※この作品はR-18です。

遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻   作:胡麻野すり子

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第24話 祝詞奉る

 

 

 あたしは、自らの運の悪さを痛感していた。

 八重峰とかいうクソアマと、クソ執事野郎を見失ったのもそうだ。

 腹を銃で撃たれたのもそうだ。

 道に迷ったのもそうだ。

 

「お腹痛いし、どこにいるか分かんなくなるし……最悪……!」

 

 それでも横腹を抑えて、薄暗い地下通路を走る。

 約束したのだ、梨々華さんと。

 送ってもらったのだ、廻理さんに。

 

 ならばまずは、果たさなければならない。

 あたしへの信頼達に、最大限の成果をもって。

 

 その想いを燃料に、あたしは走る。

 走って、走って、走って、走って。

 

 …………やがてあたしは、やけに広いフロアにたどり着いた。

 

「……また、迷ったか」

 

 廻理さんと地下を走り回ったときは、こんな広い場所に行き当たらなかった。

 つまりは、変なところに来てしまったのだろう。

 

 失敗したか。

 そう考えつつ、体育館の2倍以上はありそうな空間を、足を引きずりながら歩く。

 すると、あたしの向かい側から忙しい足音が聞こえた。

 

「お姉様!お姉様ぁぁぁーー!!どこだ!どこにいるんだ!」

 

「梨々華さん……?」

 

 現れたのは、梨々華さんだった。

 彼女はべっとりと汗を流し、金色の髪を振り乱しながら、フロアに駆け込む。

 

「えっ、ベニアさん!?大丈夫────!?」

 

 梨々華さんがあたしを、血塗れの白いワンピースを見て、目を見開く。

 

「だ、大丈夫か!?それどうしたんだよ!?」

 

 ただ事じゃないと、梨々華さんは血相を変えて駆け寄ってくる。

 とっても、心配そうだった。

 

「えへへ……!ちょっとミスりましたが、へっちゃらですよ……!」

 

「へっちゃらなわけないだろ!どうしたらそんな血が出るんだよ!?」

 

「ちょっと撃たれまして……まぁあたしのことは置いといて。

 梨々華さんはどうしてここに……?葛さんが心配で来ちゃたんですか?」

 

 久しぶりに会った彼女は、焦燥した顔をしていた。

 追い詰められた人の顔。

 精神に負荷がかかっている人の顔だ。

 

「えと……貴方のお姉さんでしたら、廻理さんがなんとかしています。

 たぶん、完璧に……廻理さんが助けてくれますよ」

 

「ほ、本当か!」

 

「はいっ、だから葛さんは安心です。

 それより今は、貴方のほうが…………」

 

「…………………………ぅ……が……ぁ……ッ」

 

 男の声がした。

 低くて、汚くて、不愉快な、あの野郎の音だ。

 

「今の声って…………」

 

「あんのクソですか……」

 

 声のした方へ、振り返る。

 そこには、両目を抑えてフラつくあのクソ執事がいた。

 

「クソ、クソがぁ……!美天が…………あぁ瞼の裏にあの化け物が……!熱い、熱い……ッ」

 

 うわ言を呟きながら、男はゆっくりとこちらに寄ってくる。

 あたしは梨々華さんの前に出て、数十メートル先の男と対峙する。

 

「な、なんでアイツがこんなところに……」

 

「悪いことをしていたカスだからですよ」

 

「俺は……ただ自分の欲望に正直だっただけなのにィ……!

 美しい女を犯すことが罪なわけがあるかァ……ッ!!」

 

 男はギリィッと歯を軋ませ、顔を掻きむしる。

 

「美天が、俺の美天がァ……!クズガキの分際でェ……!人間以下のカスのくせにィ!

 折角綺麗に殺して丁寧に防腐処理して犯してやった俺の性人形がァ!燃えてしまったァァ!!」

 

「っ!?」

 

 最低最悪な怒号。

 その内容に、あたしの後ろの梨々華さんが絶句する。

 

「お、お前まさか……お母様を……!」

 

「鳴金美天は最高だった!今まで犯し殺してきたどの女よりも気持ちよかった!

 首を絞めたときのあの苦悶の顔も、死体となり表情の抜け落ちた顔も、そのすべてが俺を興奮させてくれた!あのラブドールが一番気持ちよかったのィィィィィァァァァッ!!」

 

 この男は、泣いていた。

 信じられないが、マジでこのクソ野郎は悲痛な声で泣いてやがった。

 

「それを、それをォ!燃やされた!もうこの世に至高のラブドールは存在しない!

 あのメスガキが、あの化け物がァ!熱い熱い怖い怖い怖い映るな消えろ消えろ消えろ消えろ!!

 俺の暗闇から、瞼から、焼き付くな映るなクソがァァァァァァァァアアァァアァァッ!!!」

 

 男が、目を隠してた手のひらを退ける。

 そこには、瞼がなかった。

 自分の手でむしり取ったのか、男は永久に閉じることのない両目をギョロつかせる。

 

「お前が、お母様を殺したのか…………」

 

「あぁそうだ!俺が殺した!犯すために!あの綺麗で気持ちよさそうな女を手に入れるためにィ!

 そのために八重峰と手を組んだ!鳴金葛を地下室に閉じ込める手引をしてやったんだァァ!

 あんな小汚いクズ女はお前の姉なんかじゃぁない!お前の人生にあのゴミは相応しくないィ!

 あの腐れマンコは一生変態に犯されてクソみたいに死んでりゃいいんだよォッ!!」

 

「………………………………あ゛?」

 

 低い、低い声が、背後から聞こえた。

 

「そしてお前は完全に綺麗で俺好みの性処理人形になるんだよ鳴金梨々華ァ!

 収穫の時だ!瑞々しく育ったお前を、母親と同じように犯しながらくびり殺しィ!

 2代目の愛玩人形として毎晩犯してやるぞォォォォォォ!!」

 

 醜悪で耳障りな鳴き声が響き渡る。

 心底最低で、本当に最悪な、汚物以下の宣言。

 

「喜べ!俺がお前の処女膜をぶち抜いてやる!初物マンコを思う存分未来永劫永久に突いてやる!

 嬉しいだろ!嬉しいよなァ!そのために育ててやったんだからなァァァ!」

 

「うるせぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇええぇぇぇッ!!!!!」

 

 醜さ極まる音を裂いたのは、激情だった。

 少女の怒りが、空間を揺らす。

 

「許さない……殺すッ!お前は、お前だけは!ぶっ殺してやるッ!!!」

 

 梨々華さんは涙を流しながら、一歩踏み出す。

 その全身からは殺意が漏れ出し、濡れた瞳は鋭く、親の仇を睨んでいた。

 

「同感ですよ……こんなカスは、生かしちゃおけません」

 

 あたしもまた、殺意を漲らせる。

 こんな気持ち悪い生き物の生存を許してはならない。

 ぶっ殺す。その使命感でいっぱいだった。

 

「なにが、殺すだ……ガキ共がァァ!!

 所詮ガキは大人に搾取されるだけなんだよォォ!

 黙って死ね!『孤児院』のガキィ!

 いいから俺にレイプされろ!鳴金梨々華ァ!!」

 

「テメェが死んでくださいよ変態がぁぁ!!」

 

「誰がお前なんかに犯されるか!死ねぇ!!」

 

 男が、梨々華さんが、あたしが、デュエルディスクを展開し、構える。

 

「ベニアさん!頼む、私にお母様の仇を取る力を……!

 お姉様を侮辱したあのゴミカス野郎をぶち殺す力を……貸してくれ!」

 

「もちろんです!あのクソキメェ生きモンを一緒に惨殺しましょう!!」

 

「レイプ、レイプさせろォォ!!屍姦させろォォ!俺のモノの分際で歯向かうなァァァ!!」

 

 誰も最早、躊躇なんて持ってない。

 そこにあるのはただひたすらな殺意だけだ。

 

 故に、止まらない。

 殺すという至上の目的が果たされるまで、あたし達は激昂する。

 

「「「────────決闘(デュエル)!!!!!」」」

 

 怒りだけを原動力とした殺し合い。

 その始まりの言葉を高らかに叫び、あたし達はカードを引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエルディスクにルールが表示される。

 今回のデュエルは、あたしと梨々華さんVSクソ男。

 クソ男はハンデとしてライフは倍の8000。手札も倍の10枚。

 以前行った廻理さんとのタッグデュエルと同様のルールだ。

 

(相手のほうが2倍もライフが多いけど…………苦しむ時間が延びるだけ!)

 

 あのときの廻理さんの言葉を心の中で唱え、あたしはターンを始める。

 

「先攻はあたしから!あたしのターン!

 【ワン・フォー・ワン】を発動!手札の【ドットスケーパー】を墓地へ送り、デッキから【ドングルドングリ】を特殊召喚します!

 そして【ドングルドングリ】と墓地へ送られた【ドットスケーパー】の効果発動!

 まず【ドングルドングリ】は特殊召喚された際に【ドングルトークン】を精製します!

 さらに【ドットスケーパー】は墓地へ送られた場合、フィールドに特殊召喚されます!」

 

 ドングルドングリ

 レベル1/DEF0

 

 ドングルトークン

 レベル1/DEF0

 

 ドットスケーパー

 レベル1/DEF2100

 

「一瞬でモンスターが3体も……!」

 

「まだです!永続魔法【冥界の宝札】を2枚発動!

 それから【ドングルドングリ】と【ドングルトークン】をリリース!

 アドバンス召喚!来て、【パラレルエクシード】!」

 

 ドングリ型のUSBメモリと、そのコピーデータを贄として、電子の飛龍が出現する。

 

 パラレルエクシード

 レベル8/ATK2000

 

「モンスター2体をリリースしてアドバンス召喚に成功したことで【冥界の宝札】の効果が発動!

 デッキから2枚ドローします!」

 

「チィッ!減った手札を補充してくるか!

 だが所詮は2枚ィ!2枚程度いくらでもくれてやる…………」

 

「【冥界の宝札】は2枚発動しているため、合計4枚ドローです!」

 

「………………は?」

 

 呆けた顔のクソ野郎を尻目に、あたしはカードを4枚引く。

 当然、これで終わりじゃない。

 むしろこれは始まりに過ぎない。

 

「【パラレルエクシード】の効果発動!デッキから【パラレルエクシード】1体を特殊召喚!

 この効果で特殊召喚された【パラレルエクシード】のレベルは4となり、ステータスは半分になります!

 通常魔法【カード・アドバンス】を発動です!デッキトップ5枚を操作して、このターンにもう1度アドバンス召喚を行う権利を獲得します!

 【パラレルエクシード】2体をリリース!【クラッキング・ドラゴン】をアドバンス召喚!」

 

 分裂した電子の飛龍が、今度は巨大にして漆黒の機龍を呼ぶ。

 クラッキング・ドラゴンは悠然と宙を漂い、緑の電子光を淡く光らせ小さく吠えた。

 

 クラッキング・ドラゴン

 レベル8/3000

 

「アドバンス召喚に成功したことで4枚ドロー!」

 

「なんだ……!?なにが、起きている……!?

 何故、召喚を繰り返して、手札が増えている……ッ!?」

 

「手札の【ダークネス・シムルグ】の効果発動!闇属性モンスターがアドバンス召喚された際、このカードを特殊召喚します!

 その【ダークネス・シムルグ】のレベルを2つ下げ、【キャシー・イヴL2】を手札から特殊召喚です!」

 

 ダークネス・シムルグ

 レベル8→6/ATK2900

 

 キャシー・イヴL2

 レベル2/DEF600

 

「マジックカード【二重召喚(デュアルサモン)】を発動!

 このターン、あたしはもう1度通常召喚を行えます!」

 

「あり得ない……!まだ動くというのか!?」

 

「当然ですよぉぉぉ!【ドットスケーパー】と【キャシー・イヴL2】をリリース!

 アドバンス召喚!来て、【パンデミック・ドラゴン】!」

 

 パンデミック・ドラゴン

 レベル7/ATK2500

 

「【冥界の宝札】の効果!さらに4枚ドローです!」

 

 病める竜が現れ、あたしは4枚デッキからカードを引く。

 その姿を、男は信じられないといった風に、梨々華さんはびっくりした風に見ていた。

 

「凄い……!こんなに大型モンスターを出しても手札が減ってないなんて!」

 

「えへへ……!あたしも、そこそこはやりますから……!」

 

 隣の梨々華さんへピースサインを向ける。

 これで、彼女もちょっとは安心してくれるだろうか。

 だとしたら、無理矢理にでもこの盤面を作ったかいもある。

 

「滅茶苦茶だ……因果が狂ってるとしか思えないデュエルだ……!」

 

 その向こう側で、男がうろたえる。

 因果が狂ってる、か。

 それはある意味、あたしのデュエルを正しく評価していた。

 

 あたしは、強いモンスターをたくさん出して、たくさんドローしたら強いと思っている。

 これはそれを実現するために作り上げたデッキだ。

 しかしその実、このデッキはある種の歪さを内包している。

 

 普通のデッキなら、展開するためにドローをする。

 対してあたしのデッキは、ド(・)ロ(・)ー(・)す(・)る(・)た(・)め(・)に(・)展(・)開(・)し(・)て(・)い(・)る(・)。

 

 そう、順序が逆なのだ。

 故にこのデッキは、あたしのデュエルは……真逆の順序を辿る。

 

 だが、結果は変わらない。

 逆さまにして単純で、暴力的な道筋の果て。

 それは、単純で、暴力的なモンスターの大量展開だ。

 

「1ターンで合計12枚のドローなんて芸当が、どうしてこんなクズに……!」

 

「あたしは、お言葉に甘えただけです。『2枚程度、いくらでもくれてやる』んでしょう?」

 

 ゆったりと見せつけるように、中指を立てる。

 その中指のさきで、男は忌々しげに舌打ちをした。

 

「フィールド魔法【召喚制限─エクストラネット】を発動し、カードを2枚伏せます。

 これで、あたしはターンエンドです」

 

 ベニア・梨々華

 LP:4000

 手札:3枚

 場:クラッキング・ドラゴン

   ダークネス・シムルグ

   パンデミック・ドラゴン

 伏せ:2枚

 魔法・罠:冥界の宝札

      冥界の宝札

      召喚制限─エクストラネット

 

 初手としては上々の出来。

 大型モンスター3体と、伏せを2枚。

 それから、EXデッキからの特殊召喚に反応してドローを行える【エクストラネット】。

 

「クソが……!おちおちEXデッキも使えん……!」

 

 これ以上のドローを許せばどうなるのか。

 こんなクズ野郎のクソみたいな脳ミソでも、それくらいは理解できているらしい。

 なら、このターンくらいは動きを牽制することができそうだ。

 

「だが!殺せばいいだけの話だァ!

 【サンダー・ボルト】を発動!お前のフィールドのモンスターを全て破壊する!!」

 

「やらせません!【ダークネス・シムルグ】の効果発動!

 このカードをリリースし、【サンダー・ボルト】の効果を無効にして破壊します!」

 

 ジグザクの軌道を描き、雷が降り注ぐ。

 その黄色の閃光に立ち向かうように巨鳥が黒い翼を広げ、受け止める。

 

「クソカスがァ……!ゴミの分際で俺の邪魔をするなァアァァ!!

 フィールド魔法【闇黒世界─シャドウ・ディストピア─】を発動!!

 効果によりフィールドの表側表示モンスターは闇属性となる!

 さらに【悪王アフリマ】を通常召喚!!」

 

「【クラッキング・ドラゴン】の効果発動!!モンスター1体のみが召喚された時、そのレベルかける200ポイント攻撃力をダウンさせ、その数値分のダメージを相手に与えます!!

 【アフリマ】のレベルは4!よって攻撃力を800ダウンさせ、お前に800ダメージです!」

 

「なんだとォ!?」

 

 鋭角的な黒い機械竜が咆哮を上げ、緑の光を強く灯す。

 その次の瞬間、緑光は数本の線となり、男を一直線に貫いた。

 

 クソ執事LP:8000→7200

 

「があぁぁああぁぁぁあぁ!?あつっ、ぐ、ぁぁぁ!腹が、腹が焼けてるぅぅアァぁあ!?!?

 くぅ、ぐ、ぐぐぁ…………許さん……許さんぞクソカスゴミガキがぁぁぁぁあぁぁッ!!

 【悪王アフリマ】の効果ァ!このカード以外の自分フィールドの闇属性をリリースし、デッキから守備力2000以上の闇属性を手札に加えるッ!!

 さらに【シャドウ・ディストピア】は1ターンに1度カードのコストを代わりに相手フィールドの闇属性モンスターから賄うことができる!

 【クラッキング・ドラゴン】をリリースッ!!くたばれゴミカスがァァ!!」

 

「……ありがとう、クラッキング・ドラゴン」

 

 あたしのために働いてくれた黒い機竜にお礼を言う。

 その直後、機竜は影となって霧散した。

 

「【アフリマ】の効果で【闇黒の魔王ディアボロス】をサーチ!

 手札の【影王デュークシェード】の効果ァ!自分フィールドの闇属性を任意の数リリースし、このカードを特殊召喚する!【アフリマ】をリリース!!

 そして自分フィールドの闇属性がリリースされたことで【ディアボロス】の効果発動ォ!

 【闇黒の魔王ディアボロス】を特殊召喚だァァァアァァァ!!」

 

 薄暗い地下空間を覆う影から、闇が溢れる。

 闇はやがて、影よりも深まり、カタチを変え、闇黒の魔王となって顕現した。

 

 闇黒の魔王ディアボロス

 レベル8/ATK3000

 

「さらにィ!【影王デュークシェード】は自身の効果で特殊召喚した時、リリースしたモンスターの数かける500ポイント攻撃力がアップする!」

 

 影王デュークシェード

 レベル4/ATK500→1000

 

「バトルフェイズ!【ディアボロス】で【パンデミック・ドラゴン】を攻撃!

 さっきはよくもやってくれたなクソメスがァァッ!!

 俺の怒りを思い知れぇ!!死んで俺に詫びろォォォォォオオォォ!!」

 

「テメェが色んな人に詫びるべきでしょうがぁぁぁぁ!!!

 トラップ発動!【ディメンション・ウォール】!!

 戦闘ダメージを自分の代わりに相手に与えますッ!!」

 

「なにィ!?!?」

 

 魔王が漆黒の闇を放ち、黒の奔流が病竜を飲み込む。

 だが、闇はあたし達には届かない。

 その闇は時空の歪みに巻き込まれ、執事姿の男へと降り掛かった。

 

 クソ執事

 LP:7200→6700

 

「がぁぁああぁぁぁ!?痛い、痛ぃぃっぃいいいっぃぃぃ!?」

 

「破壊された【パンデミック・ドラゴン】は場に病を残します!

 フィールド全てのモンスターの攻撃力を1000ダウンです!!」

 

 闇黒の魔王ディアボロス

 ATK3000→2000

 

 影王デュークシェード

 ATK1000→0

 

 闇を支配する魔王も、影を統べる王も、蝕む病みには勝てない。

 王政は永く続くことはなく、破滅へ向かって朽ちていく。

 

「ク、ソがァァァアァァア!!よくもよくもよくもォッ!!

 メインフェイズ2!【デュークシェード】をリリースして【ディアボロス】の効果発動!

 相手は手札を1枚選びデッキの一番下か一番上に戻す!!」

 

「ハンデスですか……あたしはデッキの下にカードを戻します」

 

「カードを3枚伏せてエンドフェイズゥ!

 【シャドウ・ディストピア】の効果発動!!このターンにリリースされたモンスターの数までターンプレイヤーの場に【シャドウトークン】を作り出す!俺は【シャドウトークン】を3体精製ィ!!」

 

 シャドウトークン

 レベル3/DEF1000

 

「これで俺はターンエンドォ!

 クソガキが……目にもの見せてやる……ッ!!」

 

 クソ執事

 LP:6700

 手札:4枚

 場:闇黒の魔王ディアボロス

   シャドウトークン

   シャドウトークン

   シャドウトークン

 伏せ:3枚

 魔法・罠:闇黒世界─シャドウ・ディストピア─

 

 男は瞼のない目を血走らせ、あたしに憎しみをぶつけてくる。

 鬱陶しいくらい怒りの籠もった視線だ。それが、あたしを見ている。

 

 でも、あたししか見ていない。

 その隣にいる少女を、コイツは見ていない。

 

「…………梨々華さん。思いっきり、かましちゃってください」

 

 驚異と見なしていないのは、もう分かった。

 コイツはずっと、見下している。

 自らを強者と勘違いし、獲物を弱者と思い込み、既に勝った気でいる。

 

「あぁ────」

 

 愚かだ。

 致命的だ。

 

「────私のタァァァァァアァァン!!ドロォォォォォォ!!」

 

 故にその慢心の代償は、最高額で支払われることになる。

 

「【儀式の下準備】を発動ッ!

 デッキから儀式魔法【祝祷の聖歌】と儀式モンスター【竜姫神サフィラ】を手札に加える!

 フィールド魔法【魔神儀(デビリチャル)の隠れ房】を発動し、効果処理として手札の魔神儀モンスター【魔神儀 ─ タリスマンドラ】を見せ、同名モンスター2体をデッキから特殊召喚!!」

 

 魔神儀 ─ タリスマンドラ

 レベル6/DEF0

 

 魔神儀 ─ タリスマンドラ

 レベル6/DEF0

 

「見せた【タリスマンドラ】はデッキに戻り、デッキから特殊召喚された【タリスマンドラ】の効果を発動だ!

 儀式モンスター1体をデッキから手札に加える!来い、【サイバー・エンジェル─弁天─】!」

 

 自立する木の根が下げた首飾りが、けたたましい叫び声を上げる。

 思わず耳を塞ぐほどの絶叫。それを哀れんでか、機械天使の1体が手札に舞い降りた。

 

「【弁天】を手札に揃えてきたか!ならば今が好機!

 トラップ発動!【死のデッキ破壊ウイルス】!!」

 

 絶叫の中で、男がニチャァと口角を上げる。

 すると絶叫が鳴り止み、木の根が腐っていく。

 

「このウイルスは攻撃力1000以下のモンスターを媒体とし、相手のモンスターを殺す!

 梨々華ァ!お前の場の【タリスマンドラ】1体をリリースし、手札とフィールドの攻撃力1500以上のモンスター全てを破壊するぞォォ!!」

 

「くっ……対策してくるか!」

 

「お前はこうされると困るんだよなァ!知ってるぞ!

 俺はずっとお前の傍にいたんだからなァ!!

 梨々華のデッキも戦術も、弱点さえも全て知ってるんだぞォ!!」

 

 唾を飛ばして男は気持ち悪い執着を吐く。

 見ていた、知っている、対策している。

 一回り二回りも歳の違う少女への性欲の副産物。

 それが、梨々華さんを腐らせようとする。

 

 だが…………

 

「やらせるもんですかぁぁぁあぁぁぁあ!!

 リバースカード発動!カウンタートラップ【魔宮の賄賂】ッ!!」

 

「なっ!?」

 

 だが、やらせはしない。

 あたしはそのために、ここに立っているのだから!

 

「【死のデッキ破壊ウイルス】の効果を無効化!

 その対価としてお前に1ドローくれてやります!!」

 

「き、貴様ァ……!またしても俺の邪魔をするかァァァ!!」

 

「ええ!!テメェが死ぬまで邪魔してやりますよ!!」

 

 1枚のドローを強引に押し付け、広がりかけたウイルスを送り返す。

 これで彼女を腐らせるものはなにもない。

 

「ベニアさん……!すまない、恩に着る!」

 

「大丈夫ですよ!最大限サポートしますから!

 さぁ、妨害は気にせずぶちかましてください!」

 

「ありがとう……ありがとう!行くぞ!!儀式魔法発動!【祝祷の聖歌】ッ!!

 手札の【弁天】をリリースし、【竜姫神サフィラ】を儀式召喚ッ!!」

 

 竜姫神サフィラ

 レベル6/ATK2500

 

「さらに【弁天】、【魔神儀の隠れ房】の効果発動!

 リリースされた【弁天】の効果でデッキから【サイバー・エンジェル─荼吉尼(だきに)─】を手札に持ってくる!

 そして【隠れ房】は1ターンに1度儀式モンスターの特殊召喚に成功した場合、フィールドのカードを破壊できる!お前のその伏せカードを破壊だ!」

 

「チィ!ミラーフォースが破壊されたか!!」

 

「まだだ!手札の【魔神儀─カリスライム】の効果を発動!

 このカードを相手に見せ、手札を1枚捨ててデッキから魔神儀モンスターを特殊召喚する!

 【サイバー・エッグ・エンジェル】を捨て、【魔神儀─ペンシルベル】を特殊召喚!」

 

 魔神儀─ペンシルベル

 レベル3/DEF0

 

「デッキから特殊召喚された【ペンシルベル】の効果!

 墓地の儀式モンスター【弁天】を手札に戻す!そして…………」

 

 梨々華さんが1枚のカードを手に取り、あたしと目を合わせる。

 

「ベニアさんの力、もう一度貸してくれ!

 【タリスマンドラ】と【ペンシルベル】をリリース!

 アドバンス召喚!来い!【轟雷帝ザボルグ】ッ!!」

 

 雷光が、暗闇を裂いた。

 先程男が使った雷とは根本から違う、強く鮮烈な輝きを宿した、雷だ。

 閃光の始発点。そこにいたのは、雷を統べる帝だった。

 

 轟雷帝ザボルグ

 レベル8/ATK2800

 

「ザボルグだと……!

 いや待て、アドバンス召喚したということは……ッ!?」

 

「【冥界の宝札】の効果発動!デッキから4枚ドローだ!」

 

「お、お前まで……綺麗だったお前まで……汚らわしいクソガキの真似事をするのかァァァ!!」

 

「その汚い口でベニアさんまで侮辱してんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!

 ベニアさんは、殺那さんは、廻理は!!私に力を貸してくれた大切な人たちだッ!!」

 

 高らかに、どこまでも堂々と、梨々華さんは叫ぶ。

 あたしたちを大切な人たちだと言い切りし、あたしたちのために怒ってくれる。

 

 その姿は、穢れた大人に食い物とされる哀れな少女じゃない。

 自らの弱さに泣いていた少女なんかじゃない。

 

 ここにいたのは、強くて、自らの意思で戦う、ひとりの決闘者だった。

 

「【轟雷帝ザボルグ】の効果を発動!アドバンス召喚成功時にフィールドのモンスター1体を破壊する!!」

 

「図に乗るなよ梨々華ァ!お前みたいな愛玩メス人形がなにを壊せるっていうんだァ!

 【ディアボロス】はモンスターゾーンにいる限り効果の対象にできないんだよォォォ!!」

 

「だったら影を焼き払う!【シャドウトークン】を破壊しろ!ザボルグ!」

 

 眩い雷が放たれ、影を照らす。

 漂う影は反応することさえも許されず、閃光に穿たれ焼き尽くされた。

 

「張り替えだ!フィールド魔法【祝福の教会─リチューアル・チャーチ】を発動!

 【リチューアル・チャーチ】の効果で墓地の魔法カードを任意の枚数デッキに戻し、その枚数と同じレベルの天使族・光属性モンスターを墓地から特殊召喚する!

 【ワン・フォー・ワン】と【二重召喚】をデッキに戻し、墓地の【サイバー・エッグ・エンジェル】を蘇生!

 特殊召喚された【サイバー・エッグ・エンジェル】の効果でデッキから【機械天使の儀式】を手札に!!」

 

 教会の鐘の音に誘われ、天使が舞い降りる。

 天使が授けるのは、儀式の手順。

 そして彼女の手の中にはすでに機械天使がいる。

 

「儀式魔法【機械天使の儀式】を発動!!

 手札の【弁天】と場の【サイバー・エッグ・エンジェル】をリリース!!」

 

 執り行われるは、機械天使の儀式。

 2体の天使が舞い、焚べられる。

 

「オン・ダキニ・ソワカ!その刃を振るい、我らを害する暗闇を切り払え!

 儀式召喚、レベル8!舞い降りろ!【サイバー・エンジェル─荼吉尼─】!!」

 

 舞い降りた機械天使は、荼吉尼。

 この屋敷に来てから何度も見てきた2対4つ腕の女神。

 されど、その力強さは今までのそれとは違う。

 

 廻理さんとのデュエルで現れたそれは、どこかおぼろげで頼りなかった。

 死体の美天さんが操るそれは、根本的に魂が欠如していた。

 

 けど、今は。今の梨々華さんの操るこのカードは。

 はっきりとした強さと高潔な魂を宿していた。

 

 サイバー・エンジェル─荼吉尼─

 レベル8/ATK2700

 

「リリースされた【弁天】の効果でデッキから【サイバー・エンジェル─伊舎那(いざな)─】を手札に!

 そして【荼吉尼】の効果!このカードが儀式召喚に成功した場合、相手は自身のフィールドのモンスター1体を墓地へ送らなければならない!!」

 

「クソッタレがァァ!俺は【シャドウトークン】を墓地へ送るゥ!

 【ディアボロス】は殺させんぞ梨々華ァ!」

 

「ぶっ殺してやるよッ!そこのデカブツもお前も!!

 儀式魔法【高等儀式術】を発動!デッキから通常モンスター【ギャラクシーサーペント】【死の沈黙の天使 ドマ】【キーメイス】を墓地へ送り、そのレベルの合計が同じ儀式モンスターを儀式召喚する!!レベルの合計は8!」

 

 地に魔法陣が広がり、神秘的な竜が、死を司る天使が、小さな天使が、その上で捧げられる。

 

「オン・イシャナヤ・ソワカ!神々しき光で魔を払い、這い寄る悪意を浄化しろ!

 儀式召喚、レベル8!舞い降りろ!【サイバー・エンジェル─伊舎那─】!!」

 

 魔法陣から光の柱が上がり、機械天使が現界する。

 その天使は、荼吉尼と同じように4本の腕を持っていて、しかし戦士然とした彼女と比べると、それは優しい女神のように映った。

 

 サイバー・エンジェル─伊舎那─

 レベル8/ATK2500

 

「降臨した【伊舎那】の効果発動!相手は自身のフィールドの魔法・罠カード1枚を墓地へ送らなければならない!」

 

「今度は魔法・罠か!?クソッ……仕方がない、【シャドウ・ディストピア】を墓地へ送る!」

 

「伏せカードは墓地に送らなかったか……!だが問題ない!

 バトルフェイズ!【荼吉尼】で【ディアボロス】を攻撃!!」

 

 荼吉尼が薙刀を、二振りの刃を構えて魔王へと迫る。

 ディアボロスの攻撃力はパンデミック・ドラゴンの効果により現在2000。

 機械天使にとって病める魔王など、驚異でもなんでもなかった。

 

「やらせるかァ!トラップ発動【迷い風】!

 【荼吉尼】の効果を無効化し、元々の攻撃力を半分にする!これで返り討ちだァァ!」

 

 刃が煌めく、直前。

 禍々しい風が吹き、天使を惑わせる。

 迷いに鈍った刃はそれでも魔王へ向かうが……このままでは逆に屠られるだけだ。

 

「残念だったな梨々華ァ!これでお前は俺にダメージを与える手段を失ったァ!

 そもそもお前は人を傷つけられるようなヤツじゃないんだよォ!!

 俺がそういう風に教育してきたんだからなァァァ!!」

 

「お前が親面してんじゃねぇぇぇ!!私の親はお母様だけだぁぁッ!!

 【伊舎那】の効果発動ォ!サイバー・エンジェル儀式モンスターを対象とする相手の効果が発動したとき、自分の墓地の儀式モンスターをデッキに戻し相手フィールドのカードを破壊する!

 墓地の【弁天】を戻して【シャドウトークン】を破壊だ!!」

 

「無駄なことを!悪足掻きでシャドウトークンを破壊したところでなにも変わらんぞォ!!」

 

「まだだ!!さらに速攻魔法発動!【荘厳なる機械天使】!!

 手札・フィールドのサイバー・エンジェル儀式モンスターをリリースし、場の天使族・光属性モンスターの攻守をターン終了時までリリースしたモンスターのレベルかける200アップする!

 私は【伊舎那】をリリースし【荼吉尼】の攻撃力を1600上昇させるッ!!」

 

「なんだとォォオォ!?」

 

 サイバー・エンジェル─荼吉尼─

 ATK2700→4300→2950

 

「殺れぇぇぇええぇ!!荼吉尼ぃぃいぃッ!!」

 

 伊舎那が、弁天が、光の粒子となって荼吉尼の力になる。

 仲間たる機械天使たちに背中を押された荼吉尼は一気に加速し、影を両断。

 そして眩い光を纏った天使が一閃、煌めく刃を振るい闇黒の魔王の首を刎ね飛ばした。

 

「【ディアボロス】が破壊され…………おい、待て、なぜ俺に刃を向ける……!?

 まさか、お前……この俺を傷つけるつもりか……!?」

 

「大丈夫、やれる!私はやれる!殺那さんに教えてもらった!!

 人を殴るときのコツは…………何も考えないことぉぉぉぉおおぉ!!

 うおぉぉぉおぉぉぉあああぁぁ!!死ねクソ野郎がぁぁああぁぁぁぁッ!!!」

 

 荼吉尼の薙刀が、振り下ろされる。

 銀色の軌道は袈裟懸けに、男の胴体を切り裂いた。

 

 クソ執事

 LP:6700→5750

 

「ぐぁぁあぁぁぁぁぁぁぁああぁぁ!?!?

 い、痛い……な、何故だァ……何故俺を攻撃したんだ梨々華ァ!?

 俺を殺すつもりかァァアアァァァァァァアァ!?!?」

 

「初めから殺すって言ってるだろうが!早く死ねよ!!」

 

「そうですよ!誰がテメェみたいなカスに慈悲をかけるっていうんですか!!」

 

 直線上の傷口から鮮血を吹き出す男へ、あたしは両手の中指を立てる。

 その隣で梨々華さんもまた、右手の中指を立ててみせた。

 

「ありえない……ありえないぃ……!

 そんな風に育てた覚えはないぞ……!?

 お、俺の愛玩人形が……汚れてしまったというのかァ……!?」

 

「梨々華さんはテメェのもんじゃないでしょうがぁぁ!!」

 

「あぁ!私は私のモノだ!間違ってもお前のラブドールなんかじゃない!

 【サフィラ】と【ザボルグ】でダイレクトアタック!くたばれぇッ!!」

 

「や、やめろ……!そんなことをされたら俺は死んでしまう!!

 生まれた頃から傍にいた大切な使用人を殺して良いいわけが────ぎゃあぁぁああぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 ザボルグが雷を降らせる。

 サフィラが光のブレスを放つ。

 雷光と神光。2つの光は混ざり合い、不浄な男を焼き焦がした。

 

 クソ執事

 LP:5750→3250→450

 

「……がっ……は…………お、おのれェ……!

 い、今まで、仕えてやったのにィ……成長を、見守ってやったのにィ……!

 なのにこの仕打ちか!?鳴金梨々華ァァァァアァァァ!!」

 

「お母様を殺してお姉様を傷つけたんだから当然の仕打ちだろッ!!

 エンドフェイズ!【サフィラ】の効果を発動!デッキから2枚ドローし、手札を1枚選んで捨てる!これで私はターンエンドだ!」

 

 ベニア・梨々華

 手札:4枚

 場:竜姫神サフィラ

   轟雷帝ザボルグ

   サイバー・エンジェル─荼吉尼─

 魔法・罠:祝福の教会─リチューアル・チャーチ

      冥界の宝札

      冥界の宝札

 

 梨々華さんの猛攻で、クソ執事野郎の盤面は完全に崩壊。

 場のカードは根絶やしされ、ライフは三桁にまで追い込まれた。

 その上胴体を切り裂かれ、雷に貫かれ、光で焼かれて、満身創痍といった有様だ。

 

「クソ、クソッ、クッソがァァアァァアア!!

 誰のせいだ……お前のせいか『孤児院』のクソガキィ!!

 お前が俺のラブドール計画を汚したのか!?汚したんだな!許さんぞォォオォ!!」

 

 あたしに醜悪な殺意を向け、男は怒り狂いながらカードを引く。

 

「俺のターン!ドロー!

 【強欲で貪欲な壺】を発動!デッキの上から10を裏側で除外し2ドロー!

 魔法カード発動!【ブーギートラップ】!手札2枚を捨て墓地の【死のデッキ破壊ウイルス】をセット!

 【悪夢再び】!墓地の【悪王アフリマ】と先程捨てた【悪魔嬢リリス】を墓地から手札に戻すゥゥゥ!!」

 

 カードがデッキを、手札を、墓地を、行き交う。

 手札の調整。展開の前準備。

 男の様子からして……ここから再び仕掛けて来る。

 

「【悪王アフリマ】を手札から捨てて効果発動!デッキから2枚目の【闇黒世界─シャドウ・ディストピア─】を手札に加える!

 【シャドウ・ディストピア】を発動!さらに速攻魔法発動!【エネミーコントローラー】!!

 自分フィールドのモンスターをリリースし、相手フィールドのモンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る!

 【シャドウ・ディストピア】の効果で代わり梨々華の【サフィラ】をリリースし、【ザボルグ】を操作するゥ!!」

 

「っ、ザボルグ……!」

 

「さらにフィールドの闇属性がリリースされたことで墓地から【ディアボロス】が蘇る!

 闇より現れろ!あのクソアマを踏み潰せ!【闇黒の魔王ディアボロス】ゥゥゥ!!」

 

 再び闇が広がり、そこから這い出すように魔王が蘇る。

 刎ねた首は元通りに。天使の殺された憎悪だけは引き継いで。

 ディアボロスは身を震わせ大きく吼えた。

 

「バトルフェイズゥ!! 俺の一途な願いを汚した罰を受けろォォオォッ!!

【ディアボロス】で【荼吉尼】をこうげ…………」

 

「やらせるか!墓地の【超電磁タートル】の効果発動!

 墓地のこのカードを除外しバトルフェイズを終了する!!」

 

「ば、馬鹿なァ!?いつの間にそんなカードを仕込んだ!?」

 

 前のターンのエンドフェイズか。

 サフィラの効果で手札から捨てる際に、超電磁タートルを墓地へ落としていたのだろう。

 

「何故だ……何故俺の思い通りに事が進まない!?

 お前らみたいなカスに、どうして俺は苦戦を強いられている!?

 こんな、こんなこと……絶対おかしいだろうがァァァアァ!!」

 

 さらに大きく目を見開き、男は両頬に爪を立て赤いラインを引く。

 その自傷行為は激怒の表れ。

 クソのような男は子どもの癇癪みたいに怒鳴り散らし、髪を振り乱してカードを叩きつける。

 

「畜生がァァアァァ!メインフェイズ2!【悪魔嬢リリス】を召喚!

 【ザボルグ】をリリースし【悪魔嬢リリス】の効果を発動!

 デッキから通常罠カード3枚を見せ、その中から相手がランダムに選んだ1枚をセットする!

 俺は【悪のデッキ破壊ウイルス】【魔のデッキ破壊ウイルス】【闇のデッキ破壊ウイルス】の3枚を選択ゥ!!」

 

「またウイルスカードか……!私は左のカードを選択する!」

 

「エンドフェイズ!【シャドウ・ディストピア】の効果で【シャドウトークン】を2体精製!ターンエンドだァ!」

 

 クソ執事

 LP:300

 手札:2枚

 場:闇黒の魔王ディアボロス

   悪魔嬢リリス

   シャドウトークン

   シャドウトークン

 伏せ:2枚

 魔法・罠:闇黒世界─シャドウ・ディストピア─

 

「あたしのターン!ドロー!まずは…………」

 

「トラップ発動!【魔のデッキ破壊ウイルス】!

 梨々華の【伊舎那】をリリースし、手札・フィールド、3ターンの間にドローしたカードの内攻撃力1500以下のモンスターを全て破壊する!!」

 

 カードを引いた瞬間、病魔が天使を食い破り、拡散した。

 魔のデッキ破壊ウイルス……先程リリスの効果でセットしたのは、このカードだったか。

 

「……あたしの手札には、攻撃力1500以下のモンスターはいません」

 

「チッ!外したか!だがしかしィ!『孤児院』のガキィ!俺はお前のデッキの弱点を把握したぞ!

 お前のデッキは低ステータスのモンスターをリリース素材にしている!そうだよなぁ!?

 ならばその全てをフィールドに出る前に始末すればお前は何もできまい!!」

 

「着眼点は悪くありませんね……ですが!それなら違う方法で展開するだけです!

 墓地の【ドットスケーパー】と【キャシー・イブL2】を除外して手札から【デグレネード・バスター】を特殊召喚!!」

 

 デグレネード・バスター

 レベル7/ATK2500

 

「馬鹿な……動いてきた、だと……!?」

 

「【ドットスケーパー】は除外された場合フィールドに特殊召喚されます!

 さらに【リチューアル・チャーチ】の効果を発動!梨々華さん!その力をお借りします!

 墓地の【荘厳なる機械天使】と【儀式の下準備】をデッキに戻し、墓地から【サイバー・エッグ・エンジェル】を特殊召喚です!」

 

 祝福の金が鳴り、電子のドット体と、卵の天使が場に戻ってくる。

 これでモンスターが2体以上、場に揃った。

 

「行きます!【ドットスケーパー】と【サイバー・エッグ・エンジェル】をリリース!

 アドバンス召喚!来て、【ジュラック・タイタン】」

 

 ジュラック・タイタン

 レベル9/ATK3000

 

「【冥界の宝札】の効果発動!デッキから4枚ドロー────────ッ!?!?」

 

 引いたカードを見て、あたしは思わず目を見開いた。

 

(そんな、どうして……『このカード』が手札に……!?)

 

 ありえない。もう3年もドロー出来なかったのに。

 なんで今更。あたしは『このカード』に見放されたはずじゃ……。

 

「くっ……引いたカードは攻撃力1500以下だったため、【魔のデッキ破壊ウイルス】の効果で墓地へ送ります……!」

 

 今しがた引いた『このカード』は、すぐさま墓地へ落ちていった。

 それは、とても意味深に。あたしになにかを問いかけるように…………。

 

「トラップ発動!【死のデッキ破壊ウイルス】!

 俺のフィールドの【リリス】を媒介に、お前の場と手札の攻撃力1500以上のモンスター全てを破壊する!その後お前はデッキの攻撃力1500以上のモンスターを3体まで破壊できる!」

 

「もう1つのウイルスカード……!」

 

 思考の海から現実へと、意識を浮上させる。

 今度は悪魔嬢を介してウイルスがばら撒かれた。

 弱者を根絶やしにする魔のウイルスとは真逆の、強者を殺す死のウイルス。

 それがフィールドを、手札を、デッキを、破壊していく。

 

「くっ、手札の【カリスライム】がやられたか……!」

 

「あたしの場からは、【デグレネード・バスター】と【ジュラック・タイタン】が破壊されます。

 手札に攻撃力1500以上のモンスターはいません。デッキからは【スレッショルド・ボーグ】【ROMクラウディア】【壊星壊獣ジズキエル】を破壊します」

 

「クククッ!ハハハハハハハハハハ!!

 ざまぁみろクソガキィ!苦労して並べたモンスターが全滅だァ!

 今どんな気分だ?俺に歯向かうからこうなるんだよゴミクスがァァァ!!」

 

「そうですか…………調子乗ってんじゃないですよクソボケがぁぁ!!

 破壊された【ROMクラウディア】の効果発動!このカードが破壊された場合、デッキからレベル4以下のサイバース族1体を特殊召喚します!来て、【リンク・ストリーマー】!!」

 

 ウイルスに犯されたROMクラウディアのSOSは、他のサイバースに届いた。

 電子の青い光が走り、頭上に衛星が飛来する。

 

「ROMクラウディア!?それは死のデッキ破壊ウイルスの効果で自らが破壊したカードだろ!?

 こ、こんなインチキ地味たコンボが許されるかァァ!!」

 

「迂闊にカードを使うからこうなるんですよぉ!

 【死者蘇生】を発動!墓地の【ドングルドングリ】を特殊召喚!

 特殊召喚された【ドングルドングリ】の効果で【ドングルトークン】を精製!

 さらに【リンク・ストリーマー】の効果発動!このカードが既にフィールドにいる状態でサイバース族が特殊召喚された場合、【データトークン】を精製します!」

 

 リンク・ストリーマー

 レベル4/DEF1800

 

 ドングルドングリ

 レベル1/DEF0

 

 データトークン

 レベル1/DEF0

 

 ドングルトークン

 レベル1/DEF0

 

「一瞬でモンスターが4体も……!しかし!お前はすでに召喚権を使っている!

 雑魚モンスターを何体並べようがお前にはどうすることもできまい!!」

 

「だったら召喚権を増やすだけ!永続魔法【ブリリアント・フュージョン】を発動!!

 デッキから【ジェムナイト・ラズリー】と【メタファイズ・アームド・ドラゴン】を墓地へ送り、攻守を0にして【ジェムナイト・セラフィ】を融合召喚です!」

 

 天使を模した石の戦士が、あるいは宝石のような天使が現れる。

 

 ジェムナイト・セラフィ

 レベル5/DEF0

 

「【ジェムナイト・ラズリー】は効果で墓地へ送られた場合、墓地の通常モンスター1体を手札に戻します!【メタファイズ・アームド・ドラゴン】を手札へ!

 そして【ジェムナイト・セラフィ】の効果!このカードがモンスターゾーンに存在する限り、あたしはもう1度モンスターを通常召喚できます!」

 

「嘘だ…ありえん……!2枚のウイルスカードを使ってなお、止められないというのか!?」

 

「【データトークン】と【ドングルトークン】をリリース!

 アドバンス召喚!来て、【メタファイズ・アームド・ドラゴン】!!」

 

 2つのデータが混ざりあい、電子の文字列となって幻竜の像を結ぶ。

 出現するは、黒き魔王とは対象的な白き竜。

 闇黒と純白。2つの竜は相容れぬ相手を排するように、咆哮を轟かせた。

 

 メタファイズ・アームド・ドラゴン

 レベル7/ATK2800

 

「【冥界の宝札】で4枚ドロー!引いた【マシュマロン】がウイルスにより破壊されます!」

 

「また4ドロー……しかも上級モンスターまで……!

 だが……だがァァ!!攻撃力はたかだか2800!

 俺のディアボロスは突破できん!」

 

「悔しいことに、その通りですね。

 だから、お見せしますよ……あたしの、切り札を!」

 

 天を、指差す。

 人差し指の延長線上。

 そこには、藍色に彩られた幾何学模様の門があった。

 

「あたしは、【ドングルドングリ】【リンク・ストリーマー】【ジェムナイト・セラフィ】をリンクマーカーにセット!召喚条件はカード名が異なるモンスター3体!」

 

 ドングリのUSB、電子の衛星、宝石の天使。

 それら全てが門へと飛び込み、藍色が点滅する。

 

「星の始まり、連綿と綴られた繁栄の軌跡。これなるは、その甘い闇の真なる名!」

 

 闇が、門から広がる。

 魔王が操る冷たくておどろおどろしい闇じゃない。

 

 漏れ出すのは甘く、心地よく、蕩けるような、熱い、闇。

 その黒の雫が滴る度に、あたしの心臓は鼓動を早める。

 

「リンク召喚!リンク3!!」

 

 ドク、ドク、ドク、ドク、ドクドクドク。

 恋する乙女みたいな脈の音。

 その脈拍が最高潮を迎えた瞬間、門の向こうのソレは起動する。

 

「高鳴れ!アイラブユーの心拍音──────!!」

 

 砂糖みたいに熱い闇が、放たれる。

 どんな知的存在だろうが逃れることの叶わない感情の集積体が、その象徴が。

 今ここに顕現する──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────────【ダークナイト@イグニスター】!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────愛みたいな、黒い騎士。

 暗い紫色のラインの走ったサイバース。

 

 ダークナイト@イグニスター。

 それが、あたしの持つ最も頼れるカードの名前だった。

 

 ダークナイト@イグニスター

 リンク3/リンクマーカー 左下 下 右下/ATK2300

 

「な、なんだ……なんなんだそのカードはァ!?

 クソっ!墓地の【迷い風】の効果を発動し、このカードをセット!」

 

「見たこともないカード……ベニアさん、貴方は一体……」

 

「ただの奴隷ですよ。昔ちょっと色々あっただけの、奴隷です」

 

 ダークナイトを見上げる。

 鋭く、でもどこか優しい色をした紫の瞳が、あたしを見下ろしていた。

 

「行きましょう。バトルフェイズ!

 【ダークナイト@イグニスター】で【シャドウトークン】を攻撃!

 切り裂いて、ダークナイト!」

 

 黒の騎士が疾駆し、手にした剣で影を斬る。

 いともたやすく影は真っ二つになり、静かに薄れて霧散した。

 

 そう、これは前段階。

 戦闘破壊は目的ではなく手段に過ぎない。

 ここからが、ダークナイトの本領発揮。

 

「【ダークナイト@イグニスター】の効果発動!このカードが戦闘でモンスターを破壊した時、墓地からサイバース族モンスター1体を呼び戻す!リ・コーリング・ラブ・ミー!

 戻ってきて、【スレッショルド・ボーグ】!!」

 

 ダークナイトから紫の光が溢れ、電子の鋼鉄人形の姿を形作る。

 

 スレッショルド・ボーグ

 レベル7/ATK2400

 

「先程の死のデッキ破壊ウイルスで墓地へ送ったモンスターか……!

 だが攻撃力はたったの2400!ディアボロスには届かん!」

 

「届かせるんですよ!【スレッショルド・ボーク】は相手フィールドのモンスター全ての攻撃力を500ダウンさせる!これで【ディアボロス】の攻撃力は2500となります!

 これなら突破は可能!【メタファイズ・アームド・ドラゴン】で【ディアボロス】を攻撃!」

 

 白い幻龍が首を反らし、口いっぱいに光を溜め込む。

 それを黒い魔王へ向けて放てば、光は純白の熱線となって闇を照らした。

 

「攻撃力を下げた程度で調子に乗るなァァ!

 墓地の【ネクロ・ガードナー】の効果発動!このカードを除外しその攻撃を無効にする!!」

 

 光熱線が魔王を焼く、その前に。

 ディアボロスの前に鎧を纏った戦士が飛び込み、光を受け止めた。

 

「【ネクロ・ガードナー】……!前のターンの【ブーギートラップ】で墓地に落としていましたか……!」

 

「クククッ!ハハハハハッ!!お前のようなゴミの浅知恵が俺に通用すると思ったか!

 大間違いなんだよクズがァァァァアァァ!!お前みたいな雑魚に俺は殺せんッ!!」

 

「だったら殺せるまで攻撃してやりますよ!速攻魔法発動!【ライバル・アライバル】!!

 この瞬間、あたしは即座にモンスター1体を召喚します!

 【ダークナイト@イグニスター】と【メタファイズ・アームド・ドラゴン】をリリース!来て、【龍大神】!!」

 

 助けてくれてありがとう、と呟き、消えゆく2体を見送る。

 甘い闇が晴れ、眩くも幻想的な光は性質を変え、ここに狼に似た神霊が呼び降ろされた。

 

 龍大神

 レベル8/ATK2900

 

「【冥界の宝札】で4枚ドロー!その内1枚がウイルスで破壊……!」

 

 ウイルスで手札がボロボロと崩れていく。

 攻撃も止められてしまった。

 

 しかし、あたしは止まらない。

 手札が奪われるなら、それを上回る速度で補充すればいい。

 攻撃が防がれるなら、通るまで殴り続ければ良い。

 

 その姿が無様に映ろうが関係ない。

 勝ったもんが勝ちなら、あたしは泥に塗れてでも勝ちを拾おう。

 

「お願い、【龍大神】!【ディアボロス】を討ち取ってッ!!」

 

「ば、馬鹿な……!俺のディアボロスが……攻撃力3000の大型モンスターが……!またしても戦闘破壊されるというのかァァァ!?」

 

 神霊はその牙で魔王の首を喰い千切る。

 それはまるで和洋折衷な神話のワンシーン。

 そして高らかに吼える龍大神は魔王を討ち取るだけに留まらず、鋭い爪で男を切り裂いた。

 

 クソ執事

 LP:450→50

 

 

「ぐぎゃぁぁああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!?!?

 ぃ、いぃぎぃ……何故、俺がこんな理不尽な目にィ……!

 分かってるのかクソガキィィィィイイィ!殺人は重罪だぞォォォオォォ!!」

 

「どの口が言ってんですかぁ!【スレッショルド・ボーグ】で【シャドウトークン】を攻撃!

 そしてメインフェイズ2!カードを2枚伏せて、エンドフェイズに移行!

 【シャドウ・ディストピア】の効果でトークンを3体精製してターンエンドです!」

 

 ベニア・梨々華

 LP:4000

 手札:4枚

 場:龍大神

   スレッショルド・ボーグ

   シャドウトークン

   シャドウトークン

   シャドウトークン

 伏せ:2枚

 魔法・罠:冥界の宝札

      冥界の宝札

      ブリリアント・フュージョン

      祝福の教会─リチューアル・チャーチ

 

 仕留めきれなかったが……上出来か。

 相手のライフは残り50。

 さらにこのターンは【死のデッキ破壊ウイルス】の効果であたし達はダメージを受けない。

 これなら、次の梨々華さんのターンで殺しきれる。

 

「畜生……畜生、畜生がァァァァァァアアアアァッ!!

 ドロォォ!【ダーク・バースト】を発動ォ!墓地の【影王デュークシェード】を手札にィ!

 さらに【カプシェル】を通常召喚!」

 

 カプシェル

 レベル2/ATK0

 

「【カプシェル】と【スレッショルド・ボーグ】をリリースゥ!!

【影王デュークシェード】を特殊召喚だァァアアァ!!」

 

 影王デュークシェード

 レベル4/ATK500→1500

 

「スレッショルド・ボーグがリリースされましたか……!

 ですが、【龍大神】の効果発動!相手が特殊召喚に成功した場合、相手のエクストラデッキのカード1枚を墓地へ送ります!」

 

「いちいち鬱陶しいんだよクソメスがァァァアァ!!

 リリースされた【カプシェル】の効果で1枚ドロー!

 そして場の闇属性がリリースされたことで墓地から【ディアボロス】が蘇るゥッ!!」

 

 三度魔王が闇より現世に帰還する。

 不死身の闇は赤い瞳で龍大神を憎たらしげに睨んでいた。

 

「【龍大神】の効果でエクストラデッキを破壊です……ッ!」

 

「クソクソクソクソクソォォォォ!!

 墓地の【聖なるバリア ─ミラーフォース─】を除外し【悪魔嬢アリス】を手札から特殊召喚!!」

 

「【アリス】を特殊召喚した瞬間に【龍大神】の効果でエクストラデッキを破壊します!」

 

「猪口才なァァァァァ!!【ディアボロス】の効果発動ォォ!!

 【アリス】をリリースし貴様の手札1枚を奪い取るッ!!」

 

「またハンデス……!あたしはデッキの一番下に戻します!」

 

「リリースされた【アリス】の効果ァ!!デッキから【悪魔嬢ロリス】を手札に加えるゥ!

 バトルフェイズゥゥゥ!!【ディアボロス】でそのウザい【龍大神】を攻撃ィィィィ!!」

 

 魔王が冷たい闇を放つ。

 このターン、男はあたし達にダメージを与えられない。

 しかし、戦闘でモンスターを破壊すること自体はできる。

 このままでは龍大神は破壊されてしまうが……。

 

「好きにはさせません!トラップ発動!【パワー・フレーム】!

 【ディアボロス】の攻撃を無効化し、攻撃対象にされた【龍大神】の攻撃力をその差分アップする装備カードとしてこのカードを装備します!」

 

「アァァ、アアアアァァァァァァァアアァァァァァッ!!!

 俺の、俺の邪魔ばかりしやがってェェェェエエェェェェェ!!

 ディアボロスゥゥゥウウゥ!!このクソガキ共に罰を与えろォォォオォッ!!!」

 

 攻撃を防がれたディアボロスが、怒りの咆哮を上げて龍大神に襲いかかってくる。

 無駄だ。もうディアボロスは攻撃できないし、どうやったって戦闘ダメージは与えられない。

 

「無意味なことを……!テメェにできることはなんにもないんですよ!!」

 

「だがそれはルール上の話ィ!抑えつけていろディアボロスゥ!!」

 

 男が懐から金属質な物体を取り出す。

 握られたL字型の黒いソレがあたしの方を向いた、次の瞬間。

 火花が飛び散り、右肩に思いっきり殴られたかのような衝撃が走った。

 

「ぎゃぁっ!?……まさ、か…………ッ!」

 

 クソ男の手にあったのは、一丁の拳銃。

 奴はなんの躊躇いもなく、即座に、引き金を引いてきやがった。

 

「クッ、ソ…………ッ!!」

 

 確かにルール上はダメージを与えられない。

 しかし、ルールの外での行動なら、その制約は無視される。

 だから発砲するのは勝手だし、銃弾で相手を貫いてもルール違反じゃない。

 そして不味いことに、男の指はまだ引き金にかかっている。

 

「梨々華さんッ!!」

 

 銃口があたしと梨々華さんとの間で揺れる。

 銃の形状からして、装弾数は6。残弾はあと5つか。

 5発も撃てれば、あたし達を一緒に射殺することも不可能じゃない。

 

 そうはさせるかと梨々華さんを抱きしめて伏せ、彼女の盾になる。

 射程距離から離れるには時間が足りない。だが庇うには充分だ。

 

 ズキン、銃弾に貫かれた腹と肩痛んだ。

 八重峰に撃たれたのと、先程男に撃たれたのの、両方の銃創から激痛が走る。

 この状態で5回も撃たれたら……あたしは、どうなるだろうか。

 

「べ、ベニアさん…………ッ!?」

 

「大丈夫、です……!絶対、守りますから!」

 

 どうなるかは、分からない。

 あたしだって死にたくはない。

 でも、梨々華さんを見殺しになんてしたくない。

 

 なら、耐えれば良い。

 どうせ痛いのには慣れている。

 銃弾くらい、耐えてやる。

 

「ッ!ベニアさ────────」

 

 歯を食いしばり、きつく目を瞑る。

 それとほぼ同時に、銃声が5回、鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

「………………………………」

 

「……………………………………」

 

「………………………………」

 

「………………………………………………」

 

「………………………………………………………………」

 

「……………………………………………………………………なん、で……」

 

 閉じていた目を、開ける。

 新しい痛みは、ない。

 

「無事、か…………?ベニア、さん……」

 

 だって、覆いかぶさるようにして、梨々華さんがあたしを守ったのだから。

 

「な、なんでです……!?なんで、梨々華さんがあたしを庇って……!?」

 

 引き金が引かれる直前、梨々華さんはあたしと位置を入れ替えた。

 本来銃弾を食らうはずだったあたしは、梨々華さんの後ろに。

 あたしが守るはずだった梨々華さんが、あたしの盾になり5発全ての弾丸を受け止めた。

 

「ベニア、さん…………大怪我、してた……から……

 これ以上……怪我、したら…………死んじゃうんじゃ……って……」

 

「ッ…………!!」

 

 梨々華さんの体重が、あたしにかかる。

 彼女の身体から、どんどん力が抜けていっている。

 

「梨々華、さん……!」

 

「ごめん、な…………わたし……つよく、なくて…………

 ……もっと、つよかったら…………ちゃんと…………まもれ、た…………」

 

 梨々華さんの瞳が、閉ざされる。

 完全に力の抜けた彼女の身体が、あたしに落ちた。

 

 息はまだある。

 撃たれた衝撃で気絶しただけだ。

 

「……強いですよ、貴方は。きっと、この場にいる誰よりも」

 

 身体を起こして、そっと梨々華さんを横たえる。

 そしてあたしは軽く彼女の頭を撫でてから、立ち上がった。

 

「ハ、ハハハハ!ハハハハッハハハハハハハハハハハハッ!!

 俺に歯向かうからこうなるんだ馬鹿共がァ!

 新品のラブドールを傷つけてしまったのは少々もったいないがこの際良しとしよう!」

 

 男の方へ向き直る。

 醜悪だ。醜悪極まるケダモノが、嗤っている。

 

「御託は結構です。さっさとターンを終わらせてください」

 

「…………貴様は本当に癇に障るなァ……!昨日も俺の邪魔をしおって……ッ!

 気に食わないんだよゴミクソがァ!!メインフェイズ2!カードを1枚セット!

 エンドフェイズに【シャドウトークン】3体を精製しターンエンドォ!」

 

 3体の影が湧き出し、男の手番が終了する。

 その次は、梨々華さんのターンだが…………

 

「梨々華は気を失っていてデュエルが出来ない!

 よってターンはスキップされまた俺のターンだァ!ドロー!」

 

「……えぇ、付き合ってやりますよ、個人戦に」

 

 デュエルディスクを構え直し、対峙する。

 もう、覚悟は決まった。

 徹底的にやってやろうじゃないか。

 

「まずはリバースカード発動!【闇霊術─「欲」】!【龍大神】をリリースし、デッキから2枚ドローする!

 相手は手札の魔法カードを見せることでこの効果を無効化できるが……このターンの相手プレイヤーにあたる梨々華がなにもできないんじゃ仕方がないなァァァァァァァ!!」

 

 龍大神が消え去り、2枚のカードに変わり果てる。

 実質的な連続ターンに、相手のモンスターをコストにするやり口。

 そのやりたい放題具合は、まさしく自分勝手な「欲」と呼ぶに相応しい。

 

「【シャドウトークン】2体をリンクマーカーにセット!

 召喚条件は悪魔族モンスター2体!

 リンク召喚、リンク2ィ!【パーペチュアルキングデーモン】!」

 

 藍色の門に2つの影が吸い込まれ、入れ替わるように剣を携えた悪魔が現れる。

 

 パーペチュアルキングデーモン

 リンク2/リンクマーカー 左下 右下/ATK2000

 

「続けて【悪魔嬢ロリス】を通常召喚し効果発動!墓地の【魔のデッキ破壊ウイルス】【闇霊術─「欲」】と除外されている【聖なるバリア ─ミラーフォース─】をデッキの下に戻し1枚ドロー!

 【ディアボロス】の効果も発動だァ!【シャドウトークン】をリリースし貴様の手札1枚をデッキに戻すぞォォ!」

 

「……あたしは、デッキの一番上に戻します」

 

「ククククッ!ハハハハハハハッ!!まだまだ終わらんぞォ!!

 モンスターがリリースされたことで【ロリス】の効果が発動ォ!

 墓地の通常罠1枚をフィールドにセットする!

 再び【死のデッキ破壊ウイルス】をセットだァァァァ!!」

 

 悪魔が笑い、またもや死のウイルスが仕掛けられる。

 馬鹿の一つ覚えだ。本当に馬鹿みたい。

 

「そしてバトルフェイズゥ!さぁお前が死ぬ時間が来たぞ!!

 【デュークシェード】と【悪魔嬢ロリス】で【シャドウトークン】を攻撃!」

 

 影の王と悪魔が、揺らめく影を打ち倒す。

 これであたしの場は空っぽ。

 もうどこにも壁となるモンスターはいない。

 

「残った【ディアボロス】と【パーペチュアルキングデーモン】の攻撃力の合計は5000!

 お前のライフを0にしてもお釣りが来るぐらいだなァ!!ハハハハハ!ざまぁみろォ!!

 んん?今なら遺言を聞いてやってもいいぞ?俺の寛大な心に感謝するんだなァ!!」

 

「そうですか。では………………」

 

「馬鹿がァ!誰がお前みたいな汚いガキの言葉など聞くものかァァァァ!!

 【パーペチュアルキングデーモン】でダイレクトアタック!!とっと死ねクソがァァァァアァァ!!」

 

「誰が死ぬもんですか……リバースカードオープン、速攻魔法【スプール・コード】。

【パーペチュアルキングデーモン】の攻撃を無効にし、フィールドに【スプールトークン】3体を守備表示で特殊召喚します」

 

 大きな悪魔が骨のような大剣を振りかぶってあたしに迫るが……触れることは叶わない。

 大剣は電子に弾かれ、さらにあたしを守るように3つの電子塊が出現した。

 

 スプールトークン

 レベル1/DEF0

 

「遺言、ちゃんと聞いとくんでしたね」

 

「き、貴様ァ……!まだみっともなく生きるのかァァァァアァァァァァァ!!!

 いい加減死ねェェェエェ!!その不快な姿を俺に見せるなァァァァアアアア!!

 【ディアボロス】で【スプールトークン】を攻撃ィィィィィィ!!」

 

 怒り狂う魔王が漆黒のブレスを放つ。

 しかし、その闇はあたしに届かない。

 割り込んだ電子塊が盾となり、我が身を犠牲に守ってくれた。

 

「クッソがァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!

 カードを1枚伏せてエンドフェイズに【シャドウトークン】1体を精製ィィ!!

 死ね!死ね!死ね死ね死ねェェェェ!!さっさと死ねよオォォォォ!!ターンエンドォォォ!!」

 

 クソ執事

 LP:50

 手札:3枚

 場:闇黒の魔王ディアボロス

   影王デュークシェード

   悪魔嬢ロリス

   パーペチュアルキングデーモン

   シャドウトークン

 伏せ:3枚

 魔法・罠:闇黒世界─シャドウ・ディストピア─

 

 男の2ターン目が終わる。

 クソ男はダメージを与えられなかったことに腹を立て、何度も何度も地面を蹴っていた。

 

「フーッ!フーッ!…………憎い、憎いぞォ!

 俺が、何故……こんなにも苛立たたねばならないィ……!

 あぁ、クソ……目が乾く……!お前らが来てからロクなことが起こらん……ッ!」

 

 地面を蹴飛ばすのを止め、男は瞼のむしり取られた両目を手で覆う。

 その間、男はブツブツと無意味で見当違いな文句を垂れていた。

 

「だが……だがァ!ここで貴様を殺せばちょっとは気が晴れるというものォ!

 クククッ!惨たらしく殺してやるぞォ……!何百発と殴り、蹴り、泣いて許しを乞うても止めず……俺の機嫌を損ねたことを後悔させてやるゥゥ!!」

 

「……そうですか」

 

 随分と生温くて、薄っぺらい脅しだ。

 コイツの語る言葉には、恐怖がない。

 

 おかしな話だ。きっと廻理さんと出会う前のあたしなら、こんなチャチな脅迫にだって恐怖を覚えたはずなのに。

 

「どうやらお前は状況が分かってないらしいなァ……!

 いいかァ!俺の手札には【バトルフェーダー】があるんだよォ!!

 例えお前がサンダー・ボルトのような全体除去カードを使ってきたとしても、俺にトドメを刺すことは出来ん!!」

 

 そう言って男は3枚の手札を見せつけてくる。

 その言葉が真実かハッタリかは判断できないが、最早どうでもいい話だ。

 

「…………梨々華さんは失神していて、ここにはあたしとお前しかいない。

 そしてお前が死ねば、あたしがこれからやることは……誰にも知られずに済む」

 

「あぁ?何を言って…………」

 

 男の声は無視して、意識を自分の内側に向ける。

 これからやることには、かなりの勇気と覚悟が必要だ。

 

(……もう一度、『あのカード』を使うしかないか)

 

 デッキの中のカードはあらかた出し尽くした。

 そもそもウイルスを掻い潜れるカードがもう残っていない。

 切り札のダークナイトの再利用も叶わない。

 唯一残された勝ちの目は、『あのカード』だけか。

 

 だが、『あのカード』は特別だ。

 もう一度使うとなれば、あたしの身になにが起こるか知れたものじゃない。

 ひとつだけ確かなのは、使えば最後、あたしは過酷な運命に飲み込まれるということだ。

 

 …………カードとの巡り合わせは、運命に似ている。

 故にカードを自らの手で掴むという行為は、運命を選択し、委ねることと同義だ。

 

(運命から、あたしは一度逃げた。その代償に……片目を失った。

 また逃げたら……今度は命を失うでしょうね)

 

 ギャングに飼われ虐げられていた3年間の地獄を思い出す。

 次は、あれ以上の地獄に堕ちるのだろうか。

 あるいは、あたしが次に与えられる運命は、あれ以上に苦しいのだろうか。

 

 ──────残酷。

 こんなはずなんかじゃなかった。

 馬鹿のまま幸せに生きていたかった。

 愚かしく勘違いしたまま、何も知らずにいたかった。

 

 間違っても裏デュエル界なんて場所には堕ちるはずじゃなかったのに。

 好きな人に初めてを捧げ、繋がることの温かさを知るはずだったのに。

 両の目で、世界の綺麗な部分だけをずっと見ているはずだったのに。

 

 でも……それでも。

 どれだけ残酷な世界でも、そこで精一杯に生きる人を、あたしは知った。

 

(…………廻理さんのせいですね)

 

 きっと、あの人に出会いさえしなければ、あたしは程々の地獄で死ねたのに。

 あの人に出会いさえしなければ、クソみたいな人生に希望なんて抱かずに済んだのに。

 あの人が、居場所になろうとなんてしてくれなかったら、あたしは絶望の中で腐れたのに。

 

 どんなにクソみたいな世界でも、あの人は────廻理さんは、いつも笑っているから。

 

 あーあ。廻理さんのせいで、ちょっと前向きになっちゃった。

 そのせいで、また『あのカード』を引いちゃったじゃないですか。

 

(じゃあ、仕方ありませんね?)

 

 鼻孔の奥で、甘くて香ばしい匂いがした、気がする。

 やってやる。楽な道より、苦しい運命を選んでやる。

 それがあたしの命の使い道だというのなら────やるだけやって、死んでやろう。

 

「……貴方は、神に祈ったことがありますか?」

 

 デッキに指をかけて、問う。

 罪人を前にした聖職者のように。

 神に仕える巫女のように。

 人を裁く審判者のように。

 

「あぁ?神だと?くだらんなァ!お前も八重峰のカスと同類かァ!?

 そんなものに縋るのは弱者のすることだ!俺のような強者は神などには祈らん!!

 そもそも神などいるわけがないだろうが愚か者がァァ!!」

 

「なら、最期に良いものが見られますよ」

 

 目を閉じて。息を吸って、吐いて。

 目を開いて、カードを引く。

 

「あたしのターン、ドロー。

 ────貴方に、謁見を許しましょう。感涙に咽びなさい」

 

 相手の手札になにがあろうが関係ない。

 相手がなにを伏せていようが意味はない。

 奴の死は、すでに決まっているのだから。

 

「魔法カード発動、【死者転生】。手札を1枚捨て、墓地のモンスターを手札に加えます」

 

「チィ!サルベージかァ……!!大人しく死ねばいいものをォォ……ッ!」

 

 墓地より、『あのカード』が手札に戻る。

 瞬間、心臓が強く痛んだ。

 

「っ、ぅ……!この感覚も、久しぶりですね……ッ!」

 

 ドス黒い悪意に心臓が侵され、じわじわと締め付けられるような痛苦。

 下手をすれば命を握り潰されそうな圧力。

 その苦しみを押し殺し、あたしはさらにカードを発動させる。

 

「通常、魔法……【ギャラクシー・サイクロン】を発動……!

 セットされている【死のデッキ破壊ウイルス】を破壊します……!」

 

「させるかァ!トラップ発動!【死のデッキ破壊ウイルス】!【スプールトークン】を媒介にウイルスを拡散!

 さらにリバースカード発動!速攻魔法【非常食】!!【死のデッキ破壊ウイルス】、伏せている【迷い風】、そして【シャドウ・ディストピア】を破壊しライフを3000ポイント回復ゥ!」

 

 クソ執事

 LP50→3050

 

 電子塊が腐り落ちる。

 それを横目に、男のライフが爆発的に回復した。

 

「クククククッ!ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!

 もしや攻撃が通れば勝てるとでも思ったかボケがァァァァァァァァ!!

 お前みたいなカスが俺に勝てるわけがないだろうがァァッ!!」

 

「ライフが、3050……ですか」

 

「壁が5体並び手札にはバトルフェーダー!そしてライフは約3000!

 この状況から俺のライフを削り切ることは不可能ゥ!!無駄な足掻きをご苦労だったなァァ!!」

 

 ライフが回復してから、男は酷く上機嫌に嗤い出す。

 耳障りだし、その嗤い顔がかなり不愉快だった。

 

「さぁ【死のデッキ破壊ウイルス】の効果で手札を捨てろォ!なにをサルベージしたかは知らんがどうせ攻撃力1500以上のモンスターだろ!お前のようなカスが最期に縋るのは攻撃力が高いモンスターと相場が決まっているからなァァ!!」

 

「捨てませんよ。ウイルスの条件を満たさないので」

 

 手の中にある、1枚だけの手札を見る。

 

「このモンスターの攻撃力は…………100です」

 

「はぁ?攻撃力100?ククッ!ハハハハハ!!ついに勝負を諦めたようだなァァ!!」

 

 男の嘲笑は無視して、思考をまとめる。

 残りライフ3050、か。

 

 問題ない。いける。

 その程度であれば、一撃で削り切れる。

 

「【リチューアル・チャーチ】の効果を発動。

 墓地の【死者蘇生】【ライバル・アライバル】【スプール・コード】をデッキに戻し、墓地からあたしの【マシュマロン】を特殊召喚。

 そして、【スプールトークン】をリンクマーカーにセット。召喚条件はレベル4以下のサイバース族1体」

 

 藍色の門が展開され、電子の塊が門へと組み込まれる。

 スプールトークンはアドバンス召喚のリリースには使えない。

 故にその姿を、より相応しい物へと変える必要がある。

 

「来たれ、信奉者よ。リンク召喚、リンク1。【リンク・ディヴォーティー】」

 

 門より現れるのは、電子の信奉者。

 リンク・ディヴォーティーは傅き、その身を委ねる。

 

「またモンスターが2体……!アドバンス召喚か!?」

 

「えぇ。これが、最後です」

 

 胸の前で手を合せ、指を組む。

 それからあたしは、祈るようにして、告げる。

 

「【リンク・ディヴォーティー】と【マシュマロン】を生贄に捧げます」

 

 2体のモンスターが黒く変色し、溶けて地面に染み込む。

 これは、リリースに非ず。

 供物として捧げるこの行いは、まさしく生贄と呼ぶに違いなく。

 

「────────────祝詞奉る」

 

 これより紡ぐは神への祝詞。

 地に眠る我らが神を呼び起こすための言の葉。

 

「我は大地の巫女。継ぐ血を星縛(ほしばり)、名を紅亞(べにあ)」

 

 言葉に応えるように、黒い巨大な心臓のようなモノが顕れる。

 握り拳に似たその心臓は、祝詞に合わせて拍動を始める。

 

「悠久なるアトラス、その末裔。最高神の地たる神の供物乙女。

 穢れた我が身を喰らい、その大いなる御力をお貸しください」

 

 黒い心臓の脈音が強まり、呼応して地に紅い線が走る。

 その線が象るのは、広大な鳥の地上絵。

 

 心臓音が鳴る度に紅い地上絵は禍々しい光を放ち、ゆっくりと起き上がる。

 それはまるで、大いなる霊が起き上がるように。

 ただの線は幽体となり、黒い心臓と重なっていく。

 

 そして、線の御身に心臓が重なり組み込まれたそのとき。

 地に縛られた大いなる神が、完全に現世に顕現する。

 

「生け贄召喚。星の怒りを知れ────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────【地縛神 Wiraqocha(ウィラコチャ) Rasca(ラスカ)】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神が────降臨した。

 

 この広い地下空間でさえせせこましいと羽を閉じる、巨大な鳥の神が。

 数多の魂を溶かして混ぜ合わせたかのような黒の巨鳥が。

 生け贄の血が通ったような紅い線に彩られた神が。

 最強の地縛神が、今、この場に、召喚された。

 

 地縛神 Wiraqocha Rasca

 レベル10/ATK100

 

「ぁ……あ、あぁ………!な、なんだ……何なんだ……!?一体そのカードは何なんだッ!?

 し、知らないぞ……!そんな、おぞましいカード!!」

 

 地縛神を前にして、ようやく男は恐怖の感情を覚えたらしい。

 足がガクガクと震え、哀れな男は無意識に後ずさりした。

 

「だ、だが………だがァ!お、俺の手札にはバトルフェーダーが…………」

 

「死を受け入れなさい。【Wiraqocha Rasca】は現世へ降りた際、相手の手札の枚数……最大3までの任意の数だけ、自分の場の表側表示カードをデッキに戻します。

 あたしは【冥界の宝札】2枚と、【ブリリアント・フュージョン】をデッキに戻し捧げることで、神のさらなる効果を発動。

 デッキに戻した枚数だけ相手の手札を墓地へ送ります。よって貴方の手札は、全て奪われます」

 

「ば、馬鹿な…………嘘だ、ありえない……ッ!?バトルフェーダーが……!!」

 

 3枚のカードを捧げられ、それではまだ足りないと神は男の手札さえ喰らう。

 この神が贄として求めるのは使用者だけではない。

 神に仇なす愚か者をも貪り、死の運命だけを食べ残す。

 

 それが────Wiraqocha Rasca。

 遍く可能性を奪い、理不尽な運命を強いる最強の地縛神。

 

「【Wiraqocha Rasca】の攻撃力は、この効果で相手が捨てた手札の数かける1000ポイントアップします。よってその攻撃力は────」

 

 地縛神 Wiraqocha Rasca

 ATK100→3100

 

「────攻撃力は、3100です」

 

 神に走る紅い線が、より紅く、血が流れるように染まる。

 血管に似たその紋様に通うのは、これまでに捧げられた数多の供物。

 その供物を対価に、地縛神はその御力をあたしに貸し与えてくださる。

 

「さ、さんぜんひゃく……?い、いや………まだだ……!攻撃力がどれだけ上がろうと、俺の場には5体もの壁モンスターがいる!!例え攻撃したとしても、俺のライフが尽きることはない……ッ!!」

 

「神の前では壁など意味を成しません。

 地縛神は相手に直接攻撃することができます」

 

 鳥の神が軽く跳ね、男の前に着地する。

 その際に魔王が、影の王が、悪魔嬢が、漂う影の群れが、悪魔の王が、踏み潰された。

 いとも簡単に、些事ですらないと言わんばかりに、アリを潰すよりも容易く、ついでみたいに。

 地縛神は踏んだ悪魔の群れになんて気を留めず、足元の男を見下ろす。

 

「直接、攻撃……だと……!?や、やめろ…………!!俺を殺すのか……!?

 ありえない、こんな…………こんなガキに、負け……負ける……!?

 そんな……そんなコト、認められるかァァァアァァァァ────────」

 

 ばしゃり。

 瞬きの間の刹那で、男から右腕が消失する。

 神の嘴には、僅かに赤が付着していた。

 それはまさしく神速。神は、目にも止まら速さで贄の男を腕を食んだのだ。

 

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁあああぁぁあああああああぁぁぁああぁぁぁぁあ!?!?

 うでがぁぁぁぁぁ!?!?ぃ、ぎ……お、おれの……おれのうでぇ……っ!!」

 

 肩から吹き出す鮮血が地面を濡らし、男は傷口を抑えて蹲る。

 そんな男の頭の先に、嘴が緩慢な動きで近づいていく。

 

「ひっ!?な、何故……俺が、し、死ぬ……?死ぬのか……?この、俺が……?

 い、嫌だ……いやだァァ!!死にたくない、死にたくないィィィ!!

 助けてくれ助けてくれ助けてくれェ!!こんなはずじゃなかったんだよォォォォォ!!!」

 

 神を前に、男は絶叫する。

 涙を流して、恐怖で糞尿も垂れ流して。

 みっともなくて喚いて情けを乞う。

 

「梨々華を殺して性人形にして思う存分犯して遊んでェ!!

 それから次の獲物を見つけるまで1年くらいは梨々華だけで満足するつもりだったんだ!!

 当分人を殺す予定はなかったァ!!そもそも死体をどう扱おうが俺の自由だろォ!?

 アイツらは俺がどれだけ犯そうとも文句一つ言わなかった!!それは俺が許されているということじゃないのかァ!?」

 

「………………………………………………」

 

「お、お前が神なら分かるよなァァ!!俺はなにも悪くないってことくらいィィ!!!

 殺されるなんて理不尽だ!!しょうがないだろ人間だって動物なんだからなァァ!!

 誰にだって性欲はある!!性欲に従って美しい女を殺して犯すのはくらいは許されてもいいはずじゃないのかァァァァ!?!?」

 

「遺言は、以上ですか?」

 

 もういい。

 もう聞きたくない。

 

 聞くに堪えない言い訳だ。

 いや、言い訳ですらない。

 

「Wiraqocha Rasca。どうか、審判を」

 

 神が、裁く。

 この罪人に、罰を。

 その穢れた魂に、終わらぬ報いを。

 

 大きな嘴が静かに上げられる。

 死が遠ざかる気配に、男は助かったと安堵の表情を浮かべた。

 許されたと、罪はないと、そんな顔だった。

 

 当然そんなわけはない。

 直後、神は嘴を振り下ろす。

 

「あ゛ああ゛あぁぁぁ゛ぁぁ゛あ゛あぁぁ゛ぁ゛ぁぁ゛!?!?いたぁぁぁいぃぃぃいいいぃぃ!?!?」

 

 残った左腕を喰らう。足を喰らう。腹を喰らう。腸を喰らう。

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。

 啄むように、少しずつ、少しずつ。齧り、嬲り殺しにする。

 

「ぎゃぎっ!?いぎゃぁっ!?おれ、15年もォっ!がぁぁっ!?

 がんば、いぃっ!?頑張った、頑張ったのにィィィィ!!

 理想の女を死体レイプするためにィ!!頑張ったのにィィィいたぃぃぃいたすけてくれぇぇぇぇえええええぇぇええ!!!」

 

 神が啄む音と、男の絶叫が木霊する。

 もう男は立っていない。

 両足が食われ、皿に並べられた料理のようになっていた。

 神の食事はまだ終わらない。

 時間をかけて、男を最大限苦しめて、悲鳴と共に腹に収めていく。

 

「ぁ…………ひゅー………………し、にたく…………な……

 ま、だ…………りり、か……れいぷ、できてな…………もっ、と……」

 

「心底軽蔑しますよ。貴方のこと」

 

 今際の際まで、救えない。

 手足腰胴を失い、胸と頭だけになってなお、懺悔のひとつもしないのか。

 最期の最期に考える後悔が、そんなことなのか。

 

「死になさい」

 

 もう一度だけ、神の口が落ちる。

 

「や、め…………いやだ……………や、いや………いやだぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁあああああああああああ!!!!」

 

 大きく開かれてその嘴は、残った男を一口で飲み込む。

 

『ぎゃああぁぁあぁぁぁああああぁ!?!?あついあついあついぃぃぃぃいいぃ!?!?

 とけ、とけてるぅぅぅぅ!?あああぁぁああぁぁぁぁ!!!あちぃぃいぁぎゃぁいぎぃぃ!!!

 あ゛ああ゛あ゛あぁ゛ぁぁ゛ぁぁあああ゛ぁぁ゛ぁぁあああ゛あ゛あああ゛ぁぁ゛ぁぁ゛ぁ゛あぁぁ゛ぁぁ゛ああ゛ああぁぁあぁぁ゛ぁ゛あぁぁ゛ぁあああ゛あ゛あ゛!!!!』

 

 神の腹から、くぐもった叫び声が聞こえた。

 果たしてそこがどうなっているのかは、あたしは知らない。

 けれど、神の胃の中で溶かされ、焼かれる痛苦は、正真正銘の地獄に違いないのだろう。

 

 やがて悲鳴も溶けていき、消える。

 もうどこにも、男の痕跡はない。

 肉も、血も、魂も。神の糧となって消滅した。

 

 

 クソ執事

 LP:3050→0

 

 

 …………かくして、デュエルは終わる。

 男の命を零へと帰れば、地縛神もまた大地に姿を消した。

 

「──────がはっ!?ごほっ!?」

 

 胸の奥から熱い痛みが溢れ、耐えきれず口から血を吐き出す。

 数年ぶりの地縛神の召喚。その負荷に肉体が耐えられなかったか。

 

「げほっ!げぼっ!?……っ、う……はぁ、ぁ、はぁ……!!」

 

 口いっぱいに生臭い鉄の味がして、地に吐いた涎と胃酸と血の混合液が粘性の糸を引く。

 胸部が尋常じゃなく痛い。意識も朦朧としてくる。

 

「…………これ、以上は……無理、です……か……」

 

 歩くこともままならない。

 悔しいけど、あたしはここでリタイアみたいだ。

 

「どの、道…………梨々華さんを、置いて……いけません、けど」

 

 ふらつく身体に鞭打って、這うように梨々華さんの元へ近づく。

 そのままあたしはへたり込んで、膝の上に彼女の頭を乗せた。

 

 ここで、あたしは休んでいよう。

 梨々華さんを見守っていよう。

 

 きっと後のことは全部、あの人がどうにかしてくれるはずだから。

 

「あとは……おまかせ、しますね………………廻理さん」

 

 膝上の金の髪を撫でて、意識を保ちながら。

 あたしは、あの人が全てを終わらせるのを、待つことにした。

 

 

 

 

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