※この作品はR-18です。

遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻   作:胡麻野すり子

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番外編シリーズにはもうひとつ、『殺人スラッガー編』というのがあったのですが、今回それは省いています。
廻理が殺人球児デュエリストとデュエルして死にかける話です。

個人的には気に入っているのですが、考えれば考えるほど別になくても問題ないエピソードなので、一旦カットしました。
いつかなんらかのカタチでこちらに上げようかとは考えています。

では、始まります。


第28話 普通でいられたのならば

 

 割れたドアのガラス片を掃除して、ほっと一息。

 ベニアちゃんと並んで、テーブル席に座り直す。

 

「お待たせしましたっ、ウーロン茶ですっ」

 

「ああ、これはご丁寧にどうも」

 

 しばらくすると、威月ちゃんが3つのコップを持ってやってくる。

 彼女はボクとベニアちゃんの前にウーロン茶をそっと置いてから、向い合せに席に着いた。

 

「何からお話しましょうか……あっ、そういえばまだ名乗ってませんでしたね?

 私、破里潟威月(はりかた いつき)っていいますっ。このラーメン店の店主の娘ですっ!」

 

「へぇ、威月ちゃんね。ボクは遊針廻理。ただのデュエリストだよ。よろしくね」

 

「あ、あたしは、ベニアっていいます。ただの、デュエリストです。よろしくお願いします」

 

「廻理くんと、ベニアちゃんですねっ。こちらこそ、よろしくお願いしますっ!」

 

 威月ちゃんはニコッと笑い、元気にお辞儀する。

 明るくてしっかりしてて、いい子だなぁ。

 こんな子がなにやら酷い目にあってるんだから、世の中やるせないもんだ。

 

「それで早速本題に入るけど、アイツらはなんだい?

 真っ当な客じゃなさそうだったけど」

 

 思い返すのは、数十分前に店を襲ったガラの悪い男たち。

 ドアをかち割って入店するは、すぐ暴力に訴えるはでまぁろくでもないヤツらだったが、あれと彼女の間になにがあったのだろうか。

 

「あの人たちは……最近、この『街』で暴れている半グレデュエル集団です」

 

「……半グレデュエル集団……ですか」

 

「最近多いよねぇ、荒れてるヤツら。

 して、どうしてラーメン店の娘さんのキミが目をつけられたんだい?

 正直、ああいう裏の連中と接点なんてないと思うんだけど」

 

「……始まりは、アイツらがうちに来店したことでした」

 

 威月ちゃんは目を伏せ、ぽつりぽつりと言葉を零す。

 そのときの彼女は、何故だがとても小さく見えた。

 

「悪い人たちだとか分からなかったし、私は、いつも通り働いて、いつも通り接客してました。

 そしたら、どうやら私は気に入られてしまったみたいで……っ」

 

「気に入られたっていうと……」

 

「『自分のモノになれ』って、言われました。

 そのときは、ナンパかなって思ってやんわり断ったんですけど……」

 

「相手は引き下がらなかった、かな?」

 

 こくり、威月が頷く。

 彼女は俯いたままだった。

 

「……その日から、アイツらは毎日私のところに来ました。

 お店にはもちろん、時には、学校にまで……っ」

 

「……ストーカーじゃないですか…………」

 

 威月ちゃんがぎゅっと自らの身体を抱きしめる。

 

「それで、どんどんエスカレートして……ついには、お店で暴れるように、なって……っ」

 

「このお店の傷は、全部アイツらが暴れた跡か」

 

 店内を見渡せば、いくつもの傷が目に入る。

 殴りつけたような跡、割れた床に、ボロボロのテーブル、セロハンテープで補強した窓ガラス。

 ……酷い有様だ。嫌がらせというにはやり過ぎている。

 

「……よく、今まで無事でしたね」

 

「お父さんと、お母さんが、守ってくれてましたから。

 でも、ふたりは……アイツらのせいで……っ!」

 

 そこまで話して、威月ちゃんが震えだした。

 彼女は唇を噛んで、瞳から涙を零して、くぐもった嗚咽を漏らす。

 

「アイツらは、アイツらはっ、お父さんを殺したんです!私を守ってくれたお父さんをっ、ゴミみたいにっ!」

 

「威月ちゃん…………」

 

「お父さんはっ、アイツらに何百回も殴られて、串刺しにされて、殺されましたっ!

 しかもっ、死体は豚の丸焼きみたいに焼かれてっ……!それでっ、それでっ……!」

 

 震えた声が響く。

 痛みと絶望に塗れた、嗚咽混じりの悲鳴が。

 

「それで……お父さんの首を、送りつけられました……っ。

 お父さんは、頭を割られて……脳に、箸が突き刺さって、ました……」

 

「…………クソですね」

 

 リンチの末に串刺しにして殺害。死体になってなお辱められ、愛娘に晒す、か。

 残忍だし、なにより悪趣味だ。

 

(……脳みそラーメンってことか)

 

 頭をどんぶり、脳を麺に見立てたブラックジョークだろう。

 最悪だ、ピクリとも笑えやしない。

 

「お母さんも……お父さんが死んで、ショックからか体調を崩してしまって……っ。

 今は、私ひとりだけに……なっちゃいました……」

 

「セキュリティには頼らなかったのかい?」

 

「通報はしましたし、セキュリティは頑張ってくれました。

 でも、逮捕まではいかなくて……っ」

 

 逮捕までいかなかった、か。

 ヤツらに隠蔽ができる頭があるとは思えないし、セキュリティ側の人員不足が原因かな。

 

「それで、現在キミはひとりでお店を切り盛りしてる、って感じかな」

 

「はい……っ。もう、誰も……頼れる人がいませんから……っ」

 

「そ、その……逃げたりとか、できなかったんですか?

 えっと、親戚のお家に、お邪魔したりとか……」

 

「できたとは、思います。でも……私は、ここを守りたかったからっ」

 

 威月ちゃんが顔を上げ、ぼうっと店内を見渡す。

 その目は、優しく、温かな色をしていた。

 

「お父さんは死んじゃったけど……このお店には、たくさんの思い出が詰まってますからっ。

 それに、私がここを潰しちゃったら、天国のお父さんも泣いちゃいますっ」

 

「そっか。それは、逃げらんないね」

 

 “はいっ”、と明るく、彼女は頷いて見せる。

 あぁ、本当に。彼女にとってこのお店は、特別なのだろう。

 命の危機に瀕してなお、捨てられないほどに。

 

「それで……どうします?廻理さん。

 連中を見つけ出して、ぶちのめしますか?」

 

「うーん、アイツらお礼参りに来るって言ってたしなぁ……。

 籠城するか、攻めるか……どうしよっかな……」

 

「あ、あのっ」

 

 うんうんと頭を悩ませていると、威月ちゃんが声を上げる。

 はて、どうしたのだろうか。考えるのを止めて、彼女に視線を移す。

 

「ありがとうございます……っ。助けて、くださってっ」

 

「あははっ。大したことはしてないよ。まだ解決できてないし」

 

「はい!ありがとうは、全部まるっと終わってから、です!」

 

 優しく笑いかければ、つられて威月ちゃんも笑ってくれた。

 可愛らしくて、こっちまで元気になりそうな、いい笑顔だ。

 

 これは、ちゃんとやらないとなぁ。

 こういう子が真っ当に幸せになれないのは、理不尽だから。

 

「いよぉし頑張ろう。ここからは暴力のターンだよ」

 

「ですね!あたし、やりますよ!」

 

 ベニアちゃんが鼻息を荒くして立ち上がる。

 気合十分。この調子なら大丈夫だろう。

 

 さて、ボクも頑張るとしよう。

 同じように立ち上がり、伸びをする。

 

「……?音……?車かな?」

 

 ふと、外から音が聞こえた。

 低くて重く、喧しい音だ。

 機械のエンジン音だろうか?

 その音は、どんどん、どんどんと大きくなって、近づいてくる。

 

「……あっ、これヤバい――――!」

 

 咄嗟にベニアちゃんと威月ちゃんを抱えて、店の奥へと飛び退く。

 轟音が鳴ったのは、その次の瞬間のことだった。

 

 店の半分が、砕けた。

 文字通り、粉々に。

 巨大な鉄の塊が突っ込んできて、壁も天井も破壊していったのだ。

 

「わ、私のお店……っ!?」

 

「おいおい勘弁してよ……」

 

 ベニアちゃんと威月ちゃんを離して、突っ込んできた物体へ目を向ける。

 けれど、そこにはなにもなかった。

 店を破壊した巨大な物体はいつの間にか消失し、今はもうどこにもいない。

 

 ……実体化させたモンスターの仕業か。

 そうやって考えていると、外から半壊した店内へ、どこからか現れた男たちが入ってくる。

 悪人面の、ろくでもなさそうな男たち、それが十数人。

 その中には、先程ボコボコにしたガラの悪い男たちもいた。

 

「ハハハッ!約束通りぶっ殺しにきたぜぇ!クソガキどもぉ!」

 

「最悪お礼参りだね。迷惑客は出禁だよ」

 

 男が中指を立ててくるが、無視して威月ちゃんを下がらせる。

 彼女は、大切なお店を破壊されたショックで、呆然自失していた。

 

「イキってんじゃねぇぞボケがッ!今の俺たちには兄貴がいるんだからなぁ!」

 

「兄貴ぃ!あのクソ生意気なガキをぶち殺してやってくださいよぉ!」

 

 そう言って、男たちが左右にはける。

 そうして割れた集団の真ん中から、ひとり、男が前へ歩いてきた。

 

「ヒョヒョヒョ……貴方が私(あたし)の部下を負かしたガキですか」

 

 それは、病的に痩せ細った、黒ずくめの男だった。

 極端に露出の少ない衣装を纏い、かすかに覗く肌からは入れ墨の模様が見える。

 ソイツは目の下には深いクマ、不規則に揺れる身体と、コッテコテの猟奇殺人鬼みたいな風貌をしていた。

 

「ヒョヒョ……一方的に倒したというだけあって、どちらも練り上げられてますね。

 これはこれは、なんとも手強そうだ」

 

「御託はいいよ。兄貴って言ったね。アンタが、威月ちゃんにちょっかい出してるはた迷惑なヤツかな?」

 

「ヒョヒョヒョ!なんとも威勢のいい…………はい、はい、積極的にアプローチさせてもらってますよ?」

 

 病的な男が、ゆらゆら揺れながらにやけ顔を見せる。

 歪んだような、気持ちの悪い笑顔だった。

 

「ご迷惑だからお引取り願えるかな?できれば刑務所にさ」

 

「それはできないご相談ですね。ヒョヒョヒョ、まだ逢瀬は終わっていませんからね」

 

 男の目線がボクからズレる。

 その目を追えば、そこには威月ちゃんがいた。

 

「威月さぁん、再三言っていますが、私(あたし)のモノになってくれませんかね?

 悪いようにはしませんよぉ?はい、はい、ヒョヒョヒョヒョヒョ……」

 

 粘つくような不快な声と、値踏みするような視線が、威月ちゃんに突き刺さる。

 びくんと、背後の彼女が震えたのが、分かった。

 

「なにが悪いようにはしないですか……殺すつもりでしょうが……!」

 

 威月ちゃんを守るように前へ出たベニアちゃんが、男を睨みつける。

 けれど男は飄々とかわし、なんともなさそうににやけていた。

 

「はて?はて?殺すことが、悪いですか?」

 

 あー、ダメだねこれは。

 お話が通じないタイプの殺人鬼だ。

 この手のよくいるシリアルキラーは行儀が悪くていただけない。

 

「あははっ。こりゃいいや。殺しても心が痛まない」

 

 でもまぁ、暴力を振るうには丁度いい。

 デュエルディスクを展開し、男に向き直る。

 

「っ、なんで……なんで、私なの……っ!」

 

 威月ちゃんが、震える声で吠える。

 彼女のありったけの勇気を振り絞った、問い。

 それに男は、首を傾げて答える。

 

「胸が大きかったからですが?」

 

 淡々と、言い放たれた言葉は、威月ちゃんの声を奪うには、充分だった。

 

「そ、それだけ……?たった、それだけの理由で…………貴方はこんなことをして、お父さんを殺したのっ!?」

 

「ヒョヒョヒョ、男なら胸の大きい女性に憧れるものでしょう?」

 

 普通に考えて、凶行を起こすにはくだらなさ過ぎる理由。

 そんなありきたりな犯行動機を聞いて、威月ちゃんは崩れ落ちる。

 

「………………そんな、理由で……私は……私の、お父さんは…………っ」

 

「あぁ、いいですね。崩折れるその姿、とても興奮しますね。

 一体全体どうしてショックを受けているのかは分かりませんがね」

 

「威月さん……」

 

 膝を着き泣きじゃくる威月ちゃんの背を、ベニアちゃんが撫でる。

 抱きしめるように寄り添って、必死に、彼女は慰めようとしてくれていた。

 

「ヒョヒョヒョヒョヒョ。巨乳はいいですよね。揉むのも刺すのも切り落とすのも。

 胸の断面はルビーのように美しくていいですし、切り落とす体積を大きいほど悲鳴も大きくて面白いですしね。

 貴方もそう思いません?紫髪のキミ?キミも男の子でしょう?」

 

「分かんないなぁ。人間の断面なんてグロいだけだし、悲鳴よりも明るい笑い声のほうが楽しいだろうに」

 

「残念ですね。貴方とは分かり合えませんかぁ……では死になさい」

 

 男もまたデュエルディスクを展開し、構える。

 そりゃそうだ、分かり合えないならこうなる。

 お互い分かる気も尊重する気もないんだから、殺し合うことになる。

 

「ヒョヒョヒョ。貴方を殺して、可愛らしい威月さんを私(あたし)のものにいたしましょう」

 

「皮算用はボクを殺してからしなよ」

 

 

 

 

「「――――――――――決闘(デュエル)」!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先攻は……ボクか。

 ちらりと後ろ見る。

 

「威月ちゃんをお願いね、ベニアちゃん」

 

「はい、任せてください。だから廻理さんは…………」

 

「あははっ!バッチリ始末するよ!ボクのターン!

 まずはモンスターをセットし、【蟲の忍者―蜜】の効果発動!

 裏側表示モンスターが存在する場合、このカードを特殊召喚するよ!」

 

 蟲の忍者―蜜

 レベル2/ATK200

 

「それから【夢蝉スイミンミン】の効果発動!

 自分フィールドに攻撃表示の昆虫族が存在する場合、このカードを手札から特殊召喚する!

 さらに【スイミンミン】は特殊召喚に成功した場合、フィールドのモンスターの表示形式を変更する!

 ボクはさっきセットしたモンスターを攻撃表示にするよ!起きて、【クローラー・デンドライト】!」

 

 夢蝉スイミンミン

 レベル3/DEF1300

 

 クローラー・デンドライト

 レベル2/ATK1300

 

 蝉の音が鳴り、怪蟲が目を覚ます。

 そうして起きたデンドライトは、ゆっくりと自らの役割を果たす。

 

「【デンドライト】のリバース効果発動!デッキからモンスター1体を墓地へ送る!

 ボクは【影霊の翼(リーシャドール) ウェンディ】を墓地へ送るよ!

 そして効果で墓地へ送られた【ウェンディ】の効果発動!

 デッキからシャドールモンスター、【シャドール・ファルコン】を裏側表示で特殊召喚する!」

 

「ワラワラと出てきますねぇ。一瞬でモンスターが4体とは……」

 

「これで終わりじゃないよ!【蜜】と【スイミンミン】をリンクマーカーにセット!

 召喚条件は昆虫族モンスター2体!

 リンク召喚!リンク2!【甲虫装機(インゼクター) ピコファレーナ】!」

 

 夜空に藍色の門が浮かび、忍びと蝉がその中へと飛び込む。

 2体の蟲を呼び水に現れるのは、蛾を模したスーツに身を包んだ、甲虫の女戦士。

 

 甲虫装機 ピコファレーナ

 リンク2/リンクマーカー:左下 右下 ATK1000

 

「いくよ、【ピコファレーナ】の効果発動!

 手札を1枚捨て、デッキから【応戦するG】を【デンドライト】に装備する!

 それからコストとして墓地へ送った【ゴキポール】の効果発動!

 デッキからレベル4の昆虫族、【B・F(ビー・フォース)―早撃ちのアルバレスト】を手札に加える!」

 

 ピコファレーナが手にしたリボンを振るえば、ポケットをひっくり返したみたいに虫たちが湧き出す。

 黒い害虫はデンドライトの元へ、重なった黒虫は墓地へ、そして蜂はボクの手の中へ。

 湧いた虫は思い思いに蠢き、行くべきところへと行き着く。

 

「【ピコファレーナ】の第2の効果を発動!

 墓地の昆虫族3体……【蜜】【スイミンミン】【ゴキポール】をデッキに戻し、1枚ドロー!

 でもって【ピコファレーナ】と【デンドライト】をリンクマーカーにセット!

 召喚条件はカード名が異なるモンスター2体!

 リンク召喚!リンク2!頼むよ【虫忍 ハガクレミノ】!」

 

 再び藍色の門が開かれ、新たなるモンスターが降り立つ。

 音もなく現れたのは、緑の体表の、人型の虫。

 

 虫忍 ハガクレミノ

 リンク2/リンクマーカー:下 左上/ATK1000

 

「ヒョヒョヒョ。なかなか元気ですね?」

 

「まだ若いんでね。フィールドから墓地へ送られた【応戦するG】の効果発動!

 デッキから攻撃力1500以下の昆虫族・地属性モンスターを手札に加える!

 ボクは【増殖するG】を手札に加えるよ!」

 

「よりにもよって【増殖するG】とは。ヒョヒョ!いやらしいカードをサーチしなさる」

 

「これで最後!永続魔法【地中界の厄災】を発動し、カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 廻理

 LP:4000

 手札:2枚

 場:虫忍 ハガクレミノ

   ???(シャドール・ファルコン)

 伏せ:1枚

 魔法・罠:地中界の厄災

 

 立ち上がりは……まずまずか。

 微妙に手札が腐っちゃってたな。

 

「ハハハ!大口叩いたくせに、いざ動けばザコモンスターを並べただけかよ!」

 

 手札を見ていると、男の取り巻きたちが野次飛ばしてきた。

 うるさいなぁ。その上ゲラゲラ笑ってて行儀が悪い。

 

「ベ、ベニアちゃん……っ」

 

「不安がらないで大丈夫ですよ。廻理さんの初動はいつもあんなんですから」

 

 野次のせいで不安になったのか、怯える威月ちゃんをベニアちゃんが優しく抱きしめる。

 

「それに……あの盤面は思ってるよりかは頑丈です。

 【地中界の厄災】はリバースしたモンスターの攻守を1500上げる効果がありますし、手札にはあの【増殖するG】です。そう簡単には突破させませんよ」

 

「ヒョヒョヒョ。確かに地味ながら嫌な状況ですね」

 

 男が揺れながら、ボクの場と自身の手札を見ている。

 それを数秒繰り返して、ヤツはデッキに指をかけた。

 どうやら、考えはまとまったらしい。

 

「ヒョヒョ。【増殖するG】がある以上、派手に動くのは悪手。

 ならばこちらも、落ち着いたデュエルをしましょうかね?

 私(あたし)のターン、ドロー!ヒョヒョヒョ!【ハーピィの羽根箒】を発動ですよ!」

 

「げぇ!?羽根箒!?」

 

 男が魔法を発動させた、瞬間。

 強い風が吹き抜け、ボクの魔法と罠をぶち壊していく。

 

「ヒョヒョヒョヒョ!【ハーピィの羽根箒】は相手の魔法・罠を全て破壊しますよ!」

 

「なにが落ち着いたデュエルだよ……!破壊された【地中界の厄災】の効果が発動!

 自分の墓地のモンスター1体を裏側表示で特殊召喚する!

 戻ってきて!【クローラー・デンドライト】!」

 

 風にすべてが壊されるが、厄災はまだ終わらない。

 地中から怪蟲が這い出し、デンドライトは夜の中に身を隠す。

 

「破壊時効果ですか。ですが、伏せカードは破壊できましたね?

 続けて永続魔法【ゼンマイマニュファクチャ】を発動し【ゼンマイネズミ】を召喚しましょうか」

 

 ゼンマイネズミ

 レベル3/ATK600

 

 登場するのは、ネズミを模した小さな機械。

 ゼンマイ仕掛けの玩具みたいなモンスター。

 

「ゼンマイか……」

 

「ヒョヒョ。特殊召喚を多用するデッキですよ?増殖するGとは相性最悪ですね。

 ですので、【手札抹殺】を発動。互いの手札を全て捨て、それぞれ自身が捨てた枚数分デッキからドローする。

 できればなにもせずに、増殖するGを捨ててほしいんですけどね?」

 

「嫌に決まってるじゃん!【増殖するG】の効果発動!

 手札からこのカードを捨て、このターン相手が特殊召喚に成功する度に1枚ドローする!」

 

「ヒョヒョヒョ!やはり使ってきましたか!ままなりませんね!」

 

 害虫が墓地へ行き、それに続くように互いの手札が墓地へと落ちる。

 男は2枚捨てて2枚ドロー。

 ボクは1枚捨てて1枚ドローだが……サーチした【アルバレスト】を失ったのは痛い。

 

「さて、使われてしまったものは仕方がありませんし、少しだけ動きましょうかね。

 【ゼンマイネズミ】の効果発動。攻撃表示のこのカードを守備表示に変更し、墓地のゼンマイと名のついたモンスターを特殊召喚する。

 私(あたし)は先程墓地へ送った【ゼンマイマジシャン】を特殊召喚しますよ」

 

 ネズミの駆動音に誘われるのは、ゼンマイ仕掛けの魔術師。

 玩具みたいにカクカクと動き、魔術師は杖を構える。

 

 ゼンマイマジシャン

 レベル4/DEF1800

 

「【ゼンマイマジシャン】が特殊召喚されたことで1枚ドローするよ」

 

「ヒョヒョヒョヒョ!厄介の一言に尽きますね!

 ゼンマイと名のついたモンスターの効果が発動したことで、【ゼンマイマニュファクチャ】の効果が発動!

 1ターンに1度、デッキからレベル4以下のゼンマイと名のついたモンスター1体を手札に加えます!

私(あたし)は【ゼンマイシャーク】を手札に加えますよ!」

 

 ゼンマイが巻き上がる音がして、男の元にカードが届けられる。

 

「本当ならまだまだ展開できますが……これ以上ドローされるのも困りますね?

 では、【ゼンマイマジシャン】と【ゼンマイネズミ】をリンクマーカーにセット!

召喚条件はゼンマイモンスター2体!

リンク召喚、リンク2!巻き上がりなさい!【発条補修(ぜんまいほしゅう)ゼンマイコン】!」

 

 藍色の門が出現し、2体のゼンマイが吸い込まれる。

 そうして門から出てきたゼンマイは、威嚇するようにアームを伸ばし、カチカチと慣らした。

 

 発条補修ゼンマイコン

 リンク2/リンクマーカー:左下 右下/ATK1800

 

「【ゼンマイコン】か……特殊召喚されたことで1枚ドローするよ」

 

「ヒョヒョヒョヒョ。リンク召喚に成功した【ゼンマイコン】の効果発動ですよ。

デッキからゼンマイカード……2枚目の【ゼンマイネズミ】を手札に加えましょうかね?」

 

「ハハハ!スゲェぜ兄貴!手札が全然減ってねぇ!流石だぜ!」

 

「……廻理さんだって手札を増やしてますけどね」

 

 取り巻きの男たちが歓声を上げ、ベニアちゃんがぽつりと呟く。

 

「ヒョヒョヒョ!お互い部下には慕われているようですね。

 では……無様を晒さないようしましょうかねぇ?

 バトルフェイズ。【ゼンマイコン】で【ハガクレミノ】を攻撃しますよ」

 

「悪いけど【ハガクレミノ】はリンク先にモンスターが存在する限り、攻撃対象にできないよ!」

 

「おっと、これまた厄介な効果をお持ちですね。

 では、そのリンク先のモンスターから潰すとしましょうかね。

 ヒョヒョヒョヒョ。やりなさい、【ゼンマイコン】」

 

「攻撃された【シャドール・ファルコン】の効果発動!

 墓地のシャドールモンスター【影霊の翼(リーシャドール) ウェンディ】を裏側表示で特殊召喚するよ!」

 

 ゼンマイコンの攻撃に応じて、影糸の鳥が起き上がる。

 ファルコンは粉々に砕かれてしまったが、その糸は墓地のシャドールを引き上げた。

 

「さらに【ハガクレミノ】の効果発動!

 リンク先のモンスターが戦闘・効果で破壊された場合、手札・墓地からレベル4以下の昆虫族モンスター1体を特殊召喚する!

 ボクは墓地の【応戦するG】を特殊召喚するよ!」

 

「……戦線が崩れませんか。それどころか、モンスターが増えてしまうとは。

 これは少々分が悪い。ですので、メインフェイズ2。

 【一時休戦】を発動。お互いのプレイヤーはデッキから1枚ドローし、次の相手ターン終了時まで、お互いの受ける全てのダメージは0になりますよ」

 

「げぇ……休戦なんてしないでさぁ、もっと生き急ごうよ」

 

「ヒョヒョヒョ。時代はスローライフですよ?

 それからカードを2枚伏せて、私(あたし)はターンエンドにしましょうかね?」

 

 病的な男

 LP:4000

 手札:2枚

 場:発条補修ゼンマイコン

 伏せ:2枚

 魔法・罠:ゼンマイマニュファクチャ

 

 さてどうしたものかな。

 ヤツのフィールドは【ゼンマイコン】1体と伏せ2枚。

 手札は【ゼンマイシャーク】と【ゼンマイネズミ】で、手札誘発はなし。

 突破しようと思えば突破できるが……【一時休戦】のせいで仕留められないな。

 

「うーん、しょうがない。地道にやりますか。

 ボクのターン、ドロー」

 

 引いたカードは……おっといい感じ。

 それじゃ、一丁やりますか。

 

「手始めに【デンドライト】を反転召喚して、手札の【星遺物―『星鎧』】の効果発動。

 モンスターが反転召喚に成功した時、このカードを特殊召喚するよ」

 

 怪蟲が起き上がり、それと同時に地面の中から巨大な鎧が出現する。

 これなるは星遺物。そして、怪蟲の巣。

 星の鎧は雄大に、男共を見下ろす。

 

 星遺物―『星鎧』

 レベル7/ATK2500

 

「でもって【デンドライト】のリバース効果と、【星鎧】の第2の効果が発動。

 まず【星鎧】の効果で、デッキから星遺物カード、【星遺物を巡る戦い】を手札に加える。

 それから【デンドライト】の効果で、デッキから【冥占術姫タロットレイス】を墓地へ送るよ。

 

 それから【影霊の翼 ウェンディ】を反転召喚し、リバース効果を発動。

 デッキからシャドールモンスター【シャドール・ビースト】を裏側表示で特殊召喚」

 

「一気に動きましたねぇ。しかし、私(あたし)はこのターン、【一時休戦】の効果でダメージを受けませんよ?」

 

「でもモンスターは殴り殺せる。

 バトルフェイズ。【星遺物―『星鎧』】で【発条補修ゼンマイコン】を攻撃」

 

 巨大な鎧の手が振り下ろされ、ゼンマイ仕掛けの機械を圧殺する。

 ゼンマイコンは轟音と共に、原型も残らずバラバラに砕け散った。

 

「バカが!ダメージも与えられないのに戦闘を仕掛けやがってよぉ!!」

 

「……モンスターを残しておく理由はないから、戦闘破壊した……ですよね?廻理さん」

 

「イグザクトリー。リンクモンスターとか残しても高リンクになるだけだしね」

 

 ベニアちゃんの落ち着いた声が、今はとても心地良い。

 彼女、普段の声は高いし明るいけど、こういうときは低めで静かなんだよね……。

 周りが喧しいときは、しっとりした声が耳に染みて鼓膜が溶けそうになっちゃうなぁ~。

 ……ベニアちゃんASMRの話は今はいいや。

 

「よぉしメインフェイズ2!儀式魔法【冥占術の儀式】を発動!

 手札・フィールドのモンスターをリリースし、墓地の占術姫儀式モンスターを儀式召喚する!

 場の【クローラー・デンドライト】と【星遺物―『星鎧』】をリリースし、儀式を執り行うよ!」

 

「墓地から儀式召喚ですってぇ!?」

 

 怪蟲が、鎧が、焚べられる。

 これなるは占いの姫のための儀式。

 捧げられた2体を対価に、冥府より占術姫は蘇る。

 

「深く、深く、暗闇を見渡す巫女よ。静かなる秘術に導かれ、冥府より蘇れ。

 儀式召喚、レベル9――――――」

 

 タロットカードが舞う。

 その隙間から燐光が灯り、ベールに包まれた女性の姿を結ぶ。

 

「巡り廻れ――――【冥占術姫タロットレイス】!!」

 

 降臨したのは、占術の巫女。

 高い背を伸ばし、銀色の腕を動かして、タロットレイスはカードを手繰る。

 

 冥占術姫タロットレイス

 レベル9/ATK1200

 

「……儀式使いとは珍しい。ヒョヒョヒョ、しかしそのカード、レベルに反して攻撃力は少々貧弱ですねぇ」

 

「その分効果は凶悪だよ!【タロットレイス】の効果発動!

 自分フィールドの裏側表示モンスターを任意の数だけ選び、表側守備表示に変更する。

 この効果により【シャドール・ビースト】をリバースし、その効果を発動!

 デッキから2枚ドローし、その後手札を1枚捨てるよ!」

 

 タロットレイスの指がゆらりと空を撫でれば、操られるように影糸の獣が起き上がる。

 そうして起きたビーストの糸はひとりでに蠢き、カードを引き寄せた。

 

「さらに墓地へ捨てた【ゴキポール】の効果で、デッキから【シャインブラック】を手札に加え、そのまま特殊召喚!

 それからレベル4の【応戦するG】と【シャインブラック】でオーバーレイ!」

 

「っ!エクシーズまで使いこなしますか!」

 

 手を前へ伸ばせば、地面に黒い渦が広がり、その中心に2体の黒虫が飲み込まれていく。

 

「エクシーズ召喚!ランク4!誘い廻れ!【フレシアの蟲惑魔】!」

 

 黒い渦から浮上するのは、ピンク色の髪の可憐な少女。

 あるいは……少女を真似た食虫花。

 フレシアの蟲惑魔は花のように、くすくすと微笑む

 

 フレシアの蟲惑魔

 ランク4/DEF2500

 

「それからフィールド魔法【天威無崩の地】を発動!

 カードを……全部伏せちゃえ!4枚伏せてターンエンドだよ!」

 

 廻理

 LP:4000

 手札:なし

 場:虫忍 ハガクレミノ

   冥占術姫タロットレイス

   シャドール・ビースト

   フレシアの蟲惑魔

   影霊の翼 ウェンディ

 伏せ:4枚

 魔法・罠:天威無崩の地

 

「ヒョヒョヒョヒョ……壮観ですね?

 リンク、儀式、エクシーズが揃い踏みとは。恐ろしいものですねぇ」

 

 男がボクの場に視線を向ける。

 その目は濁っていて、酷く嘘くさかった。

 

「あははっ、思ってもないことを言っちゃってさぁ。

 “どうにでもなる”って本心が透けて見えるよ?」

 

「これはこれは。ヒョヒョヒョ、中々どうして手厳しい。

 どうやらキミは、私(あたし)が思っている以上に修羅場を潜ってきているようだ」

 

 そう言って、男は薄ら笑いを浮かべる。

 

「しかぁし、私(あたし)も殺人に手を染めたりと修羅場を潜ってきていますからね?

 キミのような子どもは、軽く捻り潰して、惨たらしく殺してやりましょう。

 ヒョヒョヒョ……キミみたいな可愛らしい子どもをいたぶり殺すのもまた一興……!」

 

 男が手を構える。

 それを合図に、1枚のカードが、露わになった。

 

「エンドフェイズ時にリバースカード発動!【裁きの天秤】!!」

 

「あっ」

 

「さ、【裁きの天秤】ですって……!?」

 

 そのカードを見て、思わず頭を抱える。

 発動されたのは、思いつく限りの最悪に近い罠だった。

 

「ベ、ベニアちゃん……っ?廻理くん、固まっちゃたけど、アレってそんなに大変なカードなの……?」

 

「……【裁きの天秤】は、相手フィールドのカードの数が、自分の手札・フィールドのカードの合計より多い場合、その差の数だけドローするトラップです」

 

「えっ?と、ということは……っ!?」

 

「ヒョヒョヒョヒョ!威月さんは察しがいいですね!

 そこのキミの場のカードは10枚!私(あたし)の場と手札のカードは計5枚!

 よって5枚ドローしますよぉ!!」

 

 強欲な壺2.5枚分の大量ドロー。

 その有様を見て、威月ちゃんが青ざめる。

 

「そんな……廻理くんの場に異様な数のカードがあったばっかりに……っ」

 

「……あははっ!計算通りさ!」

 

「廻理さぁーん!絶対ウソじゃないですか廻理さぁぁぁーん!!」

 

 えぇいそんなこと言われたってしょうがないじゃないかこんなの。

 ボクだって分かってたら何が何でも破壊してたよ全く。

 

「ヒョヒョヒョヒョヒョ!お陰様で手札がたくさん増えましたね?

 感謝しかありませんよ、紫髪のキミぃ!

 私(あたし)のターン、ドロー!」

 

「ちくしょう!【タロットレイス】の効果発動!

 自分フィールドの表側表示モンスターを任意の数だけ選び、裏側表示にする!

【タロットレイス】【ウェンディ】【シャドール・ビースト】を裏側表示に!」

 

「ヒョヒョヒョ!再びリバース効果を発動するつもりですかね?

 でしたら、発動させないように除去して差し上げましょう!

 【ゼンマイネズミ】を召喚し、手札の【ゼンマイシャーク】の効果発動!

 ゼンマイと名のついたモンスターが召喚・特殊召喚された時このカードを手札から特殊召喚しますよ!」

 

 ゼンマイネズミ

 レベル3/ATK600

 

 ゼンマイシャーク

 レベル4/DEF1300

 

「さらに永続魔法【ゼンマイマニュファクチャ】の効果発動ですよ!

 1ターンに1度、ゼンマイと名のついたモンスターの効果が発動した場合、デッキからゼンマイのモンスターを手札に加えます!

 これにより私(あたし)はデッキから【ゼンマイシャーク】を手札に加えましょうかねぇ!」

 

「そっちがサーチならこっちはドローだ……!フィールド魔法【天威無崩の地】の効果発動!

 1ターンに1度、自分の場に効果モンスター以外のモンスターが存在し、相手が効果モンスターを特殊召喚した場合、デッキから2枚ドローする!」

 

「ヒョヒョヒョ!リカバーしてきますねぇ!

 しかし無駄!なにもかも無駄!【ゼンマイネズミ】の効果発動!

 このカードを守備表示にし、墓地の【ゼンマイマジシャン】を特殊召喚ですよぉ!」

 

「【ゼンマイマジシャン】……!来るか!」

 

「ヒョヒョヒョヒョヒョ!まずは【ゼンマイシャーク】の効果発動!このカードのレベルを1下げますよ!

 そして【ゼンマイマジシャン】の効果発動!ゼンマイと名のついたモンスターの効果が発動した場合、デッキからゼンマイと名のついたモンスターを特殊召喚します!」

 

「ここだ!【フレシアの蟲惑魔】の効果発動!

 エクシーズ素材を取り除き、デッキの【蟲惑の落とし穴】を墓地へ送って効果をコピー!

 このターンに特殊召喚されたモンスターの効果を無効にし破壊する!

 蟲惑に落とせ!ゼンマイの魔術師を喰らい尽くせ!」

 

 ゼンマイマジシャンが杖を構える……と同時に、フレシアがくすりと笑う。

 するとゼンマイの魔術師の足元に大穴が開き、そこから巨大な蜘蛛が這い出してくる。

 蜘蛛、あるいは蟲惑魔は俊敏な動作でゼンマイを絡め取り、穴の中へと引きずり込んでいった。

 墜ちた魔術師の末路は……穴から鳴る玩具が壊れるような音が、なによりも雄弁に語っているだろう。

 

「【ゼンマイマジシャン】が破壊されましたか。しかぁし!この程度で終わりはしませんよ!

 レベル3の【ゼンマイシャーク】と【ゼンマイネズミ】でオーバーレイ!」

 

 黒い渦が広がり、2体のゼンマイが飲み込まれていく。

 そうして浮上するのは、ゼンマイ仕掛けの巨大空母。

 

「エクシーズ召喚!ランク3!【発条空母(ぜんまいくうぼ)ゼンマイティ】!!」

 

 発条空母ゼンマイティ

 ランク3/ATK1500

 

「出されたか、ゼンマイのエンジン……!」

 

「ヒョヒョヒョヒョヒョ!効果はご存知のようですね!

 【発条空母ゼンマイティ】の効果発動!

 このカードをエクシーズ素材を取り除き、デッキからゼンマイモンスター、【ゼンマイニャンコ】を特殊召喚!

 さらに手札から2枚目の【ゼンマイシャーク】の効果を発動し、このカードを特殊召喚しますよ!」

 

 甲板からゼンマイ仕掛けの猫が降り立つ。

 その傍で、海面から跳ねるようにゼンマイの鮫が出現する。

 

「さらに【ゼンマイニャンコ】の効果を発動!

 相手フィールドのモンスター1体を手札に戻しますよ!

【タロットレイス】には手札に戻ってもらいましょうかね!」

 

「バウンスされるくらいなら使うか……!トラップ発動、【ハイレート・ドロー】!

 自分フィールドのモンスターを2体以上の任意の数だけ破壊し、破壊したいモンスター2体につき1枚ドローする!

【タロットレイス】と【ウェンディ】を破壊し1枚ドロー!」

 

「サクリファイスエスケープ……いや、これは……!?」

 

「【ハガクレミノ】と【ウェンディ】の効果発動!

 墓地の【クローラー・デンドライト】を特殊召喚!

 さらにデッキからシャドールモンスター【影依の炎核(ヘルシャドール) ヴォイド】を裏側表示で特殊召喚だよ!」

 

 占術の巫女と影の巫女が消える、その間際。

 2人の巫女は最後の抵抗とばかりに、怪蟲と炎の塊が残していってくれた。

 

「数がとんと減りませんねぇ……なら、全滅するまで続けましょう!

 魔法(マジック)カード【巻きすぎた発条(ぜんまい)】を発動!

 墓地に存在するゼンマイと名のついたモンスター、【ゼンマイマジシャン】を守備表示で特殊召喚ですよ!

 それから【ゼンマイニャンコ】と【ゼンマイシャーク】をリンクマーカーにセット!

 2体目の【発条補修ゼンマイコン】をリンク召喚しますよぉ!」

 

 藍色の門から、再びゼンマイが現れる。

 これは……無理だな。最低でもあと2体はバウンスされる。

 

「【ゼンマイコン】の効果を発動しデッキから2枚目の【ゼンマイマニュファクチャ】を手札に加え、そのまま発動しますよぉ!

 それから【ゼンマイマジシャン】の効果を発動して、デッキから2枚目の【ゼンマイニャンコ】を特殊召喚!

 ヒョヒョヒョヒョ!【ゼンマイニャンコ】の効果発動!【影依の炎核 ヴォイド】を手札に戻しますねぇ!」

 

 ゼンマイが回り、猫が鳴く。

 その一鳴きで、炎の塊はボクの手札へと消えてしまった。

 

「まだまだまだ!ヒョヒョヒョ!【ゼンマイマニュファクチャ】の効果を使い、デッキから3枚目の【ゼンマイシャーク】を手札に!

 【ゼンマイコン】の効果発動!場のゼンマイモンスター1体を裏側表示で除外し、同名モンスターをデッキから特殊召喚する。

 私(あたし)は【ゼンマイマジシャン】を除外し、2枚目の【ゼンマイマジシャン】を特殊召喚ですよ!

 これにより手札の【ゼンマイシャーク】の効果が発動し、このカードが特殊召喚されます!」

 

「スゲェぜ兄貴!なにやってんのか分かんねぇけどなんかモンスターが増えてやがる!」

 

「本当になにが起きているの……っ!?」

 

 目まぐるしく盤面に歓声を上げる取り巻きと、戸惑う威月ちゃん。

 だが、まだ終わらない。まだ、【ゼンマイマジシャン】の効果が使われていないのだから。

 

「ヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ!【ゼンマイマジシャン】の効果によりデッキから3枚目の【ゼンマイニャンコ】特殊召喚!

 それから【ゼンマイニャンコ】の効果で、【シャドール・ビースト】を手札に戻しますよぉ!!チェーンはありますかねぇ!?」

 

「……残念ながら、今使えるカードはないね」

 

「それは残念ですね!では【ビースト】をバウンスしますよ!

 さらに【発条補修ゼンマイコン】と【ゼンマイニャンコ】をリンクマーカーにセット!

 リンク召喚!リンク3!【トライゲート・ウィザード】!!」

 

 トライゲート・ウィザード

 リンク3/リンクマーカー:上 左 右/ATK2600

 

「そして今召喚した【トライゲート・ウィザード】と、【ゼンマイニャンコ】をリンクマーカーにセット!」

 

「っ!?せっかく出したモンスターをリンク素材に……っ!?」

 

「出た!兄貴の連続リンク召喚だ!」

 

 夜空に藍色の門が展開され、電子の魔術師とゼンマイの猫が組み込まれる。

 すると門の向こうから、大気を震わすようなエンジンの音が響いた。

 なにか、来る。巨大で、重たいなにかが。

 瞬時に身構えれば、はたして門から、それは姿を表す。

 

「リンク召喚!リンク4!爆ぜ潰してやりなさい!【揚陸群艦アンブロエール】!!」

 

 それが着地すれば、アスファルトが割れた。

 その重量で、辺り一帯が揺れた。

 

 そのモンスターはそれくらい巨大で、重く。

 鋼鉄でできたクジラの揚陸艦だった。

 

 揚陸群艦アンブロエール

 リンク4/リンクマーカー:左 右 下 左下/ATK2600

 

「ヒョヒョヒョ!【揚陸群艦アンブロエール】の攻撃力は、互いの墓地のリンクモンスターの数かける200アップしますよ!」

 

「墓地には廻理さんの【ピコファレーナ】さんと、アイツの【ゼンマイコン】2体に【トライゲート・ウィザード】がいますから……」

 

「……800アップして3400か」

 

「攻撃力3000オーバーっ!?」

 

「ヒョヒョ!ヒョヒョヒョヒョ!さぁ恐れ慄きなさい!けれど、まだ終わりませんがね!

 レベル4の【ゼンマイマジシャン】と【ゼンマイシャーク】でオーバーレイ!

 エクシーズ召喚!ランク4!【発条機甲(ぜんまいきこう)ゼンマイスター】!」

 

 発条機甲ゼンマイスター

 ランク4/ATK1900

 

「【ゼンマイスター】の攻撃力はエクシーズ素材の数かける300アップしますよ!

 さらにリバースカードオープン!【螺旋式発条】!

 自分フィールドの攻撃力1500以上のゼンマイと名のついたモンスターをリリースし、手札からゼンマイと名のついたモンスターを特殊召喚!

 その後、この効果で特殊召喚したモンスターと同じ攻撃力を持つゼンマイと名のついたモンスターをデッキから特殊召喚ですよ!

 私(あたし)は【発条空母ゼンマイティ】をリリースし、手札の【ゼンマイドッグ】とデッキの【ゼンマイウォリアー】を特殊召喚!」

 

 ゼンマイ仕掛けの空母が砕け、甲板から2体のゼンマイが飛び出す。

 

 ゼンマイドッグ

 レベル3/DEF900

 

 ゼンマイウォリアー

 レベル4/DEF1800

 

「【ゼンマイドッグ】の効果!このカードのレベルを2つ上げ、攻撃力を600ポイントアップ!

【ゼンマイウォリアー】の効果!このカードのレベルを1つ上げ、攻撃力を600ポイントアップ!

 そして!レベル5となった【ゼンマイドッグ】と【ゼンマイウォリアー】でオーバーレイ!」

 

 黒い渦が、またもや開かれる。

 その中心からはゼンマイを巻く音が鳴り、やがてそれは浮上する。

 

「エクシーズ召喚!ランク5!巻き上げなさい!【発条装攻ゼンマイオー】!!」

 

 現れたのは、ゼンマイ仕掛けの巨大ロボ。

 色とりどりの装甲に身を包んだ、玩具みたいなゼンマイ兵器。

 ゼンマイオーは両の目を輝かせ、ヒーローのようにボクを睨んだ。

 

「ヒョヒョヒョヒョヒョ!どうです格好いいでしょう!

 そう思いませんか紫髪のキミぃ!男の子は巨大ロボが大好きですからね!」

 

「格好いいとは思うよ。でもボクの趣味じゃないね。

 ボク、ロボよりカブトムシとかのが好きだし」

 

「ヒョヒョ!つくづくキミとは気が合いませんねぇ!

 まぁいいでしょう。手札から【死者蘇生】を発動!

 墓地の【トライゲート・ウィザード】を特殊召喚しますよ!」

 

 電子の魔術師が蘇り、揚陸艦の上に降り立つ。

 これで、ヤツの場には4体のモンスター。

 どいつもこいつも図体が大きくて、壁みたいに圧力をかけてくる。

 

「墓地のリンクモンスターが減ったことで【アンブロエール】の攻撃力は200ダウンしますねぇ……」

 

 揚陸群艦アンブロエール

 ATK3400→3200

 

「まぁそれでも3200なので構いませんがね。

 さらに【トライゲート・ウィザード】の効果。このカードと相互リンクしているモンスターが相手モンスターと戦闘を行う場合、そのダメージを倍にしますよ。

 ヒョヒョヒョ!これでキミの【ハガクレミノ】を殴れば……どうなりますかね?」

 

「【ハガクレミノ】の攻撃力は1000……っ!?

 4400ダメージで、一気に削りきられちゃうっ!?」

 

「おぉ!スゲェぜ兄貴!そんだけダメージを与えたらミンチになっちまうぜぇ!!」

 

 ゲラゲラと取り巻きの男たちが笑う。

 目の前の男も、ヒョヒョヒョと気持ち悪く笑っている。

 やかましい嘲笑はボクに浴びせかけられ、やがてその矛先は後ろで震える少女へ向けられた。

 

「ヒョヒョヒョ……にしてもキミは可哀想ですねぇ……?」

 

「なにがさ」

 

「威月さんに関わってしまったばかりに、殺されてしまうんですから……それを可哀想と言わずになんといいますか?」

 

「っ!?」

 

 背後から、息を呑む音が聞こえた。

 

「威月さんさえいなければ、キミはこんな目に遭わなかったのに。

 威月さんさえいなければ、こんな命がけのデュエルに巻き込まれなかったでしょうに」

 

 ぺらぺらとよく回る口だ。

 だがその口から出る言葉は、普通の少女を突き刺し抉るには充分だったらしい。

 

「っ、私……私は……っ!」

 

「そもそも威月さんがいなければ、貴方の勇敢で優しい父親は、あんなにも惨たらしく死ぬことはなかったのです。

 そう、貴方がさっさと私(あたし)のモノにならなかったから、あの父親は死んだのです!

 まったくなんて親不孝な疫病神なのでしょう!貴方はなにもかも間違っているのですから!」

 

 後ろを見れば、頭を抱えて歯を鳴らす少女の姿があった。

 ベニアちゃんが寄り添って必死に背中を撫でているが、威月ちゃんの震えは止まらない。

 

「貴方さえいなければ!貴方さえいなければ!貴方さえいなければ!

 貴方のせいでみんなが不幸になる!貴方のせいでみんなが死んでいく!」

 

「わ、私の……せい……?」

 

「そうです!すべては貴方のせいです!あぁ可哀想に!貴方さえいなければ――――――」

 

「――――いやぁ悪いのは全面的にお前らでしょ」

 

 そろそろ聞くに耐えないので、ボクも口を開く。

 

「威月ちゃんの父親を殺したのはお前らだし、威月ちゃんの人生を滅茶苦茶にしたのもお前らだ。

 0対100で悪いのは全部お前だと思うけど?」

 

「ヒョヒョヒョ。しかし、威月さんさえ私(あたし)のモノになっていれば、こんなことには……」

 

「脅迫、器物損害、ストーカー、業務妨害、殺人……こんだけやっといてよく責任転嫁できたもんだよ」

 

 裁判にかければ5秒で有罪だ。

 司法に明るくはないが、まぁ死刑が妥当じゃないかな。

 

「ヒョヒョヒョヒョ!ですが、威月さんがほんのちょっとも悪くないと、キミは言えるんですか?」

 

「言えるよ。ボクには威月ちゃんのなにが悪いのか、さっぱり分からないね」

 

 思わずため息が漏れる。

 この手のヤツはこういうところがいけない。

 

「やったヤツが悪い。もう全部マジでお前が悪い」

 

「言いますねぇ。ヒョヒョヒョ!ですが、威月さんはそう思っていないようですよ?」

 

 びくり、威月ちゃんの方が跳ねる。

 彼女はうずくまるように座り込んで、涙で濡れた瞳を揺らしていた。

 

 言葉はない。

 あるのは、しゃくりあげるのを抑える音だけ。

 

「わたし、は……っ」

 

「威月ちゃん。キミはちょっと勘違いしてるね」

 

 精一杯安心せようと、不敵に笑ってみせる。

 

「デュエルはまだ終わってない。あと、ボクは負けないよ?」

 

 そう、まだなにも終わってないのだ。

 まだ、ボクはアイツをぶちのめしてない。

 まだ、ボクはアイツに勝ってない。

 

 まだ――――折れるには早すぎる。

 

「口論に意味はないよ。勝ったやつの主張が正しいんだから。

 で、ボクは絶対に負けないから、間違ってるのは全面的にアイツらさ」

 

「ヒョヒョヒョ!言ってくれますね!

 では!キミを威月さんの目の前で見るも無惨に殺し、その心を完全に砕いてやりましょう!」

 

 男が声を上げ、ディスクを構え直す。

 ボクもまた、男に向き直りディスクを構える。

 

「そうそう、威月ちゃんに頼みたいことがあってさ」

 

 優しく、柔らかく、明るい声で。

 怯える彼女へ、投げかける。

 

「ボクにお願いしてくれないかな?キミのおかげで、勝ちたいから」

 

 ボクの力で勝ったって、きっと意味はない。

 これは彼女の問題で、ボクは首を突っ込んでるだけなんだから。

 

「お願いって……っ、なにを……」

 

「なんでもいいよ。キミの望むことなら、なんでも」

 

 依頼主の望むことをなんでもする。

 それが、ボクだ。

 ボクは、人権のない、奴隷デュエリストだ。

 だから――――――――

 

「……………………勝って」

 

 だから、やる。

 

「アイツに、勝ってっ!私を助けてっ!負けないでっ!頑張ってっ!!」

 

 勝つし、助けるし、負けないし、頑張る。

 

「お願いっ!お父さんの無念を……私の無念を、晴らしてっ!!」

 

「あははっ!あはははははっ!!オーダー承ったよ威月ちゃん!!

 遊針廻理はキミの武器となって、キミの依頼を果たしてみせるさ!!」

 

 笑って見せる、笑ってやる。

 高らかに、獰猛に、自信げに。

 依頼主(威月ちゃん)のために、笑って、戦う。

 

「ヒョヒョヒョヒョ!威勢がいいですね!

 しかし、状況はなんにも変わりませんよ!」

 

「あははっ!キミは知らないのかな!

 男の子は、女の子の声援ひとつで無限に頑張れるのさ!」

 

「ヒョヒョ!そんな根性論が役に立つものですか!

 現実を知りなさい!【発条装攻ゼンマイオー】の効果発動!

 エクシーズ素材を1つ取り除き、セットされたカード2枚を破壊しますよ!」

 

 ゼンマイが回り、巨大ロボが動き出す。

 ゼンマイオーは右手のドリルを回転させ、玩具みたいなカクついた動作で、ボクに向けてそれを振り下ろす。

 

「廻理くんっ!」

 

「廻理さん!!」

 

 威月ちゃんとベニアちゃんが声を上げる。

 不安の混ざった声。

 でも、その声の大部分は不安なんかじゃなくって。

 

「頑張ってっ!!」

 

「かましてやってください!!」

 

「あははははははっ!もちろんだよ!

 リバースカードオープン!」

 

 期待と信頼の声に応えるように、カードを発動させる。

 使うのは、どちらもゼンマイオーの対象にされたカード。

 

「速攻魔法【星遺物を巡る戦い】!【皆既月蝕の書】!」

 

「なんですって!?」

 

 瞬間、すべてのゼンマイが沈黙した。

 

「ますは【皆既月蝕の書】の効果!手札を1枚捨て、【発条装攻ゼンマイオー】と【発条機甲ゼンマイスター】を裏側表示に!

 さらに【星遺物を巡る戦い】の効果!自分フィールドのモンスター1体をエンドフェイズまで除外し、相手のモンスター1体の攻撃力・守備力を除外したモンスターのそれぞれの数値分ダウンさせる!

 【ハガクレミノ】を除外し、【アンブロエール】の攻撃力を1000ポイントダウンさせるよ!」

 

 欠けたような、淡い月光が降り注ぎ、この葉が舞う。

 それは魔法か、忍術か。

 巨大ロボたちはゼンマイが切れたように停止し、クジラの揚陸艦は異音と共に黒煙を吐き始める。

 

「ぐぅ……!なんと、しぶとい……!これでは、このターンで殺せないではありませんか!」

 

「あははっ!あれだけ大口叩いておいてこのザマだなんてね!

 さぁどうするんだい?どうやってメンツを保つつもりかな?」

 

「この……!言わせておけば……!

 でしたらお望み通り叩き潰してやりますよ!

 バトルフェイズ!【アンブロエール】で【クローラー・デンドライト】を攻撃!」

 

 クジラの艦が重い音を立て、砲身を怪蟲へ向ける。

 砲弾が放たれれば、デンドライトに為す術もなく粉々になるだろう。

 

「トラップ発動――――――――」

 

 当然、そんなことをさせるつもりはない。

 ここだ。ここで、コイツの首にロープを巻いてやる。

 

「――――【マジカルシルクハット】!!」

 

 3つのシルクハットが現れ、デンドライトの姿を隠す。

 その様は、タチの悪い手品みたいで。

 

「マジカルシルクハットですって……!?」

 

「効果はご存知かな?【マジカルシルクハット】はデッキの魔法・罠カード2枚と、自分のモンスター1体をシャッフルしてセットするよ。

 ボクは【デンドライト】をシルクハットに隠して……あと2枚はなににしようかな?

 うーん……まぁこれでいっか」

 

 そう言って、ボクは男に2枚のカードを見せてあげる。

 

「はい、【歯車街(ギア・タウン)】2枚をセット」

 

「ギア……タウン……!?あ、あぁ、ああああああああああああああああ!?!?」

 

 あぁ、きっとコイツは、これからなにが起こるのか理解してしまったのだろう。

 可哀想に。頭を抑えて絶叫していらっしゃる。

 

「あ、兄貴……!?どうしちまったんだよ兄貴ぃ!?」

 

「ぐ、ぁ、ああ……!バトルフェイズを終了……いえ、駄目です……!

 【アンブロエール】も【トライゲート・ウィザード】も攻撃力は2200……!

 【フレシア】も超えられない…………なら、駄目元で【デンドライト】しか……!!

 くう……!【アンブロエール】と【トライゲート・ウィザード】で、シルクハットを攻撃……!!」

 

 迷いながら下された命令に、揚陸艦と魔術師は従いシルクハットを破壊する。

 3分の1でデンドライト。それ以外はハズレ。

 自らの運の良さがものを言うが……。

 

「あははっ!残念大ハズレ!破壊されたのはどちらも【歯車街】!

 そして【歯車街】の効果発動!!デッキからアンティーク・ギアを特殊召喚する!」

 

 破れたシルクハットの中から、歯車が、そして巨大な竜が飛び出す。

 歯車仕掛けで残酷な、2匹の機械竜が。

 

「さぁ、おいで!【古代の機械熱核竜(アンティーク・ギア・リアクター・ドラゴン)】!!」

 

 古代の機械熱核竜

 レベル9/ATK3000

 

 古代の機械熱核竜

 レベル9/ATK3000

 

「こ、攻撃力3000……!?」

 

「それが、2体も……!?」

 

 夜空を舞う2体の機竜に、取り巻きたちがざわめきだす。

 熱核竜も調子に乗ってレーザーを吐いたりするものだから、騒がしさは増すばかり。

 

「さて、まだやることはあるかな?」

 

「ッ!」

 

 微笑みかけてやれば、男は一歩後退りをした。

 濁った目には明確な恐れが浮かび、ボクを見ては揺れている。

 

「やーい!ビビってるんですかぁー!威月さんに散々イキり散らしといてビビってんですかぁーーーー!!ホントにしょうもない男ですねぇーーーーッ!!」

 

 その様子を目ざとく見ていたベニアちゃんが、声を張り上げて煽りまくる。

 あはははっ。あっ、ヤバ、素で笑っちゃった。

 

「この……ガキが……!言わせておけば……!!

 カードを伏せてターンエンドですよ……!!」

 

「エンドフェイズに【星遺物を巡る戦い】で除外されてた【ハガクレミノ】が帰ってくるよ」

 

 病的な男

 LP:4000

 手札:2枚

 場:揚陸群艦アンブロエール

   トライゲート・ウィザード

   ???(発条機甲ゼンマイスター)

   ???(発条装攻ゼンマイオー)

 伏せ:1枚

 魔法・罠:ゼンマイマニュファクチャ

      ゼンマイマニュファクチャ

 

「覚悟しなさい……!紫髪のガキを殺したら、次は貴方をぶち殺してやりますからね……!!」

 

 眉間にあらん限りのシワを寄せ、分かりやすく怒りを滲ませて。

 男がベニアちゃんを脅しつける。

 けれど彼女はきょとんとすっとぼけて、首を傾げた。

 

「…………次なんて、あるんですか?」

 

「あははっ!当然ないよ!」

 

 デッキに指をかけ、軽く目を閉じる。

 暗闇の中で、冷たく浮かぶような高揚感をいっぱいに感じて……

 

「ここが生きるか死ぬかの瀬戸際。

 ボクが展開しきれればボクの勝ち。

 お前が妨害しきれれば延命だ」

 

「ハッタリを……」

 

「だと思うなら、指を咥えてそして死ね」

 

 目を、開く。

 これから刈り取られる命を見据える。

 

「あははっ!ボクのターン、ドロー!

 まずは【デンドライト】を反転召喚しリバース効果発動!

 デッキから【機怪神(デウス)エクスクローラー】を墓地へ送るよ!」

 

「調子に、乗らないでくださいよ……!

 教えて差し上げますが【アンブロエール】には破壊時に墓地のリンクモンスターを蘇生する効果と、墓地にいる状態で場のリンクモンスターが破壊された場合、場のカードを破壊する効果があります!

 貴方みたいなガキが、そう簡単に私(あたし)を倒せるものですか……!!」

 

「そうかい!だったら【アンブロエール】の効果は一切使わせないよ!

 【デンドライト】と【フレシアの蟲惑魔】をリンクマーカーにセット!」

 

 蟲惑魔が微笑い、怪蟲が這って、藍色の門に組み込まれる。

 

「召喚条件は地属性モンスター2体!

 リンク召喚!リンク2!【崔嵬の地霊使いアウス】!」

 

 崔嵬の地霊使いアウス

 リンク2/リンクマーカー:左下 右下/ATK1850

 

「さぁ!【崔嵬の地霊使いアウス】の効果発動!

 相手の墓地の地属性モンスター1体をこのカードのリンク先に特殊召喚する!

 ボクはお前の【ゼンマイニャンコ】を持ってくるよ!」

 

「そっか……【ゼンマイニャンコ】には、相手の場のモンスターを戻す効果があります……!

 これで【アンブロエール】をバウンスすれば、諸々の厄介な効果は発動しません!」

 

「そういうこと!これがホントの借りてきた猫ってね!!」

 

「は?」

 

「馬鹿が!リバースカード発動!カウンタートラップ!【直通断線(シャットライン)】!

 【アウス】の効果の発動を無効にし破壊しますよぉ!!」

 

 アウスが杖を振るおうとしたそのとき。

 霊使いはいともたやすく砕かれてしまった。

 

「ヒョヒョヒョヒョ!!残念!残念でしたね!!

 クソガキの分際で私(あたし)に勝とうなんて百万年早いんですよ!!

 ヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ!!」

 

「あははっ!バカみたいに笑う前にフィールドをよく見たほうがいいんじゃないかな?

 具体的にはそう、リンクマーカーの向きとかさ」

 

「ヒョ?なにを言って…………あぁっ!?」

 

 男が目を見開く。

 その先にいるのは……ハガクレミノ。

 リンクマーカーが示すのは、先程までアウスが居た場所。

 

「【ハガクレミノ】の効果発動!このカードのリンク先のモンスターが破壊された場合、墓地からレベル4以下の昆虫族を特殊召喚する!戻っておいで!【クローラー・デンドライト】!

 さらに破壊された【アウス】の効果で、デッキから【クローラー・グリア】を手札に加えそのまま通常召喚するよ!」

 

 霊使いのあとには、赤黒い触手を蠢かせた怪蟲が2匹。

 そして頭上には、幾何学模様の藍色の門。

 ボクは門を指さして、告げる。

 

「ボクは【クローラー・グリア】と【クローラー・デンドライト】をリンクマーカーにセット!

 召喚条件はクローラーモンスター2体!」

 

 2匹のクローラーが門へと飛び込み、呼び水となる。

 呼び出すは、機怪蟲(クローラー)が感覚質。

 

「心持たぬ機怪蟲よ。繋がり伝い、群れを成して不幸を招け!

 リンク召喚!リンク2――――――!」

 

 ずるり。這い出すは、神経に似た赤黒い触手の塊。

 赤い光を灯したおぞましきモノ。

 心もない、感情もない、無慈悲なる怪蟲。

 

「――――這いずり廻れ!【エクスクローラー・クオリアーク】!!」

 

 怪蟲は門から這い出し、夜空を漂う。

 ぎょろぎょろと蠢く目のような器官は、地上の男を見据える。

 クオリアークのその目には、ただひたらすらな虚無だけがあった。

 

 エクスクローラー・クオリアーク

 リンク2/リンクマーカー:左下 右下/ATK2000

 

「なんですか……その気持ち悪いモンスターは……!?」

 

「あははっ!酷い言いようだねぇ!けど、クオリアークばっか見てたら火傷するよ!

 墓地の【星遺物の交心】の効果発動!このカードを除外し、手札・デッキ・墓地のクローラーモンスター1体を裏側表示で特殊召喚する!」

 

「なっ!?そんなカードいつ…………まさか、羽根箒で破壊した伏せカードですか!?」

 

「ご明答!これにより墓地から【クローラー・グリア】を蘇生!

 さーらーに!前のターンで【皆既月蝕の書】のコストにした【ADチェンジャー】の効果発動!

 このカードを除外し、【グリア】の表示形式を変更!でもって【グリア】のリバース効果!

 墓地のクローラー、【機怪神エクスクローラー】を特殊召喚!!」

 

 クローラー・グリア

 レベル2/ATK700

 

 機怪神エクスクローラー

 レベル9/ATK2000

 

「【クオリアーク】の効果!クローラーが2体以上いる場合、自分フィールドのモンスターのステータスを300アップする!

 でもって【グリア】と【ハガクレミノ】をリンクマーカーにセット!

 リンク召喚!リンク2!廻れ!【エクスクローラー・ニューロゴス】!!」

 

 這い出すは、クローラーの神経がひとつ。

 神経細胞の名を冠するモノ。

 ニューロゴスは細長い身体をもたげ、赤い光を点灯させる。

 

 エクスクローラー・ニューロゴス

 リンク2/リンクマーカー:左 右/ATK1900→2200

 

「ラスト!フィールド魔法【星遺物に差す影】を発動!

 その効果により、手札から【クローラー・レセプター】を特殊召喚!

 【差す影】の効果!フィールドのクローラーのステータスを300アップさせる!

【クオリアーク】と【ニューロゴス】もバフをかけられるから、みんなの攻撃力は……」

 

エクスクローラー・クオリアーク

ATK2000→2300→2600

 

エクスクローラー・ニューロゴス

ATK1900→2200→2500

 

機怪神エクスクローラー

ATK2000→2300→2600→2900

 

クローラー・レセプター

DEF1200→1500→1800

 

古代の機械熱核竜

ATK3000→3300

 

古代の機械熱核竜

ATK3000→3300

 

「よし!充分な暴力だね!というわけで死ぬがいいさ!バトルフェイズ!」

 

「く、くぅ……!く、く、くく……ヒ……」

 

 怪蟲と機竜の群れが蠢く。

 その犠牲者となる男は、顔を手で覆っていた。

 手で隠れて表情は伺えない。

 だが、このとき、あの男は……確かに、笑った。

 

「ヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ!!馬鹿め!!

 墓地の【超電磁タートル】の効果!このカードを除外し、バトルフェイズを終了しますよ!!」

 

「…………最初の【手札抹殺】で墓地へ送っていましたか」

 

「そういうことですよクソガキぃ!!残念、残念、残念でしたね!私(あたし)を殺せなくて!!」

 

「と、思うじゃん?【クオリアーク】の効果!クローラーが4体以上存在する場合、相手はバトルフェイズ中に効果を発動できない!!」

 

「ヒョアァ!?!?!?」

 

 電磁壁が展開される。

 が、無駄。

 いとも簡単にあっけなく、男を守る最後の壁は無効化された。

 

「残念、残念、残念だねぇ!さぁ覚悟はいいかい!

 【ニューロゴス】で【ゼンマイスター】を、【機怪神エクスクローラー】で【ゼンマイオー】を攻撃!!」

 

 2匹の機怪蟲が疾駆し、停止したゼンマイを圧殺する。

 ぐしゃりと潰れたゼンマイたちは、アスファルトの上にパーツを散らし、無惨な姿に変わり果てた。

 

「ば、馬鹿な……こんな、はずでは……!!」

 

「お次は【熱核竜】!こっからはダメージが入るよ!」

 

「私(あたし)が、なにをしたっていうんですか!?ちょっと胸が大きくて面のいいメスを自分のモノにしようとしただけじゃないですか!?

 ちょっと父親を拉致ってリンチの末に殺害して生首を送りつけただけじゃないですか!?」

 

「だからだよ!【古代の機械熱核竜】たちで、【アンブロエール】と【トライゲート・ウィザード】を攻撃!喰らえっ!人格全否定ビーム!!」

 

 2機の熱核竜が大口を開き、紫色の閃光を放つ。

 その光は、超高熱の破壊光線。

 薙ぐように放たれた2本の光は、魔術師を、艦を舐め、遂には男たちを焼く。

 

「ぎゃあああぁぁぁああぁぁああああちぃぃぃいいいぃぃいぃ!?!?」

 

「あちぃいよぉぉおぉ兄貴ぃぃぃいたすけてくれぇぇぇえええぇぇ!?!?」

 

「あぁあああぁぁああぁあああぁぁぁぁあぁああああああッッ!?!?!?」

 

 火だるまになった男たちが、地面をのたうち回っている。

 明るく鮮烈な地獄絵図。肉の焼ける音と悲鳴の大合唱。

 その調べは煙と共に天へと登っていく。

 

 病的な男

 LP:4000→3100→2000

 

「ぐ、ぁぁ……あつぃ……!」

 

 焦げた取り巻きたちが地面で呻く中、男が立ち上がる。

 なかなかガッツがあるが、その実心はもう折れてるみたいだ。

 男からは一欠片の闘志も感じられなかった。

 

「つ、強い……貴方は、いったい……!?」

 

「ただのクズ奴隷デュエリストだよ。あー、『孤児院』って知ってる?」

 

「こ、『孤児院』!?まさか、あの悪魔どもの……!?」

 

 『孤児院』の名前を出した途端、男は分かりやすく怯え始める。

 

「ヒョ、ヒョ……どうか、許しては……くれませんかね……?」

 

「はぁ?なにを?」

 

 追い詰められて最後に出てくるのが命乞いか。

 なに言ったってボクのやることは変わらないが、まぁ聞くだけ聞いてやるかな、一応。

 

「私(あたし)を、殺すのを……!私(あたし)は、そこの女を殺せれば……満足なんです……!

 私(あたし)は……ただ……見てくれがいいメスを、拷問して、殺して……悲鳴を楽しみたいだけの……ちっぽけなヤツなんですよ……!」

 

「……………………」

 

 考えるまでもなく同情の余地はない。

 というかどう考えても同情の余地はない。

 

「どうか、私(あたし)という哀れな殺人鬼を、見逃してはくれませんかね……!

 キミの後ろにいるメスを殺したら……さっさと去るので……!!」

 

「ヤダよバーカ!死ね!【クオリアーク】でトドメ!!」

 

「そ、そんな……!この……人でなしがぁぁぁぁぁぁ!!!

 弱い者いじめがそんなに楽しんですかぁぁぁあああぁぁぁッ!!!!」

 

 叫ぶ男へ向けて、クオリアークの触手が振り下ろされる。

 鞭のように振り抜かれたそれは、男の身体を打ち、肌を裂く。

 

「ぎゃああぁぁっ!?ぎぃぃっ!?げぎゃっ!?ひぃぃいいぃぃいいい!!!」

 

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。

 触手は振り下ろされ、焦げた体表に赤い線を引いていく。

 

 何十回、触手を打つ音が鳴っただろうか。

 やがて男は立つこともできなくなり、倒れてしまった。

 

「お助け……おたすけ……を、ぉ……!!まだ、殺し、足り……ない……!!」

 

「あははっ!脳みそぶちまけて死にな!!

 殺れ!クオリアークッ!!」

 

 クオリアークが触手を構え直す。

 その先端の延長線上には、男の頭部。

 

 触手が槍のように放たれる。

 速く、速く、一直線に。

 風を切って、軽そうな頭めがけて。

 

「ぎゃああぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁあああぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 

 触手が深々と、突き刺さり、破壊音が轟く。

 ようやく、小うるさい絶叫は止んだ。

 

 病的な男

 LP:2000→0

 

 電子音がディスクから鳴り、デュエルの終わりを告げる。

 

「や、殺りました……!」

 

「いやいや、流石に殺ってないよ、ベニアちゃん」

 

「へ……?」

 

 呆けた様子のベニアちゃんを尻目に、男の方に視線を向ける。

 そこには、頭から0.5ミリのスレスレの場所に突き立てられた触手があった。

 

「ありゃりゃ、気絶してるね。でも、丁度いいお灸にはなったかな」

 

「……殺さなくて、良かったんですか?」

 

「いいよ、人殺しとか良くないし。それに、普通の女の子の前で殺人なんか見せられるわけないじゃん」

 

 ぐっと伸びをして、欠伸をする。

 それから軽く、倒れる男たちに向けて舌を出す。

 

「威月ちゃんに感謝するんだね。彼女がいなかったら、キミらはブタ箱じゃなくて地獄行きだったんだから」

 

 男共に吐き捨てるだけ吐き捨てて、ボクは踵を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はた迷惑な男たちをぶちのめして、ボクらは連中が動かないようにビニール紐で縛り上げていた。

 

「えへへ……!亀甲縛りで拘束してやります……!尊厳破壊です……!」

 

「おっ、いいねベニアちゃん。ボクもやろーっと」

 

「む、惨くないですか……っ?」

 

 そんなこんなでワイワイと、半壊したラーメン店の中で気絶した男たちを拘束していく。

 男たちはどいつもこいつも焦げてたり血まみれだったりと酷い有様だったが、とりあえず生きてはいるようだった。

 

「この人たち……大丈夫なんですか……っ?」

 

「まぁ大丈夫だよ。あとはセキュリティが逮捕のときに病院に連れてくだろうから、そこでちゃんと治してくれると思うよ」

 

 そう言うと、威月ちゃんは安心したように息をついた。

 

「あっ、すいません……っ!やってもらったのにこんな……っ!」

 

「いいよいいよ、私刑じゃなくて司法にしっかり裁いてもらいたいって思うのは良いことだし」

 

 ムカつくヤツを殺したらスッとするかもしれないが、誰もが誰も殺人を許容できるほどイカれちゃいない。

 というか、公的機関の手で公正に罪を突きつけ罰を与えるほうが何兆倍も健全だろう。

 

 結局、この威月という少女は、どこまでも普通の女の子なのだ。

 殺すなんて選択肢は取れないし、正義による正しい罰を求める。

 彼女は普通に、優しくて、真っ当で、健気で、健全な。

 そんな、普通の少女なのだ。

 

「さてと、ボクらのやることも終わったし、そろそろ行こうかな」

 

「了解です!ちょっと遅くなっちゃいましたね……!」

 

 ベニアちゃんを連れて、店を出る。

 その直前、ボクはまだお金を払ってなかったことを思い出した。

 はて、何円だったかな……分かんないし1200円全部置いてこ。迷惑料込だ。

 

「ごちそうさまでした。お冷とウーロン茶、美味しかったよ」

 

「ごちそうさまでした!今度はチャーハンとチャーシュー麺も食べに来ます!」

 

「あ、あのっ!」

 

 威月ちゃんに呼び止められ、思わず振り返る。

 

「ありがとうございましたっ!廻理くんとベニアちゃんのおかげで、本当に、本当にっ、助かりましたっ!!」

 

「ボクは適当にデュエルしただけだよ。あとちょっとやりすぎた感あるし」

 

「あ、あたしも……チャーハンを食べ損ねただけですし……」

 

 深々と頭を下げる威月ちゃん。

 そんな彼女の手には、なにかの紙切れが握られている。

 

「そのっ、お礼になるか分かんないですけどっ!よかったら、これ、どうぞっ!」

 

 威月ちゃんが顔を上げ、手の中の紙切れの束を渡してくる。

 

「これは……?」

 

「ラーメン無料券ですっ!今はこんなですけど、絶対にお店を立て直すので…………」

 

 それから彼女は、にっこりと笑う。

 

「是非とも、また食べに来てくださいっ!!」

 

 晴れ渡るように明るく、少しの曇りもない、満面の笑みだった。

 

「あははっ!じゃあ、リニューアルオープンしたらまた来るよ」

 

「あたしも、また来ます!今度はたらふく食べますよ!」

 

「はいっ!またのご来店をお待ちしておりますっ!!」

 

 威月ちゃんに見送られ、夜の『街』へ帰っていく。

 願わくば、彼女の居場所に幸せがありますように。

 あんなイカれ犯罪者に、二度と絡まれませんように。

 普通の女の子が、普通に過ごせますように。

 

 ……今度はボクもラーメン食べたいからね。

 

 なんてことを願いながら、ボクらは夜闇の中へと消えていった。

 

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