遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻 作:胡麻野すり子
よろしくお願いします!
ボクには人権がない。
そんなものは、とっくの昔に売られてしまった。
「えーと、今回の仕事の報酬は………違法デュエル集団を皆殺し、と」
デュエルディスクに表示された仕事の内容に、思わず笑みが溢れる。
簡潔でとても良い。適当に犯罪者をぶっ殺せばいいだけだから、すっごく楽だ。
「はぁ。普通は、ぶっ殺すだけでラッキー、とか思わないよなぁ」
ため息をついて、ビルの屋上から、夜の『街』を見下ろす。
綺麗な景色だった。
街灯が夜を彩り、その下を真っ当な人々が歩いている。
普通に幸せな、普通の日常。
今のボクがどうやっても手に入らない、当たり前な幸福のカタチ。
「あーあ、ボクも母さんに売り飛ばされなきゃ普通の暮らしができたのにな……」
綺麗な夜景を見てると、無性に悲しくなってきた。
まぁ、そんなこと思っても仕方がないのだけれど。
今のボクは『街』のクズ。
金も権利もないクソ奴隷。
そう、ボク──
親の借金のカタに売り飛ばされ、労働力として違法組織に飼われている、クズみたいな存在。
だから、ボクには人権がない。ボクの人権は、母親の借金返済に当てられてしまった。
そういうわけで、今や人間以下のクズに成り果てたボクは、この違法組織からの命令に従う日々を送っている。
とはいえ違法組織で生かされてるクズには、クズにお似合いのクソみたいな仕事を強要されるわけで。
「あー、お金とか、優しいお母さんとかがあればな。
そしたらボクだって幸せって感じに暮らせてただろうに」
違法デュエル集団の殲滅か。
どう考えても年頃の少年がやる仕事じゃないな。
本来なら、もっとこう……『街』のセキュリティだとか、正義の味方だとか、そういう人達がやるべきことじゃないのだろうか。
「でもまぁ、それ言い出したらキリがないや。
ボク達みたいなクズに正義とか気にする余裕はないしね」
ボクだって清く正しく生きたいが、残念ながら手段を選べるほどの余裕はない。
仮に組織の命令に背いた場合どうなるか…………間違いなく殺されるだろうな。
いや、殺されるだけならまだマシか。
役に立たなくなったクズの末路なんて、大抵悲惨なものなんだから。
「仕事したくないとか言ったら……とりあえず身体売られて犯されて、そんで最期は
怖っ。自分で言って寒気がした。
実際、ボクの友達が駄々こねたら"こう”なったからなぁ……
「はぁ………人生クソだなぁ……」
ため息をついて、屋上の柵にもたれかかる。
そのまましばらくは、遠くの夜空を眺めていた。
そうしていると、ふと暗い空から赤い光が近づいてきているのに気づく。
「っと、見つけてくれたのかな」
赤い光へと手を伸ばせば、それはボクの手にとまる。
手の先にいるのは、機械的な装甲をまとった、虫のような“なにか”だった。
雰囲気こそ虫っぽい感じだが、大きさは小さい子どもくらいはあるし、その機械部分の隙間からは黒と赤の触手のようなものが這い出していて、しかも爛々と赤い目を輝かせている。
モンスター。
そんな表現がぴったり似合うような怪蟲が、その触手を指に絡ませてくる。
「ありがとね、【グリア】。
お礼を言って、空いていた左手で虫の頭を撫でてみる。
すると虫は不思議そうに頭を傾けた。
たぶん、感謝とか伝わってないんだろうなぁ……
「…………こほん」
咳払いを一つして、携帯していたデュエルディスクからカードを一枚抜き出す。
「さてと、それじゃぶっ殺しますか」
呟いて、カードをディスクの上に置く。
そしてそのまま、ボクはビルの屋上から飛び降りるのだった。
「───いくよ、【クオリアーク】」
落下のなかで、ボクは黒い触手に抱きしめられて。
そして夜の街に、巨大な虫の影が蠢いた。
──────────────────────────────
地獄みたいな世界があるとするならば、それはきっとこの場所だ。
夜。巨大な倉庫のなかで、あたしは地獄を見ている。
床には、虚ろな目で意味のないうめき声を上げる女たちが転がっていた。
たしか、その辺で誘拐してきたヒトたちだったっけ。
そんなかわいそうな女たちを、見るからにガラの悪い男たちが思い思いの方法でいたぶってる。
火のついたタバコを押し当てたり、靴を舐めさせたり、殴ったり、犯したり。
人間を人間とも思わないような凄惨な光景が、目の前で広がっていた。
「へ、へへ……えへ、へ……」
そんな光景を、あたしは無理に作った笑いと一緒に見ていた。
あたしの足元で、女が泣いている。
歯が全部抜けて、まともに言葉が喋れなくなった、かわいそうな女だ。
「えへへ……へ、へへっ……!」
あたしもまた、泣きながら笑ってみせる。
その手のなかには、血まみれのペンチが握られていた。
彼女の歯を全部抜いたのは、あたしだ。
あたしが、男たちに命令されてやった。
だって、従わないと酷い目にあうから。
怖い目にあうから。
怖い、怖い、怖い、怖い。
怖くて仕方がなくて、あたしは言われるがままに、女を拷問してて……
「おうおう、ベニア。よく頑張ったな」
びくり。いきなり方に手が置かれて、身体が大きく震えた。
腕の先には、気持ちの悪い笑顔を浮かべた粗暴そうな男がいた。
「ひっ………!」
「あぁ?なに怯えてんだよクソガキがぁ!」
肩を震わせると、それが男の癇に障ったのか、顔面を思い切り殴られた。
まっすぐに顔面を捉えた拳は、あたしの歯と鼻をへし折って、その勢いであたしは床に倒れる。
「褒めってやったのに『ありがとうございます』も言えねぇのかぁ!?あぁ!?」
「ひぃっ!ご、ごめんなさい……ごめんなさい…!」
「ごめんなさいじゃねぇだろうが!!」
「がぁっ!?いたっ……やめ、おぇっ!?」
床に倒れるあたしを、男は力任せに蹴ってくる。
あたしのお腹を、胸を、顔を。
つま先で蹴っ飛ばして、靴底で踏みつけてくる。
あたしは、違法デュエル集団に誘拐されたガキだ。
こうやって腹いせに殴られたり、彼らの手伝いとして悪事に協力させられたりしている。
あたしに人権はない。
仮にあっても、この場所じゃあ守られない。
だから、あたしはゴミクズみたいに殴られ、犯され、貶められている。
「ぁ………ぇ……ごはっ!?」
もう一発、腹に蹴りが叩き込まれる。
内臓が破裂するんじゃないかって勢いで蹴られて、痛みと一緒に胃液が逆流してきた。
耐えられず、あたしは床に嘔吐してしまう。
「おぇっ!?げぇ…!げほっ、げほっ…!」
すっぱい臭いとともに、黄ばんだ粘液が口からあふれていく。
けれどそのなかに食べ物の残骸と思しきものはない。吐き出されるのは胃液だけだ。
だって、あたしはずっと、なにも食べさせてもらえてないんだから。
「チッ、クソガキが。汚ねぇもん見せやがって」
お腹を蹴っていた男は顔をしかめて、今度はあたしの髪を掴んできた。
「おい、さっさと掃除しろ」
「え………」
「食え」
その声とともに、あたしの顔はゲロまみれの床に押し付けられた。
顔が吐瀉物で汚れ、鼻の奥をさす異臭に気持ち悪くなる。
「食えっつてんだろうが!!」
頭を持ち上げられ、そのまま一気に叩きつけられる。
何度も、何度も、繰り返し叩きつけられて。
顔が血と胃液に塗れていく。
「ぎゃっ、ぃ…!た、食べま、うぎゃっ!?……たべ、たべます……から、ゆるひて……ゆるして、くださいぃ……」
必死に舌を突き出して、嘔吐物を啜りながら許しを乞う。
男はそんなあたしに満足したのか、掴んでいた髪から手を離した。
「ふぅん、楽しそうなことしてるわね」
「あっ、ボス!お疲れさまっす!」
あたしを殴っていた男に、声をかける影が一つ。
それは、黒いロングコートを羽織い、腰まで届く長い赤髪を揺らす大人の女性だった。
この女は、この違法デュエル組織のリーダーにあたる人物だ。
ボス。一番えらい人。女性でありながら、ここに集まっているギャング達のトップに立つ人。
そんな女は、その赤い髪を手で払って話を続ける。
「ベニア、こんばんは」
「は、ひ……………ぁがっ!?!?」
女が気さくに挨拶をしたかと思うと、彼女はそのままあたしの顔を思いっきり蹴り上げてきた。
ぐちゃりという音と共に顔面が潰れたみたいな痛みに襲われ、あたしは地面をのたうち回った。
「ひっ、は、…ぅあ……あ、れ…?」
蹴られた右側の顔面があまりに痛くて、目も開けられない。
痛みを抑えるように手で触れれば、ぬるりとした嫌な感触がした。
「な、に……?なん、で……っ!?」
手のひらには、血。
痛くて開かなくなった右目から溢れた赤色。
それを見て、右目が潰れたのだと、あたしは理解した。
「いや……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぎゃははははっ!!眼球潰れたわね!!」
視界の半分を失ったあたしを見て、ボスは心底楽しそうな笑い声を上げる。
あたしを人として見ていない、愉快な見世物を見ているような、そんな嘲笑。
「ほらほら!もっと泣きなさいゴミクズが!!」
「ごほっ!がっ!いたっ、やめて、やめっ!?ぐがぁっ!?」
ボスの女は嗤いながら、あたしの襟首を掴んで殴ってきた。
潰れた右目を重点的に殴りつつ、時々みぞおちを拳で突き殴って。
目が潰れた恐怖を上書きするほどの痛みが、あたしに与えられる。
「やめてやめてやめてぇぇぇぇ!!なぐるの、やめてくださいぃぃっ!!」
「黙りなさいクソガキ!うっさいのよ!!」
さっきまではあたしの悲鳴を楽しんでいたのに。
女は一転して不機嫌になり、最後に思い切り殴って、そのまま乱雑にあたしを投げ捨てた。
「あぎゃっ!?………ぁ、あ……っ」
涙と血を流しながら、痛みを堪えるように床の上で蹲る。
そんなあたしの上から、ボスの女と部下の話し声が聞こえた。
「ふぅ、楽しかった。さてと、そろそろ撤収の準備をするわよ」
「えっ、もうですか?まだ遊んでもいいんじゃ……」
「あのねぇ、『孤児院』のガキにつけ狙われてるって言ったでしょ?」
「『孤児院』……って、確かデュエルギャングのガキ奴隷じゃないですか。たかだかクソガキをそんな怖がる必要あります?」
部下の男は笑っているが、対してボスは眉間にシワを寄せてため息をついた。
「そのクソガキにどれだけの組織が潰されたと思ってるの。
いい?相手はただの奴隷じゃないの、奴らは……」
「へへ、大丈夫ですって。いざとなりゃ、俺がデュエルでぶっ殺してやりますよ」
ボスはもう一度ため息をついて、踵を返す。
「ああそう。じゃあお願いするわ」
何を言っても無駄だと諦めたのか。
ボスはそれだけ言い残して、一人で撤収準備をし始めた。
「俺は無敵だ。ガキなんかぶっ殺してやる」
対して男はまだ遊び足りないらしい。
ぶつぶつと言いながら男はあたしに向き直り、懐からナイフを取り出した。
「なぁベニア。テメェもそう思うよな?俺は無敵だって」
「はい……そう、思います……」
蹲っていたあたしは、とりあえず男が喜びそうな言葉を発する。
下手なことは言いたくなかった。
ナイフを持ってること男を逆上させれば、今度はなにをされるか分かったもんじゃない。
「あぁ、そうだよな。よく分かっててえらいじゃねぇか」
男は、あたしのお世辞に気分を良くして、楽しそうに笑う。
「よし、お前にはご褒美をくれてやろう。おら、足開け」
あぁ、犯されるのか。楽でいいや。
当然これも痛いけど、お腹蹴られたり、顔を殴られたりするよりは痛くない。
どうせあたしは女としてはもう終わってるし、そもそも恋愛なんて出来ないだろうし。
だから、マシだ。マシなんだ。そう思わないとやってられない。
「はい………」
男の言いなりになって、仰向けになる。
「よしよしよし。それじゃ、お前に天国を見せてやるよ」
そういって、男は見せつけるように、ナイフを足の付根にあてがった。
「………………ぇ?」
一瞬、わけが分からなくて変な声が出た。
それから数秒かけて、なにをされそうになっているかを理解して、強烈な寒気に襲われる。
「いや…!いやぁぁ!やめて、やめてくださいぃ!!」
「あぁ?うるせぇなぁ。ベニアも嬉しいだろう?ナイフで犯してもらえてよぉ」
必死に暴れようとするあたしだが、男に抑えつけられてしまう。
「ナイフでお前をぐちゃぐちゃにしてもらえるんだぜ?おら、喜べよ?なぁ?」
「いやぁぁ!嫌です!!たすけ、助けてぇ!!だれか!お願いします、それだけは許してくださいぃぃ!」
「うるせぇ!!」
助けを求めて叫ぶあたしに向けて、男がナイフを振り下ろす。
切っ先はあたしの右肩に突き刺さり、真っ赤な血が噴水みたいに飛び散った。
「ぎゃぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁ!?!?いたいいたいいたいぃぃぃいぃ!?!?」
激痛と恐怖で頭のなかがめちゃくちゃになる。
上下左右も分からない。
焼け焦げるような痛みが脳髄を突き刺していく。
喉が裂けるほどに叫び散らし、あたしは激痛に悶え苦しんでいた。
「黙れ!」
「ひっ………!」
ナイフが首元にあてられる。
刃の先が少しだけ肉を切って、首から血が溢れた。
「チッ、俺はご褒美をあげてるってのによぉ……」
悲鳴を押し殺したあたしを見て、男は苛立ったようにナイフを構え直す。
やがてナイフは移動して、あたしの一番大切な部分に向けてあてられる。
「おら、覚悟しろよクズ女」
男は怒りのままに、ナイフを握る手に力を込める。
あぁ。たぶん、死ぬんだ。
どれだけ痛いのかも分からないけど、死ぬほど痛いだろうな。
怖くて、怖くて、涙が出て。
声を上げて泣きたいけど、うるさくしたらもっと痛いだろうから。
どうにか嗚咽を殺して。これからの激痛に絶望して。
「クソガキが、さっさと死────」
絶望したところで、男の姿が消えた。
「え…………」
綺麗サッパリ、男がいなくなる。
いや、なにか黒い触手のようなものに捕まえられて、天井に引き上げられたような……
ゴキンっ。ベキ、ゴキャ。
上の方からなにか折れるような音が聞こえてくる。
その音と同時に、倉庫の床に真っ赤なモノが落ちてきた。
それは、手と、足と、胴と、腸と、血と。
バラバラになった人間のパーツが、ぼとりぼとりと降ってくる。
ゴトリ。
あたしの目の前に、ボールみたいな物が落ちてくる。
見ればそれは、苦痛に歪んだ顔をした男の頭部だった。
「……………………」
ゆっくりと、天井を見上げる。
そこには、黒い触手を蠢かせる、蜘蛛みたいな化け物がいた。
「……うわあああああああああぁぁあああぁぁ!?!?」
あたしと同じように天井を見上げたギャングの一人が悲鳴を上げ、咄嗟に拳銃を構える。
が、男が引き金に指をかけるより早く蜘蛛の化け物はその触手を伸ばし、男を絞め殺した。
「に、逃げろ!バケモンだぁぁ!」
倉庫はパニックに陥って、ギャングたちは我先にと出口に殺到する。
そうして男たちが出口の扉を開けた瞬間、真っ赤な血があたりに飛び散った。
「あ、あぁ……ぁ…ぁ……!」
外にも、あの天井の化け物と同じような虫がいた。それも、何十匹も。
黒い触手を持つ虫の群れは、扉が開かれたことにより倉庫内に侵入してきて、ギャングたちを血で染めていく。
「チッ!どうやら来たみたいね……!」
男たちが殺されていく姿を見て、ボスは憎たらしげ吐き捨てる。
「デュエルギャングに買われた人権のないクソガキ達!通称『孤児院』のクズデュエリスト!」
至るところで男たちの悲鳴が上がり、虫に潰され、切り裂かれ、殺されていく。
「噂に聞いていたけど、本当だったなんてね……!こんな、まさか……!」
ボスは殺されていく部下には目もくれず、周囲を見渡してなにかを探していた。
「まさか、本当に『サイコデュエリスト』なんてモノが存在するなんてね!!」
悲鳴と血しぶきの最中で、ボスはデュエルディスクを構えて声を張り上げる。
「出てきなさい!そこにいるんでしょう!姿見せなさい!!」
誰かに向かってボスが叫ぶ。
すると、ギャングたちを殺していた虫たちが一斉に動きを止め、赤い目で一点を凝視し始めた。
それにつられて倉庫にいる全ての人が、虫の視線の先を目で追う。
ボスの女も、運良く虫に殺されずに済んだギャングたちも、死にかけの女たちも。
虫たちの見る先で、カツンと靴の音が鳴る。
そこにはいつの間にか、デュエルディスクを装着した人物が立っていた。
「へぇ、ボクらの事、知ってるんだ」
その人はにこやかに笑って、パチパチと手を叩く。
「はじめまして。ボクは遊針廻理。キミの言う通り『孤児院』から来たサイコデュエリストだよ」
──遊針廻理。そう名乗ったこの人は、どうしようもなく怪物みたいだった。
まず目を引くのがその外見。
その人は灰色のカーディガンと黒いズボンを着こなして、長い紫の髪をバレッタで止めていた。
細くすらりと伸びた手足に、か細い首。シャツから覗く白い肌はきめ細かく、乙女のよう。
長い睫毛に、潤んだ金の瞳。そんなくりくりとした可愛らしい目を細めて、この人物は可憐に微笑んでいた。
一人称と口調からして、おそらくは男性なのだろう。
だが、姿形も声も、まるで女の子みたいで。
中性的という言葉では言い表せないような異質な雰囲気。
女性のようであり、また男性のようでもあるチグハグさが、どうしようもなく歪で、不気味で。
それがこの綺麗なヒトを、まるで得体のしれない怪物のように演出していた。
「さてと、随分と悪いコトしてたみたいだね」
少年は床の上に倒れている女の人たちを見渡して、困ったような顔をする。
「これだけの人を攫って、傷つけて………こりゃ殺されても仕方がないね。よし、殺そう」
「クソね。人の命をなんだと思ってるの」
軽い口調で言った彼に対して、ボスの女は怒りの形相を浮かべた。
「サイコデュエリストの化け物には倫理がないのかしら?はっ、化け物にはお似合いね」
「おぉぅ、地味に傷つくなぁ…………やっぱ殺そ」
吐き捨てたボスと、わざとらしく肩を落とす少年。
そんな彼の様子を見て、ボスは大きく舌打ちをした。
「それじゃ、デュエルしよっか。キミが勝ったら見逃したげるよ?」
「ふん………」
ボスがデュエルディスクを構え直す。
それを見て、少年は妖しく笑う。
「言っとくけど、サイコデュエリストのデュエルじゃ全てのカードが実体化するから。
できるだけ死なないように頑張ってね?」
「吠えてなさいガキが。すぐに黙らせてあげる」
「あははっ!いいね、どっちも殺る気十分で!」
血に塗れた地獄みたいな世界で。
これから命のやりとりをするというのに。
それでも少年は、ずっと朗らかに笑っていた。
「じゃ、始めようか─────」
「クソガキが。身の程ってものを教えてあげる────」
こうして高らかに。
戦いの始まりを告げる、その言葉が叫ばれる。
「「───────
──────────────────────────────
「えーと、先攻は………ボクか」
彼は手札を確認して、数秒ほど悩む素振りを見せる。
しかし、悩んだのはほんの数秒だけ。
少年はすぐに手札からカードを抜き取り、デュエルディスクの上にセットした。
「ボクはモンスターをセットして、カードを3枚伏せる。
はい、ボクはこれでターンエンドだよ」
廻理
LP:4000
手札:1枚
場:???
伏せ:3枚
あまりの簡単に、そして短く、少年は自らのターンを終える。
大型モンスターを出したり、たくさん展開するわけでもない。
ただ、カードを伏せただけ。
それだけで、彼は手番を終わらせた。
「アイツ、なにもせずにターンを終わらせやがった!」
「しょせんはクズだからな!ゴミクズが人間様に勝てるわけねぇんだ!」
虫に殺されずに済んだギャング達が、彼のプレイングを見て野次を飛ばす。
男たちはすでにボスの勝利を確信しているらしく、余裕そうな顔をしていた。
「あはは……お恥ずかしながら、デュエルの腕はそこそこでね?」
「ふん。見え透いた罠ね」
困ったように少年が笑うが、ボスはその姿を見てより一層警戒を強めたみたいだ。
「私のターン、ドロー。言っとくけど、私はそこの馬鹿どもとは違うから」
「へぇ、それじゃあ無謀な特攻とかしてくれない感じ?」
「当然よ。私は手札から魔法カード【ハーピィの羽根箒】を発動!
アンタのフィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!」
「げぇっ!?羽根箒!?」
ボスがディスクのボードにカードを置けば、倉庫に強い風が吹いた。
吹き飛んでしまいそうなほどの突風は、やがて少年の伏せたカードを破壊しょうと迫る。
「ガチカードなんて使ってるんじゃないよ!
リバースカードオープン、【メタバース】!そして【創星改帰】!」
「なんですって!?」
風に全てが壊される前に、少年が仕掛けた罠を発動する。
「まずは【創星改帰】の効果を発動!デッキから「星遺物」モンスター1体を特殊召喚する!おいで、【星遺物─『星鎧』】!
で、星鎧は特殊召喚に成功したとき、デッキから【星遺物】カードをサーチできる。ボクはフィールド魔法【星遺物に差す影】を手札に加えるよ!」
倉庫の床を砕き、地中から巨大な腕が這い出してくる。
それは金属質で、空っぽな、大きな鎧だった。
星遺物─星鎧
レベル7/DEF2500
「でもって【メタバース】の効果によって、デッキからフィールド魔法【
「歯車街!?しまった……!」
「あははっ!後悔してももう遅い!羽根箒の効果でボクのフィールドの魔法・罠は全て破壊される!そして破壊されたことで【歯車街】の効果が発動!デッキからアンティーク・ギアを特殊召喚する!頼むよ、【
突風が吹いて、全てを壊していく。
罠もなにかも吹き飛ばして、その後にはなにも残らない。
…………はずだった。
古代の機械熱核竜
レベル9/ATK3000
風がやめば、そこには宙に浮かぶ機械仕掛けの竜がいた。
「あーあ、1枚は墓地送りか。伏せてたの【ミラーフォース】だったのに。もったいないなぁ」
少年は困ったように笑って、墓地に落ちたカードを確認している。
逆に言えば、1枚しか無駄にならなかった。
あの状況下で彼は手札を1枚増やし、大型モンスターを2体も展開したのだ。
「さて、まだキミのターンは終わってないけど、どうするのかな?」
「クソが……!どうやら死にたいらしいわねぇ!」
少年が挑発すれば、ボスは叩きつけるようにカードを発動した。
大声を上げ、怖いくらいに怒り狂って、女は彼を殺そうとデュエルを続ける。
「【予想GUY】を発動!デッキから通常モンスター【召喚師ライズベルト】を特殊召喚するわ!」
召喚師ライズベルト
レベル3/DEF 800
空間に穴が空き、その中から優しそうな雰囲気の少年が現れる。
それと同時に、黒い影がカサカサと音を立てて、倉庫中を走り出した。
「なにこれ………ひっ!?」
「手札の【増殖するG】を墓地へ送って効果を発動。
相手が特殊召喚に成功するたびに1枚ドローするよ」
縦横無尽に走り回る黒い虫に、ボスは小さく声を漏らす。
そんな女の姿を尻目に、彼は飛んできた害虫からカードを受け取った。
「ほら、まだキミのターンは続いてるよ?できるなら、たくさん特殊召喚して欲しいなぁ」
「姑息な真似を……いいわ、お望み通りしてあげるわよ。
速攻魔法【緊急テレポート】を発動!デッキからサイキック族モンスター【サイ・ガール】を特殊召喚よ!」
サイ・ガール
チューナー/レベル2/DEF 500
今度は虚空から、近未来的な白い服の少女が出現してくる。
少女は床に足をつけると、近くを走り回っていた虫を見つてけて叫び声を出した。
「サイ・ガールが特殊召喚されたことでもう1枚ドロー」
「フィールドにレベル3モンスターが存在する場合、このカードは特殊召喚できるわ。来なさい、【サイコウィールダー】!」
サイコウィールダー
チューナー/レベル3/DEF0
「またまた1枚ドロー」
「チッ!私はレベル3のライズベルトに、レベル2のサイ・ガールをチューニング!
シンクロ召喚!現れなさい!【
A・O・J カタストル
シンクロ/レベル5/ATK2200
「げぇ……地味に厄介なヤツを………」
カードを1枚引きながら、少年は苦々しい顔をした。
A・O・J カタストル。戦闘でモンスターを一方的に殺せるカード。
そのスペックは確かに厄介というより他にない。
「手札から【沈黙のサイコウィザード】を召喚し効果を発動!
墓地の【サイ・ガール】を除外するわ!」
沈黙のサイコウィザード
レベル4/ATK1900
「そして魔法カード【最古式念導】を発動!私のフィールドにサイキック族モンスターがいるとき、1000ポイントのライフを払うことで相手フィールドのカードを破壊……っ!?」
カードを発動した瞬間、女が胸を抑えて苦しみ始める。
息は荒く、まるでなにかに力を吸い取られていくみたいに、衰弱していく。
「なにが、起こって……!」
「最初に言ったじゃん。全てのカードが実体化するって。
それが最古式念導による命を変換する痛みだよ。
さて、キミはその苦痛に耐えられるかな?」
「チッ……要は命を削ればいんでしょ……!」
女が指示を出し、サイコウィザードが部下の男に近づく。
「へ?おいおいおい、なんだテメェ……ぐぁぁっ!?」
そのままサイコウィザードが男の首を掴めば、男は大げさな程に苦しみだした。
「私はそこのクズの命を支払って、最古式念導を発動するわ。死になさい」
「ぐが、がががががが、あぁぁぁぁぁああああああぁぁぁ!?!?」
ガラの悪い男から力を吸い取り、黒いエネルギーの塊が生成される。
それに伴い男はうめき声を上げて、やがて絶命した。
「【最古式念導】により、私は1000ライフを支払い、【古代の機械熱核竜】を破壊する!」
「あぁっ!?リアクターがぁ!?」
ボス
LP4000→3000
部下の男の命で作られたエネルギー弾が発射される。
それは寸分たがわず宙を舞う機械竜に命中し、悲鳴のような歯車の音を上げて、大きく爆ぜる。
「ふん。目障りなヤツが消えたわね」
「ボ、ボス!貴方、なんてことを………なんで、こんな……」
部下の男たちがどよめき、震える声でボスに問いかける。
「うっさい。アンタらみたいなクズを使ってやってんだから感謝しなさい」
「なっ……!?」
「どうせ役に立ちゃしないんだから、精々私のために犠牲になりなさいよ。
ほら、代わりにこのクソガキぶっ殺してあげるから」
なんともなさそうに女は言い捨てる。
部下たちを一瞥することもせず、部下を犠牲にしたことに対して悪びれもせず。
ただ、部下のことなどどうでもいいと言わんばかりに、彼女はデュエルを続ける。
「さて、レベル4のサイコウィザードに、レベル3のサイコウィールダーをチューニング!
シンクロ召喚!レベル7!【サイコ・ヘルストランサー】!!」
サイコ・ヘルストランサー
レベル7/ATK2400
「【沈黙のサイコウィザード】が墓地へ送られたことで、除外されていた【サイ・ガール】はフィールドに特殊召喚されるわ!
さらに帰還したサイ・ガールの効果でデッキトップ1枚を除外!」
「ヘルストランサーとサイ・ガールが特殊召喚されたことで合計2枚ドロー」
「【サイコ・ヘルストランサー】の効果発動!
墓地のサイコウィールダーを除外してライフを1200ポイント回復!」
ボス
LP3000→4200
「そして、レベル7のサイコ・ヘルストランサーに、レベル2のサイ・ガールをチューニング!」
白い衣装の小柄な少女が、光の輪となり姿を変える。
光輪を中心に眩い光が走れば、その中から新たなモンスターが現れる。
「シンクロ召喚!レベル9!現れなさい!!【ハイパーサイコガンナー】!!」
召喚されたのは、白く近未来的なパワードスーツに身を包んだモンスターだった。
甲高い駆動音を鳴らしながら、ハイパーサイコガンナーは両手の銃口を少年へ向ける。
「【サイ・ガール】が墓地へ送られたことで、除外していたカードを手札に加えるわ」
「なら、こっちもドローさせて貰うよ」
互いに手札を増やしつつ、少年と女は対峙する。
おそらく、ボスの展開はこれで終わったのだろう。
なら次に行われるのは、モンスターによる、殺し合い。
「バトルフェイズ!まずはハイパーサイコガンナーでセットモンスターを攻撃!」
二つの銃口から光が迸り、少年へと襲いかかる。
「やっば……!」
「ハイパーサイコガンナーが守備表示モンスターを攻撃する時、その守備力を超えた分だけ相手プレイヤーにダメージを与える!死ねぇぇぇ!!クソガキがぁぁぁ!!」
「けどっ!攻撃された瞬間セットされたモンスターはリバースする!
リバースした【クローラー・グリア】の効果が発動!手札・墓地からクローラーモンスターを攻撃表示か裏側守備表示で特殊召喚する!
ボクは手札の【クローラー・レセプター】を裏側守備表示で特殊召喚するよ!」
瞬く光を阻むように、機械じみた怪蟲が飛び出す。
しかし、そんなものでは止められない。
放たれた光は蟲を焼き切り、そのまま少年の腹部へと突き刺さった。
廻理
LP4000→2500
「熱っ……!あーもう、痛いなぁ…!」
光線に焼かれた少年は、吹き飛ばされるようにしてあたしのすぐ側まで転がってくる。
服は焼け焦げて、彼の白い肌も真っ黒に炭化していた。
「更にハイパーサイコガンナーが守備表示モンスターを攻撃してダメージを与えた時、それと同じだけライフを回復する!」
「マジで?」
ボス
LP4200→5700
「ライフ差が3200か。しょっぱいなぁ……」
呟きながら少年は立ち上がる。
その横腹には穴が空いていて、血がどくどくと溢れ出していた。
「ひぃっ……!」
「ん?……あぁ、驚かせちゃったかな?」
黒焦げた傷があまりに痛々しくて、あたしは小さく悲鳴を上げてしまう。
そんなあたしに少年も気づいたのか、彼は安心させるように、たおやかに笑いかけてきた。
明らかに致命傷なのに、本当に何事もなかったかのように。
少年は、ただ優しく笑う。
「ごめんね、びっくりさせたみたいで。すぐにアイツらぶっ殺して救急車呼ぶか「A・O・J カタストルで星遺物─『星鎧』を攻撃!!」やべっ!よそ見してる場合じゃなかった!」
少年が向き直れば、そこには巨大な鎧に襲いかかるモンスターの姿があった。
「カタストルはダメージ計算を行わずに相手モンスターを破壊できる!くたばりなさいデカブツがぁぁ!!」
「やっぱズルいって!カタストルはさぁっ!」
星鎧が破壊されて砕け散り、その破片が降り注ぐ。
あんなにも強く見えた機竜も、大きな鎧も、呆気なく壊されてしまった。
少年の場に残ったのは、先程伏せたモンスターが1体だけ。
「メインフェイズ2。私はカード1枚伏せてターンエンド。
ふん。ざまぁないわね、クソガキが」
ボス
LP:5700
手札:0枚
場:ハイパーサイコガンナー/A・O・J カタストル
伏せ:1枚
ターンの始まりは、少年のほうがリードしていたはずだった。
相手のカードさえ利用して、大型モンスターを展開し威圧感を与えていた。
しかしターンが終われば、その立ち位置は逆になってしまった。
相手の場には攻撃力3000のハイパーサイコガンナーと、戦闘において無敵のカタストル。
対する少年の場には、裏側守備表示のモンスターが1体のみ。
ライフは残っているとは言え、その差は大きく開いている。
「いやぁ、参ったね。これは負けちゃうかもしれないなぁ……」
頬を掻いて、困ったように少年は笑う。
「まぁでも、ライフが残ってれば負けじゃないし?頑張ってみよっかなぁ」
そう言いながら、彼はカードを引く。
瞬間、あたしはどうしようもない程の寒気に襲われた。
空気が、変わった。
少年の纏う空気が、一瞬で。
彼の表情や様子はなにも変わらないのに。
だけどその目は、その雰囲気は。
得体の知れない、思考も読めない、無機質な虫のようだった。
──────────────────────────────
ボスと思しき女のデュエルを見て、思う。
このターンで殺せるな、と。
まぁ、そこそこ強かったと思う。
だけど、結局はそこそこだ。
「いやぁ、参ったね。これは負けちゃうかもしれないなぁ……」
思ってもないことを言いながら、デッキに指をかける。
負ける要素があるとすれば、あの伏せカードくらいか。
あれがスキルドレインとかだったらヤバいかなぁ。
でも雰囲気的にミラーフォースだろうな、たぶん。
なら問題ないか。
「まぁでも、ライフが残ってれば負けじゃないし?頑張ってみよっかなぁ」
そう、ライフが残っていれば負けじゃない。
何処からだって逆転は可能だ。
だから、ボスのおねーさんにも頑張って欲しいなぁ。
息を吸って、吐く。
血液が逆流する感覚。
人を殺す前の、冷たくて、ふわふわと浮くような錯覚。
自分でも分かるくらいに、纏う空気が変わって、そして冴えていく。
「───あははっ!ボクのターン、ドロー!」
冴えた雰囲気から一転、弾けるように笑って、勢いよくカードを引く。
殺すための最適解はもう分かってる。
ならば迷う必要は一切ない。ただ最適解に沿ってカードを発動させていくだけでいい。
「まずはフィールドの【レセプター】を反転召喚して効果発動!デッキからクローラーモンスターをサーチするよ!ボクは2体目の【クローラー・グリア】を手札に加える!
でもって手札からフィールド魔法【星遺物に差す影】を発動!効果により手札からレベル2以下の昆虫族モンスターを守備表示で特殊召喚!おいで、【クローラー・ランヴィエ】!
そしてランヴィエが特殊召喚された瞬間に【地獄の暴走召喚】を発動!ランヴィエをデッキから攻撃表示で2体特殊召喚するよ!」
クローラー・レセプター
レベル2/ATK900
クローラー・ランヴィエ
レベル2/ATK1100 DEF900
湧き出すは怪蟲の群れ。
金属的な装甲に身を包み、赤黒い触手を蠢かせる異形たち。
「ふん。うじゃうじゃと。そんなゴミみたいなモンスターを並べたところで、私には勝てないわ」
「あははっ!確かに勝てないかも!」
勝つんだけどさ。
そのゴミみたいなモンスター達で。
「だから、行くよ」
指で天を指し、高らかに叫ぶ。
「召喚条件は【クローラー】モンスター2体!ボクは【ランヴィエ】と【レセプター】をリンクマーカーにセット!」
声を合図に、上空に三角形を組み合わせたような紋様が現れる。
それは、さらなるモンスターを呼び出すための門。
2体の怪蟲がそこに飛び込んで、その奥に眠るモノを呼び起こしてくれる。
「心持たぬ機怪蟲よ、繋がり伝い、群れを成して不幸を招け!
リンク召喚!リンク2─────」
ずるり。
門から異形が這い出す。
神経に似た赤黒い触手を蠢かせて。
爛々と赤い光を灯して。
薄気味悪い怪物が、這い出してくる。
「────這いずり廻れ!【エクスクローラー・クオリアーク】!!」
感覚質の名を冠するモノ。
現れたソレは天使に似た輪を持っていて。
けれど致命的に冷たく、そして無慈悲な姿をしていた。
エクスクローラー・クオリアーク
リンク2/リンクマーカー:左下 右下/ATK2000
「はっ、意気揚々と出してきたのは、攻撃力たったの2000のモンスター?
笑わせないで頂戴。そんなモンスターでなにができるっていうのかしら」
「うーん……キミを殺せる」
「クズは脳ミソまでクズなのかしら?私を殺す?ハイパーサイコガンナーとカタストルを突破して?無理でしょ、そんなモンスターじゃ!」
「あー、ごめんだけど、そこに2体に付き合うつもりはないんだよね」
「はぁ?」
「でも、あと2分くらいでキミは死ぬから、それまでに遺言考えててね?」
さぁて、言ったからには2分以内に終わらせなくちゃいけない。
手札からカードを1枚抜き取り、ちゃちゃっと発動する。
「【ワン・フォー・ワン】を発動。手札のモンスターを1枚捨てて、デッキからレベル1モンスター、【ブロック・スパイダー】を特殊召喚。
さらに【ブロック・スパイダー】の効果を発動。デッキからもう1体【ブロック・スパイダー】を特殊召喚するよ」
ブロック・スパイダー
レベル1/DEF100
「続けて【ブロック・スパイダー】2体をリンクマーカーにセット。
召喚条件は地属性モンスター2体。
リンク2。おいで、【エクスクローラー・シナプシス】」
エクスクローラー・シナプシス
リンク2/リンクマーカー:左 右/1800
おもちゃのブロックで作られた蜘蛛が呼ぶは、堅牢な甲殻に身を包んだ巨大な蟲。
クオリアークと立ち並び、シナプシスは備え付けられた2本の触手みたいな器官を蠢かせた。
「はい、【ワーム・ベイト】。ワームトークンを2体生成して、そのままリンクマーカーにセット」
「っ、まだリンク召喚するつもり!?」
流れるように展開してみせれば、ボスのおねーさんは驚いたように声を上げた。
別に、普通のことなのに。おねーさんだって連続シンクロとかして見せてくせにさ。
それだけ下に見られていた、ってことかな?
所詮は飼い殺しのクズだと。なにも出来ない奴隷だと。
そう思っていたから、この女はここでボクに殺されるんだろうな。
「召喚条件は昆虫族モンスター2体。
リンク2。頼むよ、【エクスクローラー・ニューロゴス】」
エクスクローラー・ニューロゴス
リンク2/リンクマーカー:左 右/1900
続いて現れるは、長い身体を持つ怪蟲。
蛇を思わせるほどに細長く、されど蟲らしく不気味。
先端部に4本の指のような器官を持った異形の蟲が、鎌首をもたげて女を睨みつける。
「でもってモンスターを裏側守備表示で通常召喚。そのまま墓地の【ADチェンジャー】の効果を発動。このカードを除外して裏側守備表示モンスターの表示形式を変更する。」
しれっと【ワン・フォー・ワン】の発動時に捨てておいた【ADチェンジャー】。
墓地にある自身を除外して、フィールドのモンスターの表示形式を変えるモンスター。
「さっきセットしたモンスター、【クローラー・グリア】を攻撃表示にしてリバース効果発動。
墓地からクローラーモンスター、【クローラー・ランヴィエ】を攻撃表示で特殊召喚するよ」
クローラー・グリア
レベル2/ATK700
クローラー・ランヴィエ
レベル2/ATK1100
ふぅ、っと息をつく。
見渡す限り、蟲。
這いずり回るような、気味の悪い虫の大群。
6体もの
「そんな弱いモンスターを何体並べたところで………」
「そうそう、クローラーには攻撃力を上げる効果があるんだ」
「なんですって……!?まさかハイパーサイコガンナーの攻撃力を超えるつもりじゃ……!」
「えーと、【クオリアーク】はフィールドにクローラーが2体以上いるとき、全モンスターの攻守を300上げて……フィールド魔法の【星遺物に差す影】はクローラーの攻守を300上げる。
あぁ、【シナプシス】と【ニューロゴス】もリンク先のクローラーの攻守を300上げるね。リンク先にはグリアとランヴィエ2体がいて、グリアは挟まれてるから攻撃力は…………」
クオリアーク
ATK2000→2600
シナプシス
ATK1800→2400
ニューロゴス
ATK1900→2500
グリア
ATK700→1900
ランヴィエ
ATK1100→2000
「うーん……惜しい!攻撃力が3000に届かないかぁ」
「……は、ははっ!焦って損したわ!そうよ!結局アンタみたいなクズが、私に勝てるわけないのよ!」
「ありゃりゃ、総攻撃力は13400で勝ってるのにね?」
あぁ、ホント
「だから何よ!私の場のモンスターが倒せなかった意味なんてないわよねぇぇ?」
性格悪いな、ボク
「ほら、グズグズしてないでさっさターンエンドして………」
「じゃ、バトルフェイズ。やって、クオリアーク」
軽い調子で合図すれば、天を這う機怪蟲が赤い眼を輝かせ、触手を蠢かせ始める。
「はぁっ?自爆でもするつもり?バトルしたところで私のモンスター達には勝てないのよ!!」
確かに、彼女の言っていることは正しい。
攻撃力ではハイパーサイコガンナーに敵わない。
かといって、カタストルに攻撃してもこちらが一方的に破壊されるだけだ。
だから、この2体には一切攻撃しない。
「えーとね、実はなんだけどさ─────」
「─────【クオリアーク】は6体以上クローラーがいるとき、自分フィールドの全モンスターに直接攻撃の権利を与えられるんだ」
「……………………………は?」
「そういうわけだから、ね?」
ボスのおねーさんが呆けたような顔から、焦った表情に変わる。
何をされるのか、もう察しがついてしまったんだろうなぁ。可哀想に。
「ま、待って!待ちなさい!」
「【エクスクローラー・クオリアーク】でダイレクトアタック」
静止を無視して命令を下せば、クオリアークはその体か無数の触手を降らせる。
赤黒いソレは槍のように迫り、女を串刺しにしようとした。
「っ!トラップ発動!聖なるバリア───────」
「クローラーが4体以上いるとき、相手はバトルフェイズ中に効果を発動できない。【クオリアーク】にはそういう効果もあってね」
「うそ………っ!?」
女の目の前に、透明な壁のような物が出現する。
しかし、そんなものでは怪蟲は止められない。
ガラスが割れるような小気味の良い音ともにバリアは破壊され、触手の槍が突き刺さった。
「……………ぇっ」
女の身体が吹っ飛ぶ。
最初は、声も出なかったみたいだ。
「…………あぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁあああああああぁぁあああっ!?!?!?」
一拍遅れて、耳をつんざくような悲鳴が響いた。
右手と両足が触手にもがれ、おねーさんのお腹には大穴が2つ空いていた。
大穴のせいで上半身と下半身は千切れそうになってる。背骨のおかげでどうにかくっついてる、って感じだろうか?
あの骨へし折ったら、おねーさんは分裂しちゃうんだろうなぁ。
「わ、わたっ、……わたしの、うで……ひぃっ、あしも……!?なんで、なんでよぉぉぉぉぉぉっ!?」
自らの惨状に気づいたらしく、女は喉が張り裂けそうなくらい泣き叫んだ。
あぁでも、結構余裕そうかも。手足の心配をするなんてさ。
どうせそんなもの、もう不必要なのにね。
「たすけてっ!!だれかぁぁぁ!!わたしをたすけなさいよぉぉぉぉぉぉおぉっ!!」
あぁ、ヤバいくらいに見苦しい。
笑えるくらいに馬鹿らしい
「ボ、ボス……!?」
生き残ったギャング連中が動こうとした。
そのタイミングでクローラー達に指示を飛ばす。
「縛って、クローラー」
そうすれば、クローラーは男たちを赤黒い触手で絡め取ってくれる。
「な、なんだコレっ!?クソッ!動けねぇ……!!」
「ぱちん」
そのまま指を鳴らせば、触手がギリギリと締め付けられていき………
「ぎっ!?ま、待て、待て待て待て!!たのむ、たすけて………………」
「じゃ、アデュー」
ばしゃり。ごきん。ぐちゃり。
骨が折れる音。肉がひしゃげる音。血が飛び散る音。
それらと共に、男たちの肉体がミンチになった。
「ひとごろし……ひとごろしぃぃぃぃぃぃ!!しねっ、しねぇぇぇぇぇええぇぇえぇえぇぇぇっ!!!」
「あははっ!お互い様じゃない?」
改めて、倉庫を見渡してみる。
そこにあるのは、赤色ばかり。
血と死体の海が広がっていた。
けれど、その赤い海には、まだ生きている女の人たちが浮かんでいた。
誰もが傷だらけで、声もなく泣いている。
犯された人、痛めつけられた人、壊された人。
人間としての尊厳を、貶められた人。
「……自業自得、ってやつだよ。死んでも仕方ないクズは、死ななきゃ」
「なにが、なにがよぉぉ………!わたしは、10人くらいしか、殺してないのにぃ……!!」
「……………………………」
「ちょっと、メスどもを拉致って………痛めつけた、だけなのにぃぃぃ……っ!!」
やっぱ、殺さなきゃダメだね。こんなクズは。
「ゆるさない……!ゆるさないゆるさないゆるさないぃぃい!!地獄に、おちろぉぉぉぉぉぉおおぉぉっ!!」
「はいはい。【シナプシス】と【ニューロゴス】でダイレクトアタック」
あんまりにも耳障りだったから両耳を塞いで、そのままクローラー達に命令する。
そうすれば藍色の怪蟲たちが、女の身体を押し潰してく。
「ひっ!?ぃ、ぁ……が……ぁ、ぁあぁぁ……っ!?!?」
ゆっくり、ゆっくりと。
2匹の巨体が女にのしかかる。
体全体を覆って、上から徐々に力をかけて。
「ぁ…あ…ぁぁ…!!の、ろってぇ……呪って、やるっぅぅぅぅぅ……!!く、そ、ガキ……がぁ、ぁぁぁぁ!!」
身体が軋み、じわじわと肉が潰れ、骨が砕けていく。
女の表情は血に塗れ苦悶で歪み、絶望と憎悪にまみれていた。
「くた、ばれぇぇ、ぇ……クズ、がぁ……し、ねぇ、ぇぇぇ……っ!!」
「?ごめん耳塞いでて何言ってるか分からないや」
「っ、この……クズ、がぁぁ、ぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁああっ!!」
「もう、飽きてきちゃった。殺していいよ」
ボクの合図すれば、シナプシスとニューロゴスはぐっと力を込めて、一気に全体重をかけようとした。
「やっ…、ま、待って!待ちなさい!!いや、いやぁぁあぁぁやめてやめてぇぇっ!!やめなさいよぉぉぉぉおぉおぉぉぉぉぉっ!!!」
コンクリートが砕ける音と、肉が潰れる音。それと絶叫。
2匹の怪蟲が、死んでも仕方がないクズをすり潰す。
あぁ、耳を塞いでても、この女は煩かった。
ボスの女
LP0
「あーあ、4分41秒か」
時計を確認して、ため息をつく。
「時間、オーバーしちゃったね」
そんなどうでもいい呟きは、夜の倉庫に溶けて消えた。
──────────────────────────────
「さてと、救急車は呼んだし……事後処理はこれで完了かな?」
倉庫にいたギャングを皆殺しにして、証拠隠滅などの諸々の作業も終わった。
それならもうこの場所に留まる意味もない。帰ってゆっくり寝るとしよう。
お腹に穴空いててめちゃくちゃ痛いしね。
「あ、あの…………」
そうやって立ち去ろうとしたとき、ふと声をかけられた。
声のしたほうには、肩から血を流し、右目が潰れた死にかけの少女がいた。
たしか、デュエルの途中で少し会話した子だったかな?
「ん?どうかしたのかな?すぐ救急車も来るし、キミはもう大丈夫だよ?」
「い、いえ……そうじゃ、なくて………」
本当にどうしたのだろうか?
イマイチ要領を得なくて、思わず首を傾げてしまう。
「え、えと………あのっ!」
そうしていると、少女は意を決したように言葉を紡いだ。
「あたしを、連れて行ってくれませんか!」
「…………………え?」
本気でなに言ってるか理解できなくて、呆けた声が出てしまった。
──これが、『ベニア』との出会い。
──遊針廻理がこれから起こるたくさんの厄介事に巻き込まれた、その原因だった。
読んでいただき、ありがとうございます!
まだエロもグロも薄いので、これから飛ばしていこうと思います!
これからよろしくお願いします!!