※この作品はR-18です。

遊戯王Cruel 猟奇的殺人デュエルと少年少女の破綻   作:胡麻野すり子

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お待たせしました!投稿します!
また、アンケートもありがとうございました!
R18でということで、これからもこの場所で投稿していきたいと思います!

つきましては、一般で上げていた威月編と悦刃編もこちらの話に組み込むことにしました!
『廻理とベニア編』ということで、一部加筆修正して上げます。

では、今エピソード、『マッドドクター編』もお楽しみください!


第34話 自己肯定感のモンスター

 

 朝の『街』は、道行く人たちで忙しそう。

 休日の午前10時過ぎ、丁度お店も空いた頃だからだろうか。

 駅前は私服で着飾った中高生や、大人たちで溢れ返っていた。

 

 さて、そんなカラフルなチョコレートをぶち撒けたみたいな『街』の中。

 ボクとベニアちゃんは、駅近くの噴水の前でデュエルをして時間を潰していた。

 

「あたしは【ドットスケーパー】と【キャシー・イヴL2】をリリースして……」

 

「おっとさせないよ。リバースカード発動、永続トラップ【生贄封じの仮面】。

 このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、お互いにカードをリリースできないよ」

 

「あぁぁーーー!?なんでそんなカード持ってるんですかぁーーー!!」

 

「あははっ!相手の対策をするのは基本だよベニアちゃん!」

 

 初夏の空の下、ボクらの楽しげな声が響き、駅前の喧騒に消えていく。 

 

 現在ボクらは、人を待っている。

 今回の仕事で同行する、『孤児院』の仲間をだ。

 ちょっと遅れているとかで、ボクは暇つぶしにベニアちゃんとデュエルをしていた。

 

「それにしても…………ひ、人がいっぱいですね……」

 

 決着がつき、カードを片付けていると、ベニアちゃんがそんなことを呟いた。

 

「だねぇ。やっぱ休日は混むなぁ」

 

 ぼう、と流れていく普通の人の波を眺める。

 みんな楽しそうだ。

 少なくともこれから殺しの仕事をする奴が混ざれるような雰囲気ではない。

 

「……えっと、今日は…………闇医者とやらを殺すんですよね?」

 

「うん、そうだね。闇医者――――名前を信濃井保磨(しなのい ほうま)。

 ろくでなしをサイコデュエリストに改造して野に放ちやがったイカれだよ」

 

「む、無責任ですね…………えぇと、殺すくらい悪いヤツ、って認識でOK、ですか?」

 

「間接的に何十人も被害に遭わせたという事実をどう解釈するかにもよるかな。

 まぁでも、マトモなヤツはこんなことしないから、とりあえず殺す気でいいよ」

 

 ”りょ、了解です”と、ベニアちゃんが意気込む。

 その隣で、ボクは資料を読み返す。

 

「えーと、ターゲットの潜伏場所と思われるのは…………うわっ、街外れじゃん。

 この辺は森になってるから嫌いなんだけどなぁ」

 

「も、森って…………あれ?でもあたしたちって、駅にいますよね?

 その……そっちの方に、行かなくっていいんですか……?」

 

「あぁ、ベニアちゃんには言ってたっけ?

 今回の仕事、もう一人ついてくるんだけどさ」

 

「は、はい。それは聞きました」

 

「その子、なんか早朝ランニングしてたみたいでアジトにいなくってさ。

 それで泣く泣く駅前集合ってことになったみたい」

 

 ドクターから送られてきたメールを再確認する。

 そこには、『アイツいねぇわ。10時頃に駅前集合でよろm(_ _)m』という文章があった。

 

 その上に『酒買ってきて』という件名のメールがドクターから来ていたが、そっちは無視した。

 

「そろそろ来てもいいくらいだけど、まだかな、鬼陽子ちゃ――――」

 

「――――ヒャハハハハァ!ワタクシを呼びましたわねェェ!!」

 

 突如、横からクソデカ笑い声がした。

 驚いて飛び上がれば、声の主は面白そうに声を鳴らす。

 

 それは、可憐で元気で、そして華麗な少女だった。

 歳は17くらいに見える、空色の髪と元気な笑顔が魅力的な子だ。

 

 ウルフカットの空色と、銀縁の眼鏡に飾られた容姿は、間違いなく美人と評されるそれ。

 ぴっちりとした淡いジーンズと、無地の白Tシャツというシンプルな装いが、より一層彼女の美しさを引き立てているように感じる。

 

「お待たせいたしましたわ!『孤児院』メンバーがひとり!田中鬼陽子(たなか きひこ)!

 今ここに参上しましたわァ!ヒャハハハハハハハァ!!」

 

 そう言って少女――――鬼陽子は、高らかに笑った。

 

「こ、この方が、件の……」

 

「あらァ?そういう貴女はもしや噂のベニアさん?

 始めまして!ワタクシ、田中鬼陽子と申しますわァ!

 これからよろしくお願いいたしますわね!!」

 

「えと……は、はいっ……よ、よろしくお願いします……!」

 

 鬼陽子ちゃんがスッと手を差し出せば、ベニアちゃんはおずおずとその手を握る。

 それを確かめて、空色の少女もまた彼女の手を握り返す。

 

「まぁ!お手々がスッベスベ!お肌もとっても綺麗ですわねェ!」

 

「へ、へ…………?」

 

「あぁ、そのお顔をよく見せてくださいませ?」

 

 鬼陽子ちゃんの切れ長の瞳が、じぃっとベニアちゃんを見つめる。

 

「ひと目見たときから可愛らしいと思っておりましたが、間近で見たらもっと可愛いですわねェ!

 まだ緊張していらっしゃるのか顔がお硬いようにも見えますが、その様子もまた愛らしいではございませんか!」

 

「ぇ、ぇと……あ、あの…………」

 

「特にその目。貴女の紅い瞳。月並みな言葉ではありますが、まるで宝石のようですわ!

 丸めの目のラインが印象を柔らかくし、キラキラとしたその虹彩を美しく、そして優しくデザインしていますわねェ!」

 

「か、廻理さん……っ」

 

 顔を赤くしたベニアちゃんがボクに助けを求めてくる。

 だが、それでも鬼陽子ちゃんの口は止まらない。

 

「優しげなカタチの目ですが、その奥にしっかりとした意思があるのがとっても素敵ですわ!

 容姿の可憐さ美しさというのは、本人の人間性からにじみ出るものですもの!

 ベニアさんのその愛らしくも芯の通った美貌は、なるほど貴女の強さそのものですわねェ!」

 

「ひ、ひぇぇ…………か、廻理さぁん…………こ、これって……いったい……?」

 

「こういう子なんだよ、鬼陽子ちゃんは。

 こそばゆいとは思うけど、大人しく褒め殺されてね」

 

「ぃ、うぇ……ちょ、えぇぇ!?」

 

 鬼陽子ちゃんはベニアちゃんの手を捕まえたまま、思いつく限りに彼女を称える。

 ベニアちゃんは終始困惑していたが、ボクはしばらく止めずにその言葉たちを聞いていた。

 

 ――――田中鬼陽子という少女は、『孤児院』の中でも特に健全な少女だ。

 例に漏れず彼女も彼女で過去に色々あって心も壊れかけていたが、今ではかなり回復している。

 常に背筋を伸ばし、胸を張って歩く彼女の姿は、『孤児院』メンバーにとってとても良い影響を与えていると言えるだろう。

 

 そしてなにより、鬼陽子ちゃんは人を褒める少女なのだ。

 それも本心から、彼女は人のいいところを見抜き、称賛してくれる。

 

 なんやかんやで人は褒められたら悪い気はしない。

 仮に、崩れた自尊心や砕けた心に特効薬があるとすれば、おそらく"肯定”になるはずだ。

 

 だから、鬼陽子ちゃんはいい。

 彼女の言動は、他者の自己肯定感を育んでくれるのだから。

 

「そ、そんな…………あたしなんて、ゴミですし…………褒めたりとか、しないでも……」

 

「あらァ?謙遜は美徳ではありますが、はたして人は優れた美術品を前にして黙していられるでしょうか?

 ワタクシは貴女が素敵だと思ったから、思ったままに口にしているだけですわよ!」

 

「ぅぅ……そ、それを言ったら……鬼陽子さんのほうが、綺麗なんじゃ……」

 

「まァ!ありがとうございますわァ!」

 

 鬼陽子ちゃんがそれはそれは嬉しそうに高笑いを響かせる。

 それを聞いて周囲の人々が彼女のほうを見るが、鬼陽子ちゃんは堂々していた。

 まるで、自分はとても喜んでいるのだと、恥ずべきことなどあるはずがないとでも言っているかのようだ。

 

「あははっ!いいね。久々に鬼陽子ちゃんと仕事ができて嬉しいよ」

 

「ヒャハハッ!ワタクシも廻理さんと一緒ということで、とてもとても嬉しいですわ!

 頼りにさせていただきますわね!センパイ!」

 

「任せてよ。さて、それじゃ仕事しに行こっか」

 

 ひとつ伸びをして、歩き出そうとする。

 が、そんなボクの手を、鬼陽子ちゃんは繋ぎ止めた。

 

「あらァ?もしや廻理さん、ドクターから聞いていませんの?」

 

「え?なにを?酒のお遣いの話?」

 

「違いますわよォ!夜まで遊んでこいって話ですわ!

 ほら!お小遣いを1000円も貰ってますわよォ!」

 

「マ?大金じゃん」

 

 鬼陽子ちゃんが懐から財布を取り出す。

 中身を見れば、そこには千円札3枚も入っていた。

 

「ドクターが競馬で勝ったからってくれましたわァ!

 すっごく太っ腹ですわねェ!まぁ彼女はすらりとした美人ですけど!」

 

 "ついでにスタイルも抜群ですわァ!”と付け加えて、鬼陽子ちゃんはお札を配ってくれる。

 お金を受け取ったベニアちゃんは、目を点にしてそれを見つめていた。

 

「お、お札……!も、もう二度と触れないかと思ってました……!」

 

「ヒャハハハハァ!大抵の物は買えますわよォ!

 これで新人を可愛がってやれとドクターは仰ってましたわァ!」

 

「さっすがドクター!一生ついてこ!」

 

 悲贋さんはこうやってボクらを可愛がってくれるから好きだなぁ。

 ドクターは私生活はダメだけど、悪人じゃない。

 それが、クソ違法組織『孤児院』の数少ない良いところだ。

 

「ヒャハハハァ!それでは皆様、遊びにいきますわよォ!!」

 

 鬼陽子ちゃんがボクとベニアちゃんの手を握ったまま、人混みの中へと飛び込んでいく。

 

「わっ……!あ、遊びにいくって、どこに……」

 

「どこにでも!行きたいところに行きますわよ!」

 

 鬼陽子ちゃんは止まらない。

 足取り軽く、ボクらを引っ張っていく。

 

 折角の機会だ。

 日が落ちるまでは、ボクらも普通のフリをしよう。

 年頃の子どもみたいに、休日を楽しもう。

 

 そうしてボクらは普通に紛れ込んで、しばし土曜日を謳歌した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 夕暮れ、大通り。

 そこに仲良く並んだ影が3つ。

 

「クレープ……初めて食べました……!」

 

「ヒャハァ!甘いですわァ!美味いですわァ!バリムシャァ!!」

 

 ボクらは街路をふらつきながら、キッチンカーで買ったクレープに舌鼓を打つ。

 ベニアちゃんは戦々恐々といった風にイチゴクレープを食み、鬼陽子ちゃんは頬を蕩けさせてブルーベリークレープを食べていた。

 

「廻理さんのも……お、美味しそう、ですね……」

 

「ん?あぁ、美味しいね。味見していいよ」

 

 食べたそうにしていたので、ベニアちゃんにクレープ……歯型のついてない側面を差し出す。

 

「え、い、いえ……そんな、悪いですし……」

 

「いいよいいよ。シェアしたくって違う味頼んだし」

 

「……じゃ、じゃあ…………いただきますっ」

 

 意を決して、ベニアちゃんは控えめにボクのクレープを齧る。

 彼女はもきゅもきゅと咀嚼して、それから明るくはにかんだ。

 どうやら、お気に召したらしい。

 

「えい♪」

 

「あっ、鬼陽子ちゃん!?」

 

 その横から鬼陽子ちゃんが顔を出し、差し出したままのクレープを食べていく。

 丁度ボクとベニアちゃんの齧ったところを、どちらも口の中に入るように、器用に。

 

「ヒャハハハァ!おふたりと間接キスですわァ!嬉しいですわァ!」

 

 クレープの味が楽しいのか、間接キスが楽しいのか。

 鬼陽子ちゃんはほっぺに手を添え、酷く上機嫌そうだった。

 

「き、鬼陽子さんって、すっごく明るくて、元気ですね」

 

「まァ!ありがとうございます!

 明るくて元気、そう言っていただけるのは、とっても嬉しいですわァ!」

 

 背を反らすほどに胸を張り、鬼陽子ちゃんはヒールの音を鳴らす。

 対してベニアちゃんは、背中を丸めて下を向いていた。

 

「…………あたしは、そんな風になれないので……羨ましいです」

 

 目を伏せて、消えそうな声でベニアちゃんが呟く。

 鬼陽子ちゃんはそれを聞いて、慈しむように彼女の頭を撫でた。

 

「……ふふふっ。でも、未来は分かりませんわよ?ね、廻理さん?」

 

 鬼陽子ちゃんがボクに目配せをする。

 これは……話していいよ、ってことかな。

 

「それって……どういう……?」

 

「……昔の鬼陽子ちゃんは、今みたいに明るくて元気じゃなかったよ。

 むしろ内向的で、すっごくネガティブな子だったかな」

 

「えぇっ!?嘘ですよね!?」

 

「本当ですわよ。『孤児院』に来たばかりの頃は、部屋の角で蹲って、なにもかもに怯えていましたわ。

 当然、自分に自信などありませんでしたし、自分のようなゴミは生きていてはいけないと考えていました」

 

 彼女が来たのは3年くらい前だったか。

 そのときの鬼陽子ちゃんは、それはそれは酷い有様だった。

 

「出てくる言葉の殆どは『ごめんなさい』だったし、隙きあらば自殺しようとしてたし……大変だったよ」

 

 田中鬼陽子という少女の症状は、最悪だった。

 他のメンバーも心が壊れて自傷行為に走ることはあったが、彼女の場合は特に酷かった。

 

 ベニアちゃんや葛さんは、どうにか折り合いを付けて生きている。

 殺那はかつて発狂したりしていたが、それでも自殺しようとはしなかった。

 

 だが鬼陽子ちゃんは違う。

 彼女はそもそも、生きようという気力を喪失していたのだから。

 

「そ、それがどうして……今みたいに……?」

 

「人って褒めると前向きになるって聞いたから、『孤児院』総出で褒めまくった」

 

「…………え?それだけですか……?」

 

 こくりと頷く。

 ボクらがやったことは単純明快。

 彼女を褒めて、褒めて、褒めて、自信をつけさせた。それだけだ。

 

 結局のところ、人が他人にしてやれることなんてほぼないのだ。

 当人を完全に救えるのは、きっと当人だけ。

 だから昔の鬼陽子ちゃんを救えたのは、鬼陽子ちゃん本人しかいなかった。

 そして彼女は見事立ち直り、今のような明るい少女になったわけである。

 

「ふふふっ。もしも皆様がいなければ、今のワタクシはいなかったことでしょう」

 

 彼女は眼鏡の奥で目を細めて、フフンと自慢げな姿を見せる。

 ホント、あの猫背で今にも死にそうな女の子が、よくここまで立ち直ってくれたものだ。

 

「このワタクシは、『孤児院』の皆様が作ってくれたワタクシですわ。

 仲間たちがかけてくれた言葉に引っ張られて、最高のワタクシになれたのですから」

 

 鬼陽子ちゃんが、ベニアちゃんの顔に両手を添える。

 

「まぁ、昔のワタクシは廻理さんたちにご迷惑をおかけしたという点においてはよろしくありませんが、それでも恥じてはいませんわ。

 だって、必死だったのですもの。行動は間違っていたでしょうけど、生き様は間違いではなかったと確信してますわ」

 

 気力に満ちた橙の瞳と、綺麗な顔が、ベニアちゃんを射抜く。

 彼女は見惚れたように、ただ鬼陽子ちゃんに釘付けになっていた。

 

「ベニアさん。貴女はとっても素敵な方ですわ。

 貴女自身が否定したとしても、ワタクシはいつまでもそう叫び続けます」

 

 だからと、鬼陽子ちゃんはにっこり笑う。

 

「貴女は素敵な人ですわ。今も、そしてこれからも。

 いつか絶対、ベニアさんは大好きな自分になれますわよ」

 

 そう言って、鬼陽子ちゃんが蠱惑的にウィンクする。

 万人を魅了して、その背中を押すように。

 

 彼女の言葉に、ベニアちゃんがなにを思ったかは分からない。

 けれど、ほんの僅かでもその目に宿った光を見るに、いい影響にはなったのだと、思う。

 

「鬼陽子さんって…………やっぱり、凄い方ですね」

 

「あははっ。本当に凄いんだよ、鬼陽子ちゃんは。

 ボクなんかよりよっぽど立派で、強い子だよ」

 

「ヒャハハハハハハァ!ありがとうございますわァ!

 けれどワタクシを立ち直らせた廻理さんだって、当然凄い方ですのよォ!」

 

 それから鬼陽子ちゃんの口は回り続けた。

 彼女は、ベニアちゃんの良いと思ったところを羅列し、ついでにボクにも言及してくれた。

 容姿だったり、過去のエピソードだったり。

 この空色の少女は、それはそれは楽しそうに語り続ける。

 その語りを、ボクとベニアちゃんは、こそばゆい思いをしながら聞くしかなかった。

 

 さて、鬼陽子ちゃんの話を聞くこと十数分。

 夕暮れも落ちかけ、クレープも食べ終えた頃。

 ふと、ボクらは背後から声をかけられた。

 

「あれ?もしかして……廻理くんとベニアちゃんっ!?」

 

 振り返ると、そこにはセミロングの金髪と茶色の瞳が特徴的な、17歳くらいの少女がいた。

 可愛らしい女の子だ。ついでに胸部も特徴的だ。随分とご立派なものを持ってらっしゃる。

 

「…………威月ちゃん?」

 

「わぁっ!やっぱり廻理くんとベニアちゃんだ!久しぶりだねっ!」

 

 声の主は、かつて知り合った普通の少女。

 私服姿の彼女――破里潟威月(はりかた いつき)は、顔を綻ばせた。

 

「お久しぶりです、威月さん。まさか、こんなところでお会いするとは……」

 

「うんっ、私もビックリした…………あ、えーと……ビ、ビックリしました~……」

 

「あははっ。今はお客さんじゃないから、友達に話すみたいな感じでいいんじゃないかな?」

 

「た、たはは……そう言ってくれると嬉しいな」

 

 照れたように頬を染め、威月ちゃんが頭を掻く。

 黄色のシャツとチェック柄のブラウンのロングスカートといった、ふわふわしたファッションと相まって、その様子はなんとも可愛らしい。

 

「あらァ?お知り合いですの?」

 

「そうだね。彼女は破里潟威月ちゃん。とあるラーメン屋の娘さんだよ」

 

「以前、仕事帰りに寄って……それで知り合ったんですよね」

 

「だねっ!まぁ、お店は半壊しちゃったんだけども…………」

 

 そう、威月ちゃんのお店は文字通り半壊している。

 彼女のストーカーをしていた半グレデュエル集団の兄貴が、壊しやがったのだ。

 まぁソイツらはボクとベニアちゃんで叩きのめして刑務所にぶち込んでやったが。

 

「あっ!でもでもっ、保険とか色々でお金は調達できたから、お店はちゃんと再建できるよっ!

 直ったらまた食べに来てねっ!もちろん、貴方も!」

 

「まァ!ありがとうございますわ!絶対食べにいきますわね!」

 

 威月ちゃんと鬼陽子ちゃんが固い握手を交わす。

 ”働き者の手ですわねェ!すっごく頑張っているのが分かりますわァ!”

 号砲はそんな感じで、鬼陽子ちゃんの口から言葉が溢れ出す。

 威月ちゃんは照れていたが、満更でもなさそうだった。

 

「っと、ごめんねっ。これからデュエル塾に用事があって……」

 

「ヒャハァ!威月さんは勤勉なんですわねェ!

 引き止めてしまい申し訳ありませんわァ!」

 

「ううん、私から話しかけたんだし、貴方たちと話せて楽しかったからっ」

 

 そう言って、威月ちゃんは大きく手を振る。

 

「またねっ!今度会ったらデュエルしようよ!」

 

「えへへ……はい!そのときは、ぜひ!」

 

 お互いに笑い合い、ボクらは離れる。

 威月ちゃんは跳ねるように足を進め、夕暮れの奥へと消えていった。

 

「いい子でしたわねェ」

 

「だね。温かい気持ちになれたよ」

 

 ぐっ、と伸びをして、踵を返す。

 その背中で、夕が終わる。

 

「それじゃ、仕事の時間だ。行くよ、ベニアちゃん、鬼陽子ちゃん」

 

「りょ、了解です……!」

 

「かしこまりましたわァ!」

 

 温かく普通な休日は、ここで終わり。

 ここからは、冷たくて異常な、殺人者の仕事だ。

 

 談笑を彩る太陽はもうない。

 代わりに降りるのは、血と悪を誤魔化す宵闇。

 

 夜が来る。

 その中へと、ボクらは沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 私――破里潟威月は、鼻歌を歌いながら、日の落ちかけた『街』を歩いていた。

 理由は簡単。廻理くんたちに……私の恩人たちに会ったからだ。

 

「よぉし、頑張らないと……っ」

 

 向かう先は、最近入ったデュエル塾。

 今日も学べることをたくさん学んで、強くなるぞ……!

 そう決意を固め直し、小さく拳を握る。

 

 ……お店が壊れたあの一件がきっかけで、私は強くなることを決めた。

 きっと弱いままだと、また酷い目に遭うだろうから。

 最低限、廻理くんくらい強くなれたらって、そう思ったのだ。

 

「……今思うと、自惚れもいいところだったかな」

 

 アカデミアの授業だけではなく、塾で本格的なデュエルを学んだことで、

 私は理解してしまった。

 廻理くんとベニアちゃんが、どれだけ高い場所にいるのかを。

 

 相手の実力が把握できるのは、自分も実力がついたから。

 それは分かっている。でも私は、そのあまりの遠さに目が眩んだ。

 

 ただ、半グレ集団に怯えているだけの私じゃ、到底追いつけない。

 いったいどうすればそこまで強くなれるのか検討もつかなかった。

 

「それでも目標は高く。いつかあの人たちを倒せるくらいになるんだ……っ」

 

 弱気な自分は捨てて、もっともっと頑張る。

 お店を守れるくらい、お母さんと天国のお父さんを安心させられるくらい。

 

 そう意気込んで歩いていると、ふと脇道に目が行く。

 薄暗くて、狭くて、人気のない、怖い道だ。

 

 いったいどうして、こんなところが気になったのか。

 自分でも不思議だったけど……その理由はすぐに分かった。

 

(なにか……いる……?)

 

 路地裏の中に、息遣いがある。

 荒く、早い息。それはまさしく何者かが潜んでいる証だった。

 

 きっとこれは、関わるべきことじゃない。

 嫌な予感がして、私は足早に通り過ぎようとした。

 

 なのに、見てしまった。

 薄闇の中にいる、何者かを。

 

「ハァ……ハァ……!アァァ……!!」

 

「な……っ!?」

 

 それは、少年だった。

 私と同い年くらいの、ボサボサの銀髪の、少年だ。

 それは血で汚れたボロ布みたいな患者服を引きずり、這うように歩いている。

 

 だけどそれ以上に、彼は異常で、特徴的だった。

 

「獣の……耳?」

 

 その少年の頭部には、猫を思わせる耳が生えていた。

 よく見れば、腰からは尻尾も揺れている。

 

 コスプレとか、そういうんじゃない。

 その耳と尻尾は、動いている。

 肉にくっついて生きている――っ!

 

「貴方は、いったい……!?」

 

「――――――ッ!!」

 

 私が声を発した途端、少年は目の色を変え、跳躍する。

 本当に獣のような、力強く速い動き。

 それは迷うことなく私に飛びかかり、首根っこを掴まれてしまう。

 

「ぐぉっ!?」

 

 くぐもった悲鳴を無視して、少年は私を路地裏に引きずり込む。

 ああ……また、駄目だ。

 また私は、大変な目に遭ってしまった。

 

 これから私がどうなるのかは、分からない。

 この異様な少年についても、分からない。

 

 ただひとつ確かなのは――――――

 

 ――――夜が、始まる。

 

 それだけは、確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでくださりありがとうございます!
いかがだったでしょうか?

今回は、新キャラの鬼陽子と、番外編で出ていた威月の登場になります。
殺那や葛、梨々花がお好きな方はすいません、3~4話後くらいにまた出番がありますので、しばしお待ち下さい。

話は変わりますが、アンケートで各ヒロインの濡れ場にもほぼ同数入っていて、少し驚きました。
遊戯王のR18と言えば、見目麗しい女性モンスターや、原作女性キャラクターのえっちなシーンが求められていると思っていたので、この結果は嬉しかったです。

せっかくなので、各ヒロインの乱れる姿は、番外編かどこかで作ってみようかと思います。
(リョナグロだったら違和感なく本編に入れられるのですが……)

では、また次回にお会いしましょう!
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