遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻 作:胡麻野すり子
では始まります。
ぺらり、ぺらり。
静まり返った書斎の中で、私が本を捲る音が響く。
「ふむ、ふむ。面白い、話じゃ、ない、ね」
読んでいた本を閉じて、2回手を叩く。
するとピンク色のファンシーなウサギさんが、私の元へすり寄ってきた。
「ラヴィ。これ、片付けて、もらっても、いい?」
私のお願いに、ラヴィは小さく鳴いて頷いてくれる。
それからラヴィは小さな手で本を持って、本棚の方へ走っていった。
「な、なぁ!こんなゆっくりしてていいのか?ベニアさんもアイツも帰ってきてないんだろ?」
ふと、隣にいた梨々華ちゃんが不安そうに聞いてくる。
「朝になっても戻ってきてないし、これってなんかあったんじゃ…………」
「うん、そう、だね」
「だったらさ!」
「今、廻理くんと、ベニアちゃんを、追いかけて、地下迷宮に行っても、無駄、だよ。
廻理くんが、どうにもできないなら、私にも、どうにもできない、から」
あの後……廻理くんと別れた後、私は彼と再会することはなかった。
廻理くんからの書き置きによると、ベニアちゃんと一緒に葛さんを探しに行ったそうだけど……。
「なにか、あったのは、確実、だね。
でも、無策で、飛び込んだら、二の舞いに、なっちゃう」
「うっ……それは、そうだけどさ……」
梨々華ちゃんが苦々しい顔をする。
「大丈夫、だよ。廻理くん、死なない、から。
で、廻理くんが、死ななかったら、ベニアちゃんも、死なない、から」
「……なんでそんなことが分かるんだよ」
「親友、だから」
私の知ってる廻理くんは、簡単には死なない。
それで彼は、後輩にいいところ見せようとして守るだろうから、ベニアちゃんも死なない。
ひとまずは、ふたりとも無事なはずだ。
「とりあえず、待つしか、私には、できない、かな」
歯痒い気持ちは分かる。が、焦ってもあんまり良いことはない。
ふたりが帰ってこられない原因が不明な以上、行動は最後まで待ったほうが賢明だ。
(待ってみてダメだったら…………爆破かな)
最悪は屋敷に火をつけて全て壊すしかないか。
とはいえそれは最終手段だし、極力やりたくはないところではある。
「待つしかないのは分かったけど……じゃあお前はなにをしてるんだ?」
「ん。ゴシップ、探してる」
机の上に座り、新しい本を開く。
これは……日記かな。
「ゴシップって……」
「あの、クソ執事に、ついて。詳しく、調べて、おきたい、から」
「っ」
クソ執事という単語を出した途端、梨々華ちゃんの顔色が青くなった。
「廻理くんから、書き置きで、情報、共有したから。
…………怖い、思いを、した、みたい、だね」
彼女の身に起こったこと、ベニアちゃんが頑張ったこと。
全部、廻理くんから教えてもらった。
あぁ、本当にムカつくったらない。
この手の男には、反吐が出る。
「なぁ…………やっぱ、アイツってさ、その……」
「どうかは、分からない、よ」
“本当に人殺しなのか”、そう彼女が言う前に、答える。
「貴方や、ベニアちゃんへの、対応を、考えると、社会人として、失格なのは、確か、だね。
でも、犯罪者である、証拠は、今のところ、ない、から」
まぁ、ベニアちゃんをボコボコにしてくれやがったから、暴行罪は確定だけど。
「一応、私の、人生経験からの、見解だけど、こういう手合は、まっ黒なことが、多い、かな」
「……そうか」
梨々華ちゃんはそれだけ言って、俯いてしまう。
無理もない。自分のすぐ側に危険人物がいたと知れば、ショックのくらい受けるだろう。
「だから、暇なときに、調べなきゃ、ね」
ぺらり、ページを捲る。
(本当は拷問にかけてやりたかったけど……あの執事野郎、いつの間にか姿を消してたからね)
お礼参りをしに行こうとしたのに、そのときは既にあの男の姿はなかった。
都合が悪くなったから逃げたのか、あるいはどこかに隠れているのか……。
いずれにせよ、拷問という名のインタビューができない以上、調べるなら他のところから見ていくしかないか。
「調べるって言うけど、そんな簡単になんか分かったりするのか?」
「ふふっ。ダメ元、だよ。でも、色々、知れたり、する、から」
読んでいた日記を開いて、梨々華ちゃんに見せる。
「なんだそれ?日記か?」
「うん。鳴金雄太郎の、日記。悪いこと、書いてる、よ。
葛さんの、お母さんとの、不倫、とか」
「うげぇ……知りたくないよそんなの」
確かに。私も自分の父親が誰々と浮気セックスしたとか知りたくないな。
ちょっと反省。今後は気をつけよう。
「ごめん、ね。…………にしても、ふぅん」
「なんだよ。気になる反応しやがって」
日記を読み進めていると、梨々華ちゃんが怪訝そうに覗き込んでくる。
「ん。ここ。この部分」
「えーと、どこだよ」
「ここ。葛さんの、お母さんを、暗殺させた、ところ」
「見なきゃよかった…………」
紙面を指さして教えてあげたら、彼女はすっごいげんなりした表情を浮かべた。
「それで、その部分がどうかしたのかよ?」
「うん。この暗殺者、仕事、雑だなぁ、って」
「雑?」
「コイツ、口頭で、殺したって、報告、したみたいだけど……私だったら、死体の写メ撮るか、首を、持ってくる、かな、って」
ちゃんと殺した報告をするなら、やっぱり首だろうか。
首級の信用度はハンパないからね。
「お前といると知りたくなかったことばっか知ることになるな……」
「大丈夫、だよ。首、持ってくるのは、私みたいな、ヤバイ奴しか、やらない、から」
「なにが大丈夫なんだよ」
梨々華ちゃんが呆れてため息をつく。
悲しみ。今度廻理くんに慰めてもらお。
「信用度が、ない、ね」
「えっ?い、いや、別に私だってお前のことを信用してないとか嫌いだとかじゃなくって!
お前らは私の我儘を聞いてくれて凄い頑張ってくれてるし…………」
「ふふっ。梨々華ちゃんからの、信用度じゃ、ない、よ?
この、暗殺者の、仕事への、信用の、話」
「ふぇっ?」
あたふたと言葉を並べてた梨々華ちゃんが、素っ頓狂な声を上げて顔を赤くする。
「もしかしたら、仕留め損なってるかも、しれない、ね」
「それって、お姉様の母親が生きてるってことか!?」
「ワンチャン、あるかも、ね」
目を輝かせる梨々華ちゃんを尻目に、「でも」と付け加える。
「でも、どうだろ。生きてても、良くない、かも」
「良くないってなんでだよ。母親が生きててくれたら嬉しいんじゃないのか?
少なくとも私は、お母様が生きてたら幸せだって思うぞ」
「それは、母親が、善人だった、場合、だね。
残念だけど、この女は、腐った感じが、するよ」
数ページ戻りながら、私は言葉を続ける。
「葛さんの、母親…………
「酷い人って……」
「一言で、言えば、金の亡者。金のためなら、肉体関係を、持つし、責任を取らせるために、子どもも、産む。それで、保険金殺人も、辞さない」
鳴金雄太郎が調べたのだろう。
日記には、八重峰墓丹という女の悪行が記されていた。
「八重峰墓丹…………コイツ、金のために、47人も、殺してる」
「う、嘘だろ……!?そんな奴が、お姉様の母親だってのか!?」
梨々華ちゃんは、葛さんの母親についてはなにも知らなかったようで、酷くショックを受けた様子を見せる。
「残念、ながら、そうみたい、だね。それもあって、暗殺されたの、かも」
犯罪者と肉体関係にあったなんて、とんでもない黒歴史だ。
鳴金雄太郎としてはなんとしてでも消したかったことだろう。
「この家も、業が、深い、ね」
「我が家ながら、私もう嫌になってきたぞ……」
「災難、だね。お姉さんが、帰ってきたら、ふたりで、家出、したら?」
日記を閉じて、机の上に置く。
さて、八重峰墓丹というカスな母親について知れたところで、本命を探すとしようか。
「引き出しの、中とか、かな」
ガサゴソと引き出しを引っこ抜いて、書類やらを探す。
1段、2段、3段と見ていくと、鍵のかかった引き出しにぶち当たった。
「鍵、かかってる、ところって、なんか、ありそう、だよね」
力任せに鍵を破壊し、勢いのままに引き抜く。
木が割れる心地の良い音がした。
「お前の腕力どうなってんだよ」
そんな梨々華ちゃんを無視しつつ、中身を漁る。
「入ってた、のは……履歴書、かな?」
ビンゴ。今一番、確認したかったものだ。
書類の束を捲りながら、お目当ての人物の物を探す。
「あの、執事のは……っと。うん、あった」
数十枚捲ったところで、件のクソ執事の履歴書が見つかる。
はてさて、この怪しい男の正体は如何に。
答えを確かめるべく書類を隅々まで読むが……。
「…………ふぅん。なるほど」
「えっと、なんか分かったのか?」
興味半分、恐怖半分といった具合で、梨々華ちゃんが聞いてくる。
それに私は、淡々と答える。
「あんまり、分かんないよ。
名前とか、学歴とか、どうでもいいこと、ばっかり、書いてる、から」
ぱさりと書類を投げ捨て、梨々華ちゃんに向き直る。
「ただ、鳴金家に、来た、時期が、気になる、かな」
「時期が気になるって……」
「アイツが、ここに、来たの、八重峰墓丹が、暗殺された、直後、だった」
「えっ?」
殺された不倫相手と入れ替わるように現れた、怪しい男。
別に、人がひとり減ったから、代わりにひとり雇った、ということで説明はつく。
ただ、この偶然に“なにか”を感じるのは、気のせいだろうか。
「きな臭く、なって、きたね」
暗殺されたカスな母親。姿を消したクズの執事。
帰ってこない廻理くんと、ベニアちゃん。
そして地下にいる葛という少女と、梨々華ちゃん。
静かに、けれど着実に、なにか悪いことが進行している、予感。
嫌な予感を感じつつ、私は机から降りて、床に足をつける。
「なんにせよ、私は、私にできること、しなきゃ、ね」
自分に聞かせるように呟いて、私はまた新しく本を開いた。
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地下の底の底、肉で作られた大きな部屋。
ずっとアタシが囚われていた静かな世界。
そんな肉部屋で、ふたりの声が飛び交う。
「じゃあ【クラッキング・ドラゴン】をアドバンス召喚です……!」
「だったら永続罠【星遺物の傀儡】の効果で【禁忌の壺】をリバースするよ」
「あぁぁーーー!?またソイツですかぁーーー!!」
ベニアという少女がやってられないと言わんばかりに横になる。
それに対して廻理という少年は、あははと楽しそうに笑った。
「……なにやってるの?」
このふたりがアタシのところに来てから約24時間。
廻理とベニアは寝たり話をしたり肉の床を焼いて食べたり。
それから寝たり食べたり食べたり寝たり食べたり遊んだりしていた。
「デュエル。それで今ボクがベニアちゃんのモンスターを一掃したところ」
「一掃されたところです…………が!ここであたしは【リビングデッドの呼び声】を発動し【クラッキング・ドラゴン】を蘇生します……!」
「げぇ!蘇生されちゃった!」
ふたりは座り込み、肉の床にカードを置いて、ゲームを進めていく。
楽しそうに、あるいは暇をつぶすように。
「…………面白そうね」
その光景に、ふと懐かしさを覚える。
アタシも昔は、こんな風に梨々華と遊んでいたんだったか。
「あははっ、観戦するかい?」
廻理が振り返り、笑いかける。
それからハッとして、彼はアタシから顔を背けた。
「おっと失礼。レディの素肌を見るのはよろしくなかったね」
「別に……気にしないわ。アタシは、レディと呼ぶには汚れすぎているもの」
口にした直後、脳髄におぞましい記憶が浮かび上がってきた。
裸に剥かれ、手足を拘束され、それからアタシの内側に汚らわしいモノが……
「…………ぅ、おぇ…」
フラッシュバックを引き金に、吐き気とめまいがした。
最悪、本当に最悪。記憶にまで犯されて、泣きそうになる。
「ごめん。嫌なことを思い出させたみたいだね」
「別に……貴方が悪いわけじゃ、ないわ。アタシが勝手に思い出しただけ」
廻理が頭を深々と下げる。
それにアタシは、可能な限り気丈に振る舞ってみせる。
無理しているのがバレバレな、安っぽい強がりだ。
「そっか。次からはもっと言葉に気をつけるね」
そう言って、廻理は頭を上げる。
……なんとも、癪だ。
コイツの優しい声色が、落ち着いた態度が……アタシに気を使っているみたいで、癪だ。
「あ、えっと、その…………結局、観戦……どうしましょ?」
やや重くなった空気の中、ベニアという少女があたふたする。
どうにか場を取り持とうとしてくれたのだろうか。
「見るなら勝手に見ているわ。それよりも、貴方たちはのんびりしていてもいいの?」
「良くはないけど、のんびりする意外に手がないからね。
この部屋の外にはモンスターが待機してるだろうし、キミを解放するのも無理。
外部と連絡しようにも電波が届かないときたもんだ。
いやはや、にっちもさっちもいかなくなっちゃったね」
「本当なら、さっさと貴方を連れ帰って、梨々華さんに会わせたかったんですが……」
「あとはもう地上の殺那がすべてを爆破とかしない限りは手詰まりかな」
「……梨々華がいるから爆破はしてほしくないわね」
「あははっ!大丈夫だよ!殺那は加減が効かないけど見境がないわけじゃないからね!」
「そう……物騒なのね……」
とても不安だ。
彼の話を聞いても、驚くほどに大丈夫な感じがしない。
「で、ですけど……あたし達も、ただ遊んでいるわけじゃなくてですね……」
「そうそう、色々推理したり今後のことを考えたりしてるとも」
そう言いながら、ふたりは床に散らかしたカードを片付ける。
いつの間にか決着がついたらしかった。
「推理……?」
「うん。誰が悪いのかとかね。今のところ最有力候補はあのクソ執事かなぁ」
「アイツが貴方を閉じ込めて、この地下迷宮を作ったんじゃないかって……思ってます」
「まぁ、決定的証拠もなければ動機も不明だし、あくまで推測の域を出ないけどね」
「…………………………そう」
もっとも、アタシは合っているとも間違っているとも言えないのだが。
「なんにせよ、キミをこんな風にしてるヤツは二度と悪いことできないようにとっちめとくよ」
「はい!血を見せてやりますよ……!」
「…………ここから出られないのに?」
「あははっ!そいつは失念してたかなぁ!」
やけくそ気味に笑う廻理に、アタシはため息をついた。
「不運ね。どうする?アタシを殺せば、ここは消えて貴方たちは帰れるわよ?」
「やだよ。キミは殺したくないし」
「は、はい……!梨々華さんも、悲しみますし……!」
「…………理解に苦しむわね。貴方たちは自分の都合より、梨々華の都合を優先するの?」
姉としては、妹を大事にしてくれていることを喜ばしく思う。
だがアタシ個人としては、他人である梨々華を尊重するふたりのことが、理解できなかった。
「貴方たちは梨々華と良くしてくれているみたいだけど…………けど、こんな状態になってまであの子のためにしてあげる意味はあるの?」
「「
少年と少女が、即答する。
「その、友達だって思ってますし……あたしは、梨々華さんと約束しましたし……。
それから、あたしが梨々華さんのためにしてあげたいなぁ、って思ったので…!」
「…………他人なのに?」
他人が、他人のためになにかをしようとする感覚が、アタシには分からなかった。
姉だからとか、家族だからとか、そういう理由もなしに、どうしてそうするのだろう。
「そりゃ確かに他人ですけど……泣いてる姿とか見たら、どうにしたいじゃないですか」
「…………そう。貴方も、そういう感じなのかしら?」
「んー?」
ベニアから目をそらして、廻理に視線を向ける。
「ボクも梨々華ちゃんは助けてあげたいけど、それと同時に、キミがちょっとでも幸せになったらいいなって思うよ」
「…………アタシ?」
予想外の彼の答えに、アタシは首を傾げる。
「なんか今のキミって最悪な感じじゃん。
それが全部解決して、ハッピーになれたら最高じゃない?」
「そう、素敵ね。もっともアタシは、幸せになんてなれないけれど」
廻理の言葉に、アタシは自嘲する。
「貴方たちは、現在起こっていることを解決できるの?
いえ、例え解決できたって、アタシの地獄は変わらないわ」
焼けた爛れた左の瞼を閉じて、半分溶けた口を回していく。
「こんな醜い顔じゃ、普通になんて生きられない。
それにどうせアタシに待っているのは、あの男からの性的虐待だけよ」
仮にアタシが梨々華のところへ戻れたって、なにも変わりはしない。
あの男はまた、ケダモノじみた方法でアタシを辱め、犯すだろう。
顔も、身体も、なにもかも、汚れきっている。
こんなアタシが、どうやって幸せになるというのか。
「…………アタシは救われないわ」
「でも、ボクはキミに救われてほしいよ」
真剣で、優しい声が、鼓膜を揺らした。
「このまま終わるなんて理不尽じゃん。
だから、葛さんには前を向ける人生を歩んで欲しいよ」
「……前なんて向けないわよ。アタシは、普通じゃないから」
「なら、ボクが連れ去るよ。普通じゃなくても幸せになれる世界に」
「………………え?」
ぽかんと、アタシは間抜けに口を開けて驚く。
「まぁこっちの世界ってクズばっかりだしロクな場所じゃないからオススメはできないけどさ……
でも連れ去ったからには、キミを絶対に後悔させない」
「………………貴方について行ったとして、アタシは幸せになれるのかしら」
「あははっ!ボクが幸せそうに見えるなら、幸せにはなれるさ!」
そう言って愉快そうに笑う彼は……非常に不服だが、幸せそうに見えてしまった。
もし彼についていったら、アタシもあんな風に笑えるようになるのだろうか……?
「とはいえマジでオススメできないし、叶うなら表の世界で楽しく前向きに生きて欲しいけどね」
「…………そうね。アタシだって、梨々華と平穏に生きていたいわ」
「いいね。それが言えるなら、キミは十分前を向いて幸せになれるよ」
全くそんな気はしないわね、なんて心の中で呟く。
そんなアタシを知ってか知らずか、廻理はただ笑っていた。
「今後困ったことがあったら『孤児院』かボクに相談してよ。
ボクは0円から依頼受付中だからさ」
「あ、あたしも、0円からオーケーです……!」
「そう。でも極力貴方たちには頼らない方向で生きたいわね」
その答えに廻理は「違いないね!」だなんて笑った。
本当に、この子は羨ましいくらいによく笑う。
「はぁ……貴方が羨ましいわ。アタシの今後のことなんか気にする余裕があって」
ため息をつく。
そんなアタシとは対象的に、ふたりは明るくはしゃいでいた。
「さてと、解決策も閃かないし、もう1回デュエルしよっか。ベニアちゃん」
「了解です……!やってたら、なんか思いつくかも知れませんからね……!」
「思いつかないんじゃないかしら」
「お、思いつかなくても……とりあえず廻理さんをボコせたら、重畳です……!」
「あははっ!残念ながら負けないよ!悪いけど今回も勝たせてもらうおうかな!」
「いいえ、そろそろあたしも勝ちますから……!リベンジマッチ、です……!」
ベニアがすっと立ち上がって、デュエルディスクを構える。
それを受けて、廻理も同じように立って構えを取る。
ふたりとも楽しそうに、前向きに。
その光景は…………どこか幸せさえ感じて。
(…………あぁ、羨ましいわね)
仮に全部が解決して、アタシも彼らについっていったとしたら、こんな風に笑えるのだろうか。
梨々華とするみたいに、純粋にデュエルを楽しんだりして、ワイワイして……。
そんな温かい時間を、手にすることができたり、なんて。
夢物語だってことは分かってる。
でも、惹かれるアタシがいる。
思えば、アタシは梨々華以外とデュエルしたことはなかった。
会話だって梨々華やお母様くらいとしかしたことないし、友達なんて1人もいない。
アタシの人生は、寂しくて、腐っている。
そんな人生を変えてくれるかも、って思ったりして。
(なんてね……)
きっと、アタシの未来は変わらない。
アタシの命は、ここで終わる。
生きてどこかへ行くなんて、できっこない。
(どこにも行けないなら……精々、眺めていようかしら)
アタシにハッピーエンドなんてありはしない。
ならばせめて、幸せそうな人を見ていよう。
ちょうど面白そうなデュエルが始まるところだ。
そうして廻理とベニアに目を向ける。
その瞬間、扉が軋む音が、微かに聞こえた。
──────パンッ。
乾いた音が部屋に鳴り響いた。
それと同時に、ベニアの白い服が、赤く染まる。
「…………うそ」
ベニアが受け身も取れずに床に倒れる。
そこでアタシはようやく、彼女が銃で撃たれたのだと気づいた。
「……どこのどいつかな?ベニアちゃんを撃ちやがったのは」
ゆっくりと、廻理が扉のほうを向く。
彼の視線の先には、銃を手にした女がいた。
アタシと同じような黒い長髪の女だ。
アタシとどこか似た顔立ちの女だ。
ソイツは滑稽なくらいに高級ブランドの服を着て、口元を歪ませている。
「うふ、ごめんなさいねぇ?てっかし、ゴミが落ちているのかと思いまして」
甲高い耳障りな女の声が鼓膜を揺らした。
思わず顔をしかめれば、女はさらに声を鳴らす。
「どこのどいつか、だったかしら?
そうねぇ。私は、八重峰墓丹」
女……八重峰墓丹は、一拍置いて、アタシを一瞥する。
「そこの女を産んであげた人、かしらねぇ」
そう言って、女は……アタシの生みの親は。
アタシをこんな風にした元凶は、より一層口を歪めた。