※この作品はR-18です。

アダルトショップ佐藤へようこそっ!   作:Rヲウ

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第1話 開店準備

 ふらつきながら階段を上り、地上へ出るともう明るくなり始めていた。

 

「あー、徹夜になっちまったかぁ……」

 

 朝特有の澄んだガスの匂いと冷めた空気を嗅ぎながら、看板を地面に置いた。

 

 

 

【 アダルトショップ佐藤 】 - 本日開店 -

 

 営業時間 16:00 ~ 0:00

 

 

 

 黄色と黒と赤でデザインされた何の捻りもない看板。

 シンプルなのが良いのか凝ったのが良いのか、どちらにすべきかもの凄く悩んだんだけど。

 客を招きよせるための看板は文字通り店の顔になる。

 なので看板ひとつで商売が成功するかどうかを左右する。

 

 …というのをどこかで聞きかじった。おそらく事実なんだろう。

 

 色々案を出して、こうでもない、あーでもないと悩んでいるうちに時間がなくなって結果的にシンプルなものになった。

 

 拙速は巧遅に勝る、だっけ?

 

 いや、自分を誤魔化すのはよそう。間に合わなかった、ただそれだけ。

 

 道路側に一歩出て看板が歩行者からどう見えるか確認する。

 

 

 おっと。

 

 

 ふらついた。

 

 …危っね。体を動かしてるのに意識が飛びかけるとか、末期だよな。無理しすぎたかな。

 開店準備だけじゃなくて、先週済ませた両親の一周忌も結構大変だったからな……

 

 両手で頬を叩いて落ち込みそうになる気分を払しょくする。

 

 

 ビルの隙間から見える朝焼けを眺めながら疲労の溜まった腰をぐいっと伸ばし、首をコキコキと鳴らす。道路の向かいの歩道を暗い顔をしたサラリーマン風の男性が駅の方向へ向かって歩いていくのが見えた。

 

 始発に乗って出勤か、大変だな。

 

 ここは駅の北側。駅の南側は大規模な再開発が進んでいるけど、北側のこちらは取り残されたように年季の入った比較的低階層のビルが立ち並び、テナントに入っている夜のお店がビルの角から大量に看板を突き出している。

 

 賑やか、ではない。どこか寂れた感じが漂う。

 

 微妙な立ち位置の駅。

 微妙に寂れた繁華街。

 行き止まり、未来がない見えない感じ。

 

 もっと良い立地の方が商売としては良いんだろうけど。

 ただし店舗の賃料は跳ね上がってしまう。

 

 簡単な収益予測をして5年程度のスパンで収支を計算した結果、あちこち足で探し回り自宅のある隣町の古いビルの地下階を借りることにした。

 

 両親と暮らした家と……今は一人暮らしになってしまったけど、この店舗とは直線距離にすると結構近い。

 

 店舗はあまりスペースに余裕はないからグッズの在庫を保管する倉庫を別途確保しなければならない。

 店舗運用の効率を考えて大きなスペースを借りると賃料が上がる。

 保管用の倉庫は店舗と分離するのが資金的には一番効率が良くなる。

 

 だから両親には悪いけど、自宅はグッズの倉庫を兼ねさせてもらってる。

 自営業なんて削れる支出項目、特に恒常的に発生するランニングコスト部分は限界まで削っておかないとすぐに行き詰る。

 

 ……まあ金儲けは考えてないんだけど、俺の本来の目的を考えると長く細く経営を続けていきたいからな。

 

 

 

 

 先ほどのサラリーマンの男性が駅の構内へ消えていく。俺にはもうあの未来は来ないんだよな。

 

 いや、自分から捨てたんだしな。

 未練は断ち切れよ、俺。

 

 大学を出て、できれば大きな企業に勤めて安定した人生を送る。

 その人生に苦労がないわけじゃないだろうけど、とても魅力的ではある。

 だけどそれでは俺の股間に滾る熱いものが満足できるとは思えない。

 

 レールの上を走る人生では俺の熱く滾ったエロ欲求はいつか爆発してしまうだろう。

 実際に大企業の肩書もった偉い人がバカなことして捕まるのが時々ニュースで流れてるだろ?

 

 確信がある。

 

 あれは俺と同じ人種だ。

 エロ欲求を無理に抑えつけ抑圧し理性ある振りをして堅実な人生を送ろうとして大失敗したのだ。

 人間、無理をすると絶対にやらかすのだ。

 そういう風にできているのだ。

 

 

 【己のエロ欲求に忠実であれ】

 

 良い言葉だ。まあ今俺が考えたんだけどな?

 俺の座右の銘にしよう。

 

 

 

 

 ……ここまで吹っ切れたのは、そうだな。

 

 一年前に、両親が死亡したことを警官から告げられたあの日だ。

 

 俺にだけうっすら光って見える右手を開いたり閉じたりしてもう一度確認する。 

 この能力が再び戻ってきたってことはつまりそういうことだ。

 

 両親が俺の好きに生きろって背中を押してくれたと思いたい。

 

 

 

 壁に手をつきながらゆっくりと階段を下り、突き当りのドアを開けて店舗に入る。

 

 狭い店舗に所狭しと棚が並ぶ。

 

 棚には無数のアダルトな商品がディスプレイされている。通販じゃなくて店舗で買おうって奴にはたまらない感じになるように配置を練りに練って考えた。

 

 入口の側のレジに回り込んで椅子に倒れこむように座った。

 

 …ふぅ。

 

 随分と時間がかかったけど、ようやく今日からだ。

 

 今日から俺は好きなように(エロに忠実に)生きるよ。

 

 とは言うものの……

 

「父さんと母さん、やっぱり呆れてるかなぁ……」

 

 

 ガクンっと首が折れ曲がり、レジ台に頭を打ち付けてそのまま佐藤崇弘は眠り始めた。

 

 

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