※この作品はR-18です。

遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻   作:胡麻野すり子

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今エピソードに入ってから初のデュエルです!


第10話 天使は悪魔に勝てやしない

 穏やかな風が吹き花が揺れる。

 そんな手入れの行き届いた庭園の中でデュエルが始まっていた。

 

「先攻はもらうぞ!私のターン!」

 

 先攻は、金髪の少女……梨々華ちゃんから。

 彼女は闘志を漲らせ、ボクに立ち向かってくる。

 

「私は手札から【サイバー・エッグ・エンジェル】を通常召喚!

 そして召喚された【サイバー・エッグ・エンジェル】の効果発動!

 デッキから【機械天使】魔法カード、【機械天使の儀式】を手札に加える!」

 

「へぇ、サイバー・エンジェルか」

 

 庭園の空から、翼の生えた卵……【サイバー・エッグ・エンジェル】が落ちてくる。

 まぁ、卵というよりかは、緑色の羽が生えた割れたミラーボールみたいに見えるけど。

 

 サイバー・エッグ・エンジェル

 レベル2/ATK200

 

「さらに、手札から通常魔法【儀式の下準備】を発動!

 デッキから儀式魔法1枚と、その儀式魔法カードにカード名が記された儀式モンスターを手札に加える!

 儀式魔法【宣告者の予言(デクレアラー・プロフェシー)】と儀式モンスター【神光の宣告者(パーフェクト・デクレアラー)】を手札に加える!」

 

「宣告者……?あれ?彼女はさっき、【機械天使の儀式】っていう別の儀式魔法をサーチしていましたけど……?」

 

「ふふっ。ベニアちゃん、【サイバー・エンジェル】って、テーマは、ね、色んな、儀式と、相性が、いいんだ、よ」

 

「はぇー……変わったデッキですね……」

 

 観戦していたベニアちゃんに、殺那が解説している。

 そう、梨々華ちゃんのデッキ、【サイバー・エンジェル】は割と色んな儀式と相性がいい。

 というか、純正な【サイバー・エンジェル】より、他の儀式を混ぜたのほうが強いのだ。

 

「行くぞ!儀式魔法【宣告者の予言】を発動!

 レベルの合計が6になるように手札・フィールドからモンスターをリリースして、儀式を行う!」

 

「おっと、来たか……!」

 

 意識をデュエルに戻す。

 視線の先では、今まさに儀式が執り行われようとしていた。

 

「私は手札のレベル6モンスター【サイバー・エンジェル─弁天─】をリリースして儀式召喚!

 今ここに降臨せよ!【神光の宣告者】!!」

 

 神光の宣告者

 レベル6/DEF2800

 

 晴天から、宣告者が舞い降りる。

 白い体に色とりどりの羽を持った、どこか神々しささえ覚える天使。

 【神光の宣告者】が地上に降臨した────

 

 ────が、きっと宣告者も、目の前の少女も、下界の醜さを知りはしなかったのだろう。

 

「さらに墓地の【宣告者の予言】の…………」

 

「墓地の【宣告者の予言】を除外してリリースしたモンスターを手札に戻す、でしょ?悪いけど、それは無理だね」

 

「なに…………ひっ!?」

 

 梨々華ちゃんが悲鳴を上げる。

 その視線の先には、庭園を這う黒い虫の姿があった。

 

「手札の【応戦するG】の効果を発動。相手がモンスターを特殊召喚する効果を含む魔法カードを発動した時、このカードを特殊召喚するよ。

 さらに、この効果で特殊召喚された【応戦するG】がいる限り、墓地へ送られるカードは墓地へは行かず除外される」

 

「なんだと……!?」

 

 這いずり回る害虫は、墓地のカードを喰らい尽くす。

 魔法も、モンスターも、なにもかもをだ。

 

「【宣告者の予言】も【弁天】も除外されてるからね。残念ながら、その効果は無効だよ」

 

「っ……!だったらリリースされた【弁天】の効果を発動!」

 デッキから天使族・光属性モンスター、【サイバー・エンジェル─荼吉尼─】を手札に加える!

 そのまま【機械天使の儀式】を発動!手札の【サイバー・エンジェル─韋駄天─】とフィールドの【サイバー・エッグ・エンジェル】をリリース!

 今ここに降臨せよ!【サイバー・エンジェル─荼吉尼─】!!」

 

 サイバー・エンジェル─荼吉尼─

 レベル8/ATK2700

 

 続いて降臨するは、二対四本の腕を持った戦神の乙女。

 【荼吉尼】は二振りの刃と槍を構え直し、ボクを見据えてくる。

 

「リリースされた【韋駄天】の効果発動だ!私のフィールドの全ての儀式モンスターの攻守を1000ポイントアップする!」

 

 神光の宣告者

 DEF2800→3800

 

 サイバー・エンジェル─荼吉尼─

 ATK2700→3700

 

「さらに【荼吉尼】の効果!このカードが儀式召喚に成功した場合、相手は自身のフィールドのモンスター1体を墓地へ送らなければならない!」

 

「おっと、ボクの場には【応戦するG】しかいないねぇ……

 というわけで、【応戦するG】には墓地へ行ってもらおうか」

 

 【荼吉尼】が槍を振るえば、それだけ害虫が吹っ飛んでいく。

 だが、虫というのはしぶといもので、ただでは死んでくれないものだ。

 

「墓地へ送られた【応戦するG】の効果が発動。デッキから【ゴキポール】を手札に加えるよ」

 

「くっ……!サーチ効果まであったのか……!」

 

「あははっ!けどまぁ、これで墓地へ行くカードが除外されることはなくなったよ?」

 

 とはいえ、彼女手札は残り1枚。

 ここから更に動けるかと言われれば、かなり難しいとは思うが。

 

「ここまでか…………ターンエンドだ」

 

 

 梨々華

 LP:4000

 場:サイバー・エンジェル─荼吉尼─

   神光の宣告者

 伏せ:なし

 手札:1枚

 

 

 ふむ、予想通り、これでターンエンドか。

 最後の手札は展開できるようなカードじゃなかったのかな。

 

 まぁ、【神光の宣告者】は手札の天使族1体を墓地へ送ることで、相手のモンスター・魔法・罠の効果を無効化できるし、牽制の意味で手札を残したのかな。

 実際、下手なカードを伏せられるよりかは威圧感があるし。

 

「…………真っ直ぐな、いいデュエルをするね、キミ」

 

「なんだよ、お世辞とかいらないぞ」

 

「あははっ!本心のつもりなんだけどなぁ」

 

 少なくとも、ボクよりかは素晴らしいデュエルだと思う。

 搦手や精神攻撃を躊躇なく行うボクよりかは。いやマジで。

 

「キミのお姉さんも、こんなデュエルをするのかな?真っ直ぐで、綺麗なデュエルをさ」

 

「…………お姉様は、私よりもっと強かった」

 

 小さな声で、梨々華ちゃんが答える。

 その声のトーンが僅かに上がったのを、ボクは聞き逃さなかった。

 

「へぇ……姉妹でよくデュエルとかしてたのかな?」

 

「ん…まぁ、な。私はあんまりお姉様には勝てなかったけど」

 

「あははっ!いいねぇ!」

 

「…………なにがだよ」

 

「ほら、姉妹で仲がいいのって、いいことだよ」

 

「……………………」

 

 梨々華ちゃんが驚いたように固まる。

 まさか、こんな風な言葉を聞くことになるとは思っていなかったんだろう。

 

「お姉さんのこと、大好きなんだね?」

 

「…………まぁな」

 

 彼女の口数は少ないが……それでも姉に対する深い感情は伝わってくる。

 この少女は、本当に姉のことが好きなのだろう。

 

「キミのお姉さんはどんな人だったのかな?資産家である鳴金家のお嬢様だし、おしとやかな人だったり?」

 

「…………………………」

 

 ん…?なんだろう?

 彼女の顔が明確に曇る。

 

(地雷を踏んだか……?けど、どの部分が地雷だったんだ……?)

 

 当たり障りのない会話のつもりだったのだが……

 しかし、それで彼女の雰囲気が暗くなったのは事実だ。

 となると、先程のボクの発言のどこかに、“なにか”があるということになる。

 

「うーん……意外とお転婆さんだったのかな?勝ち気な性格だったり?」

 

「……優しい人だよ、お姉様は」

 

「優しい人かぁ。あははっ、それはとっても素敵だね」

 

 ボクが褒めれば、彼女は僅かに頬を緩める。

 姉のことを話す梨々華ちゃんは、言葉は少ないながらもどこか楽しそうに見えた。

 本当に、姉のことを誇りに思っているのだろう。

 

 しかし、そうなると…………

 

「なるほど、やっぱり鳴(・)金(・)家(・)の(・)お(・)嬢(・)様(・)だから────」

 

「────おい、もういいだろ。さっさとデュエルをしろよ」

 

 苛立った声が庭園に響く。

 その反応で、ある予想がボクの脳内で組み上がった。

 

(そういうことか……この予想が正しいなら、この仕事は大概クソだな)

 

 心の中で悪態をつく。

 出来ればこの予想は外れていてほしいが……

 

「まぁ、うん。今はデュエルだね。あんまりのんびりしてると、ターンが飛んじゃうし」

 

 遅延防止のため、デュエルには思考時間──なにもしない時間に制限がかけられている。

 その時間を過ぎてしまえば、そのプレイヤーのターンは強制的に終わってしまうのだ。

 流石にボクもそれは困るので、ひとまずデュエルを動かすことにする。

 

「さてと、それじゃあキミには、裏デュエル界のデュエルを体験してもらおうかな」

 

 なるべく不気味に思われないような笑みを作って、デッキからカードを引く。

 彼女は一般社会の人間だし、できれば楽しいデュエルにしたいものだ。

 

(ま、楽しいデュエルとかは難しいみたいだけどね)

 

 ドローしたカードを確認して、ため息をつく。

 あははっ。ボクのデッキは、楽しくデュエルなんてするつもりは毛頭ないようだ。

 そういう無慈悲なところは好きだけど、今だけは普通のデュエルを楽しませてほしかったなぁ。

 

「じゃ、手始めに速攻魔法、【月の書】を発動。

 キミのフィールドの【荼吉尼】を裏側守備表示に変更するよ」

 

「やらせるか!【神光の宣告者】の効果を発動!

 手札の天使族モンスターを墓地に送り、その発動を無効にして破壊する!」

 

 降り注ぐ月光を打ち消すように、【宣告者】が眩い光を放つ。

 神の光の前では、小手先の魔法など無意味だとでも言うかのように。

 【月の書】は見るも無残に破壊されてしまった。

 

「…………あっ、終わった、ね」

 

「えっ……?どうしたんですか?殺那さん」

 

「ふふっ。この、ターンで、終わる、よ?廻理くんの、勝ち」

 

 もう結末が見えたのだろう。

 殺那は口元を指で触れて、楽しそうに笑っていた。

 隣のベニアちゃんは、困惑しているけれど。

 

「気を取り直して通常召喚だよ。おいで、【裏風の精霊】」

 

 裏風の精霊

 ATK1800

 

 風が舞い、緑髪に緑のワンピースを着た少女が現れる。

 

「召喚に成功した【裏風の精霊】の効果発動。

 デッキからリバースモンスター1体を手札に加えるよ。

 ボクは【シャドール・ビースト】を持ってこようかな」

 

 緑色の精霊が、1体のモンスターを運んでくれる。

 受け取るは、操られる影の人形。

 

「続きまして、速攻魔法【皆既月蝕の書】を発動!

 手札を1枚捨ててフィールドのモンスター2体を裏側守備表示にする……んだけど!

 墓地へ捨てた【ゴキポール】の効果が発動!

 デッキから昆虫族レベル4モンスター【G戦隊 シャインブラック】を特殊召喚!

 さらに【シャインブラック】の攻撃力以上のフィールドのモンスターを破壊するよ!」

 

「なっ……!?」

 

「あははっ!【荼吉尼】にはここでご退場願おうかな!

 やっちゃって、【シャインブラック】!」

 

 生け垣がカサカサと揺れ、中から黒いスーツに身を包んだヒーローが飛び出す。

 颯爽と登場した【シャインブラック】は、空中で一回転し、そのまま勢いに任せて【荼吉尼】に飛び蹴りを繰り出した。

 

『ハアァァァァァァァァァァッ!!』

 

 【シャインブラック】の蹴りは見事に【荼吉尼】の首をはね飛ばし、機械天使を爆散させる。

 

『グッ!』

 

 燃え盛る爆炎をバックに、【シャインブラック】はサムズアップした。

 生け垣から飛び出したのは面白かったので、パチパチと拍手しておく。

 

「ナイスヒーロー。相変わらずグロい殺し方だけど」

 

 なんで【シャインブラック】は蹴りで首を飛ばしちゃうかなぁ。

 この子のトラウマになったらどうするんだ、まったく。

 

「私の【荼吉尼】が……い、いや!まだだ!まだ勝負は決まっていない!」

 

 梨々華ちゃんが頬を叩いて、気合を入れ直す。

 まだ諦めないと、彼女はどこまでも真っ直ぐに、デュエルにぶつかってくる。

 

「さて、【皆既月蝕の書】の効果で2体のモンスターが裏側守備表示になる。

 ボクは【神光の宣告者】と、【裏風の精霊】を選択するよ」

 

 月が欠けるように、精霊と宣告者の姿が隠れる。

 これで下ごしらえは完了した。

 あとは手順通りにカードを発動させるだけで終わるのだが……

 

「……キミにひとつ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

「はぁ?いきなりなんだよ?」

 

 いきなりなんだよは確かにそうなのだが、おそらくここを逃すと聞くことができないのだ。

 この先に起こるのは、無慈悲な蹂躙に他ならない。

 もはや遊びでも決闘でもなんでもない、ただの蹂躙をボクはやるんだ。

 だからこそ、聞きたいことは今、このタイミングで聞くしかない。

 

「なに、少し不思議なことがあってね。

 ボクらの仕事の標的である、地下のサイコデュエリストがキミのお姉さんなのは分かった。

 けど、それはつまり……鳴金雄太郎は自分の娘の殺害を依頼したことになる」

 

「……だったらなんだよ」

 

「いやぁ、できるものなのかなって。だって、血の繋がった愛娘だよ?

 いくらなんでも自分の娘の死を望むなんて、そんな親がいるもんかと────」

 

「────違う!」

 

 少女の声が、ボクの言葉を遮る。

 激情、激怒。そんな表現が似合うような、強い否定だった。

 

「お父様(アイツ)はお姉様のことなんてこれっぽっちも愛してない!

 だからアイツはお姉様を地下に閉じ込めて!それで殺そうとしてるんだ!」

 

「血の繋がった自分の娘なのに?」

 

「アイツはお姉様のことを自分の娘だなんて思ってない!じゃなきゃ、あんな酷いことができるものか!」

 

 悲痛に、少女が叫ぶ。

 

「だって、お姉様はアイツの…………ッ!」

 

 少女は顔を伏せて、震える声で言葉を紡ぐ。

 

「…………お姉様は、浮気相手との子どもなんだよ」

 

 あぁ、やっぱりか。

 彼女の反応とか、殺害依頼を出されている現状から、ある程度の予想はついていた。

 とはいえ、的中してほしくはなかったのだが。

 

 “鳴金家のお嬢様”といった表現をすると、梨々華ちゃんの感情は揺れた。

 そして、依頼主である鳴金雄太郎は自らの娘を殺してほしいと頼んできた。

 でもって、標的は地下に閉じこもっているだけで、それ以外の害を確認できなかった。

 つまり、危険だから殺してほしいといった感じではないのだ。

 

 親が子の死を望む理由は色々考えられたが、この状況で思いついたのは、子(・)ど(・)も(・)の(・)存(・)在(・)そ(・)の(・)も(・)の(・)が(・)消(・)し(・)去(・)り(・)た(・)い(・)黒(・)歴(・)史(・)で(・)あ(・)る(・)ということだ。

 

 その条件でパッと浮かんだのは、娘の生まれ、血の繋がりに問題がある可能性。

 存在が正しくない子ども……すなわち、正当な血筋でないという可能性だ。

 

「なるほどねぇ。ぶっちゃけた話、地下に引きこもってるとか、迷宮を作ってるとか、サイコデュエリストであるとかは関係ないわけか」

 

「存在すると、マズイから、理由を、でっち上げて、殺そうとした、ってところ、かな」

 

「あの……控えめに言ってクズでは……?」

 

 裏事情を知ると、この仕事はまぁ酷いな。

 それに、随分と舐めた真似をしてくれたものだ。

『孤児院』を都合のいい清掃業者扱いだなんてね。

 

「なぁ……頼むよ。お姉様は、なにも悪いことしてないんだよ……

 それなのに、殺されるなんて……そんなの、おかしいだろ……」

 

「…………うーん」

 

 正論をぶつけられると大変困る。

 善悪で考えた場合、梨々華ちゃんのお姉さんを殺すのは完全にアウトだ。

 というか、ボクも殺したくはない。

 

 要するに、今回の標的は、親の自分勝手な都合の犠牲者だ。

 聞いた限り、彼女に一切の非はない。

 

「ま、デュエルの結果次第だね。今は、それしか言えないや」

 

 彼女たちの事情は、だいたい理解した。

 ボクの心も傾いているし、答えは出ている。

 けれどまずは、このデュエルを終わらせることからだ。

 

「……そうか。なら、私は負けない…!負けるわけにはいかない…!」

 

「そうだね。だからこそ……悪いとは思うよ!」

 

 手札から1枚のカードを抜き取り、デュエルディスクに叩きつける。

 

「ボクもこのカード入れてるんだよねぇ!通常魔法【儀式の下準備】を発動だよ!」

 

「なに!?【儀式の下準備】だと!?」

 

「えっ!?てことは廻理さん……まさか…!?」

 

「デッキから【聖占術の儀式】と【聖占術姫タロットレイ】を手札に加え、そのまま【聖占術の儀式】を発動!

 手札・フィールドからレベルの合計が9以上になるようにモンスターをリリースする!

 ボクは手札の【シャドール・ビースト】とフィールドの【シャインブラック】をリリース!」

 

 害虫のヒーローと、影人形の獣を焚べて、今ここに儀式が執り行われる。

 

「遠く、遠く、遍くを見通す巫女よ!太古の秘術により、現し世に蘇れ!

 レベル9、儀式召喚────」

 

 長い黒髪が舞い、ドレスの裾が揺れる。

 地より、太古の占術姫が蘇る。

 

「──捲り廻れ!【聖占術姫タロットレイ】!」

 

 聖占術姫タロットレイ

 レベル9/2700

 

 降臨するは、占術の姫。

 長身の女性が、タロットを浮かべながら、のっぺりと立ちふさがる。

 

「それが、お前の儀式モンスターか……!」

 

「そうだね、お気に入りの1枚だよ。

 【タロットレイ】の力を見せてあげたいけど、その前に【シャドール・ビースト】の効果発動。

 このカードが効果で墓地へ送られた場合、デッキから1枚ドローするよ!」

 

 影から糸が伸び、デッキトップから1枚カードを渡してくれる。

 ありがとう、と感謝を告げてから、ボクはカードを発動させていく。

 

「行くよ!【星遺物の胎導】を発動!自分フィールドのレベル9モンスターと元々の種族・属性の異なるレベル9モンスター2体をデッキから特殊召喚する!

 おいで!【古代の機械熱核竜(アンティーク・ギア・リアクター・ドラゴン)】!【機怪神(デウス)エクスクローラー】!」

 

 太古の占術姫に並ぶは、機械仕掛けの竜と、クローラーの中枢神経。

 

「馬鹿な……!大型モンスターが一気に2体も……!?」

 

「驚くにはまだ早いとも!【古代の機械熱核竜】と【機怪神エクスクローラー】でオーバーレイ!

 エクシーズ召喚!九つ廻れ!【九魂猫(ナインライブズ・キャット)】!!」

 

 黒い渦が形成され、その内側から亡者の絶叫が鳴り響く。

 這い出すは、死してなお動き続ける屍の猫。

 猫に九生、その魂は潰えない。

 

 九魂猫

 ランク9/DEF3300

 

「【九魂猫】のエクシーズ素材を1つ取り除き効果を発動!自分の墓地のレベル9モンスターを蘇生するよ!

 ボクは取り除いた【古代の機械熱核竜】を特殊召喚!派手にやっちゃって!」

 

 古代の機械熱核竜

 レベル9/ATK3000

 

「それじゃあ、このままゲームセットまで持ち込ませてもらうよ!」

 

「っ!?ふざけるな!私は負けるわけにはいかないんだよ!

 それに、お前の場で攻撃できるモンスターは【リアクター】と【タロットレイ】のみだ!

 裏側守備表示の【神光の宣告者】を突破しても、ライフは削りきれない!」

 

「2体だけならね!そこで【タロットレイ】の効果発動!

 フィールドの裏側表示のモンスター1体を表側攻撃表示に変更する!

 起きて、【裏風の精霊】!」

 

 タロットレイが呪文を唱えれば、どこからともなく精霊が現れる。

 再び姿を見せた【裏風の精霊】は、気合十分といった風にシャドーボクシングをしていた。

 

「これで足りた!バトルフェイズ!

 【古代の機械熱核竜】で裏側守備表示の【神光の宣告者】を攻撃!」

 

 熱核竜の口から、赤い閃光が放たれる。

 超高熱の火砲は、一筋の光となり、宣告者を焼き穿つ。

 

「そんな…【宣告者】が……!?」

 

「これで、キミを守るものはいなくなったね」

 

「あ…………」

 

 壁となる【神光の宣告者】は、焼き切られてもういない。

 そんな彼女の目の前には、精霊と占術姫が立っていた。

 

「トドメだ。【タロットレイ】と【裏風の精霊】でダイレクトアタック」

 

 タロットカードが降り注ぎ、精霊が襲いかかる。

 

「私は…………」

 

 泣きそうな顔で、少女はその光景を眺めていた。

 

「…………私は…お姉様を、守れないのか…?」

 

 一粒の涙が落ちると同時に、彼女のライフはゼロになって。

 

 決闘は、ボクの勝利で幕を下ろした。

 

 

 

 梨々華

 LP4000→1300→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエルが終われば、モンスターたちが薄れ、消えていった。

 ボクはカードを片付けながら、地面に膝をついた梨々華ちゃんに近づく。

 

 サイコデュエルではあったが、怪我させないように徹底したつもりだ。

 身体にひとつも傷はない。

 

 もっとも、心は無事ではないだろうけど。

 

「……お願い、だ…………お姉様を、殺さないで…くれ……!」

 

 目の前で、少女が頭を地面に擦り付ける。

 土下座して、必死に懇願してくる。

 

「ちょっ、やめてよ!?ボクは女の子を土下座させたかったわけじゃないんだからさぁ!」

 

 梨々華ちゃんの肩を持って、どうにかこうにか身体を起こさせる。

 頭を上げた彼女は、ぐずぐずに泣いていて、酷い顔をしていた。

 

「うーん……あー……うん」

 

 確認を取りたくて、ベニアちゃんと殺那の目を見る。

 

「私は、いい、よ?廻理くんと、同じ、想い、だよ」

 

「えと……あ、あたしも!なんか、可哀想だなぁ、って思います!」

 

 二人とも優しくていい子だなぁ。

 同意は得られたので、ボクはボクのやりたいようにやることにする。

 

「いやねぇ、デュエル前に『キミが勝ったら、キミのお姉さんを殺すのはなし』とは言ったけど、ボ(・)ク(・)が(・)勝(・)っ(・)た(・)ら(・)ど(・)う(・)す(・)る(・)か(・)は決めてなかったからね」

 

「えっ…………?」

 

 梨々華ちゃんが呆けた顔をする。

 ボクの言っていることの意味が分からないとでも言うような、そんな顔だ。

 

「べつに、『勝ったら誰か殺す』とか言ってないってことだよ」

 

 以前ベニアちゃんにやられた約束の取り付け方だ。

 遠巻きにボクを見ているベニアちゃんが「あたしのパクリじゃ……」だなんて言っているのが聞こえた。

 

 それはともかく、時間をかけてボクの言葉の真意を理解した梨々華ちゃんは、呆けた顔から一転、希望を見つけたように目を見開く。

 

「それってもしかして…………!?」

 

「うん。キミのお姉さんを殺すのはやめとくよ。心が曇りそうだからね」

 

 飼い主様からの命令には背くことになるが…………まぁどうにかなるでしょ。

 そもそも鳴金雄太郎が『孤児院』を舐めた時点で、こんなクソみたいな依頼を真面目にやる義理はなくなった。

 テキトーにちょろまかして、殺した風に偽装しておけばそれで十分だろう。

 

 付け上がってくるような依頼人には、それ相応の対応を。

 それが『孤児院』のやり方だ。

 流石に館燃やすとかはやり過ぎだが、こっそりターゲットを生かすくらいなら問題ないだろう。

 

「だから、まぁ……助けるよ。二人もそれでいいかな?」

 

「は、はい!あたしは、問題ないです!」

 

「うん。私も、いい、よ。鳴金の、連中に、目にもの、見せて、やる」

 

 一応の最終確認だったが、不必要なことだったかな。

 ボクも、ベニアちゃんも、殺那も、今回の仕事には納得がいっていない。

 単純に、あの執事だとか鳴金雄太郎だとかの態度がムカついたというのは大いにあるが。

 ともかく、今回は殺しはなしだ。殺人は褒められた行いじゃないしね。

 

「ありがとう……!お姉様を、助けてくれて……!」

 

 梨々華ちゃんが感涙にむせび、ボクの手を握ってブンブンと振り回してくる

 

「…………あははっ!」

 

「…………ふふっ」

 

「え、えへへ………」

 

 そんな彼女とは対象的に、ボクらは曖昧に笑っていた。

 このときのボクらはきっと、同じことを考えていたと思う。

 

(((…………それはそれとして、どうやってお姉様とやらを助ければいいんだ…?)))

 

 勢いに任せて、無責任に助けることを決めたボクらは、内心で頭を抱えるのだった。

 

 





まともな人間が相手だと、廻理がまるで悪人みたいになりますね!(実際重犯罪者)

次回もよろしくお願いします!


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