遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻 作:胡麻野すり子
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第3話 新人研修
裏デュエル界には、『孤児院』という組織がある。
それは、デュエルギャングに飼われている、人権のない子ども達で構成された集団。
親がいない、または親に捨てられたガキ共で作られている組織。
故に、『孤児院』。
もっとも、この場所で子どもが守られることはなく、命が尊重されることもないのだけど。
「痛たた………」
その『孤児院』のアジトである施設の広間で、ボクは椅子に座って、針に糸を通していた。
『孤児院』のアジトは、郊外の打ち捨てられた研究所を改築したモノになっている。
施設自体は十数年前に廃棄されたらしく、この場所に寄りつく人は誰もいない。
その上で、元は研究所だったということもあり、アジト自体はかなり広く、雨風を防ぐには快適と言えた。
要するに、この建築物はクズガキ共の巣として最適な物件なのだ。
で、そんな最適な巣で、なんだってボクは針に糸を通しているかというと………
「ちくしょう……【ハイパーサイコガンナー】め……!お腹に穴が開いちゃったよぉ……!」
あの女ボスとのデュエルで、ボクは【ハイパーサイコガンナー】のレーザーを受け、腹部を焼き切られていた。
その後は、カッコつけてなんともなさそうにベニアちゃんとデュエルしていたが、ぶっちゃけメチャクチャ痛いわけで。
というか、なんの処置もしなければ出血多量でボクは死んでしまうだろう。
「縫うのも痛いからヤなんだけどなぁ……」
とりあえず傷を塞がなければいけない。
そんなこんなで、ボクは自分の肉を縫い合わせようと、裁縫針に糸を通そうとしていた。
「………お疲れ、さま。廻理くん」
そうしてなかなか通らない糸に苦戦していたとき、ふと声をかけられた。
落ち着いていて、そして柔らかな印象を覚える声だ。
声のしたほうには、ふわふわとした少女がいた。
白とピンクで彩られた、フリル付きのドレスを着こなす17歳ほどの女の子。
ロリータ・ファッション、というのだっただろうか。
過剰なまでにフリルとレースで飾られたソレは、まるで童話から飛び出してきたかのようで。
「珍しい、ね。怪我、しちゃったんだ」
そう言って少女は、儚げな薄紅の髪を揺らして、こちらに歩いてくる。
穏やかに細めた紫の目でまっすぐにボクを見つめて。ヒールの音を鳴らして。
「あはは……ちょっとしくじってさ、
そう答えれば、童話めいた少女──
殺那は、『孤児院』で最も仲のいい友人だ。
ボクと同時期に『孤児院』に入ってきて、そして今まで生き残っている、大切な友達。
まぁ、他の同期がみんな
そんなことを考えながら殺那を見ていると、彼女は両手を口元に添えて、目を細めた。
「ふふっ。何に、やられたの?」
「んー、【ハイパーサイコガンナー】」
「あぁ、守備貫通、されたんだ。廻理くん、そういうのに、弱いもんね」
言いながら、殺那はボクのシャツを捲り、傷の状態を確認してくる。
「穴、開いてるね。痛い?」
「めっちゃ痛い」
「ふふっ。じゃあ、私が、縫って、あげるね?」
そう言って殺那はボクの手から針と糸を奪う。
そのまま彼女は流れるように、慣れた手付きで糸を通した。
「あはは。ありがとうね、殺那」
「いいよ。廻理くん、裁縫、得意じゃない、もんね」
感謝を伝えれば、殺那は優しく笑う。
少女然とした、柔らかで、暖かな微笑みだった。
そして、その顔のまま。
殺那はゆっくりと、ボクの身体に針を通していく。
「痛たたたっ……!」
ぷつり、ぷつりと針が皮膚を突き破り、肉を刺す痛み。
ずるり、ずるりと糸が肉の内側を擦る、得も言えぬ感触。
麻酔なしでやるには強すぎる痛みが、傷口の辺りに走る。
「あぁ、そうだ。新しい子、どんな、感じ?」
傷を縫ってくれていた殺那がふと、そんなことを聞いてくる。
耳が早いな。まぁ、どうせ明日には『孤児院』のみんなに紹介するつもりだったからいいけど。
「ベニアちゃんね。彼女は……しぶとそうだったよ」
「ふふっ。生き汚い、感じ?」
「うん、めっちゃ生き汚い。そんでもって強かだよ」
「そっか。長生き、できそう?」
「たぶんね」
「ふふっ。よかった。長生きが、一番、だから」
殺那の言葉に頷いてみせる。
ボクらがいるのは日常的に人が死ぬ世界だ。
せっかく仲良くなった子が、次の日には肉塊になってるなんてザラなわけで。
だから、長生きが一番。
とりあえず生き残れさえすれば、どうとでもなるのだから。
「そういえば、その子は、何処に、いるの?」
「あぁ、ベニアちゃんならズタボロだったし、『ドクター』に診てもらってるよ」
いちおう、この『孤児院』には医者と呼べる人物が一人存在している。
まぁ、医師免許は持ってない……つまりは闇医者なのだが。
腕だけは確かなので、とりあえずベニアちゃんはその『ドクター』に治してもらうことにした。
「落ち着いたらベニアちゃんを紹介するよ。新しい仲間になるんだしさ」
彼女を紹介できるのは、早くて明日の夜になるだろうか。
さすがに麻酔が抜けきるまではマトモに話せやしないだろうし。
「………そのこと、なんだけど……ちょっと、いい?」
「ん?どうしたの?」
血まみれの糸を結んで、殺那が言葉を紡ぐ。
「廻理くんに、お仕事、また、来てる。明日、やって、って」
「えっ?またぁ?今日働いたばっかなんだけど。しかも明日って……」
「うん。明日。それでね、
「あー……なるほど。新人研修ってことか」
殺那のその発言で、飼い主様の意図が理解できた。
ボクらの雇い主であるデュエルギャングの皆様は、即戦力を求めている。
だから早めに仕事のやり方を覚えさせて使い潰したいのだろう。
で、ボクは彼女を連れてきた者として、しっかり教育しろってことか。
「しょうがない。頑張りますかぁ」
「うん、頑張って。ファイト、だよ」
「了解、ファイトするよ。それで、ボクとベニアちゃんは何をやらされるのかな?」
「えと、今回は、ね──────」
「──────調子、乗ってる、殺人犯を、ぶっ殺せ、って」
──────────────────────────────
「さぁて、一丁やろうか」
午後8時46分。
夜空に覆われた『街』のはずれで。
ボクは気合を入れようと、ぐっと伸びをする。
「ひ、ひぃ……あ、あたし……どうしたら……」
その隣では、右目に包帯を巻いたベニアちゃんがビクビクしていた。
どうにか傷は縫ってもらえたらしく、彼女からはもう血の色は見えない。
だが、ボロキレみたいなワンピースから覗く右肩の包帯と、右目を失った姿は相変わらず痛々しかった。
「……怖い……こ、こわいです……」
酷く怯えた様子で、ベニアちゃんはぎゅっと自らを抱きしめる。
まぁ、こうなるのは仕方がないか。彼女はつい先程まで麻酔で眠らされていたのだ。
それで、目を覚ますなり「今から初仕事だよ」なんて言われて連れ出されたら、そりゃ怖がりもするだろう。
「あはは、難しいことはないよ。今回はとりあえずターゲットをぶっ殺したらいいから」
「で、でも……そのターゲットって……殺人犯、なんですよね……?」
より一層、不安そうな顔をしたベニアちゃんが聞いてくる。
「あははっ。うん、そうだね。人殺しのクズだよー」
ベニアちゃんの不安そうな反応が初々しくて、ボクは思わず笑ってしまった。
殺人犯程度で怯えるなんて、彼女は怖がりだなぁ。
……いや、ボクの感覚が麻痺ってるだけか。
そんなことを考えつつ、ベニアちゃんに
「殺害人数は7人。その被害者は全て未来ある女子高生。
そんな少女達を強姦して、首を締めて殺害してるね」
デュエルディスクを操作して、資料を確認する。
「それで死体はみんな、裸にして人目につく場所に晒してる。
………ホントに、酷いもんだよ」
資料の中にあった死体の発見写真を見て、呟く。
そこには、白濁に塗れ、無様に足を広げた状態で路上に捨てられている少女が写っていた。
その顔は恐怖で引きつり、絶望に泣いている。
死体は裸に剥かれ、そして下腹部にはペンで書かれた落書きが一つ。
『クソビッチ♡オチンポくださ~い♡』
そんな、ふざけた文章が、少女に刻まれていた。
「…………………………」
凄惨に殺され、そして死後でさえも尊厳を汚されて………
彼女たちは、どれだけ悔しい想いをしたことだろうか。
「うーん、こんなクズは殺さなきゃいけないね」
ため息と共に、ぽつりと呟く。
こういうクズをぶっ殺す仕事は嫌いじゃない。
ぶち殺しても心が傷まないからね。
「あ、あの……質問、いいでしょうか…?」
「ん?どうしたのかな?ベニアちゃん」
おずおず、といった様子で、ベニアちゃんが質問してくる。
「その……ぶっ殺すっていうのは分かったんですけど……相手は、何処にいるんでしょうか……?」
「おっと。いい質問だね、ベニアちゃん」
確かに彼女の言う通り、殺すのはいいが殺す相手は何処にいるのか分からない。
資料にもターゲットが今、何処にいるのかなんて書かれてはいなかった。
「結論から言うと、ターゲットの現在地は分からないよ」
「えぇっ!?」
「ついでに言えば、この殺人犯の正体も知らない」
「えぇぇぇぇっ!?」
とりあえず殺人犯を殺せと命令されたはいい。
じゃあ、コイツは誰で、何処でなにしてるのかは伝えられていない。
「ボクらは、この正体不明の殺人犯を暴くことから始めないといけないね」
「そんなこと……出来るんですか…?」
「あはは。出来るさ………ほら」
そう言って、夜空へ手を伸ばす。
するとボクの指先に、赤い光が止まった。
「ありがとね、【グリア】。見つけてくれて」
それは、ボクが好んで使うモンスターの1体。
怪蟲、【クローラー・グリア】の姿があった。
「もしかして……モンスターに、探してもらったんですか…?」
「うん。サイコデュエリストはこういうことが出来るから便利だよ」
サイコデュエリストはカードを実体化させられる。
その能力を使えば、人探しくらいはわけないのだ。
「さてと、それじゃ行こうか。奴さん、おっ始めてるみたいだからさ」
グリアに情報をもらい、ベニアちゃんの手を取って走り出す。
「わっ!えっ……おっ始めてる、って……?」
「──8人目に手を出した、ってこと」
本当に、節操がない。
そのあまりの最低さに、ボクは呆れて笑うしかなかった。
──────────────────────────────
そうやって街を駆けて十数分。
ボクとベニアちゃんは、真っ暗な路地裏の前にいた。
「……この奥にいるみたいだね」
肩にとまったグリアが、肯定を示すように触手を蠢かせる。
「だ、大丈夫なんですか……?」
「大丈夫大丈夫。というか、殺るしかないからね、ボクらは」
ベニアちゃんにはまだ自覚がないかもしれないが、ボクらはデュエルギャングの奴隷だ。
飼い主様の命令は絶対。守れないなら死ぬしかない。
「
「ひっ…………!」
「あはは、怖がらせちゃったかな?でも、大丈夫だよ。ボクがついてるからね!」
ま、ボクだって死ぬ気はない。
それに、ベニアちゃんを死なせる気もない。
「それじゃ行こっか。ぶっ殺しに」
そうしてボクは、夜闇の広がる路地裏へ足を進める。
「ひぇぇぇ………」
ベニアちゃんもまた、怖がりつつもボクの後をついてくる。
「ほら、頑張ろう?ぶっ殺せたら、報酬も貰えるし」
「えっ!報酬!?本当ですか!?」
報酬と聞いて、怖がっていた彼女の顔がパアっと明るくなった。
「ホントホント。200円貰えるよ」
「安っ!?」
驚くベニアちゃん。
さっきまでは報酬が貰えるとウキウキしてたのにな。
とはいえ実際、人を殺して200円は安いのだけど。
「えー………廻理さんって先輩ですし……後輩に恵んでくれたりは……?」
「んん?ベニアちゃんは後輩なんだから、先輩に全額譲るのが道理じゃない?」
そう返してあげれば、ベニアちゃんは恨めしそうな目でボクを見てきた。
そんな視線を無視して歩き、路地裏の曲がり角を曲がろうとする。
「……おっと」
曲がり角に差し掛かったところで、バックステップを取る。
それから一拍遅れて、金属特有の甲高い音が響いた。
「えっ……な、なんですか……?」
「んー………敵襲かな?」
状況が掴めていないベニアちゃんを庇うように、前に立つ。
前方、曲がり角からは、地面に叩きつけられた鉄パイプが覗いていた。
「うばぁあぁぁぁ…………あぁぁあぁ…………」
知性を感じられないうめき声と共に、曲がり角の先からふらふらと人影が現れる。
そこにいたのは、汚れてボロボロの衣服に、伸びっぱなしの髭の、不衛生な男。
見るからに浮浪者といった風貌の男が、鉄パイプを構えて襲いかかってきた。
「うばあぁぁあぁぁぁぁぁ……!」
「危なっ!」
振り抜かれる鉄パイプを避けて、鳩尾に蹴りを入れる。
手応えからして、完全に急所に当たったな。
蹴り飛ばされた浮浪者は衝撃で数メートル後退し……もう一度、得物を構える。
「うーん……キミが殺人犯かな?」
「うばぁぁあぁ……!」
聞いてみたが、浮浪者からマトモな返答はなかった。
虚ろな目で、口からは涎を垂らして、ただうめき声を出すばかりだ。
「うばぁ……うばぁぁあぁぁぁ………!」
「ひっ……!後ろのほうから……いっぱい…!」
路地裏の先から、凶器を手に持った薄汚い男たちが出てくる。
その誰もが理性を感じさせない、空虚な表情をしていた。
「あはは……ボクたちは奥に進みたいんだけどさ。通してくれないかな?」
「「「「うばあぁぁぁぁぁぁ!!」」」」
答えは「NO」らしい。
浮浪者たちは声を上げ、一斉に襲いかかってくる。
「仕方ない。やって、【グリア】」
肩の怪蟲に命令する。
するとグリアは金属の羽を震わせて、浮浪者の群れへと飛び込んだ。
「「「「うばぁぁ!うばぁあぁぁぁぁあぁぁぁ!!」」」」
赤黒い触手が浮浪者たちに巻き付き、締め上げる。
あるいは鞭のように振るわれ、小汚い男たちを突き飛ばしていく。
「か、廻理さん……!あっちからも……!」
ベニアちゃんが裾を引いて、路地を指差す。
指の方向は、ボクらが通ってきた道。
そこからウジャウジャと、虚ろな目の男たちが迫ってくる。
「このままだと、挟まれちゃいます……!」
「問題ないよ。おいで、【デンドライト】」
デュエルディスクの上に1枚のカードを置けば、どこからともなくモンスターが現れる。
現れたデンドライトは、這うようにして突進し、迫りくる男たちを腕で振り払っていく。
これで、この汚い男たちは完封できるだろう。
とはいえ完封できるだけだ。
浮浪者たちを食い止めることはできても、先に進むことは出来そうにない。
「だったら………【グリア】と【デンドライト】をリンクマーカーにセット!リンク召喚!」
二匹の怪蟲が、天に浮かぶ藍色の門へと吸い込まれる。
それを合図に、門の向こう側に眠る怪蟲が、ゆっくりと目を覚ます。
「這いずり廻れ!【エクスクローラー・クオリアーク】!!」
藍色の門から、ずるりと這い出す。
それは、赤い光と灯し、天使に似た輪を持つ怪物。
青の甲殻に身を包んだ機怪蟲。
【クオリアーク】は、路地裏の壁を這うように、蠢いた。
「さて、浮浪者のみんなは足止めでしょ?
この奥にいる『殺人犯』のところへ行かせないためのさ」
このタイミングで男たちが出てきて、ボクらに襲いかかってきたことから考えるに、そういうことなのだろう。
先に進ませたくない。来てほしくない。
そんな意図をひしひしと感じる。
「悪いけど、思い通りになる気はないんだ」
ボクの意志に呼応するように、クオリアークが動き出す。
対する男たちは、得物を握りしめて突撃してくる。
「やって、【クオリアーク】」
先へ進むため。標的を殺すため。
ここで足止めを食らっている暇はない。
夜の路地裏。
誰にも見えない世界で。
裏デュエル界の非日常みたいな殺し合いが、ここに始まった。
ここからは、何話かかけて小さなエピソードを書いていこうかと考えています。
次回は5月23日に更新します。
追記:5月22日
5月23日に予定していた4話の更新ですが、デュエル描写が書き上がらなかったため延期させていただきます。
申し訳ありません。
次回は5月27日までに更新したいと思います。