遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻 作:胡麻野すり子
単純に最悪。
ボクの頭の中に、そんな言葉が浮かんだ。
少し視線を動かせば、凶弾に倒れたベニアちゃんの姿が映る。
それから視線を戻せば、今度は銃を構えた女が見えた。
──八重峰墓丹。
葛さんを産んだと言ったソイツは、銃口を向けたまま口を開く。
「えぇと、結局貴方たちはゴミってことでよかったかしらねぇ?」
「社会のゴミではあるよ。初対面で銃をぶっ放してくるおねーさんと同類だね。
あぁ、ごめん。おねーさんって歳じゃなかったね、おばーさん?」
「うふ、賑やかなお口ねぇ。真っ赤にお化粧してあげようかしら?拳銃の口紅で、ね」
「あははっ、血のルージュなんていらないよ。
安物のリップクリームで十分なんでね」
カチリと撃鉄が落ちる。
いつでも撃てるんだぞ、という通告のつもりか。
「で?お前が葛さんの母親ってのは分かったけど、なんだって生きてるのかな?
アンタ確か、暗殺されたんじゃなかったっけ?」
「そうねぇ、確かに私は殺されたわ。
あの鳴金雄太郎のせいでねぇ」
「じゃあ今動いてるアンタはなにかな?ゾンビかなにかってこと?」
「まさか。ゾンビなんて気持ち悪いモノじゃないわぁ。
私はねぇ、蘇ったのよ。冥府からね」
「蘇った?」
八重峰墓丹はそう言って、首から下げたネックレスを空いた手で弄る。
それは、六芒星の魔法陣を模した、どこか宗教的なデザインの首飾りだった。
「大地の神々、その巫女の手で私の魂は現し世へ戻り、肉体を取り戻して────」
「なにやらスピリチュアルな妄想に取り憑かれているようだけど……
それで、自称冥府から蘇ったアンタはなにが目的だい?」
この手の人種の妄言に耳を傾ける必要はない。
八重峰の胡乱な言葉を遮り、とっとと本題に入る。
「……神を信じないなんて、罰当たりねぇ。
まあいいわ。せっかくだし、私の目的を教えてあげる。
えぇ、冥土の土産というやつにねぇ」
そう言って、八重峰は気持ち悪く口角を釣り上げる。
「私の目的は単純。鳴金雄太郎への復讐、よ」
「復讐?」
「うふ、あの人はねぇ、酷い男なのよ?散々私の身体を貸してやったのに、私が妊娠した途端に『堕ろせ』だとかギャーギャー喚くしぃ、産んでやったら即追放だなんて、ねぇ?
あーあ、下手くそなセックスに付き合ってやったのも、仕方なく子供を産んでやったのも、ぜぇんぶパァじゃないの」
「…………実の娘の前で話すことじゃないね」
ちらりと葛さんを見る。
彼女の顔はなにも変わらなかったが……
僅かに瞳が揺れたのを、ボクは見逃さなかった。
「はぁ……ソレを娘と思ったことはないわぁ。
だってぇ、全然私の得にならなかったのよぉ?」
わざとらしくため息をつき、女がやれやれと肩をすくめる。
「子供を産んどけば鳴金雄太郎に責任を取らせて金を毟れそうだって思ったのにねぇ?
それかお優しい美天様が憐れみで大金を恵んでくれないかと期待していたのにねぇ?
なのに鳴金のご夫婦はとんでもないケチで、私に1円も金をくれはしなかったわぁ」
「だから復讐するって?」
「うふ、そうねぇ、その通りよ。不倫してやったのに見返りを寄越さなかった鳴金雄太郎に、私になにも与えなかった鳴金美天に、のうのうと豪邸で暮らす鳴金の子供に、産んでやったのに1円の価値にもならなかったゴミ以下の子供に、私は復讐するの」
ため息が漏れる。
今度はボクのため息だ。
「鳴金家への見当違いな復讐が目的か。
そのために葛さんを地下に閉じ込めたのかい?」
「えぇ、丁度サイコデュエリストに覚醒したところを操り、地下迷宮を作らせたわぁ」
「なんだってそんなまどろっこしい事をしたんだい?
復讐したいなら鳴金雄太郎の眉間に銃弾をぶち込むだけで終わるだろうに」
「そうともいかないのよねぇ。蘇った私は力が足りなかったから。
当時は本当に参ったわぁ。実体を作る力さえなかったのよ?
だからそれを補い、蓄えるためにそこの子供を捕らえて、力を吸い取る必要があったのよねぇ」
「また意味不明なことを…………いや、今はいいか。
じゃあお前は、その力とやらを蓄えてから鳴金家の人を殺す計画を企てたんだな?」
酷い妄想ではあるが、八重峰に一定のロジックが存在したのは理解できた。
おそらくだが、こういうことだろう。
まず前提として、八重峰墓丹は蘇った。
蘇ったからか、力が足りなかった。
力が足りなかったから、力を蓄える必要があった。
力を蓄えるために、偶然サイコデュエリストになった葛さんを手に入れた。
その葛さんから、力を吸い取れることが分かった。
力を吸い取るのを邪魔されないように、地下迷宮を葛さんに作らせた。
結果から逆算した推測だが、このイカレ女はこんなロジックの下で凶行を起こしたのだろう。
「なかなか理解が早いじゃない。けれど、少し違うわぁ。
私はねぇ、ただ殺すなんてことはしないの」
「拷問にでもかけるのかい?」
「まさか。そんな物騒なことはしないわぁ。もっと穏便よ。
私はねぇ、鳴金雄太郎に遺書を書かせるの。
そう、『八重峰墓丹に遺産全てを譲渡します』って、ねぇ。
これでようやく、私は大金をこの手に納めることができるわぁ……!」
女はパァっと明るい表情を浮かべる。
その背後から、執事姿の男がぬるりと顔を出す。
「おい、喋りすぎだぞ八重峰。そこのカスにペラペラ話してやる意味はないだろうが」
現れた男は、苛ついた声で八重峰を注意する。
そんな声と顔に、ボクは見覚えがあった。
「どこの誰かと思えば屋敷のクソ執事さんじゃんか。
へぇ、アンタはそこの電波おばーさんと仲間だったんだね」
「誰がこんなクズババアと仲間になるか。気色悪い」
「あっそ。そういやアンタにも1つ聞きたいことがあったんだよね」
そうして、ボクはある予想を男にぶつける。
「鳴金美天さんを殺したの、アンタだろ」
「…………ふん。正解だよクソガキ」
あぁ、やっぱりか。
確証はなかったが、予感はあった。
そしてそれは、どうやら的中していたようで。
「……動機は屍姦かい?」
「いいや。俺はただ、鳴金美天という女を犯し尽くしてやりたかっただけだ。
首を締めながらレイプをしていたら結果として死んだにすぎない。
お前は知ってるか?首を締めてやると膣内も締まってだな……」
「知ってるし聞きたくもないよ。
美天さんの死体を保存して操ってるのも、アンタの変態性癖の一環か?」
気分の悪い話を切って、さらに問いただす。
「変態性癖?あぁ、お前のようなクズには理解できないんだろうな。
俺は美しい女を永遠に、そのままの状態にしてやってるんだ。
美天も俺のラブドールにされて喜んでいることだろう」
「なるほど、アンタの言う通り全く理解できないね。
まぁでも、あのとき美天さんの死体を壊せて良かったことだけは分かったかな」
「………………あ?」
そんなボクの言葉に、男は顔を歪ませ、怒りの形相を見せる。
「そうだ、お前だ。お前のせいで俺の美天が!美しい人形に傷がついてしまった!
ふざけるなクズの分際で!死ね!死ねぇ!死んで詫びろクソガキがァ!!」
髪をかきむしりながら、男が吠える。
馬鹿馬鹿しいったらない。
ボクはただ、その様子を冷めた目で眺めるしかできなかった。
「はいはい…………あぁ、そっか。この変態は美天さんの強姦殺人が目的だったから、おばーさんと利害が一致したのか」
「うふ、いい手駒だと思わないかしらねぇ?
そのために、私が死んでから今に至るまでの15年も屋敷に潜伏してのだから」
「ボクには頭の悪い暇人にしか見えないね。
15年間、他にやることがなかったのかい?」
この男の目的が鳴金美天の殺害だったとして、なんだってそんな時間をかけたんだ。
単純な効率だけを考えれば、潜伏した次の日に殺すんだって良かったはずだろうに。
「クク、ククク……!やはりお前は学のないカスだなぁ!
分からないのか?生きた姿を知っているからこそ、死体になったあの女は淫靡なのだ!
穏やかで優しかった女が!性欲のはけ口にされ!拒むこともできず犯される!
十数年をかけて熟成されたそのエロスの至高さがお前には理解できないようだなぁ!」
聞くに堪えない性癖暴露に眉をひそめる。
けれど男は関係ないとばかりに、べらべらと続ける。
「あぁそれに……鳴金家に潜伏して良かったことがもう1つあってなぁ?
俺は常日頃から、自分の手で最高傑作となる女を作り、殺し、犯したいと考えていた。
そして、そんな俺の願いを叶えるチャンスが、鳴金家には転がっていた……!」
「…………梨々華ちゃんか」
「そう!鳴金梨々華!俺が15年前から接触し続け、成長に影響を与えてきた女だ!」
「お前は梨々華ちゃんの側に仕えるフリをして、彼女を自らの理想となるように成長させようとしてきたわけか」
「ああそうだ!赤子の頃から今に至るまで!
俺は鳴金梨々華を矯正し、完璧なラブドールとすべく見守ってきた!
そのかいもあって、梨々華は俺の理想通りに育ってくれたよ……!」
子どもを自分好みに育て娶る。
そういや昔、そんな感じの話を読んだっけ。
そしてこの変質者がやろうとしていることは、まさしくソレだ。
「ふざけないで……!貴方、梨々華をなんだと思って……!」
今で黙っていた葛さんが怒りを露わにする。
けれどその声も怒りも、男には届かなかった。
「クククク!梨々華は15歳、一番食べ頃だ!
ようやく収穫のときが来たのだ!あの女の純潔を奪い、泣かせ、殺し……!
死体となってもなお犯し続けてやろう!」
「ッ!この、下衆が……!」
葛さんが渾身の憎しみを込めて男を睨むが、なにも変わらない。
痛くも痒くもないという風に、男はその目を無視する。
「金にがめついイカレ女と、屍姦趣味の変態クズ男、か。
ちょっとも躊躇せずに殺せそうで助かるよ」
これ以上、話を聞く意味はない。
これ以上、コイツらの話を聞きたくもない。
それにこれ以上、葛さんに聞かせたくない。
もう充分だ。
殺意のままに、デュエルディスクを展開する。
「あらぁ?貴方もしかして、私達とデュエルしようというのかしらぁ?」
「そうだね。ぶっ殺してやるよ」
「まぁ怖い怖い。そんなクズとはデュエルしたくないわぁ」
八重峰が引き金に指をかける。
銃口は依然としてボクを捉えたまま。
「悪いけどボクは銃じゃ殺せないよ。銃弾くらいならかわせるからね」
「それは残念ねぇ。でも…………」
一瞬で、八重峰が銃の向きを変える。
「これならどうかしらねぇ?」
その銃身の先には────葛さんがいた。
「…………そりゃズルいでしょ」
今発砲されたら、葛さんが死ぬ。
悩んでいる時間はなく、選択の余地もない。
彼女の死なせないためにボクのできることは、ひとつだけだ。
「じゃあ、ねぇ?」
葛さんの前に身体を滑り込ませる。
その直後、引き金がひかれて、乾いた音が鳴った。
放たれた銃弾は、一直線にボクへ飛んできて。
葛さんを庇ったボクは、避けることもできなくて。
次の瞬間…………胸に衝撃が走り、ボクの意識は暗転した。