※この作品はR-18です。

遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻   作:胡麻野すり子

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廻理&殺那戦、決着です!


第14話 血に酔った獣

 ──兎ノ宮殺那を表すなら、『血に酔った獣』というのが一番しっくりくる。

 

 一見すると彼女はロリータ・ファッションに身を包んだふわふわとした少女に見えるだろう。

 だが、殺那の本性はそんな童話然としたモノとは真逆だ。

 

 彼女の本性は、血液性愛者(ヘマトフィリア)で加虐性愛者(サディスト)。

 …………要するに、殺那は血が大好きで、人を傷つけることに快楽を覚えるのだ。

 

 そしてこれが、彼女が裏デュエル界にいる理由。

 まぁ、明らかに人道に反する性癖だ。

 この性愛を満たして生きようと思えば、到底普通の世界じゃ生きられない。

 というか、殺那は“コレ”のせいで裏デュエル界に来たようなものでもある(実際にはコレ以外にも色々あったが)。

 

 で、こんな異様な性癖を抱える彼女が、実際に人をぶち殺すとどうなるかというと………………

 

 

「あはぁ…♡カード、1枚伏せて、ターンエンド……!

 さぁ、お前のターン、だよ……!ほら、ほら、足掻いて、みて……♡」

 

 

 こうなる。

 発情する。

 加虐と出血が、そのまま性的快楽に直結しているからだ。

 

 殺那は辛抱たまらないとばかりに下腹部を服の上から抑えつけ、空いた指をしゃぶって悦に浸っている。

 浅く、熱く、息を吐いて、涎を垂らす姿は、欲に侵された獣そのもので。

 そんな加虐の快楽で頭が茹でった殺那が、ターンを終える。

 

 

「お、俺のターン……!」

 

 対して哀れな獲物であるチンピラの男は、ガタガタと怯えながらターンを始める。

 ようやくこの男は自らの状況を正確に理解したのだろうが、如何せん気づくのが遅すぎたな。

 

「クソっ!クソぉっ!どうして俺がこんな目に……!お、俺は精一杯、真っ当に生きてきたのに!

 金もらって人を殺しまくって、あとは趣味でちょっと……30人くらいガキをぶっ殺しただけなのにぃ……!!」

 

「うーん、これはギルティ」

 

 チンピラクズ野郎は涙を流しながら、しきりに「理不尽だ、理不尽だ」と喚き散らす。

 完全に被害者ヅラをしてるなぁ…………

 

「こんな……こんな酷いことを許してたまるかよぉぉぉ!

 【強欲で貪欲な壺】を発動ォ!デッキの上から10枚を除外して2枚ドロォォ!

 うおぉぉぉ!【ダーク・バースト】だオラァァ!墓地の攻撃力1500以下の闇属性モンスター1体を手札に加える!俺は墓地の【偉大魔獣 ガーゼット】を手札に戻すッ!」

 

 ふむ、【ガーゼット】を回収したか。

 丁度ヤツの場には【ガンナードラゴン】が残っている。

 このままアドバンス召喚して殴りかかる算段だろう。

 

「無意味、だよ。トラップ発動、【メルフィータイム】。

 獣族エクシーズモンスターの、エクシーズ素材を取り除き、相手のカードを、手札に戻す。

 【メルフィー・マミィ】の素材を、1つ取り除き、【ガンナードラゴン】を、手札へ、戻す……!」

 

「な、なんだと……!?い、いや!まだだ!まだ終わらねぇ!

 手札から【フォトン・スラッシャー】を特殊召喚────」

 

「【わくわくメルフィーズ】の効果、発動。

 獣族エクシーズモンスター、【メルフィー・マミィ】をEXデッキに戻し、持っていたエクシーズ素材の数まで、墓地のレベル2以下の、獣族を、特殊召喚、する。

 私は、墓地の、【カラントーサ】を、特殊召喚して、【カラントーサ】の効果で、【フォトン・スラッシャー】を、破壊……♡」

 

「そんな、ウソだろ…………!?」

 

 なにかする度に、先回りして潰される。

 そんな殺那のデュエルに、男が絶望したかのような表情を浮かべる。

 

「もう、終わり?ふふふっ♡それも、いい、けど。もっと、ジタバタ、して?

 みっともなく、惨めに、足掻いて?ほら、ほら、私を、愉しませて……♡」

 

「ふ、ふざけやがってぇぇぇええぇぇぇ!!

 【貪欲な壺】を発動ぅぅ!墓地のモンスター5枚をデッキに戻して2枚ドロォォォ!!

 そしてぇ!【爆走特急ロケット・アロー】を特殊召喚だぁぁあぁぁぁあああぁ!!」

 

 爆走特急ロケット・アロー

 レベル10/ATK5000

 

 男が半狂乱になりながら、巨大な列車のモンスターを呼び出す。

 【爆走特急ロケット・アロー】、自分フィールドにカードが存在しない場合のみ特殊召喚できるモンスター。

 攻撃力5000という破格の火力と、いくらかのデメリットを持つカードか。

 

「死ねっ!死ねぇっ!【ロケット・アロー】をリリースして、【偉大魔獣 ガーゼット】を召喚だあああぁぁぁあ!!」

 

 偉大魔獣 ガーゼット

 レベル6/ATK?

 

 列車と入れ替わるように、魔獣が再び降臨する。

 今回の【ガーゼット】の攻撃力は、【ロケット・アロー】の攻撃力の倍。

 つまり…………

 

 偉大魔獣 ガーゼット

 ATK?→10000

 

 …………つまり、攻撃力10000。

 馬鹿みたいな火力の【ガーゼット】が、ここに召喚された。

 

「最高に頭の悪い打点だね」

 

「ふふふっ♡面白い、ね?廻理くん♡」

 

 よくもまあこんな化け物を作り出したものだ。

 殴られたら一発アウト。オーバーキルもいいところだね。

 

「もっとも、【ロケット・アロー】を特殊召喚したターンはバトルフェイズを行えない。

 残念ながら、このターンでキミが勝つことは不可能なわけだけど」

 

「だがよぉぉぉぉ!俺の場には攻撃力10000の【ガーゼット】がいるッ!!

 お前らに!この壁が!超えられるかよぉぉぉおぉぉぉぉぉおおぉぉッ!!」

 

 ヤケクソ気味に男が吠える。

 こいつはボクらがその高火力のモンスターをどうにかしてきたのを忘れたのだろうか。

 あるいは、分かっていてなお、自分を安心させるために叫んでいるのか。

 

「俺はぁ!カードを1枚伏せてぇぇ!!これでターンエンドォォォォォォッ!!」

 

 こうして、チンピラのターンが終了する。

 さて、立ち塞がるのは脳筋の極みみたいなモンスターか。

 正攻法で倒すのは骨が折れるなぁ。

 

「ねぇ、廻理くん……♡」

 

 なんて考えていると、ふと背後から殺那がふわりと抱きついてくる。

 温かくて柔らかい感触と、蕩けるような甘い声がした。

 

「おっと。どうかしたの、殺那?」

 

 首を回して、殺那と目を合わせる。

 可愛らしく、そして上気した顔が、すぐ近く。

 鼻先が触れそうな距離。あとほんの少し近づけば、唇がくっつきそうな近さで。

 彼女は、にんまりと愉しそうに微笑む。

 

「廻理くんは、この盤面を、どうやって、崩す?

 私、愉しみ、なの……♡廻理くんが、派手に、殺すの……♡」

 

 腹に回した腕に力を込めて、より一層、身体を密着させてくる。

 そのまま殺那は、顔を耳元に近づけて、妖しく囁く。

 

「破壊するの?無力化するの?それとも、正面突破?どうやって、倒すんだろう……♡」

 

 殺しのおねだり。

 虐殺の熱望。

 なんてことはない、ただ甘えてきてるだけ。

 

「うーん、鮮やかな勝利を期待してくれてるみたいだけど、そんな綺麗には勝てないよ」

 

 殺那が甘えてくれるのは嬉しいが、生憎と手札が悪い。

 きっと彼女が望んでいるであろう劇的な殺し方は見せてあげられない。

 まぁ、ボクはそれでいいんだけど。人殺しなんて楽しくないしさぁ。

 

「30秒くらいでサクッと終わっちゃうよ」

 

「ふふっ。いい、ね?ますます、どう殺るのか、見たくなった、よ」

 

 一瞬だけ驚いたような顔をして、殺那は子どもみたいに無邪気に笑った。

 加虐を求める獣ではなく、純粋にデュエリストとして。

 『ボクがどんな勝ち方をするのか』

 それを楽しみにしているかのような、そんな表情だった。

 

「じゃあ、このまま、特等席で、廻理くんの、デュエルを、観てる、ね……♡」

 

「あははっ!それじゃあ精一杯、魅せてあげるよ!」

 

 親友が楽しみに見てくれているわけだ。

 これは、あんまり無様なデュエルはできないな。

 そう思い、ボクはターンを始める。

 

「じゃ、行こうか。ボクのターン!ドロー!

 フィールド魔法【星遺物に差す影】を発動」

 

 悩むようなこともない。

 あとはもう、カードを発動させるだけで勝てる。

 

「【星遺物に差す影】の効果発動。

 手札からレベル2以下の昆虫族モンスターを裏側表示で特殊召喚する。

 ボクは手札から【クローラー・スパイン】を裏側で特殊召喚するよ。

 そして、そのままボクは【アリジバク】を通常召喚」

 

 アリジバク

 レベル3/ATK1500

 

「あ、【アリジバク】……?なんだそのモンスターは……?」

 

 ドクロ模様の描かれたアリが、フィールドに出現する。

 男は困惑した表情を浮かべているが……なにか嫌な気配を感じ取ったのか、その頬には冷や汗が伝っていた。

 

「伏せていた永続罠【星遺物の傀儡】を発動。

 裏側表示モンスターを表側守備表示に変更する。

 これにより、セットしていた【クローラー・スパイン】がリバースし、効果発動。

 フィールドのモンスター1体を破壊するよ」

 

「ッ!?【ガーゼット】を破壊するつもりかよぉ!

 クソがぁあよぉぉぉ!トラップ発動【威嚇する咆哮】ゥ!!

 このターン、テメェは攻撃宣言できねぇ!!例え【ガーゼット】が破壊されても俺は生き残るぞぉぉ!!」

 

 ほほう、攻撃そのものを封じてきたか。

 確かに攻撃宣言ができないなら、壁モンスターを破壊しても意味はないね。

 もっとも、ボクは最初から【ガーゼット】を破壊するつもりはないのだけれど。

 

「あははっ!悪いけど破壊するのは【ガーゼット】じゃないんだ。

 ボクは【アリジバク】を破壊するよ!」

 

「自分のモンスターを破壊しただとぉ!?」

 

 ボクの行動に、チンピラは目を丸くする。

 そりゃそうか。普通なら自分のモンスターを破壊したところでなんの意味もない。

 ただし、それは普通ならの話だ。

 

「さぁ!破壊された【アリジバク】の効果発動だよ!

 このカードが戦闘・効果で破壊され、墓地へ送られた場合、相(・)手(・)プ(・)レ(・)イ(・)ヤ(・)ー(・)に(・)1(・)0(・)0(・)0(・)ポ(・)イ(・)ン(・)ト(・)の(・)ダ(・)メ(・)ー(・)ジ(・)を(・)与(・)え(・)る(・)!」

 

「は、はあぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 確かに【威嚇する咆哮】なら、モンスターの攻撃で死ぬことはない。

 しかし、効果ダメージは話が別だ。

 そしてチンピラのライフは丁度1000。ジャストキルだ。

 

「あぁ、そっか、【アリジバク】なら、確かに、30秒、だね。

 リバース、させても、効果が、発動するし」

 

「そうそう。本来なら【アリジバク】をセットして【星遺物の傀儡】でリバース効果を発動させて爆殺するつもりだったよ。

 たまたまいいカードが引けたから、こっちのプランに変更したけど」

 

 実は【アリジバク】にはもうひとつ、リバース効果がある。

 その効果とは、リバースした場合にお互いのプレイヤーに1000ポイントのダメージを与えるというものだ。

 こっちを狙っても良かったが、これだと自分まで爆発に巻き込まれてしまうからね。

 だから、破壊時に発動するバーンダメージのほうでぶっ殺せて本当に良かったよ。

 

 

「さて、それじゃあ死のうねぇ!【アリジバク】の効果でダメージを─────」

 

「ま、待て!待てよぉ!!」

 

 【アリジバク】を爆発させようとしたところで、チンピラが待ったをかける。

 当然無視して効果を発動させようとしたが、その前に男はペラペラと喋りだした。

 

「き、聞いたぞ!お前らはギャングに飼われてるクズ奴隷なんだろ!?人生大変だよなぁ!?だからよぉ手を組まねぇか!?」

 

「ちょっとなに言ってるか分かんないんだけど…………」

 

 なにが手を組まないかなのか。

 こんなカスと協力する意味も得もまったく分からないのだが。

 

「一緒に鳴金の連中から金を奪ってやろうぜ!!確かこの家にはひ(・)と(・)り(・)ガキがいるんだろ!?

 鳴金梨々華とか言ったか!?ソイツを人質に鳴金の旦那を脅しゃあ大金払ってくれるぞ!?」

 

「……………………」

 

「なぁ!お前も劣悪な環境で溜まってるだろ!?鳴金のガキを捕まえた際には使わせてやるからよぉ!!あのくらいのガキはピーピーうるせぇけどナカの締りはよくていいんだ!!きっとお前も気にいるぞ!!」

 

「……………………………………」

 

「だから!なっ!俺と一緒に気持ちよく金を稼ごうぜ!?」

 

 男が媚びるように笑って、手を伸ばしてくる。

 

「あははっ!なるほどなぁ────」

 

「ふふっ。そっか────」

 

 

 

 

「「────死ねよクソ野郎」」

 

 

 

 

 生かす理由はなんにもない。

 ボクは躊躇わず、【アリジバク】を起爆する。

 

「なんでだよおぉぉぉぉおおおぉぉぎゃぁあああぁあぁあぁぁあぁ!?!?」

 

 男の足元で、【アリジバク】が爆ぜる。

 真っ赤な爆炎が舞い上がり、轟音が男の悲鳴をかき消した。

 血と肉は飛び散り、バラバラ。

 あとに残るのは、黒焦げの死体だけ。

 

「『なんで』、ねぇ。まず、梨々華ちゃんに危害を加える話をしたのが1つ」

 

 炭化した肉塊を眺めながら、呟く。

 

「あと、この家にいる子どもは、ふ(・)た(・)り(・)だからさ」

 

 呟いた言葉は、宙に舞って溶ける。

 炭化死体は、当然なんの反応も返さず、ただ死んでいた。

 

 

 チンピラ

 LP:1000→0

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして面倒くさそうなチンピラ共を物言わぬ死体となり、屋敷裏のガレージに静寂が訪れる。

 

「いやぁ、デュエル中に銃撃ってくるヤツは久々だったね。

 怖いし胸ポケットにカード入れとこ」

 

 最近はデュエルタクティスではなく凶器で殴りかかってくるデュエリストと当たってなかったものだから、ちょっと油断していた。

 裏デュエル界にはこういうデュエリストの誇りもクソもない連中が稀にいるし、もっと用心しておくべきだったかも。

 

「…………で、殺那?まだ落ち着かない?」

 

「んー…………」

 

 後ろに抱きついている殺那が生返事を返す。

 チンピラ共をぶち殺してから数分。未だに彼女は、ボクから離れようとしない。

 

「廻理くんと、一緒に、殺ったの、久々、だから…………上がり、すぎた。

 熱いの、全然、収まらない……♡」

 

 気だるげに顔を背中に埋めて答えてくる。

 

「………………廻理くんの、ほしい」

 

「えー……殺那加減できる?」

 

「………………………頑張る」

 

「仕方ないなぁ」

 

 お腹に回された手を解いて、振り返る。

 丁度、殺那と向き合うようなカタチになれば、もぞもぞと身悶えしている彼女がよく見えた。

 

「んっと、ちょっと待ってね」

 

 言いながら、シャツのボタンを上から3つ、外す。

 そのまま襟元をぐいっ、と引っ張って、左肩を晒してみせる。

 

「はっ……♡はぁ…っ♡ぁは……♡廻理、くん……♡」

 

 そうしてみせれば、彼女は涎を垂らして、爛々と目を輝かせた。

 飢えた獣か発情した犬のように息を吐く殺那は、今にも飛びかかってきそうだった。

 

「はい、どうぞ。食べなよ」

 

「っ…………♡」

 

 ボクの許しを得れば、彼女は跳ねるように飛び込んで、肩に顔を近づける。

 そのまま殺那は躊躇いなく、目の前の肉に歯を突き立てた。

 

「んっ♡ぁあ……♡」

 

 小さく、嬌声が漏れる。

 それと同時に左肩に痛みと、生暖かい感触が走った。

 

「れぇ……♡んぁ…………♡じゅじゅ…♡んぐっ♡ちゅっ♡」

 

 柔らかい舌が、傷口を何度も舐める。

 溢れ出た血を啜り喉をならしては、もっともっとと噛みつけてくる。

 

(ホント、難儀な性癖だね…………)

 

 一心不乱に血と快楽を貪る殺那を見て、思う。

 

 彼女は加虐を求めずにはいられない、血を求めずにはいられない。

 他者を傷つけることでしか生きられないソレは、人から堕ちた『獣』と呼ぶに相応しいだろう。

 

 『少女』から『獣』に堕ちてしまったモノ。

 数多の不幸により、心が壊れた子どもの成れの果て。

 そして今もなお、血と死の裏デュエル界で、暴力の悦楽に溺れる少女。

 

(…………ま、今が幸せなら、それでいいや)

 

 哀れみなんて必要ない。

 そりゃ彼女はマトモじゃないけど、マトモじゃないが故に、殺那は気持ちよさを手に入れた。

 破綻していても、快感は快感で、幸福は幸福だ。

 だったら、殺那の“現在(いま)”を哀れむのも違うだろう。

 

 ────殺那が、“現在”に納得している間は、ね。

 

「よしよし、たんと召し上げれー」

 

 血の味に酔っている彼女に笑いかけ、左手で優しく背中をさすって、右手で薄紅色の髪を梳く。

 

「んぅ………♡」

 

 頭を撫でるように髪を梳かせば、殺那は心地よさそうに喉を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 そうして仲良くくっついて、血を貪られること十数分。

 ようやく落ち着いたのか、殺那が肩から唇を離す。

 

「ありがと、ね。廻理くん。気持ち、よかった、よ……♡」

 

 殺那が指先を口元に添えてはにかむ。

 その顔は先程もよりも少しすっきりとしているように見えた。

 

「それは良かった。もう落ち着いたかな?」

 

「んー…………まだ、ちょっと、熱い。

 あとで、一発、ヌいて、くる」

 

「部屋でやんないでよ?ベニアちゃんに見られたときが地獄だから」

 

「やらない、よ。私も、それくらい、わきまえてる、から」

 

 それは良かった。

 そう思うのとほぼ同時に、殺那が「あぁ、そうだ」と、なにか思いついたような顔をする。

 

「ねぇ────廻理くんの、全部、食べて、いい?」

 

 また、淫靡な獣の顔を覗かせて、誘うように囁いてくる。

 破滅への誘い。甘美な響き。

 貪欲に、甘ったるく、腹を空かせた獣が手招きをする。

 そんな殺那に、ボクは…………

 

「やだよ」

 

 舌を出して、一蹴した。

 

 だって乗ったら殺那の胃袋に収まるハメになるからね。

 流石のボクも、まだまだ死にたくはないのさ。

 

「むぅー…………残念」

 

「あははっ!別に殺那に殺されるのはいいけどさぁ────ボクを殺したら、泣くでしょ?」

 

 だから、殺那は難儀なのだ。

 殺す快楽は、殺す悲しみを打ち消してくれないのだから。

 

「…………ふふっ。廻理くんの、そういうところ、好きだなぁ」

 

「ボクも殺那のことは好きだよ」

 

 じゃなきゃ7年も親友をやっていない。

 じゃなきゃ食べられてもいいなんて思わない。

 

「いつか幸せになりたくなったら、ボクを殺させてあげるよ」

 

「っ…………♡」

 

 まー、死にたくはないけど、殺那に喰い殺されるならいいや。

 それで彼女が喜ぶなら、それはとってもイイコトじゃないか。

 

「あっ!でもまだ待ってね!ベニアちゃんの『居場所』を作ったりとか、色々果たさなきゃいけない責任があるからさ!」

 

「…………ふふっ、分かってる、よ。私も、まだ、色々、踏ん切り、つかない、から。

 それと、そういうムーブ、あんまり、しないほうが、いい、よ?」

 

「????????」

 

 首を傾げてみれば、殺那はクスリと笑った。

 

「分かんない、なら、いいや。じゃあ、私は、オナってくる、けど…………廻理くんは、この後、どうする?」

 

「ボクはこの死体を片付けとくよ。人に見られると面倒でしょ?」

 

 特に、梨々華ちゃんには見せたくない。

 彼女は結局のところ一般人なのだ。

 惨殺死体なんて、見せないに越したことはないだろう。

 

「遺棄場所に、アテ、ある?」

 

「あははっ。丁度お屋敷にあるじゃん?誰も全貌を知らない迷宮がさ」

 

 とりあえず、あの地下迷宮の奥の方に棄てとけばバレないだろう。

 どうせボクらくらいしか迷宮には行かないのだ。

 要するに、死体が見つかって大変な事になる人が、あの迷宮にはいないわけで。

 

「了解、だよ。私も、手伝った、ほうが、いい?」

 

「いやぁ、いいよ。ボクだけで棄てられるし」

 

 言いながらデュエルディスクにカードを置く。

 するとどこからともなく、黒いスーツに身を包んだヒーロー……【シャインブラック】が現れて、死体を担ぎ上げていった。

 こういうとき、サイコデュエリストは便利でいい。

 

「そういうわけだから、殺那はゆっくりしてなよ。まだちょっとキツそうだし」

 

「ん………じゃあ、ごめんけど、よろしく、ね?」

 

「あーい、上手いことやっとくよ」

 

 軽く手を振って、殺那と別れる。

 さてと、それじゃ後片付けといきますか。

 

 ひとつ伸びをして、地下のある物置へと向かう。

 

 そのとき視界に入った空は、徐々に夜の色に染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 熱の残った身体を抱えて、私は──兎ノ宮殺那は、歩く。

 足を進める脳が反芻するのは、廻理くんのこと。

 

 廻理くん。

 遊針廻理。

 私の友達。

 私が最も気を許してる、男の子。

 あるいは、この世で最も、私を理解してくれる、人。

 

「ふふっ、ふふふっ…………ふふっ……♡」

 

 ニヤけるのが止まらない、収まらない。

 嬉しくてたまらない、喜ばしくて仕方がない。

 

 だってそうでしょ?

 『ボクを殺させてあげる』、なんて。

 

 普通、言えないよ。

 そんなこと、本心から言えるわけないよ。

 

 でもね、廻理くんは言うの。

 言えるの。

 言ってくれるの。

 

 廻理くんだけが唯一、私に殺されることを受け入れてくれるの。

 

「あはぁ……♡嬉しいよ、ね……嬉しい、よ……♡」

 

 嬉しい、嬉しい、嬉しい。

 そう言ってくれるのが、嬉しくてたまらない。

 

 殺させてくれるって、命をくれるって、もうそんなの、『愛』だよ

 それって、私のために、私の快楽のために、惨たらしく死んでくれるってことだもん。

 じゃあもう、愛としか言えないよ。

 

(お母さんとお父さんも、ここまで私を愛してはくれなかったなぁ…………

 ………ふふっ。なんて比べるのも、天国のふたりに悪いかな)

 

 あまりに馬鹿馬鹿しい考えに笑ってしまう。

 まったくもって、私は親不孝な娘だ。

 けど、そう思ってしまうのは、本当で。

 

 私が求めているのは、きっと堕落だ。

 底なしの快楽で馬鹿になりたい。

 極上の悦楽に溺れていたい。

 そして、そんな堕落に付き合ってくれるのは、廻理くんしかいない。

 

(……ううん。一緒に堕落したいのが、廻理くんしかいない、のかな?)

 

 正直、その辺りのことは分かんない。

 でも、廻理くんと一緒にいると楽しいし、廻理くんは美味しいから、それでいいの。

 

「んっ…………♡」

 

 口の中にまだ、廻理くんの血の味が残ってる。

 鉄の味。しょっぱくて、美味しくて、私の好きな彼の味。

 その残滓を舌で転がして、ごくんと飲み込めば、それだけで下腹部が熱く疼いた。

 

「ぁは……♡ふふっ♡死んだら、悲しい、けど…………いつか、食べたいなぁ……廻理くん…♡」

 

 頭の中で思い描くのは、廻理くんを殺している私の姿。

 爪で皮膚をえぐり取って、欲望のままに彼を喰いちぎりたい。

 吹き出す血を浴びて、彼の味に酔いしれたい。

 肉をほじくり返し、大事に収められた彼の臓物を貪り狂いたい。

 あぁ、その間はずっと、廻理くんに優しく抱きしめられてるといいなぁ♡

 

 脳が痺れる。

 濡れてるのが分かる。

 セックスなんかよりよっぽど気持ちよさそうな加虐(情事)が、頭蓋の内側で描かれていく。

 

(そういえば、私は廻理くんのことが好きなのかな……?)

 

 ふと思う。

 好き。

 うん、私は廻理くんが好き。

 

 でも、それは恋人とか、そういう“好き”じゃない。

 廻理くんも、私と恋仲になりたいなんて思ってない。

 だから良いの。だから、私は廻理くんが好きなんだから。

 

 というか、恋なんて安っぽい言葉じゃ表せないよ。

 きっと、もっと、深い繋がりなんだから。

 私が抱いている感情は、もっともっと強い、信頼なんだから。

 

「じゃあ、やっぱり、『親友』が、一番、かなぁ……♡」

 

 考えを口にしてみれば、それは驚くほどに私に馴染んだ。

 うん、やっぱり親友だ。

 それが一番、心地が良いし、気持ちがいい。

 

 ふふっ。そういうのを抜きにしても、廻理くんと馬鹿やるのは楽しいしね。

 本当に廻理くんと出会えたのは、このクソみたいな人生で最高の幸福だった。

 

「あーあ、廻理くんと、もっと早く、出会えれば、人生、マシだったのに、ね?」

 

 自嘲気味に呟く。

 彼が傍にいてくれれば、私は無垢な少女のままでいられたかもしれないのに。

 なんて今更、そんなの無意味なのにね。

 

「あ、もう、夜だね…………」

 

 いつの間にか、辺りは徐々に暗くなっていた。

 見上げればそこには、薄い闇が覆う空が広がっている。

 

 廻理くんも、この空を見ているかな。

 見ていたら、なんだか、いいなぁ。

 

 そんなことを思いながら、私は茹でった身体を冷ますように、しばらく夜空を眺めていた。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

次回の投稿は少し遅れます……!
できれば10~14日以内に投稿したいと考えているので、頑張ります!
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