夜。
いつも通りにバイトでの閉店作業中、希と明月さんとの言葉を裏手で耳に挟んでいた。
執事姿のミカドも傍にいる。
「……という訳で、ケーキをお願いしたいんです。」
「はい、お客さん側で……ということなら歓迎しますよ。」
「ふむ。 福利厚生の一環として従業員割引も考えるべきか?」
「ああ、それも良いですね。」
自分の担当、というか大体の片付けが終わった間際だったのも有り。
ボーッと聞いていれば、同じように気になったのかナツメが近付いてくる。
「どうしたの、気が抜けた顔して。」
「向こうの話聞いてただけ。 あ、女性陣から先着替えていいぞ。」
「ありがと。 そうさせて貰うね。」
並んで聞いていれば、どんなのがいいとか何だとか。
……そういう話は涼音さんにするべきじゃないのか、とか思いながらも。
用事があるとかで今日は早めに上がった彼女には明日伝えるつもりらしい。
「……ケーキの話?」
「みたいだな。」
どんな話をしているのかは兎も角、話の内容から察するに。
「……なんだ、ホールケーキを独り占めでもするのか?」
「いや、流石にしないでしょ。」
「山積みのドーナツなら平気で食べ切りそうで怖い。」
「流石に偏見…………かなぁ?」
否定しきれない時点でお前も同じようなものだと思うんだ。
しかし、ケーキだろ……それもわざわざ。
「あ、ひょっとして。」
「え、何?」
「そういやおじさんにこないだ聞かれたんだよな、あの関係か?」
神社での奉納の舞をやる必要があるとかで、今度人を呼ぶとか何とか。
その相手が俺と同年代とかで、もしかしたら……みたいな。
結局希経由で注文することにした、というのなら納得がいく。
俺に聞いてきた理由は……まあ、世間話の一環とかだろうか。
そんな感じのことをナツメに説明すれば。
「へえ、舞。」
「俺は良く知らないんだが……希はなんかものすっごい凛とした美人さんとか言ってた。」
「へえ、美人。」
おかしいな、急に周囲の温度が下がった気がする。
気のせいだろうか。
「ちょっと気にはなるよな、そういう舞とかちゃんと見たこと無いし。」
「そうね、気にはなるわね。」
「ナツメもそう思う…………の、か…………?」
顔を横に向ければ。
凄まじいオーラを纏った彼女がいた。
具体的には着替えを覗いてしまった時並の負の感情を感じる。
「…………何?」
「イエ、ナンデモナイデス。」
「言いたいことがあるなら言ったほうが良いよ?」
その顔のまま距離を詰めてくるのはやめろ。
逃げ場がない。
「…………もしかして、だが。 嫉妬してる?」
「どう思う?」
「すいませんでした!」
こういう時は謝るべきだと。
「宜しい。 目の前で他の子褒められても良い気がしないんだから。」
向こうの話は関係ない雑談の方向へと。
まあ、掃除終わってるしな。
着替える前の自由時間みたいなもんだし。
「でもさー。」
「……まだ、なにか言い残すことでも?」
「ナツメの、見てみたかったなぁって。」
思い返すのは、チャイナ服でやった新年の時の屋台。
希にバイトの手伝いにと誘われてたけど、あの時なにか違えば見られたんだろうか。
「なーん、て……?」
ぴしり、と。
目で分かるくらいに固まってる。
そして顔を少しだけ赤く……照れてる?
「…………いの?」
「え?」
「……見たいの?」
聞こえて、即座に頷いた。
………………え?
良いの?