遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻 作:胡麻野すり子
今回も楽しんでくれますと、とても嬉しいです!
ピロリン♪ピロリン♪
深夜のコンビニの自動ドアを潜れば、警戒なメロディーがボク達を出迎えてくれた。
そのままボクは手を引いて、一目散に弁当コーナーに向かう。
「わぁ………!あ、あのっ、本当に……なんでも選んでいいんですか…!?」
「うん、400円以内ならいいよ。ベニアちゃん」
答えると、少女──ベニアちゃんは目をキラキラと輝かせて、冷えたお弁当を物色し始めた。
(……子犬みたいだなぁ)
はしゃぐ彼女の背中を見つつ、そんなことを思う。
もっとも、その子犬はやせ細り、右目は潰れて肩を切り裂かれているのだけれど。
「どれも……美味しそう…………」
「あはは。悩むのもいいけど……あんまり長居するのも迷惑になるから、あと5分で決めてね」
「は、はい……わかりました……!」
ボクにそう言われて、ベニアちゃんは急いで食べたい商品を決めようとする。
そんな彼女を微笑ましく思いつつ、ボクはこうなった経緯を思い返していた。
──────────────────────────────
「連れて行ってくれませんか、ねぇ………」
頭を掻きながら、床に倒れ伏す少女を見る。
その子はまぁ、なんというか、分かりやすく薄幸な女の子だった。
骨と皮だけみたいな細い身体。
その病的に白い肢体の上には、おびただしい程の傷跡が刻まれている。
潰れた眼球と、血を吹き出す右肩を見るに、重度の虐待を受けてきたのだろう。
そして特徴的なのは、その痛んだ髪色。
ストレスで変色したと思しき真っ白な髪に、ところどころ混ざった黒い髪。
元々は綺麗な黒髪だったんだろうなと思うと、その姿には悲壮感を覚える。
「お、お願いします……!あたし、帰る場所……なくて……!」
「あー……家族が死んじゃってる系?」
「は、はい……死んじゃってる系です……!」
可哀想に。
同情しておくとしよう。
「うーん、身寄りがないのは分かったけどさ、ボクについてこなくたって良いんじゃないかな?」
「…………え、と」
「ほら、施設のお世話になるとかさ?なにも裏デュエル界の人間に頼らなくても良いじゃん」
彼女は被害者で、悪い大人に虐げられていた悲劇の少女だ。
その旨をセキュリティの人に伝えれば、然るべき施設を案内されることだろう。
「キミはまだ普通の暮らしが出来るんだからさ、ボクに『連れてけ~』なんて頼んじゃダメだよ」
そう、まだこの子は普通の世界に戻れるのだ。
今回は運悪く裏デュエル界と関わってしまったが、まだやり直すことだって不可能ではない。
「………いやです」
だが、この少女の答えは変わらなかった。
「あたし、目、潰れて……何回も、レイプされて……こんな、汚い体で、普通になんて……」
「………………………うーん」
まぁ、彼女の言うことも分かると言えば分かる。
この少女は、心も体も壊されたのだ。
一度壊れてしまったものは、二度と元には戻らない。
彼女はこれからの人生を、欠落した体で生き、トラウマを抱えながら消費することになる。
たしかにこの状態で社会復帰するというのは、かなり難しいだろう。
「お願いします……!あたしを、連れて行って……ください…!
なんでも、しますから……!靴だって、舐めますし……せ、セックスだって……!」
あぁ、そういう言葉が出てくるあたり、もうこの子はマトモじゃないんだな。
普通の少女は、体を売ってまで裏デュエル界に堕ちようとしないのだから。
「あ、あたし……レイプされて……ナカ、ぶっ壊れてて、ゆるいかも、ですけど……で、でも……お願いします……!」
「いやぁ、セックスはいいや。キミとやっても心が曇りそうだし」
容姿自体は悪くないし、なんならタイプだけど、流石に可哀想が過ぎる。
快楽よりも同情や哀しみが先に来そうでなんか嫌だ。
要するに、かわいそうなのは抜けない、というやつだ。
(さぁて、どうするかなぁ……)
少女を見下ろしながら考える。
別に、彼女を連れて行くのは問題ない。
事前に話を通せば『孤児院』も彼女を受け入れてくれるはずだ。
そう、連れて行くのは問題ない。
では、なにが問題なのか?。
(連絡するの、面倒だなぁ…………)
そう、とにかく面倒くさいのだ。
唐突だが、ボクは電話が嫌いだ。ついでに人と連絡を取るのも嫌いだ。
だから飼い主様に「ガキが仲間に入れてって言うんですけど~」とか伝えなければいけないと考えると、最高に気が滅入るわけで。
(………よし、言いくるめるか)
テキトーなこと言って納得してもらうとしよう。
さて、どう言ってやろうか。
そう考えていると、突然少女は口を開き、予想外の要求をしてきた。
「…………じゃあ、デュエルしてください…」
「えっ?」
「デュエルで勝ったら、あたしを連れて行ってください……!」
少女は血まみれの体に力を込めて立ち上がり、そのまま近くの死体からデュエルディスクを奪い取る。
その体は明らかに限界だろうに、少女は歯を食いしばって、ディスクにデッキをセットした。
「っ…ぐ…!さぁ……やり、ましょうよ……!」
「ワァオ、下手すりゃ死ぬよー?」
右肩が裂けてるんだ。
その腕じゃドローするだけでも激痛が走るだろう。
血液だってかなり流れている。
この状態でデュエルなんてしようものなら出血多量で死にかねない。
「死にたく、ないです……だから、デュエル……しましょう、よぉ……!」
だというのに、少女はデュエルを挑んでくる。
半泣きの顔で。痛々しい生傷を覗かせて。震える足に鞭を打って。
「えー、参ったなぁ……」
その様子を見て、観念する。
これは何を言ってもダメだろうな。
彼女は意地でもボクについてくる気だ。
「はぁ………まぁいいや。それじゃ、これは実技試験ってことで」
ため息をついて、ボクもまたデュエルディスクを構える。
「万に一つも勝てないだろうけど……もしも本当にキミが勝てたら、何処へだって連れて行ってあげるよ」
「っ!……言い、ましたね……!」
「言ったよ。さ、始めようか」
少女が苦しそうに手札を引く。
ボクは余裕ぶって手札を引く。
「勝ち、ますから……!」
「あはは、負けないよ?」
「「─────
──────────────────────────────
「先攻後攻はキミの好きにしていいよ」
「……じゃあ、先攻で」
「いいね。オーケーだよ」
さて、ボクは後攻か。手札の具合はと……
……チッ、手札に妨害札はなしか。バリバリ邪魔してやろうと思ってたのに。
となると、この1ターン目は、完全に彼女の自由となるわけだ。
「あたしの、ターン……!このカードは、自分のフィールドのモンスターがいない時……モンスターを捨てて、手札から特殊召喚できます……!来て、【スレッショルド・ボーグ】……!」
スレッショルド・ボーグ
レベル7/ATK2400
少女の場に現れるは、電子世界の鋼鉄人形。
ふむ、【スレッショルド・ボーグ】……たしか、相手の場のモンスターの攻撃力を下げるモンスターだったか。
「さらに……【スレッショルド・ボーグ】の効果で墓地に捨てた、【ドットスケーパー】の効果を発動……!このカードを、特殊召喚します…!」
ドットスケーパー
レベル1/DEF2100
「そして……1000ライフを払って……【ドラゴノイド・ジェネレーター】を発動……!」
「あっ、バカ!ライフコストのあるカードを使ったら……!」
サイコデュエリストとのデュエルでは、すべてのカードが実体化する。
ライフを支払う効果もまた、自らの身を削る痛みとなって現れるのだ。
それを、彼女のボロボロの体で使うものなら………
「ぎぃ……あ、がぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!?!?」
少女が悲鳴を上げ、体を折る。
口からはおびただしい量の血液が吐き出され、床に赤い水たまりを作った。
ベニア
LP4000→3000
「ほーら、言わんこっちゃない!死んでも知らないからね!」
「ぉえ……ぁ、あ……!ど、【ドラゴノイド・ジェネレーター】の……効果発動……!
ドラゴノイドトークンを……1体生成……っ!」
ドラゴノイドトークン
レベル1/DEF300
最早、ボクの声に反応するだけの体力が残されていないのか。
少女はひとりでデュエルを続けていく。
「永続魔法……【冥界の宝札】を発動……!
ドットスケーパーと、ドラゴノイドトークンをリリース、して……アドバンス召喚……!
来て……【パラレルエクシード】……!」
パラレルエクシード
レベル8/ATK2000
「【冥界の宝札】の効果で……2枚ドロー…!
そして、【パラレルエクシード】は、召喚に成功した時……同名カードをレベル4、攻守を半分にして……特殊召喚出来る……!来て、もう一体の【パラレルエクシード】……っ」
パラレルエクシード
レベル4/ATK1000
「特殊召喚された【パラレルエクシード】の効果で……もう一体の、【パラレルエクシード】を…特殊、召喚……!」
そ、して……手札から、【カード・アドバンス】を発動……!
デッキトップ5枚を……確認して、好きな順番で戻し、ます……!」
倉庫内を漂うパラレルエクシードの姿にノイズが走る。
やがてノイズがやめば、そこには同じ姿をした電子竜が3体並んでいた。
「……【カード・アドバンス】の効果で、あたしはもう一度……アドバンス召喚が行えます……!
パラレルエクシードを2体リリース…!
来て……【セグメンタル・ドラゴン】……ッ!」
2体のパラレルエクシードを贄とし、コードを靡かせた電機の龍が現れる。
「【冥界の宝札】で……2枚ドロー……!
魔法カード【
【ドラゴノイド・ジェネレーター】で……トークンを生成して……!」
「うげぇ、まだアドバンス召喚できるの?」
「パラレルエクシードと、ドラゴノイドトークンをリリース……!
来て、【クラッキング・ドラゴン】……ッ!!」
浮上するは、緑の光を灯した黒の巨竜。
鋭角的なシルエットを持つ電子竜は、ボクを睨みつけて大きく吠えた。
クラッキング・ドラゴン
レベル8/ATK3000
「【冥界の宝札】で、2枚ドロー……!
カードを1枚伏せて……エンドフェイズ時、【ドラゴノイド・ジェネレーター】の効果発動……。
貴方の場に、ドラゴノイドトークンが2体、生成されます……」
ベニア
LP3000
場:スレッショルド・ボーグ
セグメンタル・ドラゴン
クラッキング・ドラゴン
手札:1
伏せ:1
………凄いな、この子。
よくもまぁ、これだけモンスターの並べたもんだ。
合計6枚ドローして、3回もアドバンス召喚をしてくるとは。
それに、並べたモンスターも決して弱いわけじゃない。
1体1体が十分に脅威。突破するのは簡単じゃない。
【セグメンタル・ドラゴン】は自身を破壊して、その攻撃力以下の全モンスターを破壊する効果を持ってる。
【スレッショルド・ボーグ】は相手フィールドのモンスターの攻撃力を500下げてくる、か。
そんでもって【セグメンタル・ドラゴン】の攻撃力は2600。
つまり、
「どうすっかなぁ……」
【セグメンタル・ドラゴン】の効果、相手ターンでも使えるんだよなぁ……。
しかも場には攻撃力を下げてダメージを与えてくる【クラッキング・ドラゴン】もいる。
下手にモンスターを出せばそれだけで死ぬ状況だ。さぁて、どうするか……?
「ま、やるだけやりますか。ボクのターン、ドロー」
引いたカードは……………ダメだな。現状を打破するには足りない。
なら、返しのターンに備えるとしようか。
「キミがくれたドラゴノイドトークン2体をリリースして、モンスターをセットするよ。
でもってカードを3枚伏せてターンエンド。はい、キミの番だよ」
廻理
LP4000
場:???
伏せ:3
手札:2
大きくは動かず、カードを何枚か伏せるだけ。
けれど、これでいい。これが今できる最善だ。
「………あたしの、ターン……ドロー…!」
少女がカードをドローした瞬間。
すかさず、ついさっき張った罠を作動させる。
「その瞬間、リバースカードオープン!永続罠【星遺物の傀儡】!
ボクのフィールドの裏側表示モンスターを表側守備表示に変更する!
さ、やっちゃって!【禁忌の壺】!」
禁忌の壺
レベル9/DEF3000
【禁忌の壺】には、4つの効果が存在し、そのうちから1つを選んで発動することが出来る。
1つは、デッキから2枚ドローする効果
2つは、フィールドの全ての魔法・罠カードの手札に戻す効果。
3つは、相手の手札を確認し、1枚をデッキトップに置く効果。
そして4つは………。
「【禁忌の壺】のリバース効果発動!
キミの場のモンスターを全て破壊するよ!」
これが、4つ目の効果。
相手フィールドのモンスターを全て破壊する効果。
かのサンダー・ボルトと同じ、全体除去効果である。
これで、彼女の場はガラ空きになるが………
「なっ……!くっ、【セグメンタル・ドラゴン】の効果……発動…!
攻撃力2600以下の全モンスターを、破壊します……!」
やられてもタダじゃ終わらないか。
禁忌の壺に合わせて、セグメンタル・ドラゴンの効果が発動する。
「やって!禁忌の壺!」
「お願い……セグメンタル・ドラゴン……ッ!」
禁忌なる壺から溢れるは、雷の災い。
相対する電機竜がもたらすは、紫電の閃光。
互いの雷光がぶつかり、混ざり合い、場に立つ全てを焼き切っていく。
「あはは!フィールドが綺麗になったねぇ!」
「くぅ……!【ドラゴノイド・ジェネレーター】の効果を2回使用……!
生成された2体をリリース……!来て、【ジュラック・タイタン】……!」
ジュラック・タイタン
レベル9/ATK3000
「【冥界の宝札】で、2枚ドロー……!
【貪欲な壺】を発動…!モンスター5枚を、デッキに戻して……2枚、ドロー!
そして、墓地に残した【ドットスケーパー】と…【パラレルエクシード】を除外……!
来て、【デグレネード・バスター】……!」
デグレネード・バスター
レベル7/ATK2500
……これは、止まらないな。
彼女の場に降り立った赤い戦士を見て、思う。
この動きから考えるに、まだまだ大型モンスターを出す気だろう。
「【デグレネード・バスター】は、墓地のサイバースを2体除外して、特殊召喚できます……!
さらに……除外した、【ドットスケーパー】の効果…発動…!
このカードを、特殊召喚……します…!」
ドットスケーパー
レベル1/DEF2100
「更に……手札の、【キャシー・イブL2】の、効果発動…!
【デグレネード・バスター】の、レベルを2つ下げて……特殊召喚、します…!」
キャシー・イヴL2
レベル2/DEF600
全く手札が途切れない。リソースが枯渇しない。
それが、彼女のデッキの本質か。
バカみたいにシンプルだが……故に、強い。
「魔法カード……【二重召喚】……!
【ドットスケーパー】と……【キャシー・イヴL2】を、リリース…!
アドバンス召喚……!来て…【メタファイズ・アームド・ドラゴン】……!」
メタファイズ・アームド・ドラゴン
レベル7/ATK2800
「ちぇ……せっかく一掃したのに。まぁた同じくらいヤバい盤面を作っちゃってさ」
「はぁ……っ!ぐっ……!【冥界の宝札】でぇ……2枚、ドロー…!」
圧倒的な盤面に反して、少女は息も絶え絶えにカードを引く。
(……傷だらけで、血もほとんど抜けた体で、よくもまぁここまでデッキを回せたね)
その手腕には舌を巻く。
普通の少女なら、大怪我をした状態でここまでのデュエルは出来ないだろう。
「……バトル、フェイズ……!」
「おっと危ない。罠カード【クローラー・パラディオン】を発動!
このカードは発動後、モンスターとしてフィールドに特殊召喚されるよ!」
クローラー・パラディオン
レベル2/DEF2100
「………っ!?」
「流石にガラ空きってわけにはいかないからねぇ。壁ぐらいは作らせて貰うよ」
「なら……!……【ジュラック・タイタン】で……【クローラー・パラディオン】を、攻撃…!」
関係ないと言わんばかりに、紅蓮の恐竜が襲いくる。
ジュラック・タイタンは口に炎を蓄え、矮小な怪蟲を焼き尽くそうとする。
「やらせないよ!リバースカードオープン!【マジカルシルクハット】!」
「………えっ?」
炎に焼かれる前に、3つのシルクハットがボクのフィールドに落ちてくる。
「【マジカルシルクハット】は、デッキの魔法・罠2枚を通常モンスター扱いとして裏側表示でセットし、場のモンスターと混ぜることが出来る。
でもって、対象とした罠モンスターの【クローラー・パラディオン】は再びセットされるよ」
3つのシルクハットのうち、1つがクローラーを覆い隠し、姿を消す。
これで、残す帽子はあと2つ。そして、ボクはこの2つの帽子に、魔法か罠を隠す事ができる。
「さてと、なにをシルクハットに隠そうかな………うーん、これでいっか」
そう言って、ボクは少女に2枚のカードを見せてあげた。
「はい。【
「ギア……タウン……!?」
シルクハットに隠されるは、古代の歯車の街。
崩壊と共に、歯車の怪物を呼び起こすカード。
「さ、どうする?攻撃する?でもまぁ、アンティーク・ギアが出てきて終わりだけどね」
「っ………!バトルフェイズを終了……します…!」
「バトルフェイズ終了時、【マジカルシルクハット】の効果で特殊召喚された【歯車街】は破壊される。そして破壊された【歯車街】の効果発動。
デッキから【
古代の機械熱核竜
レベル9/ATK3000
シルクハットの中から、機械仕掛けの巨竜が飛び出す。
二匹のリアクターはそのまま宙を舞い、威嚇するように咆哮した。
「……なにも、できない……エンドフェイズに…移行…します……
…【ドラゴノイド・ジェネレーター】の効果が発動…して…貴方の場にドラゴノイドトークンを2体作ります……」
ベニア
LP3000
場:ジュラック・タイタン
デグレネード・バスター
メタファイズ・アームド・ドラゴン
伏せ:1枚
手札:2枚
「ふーん。いいね、キミ。普通に強いよ」
「はぁ………っう……はぁ…っ!」
素直に強いと思ったので称賛してみたのだが、彼女はそんな言葉を聞く余力がないらしく、荒い息を吐くばかりだった。
「やっぱさぁ、【ドラゴノイド・ジェネレーター】使ったのは失敗だって。死にそうになってんじゃん」
ボクらがやるサイコデュエルにおける1000のコストは意外に重い。
単純計算で体の4分の1を削り取られるような耐え難い苦痛に襲われることになるのだ。
それは、先のデュエルで示されていたし、彼女もその危険性を理解していたとは思うのだが……
「……そこまでして行きたいかな?裏デュエル界にさ」
危険性を理解した上で、勝つためにカードを使ったのなら。
それは、身を削ってでもボクのいる世界に堕ちようとした、ということだろう。
「言っちゃ悪いけどロクなとこじゃないよ。安い金でコキ使われるし、いるのは人間失格のクズばっかりだしさぁ」
それなりに長くこの世界で生きてきたが、まぁ本当にロクな場所じゃない。
知り合う人間はクズか狂人ばかりだし、倫理観なんてないせいで犯罪が横行している。
殺人なんて当たり前、強姦なんて日常茶飯事。
はっきり言ってクソみたいな世界だ。
「……………それ、でも……」
死にかけで、まともに返事も出来なかった少女が、絞り出すように口を開く。
「……居場所…に…なるなら……どこだって……」
少女から出てきたのは、あまりにささやかな願いだった。
「………誰かと…一緒、に……」
『居場所が欲しい』
それが、この子の全てなのだろうか。
あぁ、あまりにも小さく、簡単な願いだ。
けれど彼女にとっては、どこまでも遠く、難しい願いなんだろう。
「……はじめて……助けて、くれた………から…」
じぃっと、ボクを見つめて。
少女は言葉を紡ぐ。
「だから…………」
だからボクのいる場所に行きたいって?
ボクが、キミを助けてあげたから?
「えー……こっちはただ仕事でギャングを殺しただけだよー?」
この子、ボクのことを正義のヒーローかなんかと勘違いしちゃいないか?
ボクは連絡が面倒でテキトーにキミをあしらおうとしたクズだぜ?
「………………………」
「ちょ、やめてよ!?そんなうるうるした目で見るんじゃないよ!?」
あまりに純真な感情の籠もった瞳で見てくるものだから、思わずボクは目を背けてしまった。
困るんだよなぁ、そんな明るい感情を向けられると。
本当に、キミのことを助けてあげたくなってきちゃうからさ。
「あー、もう………キミ、名前は?」
「…………ベニア、です」
「ベニアちゃんね。ボクは遊針廻理……ってさっき名乗ったか」
ベニア。その名前を頭の中で繰り返して、記憶する。
「さて、ベニアちゃん。これからボクはキミに勝つから」
「…………っ!」
唐突な勝利宣言に、少女は……ベニアは身構える。
「……負け、ません…!勝つのは……あたし……」
「いいや。勝つのはボクだよ。ボクのターン、ドロー!」
勢いよくカードを引く。
さて引いたのは……うん、これなら行ける。
「っ!【デグレネード・バスター】の……効果発動……!
このカードより、攻撃力の高い相手フィールドのモンスターを……エンドフェイズまで、除外します……!リアクタードラゴンを、除外……!」
「あぁ、リアクターが!?」
憐れ。歯車の竜は虚空に飲まれて消失する。
その様子を隣で見ていたもう一体のリアクターも、あっけなく消えたリアクターに驚いた様子を見せた。
「まぁいいさ、想定内だよ。まずはモンスターをセットし、【聖遺物の傀儡】を発動!
今しがたセットしたモンスターを表側守備表示に変更する!
起きて、【クローラー・デンドライト】!」
クローラー・デンドライト
レベル2/DEF600
這いずり出るはクローラーの神経の一つ。
四本の足で立つ、背の高い機怪蟲が目を覚ます。
「【デンドライト】はリバースしたとき、デッキからカードを1枚墓地に送ることが出来る。
ボクは【究極変異態・インセクト
さて、これでパーツは全て揃った。
あとは、それらを作動させていくだけでいい。
「ボクは【デンドライト】と【ドラゴノイドトークン】をリンクマーカーにセット!
召喚条件はカード名が異なるモンスター2体!
リンク召喚!おいで、【虫忍ハガクレミノ】!!」
虫忍ハガクレミノ
リンク2/リンクマーカー:左上 下/ATK1000
藍色の門から現れるは、すらりとした緑の虫。
ヒトに似たカタチをしたそれの立ち姿は、その名の通り『忍』のようであった。
「続けて伏せていた【クローラー・パラディオン】を発動!
このカードを【ハガクレミノ】のリンク先にモンスターとして特殊召喚するよ!」
クローラー・パラディオン
レベル2/ATK300
「【クローラー・パラディオン】がリンクモンスターのリンク先に特殊召喚されたとき、デッキから星遺物カードを手札に加えることができる。さて、持ってくるのは………」
ちらりと、ベニアの場に伏せられているカードを見る。
「……うん、【星遺物を巡る戦い】を手札に加えるよ。
でもって、手札から【死者蘇生】を発動!
墓地の【究極変異態・インセクト
その瞬間、虫たちがかしずいた。
蘇るは、蟲の女王。
王冠が如き触覚を持ち、優雅な笑みを湛えた、王たる蟲。
究極変異態・インセクト女王
レベル7/ATK2800
「あとは、手札からフィールド魔法【
そしてバトルフェイズ!【クローラー・パラディオン】で【ジュラック・タイタン】を攻撃!」
「なっ……!?攻撃力、たったの300のモンスターで……!?」
紅蓮の恐竜に特攻するちっぽけな機怪蟲に、ベニアが驚いた声を上げる。
それもそのはず、【パラディオン】の攻撃力は300しかなく、対する【ジュラック・タイタン】の攻撃力は3000もあるからだ。
逆立ちしたって勝てるはずがない。
それでも突撃を仕掛ける怪蟲を、紅い恐竜は鬱陶しそうに足で踏み潰した。
「……【クローラー・パラディオン】は、返り討ち……です……!
さぁ、ダメージを……受けて………」
「受けないよ。【G・ボールパーク】の効果発動!
1ターンに1度、戦闘ダメージを無効にし、デッキからレベル4以下の昆虫族モンスターを墓地に送る!
さらに、そのカードが通常モンスターだった場合、手札・デッキから好きなだけ同名カードを特殊召喚できる!
ボクが墓地に送るのは、通常モンスターの【G戦隊 シャインブラック】!よって、デッキから【G戦隊 シャインブラック】2体を特殊召喚!」
G戦隊 シャインブラック
レベル4/ATK2000
機怪蟲が踏み潰される音を聞きつけて、黒いスーツに身を包んだヒーローが颯爽と現れる。
ふたりの【シャインブラック】が登場と共にポーズを決めれば、背後で爆発が起こった。
なんで爆破したのかは分からない。
「……今更、モンスターが……出てきたって………」
「いいや、これで終わりだよ。
【究極変異態・インセクト女王】で【デグレネード・バスター】を攻撃」
麗しき女王蟲は、澄んだ緑の羽を震わせて、デグレネード・バスターに迫る。
やがてデグレネード・バスターを捕まえたインセクト女王は、その足でデグレネードの頭部を掴み、捻じ切り殺した。
「くっ………デグレネード・バスター……!」
ベニア
LP3000→2700
「さて、【インセクト女王】の効果発動。フィールドの【ドラゴノイドトークン】をリリースし、続けてモンスターに攻撃するよ」
「連続攻撃……!?じゃあ……!」
「気づいたようだね。【メタファイズ・アームド・ドラゴン】は【インセクト女王】で破壊する。
で、攻撃力3000の【ジュラック・タイタン】は、同じく攻撃力3000の【リアクター】と心中して貰う」
淡々と言い放つと、宙を飛んでいたリアクターが二度見してきた。
やめてくれ、そんな「えっ?マジっすか?」みたいな目でボクを見るな。
「こほんっ。そういうわけで、キミのフィールドはガラ空きになって、その後は【シャインブラック】達がトドメを刺してくれる。残念だけど、キミの負けだよ。」
「………………………………………」
「さぁ、やって、女王様。【インセクト女王】で【メタファイズ・アームド・ドラゴン】を攻撃」
今度は幻想の竜を屠ろうと、女王はその足を伸ばす。
これで、全てが終わり。
「…………やらせない…!リバースカードオープン───」
否。終わりじゃない。
少女はまだ、終わらせるつもりはない。
「────速攻魔法【ライバル・アライバル】!!」
伏せられていたカードが発動する。
それは、新たなるモンスターを呼ぶ魔法。
「このカードにより……あたしは、モンスター1体を………召喚します……!
【メタファイズ・アームド・ドラゴン】と……【ジュラック・タイタン】を、リリース……!」
二匹の竜が、贄となる。
そうして現れるは、鋼鉄の身体を持つ怪獣。
「来て……!【壊星壊獣ジズキエル】……ッ!!」
壊星怪壊ジズキエル
レベル10/ATK3300
巨大な翼と、垂れた尾。
爛々と輝く橙色と、鈍い鋼の色。
壊星壊獣ジズキエル。
視界を覆うほどの鋼鉄の怪物が、今ここに空を舞う。
「攻撃力3300………」
「これ、で……貴方は……なにも、破壊できない……!」
ボクの場にある最高打点、リアクターでも突破できない火力。
ただその場に存在するだけでも、厚い壁となる存在感。
なるほど確かに、これは正攻法ではどうにもならないな。
「まだ……まだ、あたしは……負け、ません……!」
「あはは。凄いよ、本当に。まさかこんなのまで出てくるとは思わなかった」
なんか持ってるだろうなとは思ったけど、よもやここまでのモンスターが飛び出すとは。
本当に、彼女のデュエルには舌を巻くばかりだ。
まぁ、でも。
「そう来るとは思ってたよ」
残念ながら、想定の範囲内だ。
「…………えっ?」
呆けた顔のベニアを尻目に、ボクは命令を下す。
倒すための命令。そして、勝つための命令を。
「構わないさ。【インセクト女王】で、【ジズキエル】を攻撃!」
いかに敵が強大だとしても、女王は怯まない。
気高く、美しく、女王は壊獣を仕留めんと飛翔する。
「無理、ですよ……!【ジズキエル】は、倒せない……!」
「倒すんだよ。速攻魔法発動!【星遺物を巡る戦い】!」
それは、クローラーが持ってきてくれたカード。
この勝負に決着をつけるための、最後の1枚。
「自分フィールドのモンスター1体をリリースすることで、その元々の攻撃力・守備力分だけ、相手モンスターのそれぞれの数値を下げることができる!
ボクは【ハガクレミノ】をリリースし【ジズキエル】の攻撃力を1000ポイント下げる!!」
「そ…そんな……!?」
壊星怪獣ジズキエル
ATK3300→2300
迫りくる女王蟲を迎え撃とうと、ジズキエルが駆動する。
そのとき、空に無数の木の葉が舞った。
それは、虫忍の秘密工作。
木の葉がインセクト女王を隠し、ジズキエルの眼を惑わせる。
そのまま、木の葉の緑に紛れて。
女王の脚が鋼鉄の怪獣を捉えて。
鉄の割れる音とともに、怪獣は引き裂かれたのだった。
ベニア
LP2700→2200
「………読んで……いたんですか……?
あたしが……【ライバル・アライバル】を……伏せてる、って……」
愕然とした様子で、ベニアがボクに問いてくる。
「キミはアドバンス召喚を主体とするデッキみたいだったからさ。
まぁ、そのカードが投入されているとは思ったよ」
「それで……攻撃力を下げられる……【星遺物を巡る戦い】を………」
「保険みたいなものだよ。だって、ほら?」
皮肉っぽくならないように気をつけて、出来る限りの優しい笑顔を浮かべる。
「キミ、強かったからさ」
本当に、彼女は強かった。
もしも【星遺物を巡る戦い】を手札に加えていなければ、勝負は分からなかった。
だから、このカードをサーチしたのは完全に保険だった。
彼女の実力を恐れたがゆえの、保険だった。
「でも、これで終わりだよ。
【古代の機械熱核竜】でダイレクトアタック!」
歯車仕掛けの竜が宙で身を翻す。
簡単に人を殺せてしまいそうな機械の竜は、そうして少女に襲いかかる。
「……………っ」
それを見たベニアは、きつく目を瞑り、身体をぎゅっと抱いた。
殺されると、ここで死ぬのだと。
その恐怖を抑えるように。
やがて、リアクターはその尾を振るって………
「……いたっ」
ぺちん、と優しく、少女のおでこに尻尾を当てた。
ベニア
LP2200→0
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「………あ、あたし……生きて、る……?」
リアクターに小突かれたベニアは、額を抑えて驚いた顔をしていた。
どうやら、本気で殺されると思っていたようだ。
「ヤダなぁ。殺さないよ。殺してもいいことないしさぁ」
カードを片付けながら、彼女の側に近づく。
少女はただただ、おろおろと狼狽えるばかりだった。
「………ぁ……ぇっと……あたし…勝てなかったんですね……」
「まぁそうだね。残念ながら」
落ち込んでいるのか、ベニアは俯いて自分の足元を見つめていた。
それから数秒後。彼女はばっと顔を上げ、ボクと目を合わせて口を開く。
「……でも……負けたら、諦めるって……言ってません……」
「………………え?」
言われて思い返す。
そうだ、ベニアは「デュエルで勝ったら連れて行ってください」とは言ったが、「負けたら諦める」とは言っていない。
加えてボク自身も、彼女が負けた場合のことを詳しく言及していなかった。
「なので……連れて行って、ください……!」
「あはは………なるほど、これは一本取られたな……」
ため息を一つ。
どうやら彼女は、ボクが思っている以上に強かなようだ。
ま、いっか。
彼女は十分強いし。
「しょうがない。連れってあげるよ」
「………えっ」
「なにその反応。キミが望んだんでしょ?」
ぶっちゃけ、デュエルが終わった時点でベニアは連れて帰ろうと考えていた。
これだけ強ければ、すぐに殺されることもないだろう。
居場所が欲しいなどと願う薄幸な少女。
まぁ、気まぐれに居場所を作ってあげても、バチは当たらないだろうしさ。
「…は、はい……!よろしく、お願いします……!」
快活に返事をして、ベニアは深く頭を下げる。
それと同時に、彼女のお腹が大きく鳴った。
「……………なにも、食べてないんです」
「あぁ、だからそんな餓死寸前みたいな顔してるんだ」
酷く痩せ細った彼女の身体を今一度確認する。
ふむ、何日食べてないのかは分からないが………
そろそろ栄養失調で死ぬんじゃないかな。
「はぁ……しょうがない。なんか奢ってあげるよ」
「ほ、ホントですか……!?」
「ホントホント………うん」
言いながらポケットの中を漁り、入っていた硬貨を取り出す。
「400円以内でね」
そうしてボクの
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
1話の方もたくさんの人に読んでいただけたみたいで、とても嬉しいです!
まだ手探りではありますが、これからも書いていこうと思います!
(2022/04/21 追記)
デュエルパートですが、ルールミスやテキストの読み間違い、処理順ミスなどがいくらか見つかりました。
マスターデュエルで正しい処理が分かったので19話以降はミスが減っていくと思います。
また、過去のミスも修正していこうと考えていますが、それよりもまず話を進めたいという思いがあり、修正は後々ゆっくりとやらせていただきます。
それでは、また次回でお会いしましょう!