もっと深い行為してるはずなのに何で甘酸っぱいことしてるんでしょうね。
…………おかしいな、上下話だったはずが三話に伸びてんぞ。
草履の音が石畳の上を滑る。
からんころんと下駄のような音が聞こえ、捩り鉢巻きをした店主が客引きに大声を上げる。
そんな光景は、ついこの間にも思える神社での屋台での思い出へと容易に結び付いた。
「やっぱり、人すごいね。」
「この辺だと2~3番目くらいに大きい祭りなんじゃなかったっけ。」
「1番じゃないんだ。」
左手に感じる熱を互いに感じながらも、周囲を見回しながら確かに歩く。
頬の熱は、周囲の気温と熱に散華したかのように薄れていた。
「1番は……多分その、この比じゃない筈だし。」
「だし?」
「人手も多いし、何より遠い。」
「あー。」
自動車でもあれば別なのだろうけど、買う金額と維持コストが馬鹿にならない。
一応免許だけはコツコツと合間を見て教習を進めたので、仮免許までは終わったのだけど。
それは喫茶店の誰もが『あれば便利だろうから』と認めてくれたからに過ぎないと実感していた。
「遠いのは確かに辛いなぁ……出来れば私も冬までは動きたくないくらいだし。」
「どっちかといえば暑がりだもんなー、ナツメは。」
「何か悪い?」
「悪いとかそういう話してないと思うんですけど。」
口には出さずに隠しているけれど。
正確に言うなら、互いに出すことじゃないから察しているけれど。
人手が多くなれば、ほんの少しナツメと別れるだけでも彼女は声を掛けられる。
表面上はクールな美人で、ただその内面に秘めるものを発するのが苦手なだけではある彼女は……まあ、うん。
対応が苦手というのもあるし、後々で相当愚痴ってくるから。
大体は酒の力を借りて、或いは何方かの部屋の
「でもまあ、暑がりで良かったとは思うぞ?」
「え、そう?」
「どっちのほうが良かった、程度ではあるが……肌が焼けるのは、何でか分からんがあんまり見たくない。」
「……そっか。 一応念入りに日焼け止めはしてきたけど。」
手荒れとか肌の保湿とか、そういった女の子らしいメンテナンスは特にきっちりしている。
大学での友達――女子の集団、何故か一人は例の日にだけは未だに来てる――内であれがいいこれが良いと話してるとか何とか。
喫茶店内でも休憩時間が重なれば、或いは閉店作業中とかに時折話をしているのを小耳に挟む。
そんなときに浮かべている笑顔は、以前のぎこちないものとは比べ物にならない魅力さを秘めていて――――。
「……? 昴晴?」
「ん……悪い、どうした?」
「急に何か考え込んでるようだったから。」
「あー、別に大したことじゃナイデスヨ?」
「怪しいんだけど。」
じっとりとした目で見られても口には出さない。
目線を逸らし、ごまかそうとする。
どれだけ目線で追っているのか、口に出すのが妙に気恥ずかしくて仕方がなかったから。
「あ、たこ焼き。 アレ食いたい。」
「ごまかしてる?」
「いやいや違うからな? 純粋に食べたいだけだからな?」
「……ま、騙されてあげるけど。 確かに食べたいし。」
店主に声を掛け、一パックを購入。
こういう場所での値段は高いけど、雰囲気もあって味は数段上に感じるのはあると思う。
そのまま本流から少し外れ、木で出来た少し長い椅子へと腰掛けた。
「いつも思うけど、ちょっと高いよね……こういうところの。」
「口に出さないのがお約束じゃないか?」
「実際そうでしょ? 多分屋台代とかそういうのも合わせて、って値段設定なんだろうけど。」
経営者目線で考え出す彼女に、しっかりしてるなと思う。
実際今後の経営には大部分でナツメが絡んでいくことになるはずだから。
無意識か意識してかは別として、そういった事を考えるようになっているらしい。
まあ、それはともかく。
「冷める前に食おう。」
2つ貰った爪楊枝の一つで一個を解体してから刺し、口元に差し出す。
断面から熱気が出ているから、火傷には注意しろと言い添えて。
「……そうね。 冷めちゃう前に。」
あーん、と当然のように開かれた口の中に半分になったそれを投入。
閉じて幾度か噛んだ後飲み込んで一言。
「美味しいのは間違いないんだけど……。」
「え、まさかの否定から入る?」
「あ、ううん違う。 ……あのさ、タコパやったの覚えてる?」
「忘れるわけ無いだろ。 やったなぁ、ナツメが外ればっかり引いたの。」
「うわ余計なことまで覚えてる。」
外れ、というよりは辛いたこ焼きを全部ナツメが引いたあのタコパ。
自分で食べることを考慮してなかった故の悲劇というやつだろうか。
或いは、あの時にはまだ唯の”友人”だったから。
その気安さからやったことだったりするんだろうか。
迂闊に聞くとぐむむするから後で聞こう。
「味は間違いなく此方のほうが上なんだけどね。」
「ああ。」
「あの時のほうが、楽しい……? といえば良いのかな。 ごめん、なんて言って良いのか分かんないけど。」
「あー……まあ言いたいことは分かる。」
気分の問題として、と言う話だろうか。
関係も違えば場所も違うから。
抱く感情も相応に変化する筈だし。
「でも、来て良かったのは間違いないだろ。」
「それは…………うん、そう。 楽しい。」
そんな彼女が浮かべる
自然と、俺まで笑顔になっていたように思う。
「なら早く食べて、もう少し見に行こうか。」
「そうね。 そうしよっか。」
口を当たり前に開く彼女に苦笑しながら。
自分で食べろ、とは決して言わずに――――もう半分を、彼女の口へ差し出した。
――――つぅ、と。
一本の白い糸が、口元と楊枝の間へ伸びた。