遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻 作:胡麻野すり子
今章最後のデュエルとなります!
グロ描写があるため、苦手な方をお気をつけください!
では、始まります!
地下深くから地上を目指して数十分。
ボクらはどうにか這い上がり、久々のシャバの空気を吸っていた。
「どうかな、久しぶりに地上に出た感想は」
「思ったより嬉しくないわ。まだ自由になった実感がないからかしら」
ボクのカーディガンを羽織った葛さんが、淡々と答える。
そんな彼女に肩を貸しながら、ボクはゆっくりと館の廊下を歩いて行く。
「あぁ……もう大丈夫よ。これからは、自分の足で歩けるから」
「えっ?大丈夫?足、めちゃくちゃ痛いと思うけど……」
心配するボクを余所に、葛さんは身体を離す。
「痛くない……と言ったら嘘になるけれど、どうしても自分の足で立って歩きたいの」
彼女は顔を僅かに歪めながらも、しっかりと立つ。
銃弾に貫かれた足で、それでも強く。
「舐められたくないの。あのクズ共に」
「あははっ。そりゃそうだよね」
確かにそれは大切だ。
痛いのを我慢してでもやる価値がある。
「じゃあ、はい。デュエルディスクは渡しておくよ」
そう言って渡すのは、地下に転がっていたチンピラが持っていたデュエルディスク。
丁度いいところで死んでいたので、勝手に拝借していったものだ。
「助かるわ。貴方って気が利くのね」
「いやー、それほどでも」
素直に褒められたのが嬉しかったので、ボクは頭を掻いて照れ笑いを浮かべる。
葛さんはそんなボクからデュエルディスクを受け取り、そのまま腕に装着した。
「さぁて、それじゃあ毒親の皆さんに目に物見せてやろうか。
えーと連中は…………あっちかな」
視界の端に黒い虫が映る。
ボクがターゲットを探すために実体化させたモンスターだ。
その黒い虫は触覚を数回揺らし、ボクらを導こうと走っていった。
「行こっか、葛さん」
彼女の細い手を取って、ゆっくりと歩き出す。
「あら、エスコートしてくれるのかしら?」
「もちろん。レディを守って優しく先導するのは男性の役目でしょ?」
「…………………………そういうものかしらね」
「そういうものだよ、レディ。しばしの間、ボクとお付き合いいただけるかな?」
「…………勝手にしなさい」
葛さんがそっぽを向く。
それから、彼女はボクの手をおずおずと握ってきた。
ボクもまたその手を握り返す。
そうしてボクらは連れ添って、ゆっくりと歩を進めた。
さて、黒い虫を追いかけていくと、ボクらは外の庭園に辿り着いた。
冷えた風が頬を撫で、草花を揺らしていく。
月光に照らされた花々で彩られた庭園はどこか幻想的で、けれどどこか不気味だった。
「おっ、いたいた。お疲れ様でーす」
庭園の中で、目当ての人物を見つける。
神経質そうな、クソみたいな男性だ。
「あ?お前は……『孤児院』のガキか!!」
男……鳴金雄太郎は振り返ると、一目散にボクに向かってくる。
その顔はなぜか潰れ、鼻と前歯が折れていた。
「おいどうなってるんだクズが!なんで私の屋敷がこんなことになっている!
それとお前と一緒に来たあのクズ女はなんだ!あのクズに殴られたんだぞ!」
「はぁ……」
早口でまくし立てるものだからほとんど聞き取れなかった。
まぁなんか怒っていることだけは分かったので、適当に返事をする。
「……貴方がクソだからこうなったのではないかしら」
「あぁ?……っ!?何故、お前がここにいる……!?」
ボクの後ろいる葛さんを見て、鳴金雄太郎が目を見開く。
「おいクズ!私はそこのゴミを殺せと言ったはずだぞ!!
どうしてソイツが生きているんだ!!さっさと殺せ!!」
「依頼内容は、屋敷の地下にいるサイコデュエリストの暗殺だったはずですよ。
ボクは一言も、『鳴金葛を殺せ』とは聞いていませんが?」
「ふざけるな!!なんで殺人依頼のひとつもこなせないんだこのクズが!!」
鳴金雄太郎は怒りの形相で、ボクの胸ぐらを掴んでくる。
見たくもない潰れた顔が間近になった。
「とりあえず地下の件の主犯は八重峰墓丹……アンタの浮気相手でしたよ。
あと、たぶんサイコデュエリストですよ、アイツ。いや知らないですけど。
でも地下にいておそらくサイコデュエリストだと思うので、八重峰墓丹をぶっ殺して依頼完了ってことにしようかなと」
「八重峰!?どうしてあの売女の名前が出てくるんだ!!
ふざけたことを言ってるんじゃないぞ学のないクズが!!
いいからそこの女を殺せ!!これ以上私の視界にその汚い女を入れるな!!」
「無駄な殺しはしませんよ」
鳴金雄太郎がボクの頬をぶん殴ってくる。
怪我しない殴られ方を知っているので、別に痛みはない。
「鳴金葛を殺せ!!今すぐに!汚れた売女の娘をこの世から消せ!!」
「は?嫌ですけど?」
今度は唾を吐き捨てられる。
べちゃっと、きったない唾液が頬にへばり付いた。
「ゴミの分際で人間様に逆らうな!!さっさと葛を――――ごばっ!?!?」
流石にムカついたので胸の中心を思いっきり殴り返してやった。
その衝撃で鳴金雄太郎は胸ぐらから手を離し、痛みに耐えきれずにしゃがみ込む。
「ばっちいなぁ、もう。おじさんの唾液とかぶっかけられたくなかったよボク」
膝をつき胸部を抑える鳴金雄太郎のポケットから、ハンカチをくすねる。
服の袖とかで拭う気分にはなれなかった。
「……ごめんなさいね、不快な思いをさせてしまって。貸して頂戴、拭くわ」
「えっ?いやいいって、子どもじゃないんだし」
「アタシの親の不始末だもの。それくらいはさせて」
言うや否や、葛さんがハンカチを奪い取り、ボクについた唾を拭いてくれる。
いかにも高級品といった手触りのいい布の感触と、指先の優しさが頬を撫でた。
「姉さんみたい……」
「姉よ。これでも一応ね。……はい、綺麗になったわ」
「ん、ありがとうね、葛さん」
くしくしと綺麗にしてもらってから、男の方に向き直る。
鳴金雄太郎は未だ苦しそうにして、ただボクらを睨みつけていた。
「さて、鳴金雄太郎さん。どうやら勘違いしているようだけどさ、ボクらはアンタの奴隷じゃないんだよね」
『孤児院』のメンバーに人権はない。
ボクらは所詮、組織に飼い殺しにされている奴隷だ。
しかし、その飼い主様は組織の人間であって、目の前の男じゃない。
「アンタは対等な取引相手に過ぎないよ。
なのに舐めてかかるっていうのは社会人としてどうなのかな?」
「クズの分際で、対等になれるわけがないだろうが……!」
怒り心頭といった感じで、男が立ち上がり再びボクへと手を伸ばす。
しかし、男の手がもう一度胸ぐらを掴むことはなかった。
葛さんがその腕を掴んで止めたからだ。
「娘の前でみっともないことをしないで」
「葛……ッ!図に乗るなよ売女の娘が!!そもそもお前が私の娘を名乗るな!!
この私の子どもが、お前みたいな汚物以下のクズなはずがないのだからな!!」
そう言って、鳴金雄太郎が葛さんの頭をぶん殴る。
重い音がして、彼女の黒い髪が揺れた。
けれど葛さんは、よろけもしない。
「痛くも痒くもないわ。思ったよりも弱いのね。
あぁ、非力な腰抜けだから、アタシを縛ってからじゃなきゃ犯せなかったのかしら」
「ッ!ほざくなクズがッ!!」
葛さんの挑発に、鳴金雄太郎は顔を真っ赤にして激昂する。
男は拳を振り上げ、葛さんはデュエルディスクを構えて迎え撃つ。
……その刹那、なにかが風を切る音がした。
「っ!?やば……!」
咄嗟に葛さんを抱きかかえて後退する。
直後、さっきまでボクと葛さんが立っていた場所を、骨の塊みたいな化け物が通過した。
巨大なその化け物はうめき声と共に庭園をなぎ倒す。
化け物が過ぎ去った後のえぐれた地面を見るに、直撃すればタダでは済まなかっただろう。
「なぁんで、生きているのかしらねぇ……。
カスはカスらしく、とっとと死んでほしいのだけれど?」
半壊した庭園に、声が響いた。
そちらを向けば、そこには女がひとり。
――八重峰墓丹。
今回の件の元凶が、イカれた女が、葛さんの実の母親が。
冷めた目をして、そこにいた。
「やぁ、さっきぶりだね。元気そうでなによりだよ、おばーさん?」
「まぁ、相変わらず賑やかなお口ねぇ。
残念だわぁ、永遠に黙っていてくれたら素敵だったのにねぇ?」
「あははっ、じゃあダメだね。お喋りだからさ」
「や、八重峰……!?な、何故生きている!?お前は死んだはずでは……」
殺意を交えた適当な会話をしていると、鳴金雄太郎が驚愕した様子を見せる。
その視線の先には八重峰墓丹。暗殺されたはずの浮気相手の姿があった。
「その節はどうもぉ。貴方たち一家に復讐するために、冥府から蘇ったわぁ」
「冥府!?復讐!?なにを馬鹿げたことを言っているんだこの売女が!!」
「あらぁ、売女だなんて酷い。貴方のヘッタクソなセックスに何度も付き合ってあげたでしょう?
私はただ、その報酬をもらいに来ただけよぉ?ほら、有り金も遺産もぜぇんぶ寄越して、惨たらし死んでくださいねぇ?」
「うるさい死ね!抱いてやった分際でなにを偉そうに!!
貴様のような股の緩いクズに誰が金を払うか!!
そもそもお前のせいで不必要なガキが生まれて迷惑してるんだぞ!!
私は何度も何度も堕ろせと言ったのに!どうして産んだんだ!!あぁ!?」
鳴金雄太郎が地団駄を踏みながらデュエルディスクをセットする。
それに応じて、八重峰も同じようにディスクを構えた。
「…………最悪な口論ね。聞きたくなかったわ」
抱きかかえていた葛さんがため息をつき、腕の中から離れる。
それから彼女もまた、懐からデッキを取り出しディスクにセットする。
「あらぁ?ゴミが混ざるつもりかしらぁ?」
「えぇ、混ざってあげるわ。ゴミ同士のくだらない争いに。
感謝しなさい。わざわざレベルを下げて来てあげるのだから」
「うふふ。また黙らせてあげる必要があるようねぇ」
女が妖艶に笑う。
けれどその目に一切の笑みはない。
そこにあるのは、不愉快さと怒りだけだ。
「殺してあげるわ、鳴金葛。一円の価値もない駄作の子どもの、一応の母親として。
産んでやった恩を忘れて実の母親に楯突いたゴミの清掃は、親の責任だものねぇ」
「殺れるものなら殺ってみなさい。
このクソみたいな世界に産んでもらった恩を、最大限の仇にして返してやるわ」
殺意が交差し、空気が張り詰める。
肌を刺すような緊張感。
それを感じながら、感じないかのように、ボクは笑う。
「あははっ!いいねぇ!大破局って感じでさぁ!」
身体を折って笑う。
嗤う。嘲笑う。
煽りと侮辱を込めて、少女を壊した敵を、笑ってやる。
「まさか貴方、私の邪魔をするつもりぃ?
部外者が人様の家庭事情に首を突っ込まないで欲しいんだけどぉ?」
「邪魔?いやいや、殺すんだよ。
そーゆー依頼で来てるんだからさぁ!」
依頼内容は、“屋敷の地下のサイコデュエリストの暗殺”。
そして、“葛さんを不幸にするクソ親の殺害”。
つまりは、八重峰墓丹と鳴金雄太郎をぶっ殺せば完璧にハッピーってこと。
「それと部外者じゃないよ、八重峰墓丹。
アンタ、ベニアちゃんを撃ったからね」
コイツは『孤児院』の仲間を……ベニアちゃんを撃った。
ボクの大切な後輩を傷つけやがった。
「加えてアンタは、葛さんに銃レイプとかいうふざけた真似をした。
ボクの友達と後輩に、随分と舐めたコトしてくれたじゃないか」
残念ながらボクは葛さんの痛みを想像できても、その通りに解ることできない。
それでも、尋常じゃなく苦しくて辛くて痛かったことは、解る。
「だから殺すんだよ。彼女たちの痛みを数百倍にしてね」
デュエルディスクを展開し、ターゲットを見据える。
これから始まるのは、大儀なき殺し合い。
幸福が優勝景品の殺戮合戦。
「『孤児院』のガキ……!」
「当然アンタも殺すよ、鳴金雄太郎」
「えぇ。よくもアタシの初めてを奪ってくれたわね。
お陰で愛のある睦事が想像できなくなったわ。死んで償ってくれるかしら?」
「あははっ!ご覧の通り葛さんがご所望だし、あとアンタのこと普通に嫌いだからね!」
「殺す、だと……!ふざけるのも大概にしろクズ共が!!
私に逆らう奴などいらん!私の思い通りにならないゴミめが!!死ね!!」
飛び交うは怒号と憎悪、そして殺意。
ドス黒い感情はカードに乗せて。
命の数値を削り尽くさんと指をかけ。
「許さん……!許さん許さん許さんぞッ!!学もなにもない薄汚いクズ共が!!」
「はぁ、私が可哀想だわぁ。どうして役立たずの娘と付いてきたゴミと、喧しくて無能な成人男性の始末をしないといけないのかしらぁ」
「廻理、お願い。貴方のやることに、アタシも付き合わせて」
「こちらこそ。キミが幸せになるために必要なことを、ボクに手伝わせて」
かくしてボクらは、デッキからカードを引いて告げる。
殺すことでしか解決のしようがない不幸の最終局面。
その始まりの言葉が、殺し合いの号令が、告げられる。
「「「「――――――――
────────────────────────────
さて、まずはルールと順番を確認する。
今回のデュエルはバトルロイヤルルール。
1対1対1対1の殺し合いだ。
もっともボクと葛さんは仲間なので、正確には1対1対2だが。
そして順番は、八重峰墓丹、葛さん、鳴金雄太郎、ボクといった感じ。
可もなく不可もなくといった順だ。
「じゃあ、まずは私からねぇ。私のターン。
【終末の騎士】を通常召喚し、効果を発動。デッキから【ゾンビキャリア】を墓地へ送るわぁ。
墓地の【ゾンビキャリア】の効果を使わせてもらうわねぇ。手札1枚をデッキトップに戻し、このカードを特殊召喚するわぁ」
終末の騎士
レベル4/ATK1400
ゾンビキャリア
レベル2/チューナー/DEF200
「それじゃぁ、レベル4の【終末の騎士】にレベル2の【ゾンビキャリア】をチューニング。
シンクロ召喚、レベル6。おいでなさい、【イモータル・ドラゴン】」
騎士が、ゾンビが、一筋の光となって姿を新たなモンスターを呼ぶ。
現れるは、骨に囲まれた禍々しい竜。
不死身の竜はぐるりと夜空を舞い、咆哮を上げた。
イモータル・ドラゴン
レベル6/DEF2400
「【イモータル・ドラゴン】の効果発動よぉ。デッキからアンデット族モンスターを墓地へ送り、このカードのレベルをそのモンスターとのレベルの差の数値と同じにするわぁ。
【屍界のバンシー】を墓地へ送り、【イモータル・ドラゴン】のレベルを2に変更よぉ」
イモータル・ドラゴン
レベル6→2
「そして【屍界のバンシー】は、墓地から除外することでデッキから【アンデットワールド】を発動できるの。さぁ、死人の世界に招待してあげるわぁ」
女のすすり泣く声と共に、夜の庭園が姿を変える。
花々は腐り落ち、木々は捻じれ苦悶の顔を象って、瘴気と共に腐臭が漂い出す。
展開されるは、誰もが生者ではいられない世界。
死だけが蔓延する夜が、庭園に落ちる。
「【アンデットワールド】か……地味に厄介なカードを使ってくるね」
「うふふ。効果は知っているようねぇ。
【アンデットワールド】はフィールドの表側表示モンスターと、墓地のモンスターをアンデット族にするわぁ。
さらに私は、手札の【ジャック・ア・ボーラン】の効果を発動よぉ。
手札のアンデット族モンスター【死霊王 ドーハスーラ】を捨て、このカードを特殊召喚するわぁ」
死者の国にもう1体、おどろおどろしいお化けが出現する。
かぼちゃに取り付いた骸骨みたいな化け物だ。
ソイツはボクと葛さんを空っぽの眼窩で睨みつけ、青い霊魂を燃え上がらせる。
ジャック・ア・ボーラン
レベル7/DEF2200
「後はカードを1枚伏せて、ターンエンドにしようかしらねぇ」
八重峰墓丹
LP:4000
手札:なし
場:イモータル・ドラゴン
ジャック・ア・ボーラン
伏せ:1枚
魔法・罠:アンデットワールド
八重峰墓丹の1ターン目が終了する。
大型モンスターを2体並べて、伏せカードも1枚か。
考えなしの雑魚って感じの動きじゃないな。
「なるほど。そこそこは修羅場を潜ってきたみたいだね、おばーさん」
「うふふ。貴方みたいな減らず口を叩く奴なら、何人も殺してきたわぁ。
自分で言うのもなんだけど、私、保険金殺人のプロだからねぇ」
八重峰が豊満な身体を強調しながら、妖しく笑って見せる。
「殺害人数は……47人だったかしらねぇ?
お金持ちの男を誑かして、殺して、ソイツが築き上げた全てを奪って……。
うふふ、とぉっても楽しかったわぁ」
女は恍惚とした表情を浮かべていた。
かつて殺してきた男たちを思い出しているのか、奪い取った金を思い出しているのか。
どちらかは分からないが、どちらにしたってロクでもない。
「まぁ、鳴金家の件は失敗だったけれどねぇ。
戯れに子どもなんて産むんじゃなかったわぁ。
人生の負債にしかならなかったもの」
八重峰はそう言ってため息をつく。
いやはや、見下げたクズだ。恐れ入るよ。
「やっぱり欲をかくと駄目ねぇ。人間、慎ましく、慣れた手段で殺して、100億くらいのちょっとのお金で清貧に暮らすのが一番よぉ?
うふふふ。貴方たちを殺したら、次はどこのお金持ちを殺そうかしらねぇ。できるならまた妻子持ちがいいわぁ。一家皆殺しにハマっちゃいそうだもの」
「マジ最低なことしか言わないねぇ」
「実母のチェンジって出来ないかしらね」
ホントのホントにどうしようもない。
ふたり揃って辟易してしまう。
「でも……慎ましく清貧に暮らすっていうのは嫌いじゃないわ」
そう言って、葛さんがデッキに指をかける。
「だから、その慎ましく清貧な人並みの幸福を……ここで取り返す。
貴方たちをぶち殺して、アタシは自由になるわ」
「うふふ。ゴミは人間じゃないわよぉ?」
「精々言ってなさい……アタシのターン、ドロー!」
葛さんがカードを引き、ターンの始まりを宣言する。
それと同時に、八重峰墓丹が動いた。
「スタンバイフェイズ、墓地の【ドーハスーラ】の効果を発動。
フィールドゾーンに表側表示のカードがある限り、【ドーハスーラ】は何度でも蘇るわぁ」
「チェーンして手札から【増殖するG】を発動。
このターン、特殊召喚に成功する度にドローする」
地面から巨大な骨のような化け物が、黒光りする虫が、身を捩りながら現れる。
死霊の王は低くおぞましい呻き声を漏らし、虫は恐れるかのようにボクの足元に寄ってきた。
「【増殖するG】……アタシのターンで使ってよかったの?」
「うん。たくさんドローしたいからさ」
「そう。なら……好きなだけドローさせてあげるわ!行くわよ!廻理!」
灰色のカーディガンの裾を揺らし、少女がカードを叩きつける。
強く、強く。出会った頃の儚さとは程遠く。操られていた時とは別人のように。
鳴金葛は、自らの意志で戦い始める。
「速攻魔法発動!【ヴェンデット・チャージ】!手札のアンデット族モンスターを墓地へ送り、デッキからヴェンデットを特殊召喚するわ!
アタシは手札の【ヴェンデット・ヘルハウンド】を墓地へ送り、デッキから【スカー・ヴェンデット】を特殊召喚!」
彷徨うように、外套に身を包んだ巨躯の怪人が姿を見せる。
怪人は憎悪に目を輝かせ、言葉なくも怒りを滲ませていた。
「墓地の【ヴェンデット・ヘルハウンド】の効果発動!手札からヴェンデットカード【ヴェンデット・ストリゲス】を捨て、このカードを特殊召喚するわ!
さらに墓地へ捨てられた【ストリゲス】は手札のヴェンデットカードを見せることで蘇る!
アタシは【ヴェンデット・レムナント】を相手に見せ、【ストリゲス】を特殊召喚!
まだよ!アタシは続けて【ヴェンデット・レムナント】を通常召喚するわ!」
ヴェンデット・ヘルハウンド
レベル3/DEF2100
ヴェンデット・ストリゲス
レベル2/DEF2000
ヴェンデット・レムナント
レベル4/ATK1800
犬が吠える。
カラスが嘲笑う。
死者が呻く。
そのどれもが死んでいて、そのどれもが憎しみを抱えて。
ただただ恨めしそうに、屍たちは男と女を睨む。
「そのまま【スカー・ヴェンデット】と【ストリゲス】をリンクマーカーにセット!
召喚条件はアンデット族2体!リンク召喚!【ヴァンパイア・サッカー】!!」
外套の怪人と、腐りかけの鳥が藍色の門に組み込まれる。
その門から飛び出すは、奇抜な帽子を被った吸血少女。
ヴァンパイア・サッカー
リンク2/リンクマーカー 左下 右下/ATK1600
「【スカー・ヴェンデット】は墓地へ送られた場合、デッキからヴェンデット魔法・罠カードを呼び寄せる!
アタシはトラップカード【ヴェンデット・デイブレイク】を手札に加えるわ!」
「【ヴェンデット・デイブレイク】……相手の場のカード数が自分の場のカード数より多い場合に限り、すべてのカードを破壊するトラップ、だったかしらぁ?」
「よく知っているじゃない。でも、このカードの出番は今じゃないわ。
【ヴァンパイア・サッカー】の効果を発動!
相手の墓地のモンスターを自分の場に守備表示で特殊召喚する!
貴方の【終末の騎士】をアタシのフィールドに特殊召喚よ!」
ヴァンパイア・サッカーがつま先で地面を叩く。
すると地中から死者が這い出すように、虚ろな目をした騎士が現れた。
「【ヴァンパイア・サッカー】のもう一つの効果!自分または相手の墓地からアンデット族が特殊召喚された場合、デッキから1枚ドローする!
それから通常魔法【儀式の下準備】を発動!デッキから儀式魔法【リヴェンデット・ボーン】と儀式モンスター【リヴェンデット・スレイヤー】を手札に加えるわ!」
手札に呼び込まれるのは、屍の殺戮者。あるいは、復讐者。
ヴェンデットの代名詞であり、今の彼女をなによりも明確に表すカード。
鳴金葛に相応しい、憎悪と報復の象徴。
「さぁ御覧なさい!これが、これこそが!美天様から受け継いだアタシの力よ!
儀式魔法【リヴェンデット・ボーン】を発動!フィールドの【ヴェンデット・レムナント】【ヴェンデット・ヘルハウンド】をリリースし、儀式を執り行う!!」
死者の群れと、死んだ犬が、真っ赤な炎となって焚べられる。
その熱は憎悪の熱。憎しみの赤。
報復感情のカタチであり、同時に愛する母へ儀礼の表れ。
「屍よ!奪われた全てを奪い返し、憎い命を切り刻め!
儀式召喚、レベル6!一切天誅!【リヴェンデット・スレイヤー】!!」
炎を振り払い、復讐者が降臨する。
それは、煌々とした報復感情を瞳に灯した屍。
死してなお死にきれず、怒りと呪詛で駆動し続け、仇を求めて彷徨うモノ。
それが、リヴェンデット・スレイヤー。
復讐者は布切れを靡かせて、主の幸せを奪った害獣たちに刃を向けた。
リヴェンデット・スレイヤー
レベル6/ATK2400
「フィールドのモンスターがリリースされた瞬間、墓地の【スカー・ヴェンデット】の効果が発動!墓地の【ヴェンデット・レムナント】を除外し、このカードを蘇生するわ!」
「させないわぁ。【ジャック・ア・ボーラン】の効果を発動。
相手の墓地のアンデット族モンスターを自分フィールドに特殊召喚し、その後このカードをエンドフェイズまで除外するわぁ。
それじゃぁ、貴方の墓地の【スカー・ヴェンデット】をいただくわねぇ」
「ハッ!貴方は人様から奪ってばっかりね!
だったら【リヴェンデット・スレイヤー】の効果発動!
相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を除外する!
消え失せなさい!【ドーハスーラ】!!」
「それもさせないわよぉ。【ドーハスーラ】の効果を発動。アンデット族モンスターが効果を発動したとき、1ターンに1度その効果を無効化するわぁ」
復讐者が報復を求め暴れまわる。
それを、かぼちゃの化け物と死霊の王が封じ込める。
「なんにもできやしないわよぉ、鳴金葛。
貴方はただ、私に利用されて、ゴミみたいに死ぬだけ。
どうしてそれが分からないのかしらねぇ?」
「ちょっと効果を止めただけで調子に乗らないでくれるかしら?
アタシは【リヴェンデット・スレイヤー】と【終末の騎士】をリンクマーカーにセット!
召喚条件はアンデット族2体!」
藍色の門が展開され、復讐者が死人と化した騎士を抱えて門に飛び込む。
その内側で行われるのは、召喚ではなく変生。
「リンク召喚、リンク2!救ってみなさい!【アドヴェンデット・セイヴァー】!!」
降り立つは、復讐者のその先。
報復の果て。救済を得た屍。
あるいは、自らと同じような存在を救おうと刃を振るう、救済者だった。
アドヴェンデット・セイヴァー
リンク2/リンクマーカー 左下 右下/ATK1600
「儀式召喚された【リヴェンデット・スレイヤー】は墓地へ送られた場合、デッキから儀式魔法を呼び寄せ、【ヴェンデット】を墓地へ叩き落とす!
アタシは【リヴェンデット・バース】を手札に加え、デッキから【ヴェンデット・アニマ】を墓地へ送る!
続けて【アドヴェンデット・セイヴァー】の効果発動!自分の墓地のヴェンデットカードをサルベージ!【リヴェンデット・ボーン】を手札に戻すわ!」
「みっともなく足掻いて……醜いデュエルねぇ。
トラップ発動、【リターン・オブ・アンデット】。フィールドのアンデット族を除外し、コントローラーの墓地のアンデットをその持ち主の場に守備表示で特殊召喚する。
【アドヴェンデット・セイヴァー】を除外し、墓地の【ヴェンデット・アニマ】と交換するわぁ」
アドヴェンデット・セイヴァーに腐肉の群れが殺到し、その身体を蝕む。
腐敗は伝播し、その身を弱々しいただの死体へと変えた。
「うふふ。哀れねぇ。貴方に救いなんてありはしないのに」
「そいつは聞き捨てならないねぇ!手札から【飛翔するG】の効果を発動!
このカードを葛さんのフィールドに表側守備表示で特殊召喚するよ!」
飛翔するG
レベル3/DEF700
「相手の場に特殊召喚できるモンスター、ですってぇ……?」
「ただし、【飛翔するG】が表側表示で存在する限り、そのコントローラーはエクシーズ召喚を行うことは出来なくなるよ」
一応、飛翔するGの効果を説明しておく。
すると、それを聞いた鳴金雄太郎が大きく笑い出す。
「ハ、ハハハッ!!頭の足りないクズが!味方同士で足を引っ張り合ってご苦労だな!
これで葛の展開はロックされたということか!随分と馬鹿な真似をしたものだな!」
「……違う、封じるためじゃない……!コイツ、
八重峰墓丹は、ボクの行動の意味に気づいたらしい。
だが、もう遅い。
「さて、3レベルあれば足りるかな?」
「……貴方って、本当に気が利くのね。
えぇ……ピッタリよ!儀式魔法発動!【リヴェンデット・バース】!!」
再び儀式が執り行われる。
そう、飛翔するGはエクシーズを封じるが、儀式は封じない。
故に、鳴金葛は止まらない。
敵の首を討ち取るまで、激情は加速し続ける。
「フィールド、デッキのモンスターを贄とし儀式を執り行う!
アタシはフィールドの【飛翔するG】をリリースし、デッキからリリースの代わりに【ヴェンデット・キマイラ】を墓地へ送る!
さぁ、出番よ!儀式召喚、レベル8!!【ヴェンデット・スカヴェンジャー】!!」
死体を踏み潰しながら、外套を纏った異形の怪人が姿を現す。
それからスカヴェンジャーは、赤と青の光が溢れる両目でちらりとボクを見た。
物騒な目だ。
けれど、敵意の類いは感じない。
(そういや、このカードに殺されかけたんだっけ)
傷口の痛みでそんなことを思い出す。
もしかするとスカヴェンジャーは、気にしてくれているのだろうか?
「頼むよ、スカヴェンジャー」
なんとなく、そう言ってみる。
スカヴェンジャーは特に反応を示すことはなく、視線をボクから外した。
たぶん、届いた。
だって彼の背中は、「任せろ」と言わんばかりに頼もしかったのだから。
「まだまだ行くわよ!【リヴェンデット・ボーン】を発動!
フィールドの【ヴェンデット・アニマ】をリリースし、墓地からリリースの代わりに【ヴェンデット・キマイラ】を除外!
墓地より儀式召喚!くたばるには早いわよ!【リヴェンデット・スレイヤー】!!」
再び、屍人の復讐鬼が降臨する。
倒れようが消えようが、ソレは最早死にきれない。
主である葛さんが満たされない限り、スレイヤーは何度だって蘇る。
「くっ……!全然止まらない……!
どうして大人しく出来ないのかしらぁ……!?」
「大人しくするのはもう飽きたのよ!
除外された【ヴェンデット・キマイラ】の効果発動!
儀式召喚のためにこのカードが除外された場合、相手フィールドの全てのモンスターの攻守を500ダウンさせる!」
死霊王 ドーハスーラ
DEF2000→1500
イモータル・ドラゴン
DEF2400→1900
スカー・ヴェンデット
ATK2300→1800
「ステータスを下げたところで……」
「墓地の【ヴェンデット・アニマ】の効果発動!
このカードを除外し、【アドヴェンデット・セイヴァー】を特殊召喚!」
「っ、まだ展開してくるわけ……!?」
土の下からボロボロのアンデットが這い出してくる。
そう、アドヴェンデット・セイヴァーはまだ眠れない。
まだ、なにも救えていないから。
救いをもたらすまで、彼は何度死んでも蘇ってくるだろう。
「展開はこれで終わりよ!バトルフェイズ!【ヴェンデット・スカヴェンジャー】で【イモータル・ドラゴン】を、【アドヴェンデット・セイヴァー】で【ドーハスーラ】を攻撃!
その瞬間に、【アドヴェンデット・セイヴァー】の効果を発動。
デッキからアンデットを墓地に送り、そのレベルかける200ポイント、相手モンスターの攻撃力をダウンさせる!
レベル2の【シノビネクロ】を墓地へ送って【ドーハスーラ】の攻撃力を400ダウン!」
2体の屍が、夜に踊る。
黒く腐った血で舞台を飾り、死者の断末魔を奏でて、踊る。
繰り広げられるのは、凶暴で、衝動的で、暴力的な、復讐劇。
ただ怒りをぶつけるように、2体のヴェンデットは暴れまわる。
「これでようやく……貴方をぶん殴れるわね。八重峰墓丹」
「……ねぇ、私に攻撃するのはやめない?
そこのお父様にダイレクトアタックを決めれば、今すぐに殺せるわよぉ?」
「そうね。だからなに?
【リヴェンデット・スレイヤー】で【スカー・ヴェンデット】を攻撃」
八重峰が鳴金雄太郎を売ってみるが、葛さんは一切聞く耳を持たなかった。
淡々と命令が下され、復讐者が疾駆する。
「その瞬間に【リヴェンデット・スレイヤー】の効果発動。
墓地の【シノビネクロ】を除外し、攻撃力を300アップ」
リヴェンデット・スレイヤー
2400→2700
スレイヤーが、外套姿の怪人を真っ二つに切り裂く。
しかし、まだ止まらない。
復讐者はさらに地面を踏みしめ、跳ねるように勢いをつけて……
八重峰墓丹の顔面を、全力で殴り抜いた。
八重峰墓丹
LP:4000→3100
「ごっ、ばぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁ!?!?
い、ぃ、たぁ……鳴金、葛ぁぁぁあぁぁ!!よくも、やってくれたわねぇぇぇえ!!」
スレイヤーに殴られゴミみたいに転がっていった八重峰が、ふらふらと立ち上がる。
殴られた顔面は半分ほど陥没しており、滅茶苦茶になっていた。
「ヒュー!大惨事だねぇ!
あははっ!その顔じゃもう、男の人に相手にされないね?」
「ざまぁないわね。あぁでも、いい顔になったじゃない。
アタシと同じ、傷物の顔だわ」
「この……!!私の顔に、なんてことを……!!」
八重峰は表情を歪め、潰れた顔面に手を当てる。
ご苦労なことだ。そうやって顔を隠したところで、治りやしないのに。
「ハハハハハハ!!いいぞ葛!
そのまま八重峰を殺してしまえ!」
視界の端から、えらく上機嫌そうな男の声がした。
目だけ動かしてそちらを見れば、鳴金雄太郎がなにやら楽しそうにしていた。
「はぁ?除外された【シノビネクロ】の効果発動。
このカードを特殊召喚するわ」
「そうだ!そのカードで八重峰を殺せ!!
ゴミ同士、売女同士で殺し合え!!」
「貴方が死になさい。
【シノビネクロ】と【ヴァンパイア・サッカー】で攻撃」
楽しそうな男へと、4本のクナイが投擲される。
クナイは寸分違わず鳴金雄太郎の手足を貫き、後ろの木に縫い付けた。
「ぐあぁあぁぁぁぁああぁぁ!?!?
な、何故だ……!?何故私を攻撃したぁぁ!?!?」
「貴方、アタシになにをしてきたのか忘れたの?」
「クソ!クソォ!!どうして私が…………おい待て、お前この私になにをするつもりだ……!?」
ヴァンパイア・サッカーがかったるそうに、動けなくなった男へと近づく。
そのまま彼女は、靴の底で鳴金雄太郎の股間の辺りを軽く踏む。
「お、おい……やめろ……!!そんな、ふざけるな……!!
そんなことが許されると思っているのか!?葛ぁぁああ!!!」
「潰しなさい」
その声に、吸血少女は嗜虐的な笑みを浮かべ、足に力を込め始める。
一息に潰すなんてことはしない。
少女は緩やかに力を入れ、一定の速度で鳴金雄太郎の下腹部を踏んでいく。
「ぎゃああああぁぁぁ!?!?やめ、やめろぉ!!いぎぃぃ!?
いたい、いたいぃぃ!?こんな、やめろぉぉぉぉ!!がぁぁああぁぁあぁ!?!?」
ぐちゃり。肉が潰れるのと、絶叫が響くのは、ほぼ同時だった。
鳴金雄太郎の性器が潰れ、ヴァンパイアの靴が服から染み出した血で汚れる。
それを見て、ヴァンパイア・サッカーは嫌そうな顔をして、汚そうに靴底を地面に擦った。
吸血鬼からしても、あの男の血と存在は気持ち悪いらしい。
「き、貴様ぁぁ!!なんて、ことをぉぉぉ!!
父親にこんなことをして、許されると思っているのかぁぁ!?!?」
「貴方が父親だったことなんて、ほんの1秒だってないじゃない」
鳴金雄太郎が内股になって痛みに悶えている。
ウケる。ボクは潰れたヒキガエルみたいな悲鳴を上げる男を指差しながら、ケラケラと笑った。
「あははははははっ!!超痛そうだねぇ!!
でも良かったじゃん!もう性欲に悩まされなくってさぁ!!」
「はぁ……さっさとこうしとくんだったわ。
そしたらアタシも、もう少し綺麗になっていたでしょうに」
笑い声とため息が混ざって、夜を賑やかす。
気分爽快。娘まで犯す頭男性器野郎には程よいお灸だ。
鳴金雄太郎
LP:4000→2400→1600
「実の、父親にぃ……なんてことをぉぉぉ…………!!
やはりお前は、堕ろすべきだった……!!」
「貴方、親からそう言われる子どもの気持ちを考えたことはないの?
メインフェイズ2。カードを1枚伏せて、【ヴェンデット・スカヴェンジャー】の効果を発動。
【アドヴェンデット・セイヴァー】をリリースし、ターン終了時までその元々の攻撃力分、【スカヴェンジャー】の攻撃力をアップするわ」
「どうして、今更そんな効果を…………まさか、【ヴェンデット・デイブレイク】の条件を満たすために…………?」
スカヴェンジャーがセイヴァーを糧として、巨体を隆起させる。
その光景を見て、八重峰はそんなことを呟いた。
「さぁ、どうかしら?アタシはこれでターンエンドよ」
鳴金葛
LP:4000
手札:1枚
場:リヴェンデット・スレイヤー
ヴェンデット・スカヴェンジャー
ヴァンパイア・サッカー
シノビネクロ
伏せ:1枚
「くっ……エンドフェイズ時、除外されている【ジャック・ア・ボーラン】が帰還するわぁ……!
さらに、墓地の【リターン・オブ・アンデット】の効果を発動よぉ……っ。
除外されている【屍界のバンシー】をデッキに戻し、このカードをセットするわぁ」
女の泣き声が聞こえると共に、かぼちゃの幽霊と死人の罠が戻ってくる。
最低限のリカバリーはしてくるか。
流石に50人近く殺してきたデュエリストだけあって、地力は中々にあるな。
「どう?たくさんドローできたかしら?」
「お陰さまでね。ありがと、葛さん」
感謝を告げながら、10枚をゆうに超える手札を見せる。
彼女が頑張ってくれたから、本当にたくさんカードを引くことができた。
「よくも……よくも!この私にこんなことをしてくれたな!!
許さないぞ小汚い売女が!!殺してやるぅ!!」
葛さんと話していると、ふと男が恨み言をほざいてくる。
「貴方の言葉は聞き飽きたわ。同じようなことばかり言って……ボキャブラリーが貧困よ?」
「もっと本を読んだほうがいいんじゃなかな?これじゃどっちが学のないクズか分かんないよ」
「貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
私のタァァァァン!!ドロォォォォォォ!!!!」
鳴金雄太郎が手足を貫くクナイを強引に引き抜き、ターンを始める。
大した根性だ。あるいは、怒りで痛みが麻痺しているのか。
「墓地の【ドーハスーラ】の効果を発動よぉ。
このカードを墓地から特殊召喚するわぁ……!」
「【ドーハスーラ】が特殊召喚されたことで【ヴァンパイア・サッカー】の効果発動。
墓地からアンデット族が特殊召喚された場合、1枚ドローよ」
骨の塊みたいな死霊が蘇り、それを吸血少女が鼻で笑う。
「【ヴェンデット・デイブレイク】の発動条件は、相手の場のカードの枚数が、自分の場のカードの枚数より多い場合だったよね、葛さん」
「そうね。【デイブレイク】の発動条件は、ね」
葛さんがさっきのターンでサーチしたカードについて、彼女と話す。
この場合、相手が5枚以上カードを場に出した瞬間に発動条件を満たすことになるのかな。
「カード枚数の制限、ねぇ…………気をつけて頂戴よぉ、鳴金雄太郎」
「黙れ!!お前如きが私に指図するな!!
速攻魔法発動!【サイクロン】!その伏せカードを破壊する!!」
風が吹き、仕掛けられたカードを襲う。
「ハハハハハ!!何を伏せていようが関係ないんだよ馬鹿め!!
破壊してしまえばもう何も気にする必要などなかろうが!!」
「えぇ、そうね。破壊された【
「ハハハハ………………………………は?」
突風に拐われたカードが眩い光を放ち始める。
それはまさしく、狡猾極まる”罠”だった。
「セットされたこのカードが相手の効果で破壊され墓地へ送られた場合、墓地のこのカードと、デッキの【聖なるバリア ―ミラーフォース―】をセットする。
この効果でセットしたカードは、セットしたターンでも発動できるわ」
「【デイブレイク】では、ない……!?な、何故!?何故そんなカードが!?!?」
「なんで馬鹿正直にサーチしたカードを伏せないといけないのよ」
葛さんはさも当然のように言い放つ。
そう、サーチしたデイブレイクはブラフ。
彼女の本命は、破壊された際に発動する罠だった。
「なにをやっているのかしらぁ……!貴方、馬鹿なんじゃないのぉ……!?」
「あ゛ぁ!?お前だって気づいてなかっただろうが!!!
クソっ、クソっ!!【ワン・フォー・ワン】を発動!
手札の【ワイトプリンス】を墓地へ送り、デッキから【ワイトキング】を特殊召喚!!」
「ワイトデッキか……なら!手札の【礫岩の霊長 ― コングレード】の効果発動!
相手の手札からモンスターが墓地へ送られた場合、このカードを裏側表示で特殊召喚する!
さらに手札の【応戦するG】の効果を発動!
特殊召喚する効果を含む魔法カードが発動した場合、このカードを特殊召喚するよ!」
黒い布切れを纏った骸骨が現れた、瞬間。
黒い虫と、岩のような大猿が暗闇に紛れて出現する。
「今更壁を並べたところで無駄だ!!墓地へ送られた【ワイトプリンス】の効果発動!
デッキから【ワイト】と【ワイト夫人】を墓地へ送る!!
そしてフィールドの【ワイトキング】の攻撃力は、墓地の【ワイト】の数かける1000ポイントも上昇する!!」
王子様のような格好の骸骨が手招きをし、2体の骸骨を墓地へと呼ぼうとする。
「ハハハ!馬鹿にも分かるように解説してやるが、【ワイトプリンス】と【ワイト夫人】は墓地に存在する限り【ワイト】として扱うことができるのだ!!
分かるか!?【ワイトキング】の攻撃力は、驚異の3000となる!!!」
「【応戦するG】の効果。自身の効果で特殊召喚されたこのカードが存在する限り、墓地へ送られるカードは全て除外される」
「な……なんだと…………!?」
ワイトデッキの強みは、ワイトキングによる超攻撃力での暴力だ。
墓地にワイトが溜まれば溜まるほど、ワイトキングは手に負えなくなる。
しかし、それゆえに対処法は簡単かつ明確だ。
そもそも墓地に溜めさえなければ、コイツはなにもできなくなる。
「チッ!世話が焼けるわねぇ……!【リターン・オブ・アンデット】を発動よぉ!
フィールドのアンデット族モンスターとなっている【応戦するG】を除外するわぁ!
これで除外されることはなくなるでしょう!」
「させないよ!手札から【寄生虫パラノイド】の効果発動!【応戦するG】にこのカードを装備!
そして【パラノイド】を装備しているモンスターは昆虫族になる!よって【リターン・オブ・アンデット】の効果は無効!」
「嘘…………っ!?これをかわすの!?」
黒光りする害虫が、墓地へ落ちようとする骸骨たちに群がる。
骨の髄まで……否、骨さえも喰らい、2体のワイトを一欠片も残さずこの世から消し去った。
「なんで縦横無尽に動けるのぉ……!?まだ自分のターンも来てないのよぉ!?」
八重峰が目を見開き、少し怯えたようにボクを見る。
対してボクは、不敵に笑っておいた。
「っ!?……舐めてかかるんじゃなかったわねぇ……!
【ジャック・ア・ボーラン】の効果を発動。鳴金葛の墓地の【アドヴェンデット・セイヴァー】を特殊召喚し、このカードをエンドフェイズまで除外するわぁ……!」
ジャック・ア・ボーランが青い火の玉となり、墓地に眠っていたセイヴァーを無理やりに場へと引きずり出す。
「クソッ!ゴミの分際で私のデュエルを邪魔しおって……!
カードを1枚伏せてターンエンドだ!」
鳴金雄太郎
LP:1600
手札:2枚
場:ワイトキング
伏せ:1枚
「エンドフェイズ、【ジャック・ア・ボーラン】が帰還するわぁ……!」
苛立ちながら鳴金雄太郎がターンを終え、八重峰の場に幽霊が舞い戻る。
まぁ、なんら問題はない。
とりあえず完封できて良かった良かった。
(これくらいなら、このターンでふたりとも殺せるかな?)
ライフが3100と1600か。
適当なモンスターを並べて殴るか、クオリアークに繋げれば余裕で2キルを達成できるな。
でも、最低でも片方は葛さんが殺すべきだと思うしなぁ…………どうしよう。
「ボクのターン、ドロー。えーと、それじゃあ………………」
「トラップ発動!【威嚇する咆哮】!!
このターン、お前は攻撃宣言ができん!!」
ターンが始まるのと同時に、夜の庭園に咆哮が轟く。
「フン!私とて攻撃されると不味いことは理解している!!
残念だったなクズが!!これでお前にできることはなにもない!!」
「馬鹿が……!なにをやってるのよこの能無し!!」
「あぁ?」
自慢げに攻撃をロックした男に、八重峰が声を荒げる。
その表情は、焦りの色で染まっていた。
「おい、私は攻撃を防いでやったんだぞ!!感謝しろ売女が!!」
「このタイミングが最悪だって言ってるのよぉ!
なんで行動する前に使ったわけ!?」
「なにを言って…………」
「攻撃できないことが分かった上での展開と、分からない状態での展開は違うのよぉ……!
ここで使ってしまったら…………攻撃しない前提で動かれてしまう……!!」
あぁ、八重峰墓丹はちゃんと、これが最悪に近い悪手だって気づいているようだ。
攻撃できない?別にどうでもいい。
そんなこと、なんの制限にもなりやしない。
「あははっ!そっかそっか!それじゃ、攻撃しない方向でやろっか!
まずは【月の書】を発動!【ドーハスーラ】を裏側表示にするよ!」
月が欠けるように、死霊を統べるものは鎮圧される。
これで、ドーハスーラの効果による妨害は気にせずに済む。
「まだまだ行くよ!【コングレード】を反転召喚し、効果を発動!
このカードがリバースした場合、フィールドのカードを2枚まで破壊する!
【アンデット・ワールド】と【ドーハスーラ】を破壊するよ!」
「不味い……!【ジャック・ア・ボーラン】の効果を発動!
貴方の墓地の【飛翔するG】を特殊召喚するわぁ!」
巨大な猿が起き上がり、大口を上げて吠える。
コングレードは赤い目を輝かせ、死者の世界をぶち壊し、死霊の王さえも殴り殺す。
それに紛れて、ジャック・ア・ボーランが墓地の虫を攫い、どこかに隠れる。
【アンデットワールド】の効果で【飛翔するG】はアンデットになっていた。
破壊されるギリギリの隙間を縫い、ボクのモンスターを連れ去ったか。
「アンデットワールドを破壊してきたわねぇ……!」
「邪魔なカードだったからね!さらに手札の【星遺物―『星鎧』】の効果を発動!
モンスターが反転召喚に成功した時、このカードを手札から特殊召喚する!
そして特殊召喚された【星鎧】はデッキから星遺物カードを手札に持ってくる!
ボクは【星遺物に差す影】をサーチするよ!」
コングレードが地面を叩けば、呼応するように巨大な鎧が出現する。
藍色の装甲に赤い装飾の入った、どこか不気味な遺物。
あるいはそれは、怪蟲の巣。
星遺物―『星鎧』
レベル7/DEF2500
「おばーさんはシンクロを使うみたいだし、ボクもシンクロでお相手しようかな!
チューナーモンスター、【スケープ・ゴースト】を召喚し、【応戦するG】にチューニング!」
羊の幽霊が現れそのまま光の輪となり、そこに黒い虫が飛び込む。
すると光輪と虫は一筋の光となり、新たなモンスターへとカタチを変えた。
「シンクロ召喚!レベル5!お願いね【B・F─霊弓のアズサ】!!」
光から降り立つのは、1匹の蜂。白いドレスの弓使い。
アズサは恭しく一礼し、弓を構えた。
B・F―霊弓のアズサ
レベル5/チューナー/ATK2200
「墓地へ送られた【応戦するG】の効果でデッキから【クローラー・アクソン】をサーチ!
続けて【寄生虫パラノイド】の効果発動!装備カード扱いのこのカードが墓地へ送られた場合、手札からレベル7以上の昆虫族を特殊召喚する!
おいで、女王様!【究極変異態・インセクト
1歩。その虫は優雅に、ボクの前へと姿を現す。
それは、王冠に似た触覚を持った女王蟲。
クイーンは優雅な微笑みを湛え、見せつけるように薄緑の羽を広げた。
究極変異態・インセクト女王
レベル7/ATK2800
「お次は鳴金家のレディたちの十八番!儀式魔法、【聖占術の儀式】を発動!
フィールドの【コングレード】と【星鎧】をリリース!」
捧げられるのは礫岩の大猿と、堅牢な鎧。
その2体が焚べられ、儀式が執り行われる。
「遠く、遠く、遍くを見通す巫女よ!太古の秘術により、現し世に蘇れ!
儀式召喚、レベル9!捲り廻れ!【聖占術姫タロットレイ】!」
タロットカードが舞い、太古の占術姫が降臨する。
長身の姫は長い黒髪とドレスの裾が揺らして、占うように敵を見据えた。
聖占術姫タロットレイ
レベル9/2700
「シンクロ、儀式と続いて、お次はリンクと行こうかな!【星遺物の胎導】を発動!
【タロットレイ】を対象にし、そのモンスターと元々の種族・属性が異なるレベル9モンスター2体をデッキから特殊召喚する!
ボクは【機怪神エクスクローラー】と【影依の炎核 ヴォイド】を特殊召喚し、そのままリンクマーカーにセット!召喚条件はリバースモンスター2体!」
タロットが輝き、そこから巨大な怪蟲と、炎で象られた騎士が出現する。
呼び出された2体は、空に構築された藍色の門に吸い込まれ、更にモンスターを呼び出す。
「リンク召喚!リンク2!お願いね、【サブテラーマリスの妖魔】!」
藍色の門から召喚されるは、地底世界の美しき妖魔。
サブテラーマリスの妖魔は桃色の髪を靡かせ、月に吠える。
サブテラーマリスの妖魔
リンク2/リンクマーカー:左下 右下/ATK2000
「展開が止まらない……!?貴方、どこまでやるつもりなのよぉ……!?」
「どこまでもだよ!【サブテラーマリスの妖魔】の効果を発動!
デッキからリバースモンスター、【シャドール・ビースト】を墓地へ送り、手札の【禁忌の壺】をリンク先に裏側表示で特殊召喚!
そして効果で墓地へ送られたことで【シャドール・ビースト】の効果も発動!デッキから1枚ドローするよ!」
引いたカードは…………おっ、キーカードの1枚だ。やった。
まぁ、このターンは攻撃できないし、引いても意味はないのだが。
「【タロットレイ】の効果発動!裏側表示モンスター1体を表側攻撃表示に変更する!
ボクはさっきセットした【禁忌の壺】を攻撃表示にし、そのリバース効果を発動!
相手の手札を確認し、その中からカード1枚を持ち主のデッキに戻す!
鳴金雄太郎!アンタの手札を確かめさせて貰うよ!」
「なにっ!?」
大きな壺の中から”なにか”が覗き、笑う。
すると鳴金雄太郎の手札が独りでに宙に浮かび、公開される。
「えーと手札は……【ワイト】と【速攻のかかし】か。いい物持ってるじゃん」
「や、やめろ…………私から奪うな!!これは私の生命線なんだぞ!!」
「あははっ!【速攻のかかし】を没収しまーす!!」
「やめろぉぉーーーーーー!!!!」
ボクの笑い声と、禁忌の壺の笑い声が重なり、男から手札を奪う。
よし、これで鳴金雄太郎は攻撃を防ぐことはできない。
「よぅし!【サブテラーマリスの妖魔】のもう1つの効果発動!
リンク先のモンスターがリバースした場合、デッキ・墓地からリバースモンスター1体を手札に加える!ボクはデッキから【クローラー・グリア】を手札に加えるよ!」
妖魔がカードを投げ渡してくる。
ボクは「ありがと」と感謝を告げてから、さらにカードを発動させていく。
「フィールド魔法発動!【星遺物に差す影】!
そーしーて!【差す影】の効果を発動し、手札からレベル2以下の昆虫族を特殊召喚!
おいで!【B・F―追撃のダート】!」
夜の闇の中から、無数の赤い光が浮かび上がる。
それは、潜む怪蟲の群れ。
蟲たちのテリトリーとなった庭園から、1匹の蜂が飛来する。
「【追撃のダート】の効果!フィールドの昆虫族をチューナーに変える!
これにより【インセクト女王】をチューナーとし、【追撃のダート】にチューニング!」
女王が優しく微笑み、その姿を7つの光輪へと変える。
光の輪はダートを包み込み、閃光と共に進化する。
「シンクロ召喚!レベル8!撃ち廻れ――――【B・F―降魔弓のハマ】!!」
降り立つのは、弓を携えた屈強な蜂。
すらりと精錬されたアズサとは違う、戦士然とした弓使い。
ハマは力強く、弓に矢を番えた。
B・F―降魔弓のハマ
レベル8/ATK2800
「さぁて、これが最後!無意味に【おろかな埋葬】を発動!
特に意味は無いけどデッキから【B・F―毒針のニードル】を墓地に送っとくよ!
それじゃあお待ちかね!バトルフェイズに移行!」
「貴様、攻撃できないことを忘れたか!!
ハハハハ!どうやらどうしようもないド低能らしいな!!」
「そう、ボクは【威嚇する咆哮】の効果で攻撃宣言できない。
だから、なにもせずにバトルフェイズを終了するよ!」
バトルフェイズに入るだけ入って、なにもせずに終了させる。
その行動に鳴金雄太郎は馬鹿みたいな笑い声を上げ、八重峰墓丹は首を傾げる。
そして葛さんは――――彼女だけは、動じることもなくただボクを見つめてくれていた。
「相手が戦闘ダメージを受けなかった自分バトルフェイズ終了時、【降魔弓のハマ】の効果発動!
自分の墓地の【B・F】の数かける300のダメージを相手に与える!
そして【霊弓のアズサ】の効果!【B・F】が効果ダメージを与えた瞬間、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」
「バーンダメージですってぇ……!?くっ、やられた……!【威嚇する咆哮】は
「ボクの墓地には【追撃のダート】と【毒針のニードル】の2体の【B・F】がいる!
よって、【降魔弓のハマ】のバーンダメージは600!
でもって【霊弓のアズサ】のバーンは【ハマ】の攻撃力の2800!
無意味に墓地に送っといて良かったよ!」
「何が無意味なのよぉ……!?」
2匹の蜂が弓を引き、狙いを定める。
アズサの弓の先には、八重峰墓丹。
ハマの弓の先には、鳴金雄太郎。
「やっちゃえ!!アズサ!ハマ!」
2本の弓矢が同時に放たれ、腐った毒親を穿つ。
力強く射られた矢は、男の左足を貫く。
もう1つ、寸分違わず射られた矢は、女の右肩を砕いた。
鳴金雄太郎
LP:1600→1000
八重峰墓丹
LP:3100→300
「ぐあぁぁぁっぁああぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁあ!?!?
わ、私の足がぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあああああああああッ!?!?」
「~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?!?」
足に大穴が開いた鳴金雄太郎が、立っていられず土の上に倒れる。
八重峰墓丹は破壊された方を押さえ、荒い息と共にボクを睨んだ。
「感謝してよ?ギリギリ殺さないように計算してダメージを与えてあげたんだからさ」
アズサのハマのダメージの合計は、3400。
集中させれば、どちらか片方は確実に殺せた。
そうしなかったのは、葛さんに選択の自由を残すためだ。
自分を苦しめてきた仇を自分の手で殺せないなんて、アンハッピーだもんね。
「……気遣い、痛みいるわ。ごめんなさい、面倒なことをさせて」
「いいって、ボクが好きでやってるんだから。
それじゃ、カードを5枚伏せてエンドフェイズ。
【タロットレイ】は自分エンドフェイズに墓地のリバースモンスターを裏側表示で蘇らせる。
これにより墓地から【シャドール・ビースト】を特殊召喚するよ」
「ぐ、ぅぅ……!!除外していた【ジャック・ア・ボーラン】が……帰ってくるわぁ……!!」
遊針廻理
LP:4000
手札:6枚
場:サブテラーマリスの妖魔
B・F―降魔弓のハマ
B・F―霊弓のアズサ
禁忌の壺
聖占術姫タロットレイ
???(シャドール・ビースト)
伏せ:5枚
魔法・罠:星遺物に差す影
「はぁ……!はぁ……ッ!この、ガキ共が……!!
黙って、大人に搾取されていればいいのにぃ……!!」
八重峰墓丹は汗を吹き出しつつ、震える指をデッキにかける。
女から感じられるのは、真っ黒な憎悪。
ここまで追い詰められたことがかなり頭に来てるらしい。
かくして女は、怒りを燃やしターンを始める。
「私の、ターン!!ドロォォォォォォッ!!
【イモータル・ドラゴン】の効果を発動よぉ!
デッキから【グローアップ・ブルーム】を墓地へ送り、レベルを5に変更するわぁ!!」
イモータル・ドラゴン
レベル6→5
不死身の翼竜が唸る。
その音を聞きながら、ボクはあることに気づいた。
(【ドーハスーラ】の効果を使わなかった……?)
八重峰墓丹の墓地には、さっきのターンで破壊された【ドーハスーラ】がいる。
あのカードはフィールドゾーンに表側表示のカードがあれば、スタンバイフェイズに蘇生できるのだが……。
「墓地へ送られた【グローアップ・ブルーム】の効果ァ!
このカードを除外し、デッキからレベル5以上のアンデットを手札に加えるわぁ!
私は【
「【火車】………………あっ!?」
八重峰が手札に持ってきたカードを見て、奴の狙いに気づく。
コイツ、かなり厄介なカードを隠し持って……!
「このカードは、自分フィールドのアンデット族が2体以上いる場合に特殊召喚できる!
おいでなさい!【火車】ァァ!!」
カラカラという車輪の音がして、夜が真っ赤に染まる。
それは、炎だった。
恐ろしい形相の鬼と、燃え盛る車輪が合成されたかのような、妖怪。
それが暗闇を照らし、庭園を焼いていく。
火車
レベル8/ATK?
「特殊召喚に成功した【火車】は、このカード以外の場のモンスター全てをデッキに戻すわぁ!!
消え失せなさいぃ!!なにもかもぉッ!!」
「全体バウンスですって!?」
瞬く間に炎が広がり、全てを燃やしていく。
美しかった夜の庭園も、死者も、虫も。
全部全部が揺らめく赤色に飲まれて、真っ黒に焼けていく。
「タダでは死ねないわ……!【ヴェンデット・スカヴェンジャー】の効果発動!
【リヴェンデット・スレイヤー】をリリースし、攻撃力をアップ!
さらに墓地に送られた【リヴェンデット・スレイヤー】の効果!
儀式魔法【ラヴェナス・ヴェンデット】をデッキから手札に加え、デッキの【ヴェンデット・コア】を墓地に送るわ!」
「トラップ発動、【ハイレート・ドロー】!
自分の場のモンスターを2体以上破壊し、破壊したモンスター2体につき1枚ドローする!
ボクは6体すべてを破壊し、3枚ドロー!
そして【シャドール・ビースト】が効果で墓地へ送られたため追加で1ドロー!」
復讐者を始めとする何体かのモンスターたちが炎から逃れる。
が、結局はなにも残らない。
フィールドは一掃され、火車の車輪の音だけが庭園に鳴り響いた。
「【火車】の攻撃力は自身の効果でデッキに戻したアンデット族の数かける1000となるわぁ!
デッキに戻ったのは【ジャック・ア・ボーラン】【ワイトキング】【ヴェンデット・スカヴェンジャー】【シノビネクロ】の4体!よって攻撃力は4000よぉ!!」
火車
ATK?→4000
「大した攻撃力ね……!けど、アタシが【ミラーフォース】を仕掛けているのをお忘れかしら!」
「ちゃんと覚えているわよぉ!【抹殺の指名者】を発動!
カード名を1つ宣言し、そのカード1枚をデッキから除外!
ターン終了時まで、この効果で除外したカードの効果は無効化されるわぁ!
私が除外するのは――――【聖なるバリア ―ミラーフォース―】よぉ!」
虚空から剣が降り、葛さんの伏せたカードを縫い止める。
「ねぇどんな気分かしらぁ!頑張って仕掛けた罠が使えなくなる気持ちはぁ!
あぁ、馬鹿なゴミ達!これから死ぬってどんな気分なのかしらねぇ!!教えて頂戴よぉ!」
相手の場には攻撃力4000のモンスターがいて、こっちはモンスターがゼロ。
ダイレクトアタックが決まれば、ぴったりライフが焼き尽くされてしまう。
「………………不思議ね。全然、死ぬって感じがしないわ」
そっと、隣にいた葛さんが、ボクの手に指先を添える。
「ねぇ、廻理。貴方はまだ、アタシに『大丈夫』をくれる?」
「あははっ、もちろん!大丈夫だよ、葛さん!」
彼女の指を捕まえて、絡め取る。
握った手のひらから、彼女の温度がした。
「…………ねぇぇ、私は死ぬってどんな気分かって聞いているのだけどぉ?
もっと怖がってくれないかしらねぇぇ!」
「死ぬ、ねぇ」
ひとつ、葛さんと目を合わせる。
それからボクらは、空いていた手を前へ出して……
「「殺れるもんならやってみろ」」
ふたり揃って、その手の親指を下げた。
「うふふふふふっ!いいわぁ、ぶっ殺してあげるぅ!!
【火車】で鳴金葛を攻撃!グチャグチャに轢き潰されなさぁいぃ!!!」
燃え盛る車輪が回転し、葛さんへと一直線に向かってくる。
【ミラーフォース】はもう使えない。
彼女にはもう、迫り来る死を防ぐ手立てはない。
しかし、鳴金葛は動じない。
恐怖に目を閉じることも、顔を背けることもしない。
彼女はただ、真っ直ぐに、向かってくる炎を見ていた。
「――――リバースカードオープン」
それはきっと、大丈夫だって思っているから。
ボクを、信じてくれているから。
「【メタバース】を発動。デッキからフィールド魔法【
だったらボクは――――それに応えるだけだ!
「あははっ!【G・ボールパーク】の効果発動!戦闘ダメージを0にする!
その後デッキから昆虫族通常モンスターを墓地へ送り、その同名モンスターを手札・デッキ・墓地から特殊召喚!
ボクは【G戦隊シャインブラック】3体を特殊召喚するよ!」
走る火車の前に、3つの黒い影が現れる。
それは、真っ黒なスーツに身を包んだ、虫のヒーロー。
シャインブラックたちは葛さんの盾になり、火車の突撃を受け止める。
力付くで車輪の回転を停止させ、のたうつ炎を阻む壁となる。
そして3体のシャインブラックは火車を投げ飛ばし、少女を守り抜いた。
「嘘、でしょ……!?これも耐えるのぉ!?」
「耐えるとも!ヒーローはいるからね!」
グッ、とシャインブラックたちがボクらに向かってサムズアップする。
その姿は、正真正銘のヒーローのそれだった。
「チィ!ままならないわねぇ……!!ターンエンドよぉ……っ!!」
八重峰墓丹
LP:300
手札:なし
場:火車
伏せ:なし
「…………これで、終わりかしらね」
葛さんがぽつりと呟く。
その視線の先には、空っぽのフィールドに倒れる男がいた。
「うん、終わりだよ。それで、ここから始まる」
「…………そう」
それだけ言って、彼女は夜空を見上げた。
「廻理。また、言ってくれる?今は、貴方の言葉に浸かっていたいの」
願うように、囁くように、甘えるように。
繋いでいた手が離れ、葛さんはその指をデッキにかける。
「うん。いくらでも、言うよ」
そんな彼女に、ボクは笑って。
心からの言葉を、かける。
「―――――キミは、幸せに生きていいんだよ」
それは、願うこと。
何度だって言うと約束した、ボクの想い。
あるいは、鳴金葛というひとりに向けた、ひたすらな祈りだった。
「ありがとう。アタシ――――貴方と出会えて、よかったわ」
あぁ、そのときボクは、彼女の笑顔を初めて見た。
ほんの少しだけ口元を緩ませた、儚げで、美しい表情。
顔が焼かれたって奪えない、鳴金葛の本当に綺麗な姿。
月明かりに照らされた彼女は、ボクの目をどうしようもなく釘付けにする。
そして葛さんは――――この夜で一番素敵になって、カードを引いた。
「アタシのターン、ドロー」
「っ!墓地の【ドーハスーラ】の効果を発動ぉ!
このカードを特殊召喚するわぁ!」
「悪足掻きね。【大欲な壺】を発動。
除外されている【ヴェンデット・レムナント】【ヴェンデット・ストリゲス】【ヴェンデット・ヘルハウンド】をデッキに戻し、1枚ドローよ」
巨大な白骨が如き死霊が蘇り、葛さんを威嚇する。
それでも、彼女は止まらない。
なにも怖くないとでも言うかのように、葛さんはカードを繰る。
「さぁ、夜を楽しみましょう。フィールド魔法、【ヴェンデット・ナイト】を発動。
手札の【ヴェンデット・デイブレイク】を捨て、デッキから【ヴェンデット・レムナント】を手札に加えるわ」
夜明けが遠退き、夜が深まる。
漂うは屍たちの怨嗟。
亡者の群れが、復讐と死を渇望する。
「手札に加えた【ヴェンデット・レムナント】を通常召喚し、儀式魔法【ラヴェナス・ヴェンデット】を発動。
デッキから【ヴェンデット・ヘルハウンド】を裏側表示で特殊召喚し、場の【ヘルハウンド】と【レムナント】をリリース」
呪詛のように、ヴェンデットは燃える。
恨み辛みを吐き捨て、その怒りを刃として、屍は呼ぶ。
死んでも死にきれない、不死身にして致死の復讐者を。
「屍よ。憎しみを燃やして立ち上がり、今こそ全てを奪い尽くせ。
儀式召喚、レベル6。蘇れ――――――【リヴェンデット・スレイヤー】」
布切れを靡かせて、もう一度。
煌々と憎悪を再点火させた復讐者が、研ぎ澄まされた刃を構える。
その刃の先には、男…………鳴金雄太郎が。
鳴金葛の血の繋がった父親が、いた。
「…………これで、貴方の顔を見るのも最後になるわね」
「か、葛ぁ…………ッ!!」
男が顔を上げ、ふたりの視線が合う。
鳴金雄太郎は、酷く怯えた顔をしていた。
「ま、待て…………殺すな……!死にたくない……!」
奴の場にはなにもない。
壁となるモンスターは火車の効果で消された。
伏せカードもない。手札にあるのも通常モンスター1体だけ。
鳴金雄太郎はもう、葛さんを止められない。
「それが、貴方の最期の言葉?」
「ッ……!わ、悪かった…………!私が悪かった……!
だ、だから…………殺すな!実の父親だろう!?」
薄っぺらい謝罪を交えた、みっともない命乞い。
実の父親のそれを聞いて、葛さんは1度、目を瞑る。
「…………ねぇ、お父様。アタシね、血の繋がった親にちゃんと愛されたいって思ってたのよ」
「な、なら!愛してやっただろう!?ベッドの上で何度も!!抱いてやっただろう!?なぁ!?」
「そう――――――――――――――――
――――――気持ち悪いのよクソジジイがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁあぁぁぁあああ!!!!!!!!!!」
スレイヤーが疾駆し、地面に転がる鳴金雄太郎の顔面を蹴っ飛ばす。
それから、宙に浮いた男を捕まえて、復讐者は刃を突き刺していく。
「ぐぎゃぁっ!?あぁがぁぁあぁぁ!?いたっ!?いぎぃあぁぁぃぃぃあああぁあぁ!?!?」
刃が腹を刺す、足を刺す、腕を刺す、肩を刺す、胸を刺す、刺す、刺す、刺す、刺す、刺す。
何度も何度も何度も何度も何度も、憎しみの限りに刺しまくる。
「死ねぇ!!死ねっ!死ね死ね死ね!!死ねっ!死ね死ね死ね死ね死ねぇぇ!!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ねっ死ねっ死ね!死ね死ね死ね死ねぇっ!死ね死ね死ねっ!!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!死ね!死ねぇ!死ね死ねぇ死ねえぇぇぇ!!死ね死ねっ死ね死ね死ねっ!!死ね!死ね!死ねぇ!死ね死ね死ね死ね死ね!!死ね死ねっ死ねっ死ねっ死ねっ死ねっ死ねっ死ねっ死ねっ!!死ね死ね死ね死ね死ね死ぃねぇ!!死ね死ねぇ!死ねっ死ねっ死ねっ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ!!死ね死ね死ね!死ね!死ね!!死ね!!死ねっ!!死ね死ね死ね死ね死ね死ね!死ね死ね死ね死ね!!死ね!死ね死ね死ね死ね死ねぇ死ね死ね死ね死ねっ死ね!!死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ!死ね死ね死ね死ね死ね!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇ死ねぇ死ねぇ死ねぇ死ねぇ死ねぇ死ねぇぇ!!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ!死ね!死ねっ!死ぃねっ!死ねっ!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ぃねぇぇぇぇええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
鳴金雄太郎はどんどん穴だらけになって、吹き出していた鮮血の勢いも徐々に弱まっていく。
皮膚がなくなって、骨も砕け散って、筋繊維がバラバラになっていって。
それでもスレイヤーは刃を止めない。
原型がなくなろうがなんだろうが、葛さんの気が晴れるまで、肉塊を貫き続ける。
そうして、血も枯れ果て、鳴金雄太郎が人間からミンチになった頃。
ようやく、スレイヤーは停止した。
鳴金雄太郎
LP:1000→0
「はぁっ、はぁっ……!ぶっ、殺したぁ!!ざまぁみなさいクソッタレ!!」
肩で息をして、葛さんは高らかに中指を立てる。
その表情はすっごくイキイキとしていて、まさしく”生きている”といった風。
そう。葛さんは今、人生をクソにしていた元凶をぶっ殺して、”生きている”を始めた。
歓喜するように呼吸をする彼女は最早、誰かに犯され利用されるゴミなんかじゃない。
きっとこの夜が、鳴金葛の本当の誕生日。
葛さんの、葛さんだけの人生が、幕を開けた瞬間だった。
「あ、あぁぁあ…………なんて……なんてことをしてくれたのぉぉぉぉぉ!?」
晴れやかな葛さんとは対象的に、八重峰墓丹は膝をついて泣き始める。
「まだ遺産相続とかその辺りのことをしてないのにぃぃぃ!!
これじゃ私のやってきたことが全部おしゃかじゃないのぉぉぉぉぉ!!」
金が入ってこないことに、女は絶望の表情を浮かべる。
随分と余裕そうだ。
これから死ぬ人間は、お金なんて使えやしないのに。
「あはははははっ!派手に死んだねぇ!」
「笑ってんじゃないわよぉゴミがぁ!!貴方達のせいでぇ!
うわぁぁぁあぁあぁぁぁん!!どうしてくれるのよぉぉぉぉ!!」
大粒の涙を零しながら、恥も外聞もなく八重峰は泣き叫ぶ。
「ひくっ、ひっぐ………………殺すぅ!!
全部無駄なんて、そんなの認められないわぁぁぁ!!」
それから女は目元を拭って立ち上がる。
その佇まいには心機一転といった感じの、嫌な爽やかさがあった。
「そうよぉ!私は鳴金家の奴らを皆殺しにするために蘇った!この屋敷に戻ってきた!
だったらまずは鳴金葛を殺して……いや!最初は鳴金梨々華から!
貴方の目の前で、大好きな妹とやらを惨たらしく殺してあげるわぁぁ!!
それから貴方も、妹と同じように殺してあげるぅ!!嬉しいわよねぇ!?」
「それからだって?あははっ!キミにそれからなんてないよ!」
死人にターンは回ってこない。
さっき死んだ鳴金雄太郎にも、これから死ぬ八重峰墓丹にも。
コイツらにあるのは未来なんかじゃなくって、ただの終わりだけだ。
「――――廻理!」
葛さんが大きな声で、ボクを呼ぶ。
「お願い!アタシを…………幸せにして!!
この醜い血の繋がりを断ち切って、梨々華と一緒に!!
アタシが好きだって思う人と、一緒にいられる未来を――――ッ!!」
「――――もちろん!最高最悪の絶縁宣言と共に、お釣りが出るくらいのハッピーエンドをぶちかましてやるさ!!」
そうだ、不幸なだけの人生なんて絶対に認めない。
どんなにクソみたいでも、どれだけ傷だらけでもの、心壊れたとしても。
それでも――――生きている!!
生きてるなら幸せになりたい!
壊れたままじゃ終われない!
涙に溺れるんじゃなくて、笑って生きたい!!
「あははっ!あははははははははっ!!ボクのターン!ドロー!!」
弾けるように笑って、勢いよくカードを引く。
これが、最後のターン。
ボクらの復讐劇の、最終章。
「調子に乗るんじゃないわよガキの分際でぇ!!
私の場には攻撃力4000のモンスターがいるのよぉ!
貴方如きに、この私が倒されるわけないじゃないぃ!!」
「たったの4000じゃん!その辺のチンピラの方がもっと打点出せるね!
それじゃまずはトラップ発動!【貪欲な瓶】!墓地のカード5枚をデッキに戻しドローする!
ボクは【星遺物に差す影】【聖占術の儀式】【星遺物の胎導】【メタバース】【月の書】をデッキに戻し、1枚ドロー!」
「またドロー!?貴方何枚引くつもりぃ!?」
「本命はドローじゃなくて回収だよ!【テラフォーミング】を発動!
さっきデッキに戻したフィールド魔法【星遺物に差す影】を手札に加えるよ!」
キーカードは既に揃っている。
あとはそれらを正しく発動させるだけでいい。
「【シャインブラック】2体をリンクマーカーにセット!召喚条件は昆虫族2体!
リンク召喚、リンク2!頼むよ、【
藍色の門から、蛾を模した黒いスーツ姿の女性が降り立つ。
そうしてピコファレーナは妖しく微笑み、桃色のリボンを揺らした。
甲虫装機 ピコファレーナ
リンク2/リンクマーカー 左下 右下/ATK1000
「【ピコファレーナ】の効果発動!手札を1枚捨てて、デッキの昆虫族を場の昆虫族に装備する!
ボクは手札の【ADチェンジャー】を捨て、デッキから【ゴキポール】を【シャインブラック】に装備!
さらに【ピコファレーナ】のもう1つの効果!墓地の昆虫族3体をデッキに戻しドローする!
【霊弓のアズサ】【降魔弓のハマ】【シャインブラック】をデッキに戻し、1枚ドロー!」
ピコファレーナが唇に手を添え、ボクへとキスを投げる。
するとキスはハートとなり、風船のようにふよふよと漂う。
キスを受け取れば、それはパチンと割れて1枚のカードとなった。
「ありがとうね、ピコファレーナ!
まだまだ行くよ!モンスターをセットし、【夢蝉スイミンミン】を特殊召喚して効果発動!
【スイミンミン】は特殊召喚に成功した場合、場のモンスターの表示形式を変更できる!
ボクはさっきセットしたモンスターの表示形式を変更するよ!」
夢蝉スイミンミン
レベル3/DEF1300
「表示形式が変更されたセットモンスター、【クローラー・グリア】のリバース効果発動!
手札からクローラーモンスター、【クローラー・アクソン】を裏側表示で特殊召喚!」
蝉の音に誘われ、怪蟲たちが這い寄ってくる。
それでも、まだ足りない。
だから、呼ぶ。さらなる機怪蟲を。
「それから【スイミンミン】と【シャインブラック】をリンクマーカーにセット!召喚条件は昆虫族2体!
リンク召喚、リンク2!廻れ!【エクスクローラー・ニューロゴス】!!」
這い出るは、クローラーが神経のひとつ。
蛇のように細長く、先端に指のような4本の器官を持った異形の虫。
ニューロゴスは鎌首をもたげ、感情の読めない赤い目で八重峰を捉えた。
エクスクローラー・ニューロゴス
リンク2/リンクマーカー 左 右/ATK1900
「なんて、気味の悪いモンスターを…………!」
「ニューロゴスを気にしてる場合じゃないよ!【シャインブラック】に装備されていた【ゴキポール】の効果発動!
このカードが墓地へ送られた場合、デッキから昆虫族を手札に加え、それが通常モンスターなら特殊召喚し、さらにそのモンスターの攻撃力以上のモンスターを破壊する!
ボクは先程デッキに戻した【シャインブラック】を特殊召喚し、【火車】を破壊!!」
「なんですってぇ!?」
ニューロゴスの影から、黒い影が飛び出す。
黒い影……シャインブラックは空中で一回転し、勢いよく落下する。
その先には、燃え盛る車輪。
『ハァーーーーーーーッ!!』
シャインブラックの飛び蹴りが、火車にめり込む。
メキメキと車輪を砕き、跡形もなくぶち抜いて……。
『グッ!』
大爆発する火車をバックに、害虫のヒーローは親指を立てた。
「ナイスヒーロー!それでこそ!」
「う、嘘でしょう……!?攻撃力4000の火車が……!?
くっ、でも……私にはまだ【ドーハスーラ】がいるわぁ!!」
ワナワナと震える八重峰が、縋るように死霊の王を見つめる。
「【ドーハスーラ】の守備力は2000!まだ大丈夫だわぁ!」
「そりゃ凄いねぇ!!フィールド魔法【
続けて永続トラップ【星遺物の傀儡】を発動!自分の場の裏側表示モンスターをリバースする!
これによりセットした【アクソン】をリバースし効果発動!魔法・罠を1枚破壊する!
【歯車街】を壊せ!【アクソン】!」
空回り、やがて崩壊していく歯車の街。
そこから1機、巨大な竜が夜空へ羽ばたく。
「【歯車街】は破壊され墓地へ送られた時、デッキからアンティーク・ギアを呼び出す!
さぁ、出番だよ!【
夜に、歯車の唸る音が降る。
悠然と天を舞うは、機械仕掛けの熱核竜。
月光を背に受ける機竜の姿は、どこか幻想的に映った。
古代の機械熱核竜
レベル9/ATK3000
「さぁて、美天さんは耐えたけど、アンタは耐えられるかな!
マジックカード発動!【ミニマム・ガッツ】!!
【熱核竜】をリリースし、【ドーハスーラ】の攻撃力を0にする!!」
熱核竜が急降下し、ドーハスーラを襲う。
金属が衝突する重い音がして、機械竜は羽と尾を使って死霊王を拘束する。
「やれ!
そのまま熱核竜は口を大きく開き、ゼロ距離で熱線を放つ。
超高熱の閃光はドーハスーラを貫き、体の半分以上を蒸発させて、その力を削ぎ落とした。
死霊王 ドーハスーラ
ATK2800→0
「【ドーハスーラ】が……!?け、けどぉ!貴方は【古代の機械熱核竜】を失った!
加えて【ドーハスーラ】は守備表示!攻撃力を0にされようが支障はないわぁ!!」
「あははっ!その余裕があと何分続くかな!
永続トラップ【リビングデッドの呼び声】を発動!
墓地の【B・F―毒針のニードル】を特殊召喚!
特殊召喚された【ニードル】の効果発動!デッキから【B・F―必中のピン】を手札に加える!
そして手札からフィールド魔法【星遺物に差す影】を発動!」
蜂が飛び、庭園中を怪蟲が取り囲む。
それを見て、ボクは少しだけカードを操る手を止める。
意識を集中させる。
感じるのは、ふわふわと浮かぶような冷たさ。
人を殺す直前の、血液が逆流してるみたいな、非現実的な感覚。
冷たくて、冴えている。
その殺人的な気分をいっぱいに感じて。
ボクは、真っ直ぐに夜空を指差す。
「ボクは、【クローラー・グリア】と【クローラー・アクソン】をリンクマーカーにセット!
召喚条件はクローラーモンスター2体!!」
人差し指の延長線上。
夜の中に、幾何学模様の藍色の門が構築される。
そこに2匹の怪蟲が飛び込めば、2つの赤い矢印が点灯し始める。
「――――心持たぬ機怪蟲よ、繋がり伝い、群れを成して不幸を招け!」
門の奥から、ずるりとなにかが這い出す。
それは、神経に似た赤黒い触手の群れ。
赤い光を灯したおぞましい怪蟲。
得体の知れない、感情も分からない、思考も読めないモノ。
そうとしか表現できない、薄気味悪い怪物が、這いずるように現れる。
「リンク召喚、リンク2!這いずり廻れ――――【エクスクローラー・クオリアーク】ッ!!」
それは、感覚質の名を冠する、
天使の輪に似た器官を持ち、宙を漂う無慈悲なる存在。
その蟲はどこか神秘的で、そして致命的に冒涜的だった。
エクスクローラー・クオリアーク
リンク2/リンクマーカー 左下 右下/ATK2000
「ひっ……!ぁ、な……それ、なに……っ!?」
ぎょろぎょろと蠢くクオリアークの眼に、八重峰墓丹が一歩後ずさる。
女の膝は震えていて、空を泳ぐ怪蟲に怯えているようだった。
「クオリアークを怖がっているところ悪いけどさぁ、手札から【必中のピン】を特殊召喚して効果を発動するよ。
自分メインフェイズに【必中のピン】の数かける200のダメージを与える。よって貴方に200バーンだ」
小さな蜂がヒュンと飛び、その針で八重峰の腹を突き刺す。
「ぐぉぎゃ……っ!?ぃ、ぃぃぃ……!!」
八重峰墓丹
LP:300→100
たった200のダメージだが、腹を刺された痛みは本物だ。
八重峰墓丹は穴の開いた腹部を押さえ、地面にへたり込む。
「チマ、チマ……ダメージをぉ……!いい加減に、しなさいよぉぉ……!!」
「はいはい、もう終わるよ」
ライフ調整はこんなものでいいだろう。
最大限削ったことだし、トドメと行こうか。
「【クオリアーク】の効果。クローラーが2体以上いる場合、自分フィールドのモンスターの攻撃力は300アップする。
さらに【ニューロゴス】はリンク先のクローラーの攻撃力を300上げ、【差す影】はクローラーの攻撃力を300上げる」
エクスクローラー・クオリアーク
ATK2000→2900
エクスクローラー・ニューロゴス
ATK1900→2500
B・F―毒針のニードル
ATK400→700
B・F―必中のピン
ATK200→500
G戦隊 シャインブラック
ATK2000→2300
甲虫装機 ピコファレーナ
ATK1000→1300
「全体、強化……ですってぇ……!!」
「加えて、【ニューロゴス】のリンク先のクローラーは、相手モンスターと戦闘を行う場合、その戦闘ダメージを倍にする。そして、そのリンク先には――――【クオリアーク】がいる」
「っ!?で、でも……私の場にいるのは守備表示の【ドーハスーラ】だけよぉ!
そのモンスターで攻撃したとしても、ダメージは与えられない」
「ありゃ、それは困ったね。というわけで墓地の【ADチェンジャー】の効果発動!
このカードを除外し、【ドーハスーラ】を攻撃表示に変更するよ!」
「なぁっ!?」
赤と青の旗を持った悪魔が、死霊の前に現れる。
悪魔が赤い旗を上げれば、ドーハスーラは操られるように、力の抜けた体を起こした。
「い、いや……やめなさい!!2900の倍のダメージなんて受けたら……し、死んじゃうじゃないのぉ!!」
「あれ?おばーさんは結構しぶとそうだったけど……流石にそれだけ喰らったら死んじゃうのかぁ」
思い出すのは、あの地下でのこと。
顔を蹴り抜いて腕を切り落としたが、この女は再生した。
ちょっとくらいなら治せるのかと思ったが、そういうわけでもないのか。
あるいは、アレはあの地下だからこそ出来た芸当だったのかな?
「人殺しなんて最低よぉ!?悪いことは言わないわぁ!おやめなさい!」
「でもスカッとするじゃん。嫌なヤツをぶっ殺したら」
「ふざけないでよぉぉ!!死ぬってどれだけ怖いのか分からないのぉ!?」
あぁ、そういやこの人、冥府から蘇っただとか何だとか言ってたっけ。
まぁなんにせよ、知ったことじゃないな。最初から殺すつもりで来てるし。
「お願いよぉ!痛い思いをしたくないのぉぉ!!無駄にダメージを与えないで頂戴ぃぃ!!あと殺すとかやめなさいぃ!!」
「…………あのさぁ、なんか勘違いしていないかなぁ?」
「はぁ!?勘違いってなによぉ!!」
「ボクは、ベニアちゃんと葛さんが受けた傷を数百倍にして殺す、って言ったよね」
「だからなんなのよぉ!!私のこと殺すっていうのぉ!?」
「違うよ。2900の倍が、数百倍になるわけないって話だよ」
銃で撃たれたベニアちゃんの痛みは、その程度だろうか?
監禁され、利用され、ゴミクズのように搾取され、心を破壊された葛さんの痛みは、その程度だろうか?
否。そんなわけがない。
そんなちょっとのダメージじゃ、彼女たちの苦しみに釣り合いもしない。
「そういうわけで、ね?マジックカード発動」
満面の笑顔を浮かべて、ボクはカードを発動させる。
「装備魔法、【団結の力】【魔道士の力】【使い捨て
これら全てを、【クオリアーク】に装備させる」
「……………………………………へ?」
魔法の力が、怪蟲に集まる。
その有様を、女は呆けた様子で眺めていた。
「【団結の力】で、攻撃力を自分フィールドの表側表示モンスターの数かける800アップ。
でもって【魔導師の力】で、攻撃力を自分フィールドの魔法・罠の数かける500アップ。
あと【使い捨て学習装置】は攻撃力を自分の墓地のモンスターの数かける200アップさせる」
「ま、待って…………待って、待って……待って頂戴ぃ……!!」
「えーと、ボクの場にはモンスターが6体いて、魔法と罠も6枚あるね。
あぁ、墓地には22体のモンスターがいるよ。
そういうわけで、【クオリアーク】の攻撃力は――――」
エクスクローラー・クオリアーク
ATK2900→7700→10700→15100
「いちまんごせんひゃく………………?」
クオリアークが触手を伸ばし、空を覆う。
月も雲も星も夜も、どこにもない。
空にあるのは赤黒い触手の天蓋と、赤い目をした機怪蟲だけだった。
「し、死ぬぅ!死んじゃう!私、死んでしまうじゃないのぉぉぉ!?」
「あははっ、死ぬねぇ」
「いやぁぁぁぁああぁぁあぁ!!待って待って待って待って待ってぇ!!
そんな惨いことしないでよぉぉぉ!!痛い死に方なんて嫌なのぉぉぉぉ!!」
「じゃ、【エクスクローラー・クオリアーク】で【死霊王 ドーハスーラ】を攻撃」
ドーハスーラに向けて、クオリアークが触手の一本を振る。
それだけで、死霊はバッラバラになってしまった。
「戦闘ダメージは倍。そして【ミニマム・ガッツ】の効果発動。
このターン、選択したモンスターが戦闘によって破壊され相手の墓地へ送られた時、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える」
天からゆっくりと、無数の触手が落ちてくる。
それはまるで天の使いが降り立つように。
でも、絶対的に天使じゃない。
降りるのは、凄惨な死そのものだ。
「攻撃力の2倍プラス、ドーハスーラの攻撃力の2800。
というわけで、合計ダメージは――――33000だよ」
「し、死にたくない……っ!ひっ、ぁ……死にたくないぃぃぃぃいいぃぃぃぃぃぃ!!!!」
女が背中を向けて逃げ出す。
が、当然逃しはしない。
触手が八重峰の手足を捕らえ、二度と逃げられないように両手足をへし折った。
「ぃぎゃぁぁぁぁあぁあぁぁぁ!?やめっ、近寄らないでぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇ!!!!」
クオリアークに捕まった八重峰が、空中に吊り上げられる。
手と足を広げられて浮かぶその様は、まるで標本のよう。
「ひぃっ!?……ど、どこを触って……!?ぁ、あぁ……ま、まさか……!!」
赤黒い触手が器用に、女の纏っていた衣服を切り裂く。
それから数本が下半身に這い寄り、腰の辺りにまとわり付いていった。
女も、これから自分がなにをされるのか理解したのだろう。
顔からは血の気が引き、八重峰はガタガタと歯を震わせ始める。
「ぁ、あぁ……やめて…………お願いぃぃ……!」
「あははっ!やっちゃってクオリアーク!」
「やぁぁぁぁああがぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
ぐちゃり。いくつもの触手が八重峰の肛門に殺到し、無理やり内部に入り込んでいく。
許容量は明らかにオーバーしていて、人間の出口がブチブチと裂ける。
それでもお構いなしに、怪蟲の触手が中へ中へと押し込まれていった。
「ぎゃあぁあああぁぁぁあ!?いぎぃっ!?いたい、いたいのぉぉぉ!!おしり、さけてるぅぅぁぎぃぃあぁぁ!?!?」
血が太腿を伝い、地面へと垂れていく。
お尻を強引にこじ開けられ、直腸に触手の群れをぶち込まれたせいで、排泄器官が壊れたのだろう。
喉を反らして泣き叫ぶ八重峰を見るに、その痛みは想像を絶するようだ。
「お゛ぉ゛っ!?ぎ、ぎぎ、ぎぃ!?がっ、ぎゃががぁがががっ!?
ひゃめっ!?おぐぅ!?たひゅけっ、おねがっ、いぃぃやあぁぁがががががっ!?」
「ん、クオリアーク?もっと雑にやっていいよ?」
「ざつぅぅ!?やっ、いやぁぁぁっ!?んぎゃぁぁ!?!?やめっ、ていねいにっ!!
ねじこまない、でっ、ぎぃぎぎぎぎぎぎぎあががぎゃぎゃぎゃぎゃががぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
ポンプみたいに触手が勢いよくねじ込まれる。
瞬間、八重峰の腹がボコンッ、と内側から突き上げられる。
「お゛ごっ!?!?」
あっ、腸をぶち抜いたね。
腸壁を無視して力づくで貫通させてみたいだ。
まぁ小腸とかうねうねしてるし、こうなるのも仕方ないかな。
「ぶごぼっ!?おなっ、ひゅっ!?げぼっ、げぼっ!?おなかっ、いたぁいぃぃぃぃぃ!?」
今度は口から、大量の血がこぷこぷと溢れてくる。
中でグチャグチャになった内臓から出た血だろうか。
「ふーむ、後少しか。えーと、もうちょい上で……うん、そこ。お願いね」
「ぁ、ぁ、ぁ、ぁぁぁぁぁぁ!!あがっ、あがってっ!?なにか、おぇっ!?あぎゃっ、へっ!?
んぐっ、おぐぐっ!!ぎょっ、ぎっ、ぇ、ぇぇごぉっ!?!?お゛ぐぇ゛ぇぇぇ゛ぇぇぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇ゛!?!?」
八重峰の口から、無数の触手が這い出てくる。
手品とかじゃない。肛門から侵入したモノが、内側を通って口から出てきただけだ。
「おっ、お゛っ、おっ、ぐぉ、おぇ、ぇ゛っ、ごぁっ!?!?」
「串刺しになったね」
女の口からは最早、意味のある音が鳴ることはない。
言葉を発するための喉は、触手で埋め尽くされてしまったからだ。
「っ、ごぎょっ…………ぉ、あ゛ぐぁっ゛!?!?」
お腹に開いていた穴からも2本、真っ赤に染まった触手が出てくる。
触手はうねうねと絶え間なく蠢き、その度に女は苦悶の声を漏らした。
「ごぉ…………っ……ぼ、ぎゅぉ…………あ゛……ぎぉ……」
「あー……窒息しそうだね?」
気道を塞いでしまっているせいで、酸素がロクに取り込めていないらしい。
さて、このまま文字通り息の根を止めてやってもいいが……
「窒息死なんて楽な死に方はさせないよ」
そんな生温い死は許さない。
そもそも、窒息させたくてこうしたわけじゃない。
「裂こうか、クオリアーク」
天に浮かぶ怪蟲の眼が、赤く、残酷に、輝く。
するとクオリアークの触手にグッと力が入り出した。
「ん゛ぐぉ゛っ!?!?」
触手の群れが半分ずつ左右に分かれる。
その動きは、まるで拡散するかのよう。
「ぎょぎょぎょぎょんごごごごごぁがぁががぁがぁあっ、あ、あっ、あ゛、あ゛、あ゛っ!?!?」
頬が伸びる。
喉が不自然に膨張する。
唇が縦に切れ始める。
八重峰墓丹は目を見開き、ボクをただ見つめていた。
言葉は分からないが、なんとなく「たすけて」だとか「やめて」とか言ってる気がする。
「じゃあ、真っ二つになろっか」
「んごぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?!?ん゛ん゛んぉ゛んぉぉん゛んんっ!?!?」
女は声を張り上げ、どうにか首を横に振ろうとする。
折れた手足をばたつかせ、涙を流しながら抵抗し続ける。
だが、機怪蟲に感情はない。
なにをしようが、蟲はただ殺すだけだ。
「じゃあね、アデュー」
「ぉ゛、おぉ゛っ、ごっ、ごごっ、ぎょっ、んぉ゛ぁ゛あっあぁぁぁぁぎゃっ、あっ、ぁ゛、あっぁぁぁ!!!!」
ぱちんと指を鳴らせば、それを合図にクオリアークが本気で裂く。
「あ゛っ」
肉が裂ける音がした。
骨が折れる音がした。
顔から腹、腹から女性器までが、真っ赤に開かれる。
肋骨も骨盤もボッキボキで、その破片と思しきものが断面から覗いた。
「存外、綺麗に半分にならないものだね」
ぼとり。
八重峰墓丹だったモノが土の上に落ちた。
背骨のせいで背中側が上手く裂けなかった。
女の残骸を例えるなら、魚の開きが最も正確だろうか。
なんにせよ、八重峰墓丹はもう喋らない、動かない。
さっきまで必死に助けを求めていた目からは光が薄れていき、意味をなさなくなった気道から空気が流れ出る。
こうして、葛さんの実の母親は……母親とは呼べない人殺しの女は、絶命した。
八重峰墓丹
LP:100→0(-32900)
「…………父親の方も、貴方に殺してもらえば良かったかしらね」
「えぇっ、自分で殺したほうが良かったって!」
「どうかしら。どうせなら、コレと同じくらい惨くやってもらっても良かった気がするけれど……」
「えー……」
見るも無惨に死んだ男と女を眺めながら、葛さんとそんなことを話す。
そんなボクらの頭上で、クオリアークの姿が薄れていく。
もうデュエルが終わったから、実体化する必要がなくなったのだろう。
ふと、怪蟲が覆い隠していた夜空を見上げる。
そこには、月があった。
普通な月だ。満月とか、三日月とかでもない。
名前も知らない、特別なんかじゃない、そんな月。
平凡で、けれど最も美しい月が、葛さんを祝福するように輝いていた。
「月、綺麗ね」
「あははっ、おめでとうって言ってるんだと思うよ」
「……貴方はロマンチストなのね。けど、月は喋らないわ」
「そっか。なら……おめでとう、葛さん」
月が喋らないなら、ボクが喋ろう。ボクが祝おう。
彼女の人生の始まりを。幸福への一歩目を。
「………………ありがとう、廻理」
どこか照れくさそうに、葛さんが言う。
やや小さな声だったけど、その言葉は静かな夜によく響いた。
「どういたしまして。じゃあ、ほら」
にこやかに笑って、右手を軽く上げる。
葛さんはきょとんとして、それからすぐにボクの意志を読み取ってくれた。
「……それ、初めてするわ」
「あははっ、最後までお付き合いいただけるかな?」
「………………そうね」
葛さんは呆れ混じりに微笑んで、ボクと同じように右手を上げた。
月明かりの下、ふたりっきりで。
一緒に頑張った相手に向けて、讃えるように。
「「イエーイ」」
ボクと葛さんは、ハイタッチをした。
今回も読んでくださり、ありがとうございます!
最後のデュエルも決着がつき、この章も次回で終わりとなります。
エピローグも楽しんでいただけるよう、頑張ります!
それでは、また次回にお会いしましょう!