大歓声の中、顔を歪ませながらユウリィとの距離を詰めるレイモンドと審判の男。
『レイモンドさん・・・容赦しませんよ。』
知人の男を敵とみなし、少女は表情を引き締める。
「強がっても武器を失ったパラディエンヌなんて怖くないよ。」
癒しと守りの特化したパラディエンヌに攻撃魔術はない。
『闇払う生命の新星よ・・・』
胸を隠していた両手を広げ、詠唱を始めるユウリィ。
「うおっ!!デカい乳見せつけて俺たちの股間を攻撃してるのか~。」
「ヒヒヒ、強力な攻撃だぁ!!チンコが痛くて動けないよぉ~。」
嘲笑するように股間をおさえながら前かがみになる2人の男。
『サクリファイス!!』
ユウリィの声と同時に彼女を中心に白い光が広がりリングを包み込む。
「な、なんだ!?」
突然の出来事にどよめく観客たち。
サクリファイス。
ユウリィが神剣を止める旅の途中で編み出したオリジナルの攻撃魔術。
仲間たちのサポートだけでなく、自身も共に戦いたいという意思で編み出したこの魔術は、体力を大幅に消費するが絶大な威力を誇り、旅の窮地を何度も救ってきた。
「ま、マジかよ・・・」
光が消えた後、リング上に広がる光景に観客たちが落胆する。
先程まで前かがみの姿勢で嘲笑していた男2人はリング上に仰向けで倒れており、意識を失っていた。
『戦闘不能・・・ということで良いですよね。』
辛そうに息を荒げながらもリング外に居る私に鋭い視線を向けるユウリィ。
「何ということだ!!ユウリィ選手の強力な魔術によりレイモンド選手ダウン!!」
実況の声と同時に落胆していた観客の怒号が飛ぶ。
「審判まで巻き込まれてしまっては、戦闘不能か判断する者が居ないな。私が判断しよう。」
そう言いながら私は素早くリングに上がり、意識を失っている2人の男に近付く。
そして、ポケットから2本の注射器を取り出すと、それを彼らに打つ。
『えっ!!』
「うぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
苦しそうな呻き声を上げながら、意識を取り戻し起き上がる2人の男。
ユウリィ・アートレイデのことは徹底的に調べつくしている。
もちろん、サクリファイスという魔術についても調査済みだ。
「今のは効いたなぁ。危うく意識を失うところだったよ~。」
『ひ、卑怯です!!』
薬によって意識を回復した2人の男は、万全の状態で再び臨戦態勢に入る。
サクリファイスの反動で体力が底を突いたユウリィが私に向ける罵声を無視し、私はリングを降りる。
「自身の体力を大幅に削り放つ必殺の魔術、サクリファイスも通じなかった!!ユウリィ選手大ピンチです。」
実況の声と会場スクリーンに映し出される疲弊したユウリィの様子に観客から再び歓声が上がる。
(補助魔術で身体能力を上げて逃げ回られるのが一番盛り下がる展開で危惧していたが、本当に私の台本通りに動いてくれる最高の女優だ。)
「試合再開だ。」
私の合図と同時に奇声を上げながら2人の男がユウリィに襲いかかった。