遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻 作:胡麻野すり子
12話を投稿いたします!
貸し与えられた部屋のベッドの上で、ボクはひとり、カードを眺めていた。
今、ここに殺那とベニアちゃんはいない。
二人は「お風呂を借りてくる」と言って、鳴金邸の浴場に行ってしまった。
(正確に言えば、殺那がベニアちゃんを連れてったカタチだけど)
久しぶりに入ってきた新人ということで、殺那もベニアちゃんを可愛がりたいのだろう。
「今頃、ふたり一緒にお風呂に入ってるんだろうな」
ベッドに転がったまま、ぽつりと呟く。
殺那はベニアちゃんを気に入ってるし、彼女を丁寧に洗ってあげたりしているのかな。
まぁ、あくまでボクの想像だ。実際のところは分からないが。
しかし、これはどうにも面白くない。
なにが面白くないって、ボク抜きで二人が楽しそうなことをしているのが面白くない。
どうせならボクも混ぜて欲しい。
「とはいえ、ボクが浴場に乱入するわけにはいかないしね」
悲しいかな、性別という区別。
いやぁ、ボクも女子だったらご一緒できたんだけどなぁ。
だが流石に男性が入り込むのは不味い。乱入ペナルティ2000ダメージじゃすまないだろう。
「…………よっと。散歩でもするかな」
ベッドを軋ませて、上体を起こす。
カードを弄るのにも飽きてきたし、屋敷を適当にふらついてみることにした。
「なんかイベントが発生するといいなぁ」
そう思いながら、ボクはドアノブを回して廊下に出た。
そんなこんなで屋敷の中をふらつくこと十数分。
特に劇的なイベントが起こることもなく、ボクはただ無為に時間を消費していた。
豪奢な屋敷というのは面白いものがたくさんあるかと思ったが、なんてことはない。
ただ「金持ちの家だなぁ~」という感想しか湧いてこなかった。
「んん…………?」
ぼーっと眺めていた窓の向こうで、ふと裏口の方から家の敷地に入ってくる黒い車が見えた。
この家の車だろうか?それにしてはなんだか違和感があるが……
「あの黒い車……なんだか…………」
「あっ、廻理さんじゃないですか」
思考の海に溺れようとしたそのとき、後ろから声をかけられた。
驚いて振り返れば、そこにはびしょびしょに濡れたベニアちゃんがいた。
「か、廻理さん?…………す、すいません……驚かせましたか……?」
「え?いやいや、大丈夫だよ!驚いてないさ!」
申し訳無さそうにするベニアちゃんを安心させようと、優しそうに見える笑顔を作る。
「それにしても、どうしたの?なんか濡れてるけど……」
「あ、えとですね…………さっきまで殺那さんとお風呂に入ってたんですけど…………お湯が熱くって……」
「そりゃお湯だからね」
「なので、早めに上がってきました……!
あ、ちなみに殺那さんはまだ入ってます……!」
「なるほどなぁ」
ふむ。ベニアちゃんがどうしてここにいるのかは分かった。
要するに、彼女はお風呂が早いタイプだったというだけの話だ。
「ちなみに、身体中に水滴がついてるけど、それはどうしたのかな?」
「……?よく身体は拭いたとおもうんですが……?」
「全然拭けてないよ。髪とかヤバいことになってるね」
髪の毛の先からはポタポタと水が滴り、床に落ちていく。
おそらく、ほとんど濡れたまま着替えてここまで来たのだろう。
そのせいで白いワンピースが彼女の肌にくっついて、身体のラインをくっきりと浮かび上がらせている。
更に言えば……透けている。
胸のあたりに、桜色がちらりと見えた。
「あー……タオル、探してくるよ」
見えてしまったことに自己嫌悪を覚えて、咄嗟に視線をずらす。
この子、下着とか着けていないのか……?
けれどもボクが指摘するのもいかがなものか……
仕方がない。後で殺那にそれとなく注意してもらうように言ってみよう。
「あっ、タオルは大丈夫です……!」
「えっ?……って、うわぁっ!?」
ベニアちゃんが犬みたいに身体を震わせて、水滴を飛ばす。
すると当然、近くにいたボクにも水が飛んでくるわけで。
「ちょっとちょっとベニアちゃん!?」
「え、えへへ……乾きました……!」
そうやって彼女はどこか誇らしげに笑う。
補足すると別にまったく乾いてはいないのだが。
「…………それで、その……廻理さんは、なにかしてたんですか……?」
小首を傾げて、ベニアちゃんが聞いてくる。
その前に彼女の行動について色々言いたいことがあったが…………
まぁもう細かいことだしどうでもいいや。
「んー、ボクはそうだねぇ。探検してたのさ」
「探検……ですか?」
「そ、探検。なんか面白いものでもないかなぁ、って」
「…………なんか、ありましたか……?」
「あははっ!」
ボクは笑って誤魔化した。
「さて、とりあえず梨々華ちゃんのところにでも行こうかと思うけど、よかったらベニアちゃんも一緒にどうかな?」
「あっ……じゃ、じゃあ、あたしも一緒に行きます……!」
「いいね。そうそう、湯冷めしたらいけないから上着貸したげるよ」
言うやいなや、羽織っていた灰色のカーディガンをベニアちゃんにかける。
風邪を引かないように……否、透けたワンピース姿を梨々華ちゃんに見せるのはよろしくないという判断からだ。
「はわわ……す、すいません……ありがとうございます。
…………廻理さんの、匂いがしますね…」
「ありゃ、ごめん臭かったかな?」
「あっ、いえ別にそんな…………廻理さんは、なんだか甘いのと香ばしいのが混ざったみたいな匂い……ですから」
これは、褒めてくれてるのだろうか?
自分の匂いは自分じゃよく分からないからどうとも言えないが。
「あ、いや、えと……あ、あたしはいい匂いだなぁ、って思ってます!
なので、……その…………す、すいません!イヤな気分に、しちゃいましたか……?」
ボクが不思議そうにしていたのを、不機嫌になったと勘違いしたのだろうか。
ベニアちゃんがあたふたしながら、必死に弁明して謝ってくる。
「いいっていいって。なんにも気にしてないからさ」
ベニヤちゃんを安心させようと、咄嗟に明るい笑顔を作って、明るく振る舞う。
そうしてみれば、彼女は少しだけ落ち着いたのか、胸を撫で下ろした。
「別に、そんなにビクビクしなくっていいよ。ボクはキミに危害を加えないからさ」
「ぁ……え、ぇと………………分かって、るんですけど……」
「あははっ!頭で分かってても、こういう不安って中々抜けてくれないよね」
はたしてベニヤちゃんがどんな過去を歩んできたのかは知らない。
ただ、ボクが出会ったとき、彼女は重度の虐待を受けてきていた。
加害されるのが当たり前、虐げられるのが当然。そんな環境で生きてきた子どもに、いきなり安心しろだなんて言っても、安心できるわけがないだろう。
「まぁ、ベニアちゃんの安らげる『居場所』になれるように、ボクは頑張るよ」
それが、ボクの責任だ。
彼女を連れて行ったボクの、果たすべき役目だ。
「………………なんで、そんなに……あたしに、良くしてくれるんですか……?」
「そりゃ、ボクが単純なヤツだからだよ」
おずおずと聞いてくるベニアちゃんに対して、カラッと即答する。
自分で言うのもなんだが、ボクは単純で、衝動的なヤツだ。
だから悲惨な子は幸せにしたいって思うし、幸せにできたらいいなぁ、って思う。
「あぁ、あとさ。ボクは人権のないクズ奴隷だけど、善いことしたらカミサマが天国に連れてってくれそうじゃない?」
冗談めかして言ってみる。
笑っちゃうよね、カミサマだとか天国だとかなんて。
そんなのがあったとしても、ボクは受取拒否だろうに。
「え、えへへ…………廻理さんって、いいひと……なんですね……」
冗談がウケたのか、ボクの言葉で安心してくれたのか、ベニアちゃんがはにかむ。
下手くそで、引きつったみたいな笑い方だけど、それは可愛らしくって、どこか綺麗な、そんな微笑みだった。
「……行けますよ、天国」
「えっ?」
「あたしが、神様に言っておきますね。廻理さんを、天国へ連れてってください、って」
これは、彼女なりのジョークだろうか?
だとしたら、ボクの悪ふざけに乗ってくれてるってことか。
「あははっ!いいねぇ!じゃあお願いしちゃおっかな!」
ベニアちゃんの冗談に、ボクもまた冗談で返す。
それを聞いて、彼女は晴れやかな顔をした。
あぁ、なんだか、ベニアちゃんとちょっと仲良くなれた気がする。
「さてと、それじゃ梨々華ちゃんの部屋にカチコミしよっか!」
「か、カチコミですか……!あたし、はじめてです!」
そう言って、ボクは廊下を歩き始める。
その後ろを、ベニアちゃんがついてくる。
一緒に来てくれるベニアちゃんは、どこか楽しそうに見えた。
にしても、梨々華ちゃんの部屋はどこにあったか。
歩いている途中で、そういえばまったく分からないことに気づいた。
────────────────────
無駄に大きい館をさまようことしばらく。
ボクらはようやく、梨々華ちゃんの部屋に辿り着くことができた。
いやはや、長い旅路だった。
片っ端からドアを叩いて、しらみ潰しで探したよ。
「他の人に聞くとか、もっとこう、なんかなかったのか?」
部屋の中で、梨々華ちゃんが呆れたように言う。
「楽しく会話できるヤツがいなさそうだったからね」
「カスしかいませんもんね………この家……」
「まぁ、そうだな。というかなんでお前はそんなに濡れてるんだ?」
「?……濡れてます…?」
「これでも乾かしたつもりらしいよ」
会話をしながら、部屋の中を見渡す。
といっても梨々華ちゃんの部屋の内装は、ボクらに貸してもらった部屋のそれと大差なかった。
(……まぁ、彼女が無趣味だとかミニマリストだとか、そういうことじゃないんだろうな)
この部屋から感じられるのは殺風景さではなく、拒絶感だ。
根本的な部分で心を許していないような……家族への不信感とも言えるだろうか。
だから、この部屋にはなにもない。鳴金梨々華という少女の生活が見えない。
それはとても意図的で、彼女がこの家に対して心を許していなような、そんな拒絶の意志が垣間見えた。
(趣味のものは全部、押入れとかに隠してるタイプかな)
なんてことを推測する。
そうしていると、ふと机に置かれた写真立てに目が留まった。
「そこの写真に写ってるのが、お姉さんかな?」
「ん?……あぁ、これか」
気になったので聞いてみれば、梨々華ちゃんは写真立てを手に取りながら答えてくれる。
「そうだな。ここにいるのが、私のお姉様だ。綺麗な人だろ?」
そう言って、彼女は写真立てをボクに手渡す。
写真立てに収められていたのは、満面の笑みを見せる梨々華ちゃんと、落ち着いた微笑みを浮かべる少女が並んでいる写真。
見れば見るほどに、幸せを感じることができるような、そんな綺麗な光景が切り取られていた。
「これが梨々華さんの……お姉さん、なんですね……」
「あぁ、そうだ。『
「………………葛さん、ですか」
鳴金葛。
葛……
斜に構えた考え方だとは思う。
だがそれを否定することは、今のボクにはできなかった。
「へぇ、確かに美人さんだね」
思考を頭の片隅に追いやって、写真をじっくり見る。
葛さんは、綺麗な黒髪の少女だった。
大人しそうな雰囲気で、線が細く、どこか儚い。
仄暗く、けれど顔立ちの整った、そんな女の子だった。
「そうだろう。本当に綺麗で……綺麗、だったんだ。
………………アイツに壊されるまでは」
あぁ、そういえば葛さんは、顔の半分を酸で焼かれたんだったか。
イカれてるな。つくづくそう思う。
「……かわいそう、ですね。なんにも悪くないのに……こんな、酷い目にあって……」
ベニアちゃんが目を伏せる。
葛さんの境遇に同情……というより、共感しているのだろう。
「あ……すまない。暗い話をしてしまったな」
「別にいいよ。ところでなんだけど……」
こういうときは話題を変えるに限る。
明るい空気に持っていったほうがいいだろうし、当然明るい話題がいいな。
「晩ごはんも厄介になっていいかな?」
……なんか、スゴイ図々しいヤツみたいになったな。
「そりゃあ泊めてるんだからご飯は私が用意するよ」
「マジで?やったー!」
「大袈裟だな…………食いたい物とか、嫌いな物とかあったら先に聞くぞ?」
「あ、あたし……肉が食いたいです……!めっちゃ厚くて、高いやつ……!なんか、ランクの高いステーキ的な……」
「それは流石に無理だな」
そんなこんなで、ボクらは晩ごはんのリクエストをした。
とはいえ、屋敷の人はボクらに敵対的なので、用意するのは梨々華ちゃんになる。
梨々華ちゃんだけで用意できる料理の範疇で考えた結果、晩ごはんはパンとジャムになった。
────────────────────
ひとり、屋敷を歩く。
別にボクは単独行動がしたかったわけではないけど。
ただ、あのあと会話が大いに盛り上がり、ベニアちゃんと梨々華ちゃんが楽しそうにしていたから、話を切るのが悪いと思っただけだ。
いやはや、ふたりが仲良くなれそうでよかったなぁ。やっぱり、仲良しが一番だし。
さて、そんなこんなでウロウロしていたボクは、ようやく目当ての人物を見つけた。
日の暮れかけた庭園で、ひとり花を眺めるその人物。
薄赤色のふわふわした、その少女。
見慣れた彼女に、ボクはいつもの様子で声をかける。
「殺那」
「ん……廻理くん」
軽く手を振って見せれば、殺那も同じように手を振り返してくる。
「廻理くんは、お散歩?」
「ううん、殺那に会いに来た」
「ふふっ。そっか」
口元に指を添えて、彼女は柔らかく笑った。
「……さっきさ、不審な黒い車が入ってくるのを見たんだ」
「敵襲?」
「どうだろ。ボクはただ、怪しい車を見たってだけだから」
「ふぅん」
短く答えて、殺那が数秒、考えるような素振りを見せる。
「凸る?」
「あははっ!凸っちゃう?」
嫌な予感がしたから警戒を呼びかけるつもりだったのだが……
まぁ、突撃して確かめたほうが早いっちゃ早い。
「やっちゃうかぁ。手っ取り早くいこう」
「ふふっ。殺ろう、か」
「まだ敵と決まったわけじゃないって」
本当に血の気の多いんだから。
ほら、もうデュエルディスクを構えてる。
完全に殺す気じゃないか。
「行こ、廻理くん」
「そうだね。平和的に行こうか」
絶対無理だろうけど。
まぁ、努力するのは素晴らしいことだ。
一応は平和的解決を目指すとしよう。
「そういえばね、さっき、面白い、資料、見つけた、よ」
不審な車を探している途中で、唐突に殺那がそんなことを言ってきた。
「へぇ、面白い資料かぁ」
一体どこで見つけてきたんだと一瞬思ったが……まぁ、どっかの部屋に忍び込んだのだろう。
その辺りの経緯は聞いても意味がなさそうなのでスルーすることにした。
「梨々華ちゃんの、お姉さんの、お母さん、もう、死んでる、みたい、だよ」
「ありゃりゃ。ご愁傷さまだね」
梨々華ちゃんのお姉さんのお母さん。
要するに、葛さんのお母さんか。
たしか、鳴金雄太郎が手を出した、屋敷のメイドかなんかだったかな。
「15年くらい、前に、鳴金雄太郎が、殺し屋を、雇って、殺ってる、みたい」
「ロックだなぁ……」
たぶん鳴金雄太郎は、葛さんのお母さんを生かしておきたくなかったのだろう。
それが合理的な理由だったのか、感情的な理由だったのかは知らないが。
「殺し屋……って、言っても、私達みたいな、プロじゃなくて、チンピラみたいなの、だったらしいけど、ね」
「ふーん、チンピラねぇ。なんにせよ、梨々華ちゃんも葛さんも母親がいないわけか」
葛さんの母親は、15年前に暗殺。
梨々華ちゃんの母親も、失踪している。
彼女たち姉妹の親は、あのカスみたいな男しか残っていないわけだ。
「葛さん、って?」
「あぁ、そういや言ってなかったね。梨々華ちゃんのお姉さんの名前だよ」
「ふぅん、そっか」
なんてことを話しながら、屋敷の裏のほうを探索していく。
「ん……あそこ、ガレージ、かな?」
殺那が指をさす。
その向こうには、黒い車の停まったガレージがあった。
「アレが、廻理くんの、見た、ヤツ?」
「車種は間違いないね。ナンバーは見えなかったから、絶対にこれとは断言できないけど」
「ふふっ。怪しい、車が、2台もあったら、笑うよ」
「あははっ、それは確かに」
例えば鳴金雄太郎が怪しい黒い車コレクターとかだったら話は違うが。
まぁ、常識的に考えてそんなことはないだろうし、これは十中八九ボクが見かけた車と同一の物と見ていいだろう。
「じゃ、調べて、みようか。なんにも、なかったら、知らない顔、しよう」
「ボクの勘違いとかだったらいいんだけどなぁ」
そんなこんなで、ボクらはガレージの黒い車に近づいていく。
わざわざ屋敷の裏に停められた、不審な黒い車。
これが使用人駐車場で、たまたま物凄く怪しい雰囲気の車に乗ってる使用人が停めているだけとかならいいのだが……
「あ、これダメなやつだ」
車に近づいているそのとき、ガレージの中から、誰かが飛び出してきた。
それは、筋肉質な身体に、バチバチにタトゥーを入れた、ドレッドヘアの見るからにガラの悪そうな大男。
そしてその手には、黒い金属──というか拳銃が握られていた。
「誰だテメェらぁ!!」
男はそんなことを叫びながら引き金を引く。
パンッ、パンッ、と小気味のいい音が2回鳴って、弾丸が宙を裂いた。
「危なっ」
ひょい、とステップを踏んで銃弾を避ける。
その一瞬後に、弾がさっきまでボクの頭があった場所を駆け抜けていった。
「こわー。避けなかったら頭が吹っ飛んでたよ」
軽口を叩いて、懐からカードを1枚抜き取る。
そのまま狙いを定めて、手に取ったカードを男に向けて投擲する。
「ぐぁっ!?痛ぇぇ!?」
投げられたカードは寸分違わず男の手の甲に突き刺さり、その衝撃で拳銃を弾く。
「イエーイ!後は頼んだよ殺那!」
「ん」
ボクと同じく銃弾を避けていた殺那が、男との距離を一息でゼロにする。
そして男が驚愕するよりも速く、殺那の靴が男の胸部を蹴り飛ばした。
その衝撃で男は吹っ飛び、停めてあった車の窓に頭から突っ込む。
ガラスの割れる、気持ちのいい音が響いた。
「肋骨を、粉砕、玉砕、大喝采、だよ」
殺那が振り返り、たおやかに微笑む。
「派手にやるねぇ。死んだんじゃないの?」
「あ、死んだら、困る、ね。慰謝料、払えないし」
「ワンチャン正当防衛?」
「正当防衛、いける、かな?」
実際、威嚇も警告もなしにあのガラの悪い男は撃ってきたし。
たまたまボクと殺那が銃弾を回避できるからよかったが、そうじゃなかったら今頃頭が潰れたトマトみたいになっていただろう。
「が…………あぁ!なにしやがんだクソガキがぁぁ!」
「あっ、まだ、生きてた、ね」
男が車から頭を引き抜き、怒号を上げる。
凄いな。頭はガラスに切られてズタズタで、肋骨も砕けてるだろうに。
よくもまぁ、そこまでの元気があったものだ。
「おいどうした!なにが起きた!?」
「車の、中から、ひとり……増えた、ね」
勢いよく車のドアが開かれ、中からもうひとり男が出てくる。
こちらもまぁ見るからにガラが悪そうだった。
この男ふたりを表現するなら、チンピラという言葉が一番似合うだろうか。
「なんだテメェらぁ!どこのモンだぁ!」
「『孤児院』のクズデュエリストだよ」
「なにぃ?『孤児院』だとぉ?ハハッ!鳴金の旦那が言ってたターゲットじゃねぇか!」
怪我をしていない方の男が、幸運とばかりに大きく笑う。
「おい元気だせよぉ!あのガキ共を殺せば金が入るんだぜぇ!」
「あぁそうだなぁ……!俺をこんな風にした罰も与えてやるよぉ……!」
そんな男たちの会話を聞いて、ボクと殺那は顔を見合わせる。
「会話から推察するに、コイツらは鳴金雄太郎に雇われたチンピラってとこかな」
「それで、依頼内容は、私たちの、殺害」
なるほどなぁ。おそらくだが鳴金雄太郎は梨々華ちゃんが交渉した時点で、ボクらの暗殺を決めていたのだろう。
それは犯罪者のクズを家に滞在させるのが嫌だったからか、はたまた娘が犯罪者と仲良くなっているのを好ましく思わかなかったからか。
いずれにせよ、鳴金雄太郎にとってボクらの存在はもう、不要で邪魔になったということだ。
「今回の依頼主はマナーがなってないねぇ」
「そもそも、頭が、悪すぎ、だよ」
ボクは肩をすくめ、殺那は小さくため息をつく。
「ぎゃははは!ガキを殺すのは楽しいぜぇ!みんなガクガク震えて小便チビって、『たすけてください』って泣いて頼むんだからよぉ!」
「そんなガキにまず足を撃ってよぉ、じっくり殺っていくんだ!そしたら魚みたいに跳ねてよぉ!馬鹿みたいに悲鳴を上げるんだぜ!」
「あぁそういや今回は女がふたりいるんだったよなぁ?じゃあよぉ、俺らに“ご奉仕”してくれんなら命だけは助けてやってもいいぜぇ!」
男たちがゲラゲラと笑う。
不愉快に、笑っている。
「…………品が、ない、ね」
「あははっ!違いないねぇ!」
このチンピラ共は、明確にボクらに危害を加えるつもりだ。
じゃあ、これからボクらがやることは、正当防衛ということになる。
「気晴らしにはいいんじゃない?」
「ん。ぶっ殺、そう」
ふたり並んで、デュエルディスクを構える。
「なんだぁ?テメェらみてぇなクズが俺たちとデュエルするってかぁ?」
「ぎゃはは!身の程知らずとはこのことだなぁ!軽く捻ってやるぜぇ!」
対峙する男たちもまた、下品に笑ってデュエルディスクを構えた。
丁度、2対2。
つまりはタッグデュエル。
「泣いて後悔しなぁ!クズガキども!」
「何人もぶっ殺して鍛えたデュエルの腕ぇ!テメェらに見せてやるよぉ!」
「はいはい。期待してるよ」
「それ、じゃあ、死のう、ね」
「「「「──────
読んでいただきありがとうございます!
次回は廻理&殺那VSチンピラ共のデュエルになります!
可能な限り速く、1週間以内には投稿したいですね……!
次回もよろしくお願いします!