※この作品はR-18です。

遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻   作:胡麻野すり子

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 読んでくださりありがとうございます!
 お待たせいたしました!

 廻理たちが大変なことになっていた一方その頃。
 地上ではなにが起きているのか。

 殺那回です。
 最後のほうに廻理の出番もあります。

 ここから徐々に、暴力のエンジンがかかっていきます。
 では、始まります。


第23話 マザー・マザー・グース

 

 

 それが起こったのは、すっかり日の落ちた21時のこと。

 廻理くんとベニアちゃんが帰ってこなかったなぁ、どうしようかなぁ、と考えながら貸してもらった部屋で寝ようとしていると、ふと屋敷中が騒がしいことに気づいた。

 

 野良猟奇殺人鬼でも迷い込んだのかと廊下に出てみれば、そこにいたのはモンスターの群れ。

 自立する骸骨に、呻き続ける腐肉、彷徨える死体。

 あの地下迷宮で見たアンデット達が、なぜか屋敷を徘徊し暴れまわっていた。

 

 あぁ、これはいけない。

 とっても危険だ。

 

 襲いかかってきたゾンビの頭を壁に叩きつけて潰しつつ、私はそう思った。

 なにがどうしてこんな事態に陥ったのかは分からないが、モンスターが地上に出てきている現状は中々にヤバイ。

 とりま剣を振り下ろす骨の戦士を真っ二つに粉砕して、どうするべきか考える。

 

 第一に梨々華ちゃんの保護、その次に地下に潜入。

 これが最善か。

 

 地下で問題が発生したのは明らかだが、それは廻理くん達がどうにかしてくれるはずだ。

 私も行くべきではあるが、最悪後回しにしても不都合は生じない。

 ならば私がやるべきは、梨々華ちゃんをモンスターから守ることだろう。

 私はイカレポンチではあるが、流石に普通の少女を見殺しにするのはいたたまれないのだ。

 

 よし。方針は決まった。

 まずは梨々華ちゃんを探そう。

 廊下に並んだ落ち武者の首を素手で刎ねながら、私は屋敷を駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ということがあったのが10分前。

 

「ふふっ。キリが、ない、ね」

 

 靴底で死体を踏み潰し、横から鎌を振り抜くゾンビを避けて、貫手でソイツの頭蓋を貫く。

 柔い。肉が腐ってるからか、生きてる人間よりも簡単に頭部を貫通してしまった。

 

「おわっ!?あ、危なっ……!」

 

 背後から小さく悲鳴が上がる。

 そちらを見れば、梨々華ちゃんが箒で死体と応戦していた。

 

「疾(シ)」

 

 分が悪そうだったので、私はその死体に蹴りを入れ上半身と下半身を分解してあげる。

 

「つ、強っ……どんな身体能力してるんだ………?

 ……いや、違うな。ごめん、ありがとう」

 

「構わない、よ。困った、ときは、お互い様、だから」

 

 梨々華ちゃんに微笑みかけ、背後から忍び寄ってくる腐乱死体をノールックで殴り潰す。

 

 ────梨々華ちゃんの保護は、結構簡単だった。

 ちょっと走り回れば、モンスターに囲まれている彼女の姿を見つけることができた。

 脆いモンスター達は殴ったら動かなくなったので、コトは簡単に済んだ。

 

 それから私は彼女の手を引き、無駄に湧いてくるモンスターを潰しながら屋敷内を逃げ回り……

 そして、今に至る。

 

「うーん、ワラワラ、湧いてくる、ね」

 

 また1体モンスターを潰し、ため息をつく。

 100体くらい肉塊にしてやったのに、まだまだ終りが見えない。

 

 そしてなにより…………退屈だ。

 人をぶっ殺すの気持ちが良くて好きだが、これは退屈だ。

 

 コイツらは悲鳴を上げない。

 痛がらないし、派手に血を吹き出さないし、爽快感がない。

 血液中毒の加虐性愛者を持ってしても、この殺戮は退屈を極めていた。

 

「生きてる、悪人を、ぶっ殺したい、なぁ……」

 

 気兼ねなく殺せる極悪人が唐突にポップしないものか。

 あるいは廻理くんをじっくりねっとり愛し合うように殺せないものか。

 作業的殺戮への飽きはフラストレーションに変わり、最終的には性欲となっていく。

 

 ……身体が疼く。

 殺したい。

 血を浴びたい。

 痛みに泣き叫ぶ声を味わいたい。

 

 殺害への欲求、渇望。殺したい、殺したい、殺したい、殺す、殺す、殺、殺、殺。

 殺、殺、殺、殺、殺、殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺────

 

「だ、大丈夫か…………?」

 

「……おっ、と」

 

 梨々華ちゃんの心配そうな声で、正気に戻る。

 いけないいけない。いくら情欲を持て余しているからといって、ここで盛るのはよろしくない。

 

「大丈夫、だよ。ちょっと、熱くなってた、だけ」

 

 ここで発情しイカれた言動をして梨々華ちゃんにドン引きされるのは避けたい。

 1度深呼吸して、頭に冷静さを呼び戻す。

 

「さて、今後のことを、話そう、か。

 私、的には、地下に、行きたいけど、良き?」

 

「ああ、私もそうしたい。お姉様が心配だ」

 

「オーケー。目的、一緒。凸ろう、か」

 

 殺到するモンスター共を蹴散らし、目的地へと進む。

 殴り飛ばし、首をへし折り、壁にめり込ませ、千切って、投げて、進んでいく。

 

「すごいな……どうすればそんなに強くなれるんだ?」

 

「うーん…………私は、喧嘩慣れ、してる、だけ。

 こんなの、ただの、喧嘩殺法、だよ」

 

「そういうものなのか?」

 

「うん。あっ、でも、人を、殴る、コツとかは、ある、かな」

 

「脇を締めて殴るとかか?」

 

「それも、だけど、なんにも、考えないのが、一番の、コツ。

 顔面殴って、ツバとか、付いたらイヤとか、考えたら、殴れない、から」

 

「なるほど…………勉強になるな」

 

「あと、殴るときは、一撃で、無力化が、オススメ。

 反撃、されると、面倒、だから。

 凶器で、頭を、1発で、潰すと、いいよ」

 

「へぇー……」

 

「ふふっ。いつか、誰か、殴るときは、思い出して、ね」

 

 ほのぼのと雑談に花を咲かせる。

 ちょっと梨々華ちゃんと仲良くなれたかな。

 嬉しみ。

 

「────────っと」

 

 ピタリ。ある部屋の前で、私は立ち止まる。

 

「どうかしたのか?」

 

「んー……寄り道」

 

「寄り道って…………」

 

 言うや否や、私は部屋のドアノブを回す。

 ガチャリ、案の定鍵がかかっていた。

 しょうがない。私は小指を鍵穴に突き刺し、鍵を破壊する。

 最短1秒、道具要らずのお手軽ピッキング。

 ただし鍵は死ぬ。

 

「お邪魔、します」

 

「あっ、ちょっとお前っ」

 

 軽い感じでドアを開き、梨々華ちゃんと一緒に部屋の中へ。

 ぐるりと室内を見渡せば、そこには私の思っていた通りの人物の姿があった。

 

「な、なんだ……!?どうやって入ってきた!?」

 

 いかにも神経質そうな、壮年の男。

 鳴金雄太郎。今回の件の依頼人が、部屋の隅で縮こまっていた。

 

「げぇ……お父様じゃないか」

 

「お疲れ、です」

 

「お前は……『孤児院』のガキと梨々華か。一体なにをしに来た」

 

 梨々華ちゃんを見て、男は安堵した様子を見せる。

 その梨々華ちゃんは、酷くうんざりした顔をしていた。

 

「別、に。現状を、どう思ってるか、聞きに、来た、だけ」

 

「はぁ?学のないカスがそんなことを聞いてどうする?

 お前はさっさとコレを解決しろ!どうせあの害虫がやってるんだろう!?」

 

 癇に障ったらしく、鳴金雄太郎は声を荒らげて立ち上がる。

 顔が赤くなるほど血を上らせて、男は私を睨む。

 

「あの害虫ってお姉様のことを言ってるのか!?」

 

「なにがお姉様だ馬鹿馬鹿しい!アレは売女の娘だ!あのイカレ犯罪者のガキなんだぞ!

 梨々華、お前の姉でもなんでもない!あのアバズレはただの害虫だ!」

 

「貴方の、子ども、なのに?」

 

「あんなアバズレが私の娘な訳ないだろうが!私を侮辱しているのかカスが!

 アレの母親はどうせ他の男とも関係を持っていたはずだ!アレは私の子供ではない!

 この話はこれでいいだろ!さっさとアイツを惨たらしく殺し────」

 

「死ね」

 

 ムカついたので、一気に距離を詰めてこのクズの腹をぶん殴る。

 クリーンヒット。柔らかい腹部に拳が深々と突き刺さった。

 

「ごぼっ!?」

 

 その痛みにクズが身体を折る。

 好都合だ。背中をガッチリと押さえ、何度も何度も膝を叩き込んでやる。

 

「がはっ!あ゛!!ぎばっ!?ぐぁぁっ!?!?」

 

 腹に、胸に、膝がめり込む。

 その感触を充分に愉しんで、〆に男の髪を掴み、顔面を思いっきり床に叩きつけてやった。

 

「ぎべぎゃぁっ!?!?!?」

 

 男は面白い悲鳴を鳴らして、床に沈んだ。

 この感じだと、前歯と鼻がへし折れたことだろう。

 ざまぁみろ。

 

「ふふっ♡クズの、悲鳴は、最高、だね……♡」

 

 無様にピクピクと痙攣するクズの後頭部を踏みつけ、快楽のままに笑う。

 ゾクゾクする。暴力と血の酩酊が心地良い。

 

「あっ、殴って、良き、だった?」

 

「良きだよ。というかコレが父親で私は恥ずかしいよ……」

 

「可哀想、だね」

 

 彼女には心底から同情する。

 普通、親というのはもっと優しいし、良識的な存在のはずなのだ。

 だって、子どもの手本にならないといけないのだから。

 子どもを育て、愛し、守るのが、親の本来の役割だ。

 それを放棄し、汚らしく喚くコレは、親失格というかなんというか。

 

「腹立つ、ね」

 

「全くもってな。出来ることなら縁を切りたいよ」

 

「うーん……ツバ、吐いとく?」

 

「……折角だし吐いとく。ぺっ」

 

 私が足を退けると、梨々華ちゃんは男の後頭部にツバを吐き捨てた。

 どうせなんで私もその上から吐いてやる。

 

「唾とか初めて吐いたな…………こんな感じでいいんだろうか」

 

「うん、初めてにしては、上出来、だよ」

 

「そうか。良かった…………いや良くはないか」

 

 複雑そうな顔の梨々華ちゃんを尻目に、私は部屋を後にする。

 クズ野郎を心いくまでぶん殴ってスッキリしたし、もうここにいる意味はない。

 ドアノブを捻ると、梨々華ちゃんが後ろからついてくる。

 

「なんか私、悪い子になっちまったかな」

 

「ふふっ。ようこそ、悪の世界、へ。歓迎、するよ」

 

「ありがたいな。今度ファックサインのやり方を教えてくれ」

 

 軽口を叩き合いながら、廊下を進んでいく。

 晴れやかな気分だ。

 心なしか梨々華ちゃんの顔も明るい。

 やっぱりストレスに一番効くのは暴力だね。

 

 さてさて、寄り道兼ストレス発散も終わったことだし、廻理くん達を迎えに行くとしよう。

 現在私達は3階にいるから、ちょっと時間がかかっちゃうかな。

 ふむ、床をぶち抜いたほうが早いか。

 でも人様のお家を破壊するのはよろしくないしなぁ。

 

「…………おや?」

 

 なんて思考を遮るように、靴音が響いた。

 カツンという、ハイヒールの硬質な音だ。

 

 視線を音のしたほうへ向ければ、そこには見知らぬ女性がいた。

 金色の髪の、ドレス姿の、どこか梨々華ちゃんに似た顔立ちの…………

 ……胸に大きな穴の開いた、血の気のない女性、だった。

 

「ただ事じゃ、ない、ね」

 

 背筋が震える。

 直感的に、目の前の女性を“悪いモノ”と理解する。

 これは、良くない。

 理由を考える余地も、根拠を並べる時間も必要ない。

 十数メートル先の彼女は、間違いなく害だ。

 

「お、お母様!?」

 

 梨々華ちゃんが現れた女性を目にすると、酷く驚いた声を上げた。

 

「お母様、って…………」

 

「な、なんで今ここに!?今までどこにいたんだ!?どうして、いなくなっちゃったんだよ!?」

 

 うろたえた様子で、梨々華ちゃんが女性に問いかける。

 驚愕、安堵、疑問、喜び、動揺。

 たくさんの感情が混ざった表情で、信じられないといった風に。

 彼女は、お母様と呼んだソレへと歩み寄ろうとした。

 

「駄目、梨々華ちゃ──────ッ!!」

 

 私の注意より、女性の行動が速かった。

 女性はドレスの裾を翻し、一息に接近してくる。

 その射線上のには、親の影を求める少女の姿。

 

 迎撃するには間に合わない。

 跳ねるように梨々華ちゃんと女性の間に躍り込み、突っ込んでくる女性を受け止める。

 

「ッ……!」

 

 予想以上に、重い。

 踏ん張りが効かず、私は女性ともつれ込むように壁に叩きつけられる。

 背骨が軋む嫌な感覚と、硬い痛みがした。

 

「やって、くれる、ね……!」

 

 女性の手が、私の首を締め上げる。

 負けじと左手で女性の腕を握り潰し、お返しとばかりに私も右手で首を締めてやる。

 が、女性はなにも変わらない。

 普通なら仰け反るなり痛がるなりの反応が返ってくるはずなのに、彼女は変わらず私の首を握っていた。

 

(脈がない……この人、死体か!)

 

 握りしめる首と腕から、心臓の震えは感じられない。

 そもそも胸に穴の開いた人間が生きてるわけない。

 

「な、なにやってるんだよお母様!?ソイツは悪い人じゃないんだ!!

 私を助けてくれようとしてくれる優しい人なんだ!!」

 

 壁にめり込んだまま首を締め合う私達に、梨々華ちゃんの悲痛な叫びが降り注ぐ。

 やめてくれと、彼女は泣きそうになってて。

 それでも、相手を握る手の強さはどちらも弱まらない。

 

「なんで……なんで!なんで殺そうとしてるんだよお母様!?

 そんな人じゃなかったはずだろ!?なんでだよ!!」

 

「…………梨々華ちゃん」

 

 最大限繕った優しげな声で、彼女に語りかける。

 

「私、ちょっと、貴方の、お母さんと、お話、しなきゃ、だから。

 だから、先に、お姉さんの、ところに、行って、おいで」

 

 これから私は、彼女に見せられない残酷なことをやらないといけない。

 見せるべきではないことだ。立ち止まらせるべきではないことだ。

 そして、どうしようのなくて、私がやらなきゃならないことだ。

 

「でも!」

 

「分かってる、でしょ?貴方だって、馬鹿じゃない、から」

 

「っ」

 

 梨々華ちゃんが目を伏せる。

 彼女だって分かってるんだ。自分の母親がすでに死んでることくらい。

 それでも認められないのは、理解できる。

 理解できるけど、これは認めなくちゃいけないことだ。

 認めて、前へと進まなきゃならないことだ。

 

「ごめんね。そして、よろしく、ね」

 

「あっ、ちょ、待っ────────」

 

 床を蹴り上げ、近くの窓へと全力で飛ぶ。

 ガラスの割れる音がして、私と女性は夜空に投げ出される。

 

 3階からの自由落下。

 空を落ち、風を受けながら、私は中空で女性の死体を蹴り飛ばした。

 

 纏まっていた影が、2つに弾かれる。

 そのまま私は一回転し、ふわりと外の地面に着地した。

 

「…………っと」

 

 軽くつま先で地面を叩き、引き剥がした女性を確認する。

 彼女もまた上手く着地したらしく、悠然と、茫然と、亡霊のように佇んでいた。

 

「梨々華ちゃんは、行った、かな」

 

 ちらりと屋敷の方を見上げる。

 梨々華ちゃんの姿は、見えない。

 でもたぶん、行った。

 なんとなくそう思う。

 

「貴方は、どう、思う?鳴金、美天さん」

 

 女性へ────鳴金美天へ、問う。

 

「…………………………」

 

 しかし彼女は答えない。

 声を発することもなく、死人のように沈黙を保っている。

 

「死体に、魂は、ない、か」

 

 なら、これ以上の話は無意味か。

 私はひとつため息をついて、デュエルディスクを展開する。

 

「邪魔、するなら、ここで、消す。死体に、情けは、かけない」

 

 殺意を滲ませて警告する。

 この警告を超えたなら、容赦はしないと。

 覚悟はいいんだろうねと。

 

「………………」

 

 その警告を受けた上で、死体は私と同じようにデュエルディスクを構えた。

 

「オーケー。なら、ここからは、裏デュエル界の、極悪人として、戦おうか」

 

 最早、対話は不要。

 躊躇も不要。

 善意も不要。

 

 始まるのは、ただの殺し合い。

 普通の殺し合いに、暖かな感情が介入する余地はない。

 

「「────────決闘(デュエル)」」

 

 その言葉を合図に、冷たい死合の火蓋が切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先攻は私から。

 私は冷静に、動き始める。

 

「手札から、【レスキューラビット】を、召喚。

 効果で、このカードを、除外し、デッキから、同名通常モンスター、2体を、特殊召喚。

 おいで、【メルフィー・ラビィ】達」

 

 メルフィー・ラビィ

 レベル2/DEF2100

 

 メルフィー・ラビィ

 レベル2/DEF2100

 

「いくよ。2体の、【ラビィ】で、オーバーレイ」

 

 ポムッ、と現れたぬいぐるみみたいな2体のウサギが跳ね、地面に広がる黒い渦へと飛び込む。

 まるで童話のワンシーン。不思議な世界に迷い込むかのような、楽しげな一幕。

 

「ようこそ、ようこそ、たのしい森へ。ラビィと、一緒に、楽しもう?

 エクシーズ召喚、ランク2。────わいわい、遊ぼう、【森のメルフィーズ】」

 

 黒い渦が弾け、フェルトみたいな森が広がる。

 そこは、たくさんのメルフィー達が思い思いに過ごす、温かな森。

 子どもに読み聞かせる絵本に似た、優しく可愛く、そして空想な、世界だ。

 

 森のメルフィーズ

 ランク2/DEF2000

 

「【森のメルフィーズ】の、効果、発動。エクシーズ素材を、取り除き、デッキから、メルフィーカード、【メルフィー・ワラビィ】を手札に加える」

 

 メルフィーの森の茂みから、1匹のカンガルーが近づいてくる。

 その子が私に身を擦り寄せたかと思えば、カラフルな煙と共に1枚のカードへと姿を変えた。

 

「永続魔法、【一点着地】を、発動し、カードを、2枚、伏せる。

 エンドフェイズ、手札の、【ワラビィ】の、効果を発動。このカードを、特殊召喚。

 手札から、自分の場に、モンスターが、特殊召喚されたことで、【一点着地】の、効果発動。

 デッキから、1枚、ドロー。

 これで、ターンエンド、だよ」

 

 

 殺那

 LP:4000

 手札:2枚

 場:森のメルフィーズ

   メルフィー・ワラビィ

 伏せ:2枚

 魔法・罠:一点着地

 

「…………私のターン……ドロー……」

 

 手番が回り、美天がカードを引く。

 それから数秒だけ思考するように固まった後、デュエルを動かし始める。

 

「【サイバー・プチ・エンジェル】を、通常召喚…………効果で、デッキから……【サイバー・エンジェル─弁天】を手札に……加える」

 

「梨々華ちゃんと、同じ、デッキ……。【ワラビィ】の効果、発動。

 このカードを、手札に戻し、デッキから【メルフィー・パピィ】と、【メルフィー・キャシィ】を、特殊召喚」

 

 小さな天使が夜に降り、その向かい側で2匹のメルフィーが飛び出す。

 あの天使にも、この獣達にも、敵意は無い。

 お互い、これはただ下準備に過ぎないからだ。

 

「儀式魔法……【原初の叫喚】を、発動。

 【サイバー・プチ・エンジェル】と……手札の【弁天】をリリース……【輝神鳥ヴェーヌ】を儀式召喚」

 

 夜を飛ぶ天使と、戦女神が儀式に焚べられる。

 その贄を対価に顕現するは、光り輝く1羽の神鳥。

 

「来たね、儀式召喚。その瞬間、【パピィ】の、効果発動。

 このカードを、手札に戻し、デッキから、【森の聖獣 カラントーサ】を、特殊召喚。

 さらに、【カラントーサ】は、獣族の効果で、特殊召喚された、場合、フィールドの、カードを、破壊する。【ヴェーヌ】を破壊して、カラントーサ」

 

 神鳥が翼を広げたのと同時に、カラントーサがぴょんと跳ねて、ヴェーヌに突っ込む。

 可愛らしい姿に反して、体当たりを受けたヴェーヌは低い悲鳴を漏らし消滅した。

 

「……リリースされた【弁天】の効果で……デッキから【那沙帝弥】を、手札に……。

 魔法カード……【三戦の才】を……発動し…2枚、ドロー。

 【儀式の準備】を、発動。2枚目の【弁天】を、デッキから手札に加え…………墓地の【原初の叫喚】を……手札に戻す」

 

 流石に儀式モンスター1体を破壊した程度じゃ止まらないか。

 ドローとサーチを使い、美天はすぐさまリカバリーしてくる。

 

「フィールド魔法……【祝福の教会 ─ リチューアル・チャーチ】を、発動。

 手札の【原初の叫喚】を…墓地へ送り、デッキの【機械天使の儀式】を……手札に加え、発動。

 ……手札の【弁天】をリリースし…………【サイバー・エンジェル ─ 那沙帝弥】を儀式召喚」

 

 2回目の儀式。

 今度は下半身が4脚獣となった4つ腕の女神が降臨する。

 

「そのカードは、厄介、だね。【キャシィ】の、効果で、このカードを、手札に戻し、デッキから、【レスキューキャット】を、サーチ。

 さらに、手札の、【メルフィー・ラッシィ】の効果を、発動。

 このカードを、特殊召喚し、手札のメルフィーモンスターと、シンクロ召喚を、行う。

 私は、レベル2の、【メルフィー・キャシィ】に、同じくレベル2の、【メルフィー・ラッシィ】を、チューニング」

 

 ふかふかの猫が空へと飛翔する。

 白いアザラシが2つの光の輪となり、天を舞う。

 やがて光輪がキャシィを通過すれば、それは夜を照らす眩い光となり、新たなモンスターへと姿を変える。

 

「ざぶん、ざぶん。たのしい森に、新しいお友達。

 シンクロ召喚、レベル4────浮かんで、遊ぼう?【うきうきメルフィーズ】」

 

 メルフィーの森に、海が来る。

 ソーダ色の波に乗って、ぷかぷかと海のメルフィー達が訪れる。

 森に、海。緑から青が広がった、楽しげな世界。

 その会合を喜ぶように、浮かぶラッシィが切り株の上のラビィへ手を振った。

 

「【うきうきメルフィーズ】は、特殊召喚に、成功した場合、表側表示のモンスターを、手札に戻せる。私は、【那沙帝弥】を、手札に、戻す、よ」

 

 メルフィーの海が大きく盛り上がり、波となって戦女神を飲む。

 海中に沈んだ那沙帝弥は、メルフィー達に担ぎ上げられ、美天の手札へと投げ返された。

 

「【一点着地】の、効果で、1枚、ドロー。

 貴方の、フィールドは、寂しい、ね」

 

「リリースされた……【弁天】の効果で、デッキから……【荼吉尼】を……手札に。

 手札から……【機械天使の絶対儀式】を、発動。

 墓地の【弁天】と…【サイバー・プチ・エンジェル】をデッキに戻し、【荼吉尼】を儀式召喚」

 

 空っぽのフィールドで、三度儀式が行われる。

 降臨するのは、4つの腕に武器を携えた女神。

 

 サイバー・エンジェル─荼吉尼─

 レベル8/ATK2700

 

「【荼吉尼】が儀式召喚に成功した場合……相手は、自身の場の……モンスター1体を……墓地へ送らなければ、ならない」

 

「ふむ。じゃあ、私は、【うきうきメルフィーズ】を、墓地へ、送るよ」

 

 波が引くように、海のメルフィー達が森を去る。

 ラッシィ達とラビィ達が別れを惜しむように手を振り合うのを最後に、森から海が消えた。

 

「バトル、フェイズ…………【荼吉尼】で、【森のメルフィーズ】を、攻撃…………」

 

「トラップ発動、【メルフィータイム】。

 獣族エクシーズモンスター、【森のメルフィーズ】の、エクシーズ素材を、1つ取り除き、【荼吉尼】を、手札に、戻す」

 

 荼吉尼の刃が振り下ろされるより、メルフィーの方が速かった。

 森の獣達は戦女神にふわふわと身体をぶつけ、弾く。

 ポンと弾かれた荼吉尼は、そのまま手札へと消えていった。

 

「無駄、だよ。なに、しても。私は、貴方の先に、いる」

 

 どれだけ足掻こうが、既に彼女は森の中。

 私のテリトリーで、自由なデュエルなどさせはしない。

 力で私を上回れないのなら、獲物は狩り場で死ぬだけだ。

 

「……メインフェイズ2、【機械天使の儀式】を……発動。

 【荼吉尼】を、リリースして…………【那沙帝弥】を……儀式召喚」

 

 サイバー・エンジェル─那沙帝弥─

 レベル5/DEF1000

 

「まだ、儀式魔法が、手札に、残ってたんだ」

 

「…………【那沙帝弥】の、効果で……自分フィールドの、表側表示モンスター1体の、攻撃力の半分……ライフを、回復。【那沙帝弥】を、対象とし……500、回復」

 

 美天

 LP4000→4500

 

「エンドフェイズ…………墓地の【原初の叫喚】を、除外し……このターンに、フィールドから墓地へ送られた儀式モンスターを……【輝神鳥ヴェーヌ】を蘇生。ターン……エンド」

 

 鳴金美天

 LP:4500

 手札:なし

 場:サイバー・エンジェル─那沙帝弥─

   輝神鳥ヴェーヌ

 伏せ:なし

 魔法・罠:祝福の教会 ─ リチューアル・チャーチ

 

 ターンが終われば、鳴金美天の場には2体の天使が佇んでいた。

 どちらも神々しい輝きを持つ、美しい天使だ。

 

 けれど、意味はない。

 こんなもの、壁にもならないし、救いにもなりはしない。

 

「私の、ターン。ドロー」

 

 これからすることに、興奮なんてできない。

 できるなら、獣のように盛って、嬉々として殺したいけど……。

 でも、そうじゃないもんね。

 

「手札の、【獣王アルファ】の、効果。このカードは、相手のモンスターの、攻撃力の合計が、自分のモンスターの、攻撃力の合計より、多い場合、特殊召喚、できる。おいで、【アルファ】」

 

 獣王アルファ

 レベル8/ATK3000

 

「そして、【獣王アルファ】は、1ターンに、1度、自分フィールドの、獣族、獣戦士族、鳥獣族の、いずれかを、好きなだけ、手札に戻し、その数だけ、相手のモンスターを、バウンス、する。

 私は、【獣王アルファ】を、戻し、【那沙帝弥】を、手札へ」

 

 アルファの咆哮が轟き、それに気圧されるようにして那沙帝弥が退場する。

 それを見届けると、アルファもまた手札へと戻っていった。

 

「【アルファ】の、バウンスは、1ターン、1回。

 だけど、特殊召喚は、条件を満たす限り、行える。

 もう一度、おいで、【獣王アルファ】」

 

 再び、獣王が森から現れる。

 アルファは低く唸り、鳴金美天の死体をじぃっと睨みつけていた。

 

「【レスキューキャット】を、召喚し、効果を、発動。

 このカードを、墓地へ、送り、デッキから、【メルフィー・フェニィ】と、【メルフィー・ポニィ】を、特殊召喚。

 そして、【フェニィ】と、【ポニィ】で、オーバーレイ」

 

 ヘルメットを被った猫が笛を吹き、その音に誘われて2匹のメルフィーが黒い渦に飛び込む。

 

「おいで、おいで、かわいい動物たち。みんなと一緒に、迷い込もう?」

 エクシーズ召喚、ランク2。楽しく、遊ぼう、【わくわくメルフィーズ】」

 

 わくわくメルフィーズ

 ランク2/ATK2000

 

「もう、おしまい、だよ。【わくわくメルフィーズ】の、エクシーズ素材を、取り除き、私のメルフィー達に、直接攻撃の権利を、与える」

 

 動物達が騒ぎ出し、動き続ける空っぽの死体にくりくりとした目を向ける。

 光のない空虚な目と、視線が交差した。

 

 悲惨だとは、思う。

 普通に生きていた人間が、死んで、操られて、こんなことになって。

 

 きっと廻理くんなら、彼女の現状に胸を痛めたりするのだろう。

 壊したくないなぁって、そう思ったりもするのだろう。

 

 あぁ。彼女と遭遇したのが、廻理くんじゃなくて良かった。

 私みたいな、ロクデナシの殺人者で、良かった。

 

「壊、そう。【わくわくメルフィーズ】で、ダイレクトアタック」

 

 淡い色彩の動物達が一斉に駆け出す。

 獣の行進を止めようとする神鳥を潜り抜け、一直線に死体へと殺到する。

 

 美天

 LP4500→2500

 

 ポムポム、ポカポカと可愛らしく、鳴金美天に群がり、バラす。

 なのに、目の前の女性は表情一つ変えやしない。

 死んでるから、当然。

 その当然のことが、残酷だった。

 

「……母親の、不幸は、愛する我が子を、傷つけること。……違う?」

 

 少なくとも、私はそう思う。

 その答え合わせがしたかったけど……鳴金美天という母親は、答えなかった。

 

「私だったら、大好きな、子どもを、自分の手に、かけたくなんて、ない。

 そんなこと、するくらいなら、死んでやる」

 

「……………………………………」

 

「だから、貴方は、ここで、消す。

 二度と、誰かに、悪用、されないように。

 貴方が、我が子を、泣かせてしまわないように。

 肉の一片さえも、残さず、天国へ、送る」

 

 もしも、私が彼女と同じ立場になったのなら。

 私は、私の消滅を願うだろう。

 

 それが正解かどうかは分からない。大間違いかもしれない。

 でもこれが、兎ノ宮殺那というひとりの女が、鳴金美天という女にできる最良だった。

 

「…………………………………………………………………………おねがい」

 

 か細い声が、零れた。

 聞き逃してしまいそうなほど小さく、けれど最も確かに聞き取れた、声。

 

 もう死んでいるはずなのに、そこに命はないはずなのに。

 けれどそれは間違いなく、鳴金美天という人物の言葉に聞こえた。

 

「…………貴方は、いい母親だね」

 

 羨ましいくらい、理想的。

 なんだか、負けた気分にさえなる。

 それほどに、鳴金美天という女性は、死んでもなお我が子を愛した、母だった。

 

「貴方に、最大限の、敬意を。

 同じ女性として、デュエリストとして、全身全霊を持って、貴方を、葬りましょう」

 

 ここからは狩りじゃない。お遊戯でもない。

 ここからは────対等なデュエリスト同士の、誇りある決闘だ。

 

「リバースカード、発動。【星遺物からの目醒め】」

 

 伏せていたカードを、発動させる。

 それは、星遺物のカードの、1枚。

 昔、廻理くんから貰った、カード。

 大好きな親友から受け取った、私の人生の、誇りの象徴。

 

「この瞬間、私は、自分フィールドの、モンスターを、素材に、リンク召喚を、行う」

 

 そして呼ぶのは、私の力(・)の(・)象(・)徴(・)。

 滅多に使うことのない、最強の切り札。

 

 強敵相手にしか使うことのないカード。

 それを、私は使う。

 使うに値する相手だから、使う。

 

「私は、【わくわくメルフィーズ】、【森のメルフィーズ】、【獣王アルファ】、【森の聖獣カラントーサ】の、4体を、リンクマーカーにセット。召喚条件は、効果モンスター2体以上」

 

 天に藍色の門が構築され、森に住まう獣達の全てが吸い込まれる。

 すると、藍色の門は赤色に変色し、悲鳴のようなエラー音を鳴らし始めた。

 

「帰らぬ愛しさをも焼き尽くし、穢れた生者に殺(あや)の名を刻め」

 

 赤い門が、燃える。

 煌々と、産声に似た業火を夜空高く上げて。

 その内側から、緋色の両腕が門をこじ開ける。

 

「リンク召喚、リンク4。却(かえ)せ、却(かえ)せ、却(かえ)せ、────────」

 

 門がひび割れる。

 まるで、赤子が産まれようとするみたいに。

 

 三葉結び目の模様を輝かせ。

 ねじれた尾と翼を引きずって。

 

 ソレは生誕する────

 

 

 

 

 

 

「────────────────【トポロジック・ボマー・ドラゴン】」

 

 

 

 

 

 

 ……爆ぜるような怪物が、舞い降りた。

 周囲一体全てを炭に変えてしまいそうなほどの熱を湛えた、緋色の怪物が。

 

 それはまるで、熱と殺意の化身。

 私が願い、思い描いた、殺しの概念そのもの。

 ただ人を殺し、焼き尽くすためだけに存在する、純粋極まる悪意の濃縮存在。

 

 トポロジック・ボマー・ドラゴン

 リンク4/リンクマーカー 上 左下 下 右下/ATK3000

 

 これが、兎ノ宮殺那の切り札。

 息の根を止めんばかりの威圧感を撒き散らし、殺気を無差別にばら撒く怪物。

 この世で唯一、私だけの殺意だった。

 

「伏せろ」

 

 私の言葉に合せて、ボマー・ドラゴンがヴェーヌを一瞥する。

 それだけ。ただそれだけで、空を舞う神の鳥は、地に墜ちた。

 

 魂の籠もってないデュエリストのカードでは、ボマー・ドラゴンの威圧感には耐えられない。

 地べたに這う鳥は、その安っぽい輝きを失い、最早泣きそうな顔で私達を見上げることしかできなかった。

 

「……美天さんを、こんな風にした、ヤツ。今、見てる、よね?」

 

 墜ちた鳥から、美天さんへと……その向こう側にいる誰かに、視線を移す。

 彼女の死体は、何者かに操られている。

 ならその何者かは今も、美天さんを弄びながら、高みの見物を決めているのだろう。

 

「──────舐めた真似をするなよ」

 

 安全と勘違いした愚か者へ、呼吸もできないくらいの重圧を

 人の幸せをぶち壊しやがったクズに、あらん限りの殺意を。

 優しい母親の尊厳を弄んだ外道に、瞼の暗闇すら耐えられない恐怖を。

 死体越しに容赦なく突き刺し、その精神を粉々に破壊してやる。

 

「お前は、今夜限りで、死ぬ。残り僅かな、余生で、懺悔を、済ませていろ」

 

 人差し指を掲げ、緋色の怪物に命じる。

 終幕の宣言を、火葬の合図を。

 粛々と、告げる。

 

「【トポロジック・ボマー・ドラゴン】で、【輝神鳥ヴェーヌ】を、攻撃」

 

 断続的なノイズをかき鳴らし、ボマー・ドラゴンがその手の中に緋色の光球を作り出す。

 太陽の如く熱く、夜を照らして焦がし、なにもかもを溶かし尽くす、超高熱。

 燦々と輝く凄惨な死が、怪物の手のひらで膨れ上がり…………

 

「このカードが、攻撃したとき、その相手モンスターの、元々の攻撃力分の、ダメージを、相手に与える」

 

 人差し指を、振り下ろす。

 

「やれ、【トポロジック・ボマー・ドラゴン】」

 

 怪物の手から、熱の死が放たれる。

 それは一筋の赤い残光を描き、眠りを妨げられし亡者を照らして────

 

「胎壊殺却・クリメイションコード」

 

 ────熱が、爆ぜる。

 月に届きそうなほどに炎を吹き上げ、死の音を轟かせて、爆ぜる。

 赤い、緋い爆発は屋敷一帯大きく揺らし、地面を融解させるほどで。

 それほどの熱量を直に食らった彼女がどうなったかなど、火を見るよりも明らかで。

 

 美天

 LP2500→0

 

 融けて赤熱するクレーターの上には、なにもない。

 さっきまでそこにいた女性は、影も形もない。

 髪の一房、肉の一片、血の一滴さえ、もうこの世には存在しない。

 鳴金美天の肉体は、蒸発した。

 

「さようなら……天国で、ふたりの、子どもを、見守って、あげてて」

 

 彼女が立っていた場所へ、黙祷を捧げる。

 そんな私に、どこか優しげな夜風が吹いた。

 

 

 ────────────“ありがとう”

 ────────────“貴方た(・)ち(・)が来てくれて、よかった”

 

 

 

「………………幻聴、かな」

 

 風の音に混ざって、穏やかな女性の声が聞こえた気がして。

 私は閉じていた目を、静かに開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鳴金美天さんとのデュエルと火葬を終え、カードを片付ける。

 さて、これからどうするべきか。

 やはり梨々華ちゃんを追うべきだろうか。

 それと地下のベニアちゃんも不安だ。

 廻理くんは……まぁ大丈夫だろう。親友だし。

 

「と、なると…………私も、行かないと、ね」

 

 地下に潜り、みんなと合流しよう。

 そう考え顔を上げると…………周囲に、おびただしい数のアンデッドの姿があった。

 

「…………わらわらと。足止めの、つもり?」

 

 アンデッドは言葉を返さない。

 その代わり、手にした武器を私に向けてきた。

 

「そう。邪魔、するんだね」

 

 全くもって、腹立たしい。

 私は、一刻も早く合流したいのに。

 そして、こんなクソみたいなことをしている元凶を、派手にぶち殺したいのに。

 

「退いて」

 

 足を踏み込み、アンデッドの群れに突っ込む。

 そんな私を迎え撃とうと、アンデッド共は得物を振るう。

 

 私がコイツらの包囲網を突破するのが先か。

 廻理くんやベニアちゃんが元凶を惨殺するのが先か。

 

 このレースに勝利し、自らの手でムカつくヤツを殺害すべく、私は手当たり次第に邪魔者共を破壊していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし。手当完了っと」

 

 地下深くの肉の部屋で、横たわる葛さんの傷口に応急処置を施す。

 これで、ひとまずは大丈夫なはずだ。

 ふぅ、良かった良かった。息をついて額を拭う。

 

「……………………迷惑、かけたわ…………本当に、恥ずかしい……」

 

「もー、気にしないでよ。大丈夫だからさ」

 

 葛さんが泣き腫らして真っ赤になった目を伏せる。

 ボクは何度も大丈夫と言っているのだが、彼女はずっと気にしている風だった。

 たぶん、人前で泣いたり、甘えたりするのに慣れてないのだろう。

 

 そんな彼女を責めるつもりは毛頭ない。

 ただ、大丈夫だとは言い続ける。

 大丈夫という言葉があるのとないのとでは、安心が違うから。

 

「…………手間取らせたし、泣き喚いたし……手当までさせたし……。

 最悪ね…………アタシは、本当に……」

 

「いいっていいって。それより、キミが無事で良かったよ」

 

「…………でも、貴方が大怪我したじゃない」

 

「ボクは慣れてるからいいよ。見た目ほど痛くないし。

 それに、キミの傷よりは断然軽傷だよ」

 

「別に……アタシの傷なんて、ゴミクソよ。アタシより、辛い人なんて……何百人もいるでしょ」

 

「だとしても、キミが痛いって思ったら、それは世界の誰よりも痛いんだよ。

 だからさ、無理して強がらないで甘えてくれて良いんだよ?」

 

「…………甘えたら駄目よ。そんな資格、アタシにはない。

 こうして……貴方に、気を使わせて……慰めさせているアタシなんて……」

 

「あははっ、気にしすぎだよ。ボクはキミがちょっとでもハッピーになったら嬉しいってだけさ」

 

「でもアタシは……………………」

 

 だいぶ重症だ。

 長い間、色んなモノが抑圧されていたのだろう。

 結構深くネガティブな思考と、頼ってはならないという強迫観念が根付いてる。

 

 これをある程度緩和するのは時間がかかりそうだ。

 全く、ここまで彼女を追い詰めてさ。

 あのクズ親共ホントに許せないなぁ。

 まぁとにかく、今は葛さんと真摯に向き合い、ゆっくりとその傷に寄り添うとしよう。

 

「ぁ…………地震……?」

 

「揺れた……?」

 

 葛さんの話を聞いていると、突然部屋が揺れた。

 そして微かに、焼けるような殺意を、天井のさらに上の方から感じ取る。

 

「この感覚…………殺那のボマーか」

 

 珍しい。殺那があのカードを使うなんて。

 裏デュエル界の化け物か、頭がイカれそうなくらい憎む相手にしか出さないのに。

 

 八重峰墓丹やクソ執事に使うには過剰な力だ。

 今回のお仕事ではまず召喚しないと思っていたけど……。

 

(考えられる可能性としては、美天さんにシンパシーを感じて使った、ってところかな)

 

 でもどうかなぁ。殺那にはメルフィー・マミィ──母(・)た(・)る(・)カ(・)ー(・)ド(・)もあるしなぁ。

 仮に彼女が美天さんに敬意を表して出すとしたら、殺(ボマー)か母(マミィ)だろうけど。

 

「なんにせよ、ボクもお仕事しなきゃかな」

 

 ボマーを切るという異常事態が発生している以上、地上の様子も気になってくる。

 このまま葛さんの傍にいたかったけど、そうもいかなさそうだ。

 それにボクだって、葛さんとベニアちゃんを撃ちやがったあの腐れ女を百倍返しにしてやらなきゃ気がすまない。

 

「…………行くの?」

 

「ごめんね。もっとキミと話していたかったけど、なにやらヤバそうだからさ」

 

「そう…………」

 

 立ち上がり、ぐっと伸びをする。

 それから地上へ向けて足を進めようとする。

 

「…………貴方だけに、殺させないわ」

 

 進もうとした、そのとき。

 葛さんもまた、立ち上がり、歩を進めた。

 

「え、ちょっと!?安静にしてなよ!足撃たれてるんだよ!」

 

「嫌よ。寝てる場合じゃないもの。アタシだって、あのアバズレクソ女を殺してやりたいの」

 

 葛さんは歯を食いしばり、撃たれた足で床を踏みしめる。

 その足取りは不安定で、けれど確固たる意思が込められていた。

 

「人を殺したら……梨々華に嫌われるんじゃないかって、思った。

 でも……アタシは、クソ親共をぶっ殺さないと、幸せになんてなれはしない」

 

 葛さんが振り返り、ボクと目を合わせる。

 

「今なら、殺せる気がするの。ぶっ殺す勇気が、心いっぱいにあるの。

 だから、お願い。アタシにも…………殺させて」

 

 彼女の目には、怯えた色も、諦観の色もなかった。

 ただ前向きな衝動と、冷静な殺意に彩られた綺麗な目が、そこにあった。

 

 ……随分とずるいことをするものだ。

 ここにきて、甘えるようにお願いしてくるなんて。

 

「あははっ!殺しちゃうかぁ!人殺しとか良くないよ!」

 

 笑い声を響かせて、右手をそっと差し出す。

 

「でも────ムカつくヤツをぶち殺したらめっちゃスカッとするよ!」

 

「そう……最高ね。アタシの人生に今一番必要なものだわ」

 

 差し出した右手を、葛さんは手に取る。

 ボクは彼女の手を握り、固い握手を交わした。

 

「受けるよ、キミのそのお願い。キミのその依頼。

 裏デュエル界違法組織、『孤児院』の一員として。

 遊針廻理という裏のデュエリストとして」

 

「……0円しか出せないけど、いいかしら」

 

「もちろん!むしろ高すぎるくらいだよ!」

 

 依頼成立。

 殺す理由がまた増えた。

 

「楽しく殺ろうか。大義なき、けれど気が晴れるコトを」

 

「殺ってやるわ。それで…………幸せになってやる」

 

 口角を上げ、葛さんに肩を貸す。

 ふたりで歩いて、ふたりで殺そう。

 

 ボクは仕事のために。

 葛さんは幸せになるために。

 

 一歩一歩、ターゲットのいる地上へ向かって。

 地下へ押し込められた憎悪が、這い出すように。

 

「「────楽な死に方なんて絶対させない」」

 

ボクらは前向きな気持ちで、幸せを目指すのだった。

 

 

 

 




 今回も読んでいただきありがとうございます!

 さて、この章も後半戦。
 大変お待たせいたしました。
 ここからは、暴力と殺戮の時間です。
 派手に血飛沫を吹き上げちゃいます!

 次回はベニア回となります!
 それでは、またお会いしましょう!
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