空に光の花が散って。
数秒遅れて、どぉんと耳に響いた。
「おお……。」
「始まった、のね。」
「だなぁ。」
幾つかの店を冷やかしついでに周り、ナツメが気になったものや食べ物なんかを更に購入。
祭りの締め、何を見に来たと言われればこれを見に来た、と言うべき天空の火花。
花火大会を見るために、少しだけ離れた河川敷へと足を運んでいた。
ちらほらと同じように見るためか、男女や子供連れが点在している場所。
こんな穴場を知ったのも、宏人経由の情報だったりする。
何処で知ったのか……までは、聞かなかったけど。
「ナツメ、ほらこれ。」
「?」
良さそうな場所を見つけていたら始まってしまった。
木の陰、茂みの傍ではあるが花火を見るには申し分ない場所。
そんな場所で立ち続ける彼女へ、背中から一枚のビニールを手渡す。
「なにこれ?」
「何ってビニールシート。 立ったまま見るのか?」
「……ああ、成程。」
「妙なところ抜けてるよな。」
「ぐむ。」
横目で睨まれても可愛く見えるだけ。
ニヤニヤしながら見ていれば、どぉんという二度目の音。
ナツメを見ているのも楽しい……というか、面白いけれど今日の目的はそうじゃない。
早く、と急かして二人で座るには広すぎるくらいのそれへと腰を下ろす。
「ええと……失礼するね?」
「そんな言葉必要か?」
「別に、何でも良いでしょ。」
まあその辺は好きでいいと思う。
手首にぶら下げていた、普段こういう場所でもないと飲まないサイダーの瓶を差し出す。
水で冷やされていたタイプだから、未だに水滴がぽたりぽたりと垂れている。
片付ける際は瓶ゴミでいい、とか言っていたので途中で分別すれば良いやと割り切って。
「ほい、ナツメの分。」
「あ、ありがと。」
空を見上げれば、丁度橙色の光が散るところだった。
「たまやー、とか言うんだっけ?」
「ああ……江戸時代の花火職人が由来っていう?」
「そうなの!?」
「私も聞き齧りだけど。」
ぱぁん、とまた一つ。
ごろり、とビニールシートに横になれば。
引っ張られ、手放された所でとすんと頭を落とす。
頭の後ろに感じたのは土の感触ではなく、柔らかい人肌のものだった。
視線の先に見える彼女の顔と、和服姿と――――天蓋の花。
「……何してるんだ?」
「分かるでしょ?」
「いや何をしてるか、じゃなくてですね?」
「分かってる――――したいからしてる、それじゃダメ?」
「……駄目ではない、けども。」
「なら良いでしょ。」
柔らかく微笑む顔を見れば、頬に熱を帯びて空へと視線を逸らす。
そんな俺の動きも当然のように見つめられ、微笑まれているのは……良いことなのだと判断して。
「次、また上がるぞ。」
「そう、ね。」
たぁん、と上がる火花を見つめ。
横目で、空を見上げるナツメをこそ、視界に入れていた。
こうしていられる事自体が、互いにとっての奇跡なのだと思いながら。
「――――。」
言葉にならない声を、微かに震える唇で囁きながら。
言葉にならない想いを、散っていく刹那に託しながら。
――――それだけで、終われば平和だったのだろうけれど。
「……あ。」
花火が終わり、帰ろうとした際に。
ぷちり、という嫌な音とともにナツメが前のめりに転びそうになった。
幸いなことに、腕を取っていたから身体に問題はなかったけれど……。
「大丈夫か?」
「助かった……けど、草履が切れちゃった。」
「履き慣れてないんだし運動靴にするとかはなさらなかったので?」
「は?」
「ごめんなさい。」
いや、半分くらいは俺のためってのは分かってるぞ?
分かってても言わなきゃいけない時ってあるだろ、と誰に謝っているのか分からない謝罪を自分に向けつつ。
「……替えの靴は?」
「……持ってきてない。」
「じゃあタクシー……あー、いや。」
「お金掛かるけど……ん?」
たまには、少し無理もしよう。
どうしようもなかったらタクシーを拾えばいい。
それまでは……さっきの膝枕の礼と思えばやる気だって出てくるんだし。
「ん。」
「……ん、って。」
「たまには甲斐性くらい見させてくれ……
背中を向け、屈み込んでナツメを待つ。
お姫様抱っことは到底言えないけれど、彼女の一人くらいは背負う位彼氏の甲斐性なんだと信じて。
「……良いの?」
「多分。 キッチンで重いの運んだりで多少は筋肉付いてきた筈だし。」
「気のせいじゃなかったんだそれ。」
おどおどと。
おずおずと。
背中に掛かる重みと、柔らかさをしっかりと抑えて立ち上がる。
無理をしない程度に、体勢を整えて。
ナツメに負荷が掛からないように、声を掛けて。
「……大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。」
月夜の下、二人で一人で歩き続ける。
「ごめんね?」
「いいよ、良いもの見れたし……楽しかったし。」
「それは私も……だけど、良いもの?」
星空の下、一つとして二人で。
「ナツメの浴衣姿。」
「……。」
「正直見惚れてたの、気付いてただろ?」
「……実は。」
「だったら、その代金とでも思えば軽いよ。」
夜闇の中――――。
「だから、さ。」
「……うん。」
「また何処か、行こうな。」
「……人混みじゃないところね。」
「……そうだな。 二人きりになれる場所な。」
ただ、互いを想いながら。
背に/胸に、互いを感じながら。
声を頼りに、二人で。
この後にR17.9とかマ???