試合が開始しても硬直状態の2人。
「何もしないと試合放棄とみなして君の敗北にするよ。ユウリィちゃん。」
『っ・・・』
動揺するユウリィの様子に観客からは笑い声が飛び交う。
「あの男にジュードを助けたければ試合に出ろと言われてね。」
リング上から私に目線を送るレイモンド。
「嫌な予感はしていたんだ。」
悲痛な表情を浮かべるレイモンドに掛ける言葉が見つからない様子のユウリィ。
「これから起こることに君が心を病む必要はないからね。悪いのはあの男だ。」
そう言って、赤いプロレスパンツから折り畳み式のナイフを取り出すレイモンド。
「残念だが、お前たちの思うような展開にはならないぞ!!」
私に向かって大声で叫びながらそのナイフを自身の胸に思いっきり突き刺す。
「ガァァァァァァァァッ!!」
苦痛の呻き声を上げながらリングに倒れこむレイモンド。
『レ、レイモンドさん!!』
倒れこんだレイモンドに悲痛な声を上げながら駆け寄るユウリィ。
(期待通りの反応だよ。)
笑い声が出そうになるのを必死に堪えながら私は審判とカメラマンに目配せする。
彼らはニヤリと口元を歪ませ、ゆっくりとユウリィに近付いて行った。
『傷を見せてください。直ぐに手当てしないと!!』
「手当てしていいの?そのままこのおっさんが死ねば、戦闘不能として判断して試合終了だよ。」
ユウリィの耳元で審判が囁く。
「・・・その男の言う通りだ。私のことは気にしないでくれ・・・」
無理矢理作った笑顔でユウリィに微笑みかけるレイモンド。
錯綜するユウリィの表情をカメラマンがニヤニヤしながら撮影する。
『駄目です!レイモンドさんが犠牲になるなんてジュードも望みません!!』
一瞬の迷いを振り切り、レイモンドを助けることを決断したユウリィが彼の大きな身体を仰向けにした瞬間、彼女の表情が固まった。
傷ひとつ付いていないレイモンドの身体。
「ユウリィちゃん。これ、マジックナイフだよ。」
不気味な声で笑いながら、その言葉を証明するように手で刃先を出し入れするレイモンド。
『えっ!?』
「可哀想に・・・悪い大人に騙されたね。」
背後から語りかける審判に意識を向けてしまった次の瞬間、ユウリィの身体は先程まで横たわっていた中年男によってリングの床に押さえつけられていた。
「あーっ!!完全に接近戦に持ち込まれてしまった!!これでは必殺のマテリアルも使えません。ユウリィ・アートレイデ選手、大ピンチです。」
芝居じみた実況の声、今までの試合では一度もなかった会場の割れんばかりの大歓声。
「捕まえたよ。ユウリィちゃん。」
そして、目の前で今までの見せたことのない不気味な表情で微笑むレイモンド。
『レ、レイモンドさん!?離してください!!』
身の危険を感じたユウリィは手足をばたつかせ必死で抵抗する。
「危険な物は排除しとこうかな。」
そう言うと、レイモンドは素早い手つきでユウリィが左腕に身に付けていたマテリアルに使用するブレスレットや武器であるトライサークルを奪い取り、それをリング外に投げ捨てる。
「なんということだ!!ユウリィ選手、今までの試合で強力なモンスターたちを捩じ伏せてきた武器を全て奪われてしまった!!この試合、リング外に出た時点で敗北です。つまり、彼女が勝利して大切な仲間を助け出すためには自身の力のみでリング上の対戦相手を倒すしかありません。」
興奮気味の実況、さらに沸き上がる観客の歓声。
『離してください!!』
レイモンドが仲間ではないことを察したユウリィは、彼を思いっきり蹴り飛ばし拘束から逃れようとする。
「ぐぅぅ!!逃がすかっ!!」
そう言いながら手を伸ばし、狙ったようにユウリィの胸元のリボンを引っ張り、上着を脱がせるレイモンド。
会場スクリーンに映るノースリーブ姿のユウリィに観客からは今日一番の大歓声が沸いた。