恋姫†無双 ~漢ノ朱儁ココニ有リ~ 作:黒影
さて、風鈴と楼杏をまたたく間に(性的に)食ってしまった一刀だが、彼は別に乱食いを楽しんでいた訳ではない。彼はとある目的の為に、かねてから風鈴や楼杏と昵懇になろうとしていたのだ。正直に言えば、まさか風鈴や楼杏と恋仲になろうとは、当初は全く予想していなかったのだ。
一刀の目的とは、大将軍の傾を中心に将軍職のものが一つにまとまるという事であった。彼はその橋渡しをしようと、日々奮闘していたのだ。というのも、風鈴も楼杏も二人とも、傾の事を良く思っていなかったのだから。
現在、武官の最高位を傾が務めているものの、実質的に朝廷で権力を握っていたのは、張譲を筆頭にした十常侍という宦官集団であった。これらは帝の近侍であるのを良いことに職権乱用を繰り返し、朝廷の腐敗を進めている張本人だといえた。
一刀の最終目的は、この十常侍とそれに連なる者を排除し、漢王朝の立て直しを図る事である。その為には、大将軍の傾を筆頭に、将軍職の者が団結して対抗していかなければならない。
ただ、先述の通り、風鈴も楼杏も傾の事を快く思っていない。風鈴に関しては、一刀という可愛い後輩が傾によって肉便器とされているという事が、傾を嫌う理由である。そして、楼杏に関しては潔癖な彼女らしく、賄賂を平然と受け取る傾の人間性そのものを疑問に思っていたのだ。
彼女らのその認識のどちらも、誤解だという事を示す必要があった。今は各地で反乱が起きている為、将軍職の者に使い道があるが、反乱が収まればお払い箱である。下手したら、十常侍によって消される可能性すらあった。先に手を打たねば、こっちがやられるのである。
しかし、どうやって彼女たちの誤解を解けばよいのだろうか。
(……あの方法しかなさそうだな)
一刀はそう決意する。
*****
「一刀くんが来て欲しい所って、どこかしら」
いつもの通り、洛陽の街中での逢引(デート)を楽しんだ後、一刀は左右に風鈴と楼杏の二人を侍らせながら、とある場所へと誘導していた。
「来れば分かるよ。ちょっと大事な話があるんだ」
「何かしら。大事な話って、もしかして……」
結婚の話とか、と内心で少し期待する楼杏。
だが、彼女のその期待が外れているという事を、すぐに知らされる。
「ここって……」
「何進様のお屋敷じゃない」
風鈴も楼杏も、なぜ傾の邸宅に連れてこられたのかが分からない。元々、あまり好きではない相手の家なのだ。二人が戸惑い、躊躇するのは当然だった。
「いいから、いいから」
だが、一刀はお構いなしに二人を引っ張っていく。そしてそのまま傾の邸宅を訪ねてそのまま中に入ってしまった。
「え、これは一体……」
「予想してたのと全く違うわね」
傾が留守だったため、邸宅に仕える家人たちに案内をお願いし、そのまま部屋に居座る一刀たち。だが、その室内の様子に、風鈴も楼杏も絶句していた。
とにかく、物が無い。いや、寝台や机など、必要最低限の物はあるのだが、それらの物もどう見ても古い物ばかりで、華やかさが何一つなかった。思い返せば、家人の服も庶民が来ている物と全然変わらず、何も知らなければ、これが大将軍・何進の邸宅だと言われても信じなかっただろう。
どこを見回しても、高価そうなものが何一つ無い家。一体、傾は商人たちから受け取った賄賂をどうしているのだろうか。
「……これが、真実だよ。皆、傾の事を『守銭奴』とか色々言うけど、贅沢は一つもしてないんだ」
「じゃあ、受け取った賄賂はどうしてるのかしら……」
楼杏の疑問は尤もである。彼女は傾の事を、不正に賄賂を受け取って自身だけ豪華な生活をしていると思い込んでいたのだから。
「……この間の賊の鎮圧、戦費はどこから出たと思う?」
「ま、まさか!」
一刀の問いに、風鈴は驚きの声をあげる。
「それだけじゃないよ。賊の鎮圧の際の、報奨金とかも、全て傾が賄賂を充ててたんだよ。傾は賄賂を自分の懐に入れた事は、一度も無いんだ」
「嘘、そんな……」
知らなかった事実に、風鈴も楼杏もショックを受ける。何せ、何も知らずに傾の事を一方的に批判してたから。
「それに、傾が俺を肉便器にしてるって話、あれも嘘だからね。ちょうど傾も帰ってきたみたいだし、証拠を見せるよ」
一刀がそう言うと同時に、部屋の扉が開き、傾が入ってくる。
「私が留守の間に勝手に入るとは、どういう事だ」
傾が憮然とした表情で一刀に言う。当たり前である。留守中に自分の部屋に入られるのが、気分良い訳が無い。
「ちゃんと案内してもらったぞ。それより傾、俺のこと閨でひぃひい言わせたとか自慢して回ってるらしいな」
「事実であろう。そなたは私の虜なのだからな」
「はぁ? 勝手に事実ねじ曲げてんじゃねえぞ馬鹿が。頭沸いてんのか」
「なっ……」
一刀の言葉に、傾は顔を真っ赤にする。そして、側で聞いていた風鈴と楼杏も、一刀の乱暴な言葉にハラハラする。しかし、一刀はそんな様子もお構いなしである。
「何が悲しくて、お前に抱かれなきゃいけねえんだ? テメエ自分に魅力があるとでも思ってんのか、鏡見ろやメス豚」
一刀の口から次々に出てくる、罵倒の嵐。あまりに乱暴な口調で罵詈雑言を言うものだから、風鈴と楼杏が慌てたのは言うまでもない。傾の性格を考えれば、どう考えても一刀の首が飛ぶだろうから。だが、最初は慌てていた二人だが、だんだん傾の様子がおかしいことに気付く。
「はぁっ、はぁっ……ああんっ♥ んぁぁっ、一刀ぉ♥」
一刀に罵倒され、明らかに興奮している傾。その様子を見た二人は、呆気に取られる。
「……とまあ、こんな感じで傾は被虐嗜好の持ち主なんだ。だから、傾が俺をあひんあひん言わせてるってのは、真っ赤な嘘だな」
一刀の言葉に、風鈴も楼杏も言葉が出て来ない。どう反応して良いか、二人は分からなかったのだ。
「まあ、唯一本当の事があるとしたら、俺が傾に惚れてるってところだな『一刀ぉ♥もうダメぇ~おまんこズボズボしてぇ♥』黙れメス豚。今話してるとこだろ」
ぺチンっと一刀が傾のお尻をひっぱたく。すると彼女は「あひぃ♥」と歓喜の声を漏らし、そのままイってしまう。
「じゃあ、さっきの一刀くんの言葉って……」
「もちろん本心じゃないよ。ただ、ああやって罵倒された方が、傾が喜ぶからね」
「ぇ、ぇぇ……」
思いもしなかった衝撃の事実に、風鈴も楼杏も言葉を失っていた。
「風鈴、楼杏。ごめんな……俺のこんな姿見て、幻滅したんじゃない?」
「……でも、一刀さんは、私たちの何進さんへの誤解を解くために呼んだんでしょ?」
しばらく固まっていたが、やがて楼杏が口を開く。
「まあ、そうだな」
「……やっぱり、一刀さんは優しい。少し驚いたけど、私やっぱり一刀さんが好き」
思い返せば、一刀の傾を見る目は、終始慈愛に満ちたものだった。突然の乱暴な口調で驚いたけど、一刀は何も変わっていないのだ。
「まあ、一刀くんは天性の女たらしだからねぇ。でも、嫌いになれないのは、惚れた弱みかしら」
でも、私たちも幸せにしてくれなきゃ嫌よ。風鈴は一刀の耳元で、色っぽく囁いた。