恋姫†無双 ~漢ノ朱儁ココニ有リ~ 作:黒影
黄巾賊が平定され、荊州は落ち着いた。そのため、一刀たちは帰還する事となった。一刀は洛陽へ。そして炎蓮たちは揚州呉郡へ。
本当は、一刀は炎蓮たちに居て欲しかったし、炎蓮たちも一刀の側に居たかった。だが、お互い何時までも本拠地を留守にする訳にはいかず、泣く泣くお別れとなった。
「一刀、危なくなったらまた救援を呼べ」
「一刀、十常侍には気をつけるのじゃぞ」
「一刀くん、いつでも呉に来て良いからねっ」
炎蓮、祭、粋怜が別れを惜しんで一刀に声をかける。特に、粋怜は過保護とも言えるくらい、一刀に最後までべったりだった。
孫家との共同戦線は、すごく充実した時間だった。実際に孫家の戦いを間近で見られて凄く参考になったし、昔みたいに炎蓮らに暖かく迎え入れられて、凄く嬉しかった。
ただ、まさか祭や粋怜ともセックスする事になるとは、全く想像していなかった。それでも、子供の時に大変可愛がられ憧れてたお姉さんたちと、愛し合う事が出来て一刀は物凄く幸せだった。
そして一刀配下の揚州兵たちも、孫家の兵たちと別れを惜しんでいた。一刀の出身地である会稽郡は呉郡の隣に位置しており、その事から元々お互いに顔見知りの兵たちも多い。中には親戚同士という兵まで居た為、孫家は言わば家族みたいなものであった。
そういえば、今回は戦場に来ていないが、炎蓮の娘の三姉妹はどうしてるだろうか。一時期炎蓮に匿われた際、そこで三姉妹とも知り合い、一緒に遊んだ事もあった。思い返せば、揚州の何もかもが一刀は懐かしかった。楽しかった子供時代を思い返して、一刀は少し泣きそうになる。
「やだもぉ、泣かないのっ。男の子でしょ」
自分も瞳を潤ませてべったり引っ付いてる癖に、粋怜がそう言って一刀をからかう。だが、その口調は物凄く優しかった。
「戻りたくなったら、いつでも来るのじゃぞ」
そして祭からも暖かい言葉。それもまた、一刀は嬉しかった。
だが、自分は将軍の身であり、職務を投げ出すにはいかない。将軍として絶対にこの乱世を早く終わらせた上で、そして揚州に凱旋する。一刀は粋怜と祭に抱きしめられながらそう決意していた。
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荊州の黄巾賊を平定し、洛陽へと帰還した一刀。だが、そこに楼杏の姿はあっても、風鈴の姿は無かった。
「何だと……」
楼杏から話を聞いた一刀は、自分が聞いた事が信じられず耳を疑う。
「私も信じられないのですが、捕縛されてるのは事実なのよ」
「……ちょっと、行ってくる」
しかし、どうにも納得がいかない一刀は、楼杏をともなって傾の所へ向かう。大将軍である彼女なら、何か詳しい事情を知っているかも知れなかったから。あの風鈴が、黄巾賊と内通して戦おうとしなかった等という戯言が、一刀には信じられなかった。
「……どうやら、宦官の左豊に賄賂を渡さなかったのが、讒言の原因らしくてな」
傾が、風鈴について調べた事を話す。だが、その声は周囲を気にしてひそめられたものであり、それだけ宮中が危険な場所になっているという事を示していた。
戦の最中に陣を視察に来た左豊が、風鈴に賄賂を要求する。当然、風鈴はそれをはねつける。その結果、讒言によって内通の罪で捕縛され、牢に繋がれたという事だった。
「……そこまで腐ってたか」
一刀は呟く。顔こそ無表情だが、内心では怒り狂っているのは明らかであった。
「一刀、早まるなよ。私も天子様に掛け合うからな」
「私も、風鈴が赦されるように掛け合うわ」
傾と楼杏が慌てて言葉を発する。早く動かないと、一刀が何をしでかすか分からないからである。
「そこでじゃ一刀。帰還したばかりで悪いが、お前に賊討伐の命が天子様の名で出ておる。その間に、私が風鈴の件を何とかする」
おそらく、風鈴が抜けて対応できなくなり、その穴埋めが必要になったのだろう。傾が申し訳なさそうに一刀に言う。
もう漢なんていっそ潰れたら良いんじゃねえか。一刀はそう思うも、さすがに口には出さない。だが、その顔色から考えを読み取った楼杏は、慌てて一刀を宥める。
「一刀さん。早まっちゃダメ。今が我慢のしどころよ」
漢を変えるんでしょ、と楼杏が囁く。それに一刀は頷くも、内心では決意していた。
(……自分の女は、自分で救う)
二日後の夜、事件が起こる。風鈴が牢を破って脱獄したのだ。状況から見て、誰かが手引きして連れ出したのは明らかであった。
だが、看守は早々に気絶させられており、下手人の顔を見ていない。鮮やかな手際から犯人は絞られそうだが、断定出来る証拠が何一つ出てこなかった。
翌朝、そのゴタゴタで宮中が揺れる中、一刀は賊討伐の為に、揚州兵を率いて洛陽を堂々と出発した。