取り敢えず二分割でお祭りデートな話。
前話⇛
『小さな華』
ぱちぱちと、小さく華が咲く。
「なんだか懐かしい。」
「何か思い出でもあるのか?」
「ううん、そんな大層なものじゃないけど。」
屈んで、顔を見せ合いながら。
そんな小さな光と宇宙の明かりだけが、互いを照らす。
「入院する前、一回だけね。 お父さんとお母さんと、こうやってやったなぁって。」
「……それ以降は?」
「なんでだろ、それっきりだった。」
そっか、と俺は呟いて。
「じゃあ久しぶりの、か。」
「そうね、久しぶりの。」
「俺はあんまりそういう覚えがないからなぁ。」
そうなの? と、首を傾げるのが見えて。
そうなんだ、と囁いた。
「希達とはともかく、家族とは、な。」
「……じゃ、初めてみたいなものなんだ。」
「……そういうの初めてでいいのか?」
違うの?と言われれば、確かにそうだよな、とも思った。
「ねえ。」
「うん?」
「もっと、大きいの見に行かない?」
「……賛成。」
「思い出に残るようなの、ね。」
「記憶に残るようなの、だな。」
華が、小さく散った。
八月、お盆の最終日。
俺達の住む駅から電車で3つほど離れた場所。
「……まだかね。」
「さっきから何度目だよ。」
彼方此方から聞こえる笑い声に客引き声。
喧騒から少し離れた場所で、佇む俺と宏人。
本日、絶賛のダブルデート日和とかいうやつだが。
お互いに相方が来ずに、手持ち無沙汰のまま駄弁り合っていた。
……いや、現地で互いの相手と分かれるから実際にはダブルデートとは言わないと思うが。
何と呼べば良いのかは俺にも分からん。
「楽しみなんだから仕方ないだろ。 そんなこと言って、昴晴はどうなんだよ。」
「楽しみじゃないと思うか?」
「いんや、全く思わん。」
通り過ぎる人影に目をやっては溜息を履く此奴を見て、俺自身も同じようにしたくなった。
するだけ無駄だし、事実俺も何処かそわそわしてるのは間違いないから。
「もっと凄い格好見てるはずなのになー。」
「……と言うと。」
「喫茶の制服とか?」
「あー。」
ある程度見慣れてしまって、
確かに足とか凄いもんなあの格好。
……本人に言ったら、殺気でも出すから絶対に言わないけど。
「しかし、こんな事になるとは思ってなかったわ。」
「だな。 俺も今日の朝に急に言われたからさー。」
互いの姿は和服。
甚平、とか作務衣とか呼ばれる類のラフな格好で以前に親父が着ていたのを一回見たことがある。
鏡を見て自分で『うわっ似合わねえ』とか呟いてしまった格好ではあるが。
今のこの場所にはある意味で溶け込んでいた。
「……そんな遅かったのか? 俺は別行動って昨日の晩には言われてたが。」
「サプライズとかだとさ。 言われた時は心臓止まるかと思ったが。」
「ナツメはサプライズ嫌うからなぁ、そこの差だろうけど……一応聞くけどなんて言われたんだ?」
「え? 『一人で行っててくれる?』って。」
「そりゃ辛い。」
長続きがしている、と言っていいんだろう。
あの時から始まった染井さんとの交際は無事に半年を過ぎ、今も継続中らしい。
ついこの間山に行ってきた、とか言ってた時は顔色が悪かったが。
その後で何か幸せそうな顔してたのは、まあそういうことだろうなぁ。
「流石に、そろそろ――――。」
「ああ、だよな。」
時計をちらりと見れば、約束の時間から20分程が過ぎていて。
何かあったのか、と心配になり始めていた俺達二人。
そんな言葉をどっちが発したのか。
ほぼ同時に、同じような言葉を口に出したそんな折。
「ごめーん、待たせた!」
「…………ごめんね、遅くなっちゃった。」
口々に言葉を発しながら、普段と違う格好をした二人の姿が見えて。
「……おお。」
「……ああ、うん。」
何かを言おうとしていた筈なのに、その言葉が何処かへ行ってしまったようだった。
「? ……似合わなかったり、する?」
「いや、そんなことはない。 間違いなくない。」
黒い浴衣を彩るように幾つもの紅い花が咲き乱れた姿。
背中に垂れた黒髪との相性と、ちらりと見えた白い首筋に思わず息を呑んだ。
それは俺の隣も同じ。
『うわ、すっげー美人。』
『でも連れいるみたいだしな……チッ。』
周囲からも二人を見て何かを呟く通行人の言葉が聞こえる。
『え、何その顔。』
『喜びの顔なんだけど。』
『だらしなく見えるよ? もう。』
宏人と染井さんの声も聞こえる。
でも、何処か別世界からの声のように聞こえた。
「そっか、良かった。」
その笑顔でさえも見慣れているはずなのに、心臓が煩い位に跳ねていた気がする。
錯覚なのかどうなのか、見れただけで確かに満足感さえも何処かで覚える。
「……遅かったな。」
「ああ……途中で何度もナンパに引っ掛かって。 連れを待たせてる、って何度も言ったんだけどね。」
顔色が暗い、というよりは面倒なことを思い出したくもないという普段のナツメの顔で。
浮世離れしていた気すらした今の感情を、それでリセットできた。
「一人だったらもっと面倒だったとは思うし、まだ二人で良かったってところ。」
「それに関しては昨日何度か言った覚えがあるんだが。」
「知ーりーまーせーんー。」
唯でさえ大学ではアイドルと言うか、そんな立場で見られているナツメ。
そんな美人が似合う浴衣姿でいればそりゃ誘われる。
考えなくても分かるくらいだから、注意したのだが。
「だって見せるなら、ここでの方が良かったし。」
「…………あー、そう言われるとどうしようもない。」
「なら言わないでよ。」
「心配くらいしたっていいだろ。」
「心配してくれるの?」
「そりゃする。 彼女だろ。」
「……そっか。」
「そうだよ。」
そんな言葉を言えば。
少しだけ見えていた不機嫌な雰囲気は何処かへ霧散した。
口元を緩め、左腕に抱き着くように絡め取られる。
恐らく意図的にやってるんだろう、頬が明かりよりもやや赤く見える。
そういう俺も――――全く慣れることはなく、頬が熱いわけなんだが。
『チッ。』
……周囲から、具体的には男から感じる殺気が増した気がする。
「ここからは別行動なんだし、早く行かない? お腹空いちゃった。」
「ま、ただ話してても仕方ないのはそうだけどさ。」
そんな視線は右から左に流しつつ。
ちらり、と視線を向ければ此方を見て笑顔のお二人さん。
その距離はやはり、幾分かは明らかに近く。
自然と”彼氏/彼女”なんだと、思わされた。
「じゃ、俺達は行くわ。」
「またお盆明けにね。」
そんな言葉を残し、去っていく二人。
喧騒の中に消える姿を見て、目線を重ね。
「俺達も行くか?」
「そうね、行こっか。」
手と手、腕と腕。
左腕と右腕を絡め。
彼女と二人。
喧騒の中へ、身体を滑らせた。