夜がやってきた。
「ただいま」
アスカはシンジに声をかけると、夫と共有の寝室で、中学の制服を脱いでハンガーに吊すと、部屋着のタンクトップと短パンに着替える。
部屋の片隅に体育座りで俯くシンジは無言だ。着替えの途中で下着になったアスカにも目を向けなかった。その両頬にアスカは白い手を当てる。
「た、だ、い、ま」
閉じたシンジの心に一つ一つ楔を打ち込むようかアスカの帰宅の言葉だ。
「お、おかえり……」
「最愛の妻が帰ってきたんだから、抱っこしてチューぐらいしたらどうなの?」
「……え、で、でも、僕らは喧嘩してるから」
アスカはそんな事は関係ないとばかりに静かに首を左右に振る。
「んじゃアンタ、一生喧嘩を続けるつもりで、一生アタシを無視するつもりなの?シトの一生は気が遠くなるほど長いのよ?……だから」
アスカは胸に手を当てて、もう一度シンジに要求する。
「今すぐしなさい、抱っことチューを」
「う、うん……」
シンジはアスカの剣幕に押され、妻を抱きしめた。確かに、これから千年、万年とアスカと喧嘩をするわけには行かない。
といっても、シンジにはいまだに踏み込む自信がない。宝石のような蒼い瞳に見つめられると、二百年以上夫婦を続けていても、いつも不安になる。本当にアスカにそういう事をしてもいいんだろうか、こんなに綺麗なのに。僕なんかが花を手折るような事をしていいのだろうか……と。
「あの、いいのかな……」
「夫が妻にキスの許可なんて取らないの」
「うん……」
アスカがそっと目を閉じたので、勇気を出してシンジはそっと妻の唇に自分の唇をかぶせる。あまり上手ではないキスだ。アスカはパッと目を見開く。
「へたくそ。全然気持ちよくならない。十四歳のキスね」
「ううっ」
「いつもエッチな事を怖がっておざなりなキスをしてるから百年経っても二百年経っても上手くならないのよ。アタシがお手本見せてあげる。ほら。目をつぶって」
「う……ん」
今度は、アスカからシンジに唇をかぶせる。一回だけではなく、かぶせては離れ、かぶせては離れ……を繰り返していく。
「……ん……くちゅ」
「う……ううっ」
やがて、アスカは、シンジの唇を舌で割り広げ、舌をくじり入れていく。
「ひた……はらめて……」(舌……絡めて……)
「うう……う……ん……ほお?」(うう……う……ん……こう?)
「んちゅ……れろ……れろ」
「……ひんじ……ひんじぃ」(……シンジ……シンジぃ)
「んむ……んく……んちゅ」
「あふか……あふかぁ……」(アスカ……アスカぁ……)
蛇のように舌を相手の口腔内で蠢かせ、あちこちを舐める。舌と舌でユニゾンダンスを踊る。相手の唾液を啜り、舌先で相手を責め立てる。こんな淫靡なこと、シンジとしか、アスカとしか、出来ないよね……と思えば思うほど、互いの行為に熱が入り、一層のめり込んでいくのだ。
お互いの唾液をたっぷり交換するキスが終わると、アスカは上気した顔で言った。
「やっぱり気持ちいいよね、舌を絡めるキス……」
「うん……すごかった……」
「よしよし。これが二十八歳のキスだからね」
アスカは、シンジを抱きしめて、背中をぽんぽんと叩いてやる。
アスカは二人が結ばれた時のそれぞれの精神年齢を強調する。その時にはもう二人はシトになっていて、肉体的年齢には意味がなくなっていた。二人の肉体はもう永遠に十四歳で、宇宙が滅びるときまで変わらない。それは少し哀しいかも知れないけど、二人が変わらずにずっと一緒に居られるのだから嬉しい事でもあった。
「今日はずっと家で独りだったの?元気にしてた?」
シンジを抱きしめたまま、アスカは耳元で優しく夫に訊ねる。
アスカの機嫌は直っているが、シンジはずっと落ち込んだままだ。フレンチ・キスの一つで、気分が戻るわけでもないようだった。
「うん……いちおう」
シンジもアスカもシトなので、体調不良という概念は存在しない。ただ、メンタルの問題は常にあって、シンジは返答ほどには元気とは言えそうにない状態だった。
「寂しそうな顔ねえ。とっととお風呂に入って、
「いやだよ、そんなの。……仲良しどころか、どんどん仲が悪くなる原因じゃないか」
「そうかしらねぇ?アタシはそんな風に思ったことはないんだけど……」
アスカは首を捻る。
「
「……前はそうだったけど」
今はそうでもない、アスカに夜の主導権を握られ、とことん惨めになるだけだ、とシンジは落ち込む。
「うーん、ダンナさまはやっぱりアタシの身体に飽きちゃったのかな」
「あ、飽きてなんかいないよ……ただ寂しいんだ」
「毎晩、一緒に寝てるのに?」
「だって、アスカが話を聞いてくれないから」
まさか、毎晩アスカに犯され、弄ばれてるから、とは言えない。そんなに屈辱的な説明は出来ない。だから「話を聞いてくれない」というのは、シンジなりの精一杯のプライドに支えられた抗議の表現だった。
「……あのね考えたんだけど、シンジ。休戦協定を結びましょう」
「休戦協定?」
「夜はたっぷり
「でも……それじゃ今までと……」
全く同じじゃないか……とシンジはうなだれる。アスカはシンジから体を離し、立ち上がって言った。
「アンタはアタシとの夜が不満って言ってるけど、具体的には何なのよ」
「その……ちゃんと避妊をしてくれないこととか……」
「だからアタシはまだまだシンジの子供を作りたいの!絶賛子作り中なら、避妊なんてしないわよ」
─といっても、アスカは生まれた子にはあまり関心がないんじゃないか。珍しくハナちゃんは可愛がってるけどさ。
それに現実的な問題だって沢山ある。シトに食事や睡眠は不要でも、裸で野宿する訳にはいかないからだ。それでは神様どころかケダモノと同じになってしまう。
「そんな事言われたって……子供がぽんぽんと出来たら服とか部屋とか色々困るよ?……アスカは何も考えてないんだろうけど。僕はその辺もちゃんと伝えて来たんだけど」
「それを何とかするのが、夫であるアンタの甲斐性じゃないの」
腰に手を当てて、アスカはシンジを見下ろす。
「……それは、そうかもしれないけどさ。でも僕もアルバイトみたいに里の仕事を手伝ってるだけだし」
「あっそうか。アンタ考えてみたら無職なんだ!良かったね、シトで。普通だったら離婚事案だ」
アスカはニヤニヤと笑って、シンジの耳元で囁くのだ。
「シンちゃんは無職フリーターでもアタシの旦那さん。良かったね。プーでもアタシに嫌われなくて良かったね」
その言いように、さすがにシンジもムッとする。
「それを言うなら、アスカなんて毎日ゴロゴロしてるだけじゃないか、家事も全然しないし」
「アタシの唯一の仕事は、ずっとアンタのそばに居てあげることだよ?」
「う……まあ、それだけでも嬉しいけど」
シンジはまた俯いてしまう。もしヴンダーに乗り組んだ後、アスカと和解できなくて、結局離れ離れになってしまっていたら、どんなにか今頃、寂しかったろう。……でも仕事は何かしようよ、アスカ。
「てか、そもそもシトじゃなくて、人間のままだったら無職で離婚とかの前に、もうとっくに死んでるよ……あれから二百年以上経ってるんだから」
ミサトたちヴィレの面々もとっくに鬼籍に入っており、アスカとシンジの家族以外の知り合いは、同じエヴァパイロットであるマリ以外にはもう残っていない。
「そう言われれば。シトになって幸せなのかしらねえ。シンちゃんと夫婦を延々続けられて……」
「まあそうだけど、この数年は喧嘩ばかりで悲しいよ……」
「子作りはほぼ毎晩のようにしっかりヤッてるのにねえ。どうしてうまく行かないんだろうね。やれやれ……」
「だから、子作りなんて僕同意してないし、毎晩のだって殆どアスカが無理やり……」
シンジは恨めしそうにアスカを見る。アスカは、それを華麗にスルーして、こほんと空咳をする。
「でも、避妊と言ったって、そもそも避妊具の数だって、全く足りないじゃない。里から貰える数が明らかに少ないのよ。週に二、三個じゃないの。それで足りるって思える?アンタ、毎晩少なくとも三回はするって、ちゃんと里の人に伝えてるの?」
「そ、そんな事、伝えられる訳がないじゃないか!」
「……恥ずかしいから言えないの?」
「恥ずかしいのもあるし、アスカと僕だけの秘密だから、他の人には言いたくない。そんな、頻度とか毎晩何回するかなんて、アスカと僕だけの内緒の話だよ。僕はそういうの、大切な事だと思ってるんだ」
まあ、シンジにしてみれば、妻であるアスカの性的な部分を極力、人に知られたくないのだろう。そういう点では、シンジもかなりの妬きもち焼きで頑固だと言える。
「……気持ちは分かるけど。でも言わないと足りないままだよ?地球に居たときみたいに、ドラッグストアで気軽に買うわけには行かないんだからさ。アタシはできればナマでしたいから、別に足りなくても構わないけど」
「だからナマは駄目なんだって……」
「でも、絶対気持ちいいじゃん……シンジだってゴムつけない方が気持ちいいくせに。夫婦生活の事なんて共犯関係なんだから、全部アタシのせいにしないで欲しい、本当にイヤなら勃たないでしょ」
「……そんな一方的な……もういいよ……アスカのばか」
アスカはシンジに一々言い返したりはしなかった。相手は所詮、十四も年下の子供なのだから。そして身体の成長が止まれば、魂はそうそう老成できない、そういうものらしかった。
「そうやって、いつまでもいじけてないで、昼間、シンジもお出掛けすれば良かったのに。お外に出ると気分も明るくなるよ?」
と諭すアスカは晴れやかだ。僕がいなくても愉しいんだと思うとシンジは余計に落ち込む。
「アスカは昼、僕を置いて行ったんじゃないか!どうせ……アスカは、夜にだけ僕が居ればいいんでしょ、僕のことなんか下半身にしか用がないんだっ!」
「またそれ?ずっーと拗ねてるけど、何の意味があるのそれ」
「じゃあアスカは、昼、独りで何してたの?僕が居なくてもそんなに楽しそうなんだから、僕なんか要らないよね?」
アスカは泣き出しそうな顔をしているシンジをじっと見ていたが、やがて少しだけ拗ねた口調でそっぽを向いていった。
「デートの下見」
「え……」
「シンジと明日、デートしようと思ってさ。あちこち山の中を見て回ってた。いい景色も結構見つかったよ。だから明日は丸一日デートね」
「……アスカ」
そして、シンジのほっぺたを引っ張ると、
「シンちゃん、そろそろ喧嘩はやめよ?子作りの事とか、またちゃんと話し合おう、ね?」
「で、でもどうせ、またアスカが無理やり、エッチをするんでしょ……」
シンジはその事を思うと、やっぱり落ち込んでしまうのだ。自分が、男として扱われていない、軽んじられている感じがしてしまう。ゆうべだって、「どうせすぐに終わるんだから、目を瞑ってるか天井の染みでも数えてなさい」といったアスカの支配的な言い方に涙が溢れそうになってしまった。僕じゃ長持ちしないと決めてかかって小馬鹿にしてる感じだし、僕はアスカとのエッチを苦行みたいに我慢したいわけじゃないのに。アスカと愛し合いたいだけなのに。あんまりだよ、そんな言い方……。
しかし、アスカは煩悶するシンジにあっけらかんと告げるのだった。
「別にシンジが上になりたいならそうすればいいじゃん」
「……え?」
「無理やりされる風味のプレイが気に入ったのかと思ってたから、しばらくそうしてただけよ。子作り云々とは別の話」
「ええっ」
「でも、結構好きなんでしょ、ああいうの。ベッドでの反応見てれば分かるよ」
「うう……やめてよぅ!」
シンジは羞恥心に顔を赤らめ、頭を抱えてしまう。
「だから、レパートリーから完全排除みたいな断言はしないでおいた方がいいわよ。後で残念に思うだろうから」
「残念だなんて、そんなこと……」
しかし、シンジが下を向いてモジモジしている所をみると、どうやら図星であったらしい。シンジはアスカに組み敷かれて、男らしくないセックスをする事に後ろめたさを感じつつも、その事に快楽を感じていたのだ─
「シンジは上になりたい?それともアタシが上になって、シンジが下になりたい?恥ずかしがらなくていいんだよ。夫婦だけの秘密だからね。シンジがしたいほうでしてあげる」
「それは……」
「たまには素直になりなよ、シンジ。今晩の夜のメニューはどうしたい?」
シンジは耳まで赤くして、俯いて、ぼそりと言った。
「……僕が下でも、いい……アスカがそれでバカにしたりしないなら、だけど」
「うん、分かったよ。また、アタシが上になってシてあげるね。もちろん、そんなんで、バカになんかするわけない。安心してアタシにリードされればいいよ。なにせアタシは十四も姉さん女房なんだから」
「あ、アスカ……」
「さ。let's go to bedよ♡」
◆
「本当に、こんなアスカに任せるみたいに、エッチ……していいの……かな……ちっとも男らしくないし……」
ベッドの上、アスカがシンジの身体の上にまたがり、顔を見合わせて、対面騎乗位で繋がろうとする体勢だ。シンジはずっといだき続けている、受け身のセックスへの罪悪感から解放されていない。
「元々、男らしさなんて、あんたに欠片も期待してないわよっ……っと、アタシのパンツを脱いで……と……シンジのパンツも脱がせるわね♪ あ、ゴムはもうないから今週、避妊は諦めてね」
「うん……しょうがない……ね」
シンジは視線を反らし、目を伏せた。アスカは、シンジの下着を脱がせながら、言った。
「赤ちゃんは、授かり物だからさっ……」
プルンと剥き出しにしたシンジのものに、白い指を添えて、アスカはそれに上下動で芯を与えていく。
「アタシもそこまでがっついて、赤ちゃん作ってるつもりはないんだ♡」
アスカの手の動きにより、シンジのものにある程度、芯が通り始めて硬くなると、アスカはその上に自分の女の部分を押し付け、擦り始める。その前後動がシンジをより硬くするだけでなく、アスカ自身を交合に向けた準備として、次第に潤ませていく。
「ただ、ゴムも足りないしっ、ンンッ♡」
アスカの陰核が、シンジの身体に擦れると、アスカの唇の間から艶めかしい吐息が漏れる。
「ナマでヤる♡のも、すごく気持ちいいから……アタシもシンジの身体で遊ぶときは、子作り覚悟でヤッてるってこと!」
「……僕の身体で遊ぶ、ってそんな言い方……」
少ししゅんとしてしまうシンジの頬に、アスカは手をやって撫でてやる。
「蓮っ葉な言い方よねっ……だけどっ……夫のあんたとしか遊ばないんだからっ、許してよっ。こういうのも燃えるでしょっ♡」
「うん……でも、あの……『どうせ早く終わる』とかそういう言い方は……やめて……っ。地味に傷つくよっ……情けなくて……泣きたくなるよっ……アスカに対しても……早くてごめんって……申し訳ない……気持ちになるよっ」
涙をこらえながら、シンジの息もだんだんと荒くなってくる。
「ああ……あンンッ……ゴメンね。シンジが、夜の行為自体を少し嫌がってるというか、怖がってる感じだったから……ちょっとの我慢だよ、痛くないからね、すぐ終わるから♡、みたいなノリで言ってしまっただけ……なのよ。別にシンジが早漏とか♡……そういう揶揄じゃなかったの……」
と答えを聞いてみれば、シンジのいじけていた理由の一つが杞憂だったと分かり、彼はちょっとホッとする。
「でもそれじゃ……アスカから見た僕は、まるで注射を撃たれるのを怖がってる子供みたいじゃ……ないか」
「はん。なにを……言ってるんだか、アァン。注射を撃たれるのはあんたでなくて、アタシでしょうが……♡」
「えっ……」
「いくわよっ、旦那さまっ。お注射貰うからねッ♡ それで今晩も、一つになるからねッ♡ アタシたち二人の愛を確かめるんだからねッ♡」
もうすっかり硬くなったシンジの肉の注射器が、アスカの指による導きで、遂に彼女の肉の鞘にズプリズプリ……と飲み込まれていく。
「ううっ……うっ……ああっ、僕のが締め付けられて……溶けてなくなっちゃいそう……」
温かなアスカの空隙の中に彼女自身によって優しく導かれ、埋められた自分自身が、みちみちと締め付けられて、シンジは気を抜くとあっと言う間に自失してしまいそうになる。でも、簡単にイってしまえない。また情けない姿を晒したくない、アスカには少しでも自分をマシな男だと思ってもらいたいのだ。
しかし、そんなシンジの必死な我慢をよそに、アスカのヒップが、前後にグラインドし始める。そして、やがてそれは円運動に移行し、次に上下に、パンッ、パンッと乾いた音を立てて、シンジの腹に打ち付けられるようになる。
「ああっ、いいっ。いいよっ♡ シンジのロンギヌスの槍……気持ちいいよっ♡ こんな事、初めから……気持ちよかった訳じゃない、シンジがオボコだったアタシを二百年掛けて開発したんだからねっ♡……エッチなオンナにした責任、取ってよね♡」
口の端っこから涎を垂らしながら、アスカが快美感に喘ぐ。薄桃色の快楽の雲霞の中に漂いながら、彼女は自らの男の名前を舌足らずに叫ぶ。
「アハッ♡、シンジっ……シンジぃ、シンジのおち×ちんっ♡」
「ううっ……ごめん、責任はとるからっ、あんまり揺さぶらないでっ……すぐ漏らしちゃいそうだからっ……」
「シンジっ、これからもシンジ受け身で子作りしよっ、隕石大当たりで赤ちゃん出来ちゃう、子作りインパクトよっ♡」
もうシンジにはそれ以上保たなかった。
「アスカっ……もう出ちゃうよっ……!」
「全部、中にぶちまけなさいよッ!アタシに二人の愛の証を頂戴ッ♡」
アアアアッ!!イクッ!!
こうして、アスカの中に放出が終わると、アスカは一挙にくずおれ、シンジの胸の中にしなだれかかる。シンジは脱力しつつも、アスカのからだをゆっくりと両手で抱き留めるのだった。
「……バカシンジ」
「アスカ……」
「アタシ、シンジ……の事が可愛くて堪らない。アタシを愛してくれてありがとう。シンジにはもう少し優しくするね。でも、シンジにはアタシの愛を信じて欲しい。あんたを夜の玩具になんかしていない。アタシは不器用かも知れないけど、シンジの妻だよ。結婚式の日に誓った想いは何も変わってない。二百年ぽっちで変わるはずがない」
「ごめん、ごめんよ……アスカに駄々ばかりこねて……一方通行に想わせて、寂しい想いをさせてごめんよ……」
シンジはそう言って、腕の中のアスカの長い金髪を梳くように撫でつけるのだった。
◆
翌朝、アスカとシンジはまた壱中の制服姿で庭に立っていた。沢山の子供たちが、朝の訪れと共に庭に出てきて遊び始める。秩序だった幼稚園や小学校という雰囲気だ。
「父ちゃま、父ちゃま……」
末っ子のハナヅキがシンジに向かって笑顔でトタトタと近付いてくる。
「ハナちゃん……」
シンジが恐る恐る、ハナヅキを抱き上げると、キャッキャッという笑いが起こる。シンジも安心した顔で、息子を見つめた。
アスカはニッコリした。
「ほら、アンタとハナヅキ、目鼻立ちがそっくりだわ」
「……うん」
「ちゃんとパパしてくれないとね」
アスカは、シンジの腕の中のハナヅキを見て、父親であるシンジとの組み合わせに、目を細める。
「僕がハナヅキから逃げてたの、アスカに対して劣等感があったからなんだ」
「知ってるわよ。男として自信が持てなかったんだよね。この子が、アタシとシンジの愛で生まれた子なのか。それとも、単なるアタシに押し付けられた欲望の結果なのか。シンジはいつだって自信がないから」
「まあ……そうなんだろう……ね」
シンジが気恥ずかしそうに俯いた。
「ふふ、バカみたい」
「え?」
「アンタとアタシが毎晩していることに愛が入ってない訳がないじゃない。やっぱりバカシンジはバカシンジね」
「……アスカと僕、まだちゃんと愛があるかな」
「あるに決まってる。アタシたちは無限の寿命を持つシトなんだから、二百年なんてまだまだ新婚ホヤホヤよ。十万年後に倦怠期になったらまた考えようよ」
ゆうべも、またアスカに抱かれた。激しい交わりだった……でも、別にシンジが下になっていても、それほどコンプレックスを刺激されたりはしなかった。アスカが言うように愛があり……愛されているという実感があったからかも知れない。身体だけを玩具にされているというのが、誤解だと分かったからだろう。
「十万年か……先は長いなあ」
「その頃には一万人ぐらいは、アタシたちの子供がいるかもネ」
「アスカ……やっぱり、真剣に家族計画を考えようよ」
シンジは狼狽えた顔で訴えた。一万人は流石にマズいよ……!
「いいけど、今はだめよ」
「……えっ、いつだったらいいのさ」
「そんなもの、決まってる」
含羞に頬を染めながら、アスカはシンジに向かって振り向いた。
「家族計画を考えるのは、夜にお布団の中で、だよ♡」
アスカはシンジの鼻をちょんとつついてから、ふわりと空中に浮かび上がった。
「アスカ……」
シンジは、壱中の制服姿で空中に大きく手を広げたアスカを眩しそうに見上げる。
浮かんでいるアスカが背中に背負う空は絶好のデート日和とばかりに晴れ上がっている。惑星ヴンダーの空の片隅に、今は衛星となっているAAAヴンダーが太陽の光を反射して、キラリと輝いた。