※この作品はR-18です。

遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻   作:胡麻野すり子

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第17話 貧乏くじ選手権

 鳴金家の奥様のお話は、梨々華ちゃんからちょろっと聞いていた。

 数時間前、ベニアちゃんと部屋にカチコミした際に話してくれたのを覚えている。

 

『お母様は、とても優しい人だった』

 

 梨々華ちゃんは柔和に笑って、自らの母親をそう評した。

 

 鳴金 美天(なりがね みそら)。

 それが、鳴金梨々華の母親の名前。

 

 なんかいいとこのお嬢様で、家の仕来(しきた)りだか事情だかで鳴金雄太郎に嫁いだ女性。

 愛のない結婚の果てに、梨々華ちゃんを産み落とした人。

 

 その人は、よく出来た人だったそうだ。

 美天さんは、娘である梨々華ちゃんは勿論のこと、夫の浮気相手の子である葛さんにも変わらぬ愛を注いだ。

 実の娘であるかのように、葛さんを愛していた。

 

 善人。

 たぶん、そういう類いの素敵な人だったのだろう。

 

「それが死体になってるんだから世の中やるせないよ……!」

 

 暗い地下迷宮にて対峙した死体に、愚痴を零す。

 そこにあるのは、梨々華ちゃんの失踪した母親の成れ果て。

 鳴金美天の動く屍が、淡々とカードを操っていた。

 

「永続魔法……【昇華する魂】を…発動」

 

 冷たい声が響く。

 意志もなにもない、ただの宣言だ。

 

「梨々華さんのお母さん……!?な、なんでここに……しかも死んでるじゃないですか!?」

 

 ベニアちゃんが動揺しきった様子を見せる。

 現れた女性の正体。

 そして、その状(・)態(・)に狼狽していた。

 

「……鳴金美天は失踪していた。いや、とっくに死んでたんだよ」

 

 梨々華ちゃん曰く、美天さんは1年くらい前から忽然と姿を消していたそうだ。

 姿が見えないということは、生きているということじゃない。

 悲しいことに、失踪者の大半はとっくの昔に死んでいるものなのだ。

 

 美天さんもまた、例外じゃなかった。

 彼女は姿がなくなっていただけで、死亡していたのだ。

 

「美天さんは死んでて、そして何者かによって地下に運び込まれ、操り人形にされてるんだ」

 

「そんな……!」

 

 失踪したと聞いた段階で彼女の死は想定していた。

 だが、こんな場所で、こんな風に出会うとは想定していなかった。

 

「一体誰がそんなことを……!?まさか、葛さんが……!?」

 

「ううん、たぶん葛さんじゃない。彼女には、美天さんを殺すメリットがない」

 

 梨々華ちゃんの話では、美天さんは葛さんを娘のように可愛がっていたそうだ。

 無償の愛をくれる優しい大人を、はたして殺す意味があるだろうか?

 事実、美天さんが失踪したことで、葛さんの虐待は始まった。

 鳴金美天の失踪死は、鳴金葛に多大なデメリットをもたらしたのだ。

 

「『誰が』『なんのために』『なにをしているのか』……疑問ではあるけど、今はそれどころじゃなさそうだね……!」

 

 誰が美天さんを殺して、失踪させたのか?

 誰が今、美天さんを操っているのか?

 そしてそれらの行動は、なんのために行われているのか?

 

 謎は尽きない。

 だが、正解に辿り着くことは現時点では不可能だ。

 

 そしてなにより────

 

「儀式魔法…【原初の叫喚】を、発動……」

 

 なにより、考えている場合じゃない。

 

「儀式召喚……!来るか!」

 

 目の前の相手は、本気で殺しに来ている。

 そういう動き、そういうデュエルだ。

 余計なことを考えている場合じゃない。

 

「手札の、【サイバー・エンジェル─弁天】と……フィールドの【サイバー・エッグ・エンジェル】を……リリースし、【輝神鳥ヴェーヌ】を、儀式召喚」

 

 輝神鳥ヴェーヌ

 レベル8/ATK2800

 

 舞い降りたのは、金色の翼を広げた、美しい神鳥。

 天使のごとく神々しいそれを、死体が操っている。

 あぁ、クソ。心底悪趣味だな。

 

「……リリースされた…【弁天】の効果で、デッキから【サイバー・エンジェル─韋駄天】を手札に加える。

 そして……永続魔法【昇華する魂】の、効果で……リリースされた【弁天】を手札に……戻す」

 

「回収してきたか……!そりゃ一回の儀式召喚じゃ終わらないよね……!」

 

 彼女の手札には、リリースできるモンスターと、儀式魔法がある。

 まだまだ展開は終わらない。

 その予想通り、虚ろな彼女はカードを発動させた。

 

「【機械天使の儀式】を……発動。手札の、【弁天】をリリースし……【韋駄天】を…儀式召喚」

 

 サイバー・エンジェル─韋駄天

 レベル6/ATK1600

 

 次いで現れるのは、桃色の身体に扇情的な衣装を纏った女神。

 それを見て、まだ展開は終わらないことを悟る。

 

「儀式召喚された…【韋駄天】の効果でデッキから…2枚目の【機械天使の儀式】を、手札に。

 再びリリースされた……【弁天】の、効果で……デッキから【サイバー・エンジェル─那沙帝弥】を手札に。

 そして……【輝神鳥ヴェーヌ】の効果、発動。1ターンに、1度……自分の手札、フィールドのモンスターがリリースされた場合……そのモンスターを手札に、加える」

 

 これでまた、儀式魔法とリリース要員が揃った。

 だからまた、彼女の手が動き始める。

 

「……【機械天使の儀式】を、発動。

 【弁天】をリリースし……【那沙帝弥】を儀式召喚」

 

 サイバー・エンジェル─那沙帝弥

 レベル5/ATK1000

 

 下半身が馬になっている4本腕の女神が降臨する。

 半人半馬の天使は、前足を一度持ち上げて、威嚇するように手にした鞭を振るって見せた。

 

「リリースされた、【弁天】の効果で……【サイバー・エンジェル─荼吉尼】を手札に、加える。

 さらに……【那沙帝弥】の、効果発動。自分フィールドのモンスターの、攻撃力の半分だけ……ライフを、回復する。

 ……【輝神鳥ヴェーヌ】の攻撃力の、半分……1400ポイント、ライフを回復する」

 

 美天(死体)

 LP4000→5400

 

 ライフを回復した、か。

 死んだ人間が命(ライフ)を回復する。

 それはどうにも、皮肉めいた光景だった。

 

「手札から……【儀式の準備】を発動し……デッキから、2枚目の【弁天】と…墓地の【機械天使の儀式】を…手札に。

 そのまま、【機械天使の儀式】を、発動。手札の【弁天】と…フィールドの【那沙帝弥】をリリースし、【荼吉尼】を…儀式召喚」

 

 サイバー・エンジェル─荼吉尼

 レベル8/2700

 

 【荼吉尼】か。

 2対4本の腕を持つ、武の機械天使。

 そういや梨々華ちゃんも、こんな風に使ってたっけな。

 

「なにが嫌で梨々華ちゃんのお母さんの死体とデュエルしなきゃいけないのさぁ……」

 

 気づけば、ポロリとそんな言葉が口から出ていた。

 勘弁して欲しい。

 

 あぁ、目の前にあるのは、ただの死体だ。

 そこに命があるわけじゃない。

 壊したところで死体遺棄か器物損壊くらいの罪しか加算されないだろう。

 

 だが、これはそういう問題じゃあない。

 

「死んでるからってなにしてもいいわけじゃないんだよ」

 

 そう、確かに彼女はもう死んでいる。

 だからといって、凪いだ心でいられるかと言ったらノーだ。

 

 もしも、美天さんの今を知ったら、梨々華ちゃんは悲しむだろう。

 そりゃそうだ。優しいお母さんが死んでて、誰かの操り人形にされているんだから。

 ショックを受けるなというのは無理な話だろう。

 

(じゃあ、壊すか?)

 

 今行われているのは、美天さんの尊厳を侮辱する行為だ。

 彼女の眠りを妨げていると言ってもいい。

 ならば、二度と動いてしまわないように、美天さんの死体は破壊したほうがいいだろう。

 

(でも、壊したら……梨々華ちゃんは絶対傷つくだろうな)

 

 “キミのお母さんは動く死体になってたから、二度と動かないようにぶっ壊したよ!”

 普通の少女は、そんなことを言われても喜ばない。

 それどころか、彼女の心に大きな傷を残してしまうかもしれない。

 

 だから困ってる。

 顔を手で覆って、大きくため息をついた。

 

「美天さんの死体を壊したら、梨々華ちゃんは悲しむ。

 けど、壊しておかないと絶対にダメ」

 

 ここで美天さんの死体を破壊しておかなければ、コイツはまたボクらに襲いかかってくる。

 死体は、命がないが故に死んでくれない。死んでるから、止まってくれない。

 だから、破壊が必要になる。

 

「…………マジでクソじゃんかさぁ」

 

「廻理さん…………」

 

 ベニアちゃんが心配そうにしてくれる。

 彼女も、この状況がどういったものかは理解しているのだろう。

 

 壊すのもクソ。放っておくのもクソ。

 どっちの選択肢もろくなもんじゃない。

 

「あ~~~~~~~~…………」

 

 天を見上げてみる。

 なんの面白みもない、石造りの天井があった。

 

「……壊そ」

 

 まぁ、そうするしかないもんなぁ……

 当然、気乗りはしないけどね。

 

 だが、どっちもクソなら、まだマシなクソを選ぶ。

 遊針廻理流の処世術というやつだ。

 

 それに、結局は誰かがやらないといけないことだ。

 まったく、ベニアちゃんと一緒に戦わなくってよかった。

 彼女にこんなことはさせなくないからね。

 

「……あはっ!あははっ!あはははは!!マジ許さんからねコンチクショウ!!」

 

 せめてテンションだけは上げたくて、ヤケクソ気味に笑ってみせる。

 クソッタレ!あぁやってやるよクソが!

 

「か、廻理さん!?ついに頭がおかしくなりましたか!?」

 

「正気だよベニアちゃん!嫌なことをちょっとでも楽しいと思い込もうとしているだけさ!」

 

 正直、美天さんの死体をぶち壊すのは、すっごい嫌だ。

 だってそれは、善良で優しくて子どもに愛し愛されていた親に違いはないのだから。

 

 けど、やんなきゃなんだよな。

 だから笑って、勢い任せにやってしまいたい。

 ここでの迷いや躊躇いは、邪魔でしかない。

 

「なるほどです!…………まあ、元からそんなマトモそうじゃなかったですしね」

 

「あははっ…………………………えっ?」

 

 今ぼそっと酷いこと言わなかった?

 咄嗟にベニアちゃんの方を向けば、彼女はさっと目をそらした。

 

「……【荼吉尼】の、効果……発動」

 

「おっと、ショックを受けてる場合じゃなかったねぇ!」

 

 美天さんに向き直れば、彼女は今まさにモンスターの効果を発動させようとしていた。

 

「【荼吉尼】の儀式召喚成功時……相手は、モンスター1体を…墓地へ送らなければ、ならない。

 よって、そのセットモンスターを……墓地へ送る」

 

「だったらトラップ発動!永続罠【星遺物の傀儡】!

 これにより、自分フィールドの裏側表示モンスターを表側守備表示変更するよ!

 そしてリバースしたセットモンスター、【クローラー・スパイン】の効果を発動!

 フィールドのモンスター1体を破壊する!ボクは【荼吉尼】を破壊するよ!」

 

 【荼吉尼】が手にした薙刀を構える。

 それと同時に、潜伏していた【スパイン】が飛びかかる。

 

「……墓地の、【機械天使の儀式】の…効果発動。

 このカードを…除外し、【荼吉尼】の破壊を無効にする」

 

 相打ち覚悟で特攻した【スパイン】が、虚しく斬り捨てられる。

 残念無念、機械天使に傷をつけることは叶わなかった。

 

「あははっ!問題ないね!」

 

 そう、なにも問題はない。

 すべてはボクの思い通りだ。

 

「【スパイン】のもう1つの効果発動!

 表側表示のこのカードが相手の効果により墓地へ送られた場合、デッキから【クローラー】2体をデッキから裏側表示で特殊召喚する!

 【クローラー・デンドライト】と【クローラー・アクソン】を裏側表示で特殊召喚するよ!」

 

 怪蟲はただでは死んでくれない。

 【スパイン】が両断されたのを合図に、さらに2体の怪蟲が現れる。

 ……もっとも、その姿は闇に隠れて見えないけれどね。

 

「さて、モンスターが増えちゃったわけだけど、キミはどうするかな?」

 

「……墓地の【那沙帝弥】の…効果を発動。墓地の【弁天】を、除外し……【那沙帝弥】を蘇生」

 

 【那沙帝弥】は墓地に存在する場合、自分の墓地の【サイバー・エンジェル】1体を除外して蘇生することができる。

 ちなみにこの効果にターン制限はない。

 墓地に【サイバー・エンジェル】がいれば、【那沙帝弥】は無限に戻って来れる。

 

(厄介だなぁ…………しかも、【那沙帝弥】のこの効果には続きがあったっけ)

 

 確か、“相手フィールドのモンスター1体を対象とし、そのモンスターのコントロールを奪う”だったっけ。

 わぁ、最悪。

 

「さらに、相手のモンスター1体の……コントロールを、奪う。

 右側の、セットモンスターを……選択」

 

「えぇ!?コントロール奪取ですって!?」

 

 横で見ていたベニアちゃんが驚愕する。

 自己蘇生に加えてコントロール奪取と来たものだ。

 インチキ効果もいい加減にして欲しいね。

 

「流石にそれは困るのでリバースカード発動!【W(ダブル)星雲隕石】!

 フィールド上の裏側表示モンスターを全て、表側守備表示に変更する!

 そしてこれにより、【デンドライト】と【アクソン】の効果が発動!」

 

 潜んでいた2匹の怪蟲が、活動を開始する。

 

「まずは【アクソン】の効果から!リバース時にフィールドの魔法・罠を破壊する!

 ボクは貴方のフィールドの【昇華する魂】を破壊するよ!」

 

 二本足で這う怪蟲──【アクソン】が、魔法を壊す。

 助かる。【昇華する魂】を残してると、毎ターン儀式素材をサルベージされちゃうからね。

 

「そんでもって【デンドライト】の効果発動!デッキからモンスター1体を墓地へ送る!

 そして墓地へ送った2枚目の【ゴキポール】の効果発動!

 デッキからレベル4昆虫族【シャインブラック】を手札に加え、そのまま特殊召喚!

 さらに、その攻撃力以上の攻撃力を持つモンスター1体を破壊する!

 今度こそ【荼吉尼】には死んでもらおうかな!」

 

 闇の中から、黒いなにかが飛翔した。

 それは、黒一色のスーツに身を包んだ、害虫のヒーロー。

 

『ハアァァァァァァァァァァァァッ!!』

 

 叫び声を上げながら、【シャインブラック】が【荼吉尼】へ向けて渾身の飛び蹴りを放つ。

 

「墓地にある…2枚目の【機械天使の儀式】の、効果を発動。

 このカードを、除外し…効果破壊を…………無効にする」

 

 迫る漆黒のキックを、白銀の刃が受け止める。

 ガキンッ、と硬い音と共に、真っ赤な火花が飛び散った。

 

『…………クッ!』

 

 【シャインブラック】が宙を翻り、ボクの元へ着地する。

 ヒーロー対天使、今回の戦いは引き分けで終わったようだ。

 

「惜しかったね、【シャインブラック】。でも無駄じゃないから、安心して」

 

『……グッ!』

 

 黒いヒーローはこくりと頷き、親指を立てる。

 【荼吉尼】を破壊することはできなかった。

 だが、2回のトライにより、美天さんの墓地から【機械天使の儀式】は全て消えた。

 これでもう、破壊が防がれることはない。

 

「そちらの効果処理が終了し、【那沙帝弥】の効果で……【アクソン】のコントロールを、得る」

 

 【那沙帝弥】が鞭を振るい、【アクソン】の身体を絡め取る。

 そのまま鞭を引き寄せれば、怪蟲は天使に囚われてしまった。

 

「寝取られとかやめて貰いたいね」

 

「【那沙帝弥】の、効果発動……【ヴェーヌ】の攻撃力の半分…ライフを回復する」

 

 肩をすくめて冗談を言ってみたが、美天さんは無視して【那沙帝弥】の効果を発動させた。

 

 美天(死体)

 LP5400→6800

 

 どんどんライフが回復していく。

 あんまり好ましい感じではないな。

 まぁ【エンシェント・ホーリー・ワイバーン】とか【アロマ】とかが出てこないならいいけど。

 

「バトルフェイズ……【輝神鳥ヴェーヌ】で、【シャインブラック】を…攻撃」

 

「仕掛けてきたか……!」

 

 【ヴェーヌ】が輝く翼を羽ばたかせ、【シャインブラック】に突っ込んでくる。

 そのまま【シャインブラック】ごと、その嘴でボクを貫くつもりだろう。

 

「そう簡単にはやらせないさ!トラップ発動、【メタバース】!

 デッキからフィールド魔法【G・ボールパーク】を発動するよ!

 そして【G・ボールパーク】は、1ターンに1度戦闘ダメージを無効化にできる!」

 

 これで、この戦闘でボクがダメージを受けることはなくなった。

 だが……【シャインブラック】の破壊は、免れない。

 

「……ごめん、【シャインブラック】」

 

『グッ!』

 

 謝罪に対して、黒いヒーローは力強くサムズアップして見せる。

 それはまるで、『気にするな』と言うかのようで。

 

『──ハァァッ!!』

 

 【シャインブラック】が、向かい来る神の鳥に、全力の拳を繰り出す。

 当然、そんなもので勢いを殺せるはずはない。

 嘴に穿たれ、漆黒のヒーローは粉々に砕け散った。

 

 だが、ボクに傷はない。

 【シャインブラック】の最期の抵抗により、【ヴェーヌ】の軌道が逸れたからだ。

 

「やっぱ、ヒーローって感じだね……!さぁ、こっからは仇討ちだ!

 【G・ボールパーク】の効果発動!戦闘ダメージを0にし、デッキからレベル4以下の昆虫族を墓地へ送る!

 さらにこの効果で墓地に送ったのが通常モンスターの場合、その同名モンスターを手札・墓地・デッキから好きなだけ特殊召喚できる!

 ボクはレベル2通常モンスター【ガニグモ】を墓地へ送り、デッキから2体の同名モンスターを特殊召喚するよ!」

 

 ガニグモ

 レベル2/DEF800

 

 【シャインブラック】と入れ替わるようにして現れたのは、蟹と蜘蛛が合体したようなモンスター。

 蜘蛛の腹と頭、ただし腕は蟹のモノ。

 そんな謎の組み合わせのキメラみたいな虫(甲殻類?)が、カチカチとハサミを鳴らす。

 

「ガ、【ガニグモ】…………?えっ、なんですそのカード……???」

 

 【ガニグモ】を初めて見たのだろう。

 ベニアちゃんがメッチャ困惑している。

 それもそうだろう、こんなカード使ってるやつは普通いない。

 しかもビジュアルが意味不明すぎる。

 ボクだって最初に見つけたときは首を傾げたものだ。

 

「【ガニグモ】だよ…………まぁ、今は【ガニグモ】はいいや。

 【シャインブラック】が破壊されたことで【大樹海】の効果が発動。

 昆虫族が破壊された時、そのモンスターと同レベルの昆虫族をデッキからサーチできる。

 これによりレベル4の【未界域のモスマン】を手札に加えるよ」

 

 どこかからか虫が飛んできて、カードを持ってきてくれる。

 ありがとうね。運んでくれた虫にお礼を言って、カードを受け取る。

 

「……【荼吉尼】で、【ガニグモ】を……攻撃」

 

 神鳥に続けて、機械天使が襲いくる。

 

「【荼吉尼】がいる限り……自分の儀式モンスターが、守備表示モンスターを…攻撃した場合、その守備力を超えた分……ダメージを、与える」

 

「げぇ!守備貫通とかやめてよ!」

 

 【荼吉尼】が獲物を構えて仕掛けてくる。

 えーと、【ガニグモ】の守備力は800で、【荼吉尼】の攻撃力は2700か。

 ふむふむ、通したらかなり痛いな。

 

「守備貫通にいい思い出はないからねぇ!トラップ発動!【ライヤー・ワイヤー】!

 自分の墓地の昆虫族1体を除外し、相手フィールドのモンスターを破壊する!

 墓地の【スパイン】を除外して、【荼吉尼】を破壊だよ!」

 

 突撃してくる【荼吉尼】に、蜘蛛糸の網がかけられる。

 蜘蛛の糸は天使の身体にへばり付き、その肢体を縛り上げた。

 

『ッ!?ア……アァ……!!』

 

 【荼吉尼】は手にした剣や長刀で糸を切ろうとするが、蜘蛛の糸に絡まって上手く動けないようだった。

 それどころか、動けば動くだけ糸は絡みつき、天使から自由を奪っていく。

 

『アァァ……ガッ!?ギ、ィ……!?』

 

 糸が機械天使の肉体に余すことなく絡みつけば、やがて蜘蛛糸は【荼吉尼】を締め上げていく。

 白い糸がその青くみずみずしい肌に食い込めば、武天使は苦悶の声を漏らし始める。

 

『ァ、アァ……!?グゥ、ア、ァァ、アァ……!?』

 

 縛る糸は強く、強く、天使の身体に吸い付く。

 ギリギリと音を鳴らしながら、限界を越えて【荼吉尼】を圧縮する。

 例えるなら、ボンレスハム。

 肉がこぼれ落ちそうなほど糸に締められて、勇ましくも美しい女神のカタチが、変わっていく。

 

『ギ、グァ、ガ、ガガ…………ァ……ァ、ァ』

 

 カラン、と【荼吉尼】の手から武器が落ちる。

 剣を握ることも、もうできないらしい。

 そしてそれが、破壊の合図となった。

 

『ア、ァッ、アァ──ギャァアァァァッァァァアアァァァッァァァァァアアアァァッ!?!?』

 

 糸が、網が、機械天使を切り裂いた。

 いや、圧殺した。

 細い蜘蛛の糸の圧力で肉が切り裂かれ、【荼吉尼】が細切れになる。

 最早、原型はどこにもない。

 そこに転がっているのは、ぐちゃぐちゃになった赤いブロック状の肉塊だけだった。

 

「うわぁ…………エグい…」

 

「なんか予想以上に酷いやり方で破壊されちゃったな……」

 

 別にボクがオーダーしたわけじゃないんだが、えらく酷い死に方をしたなぁ。

 うーん、とりあえず【シャインブラック】の仇討ちはできたし、いっか!

 

「さぁて、【荼吉尼】が消えたことでボクにダメージを与える手段はなくなったわけだけど、まだやるかい?」

 

「…………【韋駄天】、【那沙帝弥】で…攻撃」

 

 美天さんが選んだのは、攻撃だった。

 モンスターを場に残しておくのは悪手だと判断したようだ。

 まぁ大正解だね。残っててくれたら大量リンクに繋げられたし。

 

「ありゃりゃ、【ガニグモ】が1体と、【デンドライト】が破壊されたか」

 

 【韋駄天】が疾駆し、【那沙帝弥】が鞭で切り裂く。

 それにより、2匹の虫が破壊されてしまった。

 

「ただじゃ死なないよ。【大樹海】の効果でデッキから【B・F─毒針のニードル】と【増殖するG】を手札に加えるよ」

 

 さらに2枚、カードが増える。

 虫はそう簡単には死なない。

 潰しても潰しても、どこからともなく湧いてくるものだ。

 

「…………バトルフェイズを終了し、エンドフェイズ。

 墓地の、【原初の叫喚】の…効果を発動。

 このカードを、除外し…墓地の、儀式モンスター……【荼吉尼】を蘇生。」

 

 淡い光が集まって、【荼吉尼】の姿を形作る。

 先程、蜘蛛の糸でバラバラになった機械天使が、ここに蘇った。

 

「これで……ターンエンド」

 

 

 美天

 LP:6800

 手札:2枚

 場:輝神鳥ヴェーヌ

   サイバー・エンジェル─韋駄天

   サイバー・エンジェル─那沙帝弥

   サイバー・エンジェル─荼吉尼

   クローラー・アクソン

 伏せ:なし

 

 

 美天さんのターンが終わる。

 改めて見てみれば、圧倒的な盤面だ。

 

 彼女の場にはモンスターが5体。

 しかもその内1体はボクのモンスター。

 

 でもって、こちらの場には【ガニグモ】1体だけ。

 ライフ差も大きく開いているし、ボクの状況は芳しくない。

 

(……なんてね?)

 

 口角が上がる。

 確かに、場だけを見れば劣勢だ。

 だけどこれくらい、いくらでも巻き返してみせるさ。

 

「あははっ!それではボクのターンだね!ドロー!」

 

 勢いよくドローする。

 引いたカードは……うん、いい感じだ。

 

 さて、ボクは先のターンでひとつ気づいたことがある。

 それは、鳴金美天の死体が、どのようにデュエルをしているか、だ。

 

 当然だが、死体は物を考えられない。

 本来なら重度の思考を要するデュエルなど、行えるはずがないのだ。

 だが目の前の彼女は、死んでいるにも関わらずデュエルをして見せている。

 

 誰かが遠隔操縦しているのか、AI的ななにかで勝手に動いているのかは分からない。

 ただ確かな事実として、彼女は思考しているし、判断している。

 なら、それを悪(・)用(・)し(・)た(・)や(・)り(・)方(・)というヤツが可能なわけだ。

 

「行くよ。手札の【未界域のモスマン】の効果を発動!

 自分の全ての手札から相手は1枚を選び、ボクはそのカードを捨てる。

 そしてそれが【未界域のモスマン】以外だった場合、手札から【未界域のモスマン】を特殊召喚してデッキから1枚ドローする!」

 

 手札をずい、と見せつける。

 

「ささ、選びなよ。大当たりが当たるといいね?」

 

「…………左から、2番目を…捨てる」

 

 美天さんは数秒迷った後、手札を1枚選ぶ。

 左から2番目、その1枚のカードが墓地へと落ちた。

 

「落ちたのは……残念!【毒針のニードル】だよ!

 【未界域のモスマン】以外だったため、手札から【モスマン】を特殊召喚して1枚ドローさせてもらうよ!」

 

 闇の中に、爛々と輝く赤い目が浮かび上がる。

 それは、蛾の羽を持つ、未確認生物。

 

 未界域のモスマン

 レベル4/ATK1800

 

「あははっ!ラッキーだねぇ!いやー、運が良かったみたい!」

 

 自分で言って思わず笑ってしまう。

 なにがラッキーだか。

 

 美天さんが左から2番目のカードを選んだのは、偶然じゃない。

 ボクが、そうなるように誘導した。

 

 なんてことはない、視線や仕草を用いた簡単な誘導だ。

 ちょっと腕の立つデュエリストなら誰だってできる。

 これが、相手の思考能力と判断を悪用したやり方というやつだ。

 

「では続きまして、【B・F─早撃ちのアルバレスト】を通常召喚し効果発動!

 自分の墓地のレベル3以下の昆虫族1体を守備表示で特殊召喚する!

 これにより墓地の【毒針のニードル】を特殊召喚!」

 

 B・F─早撃ちのアルバレスト

 レベル4/ATK1800

 

 B・F─毒針のニードル

 レベル2/チューナー/DEF800

 

「さらにさらに、特殊召喚された【毒針のニードル】の効果を発動!

 デッキから【B・F】モンスター、【必中のピン】を手札に加える!

 そして【必中のピン】は自分フィールドに昆虫族がいる場合、特殊召喚できる!

 おいで、【必中のピン】!」

 

 B・F─必中のピン

 レベル1/DEF300

 

「でもって【必中のピン】の効果を発動。

 メインフェイズ時に【必中のピン】の数かける200のダメージを与える。

 悪いけど、貴方を少し傷つけさせてもらうよ」

 

 【ピン】に合図を出せば、小さな蜂は高速で飛び回り、針で美天さんの頬を切った。

 

 美天

 LP:6800→6600

 

 横一文字に切り傷が走る。

 頬の傷口から、赤い肉の色が見えた。

 その断面図は人間のソレと同じ。

 けれど、その傷から血が流れることはない。

 

「ワンチャン生きてるかと思ったけど…………やっぱ死んでるかぁ」

 

 微粒子レベルの希望に賭けてみたが、現実は無情だった。

 目の前の女性は、バッチリ死んでいる。

 

「ちゃんと防腐処理(エンバーミング)してるところが腹立つなぁ……

 まぁいいや、【毒針のニードル】の効果発動。

 自分フィールドの昆虫族をリリースし、相手モンスター1体の効果を無効にする。

 【ピン】をリリースし、【那沙帝弥】の効果を無効化するよ」

 

 再びピンが飛んで、今度は【那沙帝弥】に突き刺さる。

 【那沙帝弥】にはある隠された効果がある。

 それは、自分の儀式モンスターが攻撃対象に選択された時、その攻撃を無効にするというもの。

 要するに【那沙帝弥】の効果が有効である限り、ボクは攻撃を通すことさえできないのだ。

 故に【ニードル】の効果を使い、【那沙帝弥】を無力化する必要があったわけである。

 

「あははっ!これでだいぶ楽になった!

 じゃあ────行くよ」

 

 天を、指差す。

 その先には、藍色の門が展開されていた。

 

「【ガニグモ】と【毒針のニードル】をリンクマーカーにセット!

 召喚条件は昆虫族モンスター2体!」

 

 甲殻蜘蛛と、革命蜂が、幾何学模様を描く藍色の門に飛び込む。

 それが呼び水となって、門の向こう側で新たなモンスターが目を覚ます。

 

「リンク召喚!リンク2!頼むよ、【甲虫装機(インゼクター) ピコファレーナ】!」

 

 甲虫装機 ピコファレーナ

 リンク2/リンクマーカー:左下 右下/ATK1000

 

 門の中から、黒いスーツを纏った女性が現れる。

 【ピコファレーナ】は、蛾を模した羽を揺らして、ボクに近づいてくる。

 

『Chu♡』

 

「ん、キミを使うのは久々だね。元気そうでなによりだよ」

 

 手足を絡めた【ピコファレーナ】が、ボクの頬にキスをしてくる。

 ただの挨拶みたいなものなので、特に気にはしない。

 

「はわわ…!か、廻理さん!キスされましたよ!?」

 

「あー……仲良しだからね?」

 

『うふふっ……』

 

 ベニアちゃんが顔を真赤にする。

 それを面白がって、【ピコファレーナ】がより一層ボクに密着してきた。

 

「もう。ベニアちゃんをからかうのはナシだよ。可愛い後輩だからさ。

 それより、キミの力を貸してもらっていいかな?」

 

 【ピコファレーナ】と目を合わせれば、彼女はこくりと頷いてくれた。

 

「【甲虫装機 ピコファレーナ】の効果発動。

 リンク召喚成功時、手札を1枚捨てて自分フィールドの昆虫族に、デッキの昆虫族を装備する。

 ボクは【未界域のモスマン】に、デッキの【ゴキポール】を装備するよ」

 

 【ピコファレーナ】が手にした桃色のリボンを揺らす。

 そのままリボンは、どこかからか虫……【ゴキポール】を搦め捕って、【モスマン】へと投げ渡した。

 

「ちなみに、この効果で装備される【ゴキポール】は、攻撃力・守備力500アップの装備カード扱いになるよ。

 よって、【モスマン】のステータスが500アップする」

 

 未界域のモスマン

 ATK1800→2300

 

「それと、【ピコファレーナ】の効果で墓地へ送った【シャドール・ビースト】の効果発動。

 【シャドール・ビースト】が効果で墓地へ送られた場合、デッキから1枚ドローする。

 さらに【ピコファレーナ】のもう1つの効果を発動。墓地の昆虫族3体……

 【ゴキポール】2枚と【ガニグモ】をデッキに戻して1枚ドロー」

 

 影の糸が、桃色のリボンが、それぞれカードを運んでくれる。

 できる限りの準備はした。

 あとは出たとこ勝負だ。

 

「さぁて、ショータイムだよ!

 バトルフェイズ!【未界域のモスマン】で【韋駄天】を攻撃!」

 

 【モスマン】が羽を震わせ、【韋駄天】に飛びかかる。

 現在の【モスマン】の攻撃力は2300で、【韋駄天】は1600。

 通れば美天さんのライフにそれなりのダメージが入るが…………

 

「手札の……【オネスト】の効果を、発動。このカードを…墓地へ送り、【韋駄天】の…攻撃力を、【モスマン】の攻撃力分、アップする」

 

「やっぱ使ってきたか……!」

 

 天使の加護を受けた【韋駄天】が、【モスマン】を返り討ちにする。

 【オネスト】は前のターンでサーチされていたカードだ。

 ここで使ってくるかは賭けだったが……使ってきたか。

 

「だったらダメージ計算時に【G・ボールパーク】の効果を発動!

 ボクが受けるダメージを0にし、デッキの【シャインブラック】を墓地へ送る!

 そしてデッキと墓地から同名カード2枚を特殊召喚するよ!」

 

 G戦隊 シャインブラック

 レベル4/ATK2000

 

 颯爽と2体の【シャインブラック】が現れ、ポーズを決める。

 すると何故か、【シャインブラック】の背後が大爆発を起こした。

 ここは採掘場じゃないんだよ。

 

「まぁ……賑やかでいいねぇ!ついでにもっと賑やかにしようか!

 【未界域のモスマン】が破壊されたことで、装備されていた【ゴキポール】が墓地へ送られ効果が発動するよ!

 デッキから【ガニグモ】を手札に加えて特殊召喚!さらに【ガニグモ】より攻撃力の高い【荼吉尼】を破壊!」

 

 現れた【ガニグモ】が【荼吉尼】に張り付く。

 美しい肢体にへばり付き、そのハサミが機械天使を捉える。

 

 バチンッ!

 鈍い音がすれば、【荼吉尼】の腕が地面に落ちる。

 

 バチンッ、バチンッ、バチンッ、バチンッ!

 幾度となくハサミが音を鳴らす。

 残った腕が飛ぶ、足が切れる、胴が裂ける、胸がなくなる。

 

 ……バチンッ!

 最期に1回、ハサミが閉じて。

 【荼吉尼】の首が、刎ねて消えた。

 

「か、廻理さん……!【荼吉尼】に恨みでもあるんですか……!?」

 

「ないよ!?【ガニグモ】が勝手にやっただけだって!」

 

 何度も惨い死に方をした【荼吉尼】にはお悔やみ申し上げる。

 でもボクが望んだことじゃなくてカード達が自発的にやってることだから……。

 

「こほん、気を取り直して【大樹海】の効果を発動!

 【モスマン】が破壊され墓地へ送られたため、デッキから【応戦するG】をサーチ!

 でもってバトルを続けようか!【シャインブラック】で【韋駄天】を、【アルバレスト】でボクの【アクソン】を攻撃だよ!」

 

 黒いヒーローが、駆ける機械天使を殴り殺す。

 蜂が、怪蟲を回収していく。

 ボク側に帰ってきた【アクソン】は、そのまま闇の中に消えていった。

 

 美天(死体)

 LP:6600→6200

 

「続いて、もう1体の【シャインブラック】で、【輝神鳥 ヴェーヌ】を攻撃!

 その瞬間に速攻魔法【星遺物を巡る戦い】を発動!

 攻撃済みの【シャインブラック】をエンドフェイズまで除外し、その攻撃力分だけ【ヴェーヌ】の攻撃力を下げる!」

 

 輝神鳥 ヴェーヌ

 ATK2800→800

 

 【シャインブラック】が手元のデバイス的な何かを操作して、天高く飛翔する。

 

『ハァァァァァァァァァァァッ!!』

 

 そのまま、黒いヒーローは空中で一回転。

 勢いのついた【シャインブラック】が、一直線に【ヴェーヌ】に蹴りを叩き込む。

 

 リベンジマッチ。

 先程とは違い、【シャインブラック】のキックは神鳥の嘴を砕き、その命ごと貫いてみせた。

 

『グッ!!』

 

 爆炎をバックにサムズアップする【シャインブラック】は、中々どうしてカッコよかった。

 

 美天(死体)

 LP:6200→5000

 

「いいねぇ、ナイスだよヒーロー。

 いいモノ見たし、バトルフェイズはこれで終了するよ。

 そのままメインフェイズ2に移行」

 

 手を、天へ伸ばす。

 

「ボクは【ピコファレーナ】と【ガニグモ】をリンクマーカーにセット!

 召喚条件はカード名が異なるモンスター2体!

 リンク召喚!リンク3、【熾天蝶(セラフィム・パピヨン)】!!」

 

 綺麗な青色の蝶が舞い降りる。

 熾天の名に違わぬ神々しさを纏い、その蝶は羽ばたいた。

 

 熾天蝶

 リンク3/リンクマーカー:上 左下 右下/ATK2100

 

「【熾天蝶】はリンク召喚に成功した場合、リンク素材とした昆虫族の数だけカウンターを置く。

 そしてカウンターの数かける200ポイント、このカードの攻撃力はアップする」

 

 熾天蝶

 カウンター2

 ATK2100→2500

 

「まだまだ!レベル4の【アルバレスト】と、同じくレベル4の【シャインブラック】でオーバーレイ!」

 

 手を前へ伸ばして告げる。

 すると地に黒い渦が広がり、2体のモンスターが光となって渦に飛び込んでいく。

 

「エクシーズ召喚!ランク4!さぁおいで、【フレシアの蟲惑魔】!」

 

 フレシアの蟲惑魔

 ランク4/DEF2500

 

 黒い渦が弾け、桃色の髪の扇情的な少女が現れる。

 くすくすと蠱惑的に笑い、獲物を誘う食虫植物(少女)。

 【フレシアの蟲惑魔】は悪戯っぽく微笑んで、後ろからボクに抱きついてきた。

 

「か、廻理さーん!?モンスターに手を出してるんですかぁぁーー!?」

 

「出してないよ!?」

 

 確かに【フレシアの蟲惑魔】といい【ピコファレーナ】といいなんか距離感が近いけど。

 だからといって欲望に任せて手を出すなんてことはしてないよ!

 

『ふぅー…………♡』

 

「うわ!?耳に息かけないでよ!くすぐったいからさぁ!」

 

 背後の蟲惑魔が、耳に吐息を吹きかけてくる。

 くすぐったくて身を捩らせれば、彼女は面白そうに目を細めた。

 

「あーもう!ボクで遊ばないでほしいなぁ!

 ほらカードを1枚伏せてエンドフェイズ!

 【星遺物を巡る戦い】で除外していた【シャインブラック】が帰還するよ!

 これでボクはターンエンド!」

 

 

 廻理

 LP:4000

 手札:2枚

 場:熾天蝶

   フレシアの蟲惑魔

   G戦隊 シャインブラック

 魔法・罠:大樹海

       星遺物の傀儡

 伏せ:1枚

 

 

 このターンで盤面はひっくり返した。

 ライフを削り、美天さんのモンスターの大半を破壊してやった。

 

 その代償に、ベニアちゃんにジト目で見られているが……

 安い代償……いややっぱ辛いわ……

 

「あのねベニアちゃん?ボクは別に【ピコファレーナ】とか【フレシア】とかと爛れた関係にあるわけじゃなくってね?」

 

「えぇー?ホントですかぁー?」

 

「ホントホント。ね、【フレシア】?」

 

『くすくす……♡』

 

 【フレシア】が首筋に舌を這わせてくる。

 

「…………ホントですかぁー!?」

 

「信じておくれよぉ!」

 

「私の、ターン。ドロー」

 

 3人で馬鹿なやり取りをしていたところで、美天さんがターンを始める。

 

「っと、今はそれどころじゃないね!」

 

 対峙する美天さんに向き直り、デュエルディスクを構え直す。

 

「さてと、一応説明しておこうかな?

 ボクの場にいる【フレシアの蟲惑魔】はエクシーズ素材を取り除くことでデッキから【ホール】【落とし穴】通常罠を発動できる。

 そして手札には、魔法カードによる特殊召喚に反応し、墓地へ行くカードを除外する【応戦するG】もいる」

 

 仮に、美天さんが儀式召喚を行ったとしたら、【応戦するG】を出して墓地行きのカードを除外できる。

 そして【サイバー・エンジェル】の攻撃力は【那沙帝弥】を除いて1500オーバー。

 【サイバー・エンジェル】のほぼ全員が、デッキに仕込んでいる【奈落の落とし穴】に嵌る。

 つまり、美天さんがなにを出すにしても潰せる状況だ。

 

「完璧な布陣だね。さぁ、貴方はどうやって突破するというのかな?」

 

「【サンダー・ボルト】を発動」

 

「あああああああああああああああ!?!?」

 

 答えは、無慈悲な全体除去だった。

 

「か、廻理さぁーん!?全て壊されちゃったじゃないですか廻理さーん!?

 なにが完璧な布陣なんですかぁーー!!」

 

「こんな姑息な手を使ってくるなんて思わないでしょ!?

 ちくしょう!【熾天蝶】の効果を発動!

 カウンターを1つ取り除き、墓地からレベル4以下の昆虫族を蘇生する!

 頼む【クローラー・デンドライト】!」

 

 雷が放たれるその前に、【熾天蝶】が羽を揺らした。

 すると青く光る鱗粉が降り注ぎ、墓地から【デンドライト】が帰還する。

 

 クローラー・デンドライト

 レベル2/DEF600

 

 【デンドライト】が蘇ったその直後、【サンダー・ボルト】が放たれる。

 電雷はまっすぐに、ボクのモンスター達を貫かんと迫り来た。

 

『っ……』

 

「あれ?ちょっと【フレシア】?なんでボクを羽交い締めにするのかな?

 ちょ、ちょっとちょっと【サンダー・ボルト】来てるんだけどねぇちょっと!?」

 

 抱きついていた【フレシアの蟲惑魔】が、ボクをがっしりと拘束する。

 というか、盾にしてくる。

 そして眼前には、眩い雷が降ってきていた。

 

「あばばばばばばばばばばばばばばばばばば!?!?」

 

 【フレシア】に盾にされ、彼女の代わりにボクが雷に打たれる。

 

「か、廻理さぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

 電流がボクの身体を焼いて、焦がす。

 心臓が止まるようなショックと、細胞単位で刺されるような激痛が襲ってきた。

 

「あぁーーーー!!超痛いぃーー!!」

 

 地面をゴロゴロと転がりながら、悲鳴を上げる。

 いや、冗談抜きで痛いよ、マジで。

 

 荒い息をしつつ、転がったまま【フレシア(元凶)】を見上げる。

 

『…………てへっ♡』

 

 【フレシア】はコツンと頭に拳を当てて、舌を出して困り笑いを浮かべる。

 そのまま彼女は、静かにフェードアウトして場から消えていった。

 

「…………とんだイタズラっ子だねぇ」

 

「イタズラっ子とかそういう話ですかね……?」

 

 服を払いながら立ち上がる。

 身体の節々が痛い。

 しかも電気のせいで髪がボサボサになっちゃったな。

 また後で梳いとこ。

 

「まさかまさかの【サンダー・ボルト】だったけど、ボクもただじゃ終わらないよ!

 【大樹海】【G・ボールパーク】【クローラー・デンドライト】の効果発動!

 【デンドライト】の効果でデッキから【クローラー・レセプター】【クローラー・スパイン】を裏側表示で特殊召喚!

 【G・ボールパーク】は相手の効果で自分のモンスターが墓地へ送られた場合、自分の墓地から昆虫族通常モンスターを特殊召喚できる!

 これにより墓地の【シャインブラック】を特殊召喚するよ!

 さらにさらに!【大樹海】の効果でレベル4とレベル2の昆虫族を1体ずつサーチ!」

 

 雷の過ぎ去った後には、蟲。

 過労死レベルで駆り出されてる【シャインブラック】に、隠れ潜む【クローラー】達。

 そしてこの手札の中にも、雷撃を合図に増えた蟲がいる。

 

「……【洗脳─ブレインコントロール】を発動

 800ライフを…払い、【シャインブラック】のコントロールを得る」

 

 美天(死体)

 LP:5000→4200

 

 【シャインブラック】が洗脳され、美天さんの元へ翻る。

 なに闇落ちしてるんだいヒーロー。

 え?ボクが働かせ過ぎだって?

 それは仕方ないじゃないかぁ。

 

「【那沙帝弥】の…効果発動。

 自分の場の【シャインブラック】の攻撃力の半分……ライフを回復」

 

 美天(死体)

 LP:4200→5200

 

「寝取ったモンスターでライフを回復しないでもらいたいなぁ……」

 

 別にルール違反じゃないが、なんか嫌だな。

 とまあ、ふざけた事を考えている場合じゃないか。

 

 これで実質、【洗脳】のコストは踏み倒されたわけだ。

 そして彼女の場には、モンスターが2体揃っている。

 

「……【那沙帝弥】と【シャインブラック】を……リンクマーカーにセット」

 

「来るか……リンク召喚」

 

「召喚条件は…モンスター2体。リンク召喚、リンク2……【LANフォリンクス】」

 

 LANフォリンクス

 リンク2/リンクマーカー:左下 右下/ATK1200

 

 電影と共に現れるは、機械仕掛けの小さな竜。

 戦い方を儀式じゃなくリンクに切り替えてきたか。

 

「ふむ……【LANフォリンクス】を特殊召喚時に【増殖するG】の効果を発動。

 このカードを墓地へ送り、このターン相手が特殊召喚する度に1枚ドローするよ」

 

 通路の壁を、黒光りする害虫が走り回る。

 そうしてカサカサと蠢く黒い虫は、ボクに手札を届けてくれた。

 

「にしても不味いな……【那(・)沙(・)帝(・)弥(・)】が(・)墓(・)地(・)に(・)落(・)ち(・)た(・)か」

 

 自己蘇生とコントロール奪取を行う【那沙帝弥】がリンク素材として墓地へ落ちた。

 となるとこれから美天さんがやってくるのは……

 

「墓地の……【那沙帝弥】の、効果発動……墓地の【韋駄天】を除外し、特殊召喚。

 さらに、相手のモンスターのコントロールを……奪う。

 左側のセットモンスター…【スパイン】を選択」

 

「うーん……それは困るな。

 永続罠【星遺物の傀儡】の効果で【クローラー・スパイン】をリバースして効果発動。

 貴方の場の【LANフォリンクス】を破壊するよ」

 

 【那沙帝弥】の鞭が、【スパイン】を攫う。

 その間際、目を覚ました【スパイン】が【LANフォリンクス】を突き刺し破壊する。

 

「またボクのモンスターが取られちゃったよ……」

 

 ため息をつきつつ、【増殖するG】の効果で1枚ドローする。

 

「【那沙帝弥】の効果発動……場の【スパイン】の攻撃力の半分、ライフを回復する……」

 

 美天(死体)

 LP:5200→5350

 

「……【那沙帝弥】と、【スパイン】をリンクマーカーにセット。

 召喚条件は、モンスター2体。リンク召喚……リンク2、【LANフォリンクス】」

 

 【LANフォリンクス】……もう1枚エクストラデッキに仕込んでたか。

 電影を纏い現れる機竜を眺めつつ、ドローする。

 別に【LANフォリンクス】が何枚入っていたとしても、そのカード自体には問題はない。

 問題があるとすれば、ここから更にリンク召喚されるということか。

 

「【那沙帝弥】の効果で……墓地の【弁天】を除外し、蘇生。

 相手のモンスターの…コントロールを奪取」

 

「【レセプター】まで持ってかれちゃったよ……」

 

 これでボクのフィールドはガラ空きだ。

 さっきまであんなに賑やかだったのに、今じゃ随分寂しくなってしまった。

 

「【那沙帝弥】の…効果で、【LANフォリンクス】の攻撃力の……半分を回復」

 

 美天(死体)

 LP:5350→5950

 

「……【LANフォリンクス】と【那沙帝弥】を……リンクマーカーにセット。

 召喚条件は、リンクモンスターを含むモンスター2体以上……

 リンク召喚。リンク3……【天威の龍拳聖】」

 

 天威の龍拳聖

 リンク3/リンクマーカー:左下 下 右下/ATK2600

 

 出てきたのは……【天威の龍拳聖】か。

 効果モンスターとの戦闘で破壊されないリンクモンスターだね。

 そこそこ場持ちがいいのを出してきたな。

 

「あははっ!これで展開はおしまいかな?」

 

「……バトルフェイズ。【天威の龍拳聖】で……ダイレクトアタック」

 

 【天威の龍拳聖】が、拳を振り上げ殴りかかってくる。

 こちらはガラ空き、ノーガード。

 庇ってくれるモンスターはいないため、このままでは直にぶん殴られることになる。

 

「やらせないよ!トラップ発動【ブービーゲーム】!」

 

 拳が顔を突き刺す、その前に。

 どこからともなくステッカーが降り注ぎ、ボクの姿をかき消していく。

 

「【ブービーゲーム】はモンスターの戦闘で発生する自分への戦闘ダメージを0にする。

 あぁ、もちろんダイレクトアタックにもこの効果は適用できるよ。

 よって、【天威の龍拳聖】によるダメージは回避させて貰うよ」

 

 殴りかかってくる【龍拳聖】を軽快に躱し、からかうように背中をつついてやった。

 すると彼はバッ、と振り返りボクを拳を打ち込んできたが、そちらもひょいと避ける。

 

「あははっ!悪いけど当たってあげないよ!痛いのは嫌だからね!」

 

 これでボクの受けるダメージは0。

 あっちの場に追撃する手段はなし。

 ふぅ、どうにかしのげたね。

 

「…………バトルフェイズを終了。

 そのまま……ターンエンド」

 

 

 美天(死体)

 LP:5950

 手札:0

 場:天威の龍拳聖

   クローラー・グリア(裏側表示)

 魔法・罠:なし

 伏せ:なし

 

 

 美天さんのターンが終わる。

 ボクのターンが回ってくる。

 

「さて、と」

 

 増えた手札を確認する。

 うん。十分過ぎるな。

 悲しいくらいに、十分だ。

 

「じゃあ、やりますかぁ……!」

 

 デッキに指をかけ、深呼吸をひとつ。

 

 ボクはこれから、目の前の死体を──鳴金美天を、破壊する。

 供養じゃない、哀れみじゃない、追悼じゃない。

 言い訳はしない。言葉を濁しはしない。

 

 ただ必要性があるから。

 だからボクは、梨々華ちゃんが愛していた母親を、壊す。

 

「──あははっ!ボクのターン!ドロー!」

 

 ふわふわと浮かぶような、冷たい感覚。

 ソレをいっぱいに感じて、カードを操る。

 

「まずは張替えだ。フィールド魔法【星遺物に差す影】を発動!

 そして【星遺物に差す影】の効果で手札の【クローラー・グリア】を裏側表示で特殊召喚!

 さーらーにー!永続罠【星遺物の傀儡】の効果で【グリア】をリバース!」

 

 クローラー・グリア

 レベル2/DEF1800

 

「リバースした【グリア】の効果により、墓地の【クローラー・スパイン】を特殊召喚!」

 

 クローラー・スパイン

 レベル2/ATK600

 

「手札から【早撃ちのアルバレスト】を通常召喚して効果発動!

 墓地の【毒針のニードル】を特殊召喚!

 でもって【毒針のニードル】は特殊召喚時に【B・F】を持ってくる!

 ボクは【連撃のツインボウ】を手札に加えるよ!」

 

 B・F─早撃ちのアルバレスト

 レベル4/ATK1800

 

 B・F─毒針のニードル

 レベル2/チューナー/DEF800

 

 怪蟲が這いずる。

 蜂が飛来する。

 けど、まだ足りない。

 

「まだまだ!マジックカード発動、【孵化】!自分フィールドのモンスターをリリースし、そのモンスターよりレベルが1つ高い昆虫族をデッキから特殊召喚する!

 レベル2の【スパイン】をリリースし、デッキからレベル3の【ナチュル・バタフライ】を特殊召喚!」

 

 ナチュル・バタフライ

 レベル3/チューナー/DEF1200

 

 【スパイン】と入れ替わるようにして、 桃色の蝶々のようなモンスターが登場する。

 

「一気に、増えましたね……」

 

 ベニアちゃんが後ろから、少し驚いた風に呟いた。

 

「驚いてくれたみたいでなによりかな。

 けど、これで終わりじゃないよ」

 

 悪戯を思いついた子供みたいに、笑いかける。

 

「見せようか──先輩の威厳シリーズその3を!」

 

 そうして、告げる。

 調律の、その言葉を。

 

「レベル4【早撃ちのアルバレスト】に、レベル2【毒針のニードル】をチューニング!」

 

「チューニング……!?」

 

 【ニードル】が緑光の輪へと姿を変え、【アルバレスト】を包み込む。

 すると輪の内側から眩い光が溢れ出し、新たなるモンスターが現れる。

 

「シンクロ召喚!レベル6────刺し廻れ!【B・F─突撃のヴォウジェ】!!」

 

 光の向こう側にいたのは、やはり蜂だった。

 黒みがかった青い鎧。

 澄んだ赤の羽。

 そして、大きな槍を携えた、突撃蜂。

 

 【ヴォウジェ】は、ゆったりとした動きで槍を構える。

 その切っ先は、延長線上に動く死体を捉えていた。

 

 B・F─突撃のヴォウジェ

 レベル6/2500

 

「これが、廻理さんのシンクロモンスター…………」

 

「そうだね。【ヴォウジェ】もお気に入りの1枚だよ。

 そんでもって……これがお気に入りの2枚目!」

 

 続けて、カードを手繰る。

 フィールドでは再び、光の輪が形成されようとしていた。

 

「レベル2【クローラー・グリア】に、レベル3【ナチュル・バタフライ】をチューニング!

 シンクロ召喚!レベル5!お願いね【B・F─霊弓のアズサ】!!」

 

 もう1体、蜂が降り立つ。

 次いで現れたのは、赤い意匠の施された、白いドレスを纏った弓使い。

 【アズサ】は礼儀正しく一礼し、緩く構えを取った。

 

 B・F─霊弓のアズサ

 レベル5/チューナー/ATK2200

 

 【ヴォウジェ】と【アズサ】。

 シンクロモンスターが揃い踏み。

 けど、まだ役者は足りない。

 

「手札の【B・F─連撃のツインボウ】の効果で、このカードを手札から特殊召喚する。

 そして………………」

 

 手の中のカードから、1枚を抜き取る。

 そのまま、躊躇わず、デュエルディスクに叩きつけるよう発動する。

 

「そして…………【ミニマム・ガッツ】を発動!

 自分フィールドのモンスターをリリースし、相手モンスター1体の攻撃力を0にする!

 【ツインボウ】をリリースし、【天威の龍拳聖】の攻撃力を0に!」

 

 蜂が──【ツインボウ】が特攻し、その針で【龍拳聖】を突き刺す。

 その一撃が、拳聖から力を奪い尽くして、【龍拳聖】は静かに膝を折った。

 

「これで終わりだよ。バトルフェイズ、【ヴォウジェ】で【天威の龍拳聖】を攻撃」

 

 命令を下せば、【ヴォウジェ】が突撃を仕掛ける。

 羽を震わせ、高速で宙を駆けて。

 構えたその槍で【龍拳聖】を貫いた。

 

「……【天威の龍拳聖】は、効果モンスターとの戦闘では……破壊されない」

 

「けど、ダメージは受けてもらうよ」

 

 美天(死体)

 LP:5950→3450

 

「ダメージを与えた瞬間、【ヴォウジェ】の効果が発動。

 戦闘ダメージを与えた場合、自分フィールドの【B・F】の数かける200のダメージを貴方に与える」

 

 【ヴォウジェ】が、【龍拳聖】を貫いたまま力任せに槍を振るう。

 その刃は【龍拳聖】を無茶苦茶に引き裂き、やがて美天さんの死体さえ切り裂いた。

 

 美天(死体)

 LP:3450→3050

 

「さらに、【ヴォウジェ】が効果によるダメージを与えた瞬間、【アズサ】の効果を発動。

 【ヴォウジェ】の攻撃力と同じだけのダメージを、貴方に与えるよ」

 

 一射。

 【アズサ】が矢を番え、放つ。

 放たれた弓矢は、一直線に美天さんの胸に突き刺さった。

 

 だが、まだ動いている。

 美天さんは矢が刺さったまま、虚ろなまま、動いている。

 

 美天(死体)

 LP:3050→550

 

「…………イかれてるよ」

 

 前髪をかきあげて、ぼそりと呟く。

 確かに死んでる者が、死んでるのに、動かされている。

 もうその肉体にはなにもないのに、あるフリを続けされられている。

 

「【アズサ】、終わらせて」

 

 【アズサ】がもう一度、矢を番える。

 今度は、跡形も残らないように。

 引かれる弓矢が帯電し、火花を散らす。

 

「【霊弓のアズサ】で、攻撃」

 

 空を切る音がして、閃光が走った。

 渾身の力が込められた矢が、放たれたのだ。

 

 眩い光が暗闇を照らし、弓矢が爆ぜる。

 

「え…………?」

 

 その一瞬、死体の目には光があった、気がした。

 光の反射か、あるいは…………

 

「──────────」

 

 ただ、この刹那に、鳴金美天の唇は動いていた。

 生きてるみたいに、動いて。

 そして轟音に混じって、微かな声を発していた。

 

 けれどその声は、爆発音に上書きされる。

 爆ぜた弓矢の火が、爆煙が、彼女をかき消した。

 

 ……それから立ち上る爆煙は、どこか線香の煙に似ていた。

 

 

 

 

 美天(死体)

 LP:550→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエルに決着がつき、やがて爆煙が晴れる。

 

「…………いない…?」

 

 煙の晴れた通路には、な(・)に(・)も(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。

 そう、なにもない。

 鳴金美天の死体の残骸の一欠片さえも、そこにはなかった。

 

「死体が……消えちゃってます……」

 

「おかしいな。確実に壊したはずなんだけど……」

 

 まさか最後の最後で躊躇したのか?

 いや、ボクに限ってそれはない。

 しっかりと狙いを定めたし、一切の迷いもなかった。

 にも関わらず、美空さんの死体はどこにもない。

 

「…………逃げられたか」

 

 考えられる可能性は、逃亡だ。

 逃げられた。あるいは、美空さんを操っている何者かが彼女を逃したか。

 

「なんというか……一筋縄じゃ、いきませんね……」

 

「ホントにね。クッソー、逃したかぁー……」

 

 ガシガシと頭を掻く。

 勝負に勝って死合いに負けた、って感じだ。

 

「……にしても、美天さん…………最後になにか、言ってませんでしたか……?」

 

 あぁ、あの刹那を、ベニアちゃんも見ていたのか。

 確かにあのとき、美天さんはなにかを喋っていた。

 ベニアちゃんは聞き取れなかったようだが……

 

「……『梨々華』、『葛』、だってさ」

 

「えっ?」

 

「たぶん、そう言ってたよ。美天さん」

 

 唇の動きからして、おそらく。

 

 そのときの彼女は、光の灯った目で、人間らしい動きで。

 鳴金美天という人物は、その名前を呼んでいた。

 

「…………本当に、美天さんは……死んでいるんでしょうか」

 

「死んでるよ。胸に矢が刺さって生きていられる人間はいないからね」

 

 鳴金美天の死は、疑いようがない。

 彼女は確実に死んでいた。

 

「なら……どうしてその名前を、呼べるんでしょうか……」

 

「さぁね、ボクは解んないよ」

 

 ベニアちゃんに答えながら、墓地の一番上にあったカードを抜き取り、眺める。

 

「…………【ミニマム・ガッツ】、か」

 

 手の中のカードの名前が、零れた。

 それは、ボクが最後に使った魔法。

 デュエルの決め手になった一枚。

 

「『自分フィールド上のモンスター1体をリリースし、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで0になる』」

 

 カードのテキストを読み上げてみる。

 

「『このターン、選択したモンスターが戦(・)闘(・)に(・)よ(・)っ(・)て(・)破(・)壊(・)さ(・)れ(・)相(・)手(・)の(・)墓(・)地(・)へ(・)送(・)ら(・)れ(・)た(・)時(・)、そ(・)の(・)モ(・)ン(・)ス(・)タ(・)ー(・)の(・)元(・)々(・)の(・)攻(・)撃(・)力(・)分(・)の(・)ダ(・)メ(・)ー(・)ジ(・)を(・)相(・)手(・)ラ(・)イ(・)フ(・)に(・)与(・)え(・)る(・)』…………」

 

 これが、【ミニマム・ガッツ】の効果。

 

 ボクが発動したのは、破壊を引き金に多大な被害を齎す魔法。

 対して鳴金美天の場にいたのは、壊(・)れ(・)な(・)い(・)モ(・)ノ(・)。

 

 鳴金葛の虐待は──梨々華ちゃんと葛さんの姉妹の破綻は、鳴金美天が壊れ(消え)たことで始まった。

 もしも、鳴金美天という存在が生きていれば、彼女たちはなにかが違っていたかもしれない。

 

「母親、か」

 

 こんなのはすべては偶然か、あるいは考えすぎで片付く話だ。

 けれどそこに、なにか『想い』があるように感じてしまうのは、どうしてだろう。

 

「……愛の奇跡……なんて、ありえませんかね」

 

「愛、ねぇ」

 

 死体になにかが遺るとすれば、それは人の想いくらいか。

 誰かへの想いが、愛が、亡骸に染み付いて離れなかっただとか。

 

 その理由が、愛。

 愛とかいうやつが、不条理を貫いた、なんて。

 

「っ……」

 

 不意に、頭の中でノイズが走る。

 

 

 

 ───ほら、デュエルだ。今日も負けないぞ。

 

 ──大丈夫だ。全部、私がやるから。

 

 

 

 ────廻理。世界で一番、愛してる。

 

 

 

「…………っ、あ」

 

 フラッシュバック。

 ろくでもない過去が頭蓋の裏側に再生された。

 

 あぁ、クソ。なにが『愛してる』だ。

 大嘘つきめ。

 

「か、廻理、さん……?」

 

「ん…?あぁ、いや。愛ってやつにいい記憶がないからね。ちょっと嫌なこと思い出してた」

 

 心配そうな顔のベニアちゃんに、笑いかける。

 どうやら、美天さんがきっかけで嫌な思い出が浮かび上がってきたようだ。

 あ(・)の(・)人(・)のことなんて、もう忘れたいんだけどなぁ……

 

「ま、愛が奇跡を起こすなんて、ロマンチックで素敵だとは思うよ」

 

 それは本心だ。

 だって奇跡は、起こらないから奇跡なんだから。

 

「アタシは……信じてますよ。家族への、愛を」

 

「へぇ。ベニアちゃんは、家族に愛されてた系?」

 

「どうでしょう……少なくとも、アタシは母と父を知りませんけど……」

 

 “ですが”、とベニアちゃんが続ける。

 

「……アタシは、今も愛してます。母と、父と──そして、妹を」

 

 そのときのベニアちゃんは、とても優しい顔をしていた。

 温かくて、眩しくて、残酷なほどに慈悲深い、顔をしていた。

 

「…………ベニアちゃん、妹いたんだね」

 

「あっ、言ってませんでしたっけ……?え、えへへ……実は、自慢の妹がいるんです…!」

 

 本当に嬉しそうに、彼女は言う。

 あぁ、心底から、この少女は家族が好きなんだな。

 

「まぁ、大喧嘩したんで、あの子はアタシのこと……大嫌いになったでしょうし……忘れてるかも、ですけど……」

 

 嬉しそうな表情が霞む。

 少しだけ、ベニアちゃんが顔を落とした。

 

「あははっ!大丈夫だよ!キミの妹がどんな子で、今なにしてるかは知らないけど……

 キミの妹は、キミのことを愛してると思うよ」

 

 弾けるように笑って見せれば、ベニアちゃんは顔を上げる。

 

「それは……どうして?」

 

「キミがお姉ちゃんだからかな」

 

 少なくとも、ボクはそう思う。

 例え喧嘩したとしても、嫌ったとしても、想いは消えてくれない。

 哀しいことに、そういうものなんだ。

 

「えぇと…………」

 

「あははっ。まぁアレだよ、ボクも信じたいってことだよ。

 どんなことにも負けない愛、ってやつを」

 

 それも本心だ。

 奇跡は起こらないけど、それでも奇跡を信じたい。

 

 ……信じたかった。

 

「なんにせよ、今は自分たちのことより、人様の家族のことかな」

 

「あっ…そうですね……!頑張らないと、です……!」

 

「そうそう。じゃ、今すぐ頑張ろうか」

 

「へっ?」

 

 すっ、とベニアちゃんの背後を指差す。

 

「どうやらモンスター達はボクらの存在に気づいたらしくてね。めっちゃ走ってきてるよ」

 

「えぇっ!?……うわっ凄い勢いで走ってきてるじゃないですかぁーーー!?!?」

 

 薄暗い通路の先には、大きな足音を立てて迫りくるモンスターの軍勢。

 あれらに追いつかれるのは非常によろしくないだろう。

 

「あははっ!逃げるよベニアちゃん!」

 

「ひぇぇ……まだ疲れてるんですけどー!!」

 

 そうして、笑い声と悲鳴が響く。

 ボクらはまた息を切らせて、奥へと逃げのだった。

 

 

 

 

 




読んでくださり、ありがとうございます。
おそらく、今年最後のデュエルパートでした。
久々に廻理単独のデュエルを書けて楽しかったです。

年が変わるまでに、もう1話くらい投稿したいですね。

また、感想などいただけましたら嬉しいので、よければよろしくお願いします!

次回も楽しんでいただけるよう、頑張ります!
それでは、また18話で!
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