじゃないかな。夫婦なんだし」

「でもゆうべだってアタシから逃げ出してるくせに。子供だって二十六人もいるのよ」

 

 僕らはシトだからね─もう二百年以上夫婦続けてるし、とシンジは頭をかく。

 

「そりゃ応えられない時もあるよ、……それは、ごめん。でも子供のこととかは─正直、アスカにももう少し真剣に考えて欲しいけど─結局は二人の責任だしね」

「シンちゃんらしい優等生的回答ですこと。アタシが無理やりシンジを襲って、子供が出来ちゃった時もあったじゃん。ああいうの、トラウマにならなかった?」

「……正直、最初はちょっと腹が立ったよ、僕のこと尊重してないんじゃないかって。だって、僕の目の前で僕の下半身と浮気してるようなものじゃない?」

 

と、シンジのこの批判は辛辣だった。

 

「う、浮気……その言い方はちょっと酷くない……?」

「あ、いや、それは言い過ぎだったかな……あくまで、ものの喩えだからね」

「あのね、アタシはシンちゃん一筋なんだから。それは分かってね」

「うん……それは分かってるんだけど……」

 

 シンジにはしかし、アスカの言葉に対しても、今一自信が持てないでいる。

 

「そして、シンちゃんに上半身も下半身もないの。どっちと仲良くしてもいいの。どっちと仲良くしたいかはアタシが決めればいいんで、いちいちアンタが文句を言う筋合いじゃないの、分かった?バカシンジ」

「……僕は当人なのに、なんだかとても納得がいかないんだけど……」

「それにどっちとも同時に仲良くするという方法もあるのよ」

 

 そう言うと、アスカはちゅっとシンジにキスをする。

 

「これで、上半身の許可はオッケーでしょ?残るは……」

 

と、アスカはそこで、にやりと笑う。

 

「ええっと……」

 

 アスカが、シーツの下で、自分の足をシンジの足に絡めてきた。

 

「捕まえた」

「アスカ……」

「安心して。アタシはアンタを弄んだりはしない。こういう風に事を運ぶのは……」

 

 じっと蒼い瞳で見つめ、アスカは抱きしめた夫に向かって言った。

 

「言葉でも身体でも、アタシは碇シンジが大好きなんだ。世界で一番好き。胸を張ってそう言いたいの」

 

─これが、ナガナミへのアタシの答えだよ。

 

◆

 

「あれから、ナガナミはどうしてる?最近見かけない事が多いけど」

 

 一週間ほどたった頃、アスカはタカナミに話し掛けた。

 

「ずっと部屋に籠もって漫画を描いてるよ。新しいインスピレーションが湧いたみたいで。これからは、漫画の敷浪アスカ様ではなく、本物の式波・アスカ・ラングレーを描きたいんだって」

「どうした風の吹き回しなのかしら」

 

 言いながら、アスカが笑ってるのを見て、タカナミもにっこり微笑む。

 

「ナガナミの反抗期は終わったんだよ、ママンのお蔭でね。幼年期の終わりだね」

「211歳とはね。……ずいぶん、粘ったものね」

「粘っただけの事はあったんじゃない?」

 

 そう言って、タカナミはナガナミの部屋の方をいつまでも優しい顔で見つめていた。

 

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